知的財産高等裁判所第4部(宮坂昌利裁判長)は、令和5年11月30日、結合商標の類否が争点となった審決取消訴訟において、結合商標の分離観察が許される場合として、つつみのおひなっこや事件最高裁判決が示した2つの類型に新たな第3の類型を加える規範を示し、それに基づく判断をしました。

従来の2つの類型とは、「その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合」と「それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合」でした。

それに加えて本判決が示した第3の類型とは、「商標の外観等に照らし、商標全体としての構成上の一体性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、その一部を略称等として認識する結果、当該構成部分が独立した出所識別標識としての機能を果たすと考えられる場合」です。

結合商標の分離観察の可否を検討する場合に参考となる判決と思われますので、紹介します。

ポイント

骨子

  • 複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、①その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合、③商標の外観等に照らし、商標全体としての構成上の一体性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、その一部を略称等として認識する結果、当該構成部分が独立した出所識別標識としての機能を果たすと考えられる場合などを除き、許されないというべきである。

判決概要(審決概要など)

裁判所 知的財産高等裁判所第4部
判決言渡日 令和5年11月30日
事件番号 令和5年(行ケ)第10063号
原審決 不服2022-8509号事件
裁判官 裁判長裁判官 宮坂 昌利
裁判官 本吉 弘行
裁判官 岩井 直幸

解説

商標の類否の判断(商標法4条1項11号)

商標法4条1項11号によると、同一または類似の商品やサービスについて、同一または類似の商標の登録出願が先になされているときは、後の商標登録出願は認められません。また、仮に登録がされた場合も商標登録無効審判により無効となります(商標法46条1項1号)

(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(略)
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
(略)

ここでいう商標の類否の判断基準としては、最三判昭和43年2月27日昭和39年(行ツ)第110号民集第22巻2号399頁(氷山印事件)が、以下のとおり、具体的な取引状況に基づき、商標の外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象を考慮して、商品の出所に誤認混同が生じるか、という観点から判断すべきことを示しており、この考え方が実務の基本として定着しています。

商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。

結合商標と商標の類否判断

結合商標とは

結合商標とは、文字や単語、図形、記号などの構成部分を複数組み合わせた商標をいいます。

結合商標について商標の類否判断をする場合、結合商標を全体として観察して他の商標と比較することにより類否判断をするのか、それとも結合商標を構成する部分の一部を分離して観察し他の商標と比較することにより類否判断をすることができるか、分離観察による判断が許されるとしてそれはどのような場合か、が問題となります。

リラ宝塚事件最高裁判決

結合商標の類否判断に関し、最判昭和38年12月5日・昭和37年(オ)第953号(リラ宝塚事件)は、以下のとおり、「各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標」については、その構成部分の一部を分離して類似性を認定することができるという判断を示しました。

商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定するがごときことが許されないのは、正に、所論のとおりである。しかし、簡易、迅速をたっとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(昭和三六年六月二三日第二小法廷判決、民集一五巻六号一六八九頁参照)。しかしてこの場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。

つつみのおひなっこや事件最高裁判決

その後、最判平成20年9月8日民集17巻12号1621頁・平成19年(行ヒ)第223号(つつみのおひなっこや事件)は、以下のとおり、結合商標の構成部分の一部に基づいて類否判断をすることは、①その部分が需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないとの判断を示しました。

法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民 集47巻7号5009頁参照)。

両最高裁判決の関係

上記の両最高裁判決は、結合商標についていずれも全体観察を原則とするかのように判示しつつ、リラ宝塚判決では「各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合」していなければ分離観察を認め、つつみのおひなっこや判決では①その部分が需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合と、②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などに分離観察を認める旨判示しています。

もっとも、つつみのおひなっこや判決では、リラ宝塚判決がいう「不可分的に結合」かどうかの基準には触れられていません。かといって、つつみのおひなっこや判決が上記のとおり括弧書きでリラ宝塚判決を引いている点からしても、リラ宝塚判決を否定ないし変更する趣旨とはみられません。

両判決をどのように整合的に解釈することができるのかについては、議論があり得るところです。

両最高裁判決の基準と知財高裁判決の傾向

つつみのおひなっこや判決以降の知財高裁判決においては、つつみのおひなっこや判決の①②の場合を規範として挙げるものが多いですが、それらの中でも、両最高裁判決の基準の表現の仕方には多少の違いや傾向が見られます。

例えば、知財高裁令和3年6月16日判決(鶴岡稔彦裁判長)は、以下のとおり、結合商標については「不可分的に結合している」場合は一部を抽出することは原則として許されないが、「その場合であっても」、つつみのおひなっこや判決の①②などの場合は一部だけを取り出すことが許されると述べています。

複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許されないが,その場合であっても,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには,商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判断することが許されるものと解される

この判決は、つつみのおひなっこや判決の①②などの場合を、不可分的結合商標であってもなお例外的に分離観察が許される類型を示したものと考えていると思われます。鶴岡裁判長の判決では他の事件でも上記同様の文言が使用されるものがありました。

他方、例えば知財高裁令和5年11月15日判決(本多知成裁判長)では、つつみのおひなっこや判決の①の場合や②の場合「等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、」一部を抽出することが許されると述べています。

複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである

すなわちこの判決は、つつみのおひなっこや判決の①②などの場合を、不可分的結合商標には該当しない場合の例示として捉えていると思われます。本多裁判長の判決では他の事件でも上記同様の文言が使用されるものがあります。

他の知財高裁判決は、ここまではっきりした立場を示さないものの、どちらかの立場に近いニュアンスを持つと読めるものもあれば、あっさり触れるにとどめる等どちらの立場ともいえないものもあり、知財高裁の傾向も一様ではありません[1]

さらに、知財高裁令和4年7月14日判決(大鷹一郎裁判長)[2]では、次のとおり、つつみのおひなっこや判決の①②の場合のほか、「商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商品又は役務の出所識別標識として機能し得るものと認められる場合」にも分離観察が許されるとの判断をしました。

複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるから、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則として許されないが、取引の実際においては、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼、観念されるとは限らず、その構成部分の一部だけによって称呼、観念されることがあることに鑑みると、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合のほか、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商品又は役務の出所識別標識として機能し得るものと認められる場合には、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である。

特許庁の考え方

特許庁の商標審査基準第3「第4条第1項及び第3項(不登録事由)」の十(第4条第1項第11号) 4.(1)は、以下のとおり述べています。

(ア) 結合商標は、商標の各構成部分の結合の強弱の程度を考慮し、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど強く結合しているものと認められない場合には、その一部だけから称呼、観念が生じ得る。
(イ) 結合の強弱の程度において考慮される要素について
文字のみからなる商標においては、大小があること、色彩が異なること、書体が異なること、平仮名・片仮名等の文字の種類が異なること等の商標の構成上の相違点、著しく離れて記載されていること、長い称呼を有すること、観念上のつながりがないこと等を考慮して判断する。

また、平成28年12月の産業業構造審議会の商標審査基準ワーキンググループの資料(2頁)は、以下のとおり、つつみのおひなっこや判決は不可分的結合商標であっても例外的に分離観察が許される場合を示した判決という見方に親和性を示しています。

すなわち、結合商標を、①不可分的に結合していない商標と②不可分的に結合されている商標の2つに分けた上で、①の場合がリラ宝塚事件の規範を適用する場面で、②の場合がリラ宝塚事件を反対解釈して、「商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは、原則として許されない」とした上で、このような場合であっても要部抽出ができる例外を認めたものがつつみのおひなっこや事件で示されたと解するものである。このような解釈をすることにより、①の場合は、従来の審査の運用と同様に比較的容易に要部抽出することができ、②の場合は、本来要部抽出ができない場合であっても例外的な場合に要部抽出することができることとなり、つつみのおひなっこや事件を、リラ宝塚事件からさらに要部抽出できる可能性を広げたものと解釈することとなり、両判決を矛盾なく、かつ、従来の審査運用と乖離することなく解釈することができる。

その一方で上記商標審査基準ワーキンググループの資料(2頁)では、つつみのおひなっこや判決で示されているような場合はそもそも不可分的に結合していないと判断される可能性も高いことも指摘されています。

もっとも、商標の結合の程度を判断する場合には、商標の構成態様(外観)及び観念を特に重視し、そこに称呼の要素も加味して総合的に考慮していることから、つつみのおひなっこや事件で示されているような場合は、そもそも商標が不可分的に結合していないと判断される可能性も高く、①により要部抽出できると判断することも十分に可能であることから、審査基準において①、②のような場合分けをあえて記載せずに、①の原則論のみを記載しておけば、結論において①、②の場合分けをして記載した場合と大きな差はないものと考えられる。

事案の概要

本件は、原告が商標登録出願をし、拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判を請求したが審判請求は成り立たないとの審決を受けたため、審決の取消しを求めて提起された審決取消訴訟です。

登録が拒絶された理由は、本願商標は引用商標と類似し、本願商標の指定商品は引用商標のそれと同一又は類似であるため、商標法4条1項11号に該当し、登録することができないというものでした。

本願商標

出願された商標は、「VENTURE」の文字を標準文字で表してなる商標です(商願2020-128329号)。これを以下「本願商標」といいます。

本願商標の指定商品は、第25類の被服、作業服、ズボン及びパンツ、帽子、ラッシュガード等です。

引用商標

引用商標は以下のとおりです(登録第6434159号)。

画像1本判決別紙2より引用

指定商品は、第25類「被服」です。

審決の要旨

本判決が認定した審決の要旨は以下のとおりです。要するに、引用商標の構成中「VENTURE」の文字部分を分離、抽出することができ、これを本願商標と比較すれば類似であるというものです。

ア 本願商標は、「ベンチャー」の称呼及び「冒険」の観念を生じる。

イ 引用商標中「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分との間に意味上の繋がりは見いだし難く、文字の大きさ、文字種、文字の書体も異なり、他にこれらの文字部分を常に不可分一体のものとしてのみ認識し把握すべき格別の理由もないから、各文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得る。
引用商標は、その構成中「VENTURE」の文字部分を分離、抽出し、この部分だけを要部として他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許される。

ウ 本願商標と引用商標は、全体の外観においては「遊」の文字部分が相違するものの、本願商標と引用商標の要部である「VENTURE」の文字部分との比較について、外観において互いに似かよった印象を与える。また、両者は「ベンチャー」の称呼及び「冒険」の観念を共通にする。
そうすると、本願商標と引用商標は、要部の比較において、外観上似かよった印象を与えるものである上、称呼及び観念を同一にするものであるから、これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は、互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。

判旨

まず本判決は、以下のように述べ、分離観察が許される場合として、つつみのおひなっこや事件判決で提示された①②の場合に加えて「③商標の外観等に照らし、商標全体としての構成上の一体性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、その一部を略称等として認識する結果、当該構成部分が独立した出所識別標識としての機能を果たすと考えられる場合」に言及しました。

商標法4条1項11号に係る商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、①その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合、③商標の外観等に照らし、商標全体としての構成上の一体性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、その一部を略称等として認識する結果、当該構成部分が独立した出所識別標識としての機能を果たすと考えられる場合などを除き、許されないというべきである。

また本判決は、以下のとおり、③の場合は分離された各構成部分が全て当然に要部になるものではないことも指摘しました。

なお、上記③で例示する場合においては、分離された各構成部分の全てが当然に要部(分離・抽出して類否判断を行うことが許される構成部分)となるものではないことに留意が必要である。

続いて本判決は、上記「③で例示したところを参考に、引用商標における分離観察の可否及び要部認定について検討する。」と述べた上で、以下のとおり、引用商標においては「遊」の文字部分を独立した出所識別標識として理解することもあり得るとし、他方、「VENTURE」の文字部分を引用商標の要部と認定することはできないと判断しました。

引用商標は、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分からなる結合商標であり、原則として全体観察をすべきことは前述のとおりであるが、上記各構成部分を比較すると、文字の大きさの違いからくる「遊」の文字部分の圧倒的な存在感に加え、書体の違いからくる訴求力の差、全体構成における配置から自ずと導かれる主従関係性といった要素を指摘することができ、称呼及び観念において一連一体の文字商標と理解すべき根拠も見出せない等の事情を総合すると、引用商標に接した取引者、需要者は、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分を分離して理解・把握し、中心的な構成要素として強い存在感と訴求力を発揮する「遊」の文字部分を略称等として認識し、これを独立した出所識別標識として理解することもあり得ると解される。

他方、「VENTURE」の文字部分は、商標全体の構成の中で明らかに存在感が希薄であり、従たる構成部分という印象を拭えず、これに接した取引者、需要者が、「VENTURE」の文字部分に着目し、これを引用商標の略称等として認識するということは、常識的に考え難い。したがって、「VENTURE」の文字部分を引用商標の要部と認定することはできないというべきである。

本件審決の判断中、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分との分離観察が可能という点は正当であるが、「VENTURE」の文字部分を要部と認めた部分は是認できない。

その上で本判決は、商標の類否の判断として、以下のとおり、引用商標の全体観察を前提に検討すると「遊」の文字の有無の違いに対応して外観、称呼、観念のいずれにおいても両者は大きく異なっていること、引用商標の「遊」の文字部分を要部として判断すれば言うまでもなく類似性が認められないことを指摘し、類似性を否定しました。

以上の認定判断を前提に、本願商標と引用商標の類否の判断をするに、まず、全体観察を前提に検討すると、引用商標の「遊」の文字の有無の違いに対応して、外観、称呼、観念のいずれにおいても両者は大きく異なっており、類似性を肯定することはできない。

そして、引用商標の「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分を分離観察の上、「遊」の部分を要部として類否判断をした場合に、本願商標との類似性が認められないことは言うまでもない。

コメント

本判決が③の類型を提示したのは、本件の引用商標に照らし、つつみのおひなっこや判決の①②のどちらかに該当すると認定するよりも、第3の類型を示すほうが判断をしやすいと考えたものかもしれません。

第3の類型を示した先例としては、上述した知財高裁令和4年7月14日判決(大鷹一郎裁判長)があります。同判決における第3の類型は、「商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商品又は役務の出所識別標識として機能し得るものと認められる場合」という汎用性のある規範でした。

これに対し、本判決における第3の類型は、「商標の外観等に照らし、商標全体としての構成上の一体性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、その一部を略称等として認識する結果、当該構成部分が独立した出所識別標識としての機能を果たすと考えられる場合」というものであり、このうち「その一部を略称等として認識する」との文言は、一定の事案に当てはまる規範という印象を受けます。

本判決がこの第3の類型に基づいて本件を判断し、当てはめにおいて引用商標の「遊」の部分と「VENTURE」の部分につきそれぞれ略称等として認識するかどうかを指摘したうえで結論を出している点からも、本判決の第3の類型は本件の判断に使いやすい規範として示されたものであるように思われます[3]。その意味で、本判決の第3の類型がその文言のまま今後の事件で広く使用されるとは限らないかと思われます。

他方、本判決は、分離観察が許されるのはつつみのおひなっこや判決の①②の場合だけではないことを確認するものともいえそうです。そもそも、つつみのおひなっこや判決も①②の場合「など」と述べており、2つの類型に限定する趣旨ではありません。今後、本判決以外にも事案に応じて第3の類型を定立する判決が増えていくかどうか注目されます。

本判決の第3の類型についてみると、「商標の外観等に照らし、商標全体としての構成上の一体性が希薄」という部分はある程度汎用性があるものですし、本判決が当てはめで指摘した文字の大きさの違い、構成部分の一部の存在感、書体の違いからくる訴求力の差、全体構成における配置、主従関係性といった要素も他の事案で参考になり得るものと思われます。結合商標の分離観察の可否について、当事者としては今後もこれらの要素を含め識別力の強弱を総合的に勘案することで主張を組み立てることになるでしょう。

 

脚注
————————————–
[1] なお、令和以降の知財高裁判決を分析した論考として、中川隆太郎(編/小泉直樹)「商標登録に向けて何を検討すべきか――結合商標の分離観察の基本と応用」ジュリスト2023年10月号(No.1589)88頁
[2] 同じ日に同じ裁判体から、「ザプレミアムチロリアン」「ザリッチチロリアン」「チロリアンホルン」の3つの商標の審決取消訴訟において3件の判決が出されており、それらのいずれも本文で引用した文言と同じ判示がされています。
[3] なお、判決文を見る限り、当事者からは「略称等として認識する」かどうかの主張はされておらず、この規範は裁判所の判断で初めて登場しています。

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(文責・神田雄)