知的財産高等裁判所第2部(本多知成裁判長)は、令和4年11月30日、明治時代に創業された老舗と関連を有し、それぞれ「守半」の標章を商標として使用してきた2社のうち、同標章について商標登録を受けている一方が他方に対して商標権を行使した場合に、商標登録以前から使用されてきた「守半」の標章またはそれと社会通念上同一といえる標章の使用を対象とする部分について、権利の濫用に該当するとの判断を示しました。他方、「守半總本舗」のように、「守半」に新たな異なる意味合いを付与した標章の使用については、「守半」との間に社会通念上の同一性が認められないとして、これに対する商標権の行使について権利の濫用を否定し、商標権侵害を認めています。

同一事業体から派生した複数の事業体の間で商標権が行使された場合に権利の濫用の成否が争われた事件としては、知財高判平成29年12月25日平成29年(ネ)第10053号「極真」事件等がありますが、極真事件では、抜け駆け的に商標権が取得された経緯があるのに対し、本件では、のれん分けの経緯などが証拠上不明確であり、また、商標登録後も長らく権利行使されたことがなかった状況において、被告側の利用態様が変容したことをきっかけに権利行使が行われています。

原審の東京地方裁判所は、権利濫用を理由に原告の請求を全部棄却しましたが、本判決は、被告標章ごとに権利濫用の成否を分けて考えています。

ポイント

骨子

「守半」と同一の標章について
  • 控訴人、被控訴人及び補助参加人は、いずれも守屋半助の開業した「守半」と何らかの関わりを有する事業者であり、前身を含めると、いずれも大森又は蒲田地区を中心として、控訴人が本件商標権を取得するより相当以前から長年にわたって、「守半」を含む商号や標章を使用し、のりの製造販売等に係る事業を行ってきた者である。そして、控訴人ら及び被控訴人の三者は、それぞれが独立の事業者として、のりの製造販売等に係る事業を行ってきており、前記・・・のとおり、大森及び蒲田地区を中心とした「守半」の標章の知名度と信用は、控訴人、被控訴人及び守半本店(補助参加人)の三者が営業活動を行う中で獲得されてきたものということができる。
  • 控訴人及び被控訴人の補助参加人との交流の状況や、三者が大田区内の一部地域内で長年活動し、大森本場乾海苔問屋協同組合という同一の組合に加盟していたことからすると、控訴人ら及び被控訴人の三者は、「守半」の標章を巡る前記・・・の客観的状態を認識していたものと推認でき、少なくとも昭和56年までは、「守半」の商号や標章を巡って三者の間で明示的な紛争が生じることはなく、本件商標権についても、昭和55年に取得されて以降、40年近くにわたって、被控訴人や補助参加人などの他者に対して権利行使されたことはなかった。
  • 控訴人及び被控訴人又はそれぞれの前身が、どのような経緯で、「守半」を含む商号や標章を使用することになったのかについては、いわゆる「のれん分け」の有無も含め、証拠上、必ずしも明らかではないものの、前記・・・の三者の経営者の親族関係、人間関係及び前記・・・の控訴人や被控訴人の守半本店(補助参加人)との交流の状況並びに守半本店がこれまで控訴人や被控訴人による「守半」標章の使用について何ら異議を述べていなかったことからすると、控訴人の前身やEが、「守半」の商号や標章を使用することについては、守半本店の許諾があったものと推認できる。
  • 本件で問題となっている被控訴人標章のうち、「守半」に「粋の極み」、「特選」、「の海苔」といった文字を付加した標章(略)や、大きな文字で横書きにした「守半」の上下に小さな文字で「海苔の老舗」、「蒲田」と書した標章(略)の使用については、①前記・・・のとおり、被控訴人の前身であるEの個人事業の時代から、「守半海苔店蒲田支店」、「守半海苔店」といった屋号が使用されてきたこと、及び、②「粋の極み」、「特選」、「の海苔」、「海苔の老舗」、「蒲田」といった文字は、商品であるのりなどの性状や品質、普通名称を表すか、「守半」を修飾する付加的なものとして取引者、需要者に認識されるもので、後述する「總本舗」のように「守半」に新たな異なる意味合いを与えるようなものではないことに照らすと、社会通念上、本件商標権の取得以前からEや被控訴人によって行われてきた「守半」標章の使用の延長線上にある行為と評価できる。
  • そうすると、前記・・・のとおりの客観的状況があり、かつ前記・・・のとおり、それを認識しながら、長年にわたり本件商標権を行使してこなかった控訴人が、本件商標権の取得以前から正当に行われてきた「守半」標章の使用行為と同一又は社会通念上同一といえる被控訴人による(「守半」と社会通念上同一の)被控訴人標章・・・の使用行為に対し、本件商標権を行使することは、権利の濫用に該当するというべきである。
「守半總本舗」について
  • 従前、控訴人ら及び被控訴人の三者間では、守半本店(補助参加人)が「本店」という中心的な地位を占める屋号、商号を一貫して用いており、控訴人及び被控訴人もそれを是認してきたということができる。しかし、被控訴人が上記のような意味合いを持つ「總本舗」を「守半」に結合させた「守半總本舗」の商号や標章を用いた場合、取引者、需要者に対し、あたかも被控訴人が三者の中で新たに「本店」としての地位を獲得したかのような印象を与えることとなり、平成18年以前に長年にわたって構築されていた三者の関係性を変質させるものといえる。そうすると、被控訴人によって平成18年以降、開始された「守半總本舗」の商号・標章の使用は、本件商標権の取得以前から、長年にわたってEや被控訴人によって行われてきた「守半」標章の使用とは、社会通念上、同一に考えることはできない。
  • 「守半」の標章は守屋半助の開業した守半本店の事業に起源を持つものであり、補助参加人は、守半本店の事業を承継したものであるが、「守半」標章の知名度や信用が、需要者や取引者から見て、守屋半助の開業以来、三者の中で終始、守半本店(補助参加人)にのみ集中的に帰属するような状況にあったのかは証拠上必ずしも明らかではない。むしろ、前記・・・のとおり、控訴人や被控訴人が、独自の立場で営業を行い、それによっても「守半」標章の知名度や信用が蓄積されてきたと考えられることからすると、補助参加人が、控訴人ら及び被控訴人の三者内において「守半」標章の使用許諾をする法的権限を、守半本店の事業を承継したとか、代表者と守屋半助との間に血縁関係があるといった理由のみによって永続的に保持すると解するのは相当ではなく、平成18年当時、三者の中で補助参加人がそのような特別な権限を持っていたというためには、その時点において、「守半」標章の知名度や信用が、需要者や取引者から見て、補助参加人にのみ集中的に帰属するような状況にあったか、三者間で補助参加人がそのような権限を持つことが明示又は黙示に合意されていたか、控訴人及び被控訴人が、補助参加人が「守半」標章の使用を第三者に許諾することに同意していたなどの事情を要するものと解されるところ、上記当時、これらの事情があったと認めるに足りる証拠はない。
  • 三者がそれぞれの立場から営業活動を行って「守半」標章の知名度と信用の獲得に貢献しているという客観的状況があり、かつ、控訴人が昭和55年に本件商標権を取得しており、被控訴人が遅くとも平成18年11月頃までには控訴人が本件商標権を取得していることを認識していたこと、その頃、控訴人が被控訴人に対し、「守半總本舗」の使用に関して異議を述べていたことからすると、被控訴人が「守半總本舗」の使用について、本件請求における不法行為期間(対象期間)の始期である平成20年以降も継続するためには、補助参加人の承諾のみでは足りず、商標権者たる控訴人の承諾も得るべきであったと解すべきである。しかし、前記・・・のとおり、被控訴人は、控訴人の承諾を得ることなく、「守半總本舗」の使用を継続したものであった。
  • 以上からすると、被控訴人が、本件商標の登録以前から使用していた「守半」標章とは社会通念上同一視することができない「守半總本舗」を、商標権者たる控訴人の承諾なく使用するという、(「守半總本舗」を含む)被控訴人標章・・・の使用行為に対して、控訴人が本件商標権を行使することは、権利濫用に該当するものではないというべきである。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和4年11月30日
事件番号
事件名
令和2年(ネ)第10017号
商標権侵害差止等本訴、虚偽事実告知・流布行為差止反訴請求控訴事件
原判決 東京地方裁判所令和2年1月29日
平成30年(ワ)第11046号
平成31年(ワ)第1716号
裁判官 裁判長裁判官 本 多 知 成
裁判官    浅 井   憲
裁判官    勝 又 来未子

解説

商標権とは

商標権とは、特定の商品や役務(サービス)について特定の商標を排他的・独占的に使用する権利で、特許庁に商標登録出願をし、これに対して設定の登録がされることによって生じます。

商標権者は、登録された商標を、登録された商品や役務に許諾なく使用する第三者の行為に対し、差止や損害賠償を求めることができます。

商標権と権利の濫用

もっとも、個別の事情によって商標権の行使が制限される場合もあり、そのひとつとして、商標権の行使が権利の濫用にあたる場合があげられます。

権利の濫用を理由とする権利行使の制限は、商標法上の制度ではなく、広く私権についての基本原則を定める民法1条の中の第3項に根拠があります。

(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
 権利の濫用は、これを許さない。

商標権行使と権利の濫用の関係については、知的財産権全般の問題も含め、別稿(「貸画廊を交互に使用する当事者間における画廊名の商標権行使が権利濫用にあたるとした『GALLERY ART POINT』事件知財高裁判決について」)で詳しく紹介していますので、ご覧下さい。

事案の概要

本件の当事者は、補助参加人も含めていずれも、明治17年(1884年)に守屋半助が開業した「守半」と関わりを有する事業者で、東京都大田区の大森と蒲田という隣接した地域を中心に、「守半」を含む商号や標章を使用してのりの製造販売等の事業を行っていました。

原告・控訴人は、守屋半助の婿養子として分家の届出をした人物の長男が代表取締役となって設立された会社で、もともと同人が設立した「合資會社守半海苔店」と同じ場所でのりの製造販売等をしてていました。守屋半助が開業した守半本店は、その孫が設立した株式会社守半本店に承継されていますが、同社は、平成22年ころ、のりの事業を休止しています。

被告・被控訴人は、守半本店の丁稚として働いた後、蒲田地区において「乾海苔問屋守半支店」、「守半支店」といった屋号を使用してのりの加工・販売等の事業を始めた人物の長男が、父の事業を承継するために設立した会社で、当時の商号は「株式会社守半蒲田店」というものでした。被告・被控訴人は、守半本店とは一定の交流を有していたものの、原告・控訴人とは疎遠であったようです。

原告は、昭和51年、指定商品として干しのりや焼きのり(29類)を含む「守半」の商標出願をし、昭和55年に設定登録を受けました(第1417322号)。もっとも、原告は、昭和56年、被告に対して、原告と同様のデザインに「守半」を付した包装紙等の使用を中止するよう申し入れたことがあるものの、被告は直ちには応じず、また、原告も、被告に商標権の行使をすることはありませんでした。

その後、平成18年になって、被告は、商号を「株式会社守半總本舗」に変更し、また、それに先立ち、「守半總本舗」について商標出願をしていました。その際、原告・控訴人は、商号変更について異議を述べましたが、被告・被控訴人はこれに応じませんでした。なお、守半本店は異議を述べていません。

その後の平成29年12月、原告・控訴人は、被告・被控訴人に対して「守半」の文字を含む標章の使用中止を求めるに至りましたが、被告・被控訴人がこれに応じなかったため、平成30年4月、商標権侵害を理由とする訴訟を提起しました。

一審の東京地判令和2年1月29日平成30年(ワ)第11046号、平成31年(ワ)第1716号は、原告も、被告も、その事業は守半本店に由来し、原告は事業承継者として、また、被告は、守半本店から許諾を受けて、それぞれ「守半」の標章の使用をしていたこと、「守半」の知名度獲得には被告側の貢献もあったこと、そして、原告が長期間にわたって権利行使をしなかったことから、原告による商標権の行使は権利の濫用にあたるとして、請求を棄却しました。ここで紹介するのは、この事件の控訴審判決です。

判旨

「守半」と社会通念上同一の標章について

判決は、権利の濫用の成否に関し、以下のとおり、まず、当事者の関係に触れ、それぞれの関係者が「守半」の知名度と信用獲得に貢献していることを指摘しました。

控訴人、被控訴人及び補助参加人は、いずれも守屋半助の開業した「守半」と何らかの関わりを有する事業者であり、前身を含めると、いずれも大森又は蒲田地区を中心として、控訴人が本件商標権を取得するより相当以前から長年にわたって、「守半」を含む商号や標章を使用し、のりの製造販売等に係る事業を行ってきた者である。そして、控訴人ら及び被控訴人の三者は、それぞれが独立の事業者として、のりの製造販売等に係る事業を行ってきており、前記・・・のとおり、大森及び蒲田地区を中心とした「守半」の標章の知名度と信用は、控訴人、被控訴人及び守半本店(補助参加人)の三者が営業活動を行う中で獲得されてきたものということができる。

また、判決は、以下のとおり、関係者はそれぞれ「守半」の標章の状況を認識していた一方、本件商標権が行使されてこなかったことを指摘しました。

控訴人及び被控訴人の補助参加人との交流の状況や、三者が大田区内の一部地域内で長年活動し、大森本場乾海苔問屋協同組合という同一の組合に加盟していたことからすると、控訴人ら及び被控訴人の三者は、「守半」の標章を巡る前記・・・の客観的状態を認識していたものと推認でき、少なくとも昭和56年までは、「守半」の商号や標章を巡って三者の間で明示的な紛争が生じることはなく、本件商標権についても、昭和55年に取得されて以降、40年近くにわたって、被控訴人や補助参加人などの他者に対して権利行使されたことはなかった。

さらに、判決は、被告・被控訴人が「守半」を使用することについて、守半本店から許諾があったものと推認できることも指摘しました。

控訴人及び被控訴人又はそれぞれの前身が、どのような経緯で、「守半」を含む商号や標章を使用することになったのかについては、いわゆる「のれん分け」の有無も含め、証拠上、必ずしも明らかではないものの、前記・・・の三者の経営者の親族関係、人間関係及び前記・・・の控訴人や被控訴人の守半本店(補助参加人)との交流の状況並びに守半本店がこれまで控訴人や被控訴人による「守半」標章の使用について何ら異議を述べていなかったことからすると、控訴人の前身やEが、「守半」の商号や標章を使用することについては、守半本店の許諾があったものと推認できる。

その上で、判決は、「守半」に「粋の極み」、「特選」、「の海苔」といった性状や品質等に関する語句を加えた標章については、原告・控訴人による本件商標権取得以前から行われていた「守半」の使用の延長線上にあるといえるとの考え方を示しました。

本件で問題となっている被控訴人標章のうち、「守半」に「粋の極み」、「特選」、「の海苔」といった文字を付加した標章(略)や、大きな文字で横書きにした「守半」の上下に小さな文字で「海苔の老舗」、「蒲田」と書した標章(略)の使用については、①前記・・・のとおり、被控訴人の前身であるEの個人事業の時代から、「守半海苔店蒲田支店」、「守半海苔店」といった屋号が使用されてきたこと、及び、②「粋の極み」、「特選」、「の海苔」、「海苔の老舗」、「蒲田」といった文字は、商品であるのりなどの性状や品質、普通名称を表すか、「守半」を修飾する付加的なものとして取引者、需要者に認識されるもので、後述する「總本舗」のように「守半」に新たな異なる意味合いを与えるようなものではないことに照らすと、社会通念上、本件商標権の取得以前からEや被控訴人によって行われてきた「守半」標章の使用の延長線上にある行為と評価できる。

結論として、判決は、こういった状況において、長年権利行使をしてこなかった原告・控訴人が、従前正当に行われてきた「守半」の使用と同一または社会通念上同一といえる使用行為について商標権を行使するのは、権利の濫用にあたるとの判断をしました。

そうすると、前記・・・のとおりの客観的状況があり、かつ前記・・・のとおり、それを認識しながら、長年にわたり本件商標権を行使してこなかった控訴人が、本件商標権の取得以前から正当に行われてきた「守半」標章の使用行為と同一又は社会通念上同一といえる被控訴人による被控訴人標章・・・の使用行為に対し、本件商標権を行使することは、権利の濫用に該当するというべきである。

「守半總本舗」について

他方、判決は、「守半總本舗」の使用については、守半本店が「本店」という中心的地位を示す商号を用いてきた三社の関係性を変質させるものであって、「守半」と社会通念上同一視できないと述べました。

従前、控訴人ら及び被控訴人の三者間では、守半本店(補助参加人)が「本店」という中心的な地位を占める屋号、商号を一貫して用いており、控訴人及び被控訴人もそれを是認してきたということができる。しかし、被控訴人が上記のような意味合いを持つ「總本舗」を「守半」に結合させた「守半總本舗」の商号や標章を用いた場合、取引者、需要者に対し、あたかも被控訴人が三者の中で新たに「本店」としての地位を獲得したかのような印象を与えることとなり、平成18年以前に長年にわたって構築されていた三者の関係性を変質させるものといえる。そうすると、被控訴人によって平成18年以降、開始された「守半總本舗」の商号・標章の使用は、本件商標権の取得以前から、長年にわたってEや被控訴人によって行われてきた「守半」標章の使用とは、社会通念上、同一に考えることはできない。

また、判決は、「守半總本舗」の使用について守半本店の同意があったとの被告・被控訴人の主張を、証明がないとして排斥した上で、以下のとおり、仮に同意があったとしても、「守半總本舗」を使用し始めた当時、守半本店には、単独で同意をする特別な権限はなかったとしました。

「守半」の標章は守屋半助の開業した守半本店の事業に起源を持つものであり、補助参加人は、守半本店の事業を承継したものであるが、「守半」標章の知名度や信用が、需要者や取引者から見て、守屋半助の開業以来、三者の中で終始、守半本店(補助参加人)にのみ集中的に帰属するような状況にあったのかは証拠上必ずしも明らかではない。むしろ、前記・・・のとおり、控訴人や被控訴人が、独自の立場で営業を行い、それによっても「守半」標章の知名度や信用が蓄積されてきたと考えられることからすると、補助参加人が、控訴人ら及び被控訴人の三者内において「守半」標章の使用許諾をする法的権限を、守半本店の事業を承継したとか、代表者と守屋半助との間に血縁関係があるといった理由のみによって永続的に保持すると解するのは相当ではなく、平成18年当時、三者の中で補助参加人がそのような特別な権限を持っていたというためには、その時点において、「守半」標章の知名度や信用が、需要者や取引者から見て、補助参加人にのみ集中的に帰属するような状況にあったか、三者間で補助参加人がそのような権限を持つことが明示又は黙示に合意されていたか、控訴人及び被控訴人が、補助参加人が「守半」標章の使用を第三者に許諾することに同意していたなどの事情を要するものと解されるところ、上記当時、これらの事情があったと認めるに足りる証拠はない。

さらに、判決は、以下のとおり述べ、本件の事実関係のもとでは、「守半總本舗」を使用するには、原告・控訴人の承諾が必要であったとしました。

三者がそれぞれの立場から営業活動を行って「守半」標章の知名度と信用の獲得に貢献しているという客観的状況があり、かつ、控訴人が昭和55年に本件商標権を取得しており、被控訴人が遅くとも平成18年11月頃までには控訴人が本件商標権を取得していることを認識していたこと、その頃、控訴人が被控訴人に対し、「守半總本舗」の使用に関して異議を述べていたことからすると、被控訴人が「守半總本舗」の使用について、本件請求における不法行為期間(対象期間)の始期である平成20年以降も継続するためには、補助参加人の承諾のみでは足りず、商標権者たる控訴人の承諾も得るべきであったと解すべきである。しかし、前記・・・のとおり、被控訴人は、控訴人の承諾を得ることなく、「守半總本舗」の使用を継続したものであった。

加えて、判決は、「守半」は、商標法4条1項10号にいう周知性を獲得していなかったことや、原告・控訴人による商標の登録過程に悪性はないことを指摘した上で、以下のとおり、「守半總本舗」の使用に対する商標権行使については、権利の濫用にあたらないとしました。

以上からすると、被控訴人が、本件商標の登録以前から使用していた「守半」標章とは社会通念上同一視することができない「守半總本舗」を、商標権者たる控訴人の承諾なく使用するという、(「守半總本舗」を含む)被控訴人標章・・・の使用行為に対して、控訴人が本件商標権を行使することは、権利濫用に該当するものではないというべきである。

結論

結論として、判決は、「守半總本舗」の使用について商標権侵害の成立を認め、原判決を一部変更しました。

コメント

本件判決は、同一の老舗から派生した事業体間の商標権をめぐる紛争において、具体的な事実関係に基づき、長らく使用を継続してきたものと社会通念上同一と認められる標章についての権利行使は権利濫用にあたる一方、従来ともに商標を使用してきた者らの関係性に変質をもたらす場合には、商標権侵害を肯定しました。本来、権利濫用法理は個別具体的な事情に基づいて適用の是非と範囲を決すべきものですので、標章ごとに判断が変わることは当然ともいえますが、具体的な認定判断の内容は実務上参考になるものと思われます。

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(文責・飯島)