東京地方裁判所民事第29部(國分隆文裁判長)は、令和5年11月10日、生ごみ処理機の販売実績について事実と異なる表示をした被告の行為が、品質を誤認させる表示をしたものとして不正競争防止法2条1項20号の品質等誤認惹起行為に該当するとの判決を言い渡しました。

同法の品質等誤認惹起行為の範囲について実務の参考となる裁判例ですので、ご紹介します。

ポイント

骨子

  • 「品質」について「誤認させるような表示」に該当するか否かを判断するに当たっては、需要者を基準として、商品の品質についての誤認を生ぜしめることにより、商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性の有無を検討するのが相当である。
  • 「全国導入実績2,500台以上」「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,300台以上が稼働しています。」「全国・海外での導入実績は3,500台以上。」の表示は、いずれも、実際の販売実績とは異なるにもかかわらず、多数の被告商品が販売されており、このような販売実績は、被告商品のごみ処理方法及びその性能が他の同種商品に比べて優れたものであることに起因することを強調するものであって、その結果、需要者に対し、被告商品がその品質において優れた商品であるとの権威付けがされ、また、他の需要者も購入しているという安心感を与えることになるため、需要者が商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性があるというべきである。そうすると、「品質」について「誤認させるような表示」に該当すると認められる。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第29部
判決言渡日 令和5年11月10日
事件番号 令和4年(ワ)第2551号
裁判官 裁判長裁判官 國分 隆文
裁判官    間明 宏充
裁判官    バヒスバラン 薫

解説

品質等誤認惹起行為とは

不正競争防止法2条1項20号は、商品の広告等に、品質について誤認させるような表示をすることを不正競争行為の一つとして規定しています。

(定義)
第二条 この法律において、「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
(略)
二十 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

商品の品質以外にも、商品の原産地、内容、製造方法、用途、数量について誤認させる表示も不正競争行為とされています。また、役務の広告等における役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示も、不正競争行為となります。

不正競争に該当する場合、当該行為によって営業上の利益を侵害される者又はそのおそれがある者による差止請求(同法3条)や損害賠償請求(同法4条)の対象となります。

「品質」の範囲

「品質」の誤認惹起が争われた最近の裁判例としては、例えばヘアドライヤーの「髪へのうるおい1.9倍」「水分発生量従来の18倍」等の広告表現が問題となった東京地判令和5年4月27日・令和4年(ワ)第14148号があります(別稿にて紹介されています。)。

このような品質を直接的に示する表示ではなく、品質や内容を間接的に示唆する表示につき、不正競争防止法20条1項20号の「品質」「内容」に含まれる基準について判断した裁判例として、創業年の表示が問題となった大阪高判令和3年3月11日・令和2年(ネ)第1568号(八ッ橋事件)があります。

同判決は以下のとおり、需要者が当該表示を商品の品質に関わるものと明確に認識し、それによって商品選択の重要な基準となるものである場合に、20号の規制の対象となると述べています。

20号の定める「品質」「内容」に,これらの事項を間接的に示唆する表示が含まれる場合がありうるにしても,そのような表示については,具体的な取引の実情の下において,需要者が当該表示を商品の品質や内容等に関わるものと明確に認識し,それによって,20号所定の本来的な品質等表示と同程度に商品選択の重要な基準となるものである場合に,20号の規制の対象となると解するのが相当である。

もっとも、同判決が示した基準は、「明確に」「重要な」といった表現を使っている点で、相当程度「品質」の範囲を絞ろうとする基準のようにみえます。

これに対し、同じ八ッ橋事件の一審判決である京都地判令和2年6月10日・平成30年(ワ)第1631号(別稿にて紹介されています。)では、以下のとおり、表示の内容が商品の優位性と結びつくことで需要者の商品選定に影響するか否かを基準としています。

20号に列挙された事項を直接的に示す表示ではないものも,表示の内容が商品の優位性と結びつくことで需要者の商品選定に影響するような表示については,品質,内容等を誤認させるような表示という余地が残ると解するのが相当である。それは,取引の実情等,個別の事案を前提とした判断といえる。

学説では、商品・役務の属性は本号に列挙されている品質等以外にも価格や製造時期,賞味期限,実績など多数あることを指摘したうえで、それらについて誤認を生じさせるような表示が行われた場合の問題には「諸外国では品質等誤認表示規制に関して一般条項を有する場合もあるが,一般条項をもたないわが国では,「品質」や「内容」等の列挙されている属性を広く解釈することによってこの問題に対応することになる」とする見解[1]など、品質の範囲をある程度柔軟に解釈する見解が多数とみられます。

経済産業省の逐条解説でも、20号に「列挙された事実を直接誤認させる表示をしていなくても、間接的に品質、内容等を誤認させるような表示であれば、誤認惹起行為に該当し得る。」と説明されています[2]

これらの学説や経済産業省の解説には、八ッ橋事件の高裁判決よりも地裁判決が示した基準のほうが、親和性があるように思われます。

事案の概要

原告は、生ごみ処理機等の各種ミキサーの製造販売を行う会社です。被告もまた、生ごみ処理機等の機器の販売や製造委託を行う会社です。

原告は、平成4年から、「ゴミサー」との名称で業務用生ごみ処理機(以下「原告商品」)を販売しています。被告は、平成8年頃から令和元年頃までの間、原告商品の販売代理店として原告商品を販売していましたが、販売代理店契約の終了に伴い、原告・被告間の取引は停止しました。

令和元年頃に原告商品の販売を終了した被告は、別の会社が平成14年頃から製造していた「イーキューブ」との名称の業務用生ごみ処理機(以下「被告商品」)を「ゴミサー」の名称で販売するようになりました。

被告は、令和元年5月8日から、被告が管理するウェブページにおいて、被告の販売する製品の紹介等として、以下の広告表示をしていました。

期間 表示内容(以下「表示①」)
 

 

 

令和3年8月30日まで

「ゴミサー」との名称を表示
原告商品の写真を表示
「生ゴミ処理機ゴミサー製造元 エスキー工機株式会社」との表示
「業界1位の業務用生ごみ処理機です。」

「全国導入実績2,500台以上」

「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,300台以上が稼働しています。」

「全国・海外での導入実績は3,500台以上。」

「発売開始から25年!生ゴミ処理機ゴミサーは「水になる処理機」のパイオニア」

 

期間 表示内容(以下「表示②」)
 

 

令和3年8月31日から
令和5年3月6日頃まで

「ゴミサー」との名称を表示
原告商品の写真を表示
「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,300台以上が稼働しています。」

「全国・海外での導入実績は3,500台以上。」

「販売開始から25年!生ゴミ処理機ゴミサーは「水になる処理機」のパイオニア」

 

期間 表示内容(以下「表示③」)
 

 

令和5年3月7日頃から
同年4月30日まで

「実績紹介」として、「都道府県別実績数」及び「施設別実績数」が掲載され、合計3049台の実績がある旨の表示
「全国2,300台以上の導入実績」

「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,500台以上が稼働しています。」

「おかげ様で全国で2500台以上」

「25年の実績」及び「日本全国の導入実績3,500台以上の実績」

しかしながら、被告による原告商品の累計販売実績は合計956台、被告商品の累計販売実績は令和5年4月まで258台であり、上記表示の実績台数には及んでいませんでした。

原告の請求

原告は、被告による上記表示は品質について誤認させるような表示であり、不正競争防止法20条1項2号の品質等誤認惹起表示に該当し、これにより原告の営業上の利益が侵害されたと主張して、被告に対して損害賠償を請求しました。

具体的には、不正競争防止法20条1項2号の「品質」には商品の販売実績も含まれる、すなわち、業務用生ごみ処理機のような高価な機械の場合、十分な販売実績があるということは、販売期間中、性能についての悪評が広まることなく需要者に信用され続けてきたということを意味し、業務用生ごみ処理機の性能や信頼性を示す物差しとなり、商品の「品質」の一部を構成するといえると主張しました。

判旨

本判決はまず、以下のように不正競争防止法2条1項20号の趣旨を述べた上で、その趣旨に照らすと品質誤認惹起表示への該当性は、需要者を基準として、商品の品質についての誤認を生ぜしめることにより商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性の有無を検討するのが相当と述べました。

不正競争防止法2条1項20号の誤認惹起行為が不正競争に該当し違法とされるのは、事業者が商品等の品質、内容などを偽り、又は誤認を与えるような表示を行って、需要者の需要を不当に喚起した場合、このような事業者は適正な表示を行う事業者より競争上優位に立つことになる一方、適正な表示を行う事業者は顧客を奪われ、公正な競争秩序を阻害することになるからである。

このような趣旨に照らすと、「品質」について「誤認させるような表示」に該当するか否かを判断するに当たっては、需要者を基準として、商品の品質についての誤認を生ぜしめることにより、商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性の有無を検討するのが相当である。

続いて本判決は、表示①について、以下のように当てはめを行い、需要者が商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性があるとして、「品質」について「誤認させるような表示」に該当すると判断しました。

少なくとも、上記「全国導入実績2,500台以上」、「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,300台以上が稼働しています。」及び「全国・海外での導入実績は3,500台以上。」の表示(以下、これらを併せて「本件誤認惹起表示①」という。)は、いずれも、実際の販売実績とは異なるにもかかわらず、多数の被告商品が販売されており、このような販売実績は、被告商品のごみ処理方法及びその性能が他の同種商品に比べて優れたものであることに起因することを強調するものであって、その結果、需要者に対し、被告商品がその品質において優れた商品であるとの権威付けがされ、また、他の需要者も購入しているという安心感を与えることになるため、需要者が商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性があるというべきである。そうすると、本件誤認惹起表示①は、「品質」について「誤認させるような表示」に該当すると認められる。

表示②と表示③についても、同様の理由により、「品質」について「誤認させるような表示」に該当すると判断しました。

被告からは、原告商品と被告商品とで性能及び機能に違いがないとの主張もされましたが、本判決は、本規定の趣旨に照らすと、客観的な性能及び機能における違いがないとしても、被告の表示はいずれも、事実と異なる販売実績が品質の優位性に起因するものであるとの表示をすることによって、そのような販売実績をもたらす「品質」であるとの誤解を需要者に与え、その結果、公正な競争秩序を阻害するものである以上、同号の「品質」について「誤認させるような表示」に該当すると述べました。

本判決は、このように、品質誤認惹起表示への該当性を認め、原告の請求を認容しました。

コメント

本件では、被告が被告商品に原告商品と同じ「ゴミサー」の名称を付けて販売しています。この点で、原告の立場からは商標権侵害の主張をするのではないかと思い浮かびますが、J-PlatPatによると、「生ゴミ処理機」を指定商品とする「ゴミサー」の商標は、被告と思われる会社が取得しています(被告と同名の会社が権利者になっています。)。この商標の出願日は平成27年ですので、原告・被告間の販売代理店契約が有効であった時期に、被告が商標を登録したものではないかと推察されます。

ちなみに、当該登録商標に対しては原告と思われる会社から令和元年9月に無効審判請求がされています(原告と同名の会社が審判請求人になっています。)。この無効審判では審判請求は成り立たないとの審決がされ、その後の審決取消訴訟においても商標登録は有効である旨の判決がされています。これも、原告・被告間の販売代理店契約が終了した後になって、被告が当該商標を使用したこと等により商標について争いが生じたものではないかと推察されます。

このような状況で、原告としては商標権侵害に基づく請求をすることができず、不正競争防止法による請求を考えたのでしょう。本件では、不正競争防止法2条1項1号などによる請求も候補となる可能性はありそうですが、要件等を検討した結果、20号の品質誤認惹起表示での請求を選んだものかと思われます。

本判決の内容からは少し離れますが、メーカーの立場からすると、自社商品名称の商標登録を販売代理店にさせてよいかは慎重に考えるべきですし、仮にそれをさせるとしても、販売代理店契約終了後の商標登録のメーカーへの移転等の処理については販売代理店契約に明記しておくべきといえます。

本判決の判断については、商品の品質に誤認を生じさせ商品購入の合理的な判断を誤らせる可能性があれば2条1項20号の対象になるとする基準は、前記の学説などの考え方に沿ったものといえそうです。

なお、本件では、被告が「ゴミサー」との名称を使い原告商品の写真を表示するなど、被告にフリーライドの意思が窺われる点も、裁判所が妥当な結論を考えるにあたって影響を与えた可能性があるのではないかと思われます。

 

脚注
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[1] 茶園成樹/編『不正競争防止法 第2版』(有斐閣、2019年)119頁
[2] 経済産業省 知的財産政策室編「逐条解説 不正競争防止法 令和元年7月1日施行版」(2019年)147頁

 

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(文責・神田雄)