知的財産高等裁判所第4部(宮坂昌利裁判長)は、特許法44条1項2号に基づく分割出願が親出願の設定登録後にあったことを理由に当該分割出願を却下した特許庁の処分について、その取消を求めた出願人(原告)の主張に理由がないとする判決をしました。特許庁は、同規定の「特許出願人」や「特許出願」の語は、親出願の係属を要件とする趣旨であって、出願人が、分割出願に先立って親出願の特許料を納付し、設定登録を受けたときは、もはや適法に分割出願をすることはできないとの解釈を採用しているのに対し、原告は、それらの文言は、親出願の係属を要件とする趣旨ではない等の主張をしていました。裁判所は原告のこの主張を排斥したものです。

訴訟で問題になった点については、かねてより、特許庁による法改正の解説や「出願の手続」にも注意喚起がされているところですが、改めて特許法の条文を読むと、その文言から、分割出願時に親出願が係属していることが要件であると明確に読み取ることができるわけではなく、実務上留意を要する点と思われるため、立法技術的観点からの個人的な疑問にも言及しつつ、判決を紹介します。

ポイント

骨子

  • 特許出願の分割は、もとの特許出願の一部について行うものであるから、分割の際にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要であり、法44条1項の「特許出願人」及び「特許出願」との文言は、このことを示すものである。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第4部
判決言渡日 令和5年9月28日
事件番号
事件名
令和5年(行コ)第10001号
特許分割出願却下処分取消請求控訴事件
対象出願
発明の名称
特願2020-132958号
ギフト資産管理システム
原判決 東京地判令和5年3月23日令和4年(行ウ)第382号
特許分割出願却下処分取消請求事件
裁判官 裁判長裁判官 宮 坂 昌 利
裁判官    本 吉 弘 行
裁判官    岩 井 直 幸

解説

分割出願とは

分割出願の意味

特許法44条1項は、ひとつの特許出願に二以上の発明が含まれる場合に、その一部を分割して、新たな特許出願とすることができることを定めています。特許出願の分割は、一般に「分割出願」と呼ばれ、①願書に添付した文書の補正ができる時期、②特許査定の謄本送達から30日以内または③最初の拒絶査定の謄本送達から3月以内、のいずれかのタイミングですることができます。

(特許出願の分割)
第四十四条 特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。
 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。
(略)

分割出願の効果

分割出願は、それ自体が新たな特許出願ですが、以下の特許法44条2項が定めるとおり、もとの特許出願(しばしば「親出願」などと呼ばれます。)の時点でしたものとみなされます。そのため、親出願後分割出願前に公開された文献(親出願の公開公報等も含まれます。)等によって新規性や進歩性が失われることはなく、また、その間にされた第三者の出願との関係で、先願の地位が失われることもありません。

(特許出願の分割)
第四十四条 (略)
 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十九条の二に規定する他の特許出願又は実用新案法第三条の二に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用及び第三十条第三項の規定の適用については、この限りでない。
(略)

他方、分割出願の出願日が親出願の出願日とみなされる結果、分割出願にかかる特許の存続期間の起算日は、親出願の出願日となります。また、分割出願を親出願とする分割出願(孫出願)がされるなど、多くの分割出願がされ、ファミリーが形成された場合であっても、親出願の保護期間満了に伴い、分割ファミリー特許の保護期間は一斉に満了することになります。

分割出願の実務的意義

上記の特許法44条1項2号によれば、分割出願は、特許査定の後にもすることができるため、実効的な権利の取得が可能になります。また、そこからさらに分割出願を繰り返すことも可能になるため、親出願の明細書に包含される発明である限り、出願後に競合他社が開発する製品を見据えながら分割出願をすることも可能になるため、分割出願は、企業の特許戦略において重要な意味を有しています。

分割出願の要件と時期

上に引用したとおり、特許法44条1項は、「特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」としています。また、ここにいう「次に掲げる場合」として、同項各号に、①願書に添付した文書の補正ができる時期、②特許査定の謄本送達から30日以内または③最初の拒絶査定の謄本送達から3月以内、の3つの時期を列挙しています。

これらの規定内容からすると、分割出願の要件は、以下のとおり整理できます。

  • 出願主体が親出願の特許出願人であること
  • 出願内容が「二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とする」ものであること
  • 出願時期が上記3つの時期のいずれかであること

平成18年特許法改正

ところで、上に紹介した特許法44条1項は、平成18年に改正された後のもので、同改正前は、現在の同項1号の場合、つまり、願書に添付された文書の補正ができる時期に限り、分割出願が認められていました。

この制度のもとでは、拒絶理由通知や拒絶査定を経ずに特許査定がされた場合、分割出願をする機会が十分に確保できず、出願に際しては、意図的に拒絶理由通知や拒絶査定がなされるような記載をし、分割出願の機会を確保するといった実務も行われていました。

しかし、このような実務運用は非効率であることや、特許査定後にも分割出願を認める外国制度との調和が求められたことから、平成18年改正において、特許査定後も、謄本送達後30日に限って分割出願を認めることとし、無駄な手続きを踏むことなく実効的な権利を確保することを可能にしました。また、同時に、最初の拒絶査定の謄本送達後3月の間も、分割出願ができるようになりました。

特許査定から設定登録までの手続及び効果

特許出願があると、審査官による審査が行われますが、審査の結果、拒絶理由が発見されない場合には、審査官は、以下の特許法51条に基づき、特許査定をします。

(特許査定)
第五十一条 審査官は、特許出願について拒絶の理由を発見しないときは、特許をすべき旨の査定をしなければならない。

特許査定を受けた特許出願人が特許の設定登録を受ける場合には、以下の特許法107条1項に基づき、所定の特許料を納付する必要があります。

(特許料)
第百七条
 特許権の設定の登録を受ける者又は特許権者は、特許料として、特許権の設定の登録の日から第六十七条第一項に規定する存続期間(同条第四項の規定により延長されたときは、その延長の期間を加えたもの)の満了までの各年について、一件ごとに、六万千六百円を超えない範囲内で政令で定める額に一請求項につき四千八百円を超えない範囲内で政令で定める額を加えた額を納付しなければならない。
(略)

また、その納付期限は、以下の特許法108条1項により、特許査定の送達から30日と定められています。

(特許料の納付期限)
第百八条 前条第一項の規定による第一年から第三年までの各年分の特許料は、特許をすべき旨の査定又は審決の謄本の送達があつた日から三十日以内に一時に納付しなければならない。
(略)

特許査定を受けた特許出願人から特許料の納付があると、以下の特許法66条2項に基づき、特許権の設定登録がなされます。

(特許権の設定の登録)
第六十六条 (略)
 第百七条第一項の規定による第一年から第三年までの各年分の特許料の納付又はその納付の免除若しくは猶予があつたときは、特許権の設定の登録をする。

特許権の設定登録があると、以下の特許法66条1項によって特許権が発生し、特許出願人は、特許権者になります。

(特許権の設定の登録)
第六十六条 特許権は、設定の登録により発生する。
(略)

特許権設定登録後の分割出願

上記の特許法44条1項2号によれば、特許査定後に分割出願ができるのは、特許査定の謄本送達後30日とされていますが、ここで、その期間内に特許料の納付をして設定登録があった場合に、その後に残された期間に分割出願をすることができるか、ということが問題になります。

この点に関し、同規定が設けられた平成18年特許法改正の解説(60頁)には以下の記載があり、特許庁の見解として、設定登録後には分割出願ができなくなるとの見解が記載されています。

また、「特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる」との規定(特許法第44条第1項)から明らかなように、特許出願が特許庁に係属していなければ出願を分割することができない。特許権の設定登録又は拒絶査定の確定により特許出願は特許庁に係属しなくなるため、特許査定後30日の期間内であっても、特許料を速やかに納付して特許権の設定登録がされた場合には、それ以降に出願を分割することはできないこととなる。

また、特許庁が公開する「出願の手続」中「第七章 出願手続Q&A」の「問11 特許査定後に行う分割出願の時期について(特)」においても、「特許査定の謄本の送達があった日から30日以内であれば、特許権の設定の登録後であっても分割出願をすることができますか」という問いに対し、以下のとおり、分割出願をすることができない旨の回答が記載されています(下線は筆者)。

特許法第44条1項2号は、「特許をすべき旨の査定(第163条3項において準用する第51条の規定による特許をすべき旨の査定及び第160条1項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から30日以内にするとき」と規定していますが、同項本文において「特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる」と規定されていることから、もとの特許出願を分割するには、分割する時にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要になります。
したがって、特許査定の謄本の送達があった日から30日以内(特許法第108条3項の規定により特許料の納付期間が延長になった場合は延長された後の期間内)であっても、特許権の設定の登録があったときは、当該特許出願が特許庁に係属していないことになるため、当該特許出願を分割することができません
そして、この設定の登録は、特許料の納付書の提出後順次行われていくため、納付書の提出と同日以前に当該特許出願を分割することが推奨されます

このように、特許庁は、先に特許料の納付をし、設定登録がされてしまうと、出願手続が終結するため、たとえ特許査定の謄本送達後30日以内であっても、もはや分割出願をすることはできない、と考えており、それを踏まえて、上記Q&Aの最後の一文では、特許料の納付書の提出以前に分割出願をすることを勧めています。

事案の概要

本件の原告は、令和元年10月29日付けで特許出願(「本件親出願」)をしたところ、特許査定を受けたため、登録料を納付し、令和2年7月29日に特許第6741320号(「本件特許権」)の設定登録を受けました。

その後、原告は、同年8月5日付けで、本件親出願をもとの特許出願とする分割出願(「本件出願」)をしました。本件出願がされたのは、本件親出願の特許証の受領前であったようです。

本件出願を受けた特許庁は、令和3年3月30日付けで出願却下の処分(「本件却下処分」)をしました。これは、上に紹介した「出願の手続Q&A」に沿った運用です。

この処分に対し、原告が、本件出願は特許法44条1項2号に規定する期間内にされたものであって適法なものであるなどと主張し、本件却下処分の取消しを求めたのが、本件の事案です。

争点

特許法44条1項の文言のうち、本件で主に争われたのは、同項柱書の「特許出願人」という語と、「二以上の発明を包含する特許出願の一部」とある中の「特許出願」という語の2つの解釈でした。この点、特許庁は、上の法改正時の説明等にもあるとおり、設定登録があると出願手続の係属が失われるため、もはや「特許出願人」が「特許出願」の分割をする、という関係が存在しなくなる、という解釈に立っています。本件では、その当否が争われたのです。

この点について、出願人である原告は、特許法は発明の保護を図る法律である以上、なるべく失権につながらない解釈をすべきとの前提のもと、「特許出願人」との語によって除外されるのは第三者であって、親出願の出願人であれば設定登録後も「特許出願人」に該当し、また、「二以上の発明を包含する特許出願の一部」というのは、分割の客体を特定したもので、出願が係属していることまで求めるものではないとの主張をしました。

加えて、原告は、特許権者は特許証を受領するまで設定登録があったことを知ることができず、特許権の利益を享受できないため、設定登録後特許証を受領するまでは、分割出願ができないという不利益を一方的に負うことになって不合理であることや、行政処分の効力発生時期は処分の通知の時点であるとの原則論に照らして、少なくとも特許権者との関係で、設定登録の効力が生じるのは特許証の受領時と解釈すべきことを理由に、本件却下処分は違法であると主張しました。

この主張に対し、特許庁は、上で紹介した特許法66条1項が「特許権は、設定の登録により発生する」と定めていることを指摘し、特許証の受領まで設定登録の効果が生じないとする原告の主張を批判しました。

原判決

原判決は、特許庁による解釈を支持し、「特許権の設定登録がされればその特許出願は特許庁に係属しなくなる以上、これをもとに分割出願をすることはできないと解される」と述べて、原告の請求を棄却しました。これに対して原告が控訴したのが本件です。

原告は、控訴審において、原審における主張に加え、特許法44条1項2号は平成18年の特許法改正で加えられたものであるところ、同改正は、権利範囲を見直して分割出願をするかどうかの判断期間として特許査定の謄本送達から30日の期間を定めたものであって、立法経過において、設定登録後に分割出願を封じるとの議論はされていない、といったことを指摘し、特許庁の解釈は立法趣旨に反するとの主張をしていたほか、中国や台湾では特許登録の時期は分割出願の可否に影響しないことを指摘していました。

判旨

判決は、以下のとおり、分割出願はもとの特許出願の一部を分割するものであることを根拠として、特許庁の解釈を支持しました。

特許出願の分割は、もとの特許出願の一部について行うものであるから、分割の際にもとの特許出願が特許庁に係属していることが必要であり、法44条1項の「特許出願人」及び「特許出願」との文言は、このことを示すものである。同項1号から3号は、これを前提に、分割の時的要件を定めるものであり、これに反する控訴人の主張は、同項所定の「特許出願」、「特許出願人」との文言を無視する独自の議論といわざるを得ず、採用できない。なお、控訴人は、法65条1項を「特許出願人」と記載されていても「特許権者」と解釈すべき例として挙げるが、同項の「特許出願人」は「警告をした」の主語でもあるところ、これが出願公開後、設定登録前の特許出願人を指すことは明らかである。

また、判決は、特許法44条1項2号の改正の趣旨として、特許査定を受け入れてそのまま特許料の納付に進むか、分割出願をするか、という「表裏一体の判断」を検討するための期間を与えたものであって、分割出願の要件として親出願が係属していることを求めるのは改正法の趣旨と矛盾しないとの考え方を示しました。

控訴人は、設定登録後は分割出願できないとの処分行政庁の解釈は法44条1項に関する改正法の立法趣旨に反する旨主張する。しかし、同項2号が、特許料納付期限(法108条1項)と平仄を合わせる形で、特許査定の謄本送達日から「30日以内」を分割出願の期限と定めたのは、同期限内であれば、特許査定を受けた特許出願人の意思によって「特許出願人」たる地位を継続することが可能であることを踏まえて、当該特許出願人が、特許査定を受け入れてそのまま特許料の納付に進むのか、分割出願という選択肢を行使するのかという表裏一体の判断を検討するための猶予期間を付与したものと理解することができる。したがって、改正法の内容は、特許出願が特許庁に係属していることを分割出願の要件とするとの解釈と何ら矛盾するものではなく、むしろこれと整合するものといえる。

さらに、判決は、中国や台湾の制度について言及した原告の主張に対し、以下のとおり、特許独立の原則等に照らして結論に影響しないと述べました。

また、中国、台湾における取扱いを述べる控訴人の主張は、各国工業所有権独立の原則、工業所有権の保護に関するパリ条約4条G(2)第3文に照らして、本件の判断に影響を及ぼすものとはいえない。

特許証の受領と設定登録の効力に関する主張については、特許登録によって分割出願ができなくなるのは、設定登録の派生的効果に過ぎないとして、これを排斥しました。

控訴人は、特許登録について独占権発生という効果のほかに分割不可化という効果が生じるのであれば、当該効果の部分については特許出願人に通知されて初めて効果が生じる旨主張する。
しかし、設定登録は分割不可化という効果を目的とする行政処分ではなく、設定登録によりもとの出願が特許庁に係属しなくなることの派生的効果として、結果的に適法な分割ができなくなるというにすぎないのであって、控訴人の主張は、前提を欠くというべきである。

以上の理由の基づき、判決は、結論において、控訴を棄却しました。却下処分の取消しを求めた原告の主張は、排斥されたのです。

コメント

本件では、原判決も本判決も特許庁の運用を支持し、特許査定の謄本送達後30日の期間内であっても、設定登録がされたときは、分割出願が不適法になるとの考え方を示しました。特許法44条1項2号の文理解釈として不合理とはいえず、特許庁も、特許査定後の分割出願を導入した平成18年改正以降一貫してこの考え方で運用をし、また、特許料の納付書の提出以前に分割出願をすべきことについて注意喚起してきたこと等も考慮すると、本判決の結論はやむを得ないところかも知れません。多くの特許事務所の実務も、この考え方に沿ったものとなっていると理解しています。

もっとも、今回の判決に接し、改めて考えたとき、特許庁の説明や特許事務所の実務などを措いて素直にこの条文だけを見た場合に、なお、特許庁の見解のように読めるだろうか、ということも考えさせられます。

確かに、そもそも分割出願は「特許出願の分割」ですし、立法経緯を見ると、平成18年改正前は、特許査定後に分割出願をすることができず、分割出願時に出願が係属していることは当然でした。また、「特許出願人」や「特許出願」の語は、特許査定後の分割出願を認めた平成18年改正前から一貫して存在する文言です。そのため、こういった経緯が念頭にあれば、同改正後の特許法44条1項2号においても出願係属が条件となるのは当然の前提であったというのも理解できます。

他方、そういった法文の読み方についての先入観をなくせば、「『特許出願人』という語は第三者を除外するものであって、(もと)出願人を除外するものではない、『特許出願』という語はあくまで分割の客体を示すものである」といった原告の主張の方が自然な解釈であるとも感じます。

特許庁や判決の考え方は、原告も述べるとおり、「特許出願人」や「特許出願」という、「主体」や「客体」を示す語に基づき、特許出願の係属という「条件」まで読み込むもの、つまり、これらの語について、「特許出願をした人」、「特許の出願」という積極的意味に加えて、「未だ設定登録を受けていない人」、「未だ設定登録を受けていない出願」という消極的意味も重畳的に読み込むものといえます。

しかし、立法に際し、通常人が、「特許出願人」や「特許出願」という語から、特許出願の係属が条件であるとの強い意味を重ねて読み取ることまでは期待できず、少なくとも、国民にそれを求めるのは不親切ではないでしょうか。

そもそも、平成18年改正前は、クレームや明細書等の補正ができる時期にしか分割出願ができなかったため、分割出願が出願係属中にしかできないというのは、独自の要件ではなく、時期的要件から導かれる結果に過ぎませんでした。つまり、当時は、分割出願をする上で、時期的要件に加えて、出願係属中という要件など考える必要もなかったわけです。このような状況で、「特許出願人」や「特許出願」という語に、出願係属を要件とする、すなわち、出願係属が失われた後の分割出願を不適法にする、といった強い意味がなかったのは明らかです。

ところが、平成18年改正は、分割出願が可能な期間に特許権の設定登録がされ、出願係属が失われる可能性を生み出しました。そのような事態は、改正前には制度上あり得なかったため、特許庁の解釈に従う限り、改正法は、分割出願において、従来考慮する必要のなかった出願係属という要件を、新たに付加し、あるいは、顕在化させたものといえます。

そのような場合、現代の立法技術としては、条文上明確に表現するのが適切でしょうし、実際、それは、「設定の登録があつた後を除く。」等の一文を付すことで容易にできることです。ここで、「特許出願人」や「特許出願」という語から「設定の登録があつた後を除く。」という意味を読み取るには、国民にとってそれなりのハードルがあるように思う一方、それができない結果が出願人に不利益に作用することを考えると、むしろ、そうした表現を加えず、実質的に新たに付加された出願係属の要件に対応する文言を置かなかったのは、立法として不十分な面があったといえないでしょうか。こうしてみると、出願係属が分割出願の条件か否かは、立法における陥穽と把握した上で、どのような解釈が客観的に合理的か、先入観抜きで解決すべきものと感じられます。

ここで、改めて判決に現れた議論を見ると、確かに、外国制度等の論議が原告の主張を支持する強力な理由になるとも思われませんが、さりとて、出願係属を条件とする論拠も多分に形式論で、原告の主張を明確に否定できるほどのものとも思えません。「表裏一体の判断」について言及する判旨も、もともと、ここでの議論の対象が「特許法44条1項2号が『表裏一体の判断』を求めるものか」ということにあるともいえるので、結論を言い換えているにすぎないと感じます。

そこで、もう少し実質的に考えると、条文の文言から特許出願の係属という条件を読み取れないことによる出願人の不利益は失権であって深刻である一方、設定登録後に分割出願を容認したとしても、第三者の利益が大きく害される事態はあまり考えられません。そもそも特許査定後に速やかに特許料を納付して設定登録を受けようとすることは、出願人の自然な行動です。このような状況で、法改正前に実質的に要件でなかった出願係属を新たに分割出願の要件として付加し、または顕在化させながら、それを要件として明確に表現していない立法がされたのであれば、その表現の欠落については、出願人の利益に解釈するのが適切である、つまり、特許査定後の分割出願においては、期間要件はあっても、出願係属の維持は要件ではない、と解釈すべきではないか、と思うところです。

いずれにせよ、この判決が、出願実務における留意点について、改めて注意喚起するものであることには違いないため、ここで取り上げました。

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(文責・飯島)