大阪地方裁判所民事第26部(松阿彌隆裁判長)は、令和5年5月11日、自社と競合するネットショップが著作権を侵害しているとAmazonに申告した被告の行為について、不正競争防止法違反(虚偽事実告知行為)と判断し、原告の損害賠償請求を認容しました。

ポイント

骨子

  • 競合先が著作権侵害をしていないのに、Amazonの権利侵害申告のWebフォームから著作権侵害をしていると申告する行為は、「虚偽の事実」の告知に該当する。
  • 自ら「著作権侵害」の項目を選択の上で申告を行う行為は、Amazonに対して自ら積極的に著作権侵害の虚偽事実を申告するものであり、少なくとも過失が認められ、違法である。

判決概要

裁判所 大阪地方裁判所民事第26部
判決言渡日 令和5年(2023年)5月15日
事件番号 令和3年(ワ)第11472号 損害賠償請求事件
原告 ANSON株式会社
被告 P1
裁判官 裁判長裁判官 松阿彌   隆
裁判官    杉 浦 一 輝
裁判官    布 目 真利子

解説

虚偽事実告知行為とは

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を害するいくつかの行為を「不正競争」行為として定めています。これらの行為は差止(3条)の対象になるとともに、行為者に故意又は過失がある場合には、損害賠償(4条)の対象にもなります。
「不正競争」行為のうち、不正競争防止法2条1項21号は、競合先の営業上の信用を害する虚偽の事実を第三者に告知したり、広く流布したりする行為を不正競争行為として定めるものです。

不正競争防止法
(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
二十一 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為

特許権等の知的財産権の権利者が、自社の競合先が権利を侵害する製品を販売していると考えた際に、自社の競合先に権利行使をするだけでなく、競合先の顧客(商社、卸売、小売等)に対して、競合先が権利侵害をしていると告知したり、競合先の顧客に対し権利行使(顧客が競合先から仕入れた被疑侵害品を販売することの差止や損害賠償の請求)をしたりする場合があります。
その際、現に競合先の被疑侵害品が侵害であればよいのですが、知的財産権侵害かどうかの判断は難しいことも多く(思いもよらない無効資料が出てくることもあります)、後日、裁判所が非侵害だと判断することも有り得ます。
非侵害とされると、「競合先が権利侵害をしている」という告知内容は「虚偽」だったことになり、翻って、権利者による競合先の顧客への告知や権利行使は、虚偽事実告知行為(不正競争防止法2条1項21号)となり得ます。

虚偽事実告知行為に関する過去の裁判例

上記のような行為について、知的財産権非侵害とされれば直ちに虚偽事実告知行為に該当するという考え方もある一方、過去の裁判例においては、権利者が競合先の顧客に訴訟提起する場合だけでなく、訴え提起の前提としてなす警告についても、訴訟提起が違法になる場合と同じような、ごく限定的な場合(事実的、法律的根拠を欠くことを知り又は容易に知り得た、あるいは社会通念上必要と認められる範囲を超えた内容、態様となっている場合)に限って虚偽事実告知行為に該当すると判断した東京高裁平成14年8月29日判決もありました。その後の裁判例では、知的財産権非侵害とされれば原則として虚偽事実告知行為に該当することを前提に、競合先の顧客への告知が正当行為(正当な知的財産権の行使)と言える場合には違法性を阻却し、差止・損害賠償のいずれも認められないとするものや、違法性は肯定して告知の差止請求は認めつつ、知的財産権の行使である点は損害賠償請求の要件である故意・過失において考慮したもの等があります。

プラットフォーマーへの申告と虚偽事実告知行為

Amazon等プラットフォーマーに対し、競合先が権利侵害をしていると申告する行為も、後日権利侵害ではなかったと判断されれば、虚偽事実告知行為に該当し得ることになります。
過去の裁判例でも、競合先が商標権を侵害しているとAmazonに申告した行為について、商標権侵害はなく、申告行為は虚偽事実告知行為であると認定し、損害賠償請求を認容した東京地裁令和2年7月10日判決があります(詳しくはこちらの記事をご参照ください)。

事案の概要

本件では、写真集、卓上カレンダー、単語帳等の韓流グッズを仕入れてAmazonに出品する被告(P1)が、原告(ANSON株式会社、同じく韓流グッズを仕入れてAmazonに出品するネットショップ「韓流BANK」を運営)に著作権を侵害されたとして、10回にわたり、Amazonの専用WebフォームによりAmazonに申告していました。これに対し、原告は、著作権侵害ではないとして、逆に被告の申告行為が虚偽事実告知行為に該当すると主張し、被告に対し損害賠償を求めたのが本件訴訟です。
被告は、上記の申告より前に、Amazonに対し、原告(「韓流BANK」)に商品画像、商品名及び商品の説明文を盗用されたと連絡していたところ、AmazonからWebフォームでの入力を案内され、Webフォーム上で「著作権侵害」を選択して申告したという経緯がありました。
①被告の申告が「虚偽の事実」だったか(原告に著作権侵害があったか)、②損害賠償が認められるか(被告に故意又は過失があったか)が問題となりました。

判旨

「虚偽の事実」の該当性

まず、裁判所は、韓流グッズの「商品画像、商品名及び商品の説明文」は、いずれも被告の著作物とは認められないと判断しました。

(商品画像)
被告各画像のうち、写真集又は卓上カレンダーに係る画像である被告画像1、2及び4ないし10は、販売する商品がどのようなものかを紹介するために、平面的な商品を、できるだけ忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体の画像である。(中略)写真集等という本件各商品の性質や、正確に商品の態様を購入希望者に伝達するという役割に照らして、商品の写真自体(ないしそれ自体は別途著作物である写真集のコンテンツとしての写真)をより忠実に反映・再現したものにすぎない。
単語帳に係る画像である被告画像3は、前記同様に商品をできるだけ忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体を撮影した平面的な画像2点と、扇型に広げた商品の画像1点を配置したものであり、当該配置・構図・カメラアングル等は同種の商品を紹介する画像としてありふれたものであるといえ、被告独自のものとはいえない。
以上より、被告各画像は、被告自身の思想又は感情を創作的に表現したものとはいえず、著作物とは認められない

(商品名)
商品名については、いずれも商品自体に付された商品名をそのまま使用するか、欧文字をカタカナ表記に変更したり、大文字表記を小文字表記にしたり、単に商品の内容を一般的に説明したにとどまるありふれたものであって、著作物とは認められない

(商品の説明文)
被告は、本件各申告には被告サイト上の商品の説明文に関する著作権侵害も含まれるかのように主張するが、具体性を欠く上、その説明が創作性を有するとは想定できず、失当である

その上で、裁判所は、原告の各画像は被告の各画像を盗用したものではなかったとして、被告によるAmazonへの申告は「虚偽の事実」の告知であると判断しました。

(盗用について)
被告各画像等についていずれも著作物とは認められない以上、仮に原告が原告サイトにおいて被告各画像等を使用したとしても、著作権侵害は成立しない
その点を措くとしても、原告が、アマゾンから出品停止の連絡を受けた後、被告に対して2度にわたり原告サイトについて著作権侵害と判断した理由等を尋ねる旨のメールを送信するとともに、原告訴訟代理人に委任の上で本件通知書を送付していること、本件通知書には、原告を含む競業他社が同一商品を独自に撮影した商品写真を使用する場合には被告商標を付さない限り被告の商標権を侵害しない旨記載されていること(前記(3)オ、キ)、少なくとも本件商品2、6及び8ないし10の商品名は原告サイトと被告サイトとで異なること(前記(1)イ、(2)イ)、そのほか原告各画像が被告各画像それ自体であることを的確に示す証拠が存しないこと等の事情に照らせば、原告が原告サイトに掲載していた原告各画像は、被告各画像を盗用したものではなかったと認めるのが相当である

なお、被告は、Amazonが本件各申告を受けて出品を停止したこと及び被告からの問合せに対してAmazonが被告の申告が適切であったと回答していること等から、原告が被告各画像を盗用していた事実が強く推認されると主張しましたが、裁判所は、Amazonにおいて権利侵害申告がどのように処理されているかは不明であるとして、上記認定は左右されないとしました。

被告の故意過失・違法性

損害賠償請求が認められるためには、被告が故意又は過失により虚偽事実告知行為を行ったことが必要です(不正競争防止法4条)。
この点について裁判所は、被告は自ら積極的に申告を行っており、少なくとも過失があると認定しました。

被告は、アマゾンから、権利侵害の申告に係る手続について、知的財産権の侵害を理由とする場合の通知方法、ASINの重複を理由とする場合の通知方法及びそれぞれ個別に申告することが必要であるとのメールを受信し、自らASINの重複を申告する方法ではなく知的財産権の侵害を理由とする場合の方法を選択し、申告に係る原告各画像等を特定し、「著作権侵害」の項目を選択の上で本件各申告を行っている。このような被告の行動に照らせば、被告は、アマゾンに対して自ら積極的に著作権侵害の虚偽事実を申告したといえ、被告が本件各申告をするにつき、少なく
とも過失が認められ、本件各申告は違法である

また、権利行使の一環であり、被告に故意過失はなく、又は違法性を欠くとの被告の主張についても、認められないと判断しました。

被告は、権利行使の一貫として本件各申告を行い、やむを得ず著作権侵害という選択肢を選んだにすぎないこと、著作物性の判断を正確に行った上で申告することが求められるとすれば権利行使を不必要に萎縮させる等と主張するが、被告に本件各商品に関する知的所有権がないことは自明である上、原告からの問合せに対応することなく本件各申告を続けたとの事実関係のもとでは、採用の限りでない

損害賠償額

裁判所は、被告の虚偽事実告知行為により原告が受けた損害に関し、出品停止期間中の逸失利益と弁護士費用の合計5万2492円の損害賠償を被告に命じました。

コメント

Amazon等のプラットフォーマーに対する侵害申告も、競合先の顧客(Amazon等)に競合先が知的財産権侵害をしていると告知する行為の一類型であり、後日、裁判所に非侵害だったと判断されると、当該申告行為は、本判決のように、虚偽事実告知行為(不正競争防止法2条1項21号)に該当し得ることになります。本件では認容された損害賠償額は少額でしたが、競合先が出品停止措置で大きな損害を被れば、損害賠償額が大きくなるおそれもあります。
そのため、競合先自身に対する権利行使ではなく、競合先の顧客に告知や権利行使を行う場合は、これらもリスクもふまえて対応を検討することになります。

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(文責・藤田)