令和5年(2023年)6月7日、不正競争防止法の改正を含む「不正競争防止法等の一部を改正する法律」が可決・成立し、同月14日に公布されました。本稿では、不正競争防止法の改正のうち、メタバース等のデジタル空間における商品形態の保護について解説します。

ポイント

骨子

  • メタバース等のデジタル空間における商品形態の模倣も、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当し、保護されることになりました。
  • この改正事項は、公布の日(2023年6月14日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行されます。

改正案の概要

法律名 不正競争防止法等の一部を改正する法律
法律番号 法律第51号
成立日 令和5年(2023年)6月7日
公布日 令和5年(2023年)6月14日
施行日 一部の規定を除き、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日

解説

商品形態模倣とは

他人の商品の形態を模倣した商品を販売等することは、不正競争行為として、差止や損害賠償の対象となります(不正競争防止法2条1項3号、3条、4条)。
この規定は、デッドコピー(そっくりそのまま模倣)の禁止とも言われますが、全く同じ商品形態でなくとも、実質的に同一の形態(たとえば、基本的な形態が同一又は極めて類似し、オリジナルの商品に若干の改変を加えただけのような場合等)も含まれます。
オリジナル商品について商標や意匠の登録がなくても保護を受けられる一方、保護期間は、オリジナルの商品が日本国内で最初に販売されてから3年に限定されています(不正競争防止法19条1項5号イ)。

改正の背景

近時、メタバース等のデジタル空間におけるアイテムの売買が問題になっています。
この問題に関する知的財産研究所「仮想空間に関する知的財産の保護の状況に関する調査研究報告書」では、以下の3つの場面が仮想事例として挙げられています。

仮装事例 権利(保護)対象 効力が及ぶ対象(被疑侵害品)
1 現実空間の製品(靴) 仮想空間のアイテム(靴)
2-A 仮想空間のアイテム(椅子) 仮想空間のアイテム(椅子)
2-B 現実空間の製品(椅子)

よく話題に上がるのは仮想事例1で、例えば、有名ブランドの靴やバッグを模倣した仮想空間のアイテムを販売する行為が、現行の知的財産制度によって保護されるのかが議論されてきました。
また、仮想事例2-Aや2-Bのように、仮想空間で販売されたアイテムの模倣品(仮想空間上での模倣、現実空間での模倣)についても、今後問題になり得ると予想されます。

上記報告書において、日本における他の知的財産権による保護に関しては、概ね次のように整理されています。

仮想事例1
(現実-仮想)
仮想事例2-A
(仮想-仮想)
仮想事例2-B
(仮想-現実)
意匠権 登録 ×
(仮想アイテムは物品の意匠として登録不可、操作/表示画像意匠にも非該当)
×
(同左)
行使 ×
(デジタルコンテンツは「意匠」に非該当、物品も非類似)
× ×
商標権 登録
行使
(指定商品が現実製品だと、仮装アイテムは商品非類似)

(指定商品が仮想アイテムだと、現実商品は商品非類似)
著作権 保護 ×~△
(実用品は、応用美術として、原則著作権で保護されない)

(コンテンツであるため著作権で保護可能)

(同左)
行使 ×~△
(保護される場合は行使可能性あり)
不競法
1-2※1
保護
行使
不競法
3 ※2
保護
行使
特許権 登録
行使 ×
(仮想空間での表現は、現実製品特許の「実施」に非該当)

(通常「実施」非該当と考えられるが、仮想・現実いずれでも同様に機能する発明は効力が及ぶ)

※1 不正競争防止法2条1項1号・2号(周知表示・著名表示の保護)
※2 不正競争防止法2条1項3号(商品形態の保護)

上記のとおり、現行法では、商標・ブランドについては、仮想事例1(現実-仮想)や2-B(仮想-現実)では、商品非類似(商標権侵害の要件として、登録商標の指定商品・役務と被疑侵害品の商品・役務が同一又は類似であることが必要です)により商標権による保護を受けにくいと解されるものの、不正競争防止法2条1項1号・2号による保護はいずれの類型でも可能であると考えられます。

他方、商品形態・デザインについては、意匠権による保護が困難である上、商品形態そのものが仮想空間で模倣された場合(仮想事例1、2-A)に、不正競争防止法2条1項3号を適用できるかどうかは、明確ではありませんでした。
いくつか論点がありましたが、特に問題だったのは、禁止される行為の中に、仮想空間での販売・提供が含まれることが明確ではない点でした。
すなわち、不正競争防止法2条1項1号・2号では、仮想空間での販売・提供が含まれることは、平成15年改正で下記条文の下線部(電気通信回線を通じて提供)を加えることにより、明確化されています。これに対し、同項3号については、平成15年改正時点ではネットワーク上の譲渡等は想定できないとして、改正が見送られていました。

改正前 不正競争防止法

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為

なお、メタバース空間の模倣に関しては、2023年2月に米国の商標権侵害に該当するという判決が出され、同年6月に差止命令も発令されたメタバーキン事件(米国)があります(Hermes International et al v. Mason Rothschild, No.22-CV-384(JSR),(S.D.N.Y.))。この事件では、仮想空間上で、エルメスの高級バッグであるバーキンをモチーフとしたNFT(Non-Fungible Token)アートを、「MetaBirkins」と題して販売した被告(Rothschild氏)の行為が、エルメスが保有する登録商標「BIRKIN」(指定商品は第18類の革製品・バッグ等の現実空間の製品)の侵害(米国連邦商標法32条)に該当すると判断されました。
(日本の商標法では、米国連邦法と異なり、登録商標の指定商品・役務と被疑侵害品の商品・役務が同一又は類似であることが商標権侵害の要件となっているため(商標法25条、37条)、上記の表のとおり、日本では、現実空間の製品を指定商品とする第18類の商標権で、仮想空間上のNFTを商標権侵害というのは困難と解されています。日本での同種事件では、仮想空間のアイテムを指定商品とする商標を出願・登録して行使する、あるいは、不正競争防止法2条1項1号・2号を使うことが考えられます。)

仮想空間での知的財産保護について世界的に注目が増す中、我が国においても今回の改正が行われることとなりました。

改正の内容

今回の改正では、不正競争防止法2条1項3号にも「電気通信回線を通じて提供」を追加し、仮想空間での販売・提供が含まれることが明確化されました。
これにより、仮想事例1のように、現実空間の製品が仮想空間のアイテムで模倣された場合や、仮想事例2-Aのように、仮想空間のアイテムが別の仮想空間のアイテムで模倣された場合にも、商品形態模倣として差止・損害賠償の対象にし得ることになりました。
なお、仮想事例2-Bの、仮想空間のアイテムが現実空間の製品で模倣された場合については、現実空間での「譲渡」(又は「譲渡のために展示」)がなされており、また、本改正の「電気通信回線を通じて提供」の追加で「商品」「商品の形態」に無体物が含まれることが明らかになったことから、規制対象になり得ると解されます。

改正後 不正競争防止法

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
(略)
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為

コメント

今回の改正により、メタバース等の仮想空間における商品形態模倣についても差止や損害賠償が可能となり、商品形態模倣の限りでは、模倣の防止を図りやすくなると期待されます。

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(文責・藤田)