東京地方裁判所第46部(柴田義明裁判長)は、令和5年10月18日、原告が製作・販売していた女性用ドレスについて、被告がそのドレスを模倣したドレスを製作させて輸入し、自らのインターネット通信販売サイト等で販売したことが不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たると判示しました。
ポイント
骨子
- 原告商品と被告商品の実質的同一性の有無について、両商品には相違点はあるものの、それらの相違点は、需要者が通常の用法に従った使用に際してこれらの違いを直ちに認識することができるとまではいえないものであるとして、両者の形態は実質的に同一であるとしました。
- 被告が原告商品の販売開始以前から被告商品のデザインを完成していたことを裏付ける証拠には、その信用性に疑問を生じさせる複数の事情があり、これらのデータの偽造が困難であったことを基礎付ける事情もないとして、被告の証拠の信用性を否定し、被告商品が原告商品に依拠したものであると認めました。
判決概要
裁判所 | 東京地方裁判所第46部 |
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判決言渡日 | 令和5年10月18日 |
事件番号 | 令和3年(ワ)第25324号 |
事件名 | 損害賠償請求事件 |
裁判官 | 裁判長裁判官 柴田義明 裁判官 杉田 時基 裁判官 仲田 憲史 |
解説
商品形態模倣
不正競争防止法2条1項3項は「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為」を不正競争行為として定めています。これは、先行者が商品形態開発のために投下した費用・労力を保護する趣旨のものであるとされています。
商品形態模倣の該当性
(1) 「商品の形態」
「商品の形態」については、同法2条4項において、以下のとおり定められています。
この法律において「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう。
(2) 「模倣」
「模倣」については、同法2条5項において、以下のとおり定められています。
この法律において「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。
このうち、「依拠」については、裁判例(東京高判平成10年2月26日知的裁集30巻1号65頁・ドラゴンキーホルダー事件)において、「当該他人の商品形態を知り、これを形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似した形態の商品と客観的に評価される形態の商品を作り出すことを認識していること」とされています。
また、「実質的に同一」についても、上記裁判例は、「人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に、形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似していること」であるとし、その判断要素について、以下のとおり判示しています。
「作り出された商品の形態が既に存在する他人の商品の形態と相違するところがあっても、その相違がわずかな改変に基づくものであって、酷似しているものと評価できるような場合には、実質的に同一の形態であるというべきであるが、当該改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変による形態的効果等を総合的に判断して、当該改変によって相応の形態上の特徴がもたらされ、既に存在する他人の商品の形態と酷似しているものと評価できないような場合には、実質的に同一の形態とはいえない」
ファッションにおける「ありふれた形態」「形態の実質的同一性」について
不競法2条1項3号の趣旨は、先行する商品を開発した者が投下した資本や労力を保護する点にあるとされています。
従って、特段の資本や労力をかけることなく作り出すことが可能な「ありふれた形態」については、同号により保護されるものではないと考えられます。
「ありふれた形態」の判断においては、ザ・リラクスvsザラ・ジャパン事件(東京地判平成30年8月30日(平成28年(ワ)第 35026号損害賠償請求事件))は、下記のとおり、商品全体の形態について、「ありふれた形態」であるといえるかを判断しています。
…ミリタリーパーカなどと呼ばれる製品において,これら原告各商品の特徴的な形態を全て備え,商品全体の形態において原告各商品と酷似する商品が他に存在したことを認めるに足りる証拠はない(甲2,乙13)。そうすると,原告各商品の形態が,個々の形態の組み合わせとして個性を有しないということはできず,他の商品に見られるありふれたものということはできない。
そのうえで、同判決は、両商品の形態の相違点について、「需要者が通常の用法に従った使用に際してその違いを直ちに認識することができる」か、すなわち、需要者に与える印象を基準として検討し、実質的同一性を判断しています。
事案の概要
この事案は、原告が、被告に対し、原告が製作・販売していた女性用ドレスについて、被告がそのドレスを模倣したドレスを製作させて輸入し、自らのインターネット通信販売サイト等で販売したことが不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たるとして、同法4条、5条1項に基づき損害賠償を求めた訴訟です。
主な争点は、①被告各商品の形態は、対応する原告各商品の形態と実質的に同一であるといえるか、②被告各商品の形態が対応する原告各商品の形態に依拠したものであるか、③損害額の3点です。
判旨
⑴ 論点①被告各商品の形態は、対応する原告各商品の形態と実質的に同一であるといえるか(実質的同一性)
本判決は、「商品の形態」の判断について、以下のとおり判示しつつ、原告商品と被告商品について、その特徴を別紙において一致点と相違点に分けて整理しています。本判決では、原告商品1~6と被告商品1~6が問題となっていますが、本稿では、例として原告商品1と被告商品1についてその判断過程を検討します。
不正競争防止法2条1項3号は、他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を不正競争行為とするところ、同号によって保護される「商品の形態」とは、「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」(同条4項)をいい、商品の個々の構成要素を離れた商品全体の形態をいう。また、特段の資力や労力をかけることなく作り出すことができるありふれた形態は、同号により保護される「商品の形態」に該当しないと解される。
本判決において、別紙で指摘された原告商品1と被告商品1の特徴は下表のとおりです。
一致点 | ア 全体的に体のラインが出るようなタイトなシルエットであり、特にウエストやスカートの裾部分は、胸部ないし腰部から緩やかな曲線を描くように、特にタイトに絞られたデザインとなっている。イ 袖の部分を首の付け根から腋の下までカットした、いわゆるアメリカン・スリーブを採用している。
ウ 肩の露出を減らすように両肩部分に肩ひもを設置している。 エ 首周りにビジュー加工が施されている。 オ 胸元に、谷間ホールが配置されている。 カ ドレスの裾は、商品の右側(商品の正面に向かって左側)から左側にかけて緩やかに丈が短くなるよう斜めにカットされており、左右非対称な形状である。 キ ドレスのスカート部分に、商品左脇から前面にかけて、上向きにポケットができるような折り目の3本のギャザーがある。 |
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相違点 | 原告商品1 | 被告商品1 | |
首周りのビジュー自体のデザイン | 2列 | 3列 | |
首周りの幅 | 約4センチメートル | 約3センチメートル | |
胸元の谷間ホール | 約15センチメートル | 約7センチメートル | |
生地の色 | 赤色 | ボルドー又はワインレッド | |
ウエストのシームの位置 | 被告商品1の方が高い | ||
背面のシーム | 縦にシームがある | シームがない | |
ファスナー・ホック | 背面のファスナーが首下まで、ホックは二つ設けられている | 首の一番上部分までファスナーがついており、ホックは一 つのみである | |
肩紐の太さ | スリーブと肩紐の縫製部分が太く、徐々に細くなっていく | 均一の太さ |
(画像は判決文より引用)
原告商品1の基本的形態について、上記一致点のア~カが該当するとし、被告商品1も同一の基本的形態を有していると認定しています。
そのうえで、具体的形態についても、上記一致点キのとおりスカート部分に3本のギャザーがあり、被告商品1も同様であること、及び、下記のとおり一応の相違点はあるものの、以下のとおり、これらの相違点は、需要者が通常の用法に従った使用に際してこれらの違いを直ちに認識することができるとまではいえないものであるとして、両者の形態は実質的に同一であるとしました。
原告商品1と被告商品1は、その基本的形態において一致しており、具体的形態についてもスカートのギャザーの数、位置について一致しており、原告商品1と被告商品1の形状はほぼ同一であるといえる。原告商品1と被告商品1では、ビジューが2列なのか3列なのかという違いはあるものの、需要者に対して、いずれのドレスについても首回りを複数列のビジューで飾られているとの印象を与えるものであり、大きな印象の違いは与えない。谷間ホールのサイズ、バスト横のシームの有無、ウエストのシームの位置もいずれも商品の一部分の大きくない違いであり、ドレス全体の印象に大きな影響を与えるとはいえない。 背面のファスナー及びホックや肩紐の太さについては、指摘されてようやく気付く程度のささいな違いであるといえる。原告商品1と被告商品1は、被告商品1の方が明るい赤色をしているが、同一商品の色違いであるとの印象を与えるにすぎない。
また、原告商品1がありふれた形態であるとの被告の主張については、以下のとおり、先行商品がないことを理由にこれを否定しています。
被告は、原告商品1について、従来から幾度となく商品開発に用いられてきた特徴を有しているにすぎないと主張するが、前記で認定した基本的形態の各要素全てを有するドレスや、これらの特徴の過半数について一致するドレスが原告商品1の発売より前に流通していたことを認めるに足りる証拠はない。
原告商品2~5についても、基本的形態が一致しており、具体的形態についても一致するか、相違点はいずれも指摘されなければ気づかないようなささいな違いにすぎないとして、同様に、それぞれ実質的に同一であるとしています。
一方、原告商品6と被告商品6については、基本的形態は一致するものの、以下の違いから、需要者が通常の用法に従った使用に際して直ちにその違いを認識することができる違いがあるといえるとして、実質的同一性を否定しています。
(画像は判決文より引用)
原告商品6では、ワンショルダーネックのドレスの周縁と一体となるようにドレス生地と同一の生地でリボンのモチーフを配置し、リボンの結び目に当たる部分にたすき状に同一生地で、リボンと基本的に同じ幅の帯状の生地を配置している部分が特に目を引くのに対し、被告商品6では、このリボンの結び目にあたる部分に、リボンの 生地に比して細い帯状にビジューが配置されている。原告商品6では、生 地の質感がいずれもドレス生地と同一で、リボンとたすき状の生地に主従がなく、これらがドレス生地と一体となっているような印象を与えるのに対し、被告商品6ではたすき状の部分を比較的細くした上でビジューを施すことで、たすき状の部分のみがドレス生地及びリボンの部分から浮き上がって目立つ構成になっている。これらはいずれも商品で目を引く特徴がある部分における違いであり、またその違いも相当に大きいものといえる。そうすると、これらにより、被告商品6は原告商品6と異なる印象を与えるものとなっている。
⑵ 論点②被告各商品の形態が対応する原告各商品の形態に依拠したものであるか
ア 被告において原告商品1から5のデザインを認識した上で、これと実質的に同一の形態のドレスの製作を指示する等してこれらを入手し、販売したこと
本件では、被告が原告の取引先であり、原告から原告各商品のデザイン上の特徴が見て取れる絵型を受領していたこと、被告は原告商品1、2、5、6を仕入れていたこと、被告商品1から5について、いずれも対応する原告各商品が発売されてしばらくして販売を開始することが繰り返されていることから、裁判所は、被告が偶然、被告商品1から5という、原告商品1から5と実質的に同一の形態の商品を入手して販売したとは考え難いとして、被告において原告商品1から5のデザインを認識した上で、これと実質的に同一の形態のドレスの製作を指示する等してこれらを入手し、販売したことが推認できるとしました。
イ 被告の反論
この点について被告は、原告商品1から5の販売前に、これらに対応する被告商品1から5のデザイン等が完了していた旨主張しました。
しかし、被告が対応する原告商品1から5のデザインを入手し、そのうちの複数のものについて現物を入手し、デザインを入手してしばらくした後に実質的に同一の商品を販売しており、被告の主導的な関与なくこのような偶然が生じる可能性が低い上、被告が原告商品1から5の販売開始以前から被告商品1から5のデザインを完成していたことを裏付ける証拠には、その信用性に疑問を生じさせる複数の事情があり、これらのデータの偽造が困難であったことを基礎付ける事情もないとして、被告の証拠の信用性を否定する形で、被告の反論を退けています。
⑶ 損害額について
裁判所は、各商品の1着当たりの限界利益と、被告による原告各商品に対応する被告各商品の譲渡数量を認定し、原告のドレスの販売実績に照らしても、原告は、前記記載の被告による被告商品1から5の譲渡数量に対応する原告商品1から5を販売する能力(同条1項)を有していたことを認めました。
そのうえで、原告商品と被告商品の価格差(4~5倍程度)等を考慮し、以下のとおり、販売数量のうち、7割については、販売することができないとする事情(不正競争防止法5条1項但書)があったとしました。
市場には、原告商品1から5と競合するといえるドレスが相当多数存在したと認められる。また、原告と被告には販売力にも差があったこと(同イ)も認められる。
そして、原告商品1から5と被告商品1から5では、被告商品1から5の方が安価であり、そこには4~5倍程度の価格差があり(同ウ)、原告商品1から5と比べて被告商品1から5のような低廉な価格であるからこそ被告商品1から5を購入した者が相当数存在することを推認できる。被告各商品と類似の販売手法をとっても原告各商品を被告各商品と同数販売することが容易ではないことは、原告商品2、5を被告販売サイトで取り扱っても多数のドレスを販売できなかったこと(同エ)からも推認できる。
これらの事情を考慮すると、被告商品1から5に係る各販売数量のうち、その7割については原告が販売することができないとする事情があると認めるのが相当である。
原告が販売することができない事情があると認められる、被告が販売した数量の7割については、販売額の10%に相当する額を損害として認めています(不正競争防止法5条3項)。
被告が販売した数量の7割について、原告はその販売を許諾し得たと言え、原告に、販売に対し受けるべき金銭の額に相当する額について損害が生じたといえる。本件において、販売に対し受けるべき金銭の額は被告の販売額の10%とするのが相当である。
コメント
本判決は、被服の商品形態模倣について、実質的同一性の判断にあたり、原告商品と被告商品の共通点と相違点をまず詳細に摘示し、原告商品がありふれたものと言えるかについては、先行する商品に、基本的形態の各要素全てを有するものがないことを理由に否定しています。
そのうえで、相違点について、需要者が通常の用法に従った使用に際して直ちにその違いを認識することができ、全体の印象に影響を与えるか否かといった観点から検討したものです。
基本的には過去の裁判例の枠組みに沿った判断に近いものと言えますが、形態についての詳細な認定や、依拠性の判断は実務上の参考になるものと思われます。
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(文責・秦野)