知的財産高等裁判所第2部(本多知成裁判長)は、令和4年10月19日、他者の著作物であるイラストを含む画像を添付したツイートにつき、当該イラストの著作権侵害の成否が争点となった発信者情報開示請求訴訟において、著作権法上の引用に該当し適法である旨の判断をしました。

さらに本判決は、当該添付された画像がツイッターの仕様によりトリミングされて表示されていたなどの点について、「やむを得ないと認められる改変」に該当するとして、同一性保持権の侵害を否定しました。

ツイッターにおいて画像がトリミングされたことが問題となった事件として、いわゆるリツイート事件があります。リツイート事件では、知財高裁判決は同一性保持権と氏名表示権の侵害を認め、最高裁判決は氏名表示権の侵害を認めましたが、これらの判断と本判決との関係も注目されます。

本件は、著作権法上の引用の要件及び画像がトリミングされた事案における同一性保持権の侵害について検討する上で参考になりますので、ご紹介します。

ポイント

骨子

  • 適法な「引用」に当たるには、①公正な慣行に合致し、②報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。
  • ツイッターのタイムライン上の表示は、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様により決定されるものであって、投稿者が自由に設定できるものではなく、投稿者自身も投稿時点では、どのような表示がされるか認識し得ないこと、投稿後も、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様が変更されると、タイムライン上の表示が変更されること、ツイートに添付された画像データ自体は当該ツイートを閲覧したユーザーの端末にダウンロードされており、タイムライン上の画像をクリックすると、画像の全体が表示されることが認められることに照らすと、投稿者が改変主体に当たるかという点を措くとしても、タイムライン上の表示が画像の一部のみとなることは、ツイッターを利用するに当たり「やむを得ないと認められる改変」に当たるというべきである。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和4年10月19日
事件番号 令和4年(ネ)第10019号
裁判官 裁判長裁判官 本多 知成
裁判官    浅井 憲
裁判官    勝又 来未子
控訴人(一審被告) Twitter. Inc.
被控訴人(一審原告) Y(イラストレーター)
原審判決 東京地判令和3年12月23日・令和2年(ワ)第24492号

解説

発信者情報開示請求とは

インターネット上で名誉毀損やプライバシー権、著作権等の権利の侵害が行われた場合、侵害者に対して損害賠償などを求めるためには、まず発信者の特定が必要になります。これらのインターネット上の行為は身元を明らかにせず匿名で行われる場合がほとんどであるためです。

この発信者の特定を可能にするため、プロバイダ責任制限法(正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)5条1項は、権利を侵害された者がインターネット・サービス・プロバイダ等に対し、権利侵害の明白性等を要件として発信者の情報の開示を求める権利である発信者情報開示請求権を認めています。

著作権法上の引用とは

著作物を権利者の許諾なくして複製したり公衆送信したりする行為は、著作権侵害となります。ただし、著作権法(以下「法」といいます。)はいくつもの権利制限規定を設けており、それら権利制限規定の定める行為類型に該当すれば、当該規定に基づき著作権侵害を免れることになります。

実務上よく使われる権利制限規定の1つに、著作物の引用があります(法32条)。条文は以下のとおりです。

(引用)
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
2 (略)

この条文上、引用に該当する要件には

① 公表された著作物であること
② 引用であること
③ 公正な慣行に合致すること
④ 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれること

があります。

また、適法な引用の基準として、(i)明瞭区別性と(ii)主従関係性を要求する考え方が判例[1]にあり、解釈上も有力です。明瞭区別性とは、引用している部分と引用されている部分が明瞭に区別されていることです。主従関係性とは、引用している部分が主、引用されている部分が従という関係が存在することです。

ただし、これらの明瞭区別性と主従関係性が、法32条の要件として条文上どこから読み取れるのかは明確ではありません。最近では、その位置づけの再構成を試みる議論もなされており、明瞭区別性と主従関係性には正面から言及せずに判断をする下級審裁判例も見られるようになっています。

同一性保持権とは

同一性保持権とは、著作者が著作物及びその題号の同一性を保持する権利であり、著作者人格権の一種です(著作者人格権にはほかにも、法18条の公表権、法19条の氏名表示権などがあります。)。以下のとおり、法20条1項において、著作者はその意に反してその著作物及びその題号の変更、切除その他の改変を受けないと定められています。

(同一性保持権)
第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

法20条2項は、著作者の意に反する著作物の改変であっても同一性保持権の規定が適用されず、同一性保持権の侵害にならない場合を定めています。このうち、4号の「著作物の性質及びその利用の目的と態様に照らしてやむを得ないと認められる改変」が、実務的に検討されることが多い規定です。

リツイート事件判決

ツイッターにおける事案で著作者人格権の判断がされた裁判例として、いわゆるリツイート事件があります。リツイート事件では東京地裁、知財高裁を経て最高裁の判決も出ています。

リツイート事件の事案は、ツイッターにおいて他人の画像を無断でアップロードしたツイートをリツイートした際に、画像が自動的にトリミングされ、画像に含まれていた著作者の氏名が表示されなくなったというものです。

リツイート事件では、知財高裁判決[2]が同一性保持権と氏名表示権の侵害を認めました。同一性保持権侵害に関して知財高裁は、著作権者に無断で画像ファイルを含むツイートが行われたもののリツイート行為であることを理由に、やむを得ない改変には当たらないと判断しました。

これに対し、リツイート事件の最高裁判決[3]は、氏名表示権の侵害を認めましたが、同一性保持権侵害に関する判断をしませんでした。

リツイート事件の詳細は、知財高裁判決についてはこちら、最高裁判決についてはこちらの別稿をご参照ください。

事案の概要

本件は、被控訴人(一審原告)が、ツイッター上のツイートによる名誉毀損及び著作権の侵害を主張して、当該ツイートを行った発信者の情報開示を求めた発信者情報開示請求訴訟です。

本件で問題とされたのは、以下の4件のツイート(以下、それぞれ「本件ツイート1-1」などといい、総称して「本件ツイート」ともいいます。)です。いずれも被控訴人(一審原告)が著作権を持つイラスト(以下「本件被控訴人イラスト1」などといいます。)の画像を添付していたことにより、著作権又は著作者人格権の侵害が主張されました。

◆本件ツイート1-1

名前 B
ユーザー名 B′
投稿内容 これどうだろうww
ゆるーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな
添付された画像 本判決における名称 内容
本件投稿画像1-1-1 乙1の2イラスト
本件投稿画像1-1-2
本件投稿画像1-1-3
乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚
本件投稿画像1-1-4 本件被控訴人イラスト1を含む複数の被控訴人作成のイラストを並べた画像

◆本件ツイート1-2

名前 B
ユーザー名 B′
投稿内容 この鏡餅も画像検索ですぐ出てきた。
トレス常習犯ですわ。
Y′さん
添付された画像 本判決における名称 内容
本件投稿画像1-2-1 本件被控訴人イラスト2を含む被控訴人のツイートの画像
本件投稿画像1-2-2 乙2の3写真を含む画像
本件投稿画像1-2-3
本件投稿画像1-2-4
本件被控訴人イラスト2と乙2の3写真を重ね合わせた画像2枚

◆本件ツイート2-1

名前 C
ユーザー名 C′
投稿内容 Y′様がトレースを否定するツイートをされたようです
それを信じているファンの皆様
一度こちらのイラストを見て下さい
これもまた、Y′様が描いたイラストです
横顔のイラストと比較し、画力の差に違和感を感じませんか?
添付された画像 本判決における名称 内容
本件投稿画像2-1-1 本件被控訴人イラスト3
本件投稿画像2-1-2 本件被控訴人イラスト4

◆本件ツイート2-2

名前 C
ユーザー名 C′
投稿内容 特に横顔同士で比較してみてください
左の絵には鼻と唇の間に不自然な山があり「横顔がどうなっているか」という基本的なデッサンを理解していない方が描いたようにしか見えません
Y′様は他のイラストでも手が描けない方です
それでもトレースしていない、という主張を信じられるでしょうか
添付された画像 本判決における名称 内容
本件投稿画像2-2-1 本件被控訴人イラスト3に、口の部分を囲う赤色枠を付記したもの
本件投稿画像2-2-2 女性の横顔のイラストが6枚並べられた本件被控訴人イラスト5

(以上、投稿文章につき本判決別紙投稿記事目録1及び2より引用)

なお、本件ツイートでいう「トレス」ないし「トレース」の意味は、本判決において、「イラスト作成用のアプリケーションを利用するなどして、元となるイラストや写真を表示し、その輪郭をなぞるなどの直接的に写し取る方法によりイラストを作成することを指す」と認定されています。

本件訴訟の主たる争点

本件訴訟の主たる争点は、プロバイダ責任制限法所定の権利侵害の明白性です。

被控訴人(一審原告)は、本件ツイートが本件被控訴人イラストを添付している点で、著作権(複製権及び自動公衆送信権)の侵害があると主張しました。これに対し控訴人(一審被告)は、本件ツイートは法32条1項の引用に該当し適法であると主張しました。

また、被控訴人(一審原告)は、本件ツイートに添付された画像にイラストの一部がトリミングされているなどの改変がされていることから、同一性保持権の侵害もあると主張しました。なお、主張された改変の態様については判旨の項で後述します。

控訴人は権利侵害の根拠として本件ツイートが名誉毀損にあたることも主張しており、さらに本件訴訟ではほかにもいくつかの争点がありますが、本稿では法上の引用への該当性及び同一性保持権の侵害に焦点を当てます。

一審の東京地裁では、本件ツイート2-1について複製権及び自動公衆送信権の侵害が認められ、引用は成立しないと判断されたうえ、本件ツイート2同一性保持権の侵害も認められ、請求が認容されました。そこで、一審被告が控訴しました。

判旨(引用について)

まず本判決は、引用の要件につき、「適法な「引用」に当たるには、①公正な慣行に合致し、②報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない(著作権法法32条1項)」と判示しました。

その上で本判決は、以下に掲げる理由により、本件ツイートはいずれも①と②の要件を充足する旨の判断をし、引用の成立を認めました。

引用の目的上正当な範囲内か否か

本判決は、本件ツイートの目的について以下のように述べ、いずれも「批評」の目的であると認定しました。本件ツイートが投稿された背景の理解にも資するため、判決文の該当部分を引用します。

本件ツイート1-1 被控訴人作成の本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストをトレースして作成されたものである旨を主張するものであって、本件被控訴人イラスト1を検証し、批評しようとするものであると認められるから、本件投稿者1が本件被控訴人イラスト1を用いた目的は、批評にあるといえる。
本件ツイート1-2 本件被控訴人イラスト2が、画像検索するとすぐに出てくる鏡餅の画像である乙2の3写真をトレースして作成されたものであることを検証し、批評しようとするものであるから、本件投稿者1が本件被控訴人イラスト2を用いた目的は、批評にあるといえる。
本件ツイート2-1 本件ツイート2-1は、被控訴人がトレース行為を否定するツイートをしたことを批判し、本件被控訴人イラスト5のような女性の横顔のイラスト以外のイラストにみられる被控訴人の画力に照らすと、上記女性の横顔のイラストは、より高い画力の者が作成したものに見受けられて不自然であることを指摘して、上記女性の横顔のイラストがトレース行為により作成されたものであることを検証しようとするものであると認められる。
<中略>
そうすると、本件投稿者2が、本件ツイート2-1において本件被控訴人イラスト3及び4を利用した目的は、批評にあると認めるのが相当である。
本件ツイート2-2 本件ツイート2-2は、本件ツイート2-1と同様に、被控訴人がトレース行為を否定するツイートをしたことを批判し、本件被控訴人イラスト5にみられる女性の横顔のイラストは、被控訴人よりも高い画力の者が作成したものに見受けられて不自然であることを指摘して、上記女性の横顔のイラストがトレース行為により作成されたものであることを検証しようとするものであると認められる。

そうすると、本件投稿者2が、本件ツイート2-2において本件被控訴人イラスト3及び5を利用した目的は、批評にあると認めるのが相当である。

 

次に本判決は、本件ツイート1-1及び1-2についてはそれぞれ以下に引用するとおり述べ、その上で、

  • 一般の読者にとって、当該ツイートにおける被控訴人のイラストの利用態様は、ツイートの内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができるものであるということができる
  • 被控訴人が作成したイラストが独立した鑑賞目的等で利用されているというような事情はなく、他のイラストや写真と比較検証する目的を超えて利用がされているとはいえない

と指摘して、引用の目的である批評のために正当な範囲内で行われていると認めました。

◆本件ツイート1-1

本件投稿画像1-1-4は、被控訴人が作成した女性の横顔のイラストを2枚含むものであるが、この2枚のイラストのうち1枚は本件被控訴人イラスト1であり、もう一枚は本件被控訴人イラストと複製又は翻案の関係にあるものと認められるから、本件投稿画像1-1-4をそのまま、本件投稿画像1-1-1(乙1の2イラスト)とともに利用することは、イラストの類似性を検証するために必要であり、かつ、文章のみで表現するよりも客観性を担保できる態様で利用されているということができる。

本件投稿画像1-1-2及び1-1-3は、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像であるが、2枚のイラストないし画像の類似性を検討するに当たり、2枚のイラストを、それぞれのイラストが判別可能な態様で重ね合わせ表示するのは検証のために便宜でかつ客観性を担保できる態様で利用されているということができ、加えて、当該画像には下部分に各イラストの色の濃さを操作したことを示唆するアプリケーションの画面部分が記載されており、閲覧者をして、これらの画像が、2枚のイラストを重ね合わせたものであることや、色の濃さが操作されていることが分かるような態様で示されている。本件では、本件投稿画像1-1-2では乙1の2イラストの方を濃く表示し、本件投稿画像1-1-3では本件被控訴人イラスト2の方を濃く表示しているが、このような表示方法は2枚のイラストを重ね合わせた画像において、それぞれのイラストを判別して比較するために資するといえる。

◆本件ツイート1-2

被控訴人が本件被控訴人イラスト2を投稿したツイートの画像である本件投稿画像1-2-1をそのまま、比較対象となる乙2の3写真を含む本件投稿画像1-2-2とともに利用することは、出展を示唆した上で、イラストと写真の類似性を検証するために必要であり、かつ、文章のみで表現するよりも客観性を担保できる態様で利用されているということができる。

本件投稿画像1-2-3及び1-2-4は、乙2の3写真と本件被控訴人イラスト2を重ね合わせて表示しているものであるが、本件投稿画像1-2-3は、乙2の3写真に透過性を高くした本件被控訴人イラスト2を重ね合わせたものであり、本件投稿画像1-2-4は、乙2の3写真に、本件被控訴人イラスト2の色が濃い部分のみを紫色で表示するよう操作したものを重ねたものであり、一見して被控訴人イラスト2の色調が操作されていることが分かるような態様で示されているところ、イラストと写真の類似性を検証するに当たり、イラスト及び写真を、それぞれが判別可能な態様で重ね合わせ表示するのは便宜でかつ客観性を担保できる方法といえる。本件では、本件投稿画像1-2-3では本件被控訴人イラスト2の色調はそのままに色を薄くし、本件投稿画像1-2-4では本件被控訴人イラスト2の色調を変えて表示しているが、これらの表示方法は、イラストと写真を重ね合わせた画像において、それぞれを判別するために資するといえる。

 

また本判決は、本件ツイート2-1及び2-2についてはそれぞれ以下に引用するとおり述べ、その上で、

  • 利用態様からすると、被控訴人の画力を検証する目的を超えて利用がされているとはいえない

と指摘して、引用の目的である批評のために正当な範囲内で行われていると認めました。

◆本件ツイート2-1

本件投稿者2は、本件被控訴人イラスト5にあるような被控訴人作成の女性の横顔のイラストが、被控訴人作成のそれ以外のイラストと比べて画力の点で不自然であることをもって、上記女性の横顔のイラストはトレース行為により作成されたものであることを検証しようとしているところ、女性の横顔のイラスト以外のイラストにおける被控訴人の画力をみるには、被控訴人の作成した複数のイラストを比較観察することが相当である。

◆本件ツイート2-2

本件投稿者2は、本件被控訴人イラスト5にあるような被控訴人作成の女性の横顔のイラストが、被控訴人作成のそれ以外のイラストと比べて画力の点で不自然であることをもって、上記女性の横顔のイラストはトレース行為により作成されたものであることを検証しようとしているところ、トレース行為が疑われる女性の横顔のイラストが複数並べられているもの(本件被控訴人イラスト5)と、比較対象となるイラスト(本件被控訴人イラスト3)を添付することは、画力を比較するために便宜でかつ客観性が担保できる態様で利用されているということができ、また、特に比較してほしい箇所を赤色枠で囲うことは、本件投稿者2の主張の理解を助けるものであるといえ、さらに、上記赤色枠は、本件被控訴人イラスト3とは判別容易な態様で付されており、一般の読者を混乱させるおそれはない。

そうすると、本件ツイート2-2の一般の読者にとって、本件ツイート2-2における本件被控訴人イラスト3及び5の利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができるものであるということができる。

公正な慣行に合致するか否か

本件ツイート1-1について、本判決は以下のように述べて、広く行われている利用方法であること、便宜かつ客観性を担保できる手法であることを指摘しました。

第三者が著作権を有するイラストや写真をトレースすることにより、イラスト等を作成した可能性がある旨の事実を主張する場合に、記事中に、①問題となるイラスト等とトレース元と考えられるイラスト等を、比較するためにそのまま又は比較に必要な部分において示すことや、②2枚のイラストを重ね合わせて示すことは広く行われていることであり、また、前記(イ)のとおり、このように示すことは、本件ツイート1-1の一般の読者にとって記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができる手法であるということができる。

それに加えて本判決は、同一性保持権の観点からも当該利用が違法といえないことをも理由として、本件ツイート1-1にて被控訴人作成のイラストを添付したことは、公正な慣行に合致していると結論付けました。

本件ツイート1-2についても、本判決は本件ツイート1-1と同旨の判断をしました。

本件ツイート2-1については、本判決では、被控訴人のイラストの利用が公正な慣行に反すると認めるべき事情もないと端的に述べられています。

本件ツイート2-2については、引用の目的上正当な範囲内か否かの判断において指摘した事情に加え、同一性保持権の観点からも当該利用が違法といえないことをも理由として、本件ツイート2-2にて被控訴人作成のイラストを添付したことは公正な慣行に合致していると結論付けました。

判旨(同一性保持権侵害について)

本判決は、結論として、本件における同一性保持権の侵害をいずれも否定しました。下記の表における主張ごとに、本判決の結論に至った理由を紹介します。

対象のツイート及び画像 主張された改変
(1) 本件ツイート1-1 本件投稿画像1-1-2
本件投稿画像1-1-3
被控訴人イラストを他のイラストと重ね合わせている
(2) 本件ツイート1-2 本件投稿画像1-2-3
本件投稿画像1-2-4
(3) 本件ツイート1-1 本件投稿画像1-1-2
本件投稿画像1-1-3
本件投稿画像1-1-4
被控訴人作成のイラストの一部のみが表示されている(トリミングされている)

本件投稿画像2-2-2については、イラストの下部がトリミングされ、女性の横顔のイラストの目から下の部分が切り取られた画像が表示される

(4) 本件ツイート1-2 本件投稿画像1-2-1
本件投稿画像1-2-3
本件投稿画像1-2-4
(5) 本件ツイート2-2 本件投稿画像2-2-2
(6) 本件ツイート2-2 本件投稿画像2-2-1 本件被控訴人イラストに口の部分を囲う赤色枠を付記した

(1)については、以下に引用するとおり法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たると判断し、同一性保持権の侵害を否定しました。

著作物がイラストであって重ね合わせて用いることで、引用の目的である批評のために便宜でありかつ客観性が担保できることに加え、その利用の目的及び態様に照らすと、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるといえる。

(2)もこれと同じ理由で同一性保持権の侵害が否定されました。

(3)については、以下に引用するとおり法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たると判断し、同一性保持権の侵害を否定しました。

ツイッターのタイムライン上の表示は、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様により決定されるものであって、投稿者が自由に設定できるものではなく、投稿者自身も投稿時点では、どのような表示がされるか認識し得ないこと、投稿後も、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様が変更されると、タイムライン上の表示が変更されること、ツイートに添付された画像データ自体は当該ツイートを閲覧したユーザーの端末にダウンロードされており、タイムライン上の画像をクリックすると、画像の全体が表示されることが認められることに照らすと、投稿者が改変主体に当たるかという点を措くとしても、タイムライン上の表示が画像の一部のみとなることは、ツイッターを利用するに当たり「やむを得ないと認められる改変」に当たるというべきである。

(4)と(5)もこれと同じ理由で同一性保持権の侵害が否定されました。

(6)については、「特に比較する部分を示すために必要な範囲での改変といえる」との理由が簡単に述べられ、「やむを得ないと認められる改変」に当たると判断されています。

コメント

1.引用について

本判決は引用の成否の判断において、明瞭区別性や主従関係に直接言及することなく、条文上の文言である、引用の目的上正当な範囲内で行われることと、公正な慣行に合致することに基づく判断をしました。このアプローチは同じ裁判体によってツイッター関連事案において引用が肯定された知財高裁令和4年11月2日判決でも見られます(同判決の紹介はこちらの別稿をご参照ください。)。

本判決における引用要件の判断内容も柔軟なものといえます。今後、異なる裁判体、異なる事案でも同様の判断がされていくか注目されます。

2.同一性保持権侵害について

リツイート事件の事案については、同一性保持権の侵害に関して法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に該当すると解釈する余地はなかったのかとの意見もありました。リツイート事件の知財高裁判決は「やむを得ないと認められる改変」に該当しないと明示的に判断しましたが、最高裁判決は同一性保持権について判断をしなかったため「やむを得ないと認められる改変」への該当性にも触れることはありませんでした。

リツイート事件の知財高裁判決は、「やむを得ないと認められる改変」に該当しないと判断する理由として、著作権者に無断で画像ファイルを含むツイートが行われたもののリツイート行為であることを指摘するのみでした。

確かにリツイート事件においては、リツイート元のツイートが著作権者に無断で画像を添付した著作権侵害を構成する投稿であることが前提となっていました。これに対し、本判決においては画像を添付して投稿した行為自体も引用により適法と判断されたという違いはあります。

このことが判断に影響を与えた可能性はあるかもしれませんが、少なくとも本判決が「やむを得ないと認められる改変」に該当すると判断した理由中では、画像を添付して投稿した行為が適法であることと特に結び付けてはいません。

むしろ、表示はサービスやアプリの仕様によって決定されるものであり投稿者には自由に設定することもできないことをはじめとする本判決が挙げる理由は、同種の事案において、より明瞭な一つの判断基準を今後の実務に対して提供するものとなるのではないかと思われます。

次に、リツイート事件の最高裁判決と本判決の関係については、リツイート事件の最高裁判決が氏名表示権についての判断をしてその侵害を認めたものであるのに対し、本件では氏名表示権が問題になってはいないため、直接矛盾するものではありません。

リツイート事件において、リツイートにおける画像をクリックすると元の画像が表示されトリミングされた部分にある著作者の氏名も表示されるとの事実につき、最高裁判決は、ツイートの画像をクリックするのが通常だという事情も窺われない以上、著作者の氏名を表示したことにはならないと述べ、氏名表示権の侵害を否定する理由とは認めませんでした。

これに対し本判決は、本件ツイートにおいてトリミングされた添付画像をクリックすると画像の全体が表示されることを、同一性保持権に関する「やむを得ないと認められる改変」に該当する理由の一つとして挙げています。この点でリツイート事件最高裁判決との整合性が論じられる可能性もあるかもしれませんが、本件のように批評を目的とした投稿であるなら閲覧者が画像をクリックして全体を表示させることもある程度想定できるということでしょうか。

いずれにしても、リツイート事件の最高裁判決と本判決とはやはり直接的には同一性保持権と氏名表示権とで射程を異にするため、本判決の先例的意義が直ちに否定されるものではないと思われます。

 

脚注
————————————–
[1] 最判昭和55年3月28日・民集34巻3号244頁。ただし、旧著作権法下の事件。
[2] 知財高判平成30年4月25日・平成28年(ネ)第10101号
[3] 最判令和2年7月21日・平成30年(受)第1412号

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(文責・神田雄)