大阪地方裁判所第21民事部(武宮英子裁判長)は、令和5年/2024年12月14日、被告による商標権侵害が争われた事案につき、原告が出願過程で指定商品・役務の一部を除外して商標の登録を受けた経緯を踏まえ、商標権侵害の主張の一部が禁反言の原則により許されないとの判断を示しました。
本判決は、出願過程における対応が商標権侵害の場面でどのような影響を与えるかのほか、商標の類否判断のあてはめ、損害額の算定を見る上で実務上参考になると思われますので、ご紹介します。
ポイント
骨子
- 原告は、本件商標(「Robot Shop」(標準文字))の出願に当たり、「第7類 工業用ロボット、娯楽用ロボット、研究用ロボット、その他ロボット」、「第28類 ロボットおもちゃ並びにその部品」等、「第35類 工業用ロボットの小売」等を指定商品及び指定役務としていたが、特許庁から、本件商標は、「ロボットの小売店」程の意味合いを容易に認識させるものであるところ、ロボットの販売及び修理等を取り扱う業界において、「Robot Shop」及び「ロボットショップ」の文字が、ロボットを取扱商品とする小売店であることを示す語として一般的に使用されている実情があることから、本件商標を第35類の工業用ロボットの小売等の指定役務に使用することは、商標法3条1項3号に該当すること等を理由とする拒絶理由通知書の送付を受け、前記商品及び役務を指定商品等から除外して、本件商標の登録を受けたことが認められる。
- このような本件商標の出願経過に照らすと、原告が、被告販売商品のうちロボットと同一又は類似するものに対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則(民法1条2項)により許されないと解するのが相当である。
判決概要
裁判所 | 大阪地方裁判所第21民事部 |
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判決言渡日 | 令和5年12月14日 |
事件番号 | 令和2年(ワ)第7918号 |
事件名 | 商標権侵害差止等請求事件 |
登録商標 | Robot Shop(標準文字) |
登録番号 | 商標登録第5776371号 |
裁判官 | 裁判長裁判官 武 宮 英 子 裁判官 阿波野 右 起 裁判官 峯 健一郎 |
解説
出願経過禁反言
禁反言の原則とは、英米法の判例の中から生まれた原則で、自身の言動と矛盾する言動を禁じる原則です。民法1条2項の信義則が条文上の根拠とされています。
この禁反言の原則が特許権や商標権との関係でも問題となることがあります。
特許出願人や商標出願人は、特許や商標の審査の過程において、意見書や補正書を提出するなど、特許庁との間で様々なやりとりを行うのが一般的であるところ、そうした出願及び審査の過程における出願人の主張や行為と矛盾する主張や行為を後日行うことは、禁反言の原則により許されないと解されています。
これを「出願経過禁反言」といいます。(「審査経過禁反言」、「包袋禁反言」とも呼ばれています。)
本件では、原告が本件商標の出願過程で一部の商品及び役務を指定商品等から除外していたところ、商標権侵害が問題とされた被告の商品が当該除外された商品及び役務と同一又は類似することから出願経過禁反言の適否が問題となりました。
商標登録の要件(商標法3条1項)
商標法3条1項は、以下のとおり、商標登録の要件を定めています。
商標が同条同項各号に該当する場合は、識別力がないことから、原則として、商標登録を受けることができません。
(商標登録の要件)
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標
本件の原告は、本件商標の出願に当たり、「第7類 工業用ロボット、娯楽用ロボット、研究用ロボット、その他ロボット」、「第28類 ロボットおもちゃ並びにその部品」等、「第35類 工業用ロボットの小売」等を指定商品及び指定役務としていましたが、特許庁から、本件商標は、「ロボットの小売店」程の意味合いを容易に認識させるものであるところ、ロボットの販売及び修理等を取り扱う業界において、「Robot Shop」及び「ロボットショップ」の文字が、ロボットを取扱商品とする小売店であることを示す語として一般的に使用されている実情があることから、本件商標を第35類の工業用ロボットの小売等の指定役務に使用することは、商標法3条1項3号に該当すること等を理由とする拒絶理由通知書の送付を受けていました。
商標の類否の判断基準
商標の類否については、商標の見た目(外観)、読み方(称呼)、一般的な印象(観念)の類似性の検討に加えて、商品の取引の実情をも考慮して、総合的に出所混同のおそれが存するか否かを、取引者や一般の需要者が通常払うであろう注意の程度を基準として判断されます。
商標の類否判断の基準について、最判昭和43年2月27日(氷山印事件)は、以下のような判断基準を示しました。
商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。
この判決は、商標の登録の可否をめぐる事件に関するものですが、侵害事件においても同じ考え方が用いられており、本件もこの判断基準に従って商標の類否が検討されています。
商標権の効力が及ばない範囲(商標法26条1項2号)
商標法26条1項は、以下のとおり、自己の氏名、指定商品の普通名称、指定役務の普通名称等を普通に用いられる方法で表示する商標等に対しては、商標権の効力が及ばないとしています。
(商標権の効力が及ばない範囲)
第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標
三 当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標
四 当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について慣用されている商標
五 商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標
本条の趣旨として以下が挙げられます。
①登録時において識別力のない商標が過誤登録された場合に第三者が当該登録を無効としなくても使用できるようにするため
②登録商標が後発的に識別力を喪失した場合に第三者の使用を確保するため
③商標権の禁止権の範囲に識別力のない第三者の商標が入った場合に使用を確保するため
本件で被告は、被告がロボット関連商品を販売するオンラインショップに「RobotShop」と表示することは、商標法26条1項2号の「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称」(Robot、ロボット)及び「販売地」(Shop、店舗)を普通に用いられる方法で表示することに該当し、原告商標権の効力が及ばないと主張しました。
商標権侵害の差止請求権(商標法36条1項)
商標権は設定登録により発生するものであり(商標法18条1項)、商標登録をして初めて商標権を行使することが可能となります。
商標権者は、商標権の行使として、自己の商標権を侵害する者に対して、侵害行為の停止又は予防を請求することができます(同36条1項)。
(差止請求権)
第三十六条 商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
本件では、原告より被告標章の使用差止めの請求がなされました。
損害の額の推定等(商標法38条2項)
商標権が侵害された場合、商標権者は侵害者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を行うことができます。
商標法38条は、民法709条の特則として商標権侵害による逸失利益の損害賠償に関して損害額の推定等を定め、権利者の主張立証責任の軽減を図った規定です(最判平成9年3月11日(小僧寿し事件)参照)。
同条2項は、以下のとおり、侵害者が侵害行為によって受けた利益の額を、権利者が受けた損害の額と推定することによって、権利者の逸失利益を算定することを定めています。
(損害の額の推定等)
第三十八条
2 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額と推定する。
本件では、原告より商標法38条2項に基づいて損害賠償請求がなされました。
商標権侵害における不法行為に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求
商標権侵害が問題となる事案の法律構成としては、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)と不当利得返還請求(民法703条)とがそれぞれ成り立ち得ます。
不法行為に基づく損害賠償請求については、上述のように商標法38条各項による損害額の推定等が働くのに対し、不当利得返還請求については、商標の使用料相当額が受益者の利得に相当すると解されています。
また、不法行為に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求とでは、請求権が時効によって消滅するまでの期間に違いがあります。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき、または、不法行為の時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅します。(民法724条)
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
不当利得返還請求権は、権利者が不当利得返還請求を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき、権利を行使することができる時から十年間行使しないときは、時効によって消滅します。(民法166条1項)
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
商標権侵害が問題となる場面では、商標権侵害の事実を知ったときに、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点である「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき」と不当利得返還請求の消滅時効の起算点である「債権者が権利を行使することができることを知った時」とに該当し、起算点が同一となり、不当利得返還請求の方が不法行為に基づく損害賠償請求よりも2年多く過去に遡った請求が可能となります。このような時効期間の違いから、実務上は、消滅時効によって不法行為に基づく損害賠償請求をすることができない期間について、不当利得返還請求を主張することがあります。
本件で原告は、訴えが提起された年(令和2年)から遡って3年(平成29年)の期間は不法行為に基づく損害賠償請求、さらにそこから約1年半遡った期間(平成28年)は不当利得返還請求としています。
事案の概要
本件は、下記表記載の「Robot Shop」(標準文字)の商標権(以下「本件商標権」といい、本件商標権に係る商標を「本件商標」といいます。)を有する原告が、被告が管理するウェブサイトやインターネットショッピングサイト「楽天市場」及び「アマゾン」に出店した店舗のウェブサイト(以下「被告各サイト」といいます。)において、下記表記載の標章(以下「被告標章」といいます。)を付して、ロボットの画像を展示する行為及び被告商品(マイクロコントローラ等のロボット製作部品、ドローンキット等の無人機・ドローン等)に関する広告等を提供する行為が本件商標権の侵害に当たるとして、被告に対し、被告各サイトにおいて、被告標章を付して被告商品について広告等の情報を提供することの差止めを求めるとともに、損害賠償(平成29年8月25日から令和5年7月7日までの期間)及び不当利得返還(平成28年2月2日から平成29年8月24日までの期間)を求めた事案です。
原告商標権
登録商標 Robot Shop (標準文字)
登録番号 商標登録第5776371号
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第7類 金属加工機械器具
第9類 アプリケーションソフトウェア、コンピュータソフトウェア及びコンピュータハードウェア、コンピュータプログラム(ダウンロード可能なソフトウェア)、電子計算機のオペレーションに使用するコンピュータプログラム、データ処理装置及びコンピュータ、コンピュータ周辺機器、電子応用機械器具及びその部品
第37類 電子応用機械器具の修理又は保守及びそれに関する情報の提供、電子応用機械器具の部品の修理又は保守及びそれに関する情報の提供
第38類 電気通信、無線通信、電話通信、電子表示用通信端末による通信(電気通信)、電子メッセージ用通信端末による通信、テレビ・ビデオ会議用通信端末による通信、電気通信(「放送」を除く。)
第41類 ロボットの展示、ロボットに関するセミナー・フォーラムの企画・運営又は開催、その他のセミナーの企画・運営又は開催、業務用遊戯用ロボットの貸与、オンラインで提供される電子書籍及び電子定期刊行物の制作、技芸・スポーツ又は知識の教授、書籍の制作
被告標章
本判決別紙より引用。
判旨
本件では、①被告の行為が指定役務・商品に係る被告標章の使用に当たるか、②本件商標と被告標章は類似するか、③本件商標の効力が被告標章に及ぶか(禁反言の原則の適否)、④商標法26条1項2号該当性、⑤損害等の発生及びその額、⑥差止めの必要性があるかが争点となりました。
争点①について
争点①(被告の行為が指定役務・商品に係る被告標章の使用に当たるか)について、原告は、被告が、被告各サイトにおいて、被告標章を付して、ロボットの画像を公開し、本件商標の指定役務である「ロボットの展示」に被告標章を使用しており、商標法2条3項7号及び8号に該当すると主張しました。
しかし、裁判所は、(i)被告各サイトに掲載されている商品は、ロボット類似品(「無人機・ドローンキット/ARF/RTF」、「完成品(RTF)/半完成品(ARF)」、「無人機・ドローン完成品(RTF)」、「小型/超小型無人機」、「Vテール」、「クワッドコプター」、「ヘキサコプター/オクタコプター」、「飛行機」)を除き、いずれもロボット製作に使用する部品や汎用的な部品、製作機器等であって、ロボットであるとはいえないこと、(ii)ロボット類似品については、販売のために展示しており、「ロボットの展示」の役務に使用されているというよりは、ロボット(類似品)の小売の役務に使用されていることを理由に原告の上記主張を排斥しました。
しかし、原告がロボットの画像と主張するもののうち本件各サイトに掲載されているものは、後記3(2)のとおり、ロボット類似品(別紙「被告商品の指定商品該当性」の「被告商品」欄の2の(1)ないし(4)、及び(6)ないし(9))を除き、いずれもロボット製作に使用する部品や汎用的な部品、製作機器等であって、ロボット関連商品ではあるとしても、ロボット(ないしロボット類似品)であるとはいえない。また、証拠(甲12の2、17の20~17の23、17の25~17の28)及び弁論の全趣旨によれば、ロボット類似品については、販売のために展示しているものと認められ、被告標章が「ロボットの展示」の役務に使用されているというよりは、ロボット(類似品)の小売の役務に使用されているというべきであるところ、後記3(1)と同様に、ロボット類似品の小売の役務に係る被告標章の使用に対して、原告が本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則に反して許されないと解するのが相当である。
他方で、被告が被告標章を、指定商品に係る電磁的方法による情報の提供に使用しているとの原告の主張について、裁判所は、これを肯定し、商標法2条3項8号に該当すると判断しました。
被告は、被告各サイトにおいて、本件商標の指定商品であるコンピュータ等の被告商品に関する広告、価格表等を内容とする情報に被告標章を付して、電磁的方法によりこれらの情報を提供していることが認められる。
(中略)
したがって、被告は、被告標章を、指定商品に関する前記情報の電磁的方法による提供に使用しているといえる。
争点②について
争点②(本件商標と被告標章は類似するか)について、裁判所は、本件商標と被告標章は、いずれも「ロボットショップ」の称呼が生じ、「ロボットの店」という観念が生じることから、称呼及び観念が同一又は類似し、また、被告標章の外観からは「RobotShop」の欧文字が配される構成が読み取れることから外観も類似するとして、本件商標と被告標章が類似すると認定しました。
本件商標と被告標章は、いずれも「ロボットショップ」の称呼が生じ、「ロボットの店」という観念が生じることから、称呼及び観念が同一又は類似する。また、被告標章の外観は、前記のとおりデザインが施されるなどされ、全体としてロゴ化しているものの、「RobotShop」の欧文字に前記デザイン等が施されたものにとどまり、「RobotShop」の欧文字が配される構成が読み取れることには変わりはないことから、本件商標と被告標章の外観は少なくとも類似するものといえる。
したがって、本件商標と被告標章は、称呼、観念、外観がいずれも少なくとも類似し、これを覆すような取引の実情があるとはいえないから、両者は少なくとも類似すると認められる。
また、裁判所は、商品の類否について、被告の販売する商品は、一部の商品(以下「非類似商品」といいます。)を除き、本件商標の指定商品に類似すると認定しました。
そこで、同欄の「6.ロボショップアプリ・ストア」の「(6) Phidgets」を除く被告商品(以下「被告販売商品」という。)の類否について検討するに、証拠(甲17、乙32~38)及び弁論の全趣旨によれば、被告販売商品について、同別紙の「被告サイトにおける説明」欄記載の説明がされていることが認められ、同説明内容に照らすと、被告販売商品のうち、同別紙の「被告商品」欄の「3.ツール・機器」の「(14)原材料」、同「(15)Vinyl Cutting Machines」及び同「(16)卓上工具」(以下、前記「(6) Phidgets」を含め、「非類似商品」という。)を除く商品は、いずれも同別紙「原告の主張」欄の「○」が付された各指定商品と少なくとも類似すると認められる。
争点③について
争点③(本件商標の効力が被告標章に及ぶか(禁反言の原則の適否))について、裁判所は、原告が、本件商標の出願に当たり、「第7類 工業用ロボット、娯楽用ロボット、研究用ロボット、その他ロボット」、「第28類 ロボットおもちゃ並びにその部品」等、「第35類 工業用ロボットの小売」等を指定商品及び指定役務としていたが、特許庁から、本件商標は、「ロボットの小売店」程の意味合いを容易に認識させるものであるところ、ロボットの販売及び修理等を取り扱う業界において、「Robot Shop」及び「ロボットショップ」の文字が、ロボットを取扱商品とする小売店であることを示す語として一般的に使用されている実情があることから、本件商標を第35類の工業用ロボットの小売等の指定役務に使用することは、商標法3条1項3号に該当すること等を理由とする拒絶理由通知書の送付を受け、前記商品及び役務を指定商品等から除外して、本件商標の登録を受けたことを踏まえ、このような本件商標の出願経過に照らすと、原告が、被告販売商品のうちロボットと同一又は類似するものに対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則(民法1条2項)により許されないと判断しました。
(1) 証拠(乙1~3)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件商標の出願に当たり、「第7類 工業用ロボット、娯楽用ロボット、研究用ロボット、その他ロボット」、「第28類 ロボットおもちゃ並びにその部品」等、「第35類 工業用ロボットの小売」等を指定商品及び指定役務としていたが、特許庁から、本件商標は、「ロボットの小売店」程の意味合いを容易に認識させるものであるところ、ロボットの販売及び修理等を取り扱う業界において、「Robot Shоp」及び「ロボットショップ」の文字が、ロボットを取扱商品とする小売店であることを示す語として一般的に使用されている実情があることから、本件商標を第35類の工業用ロボットの小売等の指定役務に使用することは、商標法3条1項3号に該当すること等を理由とする拒絶理由通知書の送付を受け、前記商品及び役務を指定商品等から除外して、本件商標の登録を受けたことが認められる。
被告は、被告各サイトにおいて、被告販売商品を販売しているところ、このような本件商標の出願経過に照らすと、原告が、被告販売商品のうちロボットと同一又は類似するものに対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則(民法1条2項)により許されないと解するのが相当である。
そして、裁判所は、以下のとおり、広辞苑及び日本産業規格(JIS規格)を引用し、所定の目的のために自律性をもって動作等をする機械又は装置は、少なくともロボットに類似するものであるとし、被告商品のうちロボット類似品は、所定の目的のために自律飛行が可能なものが含まれ、ロボットに類似すると認定しました。他方で、その他の被告商品については、ロボット製作に使用する部品や汎用的な部品、製作機器等については、ロボットに類似するとはいえないと認定しました。
(2) ロボットの字義は、「複雑精巧な装置によって人間のように動く自動人形。一般に、目的とする操作・作業を自動的に行うことのできる機械又は装置」(広辞苑第七版)であるほか、証拠(甲24、25、乙31)及び弁論の全趣旨によれば、日本産業規格(JIS規格)は、ロボットについて、二つ以上の軸についてプログラムによって動作し、ある程度の自律性をもち、環境内で動作をして所期の作業を実行する運動機構と定義し、産業用ロボットについて、産業オートメーション用途に用いるため、位置が固定又は移動し、3軸以上がプログラム可能で、自動制御され、再プログラム可能な多用途マニピュレータ(互いに連結され相対的に回転又は直進運動する一連の部材で構成され、対象物をつかみ、動かすことを目的とした機械)と定義していることが認められる。これらの字義等に照らすと、所定の目的のために自律性をもって動作等をする機械又は装置は、少なくともロボットに類似するものであるといえる。
別紙「被告商品の指定商品該当性」の「被告サイトにおける説明」欄によれば、非類似商品を除く被告商品のうち、「被告商品」欄の「2.無人機・ドローン」の「(1)無人機・ドローンキット/ARF/RTF」、「(2)完成品(RTF)/半完成品(ARF)」、「(3)無人機・ドローン 完成品(RTF)」、「(4)小型/超小型無人機」、「(6)Vテール」、「(7)クワッドコプター」、「(8)ヘキサコプター/オクタコプター」及び「(9)飛行機」(以下、これらを「ロボット類似品」と総称する。)は、所定の目的のために自律飛行が可能なものが含まれるものと認められ、少なくともロボットに類似するものといえる。
一方、ロボット類似品を除くその余の被告商品は、いずれもロボット製作に使用する部品や汎用的な部品、製作機器等であって、ロボットに類似するとはいえない。
以上から、裁判所は、原告が、被告商品のうちロボット類似品に対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則により許されないと判断しました。
争点④について
争点④(商標法26条1項2号該当性)について、被告は、ロボット関連商品を販売するオンラインショップに「RobotShop」と表示することは、商標法26条1項2号所定の「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称」(Robot、ロボット)及び「販売地」(Shop、店舗)を普通に用いられる方法で表示することに該当すると主張しました。
これに対して裁判所は、被告標章が、被告各サイトにおいて、各ページのタイトル部分や販売業者の情報が記載されたページの上部に表示されていることに加え、被告標章には歯車やねじ穴様のデザインが施されていることに照らすと、被告標章が被告商品(非類似商品及びロボット類似品を除く。)を販売するオンラインショップの画面に表示された場合に、被告標章に接した需要者は、被告標章を、「ロボット」及び「販売地(店舗)」の意味に理解するのではなく、商品の出所を表示していると理解するものと認められ、また、被告標章が商品の普通名称及び販売地を「普通に用いられる方法で表示」しているとは認められないとして被告の主張を排斥しました。
以上の検討の結果、裁判所は、非類似商品及びロボット類似品を除く被告商品(以下「侵害商品」といいます。)は、本件商標権を侵害すると認定しました。
争点⑤について
争点⑤(損害等の発生及びその額)について、裁判所は、以下のとおり、損害額及び利得額を認定しました。
損害賠償請求について
裁判所は、原告と被告の事業がロボット関連商品を販売する点において競業関係にあるため、原告に、被告による侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在するとして、本件に商標法38条2項の適用があるとしました。
商標法38条2項は、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を商標権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定であるところ、商標権者に侵害者による商標権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、同項の適用が認められると解すべきである。
前提事実(1)及び(2)記載のとおり、原告は、平成12年8月4日に設立され、平成27年7月3日に本件商標権の登録を受けたところ、証拠(乙13~17、25、44の1、46、47)及び弁論の全趣旨によれば、原告が管理するウェブサイト(以下「原告サイト」という。)において、ロボット関連商品(以下「原告商品」という。)を多数販売していることが認められる。そうすると、原告は、遅くとも、平成28年2月2日の時点において、原告商品を販売していたことが認められ、原告と被告の事業は、ロボット関連商品を販売する点において競業関係にあるものといえる。
したがって、原告に、被告による本件商標権の侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在することが認められ、商標法38条2項が適用される。
そして、裁判所は、損害賠償期間における侵害商品の売上合計額を4億7647万9882円、限界利益額(売上げから、原価、梱包費等の経費を控除したもの)の合計を1億1306万8476円と認定した上で、同条によって推定される損害額は1億1306万8476円であると認定しました。
もっとも、(i)本件商標が「ロボットの店」などの意味で理解され得る一般的な語であり、自他商品識別力が強いとは言えず、また、原告及び被告は、いずれもインターネット上でロボット関連商品を販売しているところ、このような販売形態や商品内容等に照らすと、需要者は、商品の種類や性能、価格等を重視して購入を決定することから、本件商標が侵害商品の販売に貢献した程度は、相当程度限定的であること、(ii)競業他社等が存在すること等の事情を考慮し、侵害商品の販売によって被告が得た利益の大部分については原告の損害との相当因果関係を阻害する事情があるとして、その推定の覆滅割合を90%と認定しました。
商標法38条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得た利益の一部又は全部について、商標権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で前記の推定は覆滅される。
本件商標は、「ロボットの店」などの意味で理解され得る一般的な語であり、自他商品識別力が強いとはいえず、また、原告及び被告は、いずれも、原告サイト及び被告各サイトにおいて、インターネット上でロボット関連商品である原告商品及び被告商品を販売しているところ、かかる販売形態や商品内容等に照らすと、需要者は、商品の種類や性能、価格等を重視して購入を決定するものと認められるから、本件商標が侵害商品の販売に貢献した程度は、相当程度限定的であるといえる。これに加え、自社のウェブサイトに「RobotShоp」や「ROBOT SHOP」と表示してロボット関連商品をインターネット上で販売している競業他社等が存在すること(乙48)、その他本件に現れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件において、侵害商品の販売によって被告が得た利益の大部分については原告の損害との相当因果関係を阻害する事情があるというべきであり、その推定の覆滅割合は90%と認めるのが相当である。
以上より、損害額は、1130万6847円と認定されました。
不当利得返還請求について
裁判所は、以下のように述べ、侵害者が登録商標の使用に当たり商標権者に対して支払うべきであった使用料相当額が不当利得における受益者の利得の額に相当し、かつ権利者の損失の額に相当するとしました。
商標法38条3項所定の「受けるべき金銭の額に相当する額」は、本来、侵害者が登録商標の使用に当たり商標権者に対して支払うべきであった使用料相当額であるから、侵害者がこれを支払うことなく登録商標を使用した場合は、その使用により、侵害者は同額の利得を得、商標権者は同額の損失を受けたものと評価することが可能である。したがって、使用料相当額が、不当利得(民法703条)における受益者の利得の額に相当し、かつ、権利者の「損失」の額に相当すると認められる。
そして、本件商標の使用許諾契約の存在は認められなかったところ、裁判所は、原告が証拠として提出した帝国データバンクのロイヤルティ料率のアンケート調査結果(以下「本件報告書」といいます。)、原告と被告とが競業関係にあること、被告の設立時の出資者が創始者であるカナダに本社があるRobot Shop Inc.の商号としても使用されていること、上述のとおり本件商標の貢献の程度が限定的であること等の事情を総合的に考慮し、本件商標の使用に対して受けるべき料率は2%が相当であると認定しました。
本件において、本件商標の使用許諾契約の存在を認めるに足りず、本件報告書において、商標権のロイヤルティ料率は、第7類の平均値が1.8%、最大値が9.5%、最小値が0.5%、標準偏差が2.3%であり、第9類の平均値が2.7%、最大値が9.5%、最小値が0.5%、標準偏差が1.9%であることが認められる(甲27)。これらに、原告と被告は競業関係にあり、本件商標はカナダ法人の商号としても使用されている一方、前記(1)ウのとおり、本件商標の貢献の程度は限定的であること、その他本件に現れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件商標の使用に対して受けるべき料率としては2%が相当であると認める。
上記を踏まえ、裁判所は、不当利得が主張された期間の侵害商品の売上合計額1億2521万7855円の2%に相当する250万4357円が被告に生じた不当利得額であると認定しました。
争点⑥について
争点⑥(差止めの必要性があるか)について、裁判所は、被告が本件商標権の侵害を争っており、また、被告標章を付して侵害商品を販売することを中止したことをうかがわせる証拠がないとして、差し止めの必要性が認められると判断しました。
コメント
本判決は、原告が出願過程において一部の商品・役務を指定商品等から除外したという経緯より出願経過禁反言が適用された事例です。出願過程における対応が将来の権利行使に与える影響を考える上で参考になると思われます。
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(文責・金村)
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