東京地方裁判所民事第40部(中島基至裁判長)は、本年(令和4年)3月11日、被告による赤い靴底を有する女性用ハイヒールの製造販売等について、原告らが不正競争防止法(不競法)2条1項1号の周知表示混同惹起行為及び同項2号の著名表示冒用行為に該当する旨を主張した事案において、女性用ハイヒールの靴底に特定の赤色を付すという表示は同項1号・2号の商品等表示に該当しないと判断し、原告らの請求を棄却しました。

著名な高級婦人靴ブランドに関する事案であり、また、商品形態の商品等表示該当性の判断について実務上参考になるため、紹介します。

ポイント

骨子

  • 不競法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)と同一又は類似の商品等表示を使用等することをもって、不正競争に該当する旨規定している。この規定は、周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するという観点から、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止し、事業者間の公正な競争等を確保するものと解される。そして、商品の形態(色彩を含むものをいう。以下同じ。)は、特定の出所を表示する二次的意味を有する場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能を有するものではないから、上記規定の趣旨に鑑みると、その形態が商標等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能を発揮するような特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないというべきである。そうすると、商品の形態は、①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており、かつ、②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知であると認められる特段の事情がない限り、不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。
  • 商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときであっても、上記商品に関する表示が全体として商品等表示に該当するとして、その一部の商品を販売等する行為まで不正競争に該当するとすれば、出所表示機能を発揮しない商品の形態までをも保護することになるから、上記規定の趣旨に照らし、かえって事業者間の公正な競争を阻害するというべきである。のみならず、不競法2条1項1号により使用等が禁止される商品等表示は、登録商標とは異なり、公報等によって公開されるものではないから、その要件の該当性が不明確なものとなれば、表現、創作活動等の自由を大きく萎縮させるなど、社会経済の健全な発展を損なうおそれがあるというべきである。そうすると、商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記商品に関する表示は、全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第40部
判決言渡日 令和4年3月11日
事件番号 平成31年(ワ)第11108号
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判官 裁判長裁判官 中島 基至
裁判官    𠮷野 俊太郎
裁判官    齊藤 敦

解説

周知表示混同惹起行為

周知表示混同惹起行為とは、不正競争の1つであり、「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」をいいます(不競法2条1項1号)。この行為を規制する趣旨は、商品又は営業の出所混同を防止し、業務上の信用を保護するとともに、需要者を保護することにあります。

この行為の成立要件は、以下のとおりです。

  • 他人の商品等表示
  • 需要者の間に広く認識されていること(周知性)
  • 同一・類似の商品等表示(同一性・類似性)
  • 商品等表示の使用又はそれを使用した商品の譲渡等
  • 他人の商品・営業と混同(又は混同のおそれ)を生じさせること(出所混同のおそれ)

出所混同のおそれについては、同一主体であると誤認させる場合(狭義の混同)のみならず、関連企業であると誤認させる場合(広義の混同)が含まれます。

周知表示混同惹起行為によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、差止めを請求できます(不競法3条)。また、故意又は過失によりこの行為を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、損害賠償責任を負います(不競法4条)。

商品形態の商品等表示該当性

形状や色彩といった商品形態は、出所表示のために付される商品ブランドとは異なり、商品自体を構成する要素であるため、本来的には、出所表示となるものではありません。もっとも、一定の場合には、需要者が商品形態を見て当該商品の出所を認識するため、商品形態が出所表示(商品等表示)に該当することがあります。

この点について、知財高裁平成24年12月26日判決〔ペアルーペ事件〕は、以下のとおり、商品形態が商品等表示に該当するための要件として、①商品形態の特別顕著性と②長期間の独占的使用や極めて強力な宣伝広告等による周知性を挙げています。

……商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性),需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である。

事案の概要

原告Xは、高級ファッションブランド「クリスチャン ルブタン」(以下「ルブタン」といいます)のデザイナーであり、ルブタンに関する知的財産権を有しています。また、原告会社は、婦人靴等のルブタンの商品の製造販売等を業とするフランス法人の会社であり、原告Xがその代表者を務めています。原告会社は、次のイラストの表示(女性用ハイヒールの靴底にパントン社が提供する色見本「PANTONE 18-1663TPG」〔以下「原告赤色」といいます〕を付したものであり、破線部分は含みません。以下「原告表示」といいます)を使用した商品(以下「原告商品」といいます)を製造販売等しています。
 

 
ルブタンの女性用ハイヒールは、以下の写真のとおり、いずれも革素材の靴底が原告赤色でラッカー塗装されています。
 

 
他方、被告は、婦人靴の販売等を業とする株式会社であり、遅くとも平成30年5月頃から、次の写真の商品(被告商品1)を含む自社製の女性用ハイヒール(以下「被告商品」といいます)を被告運営の通販サイト(以下「被告通販サイト」といいます)や店舗で販売しています。被告商品の赤色のゴム素材から成る靴底には金色で「EIZO」のロゴマークが付されています。
 

 
原告らは、被告商品は周知著名な原告表示と類似した商品等表示を使用した商品であり、被告商品の製造販売等が周知表示混同惹起行為(不競法2条1項1号)及び著名表示冒用行為(同項2号)に該当すると主張して、被告に対して差止め及び損害賠償を求めました。

判旨

周知表示該当性――判断基準

裁判所は、不競法2条1項1号の解釈について、商品形態が本来的には商品の出所表示機能を有するものではないことを踏まえ、商品形態が同号の要件である「商品等表示」に該当するためには、①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており、かつ、②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知であると認められる特段の事情が必要であると述べました。

不競法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)と同一又は類似の商品等表示を使用等することをもって、不正競争に該当する旨規定している。この規定は、周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するという観点から、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止し、事業者間の公正な競争等を確保するものと解される。そして、商品の形態(色彩を含むものをいう。以下同じ。)は、特定の出所を表示する二次的意味を有する場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能を有するものではないから、上記規定の趣旨に鑑みると、その形態が商標等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能を発揮するような特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないというべきである。そうすると、商品の形態は、①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(以下「特別顕著性」という。)を有しており、かつ、②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知(以下、「周知性」といい、特別顕著性と併せて「出所表示要件」という。)であると認められる特段の事情がない限り、不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。

続けて、裁判所は、商品に関する表示(本件では女性用ハイヒールにおける原告赤色が付された靴底)が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記商品に関する表示は、全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと述べました。

そして、商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときであっても、上記商品に関する表示が全体として商品等表示に該当するとして、その一部の商品を販売等する行為まで不正競争に該当するとすれば、出所表示機能を発揮しない商品の形態までをも保護することになるから、上記規定の趣旨に照らし、かえって事業者間の公正な競争を阻害するというべきである。のみならず、不競法2条1項1号により使用等が禁止される商品等表示は、登録商標とは異なり、公報等によって公開されるものではないから、その要件の該当性が不明確なものとなれば、表現、創作活動等の自由を大きく萎縮させるなど、社会経済の健全な発展を損なうおそれがあるというべきである。そうすると、商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記商品に関する表示は、全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。

周知表示該当性――原告表示に関する判断

裁判所は、原告表示において形状、模様、光沢、質感、靴底以外の色彩等について何ら限定がなく、原告赤色もそれ自体が特別な色彩ではないため、原告表示には、被告商品のほか、広範かつ多数の商品形態が含まれると述べました。

その上で、裁判所は、以下のとおり、原告商品と被告商品を対比し、原告商品の靴底はマニキュアのような光沢がある赤色である一方、被告商品の靴底はゴム製で光沢がない赤色であり、両者は光沢及び質感において明らかに印象が異なることを指摘したうえで、高級ブランド品としての原告商品の価値に鑑みると、少なくとも被告商品の形態が原告らの出所を表示するものとして周知であるとは認められないと述べ、原告表示が全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと結論付けました。

そして、前記認定事実及び第2回口頭弁論期日における検証の結果(第2回口頭弁論調書及び検証調書各参照)によれば、原告商品の靴底は革製であり、これに赤色のラッカー塗装をしているため、靴底の色は、いわばマニュキュアのような光沢がある赤色(以下「ラッカーレッド」という。)であって、原告商品の形態は、この点において特徴があるのに対し、被告商品の靴底はゴム製であり、これに特段塗装はされていないため、靴底の色は光沢がない赤色であることが認められる。そうすると、原告商品の形態と被告商品の形態とは、材質等から生ずる靴底の光沢及び質感において明らかに印象を異にするものであるから、少なくとも被告商品の形態は、原告商品が提供する高級ブランド品としての価値に鑑みると、原告らの出所を表示するものとして周知であると認めることはできない。そして、靴底の光沢及び質感における上記の顕著な相違に鑑みると、この理は、赤色ゴム底のハイヒール一般についても異なるところはないというべきである。
したがって、原告表示に含まれる赤色ゴム底のハイヒールは明らかに商品等表示に該当しないことからすると、原告表示は、全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないものと認めるのが相当である。

その上で、裁判所は、補足的に特別顕著性(①)や極めて強力な宣伝広告等(②)の有無を判断しました。裁判所は、①については、靴底に赤色を付すことは通常の創作能力の発揮において行い得るものであること、原告商品が日本で販売される前から原告赤色と似た赤色が靴底の色彩として使用されており、現在それが一般的なデザインとなっていることから、特別顕著性はないとし、また、②については、原告会社が自ら広告宣伝費を払ってテレビ等で広告宣伝を行っていないことから、極めて強力な宣伝広告が行われているとはいえないとしました。

さらに、裁判所は、出所混同の有無についても言及し、靴底の光沢及び質感における顕著な相違に加え、原告商品と被告商品の価格帯の違い(原告商品:最低でも8万円超、被告商品:税抜1万6000円~1万7000円)や靴底その他のデザイン性の違いにより需要者が両商品の出所を十分に識別し得ること、ロゴによっても出所の違いを十分に確認できること等から、出所混同は生じないと述べました。

以上より、裁判所は、被告の行為は不競法2条1項1号にいう不正競争に該当しないと結論付けました。

著名表示該当性

裁判所は、原告表示が不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない以上、同項2号にいう著名な商品等表示にも該当しないと述べました。

コメント

本判決は、商品形態の商品等表示該当性に関する判断基準については過去の知財高裁判決に沿ったものですが、判示内容の構造はやや複雑です。

まず、本判決は、原告表示が商品等表示に当たるか否かの検討において、原告商品と被告商品の赤色の靴底は光沢及び質感において明らかに印象が異なると述べたうえで、ゴム製で光沢のない赤色の靴底が「原告らの出所を表示するものとして周知であると認めることはできない」として、周知性がないことを述べています。上記のとおり、周知表示混同惹起行為において、問題となっている商品形態等の表示が商品等表示であることと周知性があることは、本来的には別個の要件です。しかし、本判決は、過去の知財高裁判決と同様に、商品形態が商品等表示に当たるための要件として、(本来的には別個の要件である)周知性を求めているため、商品等表示該当性の文脈で周知性に言及しているものと理解できます。

また、両者の靴底の印象が異なるからゴム製で光沢のない赤色の靴底が「原告らの出所を表示するものとして周知であると認めることはできない」という点については、具体的には、被告商品に採用されているゴム製で光沢のない赤色の靴底が原告商品には採用されておらず、使用実績がない以上、ゴム製で光沢のない赤色の靴底が原告らの商品等表示として周知になることもない、という理屈であると思われます。

一般的には、被告商品の商品形態等が原告商品にも採用されていることには争いがなく、もっぱら周知性の有無が争われているという事案も少なくありません。しかし、本件では、原告らが「ゴム製で光沢のない赤色の靴底」ではなく、その上位概念的な「赤色の靴底」を原告表示として主張したため、原告らによるゴム製で光沢のない赤色の靴底の使用実績の有無が問題となったものと考えられます。本判決が提示した「商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記商品に関する表示は、全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない」という規範は、本件のように、原告主張の商品等表示が抽象的である場合の判断手法として位置付けることができます。

原告商品は著名な高級婦人靴ブランドであり、赤い靴底という特徴も相まって広く世間に認知されているといってよいと思いますが、赤い靴底のみを取り出して検討すれば、それ自体は単色の非常にシンプルな構成であるため、裁判所が光沢や質感に踏み込んで具体的に検討し、原告商品の保護範囲を厳格に判断したことは妥当であるといえます。

商品形態は、不競法2条1項3号の商品形態模倣行為規制により保護することもできます。ただし、最初の販売日から3年を経過すると保護が失われ、また、保護は(類似ではなく)実質的同一の範囲に限られます。

他方、商品形態は、商標登録を受けることにより、商標権で保護することもできます。もっとも、本件の原告表示は、いわゆる色彩のみからなる商標であり、通常、色彩のみでは識別力がないため、拒絶される例が少なくありません。実際、原告は、原告表示について商標登録出願をしたものの、拒絶査定を受け、現在、拒絶査定不服審判において争っているところです。

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(文責・溝上)