知的財産高等裁判所(清水響裁判長)は、令和6年(2024年)9月25日、「TRIPP TRAPP」という商品名で知られる子供用の椅子の形態が不正競争防止法上の商品等表示に当たると判断しました。

一方で、被告の商品と当該商品等表示との間の類似性は否定して結論としては不正競争防止法に基づく原告の請求を棄却し、著作権侵害の主張も排斥しています。

原審は、商品形態の商品等表示性を否定したのに対して、本判決はこれと異なり、一定の範囲の特徴につき商品等表示性を認めており、商品形態がどのような場合に商品等表示と認められるかや、どのように商品形態を特定するかにつき、実務上参考になるといえます。

ポイント

骨子

  • 商品の形態そのものであっても、客観的に他の同種商品とは異なる特別顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、その形態が、特定の事業者によって長期間、継続的独占的に使用されることにより、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、その形態を有する商品が当該特定の事業者の出所を表示するものとして需要者に周知になっていれば(周知性)、 出所表示機能を備えるに至ることもあり、この場合には、当該商品の形態が不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当するというべきである。
  • 原製品全体の形態のうち、構成B(原告製品の側面は、床から斜め上向きに平行に伸びた2本の側木と、側木の下側端部から後ろ方向に同じく平行に伸びた2本の脚木から構成されている。)及び構成C(左右一対の側木及び脚木は、側木の下端が、脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、約66度の鋭角によってそれぞれ略L字型に接合されており、前後方向から見ていずれも床面に対して垂直で、かつ、互いに平行となるように配置されている。)において側木と脚木がそれぞれ一直線で構成されていることに加え、構成F(側木には、床面と平行に多数の溝が形成されており、座面板及び足置板はこの 溝に挿入されて配置されている。)において座面板及び足置板を一直線の側木の内側に床面と平行に形成された溝に挿入することのみによって固定する構成になっていることが、原告製品の顕著な特徴部分であり、これを踏まえて考察すると、結局、原告製品は、特徴①から③までを不可分に結合させた上、側木と脚木を一直線とするデザインを採用したことにより、他の製品にはみられない洗練されたシンプルでシャープな印象を与え、商品等表示性が認められることになったものと判断する。
  • 被告各製品の形態が、原告らの商品等表示と類似のものに当たるか否かは、取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、 記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか 否かを基準として判断するのが相当である。
  • 被告各製品は、本件顕著な特徴を構成している特徴①特徴③までとの対比において、・・・原告らの商品等表示の特徴③を備えていないものと認められる。なお、被告各製品の形態においては、曲線的な要素とともに、座面板及び足置板の支持部分に複数の部材が利用され、その安定性が特徴的となっており、その印象も、原告製品における、直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっている。よって、原告製品全体の形態の特徴である本件顕著な特徴について、被告各製品は、これを備えていないものと認められ、したがって、原告らの商品等表示と被告各製品の形態が類似すると認めることはできない。
  • 原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である。
  • 原告製品は、椅子の創作的表現として美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということはできない。また、原告製品は、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑賞目的で制作されたものと認めることもできない。それのみならず、仮に、原告製品の本件顕著な特徴について、独立の美的鑑賞の対象となり得るような創作性があると考えたとしても、被告各製品は、・・・原告製品の形態が表現する、直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているの であって、被告各製品から原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。そうすると、結局、本件において、著作権侵害は成立しないといわざるを得ない。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和6年9月25日
事件番号 令和5年(ネ)第10111号 不正競争行為差止等請求控訴事件
裁判官 裁判長裁判官 清 水   響
裁判官    菊 池 絵 里
裁判官    頼   普 一

解説

工業用製品の形態の法的保護

工業用製品の形態については、意匠権の登録をすることで、意匠法により保護がなされるのが原則です。

一方、意匠登録がされていない、あるいは、登録の要件を満たさず登録ができない場合においても、当該商品の形態が不正競争防止法(以下「不競法」おいいます。)2条1項1号又は2号の「商品等表示」に該当する場合には、同法による保護を受けることができる場合があります。

裁判例においては、商品の形態が①特別顕著性及び②周知性の2つの要件を備える場合には、不競法上の「商品等表示」に該当すると認められ、同法に基づく差し止めや損害賠償の請求をなし得ると解されています。

なお、他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡等する場合には、不競法上の形態模倣(不競法2条1項3号)に該当しますが、本条項は日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した模倣行為には適用されないため、保護を受けられる範囲は限定的です。

また、商品の形態が、創作性を有する場合には著作権法による保護を受けられる場合があります。もっとも、伝統的裁判例によると、実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは、その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り保護の対象とはならないと解されています。

商品形態の保護については、ユニットシェルフ事件のリーガルアップデートもご参照下さい。

事案の概要

原告X1は、家具デザイナーによりデザインされた、製品名を「TRIPP TRAPP」とする子供用の椅子(以下「原告製品」といいます。)のデザインにかかる著作権を譲り受けた者であり、原告X2は、この著作権の独占的利用権を取得し、原告製品を製造販売等していました。

被告は子供用の椅子(以下「被告各製品」といいます。)を製造販売していたところ、原告は、被告各製品の製造販売等の行為は、①原告製品の商品等表示として周知又は著名なものと同一の商品等表示を使用する不正競争行為に該当し、仮に不正競争行為に該当しないとしても、②原告製品の著作権及びその独占的利用権の各侵害行為を構成し、仮に不正競争行為に該当せず又は著作権及びその独占的利用権の各侵害行為を構成しないとしても、取引における自由競争の範囲を逸脱する行為であり、原告らの営業上の利益を侵害するものとして、③一般不法行為が成立すると主張していました。

東京地裁は、①原告製品の形態は商品等表示に該当せず、②著作権侵害、及び、③一般不法行為も成立しないと判断し、原告の請求を棄却したため、原告が控訴をしていました。(原判決の内容については、本判決原審のリーガルアップデートをご参照下さい。)

原告製品の商品等表示性に関しては、原判決言い渡し後の令和6年1月12日に、原告製品の形態は立体商標として登録査定を受け、商標登録がされていたところ、控訴人(原告)は、このことは、原告製品全体の形態が、需要者において出所識別標識として認識されていることが認められたことを意味すると主張していました。

また、控訴人は、原告製品の形態的特徴が出所識別機能を有することの証拠として、原判決日以降に実施したアンケート調査の結果を追加の書証として提出していました。

出典:判決文別紙

判旨

不正競争防止法に基づく請求について(商品等表示該当性)

まず、裁判所は、商品の形態は、①特別顕著性及び②周知性の2つの要件を備えた場合には、不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当するとの規範を示しました。

(不正競争防止法2条1項1号)にいう「商品等表示」とは「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」とされているが、商品の形態そのものであっても、客観的に他の同種商品とは異なる特別顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、その形態が、特定の事業者によって長期間、継続的独占的に使用されることにより、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、その形態を有する商品が当該特定の事業者の出所を表示するものとして需要者に周知になっていれば(周知性)、 出所表示機能を備えるに至ることもあり、この場合には、当該商品の形態が不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当するというべきである。

上記特別顕著性の要件につき、裁判所は、構成Aないし構成Gで特定される原告製品の全体の形態が商品等表示に該当する旨の原告の主張に関して、原告製品は、左右一対の側木の2本脚であり、かつ、 座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されている点(特徴①)、左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、 側木の下端が脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の形状を形成している点(特徴②)及び側木の内側に形成された溝に沿って座面板と足置板の両方をはめ込み固定する点(特徴③)を不可分に結合させた上、側木と脚木を一直線とするデザインを採用したことにより、他の製品にはみられない洗練されたシンプルでシャープな印象を与え、特別顕著性が認められることになったと判断しました。

具体的な判断手法としては、裁判所は、まず、以下の原告製品の形態における構成Aないし構成Gにつき、原告製品の日本における販売を開始した昭和49年頃から被告各製品の販売時点までの間、他社の同種製品で使用されていた構成であるか否かを個別に認定しています。

A 原告製品は、その大部分が木材から構成されており、その大きさは、高さ約79㎝、幅約46㎝、奥行き約50㎝である。

B 原告製品の側面は、床から斜め上向きに平行に伸びた2本の側木と、側木の下側端部から後ろ方向に同じく平行に伸びた2本の脚木から構成されている。

C 左右一対の側木及び脚木は、側木の下端が、脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、約66度の鋭角によってそれぞれ略L字型に接合されており、前後方向から見ていずれも床面に対して垂直で、かつ、互いに平行となるように配置されている。

D 2本の脚木の間には、横木が床面と水平に挟み込まれるように設けられており、 また、側木の間には、後方縁部分が波状に加工された2枚の板がいずれも床面と水平に固定されている。これらの2枚の板のうち、上方の板は座面として、下方の板は足置きとして、それぞれ用いられる。

E 側木の最上部には、2枚の曲線状の背板が挟み込まれるようにして取り付けら れている。

F 側木には、床面と平行に多数の溝が形成されており、座面板及び足置板はこの溝に挿入されて配置されている。

G 側木の下部及び中央部に2本の金属棒が配置されている。

そして、以下のとおり、構成B、構成C及び構成Fについては、他社の同種製品とは異なる顕著な特徴であると認めました。

・・・原告製品全体の形態の具体的構成のうち、構成B(原告製品の側面は、床から斜め上向きに平行に伸びた2本の側木と、側木の下側端部から後ろ方向に同じく平行に伸びた2本の脚木から構成されている。)は、2本脚に関する形態であり、脚が、床から斜め上方向に平行に伸びる2本の側木とその下側端部から後ろ方向に平行に伸びる2本の脚木からなる構成は、被告各製品の販売の時点の他社の2本脚の子供用椅子においても概ね共通する形態である。

しかし、以上に加え、2本脚が側木及び脚木のみから構成され、側木及び脚木がそれぞれ一直線であり、丸みや曲線的な部分はなく、かつ、側木及び脚木のいずれの端部も角度のある構成となっている形態について、被告各製品の販売時点で原告製品以外に使用されていることを認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告製品は、側木及び脚木がそれぞれ一直線である構成Bに係る前記形態において、原告製品の日本における販売を開始した昭和49年頃から、被告各製品の販売時点までの間、他社の同種製品とは異なる顕著な特徴を有していたものと認められる。

(後略)

その上で、裁判所は、以下のとおり、特徴①ないし特徴③を有する商品形態につき、側木と脚木をそれぞれ一直線とするデザインと相まって、原告製品の日本における販売を開始した昭和49年頃から、被告各製品の販売時点までの間、他社の同種製品とは異なる特別顕著な特徴(以下「本件顕著な特徴」という。)となっていたものと認めると判断しています。

このような原告形態の具体的構成における特徴的な形態に、具体的構成におけるその他の形態をも併せて総合的に考慮すると、原告製品全体の形態の特徴的要素は、原告製品が、左右一対の側木の2本脚であり、かつ、 座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されている点(特徴①)、左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、 側木の下端が脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の形状を形成している点(特徴②)、側木の内側に形成された溝に沿って座面板と足置板の両方をはめ込み固定する点(特徴③)を基本とし、原告製品が、側木及び脚木からなる2本脚、背板、座面板及び足置板、横木、細い金属棒等という必要最低限の部材で構成される中で、側木と脚木はそれぞれ一直線で端部に角度のあるものとされ、側木及び脚木の端部のみが結合されて形成された2本脚が、正面視で床面に垂直で相互に平行となるように配置され、側木と脚木の結合部分から離れた脚木中央部に横木が配置されるとともに、側木には細い金属棒が配置され、背板は側木の最上部に配置され、座面板と足置板は前方を直線的形状とされて側木の溝にはめ込まれることにより、原告製品全体の形態において、特徴①から特徴③までを無駄のない直線的な形態として際立たせ、洗練されたシンプルでシャープな印象を与えるものとしていることが認められる。そして、このような子供用椅子の形態について、被告各製品の販売時点で原告製品以外に使用されていることを認めることはできない。

したがって、原告製品全体の形態における特徴①から特徴③までは、側木と脚木をそれぞれ一直線とするデザインと相まって、原告製品の日本における販売を開始した昭和49年頃から、被告各製品の販売時点までの間、他社の同種製品とは異なる特別顕著な特徴(以下「本件顕著な特徴」という。)となっていたものと認めるのが相当である。他方、原告らの主張する本件形態的特徴(特徴①及び特徴②)のみでは本件顕著な特徴と認めるには足りない。

さらに、周知性につき、裁判所は、原告製品の販売台数や、日本における販売状況、受賞歴、インテリア雑誌での紹介やSNSでの投稿内容、アンケート結果等から、原告製品の本件顕著な特徴は、被告各製品が販売されるようになった遅くとも平成27年8月10日時点で、原告らの業務に係る商品を表示するものとして「周知」となっていたと認めるのが相当であると判断し、周知性の要件も満たすと判断しました。

しかしながら、裁判所は、以下のとおり、被告製品は、特徴①及び特徴②は備えているものの、特徴③は備えておらず、また、その印象も、原告製品における、直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているとして、原告製品全体の形態の特徴である本件顕著な特徴を備えていないものと判断し、結論としては、控訴人(原告)の不正競争防止法に基づく請求を認めませんでした。

・・・被告各製品の形態は、別紙「被告各製品の形態」記載の構成aから構成fまで(以下、単に「構成 a」などという。)のとおりであり、これによると、被告各製品は、本件顕著な特徴を構成している特徴①から特徴③までとの対比において、左右一対の側木の2本脚であり、かつ、 座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されており(特徴①)、左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木の下端が脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の 形状を形成している(特徴②)が、側木の内側に溝は形成されておらず、側木の後方部分に、固定部材と結合してネジ止めするための円形状の穴が多数 形成され、座面板及び足置板を側木の間で支持する支持部材、支持部材を側木の間において掛け渡された状態で側木に固定する固定部材及びネジ部材を備え、2本の側木後方に設けられた穴と固定部材を結合した状態でネジ部材を閉めることで、支持部材と固定部材によって側木を前後から挟持して押圧し、支持部材を側木に固定しており(構成f)、原告らの商品等表示の特徴③を備えていないものと認められる。

なお、その他の形態上の諸要素を考慮しても、被告各製品は、側木及び脚木からなる2本脚、背板、座面板及び足置板、横木のほかネジ部材、支持部材、固定部材等から構成され、脚木は一直線であるが、側木は一直線ではなく、側木の上端部分は床面と垂直に折れ曲がっており、2本脚が、正面視で 床面に垂直で相互に平行となるように配置され、側木と脚木の結合部分から 離れた脚木中央部に横木が配置され、中央部に楕円形の穴が形成されている背板は側木の最上部に配置され、座面板と足置板は楕円形の短辺を切り落としたような曲線的形状とされ、ネジ部材、支持部材及び固定部材等により側木に固定されていることから、被告各製品の形態においては、曲線的な要素とともに、座面板及び足置板の支持部分に複数の部材が利用され、その安定性が特徴的となっており、その印象も、原告製品における、直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっている。 よって、原告製品全体の形態の特徴である本件顕著な特徴について、被告各製品は、これを備えていないものと認められる。

著作権侵害に基づく請求について

実用的な製品の著作物性については、裁判所は、以下のように意匠法と著作権法の棲み分けにつき言及した上で、「原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である。」との規範を示しました。

・・・原告製品のような実用品の形状等に係る創作を我が国内においてどのように保護すべきかは、我が国の著作権法と意匠法のそれぞれの目的、性質、各権利内容等に照らし、著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図るという見地から検討する必要がある。

しかるところ、原告らが主張するように、作成者の何らかの個性が発揮されていれば、量産される実用品の形状等についても、著作物性を認めるべきであるとの考え方を採用したときは、これらの実用品の形状等について、審査及び登録等の手続を経ることなく著作物の創作と同時に著作権が成立することとなり、著作権に含まれる各種の権利や著作者人格権に配慮する必要から、著作権者の許諾が必要となる場面等が増加し、権利関係が複雑になって混乱が生じることとなり、著作権の存続期間が長期であることとも相まって 「公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発 展に寄与する」という著作権法の目的から外れることになるおそれがある。 立法措置を経ることなく、現行の著作権法上の著作権の制限規定の解釈によって、問題の解決を図ることは困難といわざるを得ない。

他方、著作権法2条1項1号によれば、「著作物」ということができるためには「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属する必要があるところ、実用品は、それが美的な要素を含む場合であっても、その主たる目的は、専ら実用に供することであって、鑑賞ではない。実用品については、その機能を実現するための形状等の表現につき様々な創作・工夫をする余地があるとしても、それが視覚を通じて美感を起こさせるものである限り、その創作的表現は、著作権法により保護しなくても、意匠法によって保護することが可能であり、かつ、通常はそれで足りるはずである。

これらの点を考慮すると、原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である。著作権法2条2項は、「美術の著作物」には「美術工芸品」を含むものとする旨規定しており、同項の美術工芸品は 実用的な機能と切り離して独立の美的鑑賞の対象とすることができるようなものが想定されていると考えられるのであって、同項の規定は、それが例示規定であると解した場合でも、いわゆる応用美術に著作物性を認める場合の要件について前記のように解する一つの根拠となるというべきである。

その上で、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現として美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということはできず、また、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑賞目的で制作されたものと認めることもできないとしています。

また、仮に、 原告製品の本件顕著な特徴について、独立の美的鑑賞の対象となり得るような創作性があると考えたとしても、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、原告製品の形態が表現する、直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているのであって、被告各製品から原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないため、結局、本件において、著作権侵害は成立しないといわざるを得ないと判断しています。

一般不法行為の成否

被告各製品の製造販売等は、不競法又は著作権法が保護の対象とする原告らの利益を侵害するものとはいえず、被告各製品の製造販売等行為において、社会通念上自由競争の範囲を逸脱するものと認めることもできないと述べ、原判決同様、一般不法行為法に基づく請求も棄却しました。

コメント

本判決は、不正競争防止法2条1項1号の商品等表示性の判断につき、原判決と異なり、原告製品の形態が商品等表示に該当すると判断をしました。本判決では、原告製品の各構成と類似する構成が、被告製品の販売時点で他社の同種製品に使用されていたかを詳細に認定しており、それらの構成の一部が他社製品では使用されていなかったことが特別顕著性を認める根拠とされています。

本判決では、原判決のいう「商品等表示に該当すると主張された表示が複数の商品形態を含む場合においては、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記表示は、全体として不競法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しない」との規範は用いず、原告が主張した製品の形態の要素毎に他社の同種製品とは異なる顕著な特徴といえるかを判断し、そこから原告製品の形態的特徴を導き出し、それについて商品等表示性を認めるという手法をとっています。

また、判決中の理由としては明示されていないものの、原判決後に原告製品の形態が立体商標として登録を受けることができていることは、識別力を有するに至っているものといえ、商品等表示性の判断に影響した可能性があります。

他方、応用美術の著作物性については、原判決と同様に原則として意匠法による保護が予定されているとの立場を取り、著作物性が認められるのは、①それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合に加え、②当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られるとしています。

本件の原告製品と同一の製品の著作物性が争われた事案において、過去の知財高裁判決(知財高判平成27年4月14日)は、原告商品と同じ商品の形態の著作物性につき、「実用品自体が応用美術である場合、当該表現物につき、実用的な機能に係る部分とそれ以外の部分とを分けることは、相当に困難を伴うことが多いものと解されるところ、上記両部分を区別できないものについては、常に著作物性を認めないと考えることは、実用品自体が応用美術であるものの大半について著作物性を否定することにつながる可能性があり、相当とはいえない」と述べて著作物性を認めているため、本判決はこれとは異なる判断となっています。

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(文責・町野)