令和5年(2023年)4月28日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス新法。以下「新法」といいます)が可決成立し、同年5月12日に公布されました。新法は、働き方の多様化が進む中で、一定のフリーランスに係る取引の適正化や就業環境の整備を図るために、業務を委託する事業者に一定の義務を課すものです。取引の適正化については、下請代金支払遅延等防止法(下請法)を参考にした規律が設けられ、また、就業環境の整備については、労働法的性格を有する規律が設けられています。新法は、令和6年(2024年)秋頃までの施行が予定されています。

本稿では、新法への対応に備え、まずは新法による取引の適正化について解説します。新法による就業環境の整備については、「『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律』(いわゆるフリーランス新法)について②」をご覧ください。

ポイント

骨子

  • 新法は、あらゆるフリーランスに適用されるものではなく、特にフリーランスの保護が求められる類型(特定受託事業者への業務委託)に限って適用されます。
  • 新法の目的の一つには取引の適正化がありますが、その規定内容は多くの部分で下請法の規定をベースにしています。
  • 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をしたときは、直ちに、当該業務委託の給付内容や報酬額を特定受託事業者に明示する必要があります。明示の方法については、書面又は電磁的方法の選択権が認められています。
  • 特定業務委託事業者が特定受託事業者に業務委託をした場合における報酬の支払期日は、成果物等の受領日(役務提供では役務提供の日)から60日以内のできる限り短い期間内に定める必要があります。
  • 受領拒否の禁止、減額の禁止等、特定業務委託事業者が遵守すべき事項が定められています。

法律の概要

法律名 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
法律番号 令和5年法律第25号
成立日 令和5年(2023年)4月28日
公布日 令和5年(2023年)5月12日
施行日 公布日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日

解説

「フリーランス」とは

新法は「フリーランス新法」「フリーランス保護法」などと呼ばれます。「フリーランス」の定義は明確に定まっていませんが、内閣官房ほか「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和3年3月26日。以下「フリーランスGL」といいます)では、「フリーランス」は「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る」個人を指すものとされています。

フリーランスで活動する人が比較的多い職種としては、例えばデザイナー、システムエンジニア、Webライター、家庭教師、家事代行、最近ではフードデリバリーの配達パートナーが挙げられます。

もっとも、以下で説明するとおり、新法の保護対象はこのような一般的な理解と完全に一致するものではなく、あくまで「特定受託事業者」を保護するものである点に注意する必要があります。

制定の経緯

近年、働き方の多様化が進み、自分の仕事のスタイルで働きたい人や、時間や場所にとらわれずに働きたい人がフリーランスを選択しています。その反面、フリーランスは基本的に労働法では保護されないこと、フリーランスとの契約は口約束も多く、約束どおりに報酬が支払われないといったトラブルも報告されていたこと等から、フリーランス保護の必要性が高まっていました。

この間、令和2年(2020年)にはフリーランスの実態調査が実施され、政府においては、当該調査やその後の追加調査の結果も踏まえ、ガイドラインの作成や立法的対応が検討されていました。ガイドラインとしては、令和3年(2021年)3月に内閣官房、公正取引委員会(公取委)、中小企業庁及び厚生労働省の連名でフリーランスGLが策定され、そこでは、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)・下請法・労働関係法令の適用関係が整理されるとともに、フリーランスを巡る諸問題について、独占禁止法(優越的地位濫用)や下請法上の考え方が明確化されました。他方、立法的対応として実現した法律が今回の新法です。

施行日

新法の施行日は、公布日(令和5年(2023年)5月12日)から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日と定められており(附則1項)、令和6年(2024年)秋頃までには新法が施行される予定です。

対象となる取引・当事者の範囲

新法は、あらゆるフリーランスに適用されるものではなく、特にフリーランスの保護が求められる類型に限って適用されます。

対象となる取引は「業務委託」に限定されており、フリーランスが雇用形態で働く場合や、フリーランスが物を販売する場合は除外されています。新法における「業務委託」とは、事業者がその事業のためにする以下のいずれかの行為をいいます(新法2条3項)。

  • 他の事業者に物品の「製造」(加工を含む)又は「情報成果物の作成」を委託すること
  • 他の事業者に「役務の提供」を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む)

「情報成果物」とは、プログラム、映像コンテンツ、デザイン等をいいます(新法2条4項)。下請法とは異なり、修理委託(下請法2条2項)は明記されていませんが、役務提供委託の中に含まれると整理されています(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&A」。以下「新法Q&A」といいます)。役務提供委託については、下請法上の役務提供委託(下請法2条4項)と異なり自家利用役務(他者に対して提供させるのではなく、発注事業者が自ら利用する役務)が対象とされている点に特徴があります。

また、フリーランスへの業務委託の全てが対象となるものでもありません。まず、受注事業者は「特定受託事業者」と定義されています。「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、以下のいずれかに該当するものをいいます(新法2条1項)。

  • 個人であって、従業員を使用しないもの
  • 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう)がなく、かつ、従業員を使用しないもの

すなわち、法人化せずに1人で活動しているフリーランスか、形式的には法人化しているけれども他の役員も従業員もおらず実質的に個人と変わらないフリーランスに限定されるということです。ここでいう「従業員」は、具体的には、週労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者が想定されています(新法Q&A)。

新法によって一定の義務を負う発注事業者の定義については、2つのグループがあります。1つ目は「業務委託事業者」で、これは特定受託事業者に業務委託をする事業者をいいます(新法2条5項)。要は、特定受託事業者に業務委託をする全ての事業者です。2つ目は、「特定業務委託事業者」で、これは業務委託事業者のうち、以下のいずれかに該当するものをいいます(新法2条6項)。

  • 個人であって、従業員を使用するもの
  • 法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの

すなわち、「特定業務委託事業者」というのは、個人か法人かは問われませんが、いずれにせよ他の役員や従業員がおり、組織化されているものに限定されるということです。下請法と異なり、発注事業者が一定の資本金を有していることは要件とされていません。

取引条件の明示等の義務(3条)は、特定業務委託事業者を含む業務委託事業者に広く適用されるため、例えばフリーランス間の取引であっても適用される場合があります。他方、報酬の支払期日等に関する義務(4条)と特定受託者の遵守事項(5条)は、特定業務委託事業者にのみ適用されます(後者については、適用の要件が更に加重されています。詳しくは後述)。組織化されている事業者が発注事業者となる場合には、より多くの義務を課されるということです。

取引の適正化

総論

下請法は、資本金が1000万円を超える事業者が発注事業者(親事業者)となる場合に、委託内容等を記載した書面の交付義務(下請法3条)や下請代金の支払期日を成果物等の受領日(役務提供委託では役務提供の日)から60日以内のできる限り短い期間内に定める義務(下請法2条の2)を課すとともに、一方的な代金減額や返品といった一定の不利益行為を禁止しています(下請法4条)。

新法は一定のフリーランスに係る取引の適正化を図るものですが、その規定内容は多くの部分で下請法の規定をベースにしています。以下では、取引の適正化に関する3つの条文を下請法とも対比しながら紹介します。

取引条件の明示等(新法3条)

(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)

第三条 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。

2 業務委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、特定受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。ただし、特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。

業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をしたときは、直ちに、当該業務委託の給付内容や報酬額を特定受託事業者に明示する必要があります。この義務は、特定業務委託事業者を含む業務委託事業者に広く適用されるため、例えばフリーランス間の取引であっても適用される場合があります。

下請法では原則として書面の交付が求められますが(下請法3条1項)、フリーランスが関与する取引では電子メール等の電磁的方法による受発注が浸透しているため、新法は書面又は電磁的方法の選択権を認めています。ただし、特定受託事業者から書面交付を求められたときは、それに対応する必要があります。

成果物等の内容、報酬額、支払期日以外で明示すべき事項は、後日、公正取引委員会規則で定められる予定です。

「直ちに」とは一切の遅れを許さない趣旨であるため、業務委託の発注後、時間をおかずに対象事項を明示する必要があります。ただし、業務委託の時点で内容が定められないことにつき正当な理由がある事項は、内容の特定後、直ちに明示することで足ります。正当な理由がある場合の具体例としては、「放送番組の作成委託において、タイトル、放送時間、コンセプトについては決まっているが、委託した時点では、放送番組の具体的な内容については決定できず、『報酬の額』が定まっていない場合」が挙げられています(新法Q&A)。

報酬の支払期日等(新法4条)

(報酬の支払期日等)

第四条 特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた日。次項において同じ。)から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

2 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。

3 前二項の規定にかかわらず、他の事業者(以下この項及び第六項において「元委託者」という。)から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、当該業務委託に係る業務(以下この項及び第六項において「元委託業務」という。)の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合(前条第一項の規定により再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日(以下この項及び次項において「元委託支払期日」という。)その他の公正取引委員会規則で定める事項を特定受託事業者に対し明示した場合に限る。)には、当該再委託に係る報酬の支払期日は、元委託支払期日から起算して三十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

4 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは元委託支払期日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは元委託支払期日から起算して三十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。

5 特定業務委託事業者は、第一項若しくは第三項の規定により定められた支払期日又は第二項若しくは前項の支払期日までに報酬を支払わなければならない。ただし、特定受託事業者の責めに帰すべき事由により支払うことができなかったときは、当該事由が消滅した日から起算して六十日(第三項の場合にあっては、三十日)以内に報酬を支払わなければならない。

6 第三項の場合において、特定業務委託事業者は、元委託者から前払金の支払を受けたときは、元委託業務の全部又は一部について再委託をした特定受託事業者に対して、資材の調達その他の業務委託に係る業務の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない。

特定業務委託事業者が特定受託事業者に業務委託をした場合における報酬の支払期日は、成果物等の受領日(役務提供では役務提供の日)から60日以内のできる限り短い期間内に定める必要があります。この義務は、業務委託事業者のうち、特定業務委託事業者にのみ課されるものです。

受領日とは、検収完了日ではなく、(それより前の)成果物等が特定業務委託事業者の支配下に移転した日を意味すると理解されています。

支払期日を定めなかったときは、成果物等の受領日が支払期日となり、また、期間制限に違反して長期の支払期日を定めたときは、成果物等の受領日から60日を経過する日が支払期日となります。

特定業務委託事業者が他の事業者(元委託者)から業務委託を受けた業務の全部又は一部を特定受託事業者に再委託する場合には、特定受託事業者に対する報酬の支払期日は、元委託業務の対価の支払期日から30日以内のできる限り短い期間内に定めれば足ります。当該期間内であれば、特定受託事業者からの給付の受領日から60日を超えていても違法とはなりません。ただし、再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日等を特定受託事業者に明示する必要があります。この例外は、下請法には見られない規律であり、発注事業者の支払期日の設定に柔軟性を持たせることで、フリーランスへの発注を躊躇させないようにするものです。

特定業務委託事業者は、定められた支払期日までに報酬を支払う必要があります。もっとも、下請法とは異なり、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」を勘案する余地が認められています。また、下請法が適用される場合には、発注事業者が下請代金の支払を遅延すると年14.6%の遅延利息が発生しますが(下請法4条の2、下請代金支払遅延等防止法第4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則)、新法ではこのような特別の遅延利息は定められていません。このように、支払遅延や不払についても、下請法上の厳格な規制がやや緩和されているといえます。

特定業務委託事業者の遵守事項(新法5条)

(特定業務委託事業者の遵守事項)

第五条 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条において同じ。)をした場合は、次に掲げる行為(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、第一号及び第三号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。

一 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと。

二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。

三 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること。

四 特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること。

五 特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。

2 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、次に掲げる行為をすることによって、特定受託事業者の利益を不当に害してはならない。

一 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること。

特定業務委託事業者の遵守事項を定めるものです。ただし、この義務は、適用の要件が更に加重されており、「政令で定める期間」以上の期間行う業務委託をする特定業務委託事業者にのみ課されます。その理由については、新制度の素案に関するパブリック・コメントへの回答において、新制度がフリーランスについて業種横断的に共通する必要最低限の規律を設けるものであり、過度な規制とならないように、発注事業者に経済的に依存し従属的な立場に置かれるおそれがあると考えられる継続的な業務委託を締結している場合の義務とすると説明されています(内閣官房新しい資本主義実現本部事務局「『フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性』に関する意見募集に寄せられた御意見について」(令和4年10月12日)。以下「パブコメ回答」といいます)。

「政令で定める期間」の具体的内容については、現在、公取委に設置された「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」において議論されていますが、「1か月」とする案が有力である模様です(「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会報告書(たたき台)」)。

以下のとおり、本条の遵守事項は、下請法4条の遵守事項と概ね共通しています。いずれも立場の強い発注事業者が陥りやすい典型的な濫用行為を法定したものです。

遵守事項 下請法 新法
受領拒否の禁止 4条1項1号 5条1項1号
支払遅延の禁止 4条1項2号 4条5項
減額の禁止 4条1項3号 5条1項2号
返品の禁止 4条1項4号 5条1項3号
買いたたきの禁止 4条1項5号 5条1項4号
購入・利用強制の禁止 4条1項6号 5条1項5号
報復措置の禁止 4条1項7号 6条3項
有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止 4条2項1号
割引困難な手形の交付の禁止 4条2項2号
不当な経済上の利益の提供要請の禁止 4条2項3号 5条2項1号
不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止 4条2項4号 5条2項2号

なお、支払遅延の禁止と報復措置の禁止(公取委等への被害申告を理由とした不利益取扱いの禁止)については、新法では「遵守事項」以外の場所で定められています。その結果、これらの義務は、継続的業務委託の要件の対象外であり、単発・短期間の業務委託をする特定業務委託事業者にも適用されます。

受領拒否の禁止(新法5条1項1号)

特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者が作成した成果物等の受領を拒むことが禁止されています。

減額の禁止(新法5条1項2号)

特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずることが禁止されています。発注時に低額の報酬を定めることは、減額ではなく買いたたきの問題になり得ます。

返品の禁止(新法5条1項3号)

特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者が作成した成果物等を受領した後、特定受託事業者にそれを返品することが禁止されています。

買いたたきの禁止(新法5条1項4号)

特定受託事業者が作成する成果物等の内容と同種・類似のものに対し通常支払われる対価と比べ、著しく低い報酬の額を不当に定めることが禁止されています。

購入・利用強制の禁止(新法5条1項5号)

特定業務委託事業者の指定する原材料等を強制的に購入させ、又はサービスを強制的に利用させることが禁止されています。ただし、特定受託事業者が作成する成果物等の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合は除かれています。

不当な経済上の利益の提供要請の禁止(新法5条2項1号)

特定業務委託事業者のために協賛金等の経済上の利益を提供させることにより、受託事業者の利益を不当に害することが禁止されています。

不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止(新法5条2項2号)

特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者が作成する成果物等の内容を変更させ、又はそれを受領した後にやり直させることにより、受託事業者の利益を不当に害することが禁止されています。

法執行

本稿で紹介した規定の違反が疑われる場合には、公取委や中小企業庁長官は、発注事業者に対し報告徴収や立入検査を行うことができます(新法11条)。

これらの違反が認められる場合には、公取委が発注事業者に対し必要な措置をとるべきことを勧告することができます(新法8条)。当該勧告を受けた者がこれに正当な理由なく従わない場合には、公取委は、当該勧告に係る措置を命じ、その旨を公表することができます(新法9条)。当該命令に違反した場合には、50万円以下の罰金に処せられます(新法24条1号)。下請法では、遵守事項について勧告(下請法7条)という手段しか設けられていないため(実務上は併せて勧告の事実が公表されます)、新法の法執行はこれに加えて命令まで認めている点に特徴があります。

特定受託事業者は、これらの違反がある場合には、自ら公取委又は中小企業庁長官に対しその旨を申告することができます(新法6条1項)。公取委等への被害申告を理由とした不利益取扱いも上記の勧告や命令の対象となります。

適用関係

前記遵守事項(新法5条)は、独占禁止法上の優越的地位濫用規制や下請法上の規制と重複する場合があります。また、取引条件の明示等(新法3条)や報酬の支払期日等(新法4条)も下請法上の規制と重複する場合があります。

新法では、この点を整理するような規定は見られません。下請法には発注事業者が公取委の勧告に従えば独占禁止法上の排除措置命令や課徴金納付命令の対象としないという規定がありますが(下請法8条)、新法に同様の規定はありません。これらの適用関係(法執行における優先関係等)については、今後、必要な範囲でガイドライン等により明らかにされる予定です(パブコメ回答)。

コメント

発注事業者における新法への対応準備においては、第一に、自社において対象取引が存在し、自社が対象当事者に該当するかどうかを確認する必要があります。まずは「1人で活動しているように見えるフリーランスとの取引」の有無・数量の洗出しから始めることになるでしょう。

その際、下請法の観点も忘れてはいけません。自社の資本金が1000万円を超えていれば、そもそもフリーランスとの取引には下請法が適用される可能性があり、新法の施行を待つまでもなく下請法への対応が必要になります。下請法への対応が完了していれば、本稿で解説した内容について、新法のために追加で対応すべき事項はそれほど多くないと思われます。

フリーランスへの取引条件の明示については、下請法とは異なり、電磁的方法を原則とすることもできます。その場合には、取引条件を通知するメールのテンプレート等を準備しておくとよいと思われます。

新法の解釈等については、今後ガイドライン等が公表される予定ですので、その内容も注目されます。

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(文責・溝上)