東京地方裁判所民事第40部(中島基至裁判長)は、令和5年(2023年)9月28日、「TRIPP TRAPP」という商品名で知られる子供用の椅子の形態が不正競争防止法上の商品等表示に当たらないとし、著作権の侵害の主張も排斥する判断をしました。
本判決は、商品形態が不正競争防止法上の商品等表示に該当する場合についての考え方を示すとともに、著作権法上の著作物として保護される場面について最近の裁判例の考え方を確認した点において、実務上意義があるものといえます。
ポイント
骨子
- 商品の形態は、①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(以下「特別顕著性」という。)を有しており、かつ、②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知であると認められる特段の事情がない限り、不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。
- 不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当すると主張された表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記表示は、全体として不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。
- 本件では、原告が商品等表示であると主張する「本件形態的特徴」は、それ自体複数の商品形態を含むものであり、被告各製品の形態は、究極的にシンプルでシャープな印象を与える直線的構成美を欠くもので、本件形態的特徴に含まれる被告各製品の形態は、明らかに原告製品の商品等表示に該当しないことからすると、本件形態的特徴は、全体として不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しない。
- 美術工芸品以外の実用目的の美術量産品であっても、実用目的に係る機能と分離して、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合には、美術の範囲に属するものを創作的に表現したものとして、著作物に該当する。
- 原告製品の上記直線的構成美は、究極的にシンプルであるがゆえに椅子の機能と密接不可分に関連し、当該機能といわばマージするといえるものの、仮に、これに著作物性を認める立場を採用した場合であっても、基本的にはデッドコピーの製品でない限り、製品に接する者が原告製品の細部に宿る上記直線的構成美を直接感得することはできず、まして、複雑かつ曲線的形状を数多く含む被告各製品に接する者が、原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができないから、被告各製品の製造販売等は、著作権侵害を構成するものとはいえない。
判決概要
裁判所 | 東京地方裁判所民事第40部 |
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判決言渡日 | 令和5年9月28日 |
事件番号 事件名 |
令和3年(ワ)第31529号 不正競争行為差止等請求事件 |
裁判官 | 裁判長裁判官 中 島 基 至 裁判官 小 田 誉太郎 裁判官 尾 池 悠 子 |
解説
工業用製品の法的保護
工業用製品の形態については、意匠権の登録をすることで、意匠法により保護がなされるのが原則です。
一方、意匠登録がされていない、あるいは、登録の要件を満たさず登録ができない場合においては、類似の形態の商品が販売等されている行為は、不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)2条1項3号の「形態模倣」に該当し、法的な請求ができる場合があります。
上記形態模倣行為に該当することを理由に請求ができない場合においても、当該商品の形態が不競法2条1項1号又は2号の「商品等表示」に該当する場合には、同法による保護を受けることができる場合があります。
また、商品の形態が、創作性を有する場合には著作権法による保護を受けられる場合があります。もっとも、伝統的裁判例によると、実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは、その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り保護の対象とはならないと解されています。
商品形態の保護については、ユニットシェルフ事件のリーガルアップデートもご参照下さい。
不正競争防止法による保護
形態模倣
意匠登録がされていない場合においても、他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡等する場合には、不競法上の形態模倣(不競法2条1項3号)に該当します。
もっとも、本条項は日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した模倣行為には適用されないため、保護を受けられる範囲は限定的です。
商品等表示としての保護
形態模倣として不競法上の保護を受けることができない場合、商品の形態が同法2条1項1号または2号により保護されないか問題となります。
これまでの裁判例においては、商品の形態が不競法上の「商品等表示」に該当すると認められるためには、①特別顕著性及び②周知性の2つの要件を備える必要があると解されています。
①の特別顕著性とは、明らかに他の同種製品を識別し得る顕著な特徴のことです。
②の周知性とは、その形態が特定の事業者により長期間独占的に使用されるなどした結果、需要者においてその形態が特定の事業者の出所を表示するものとして周知されていることを指します。
このように、商品の形態が不競法上の商品等表示に該当するといえるためには高いハードルがあります。
著作権法に基づく保護
実用に供される美的創作物は、「応用美術」と呼ばれ、著作権法上の保護の成否が従来から議論されてきていました。
この点、前述のとおり、伝統的裁判例では、実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは、「その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り保護の対象とはならない」と解されていました。
これに対して、知財高裁は、本件と同じ子供用の椅子「TRIPP TRAPP」の形態の著作物性が問題となった事案(知財高判平成27年4月14日)において、「応用美術に一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである」としました。
また、同判決では、実用的機能と分離して美的鑑賞の対象となるかという点については、「実用品自体が応用美術である場合、当該表現物につき、実用的な機能に係る部分とそれ以外の部分とを分けることは、相当に困難を伴うことが多いものと解されるところ、上記両部分を区別できないものについては、常に著作物性を認めないと考えることは、実用品自体が応用美術であるものの大半について著作物性を否定することにつながる可能性があり、相当とはいえない」と述べています。結論として、知財高裁は「TRIPP TRAPP」の形態につき、美術の著作物として著作物性を認めていました。
上記知財高判平成27年の考え方は、その後の知財高裁判決(ゴルフシャフト事件・知財高判平成28年12月21日、加湿器事件・知財高判平成28年12月21日)でも採用されています。
しかしながら、近時の裁判例においては、再び上記「実用的機能と分離して美的鑑賞の対象となり得るような美的特性」という要件が求められているように思われます(タコの滑り台事件(知財高判令和3年12月8日)、知財高判令和3年6月29日等)。
事案の概要
原告X1は、家具デザイナーによりデザインされた、製品名を「TRIPP TRAPP」とする子供用の椅子(以下「原告製品」といいます。)のデザインにかかる著作権を譲り受けた者であり、原告X2は、この著作権の独占的利用権を取得し、原告製品を製造販売等していました。
被告は子供用の椅子(以下「被告各製品」といいます。)を製造販売していたところ、原告は被告各製品の製造販売等の行為は、①原告製品の商品等表示として周知又は著名なものと同一の商品等表示を使用する不正競争行為に該当し、②仮に不正競争行為に該当しないとしても、原告製品の著作権及びその独占的利用権の各侵害行為を構成し、③仮に不正競争行為に該当せず又は著作権及びその独占的利用権の各侵害行為を構成しないとしても、取引における自由競争の範囲を逸脱する行為であり、原告らの営業上の利益を侵害すると主張していました。
上記の主張に基づき、原告X1は、被告に対し、主位的に不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)3条1項及び2項に基づき、予備的に著作権法112条1項及び2項に基づき、被告各製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、主位的に不競法4条及び5条3項1号、予備的に著作権法114条3項又は民法709条に基づき、損害賠償を請求しました。
また、原告X2は、不競法3条1項及び2項に基づき、被告各製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、主位的に不競法4条及び5条3項1号、予備的に著作権法114条2項の類推適用又は民法709条に基づき損害賠償の請求をし、原告らは、不正競争防止法14条又は民法723条に基づき、謝罪広告を求めました。
不正競争防止法に基づく請求において、原告らは、主位的に、原告製品の全体が商品等表示に該当すると主張していました。
さらに、原告らは、予備的主張として、原告製品全体が商品等表示に該当しないとしても、原告製品は、①左右一対の側木の2本脚であり、かつ、座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されている点(特徴①)及び②左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木の下端が、脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の形状を形成している点(特徴②)において形態的特徴(以下「本件形態的特徴」といいます。)を有しており、これが商品等表示に該当すると主張していました。
判旨
不正競争防止法に基づく請求について(商品等表示該当性)
裁判所は、商品の形態の商品等表示該当性を主張する場合には、「商品の形態のうち出所表示機能を発揮する商品等表示部分を明確に特定する必要がある」と述べた上で、原告製品の全体が商品等表示に該当するとした原告の主位的主張は、主張自体失当であると述べました。
次に、裁判所は、原告の予備的主張につき、次のように述べて、商品の形態は、①特別顕著性及び②周知性の2つの要件を備えない限り、不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないとしました。
この規範は、店舗の外観が商品等表示に当たるかが問題となったコメダ珈琲事件や、棚の形態の商品等表示性が問題となったユニットシェルフ事件における規範と同趣旨のものです。
・・・商品の形態は、特定の出所を表示する二次的意味を有する場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能を有するものではないから、不競法2条1項1号又は2号の規定の趣旨に鑑みると、その形態が商標等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能を発揮するような特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないというべきである。
そうすると、商品の形態は、①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(以下「特別顕著性」という。)を有しており、かつ、②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知であると認められる特段の事情がない限り、不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。
その上で、商品等表示に該当すると主張された表示が複数の商品形態を含む場合においては、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記表示は、全体として不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと述べました。
そして、不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当すると主張された表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品の形態が商品等表示に該当しないときであっても、上記表示が全体として商品等表示に該当するとして、上記一部の商品を販売等する行為まで不正競争に該当するとすれば、出所表示機能を発揮しない商品形態までをも保護することになるから、上記規定の趣旨に照らし、かえって事業者間の公正な競争を阻害するというべきである。のみならず、不競法2条1項1号又は2号により使用等が禁止される商品等表示は、登録商標とは異なり、公報等によって公開されるものではないから、その要件の該当性が不明確なものとなれば、表現、創作活動等の自由を大きく萎縮させるなど、社会経済の健全な発展を損なうおそれがあるというべきである。
そうすると、不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当すると主張された表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記表示は、全体として不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。
そして、裁判所は、原告製品の形態が以下の①~⑥の6つの特徴を有すると認定した上で、原告製品は、「これらの各特徴を全て組み合わせることによって、身体に接触する背板部分及びこれに対応する座面板及び足置板の後部波状部分を除き、側木、脚木、横木、座面板、足置板及び背板という椅子を構成すべき最小限の要素を直線的に配置し、究極的にシンプルでシャープな印象を与える直線的構成美を空間上に形成したという限度において、形態としての特徴があるものと認められる」と判断しました。
①左右一対の側木の2本脚であり、かつ、座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されている点(特徴①)
②左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木の下端が、脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の形状を形成している点(特徴②)
③座面板と足置板を側木内側にはめ込んで固定することによって、これらの部材を直接固定し、その余の固定部材を省いた点(特徴③)
④前後方向からみて、座面板、足置板、横木及び背板と、側木が垂直に交わっており、側木内側の小さな略半円形状の溝部分を除き、直線的要素が強調されている点(特徴④)
⑤左右方向からみて、側木については、これを一直線とし、その上端の2隅を直角とし、脚木についても、これを一直線とし、その先端側と後端側の各2隅の角度を略左右対称とした点(特徴⑤)
⑥上下方向からみて、身体に接触する曲線状の背板並びにこれに対応する座面板及び足置板の後部波状部分を除き、座面板と足置板の前部を直線状の形状とし、その2隅を直角とした点(特徴⑥)に特徴があるものと認められる。
その上で、裁判所は、本件形態的特徴はそれ自体複数の商品形態を含むものであり、被告各製品の形態は、究極的にシンプルでシャープな印象を与える直線的構成美を欠くもので、本件形態的特徴に含まれる被告各製品の形態は、明らかに原告製品の商品等表示に該当しないことからすると、本件形態的特徴は、全体として不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと判断しました。
他方、本件形態的特徴は、図面又は写真で特定されるものではなく(意匠法6条、24条、意匠法施行規則3条各参照)、上記にいう特徴①及び特徴②を文字で特定されるにとどまるものである。そのため、本件形態的特徴は、それ自体複数の商品形態を含むところ、本件形態的特徴には、原告らが主張するとおり被告各製品が含まれるほか、側木が曲線を含む形態、座面板や足置板が曲線の形態その他の直線的構成美を欠く多種多様な形態を含むものであるから、原告製品が形成する直線的構成美を欠く非類似の商品形態を広範かつ多数含むものである。しかも、原告らの主張によれば、本件形態的特徴(特徴①及び特徴②)は、本件形態的特徴のみに限るというのではなく、 例えば特徴③が付加された形態も、本件形態的特徴に含むというものであるから、本件形態的特徴は、座面板と足置板を固定するための複雑な部材を採用する形態その他の究極的にシンプルな構成美を欠く多種多様な形態を含むものである。
したがって、本件形態的特徴は、そもそもその外延が極めて曖昧であり、商品形態が商品等表示として認められる場合を限定する不競法2条1項1号又は2号の上記趣旨目的に鑑みると、原告らは、原告製品のうち出所表示機能を発揮する商品等表示部分を明確に特定するものとはいえない。
のみならず、原告らにおいて本件形態的特徴をそのまま具備すると主張する被告各製品についてみても、被告各製品は、座面板及び足置板を固定するために、支持部材、丸みを帯びた固定部材及び略円形のネジ部材を設ける構成を採用し、特徴③を有するものではない。そのため、被告各製品は、需要者に対し、椅子全体として安定して使いやすい印象を与えるものの、複雑な上記構成によって、究極的にシンプルな印象を与える直線的構成美を欠くものといえる。しかも、被告各製品は、前後方向からみると、背板中央に楕円形の大きな穴が形成されており、かつ、固定部材を側木にネジ止めするため、側木には円形状の穴が多数形成されていることからすると、被告各製品は、直線的でシャープな印象を明らかに損なうものである。さらに、被告各製品は、左右方向からみても、側木上部が床面と略垂直方向に折れ曲がっており、一直線の側木で構成される原告製品の直線的でシャープな印象とは、全体として大きく異なる印象を与えている。加えて、被告各製品は、上下方向からみても、座面板及び足置板の前部及び後部が端部から緩やかな曲線状に形成されており、椅子全体として柔らかい印象を与えるものであるから、座面板及び足置板の前部が直線で構成される原告製品の直線的でシャープな印象とは明らかに異なるものである。
これらの印象の相違を踏まえると、被告各製品は、座面板及び足置板の固定において複数の部材を利用する点において、原告製品のような究極的にシンプルな印象を与えるものではなく、かつ、曲線的形状を数多く含む点において、原告製品のような直線的でシャープな印象を与えるものではない。
したがって、直線的構成美を造形表現する原告製品の高いデザイン性に鑑みると、少なくとも被告各製品の形態は、究極的にシンプルでシャープな印象を与える直線的構成美を欠くものであるから、原告らの出所を表示するものであると認めることができないことは明らかである。
以上によれば、本件形態的特徴に含まれる被告各製品の形態は、明らかに原告製品の商品等表示に該当しないことからすると、本件形態的特徴は、全体として不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと認めるのが相当である。
著作権侵害に基づく請求について
実用的な製品の著作物性については、裁判所は、「美術工芸品以外の実用目的の美術量産品であっても、実用目的に係る機能と分離して、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合には、美術の範囲に属するものを創作的に表現したものとして、著作物に該当する」と述べました。
その上で、原告製品は、特徴①ないし⑥を全て組み合わせることによって、身体に接触する背板部分並びにこれに対応する座面板及び足置板の後部波状部分を除き、側木、脚木、横木、座面板、足置板及び背板という椅子を構成すべき最小限の要素を直線的に配置し、究極的にシンプルでシャープな印象を与える直線的構成美を空間上に形成したところに、表現としての特徴があるものと認めることができるとしました。
(なお、著作物性については明確な判断はされていません。)
他方、被告各製品は、座面板及び足置板を固定するために原告製品よりも複数の部材を利用する点において、原告製品のような究極的にシンプルな印象を与えるものではなく、かつ、曲線的形状を数多く含む点において、原告製品のような直線的でシャープな印象を与えるものではなく、原告製品が表現する直線的構成美を明らかに欠くものとであると判断されました。
そして、著作権侵害の成否については、次のように述べて、原告製品の形態に著作物性を認める立場を採用した場合であっても、被告各製品に接する者が、原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができないから、著作権侵害を構成するものとはいえないと判断しました。
・・・原告製品と被告各製品は、その形態が表現するところにおいて明らかに異なるものといえる。そして、原告製品の上記直線的構成美は、究極的にシンプルであるがゆえに椅子の機能と密接不可分に関連し、当該機能といわばマージするといえるものの、仮に、これに著作物性を認める立場を採用した場合であっても、基本的にはデッドコピーの製品でない限り、製品に接する者が原告製品の細部に宿る上記直線的構成美を直接感得することはできず、まして、複雑かつ曲線的形状を数多く含む被告各製品に接する者が、原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができないことは明らかである。したがって、被告各製品の製造販売等は、明らかに原告製品を複製又は翻案するものではなく、原告らの主張を前提としても著作権侵害を構成するものとはいえない。
一般不法行為の成否
最後に、裁判所は、被告各製品の製造販売等は、不競法又は著作権法が規律の対象とする原告らの利益を明らかに侵害するものではなく、原告らが上記利益とは異なる被侵害利益を有するものと解することはできないから、原告製品とは明らかに非類似である被告各製品の製造販売等が、社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものと認めるに足りず、一般不法行為が認められないことは明らかであるとしました。
コメント
本判決は、「商品等表示に該当すると主張された表示が複数の商品形態を含む場合においては、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記表示は、全体として不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しない」述べています。
この表現は、ルブタン事件東京地裁判決(東京地判令和4年3月11日)でも用いられており、原告主張の商品等表示が抽象的である場合の判断手法として位置付けることができると解されます(詳しくはルブタン事件東京地裁判決のリーガルアップデート参照)。商品形態が商品等表示に該当すると主張する原告においては、商品等表示を上位概念化することなく、明確に特定することが求められるといえるでしょう。
また、応用美術の著作物性については、「実用目的に係る機能と分離して、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている」ことが必要であると述べており、同じ原告製品についての知財高裁判決とは異なる規範を採用しています。
具体的な著作物性の判断においては、同じ原告製品について著作物性を肯定した知財高裁判決があるのに対し、本判決は著作物性についての判断を避けています。
すでに同一の著作物について著作物性の判断が確定している中、この判決は、著作物性にかかる判断を留保したものといえそうです。
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(文責・町野)