知的財産高等裁判所第4部(大鷹一郎裁判長)は、令和元年12月19日、権利能力のない社団(飲食店組合)の代表者個人名義でなされた商標登録に関して、同代表者と同組合とは同一人と見做して取り扱うのが相当であると判断し、同組合を使用主体とする標章は「他人」の商標に該当するものではなく、商標法4条1項10号等に該当しないとして、原告が請求した商標登録無効審判を棄却した特許庁の審決を維持し、審決取消請求を棄却しました。

ポイント

骨子

  • (権利能力のない社団における商標権の帰属)被告は、権利能力のない社団である南三陸町飲食店組合の代表者として、南三陸町飲食店組合のために本件商標の商標登録出願をし、その登録を受けたこと、南三陸町飲食店組合は、本件商標の商標登録出願及びその商標登録について、総会の決議で承認していることが認められるから、本件商標権は、実質的には南三陸町飲食店組合が有しているものと認められる。
  • (商標法4条1項10号該当性)本件商標の商標登録出願及びその商標登録に関しては、被告と南三陸町飲食店組合とは同一人とみなして取り扱うのが相当であるから、・・・使用主体を南三陸町飲食店組合とする「南三陸キラキラ丼」の標章は、本件商標との関係では、「他人」の「業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標」に該当するものと認めることはできない。
  • (商標法4条1項15号該当性)本件商標の商標登録出願及びその商標登録に関し、被告と南三陸町飲食店組合は同一人とみなして取り扱うのが相当であるから、本件商標は「他人」の「業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に当たらない。
  • (商標法4条1項19号該当性)本件商標は、「他人」の「業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」ではない
  • 判決概要(審決概要など)

    裁判所 知的財産高等裁判所第4部
    判決言渡日 令和元年12月19日
    事件番号 令和元年(行ケ)第10101号 審決取消請求事件
    商標番号等 第5579047号 南三陸キラキラ丼(標準文字)
    審決番号 無効2018-890031号
    裁判官 裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
    裁判官    國 分 隆 文
    裁判官    筈 井 卓 矢

    解説

    商標登録無効審判

    商標法46条は、以下の通り、商標登録の無効審判を請求することができる旨定めています。

    商標法第46条(商標登録の無効の審判) *抜粋
    1 商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。

    一 その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条の規定に違反してされたとき。

    二 その商標登録が条約に違反してされたとき。

    三 その商標登録が第五条第五項に規定する要件を満たしていない商標登録出願に対してされたとき。

    七 地域団体商標の商標登録がされた後において、その商標権者が組合等に該当しなくなったとき、又はその登録商標が商標権者若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているもの若しくは第七条の二第一項各号に該当するものでなくなっているとき。

    2 前項の審判は、利害関係人に限り請求することができる。

    このように、登録された商標が同条1項記載の各要件に該当するときは、利害関係を有する者は、特許庁に対して、商標登録の無効審判を請求することができます。

    商標登録無効審判請求に対して、商標登録を無効にすべき旨の特許庁審決が確定した場合の効果については、商標法において、以下の通り、定められています。

    商標法第46条の2
    1 商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、商標権は、初めから存在しなかったものとみなす。ただし、商標登録が前条第一項第五号から第七号までに該当する場合において、その商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、商標権は、その商標登録が同項第五号から第七号までに該当するに至った時から存在しなかったものとみなす。

    2 前項ただし書の場合において、商標登録が前条第一項第五号から第七号までに該当するに至った時を特定できないときは、商標権は、その商標登録を無効にすべき旨の審判の請求の登録の日から存在しなかったものとみなす。

    他方、特許庁において、商標登録の無効審判を求める請求を棄却する審決(不成立審決)がなされた場合には、当該商標登録は維持されます。

    かかる特許庁の審決について、不服のある当事者は、次の通り、不服申立をすることが可能です。

    審決に対する不服申立

    特許庁の審決に不服がある場合には、以下の通り、審決謄本の送達日から30日以内に、知的財産高等裁判所に対して、審決取消訴訟を提起することができます。

    商標法第63条(審決等に対する訴え)
    1 取消決定又は審決に対する訴え、第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する第十六条の二第一項の規定による却下の決定に対する訴え及び登録異議申立書又は審判若しくは再審の請求書の却下の決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする。

    2 特許法第百七十八条第二項から第六項まで(出訴期間等)及び第百七十九条から第百八十二条まで(被告適格、出訴の通知等、審決取消訴訟における特許庁長官の意見、審決又は決定の取消し及び裁判の正本等の送付)の規定は、前項の訴えに準用する。この場合において、同法第百七十九条中「特許無効審判若しくは延長登録無効審判」とあるのは、「商標法第四十六条第一項、第五十条第一項、第五十一条第一項、第五十二条の二第一項、第五十三条第一項若しくは第五十三条の二の審判」と読み替えるものとする。

    特許法第178条(審決等に対する訴え) *抜粋
    2 前項の訴えは、当事者、参加人又は当該特許異議の申立てについての審理、審判若しくは再審に参加を申請してその申請を拒否された者に限り、提起することができる。

    3 第一項の訴えは、審決又は決定の謄本の送達があった日から三十日を経過した後は、提起することができない。

    4 前項の期間は、不変期間とする。

    6 審判を請求することができる事項に関する訴えは、審決に対するものでなければ、提起することができない。

    後述の通り、本件において、原告は、特許庁に対して、被告商標の登録無効審判請求を行いましたが、特許庁より請求不成立(無効理由がないものとして請求を認めない)の審決がなされたことから、知的財産高等裁判所に対して、審決取消請求訴訟を提起したものです。

    商標の登録要件

    商標登録の消極的要件(商標法4条1項の規定)

    日本では、商標については登録主義が採用されているため、商標権を取得するためには、特許庁において、商標登録を行う必要があります。

    この点、商標法においては、商標の登録要件が種々定められていますが、以下の通り、商標法4条1項においては、商標登録を受けることができない事由(消極的要件)が定められています。

    商標法第4条(商標登録を受けることができない商標) *抜粋
    1 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

    十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

    十五 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)

    十九 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

    かかる商標法4条1項の規定に違反して商標登録がなされた場合には、前述の通り、利害関係を有する者は、当該商標登録の無効審判を請求することができます(商標法46条1項1号)。

    後述の通り、本件において、原告は、被告商標が商標法第4条第1項第10号、同15号、同19号に該当する旨(商標登録無効)を主張しました。

    商標法第4条第1項第10号(他人の周知商標)

    他人の周知商標又はこれに類似する商標であって、同一又は類似の商品・役務に使用するものについては、商標登録を受けることはできません(商標法4条1項10号)。

    本号の「需要者の間に広く認識されている商標」には、最終消費者まで広く認識されている商標だけでなく、取引者の間に広く認識されている商標も含まれます。また、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標も含まれます(商標審査基準)。商品の性質上、需要者が一定分野の関係者に限定されている場合には、その需要者の間に広く認識されていれば足りるとされます。

    また、本号の規定を適用するために引用される商標は、商標登録出願の時に、日本国内の需要者の間に広く認識されていなければならないとされます(商標審査基準)。

    商標の類否については、両商標の外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断されることとなります。

    かかる類否判断においては、指定商品又は指定役務における一般的・恒常的な取引の実情を考慮しつつ、その需要者が通常有する注意力を基準として判断することとなります。

    本号に該当する商標については、商標登録は認められず、商標登録された場合には、無効審判事由となります。

    商標法第4条第1項第15号(商品・役務の出所混同のおそれがある商標)

    他人の商品・役務と出所混同を生じるおそれがある商標については、商標登録を受けることはできません(商標法4条1項15号)。

    本号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」には、需要者において、他人の商品等であると出所について混同するおそれがある場合のみならず、その他人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認し、出所について混同するおそれがある場合も含まれます(商標審査基準)。

    本号に該当する商標については、商標登録は認められず、商標登録された場合には、無効審判事由となります。

    商標法第4条第1項第19号(不正の目的で使用する他人の周知商標)

    他人の周知商標又はこれに類似する商標であって、不正の目的をもって使用するものについては、商標登録を受けることはできません(商標法4条1項19号)。

    本号の「外国における需要者の間に広く認識されている商標」とは、我が国以外の一の国において周知であることは必要であるが、必ずしも複数の国において周知であることを要しないとされます。また、商標が外国において周知であるときは、我が国における周知性は問わないものとされます(商標審査基準)。

    また、「不正の目的」の有無は、次のような事情を勘案して判断されます(商標審査基準)。
    ① その他人の商標が需要者の間に広く知られている事実
    ② その周知商標が造語よりなるものであるか、又は、構成上顕著な特徴を有するものであるか
    ③ その周知商標の所有者が、我が国進出する具体的計画(例えば、我が国への輸出、国内での販売等)を有している事実
    ④ その周知商標の所有者が近い将来、事業規模の拡大の計画(例えば、新規事業、新たな地域での事業の実施等)を有している事実
    ⑤ 出願人から商標の買取りや代理店契約締結等の要求を受けている事実、又は出願人が外国の権利者の国内参入を阻止しようとしている事実
    ⑥ 出願人がその商標を使用した場合、その周知商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等を毀損させるおそれがあること

    本号の該否は、周知度、商標の同一又は類似性の程度、不正の目的のそれぞれの判断要素を総合的に勘案して判断するものとされ、商標審査基準では、本号に該当する場合として、次のような例が挙げられています。
    例① 外国で周知な他人の商標と同一又は類似の商標が我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの、又は外国の権利者の国内参入を阻止し若しくは代理店契約締結を強制する目的で出願したもの。
    例② 日本国内で全国的に知られている商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではなくても出所表示機能を稀釈化させたり、その名声等を毀損させる目的をもって出願したもの。

    本号に該当する商標については、商標登録は認められず、商標登録された場合には、無効審判事由となります。

    時系列・事案の概要

    本件の時系列、事案の概要は以下の通りです。

    H21.11 原告の運営施設で本件商標類似標章(本件標章)の使用が開始される。 原告
    H21.12~ 南三陸町飲食店組合の組合員(原告・被告含む)の飲食店で本件標章を使用する。 原告
    被告
    H24.10.22 南三陸町飲食店組合の会議にて本件商標の商標登録出願の提案がなされる。 被告
    H24.11.16 南三陸町飲食店組合の会議にて当時の組合長であった被告個人名義で商標登録出願を行うことが決められる。 被告
    H24.11.29 被告個人名義にて本件商標の商標登録出願を行う。 被告
    H25.05.02 被告個人名義にて本件商標の商標登録を受ける。 被告
    H25.06.04 南三陸町飲食店組合の臨時総会にて本件商標の仕様基準の承認決議がなされる。
    原告は販売期間を限定する仕様基準を定めることに反対し、本件商標の使用申請をしなかった。
    被告
    原告
    H25.07.02 原告にて商標登録出願を行う。 原告
    H26.10.13 特許庁より商標法4条1項10号該当を理由に拒絶査定を受ける。 原告
    H27.11.30 原告より拒絶査定不服審判を請求する。 原告
    H28.09.13 特許庁より請求不成立審決(別件審決)を受ける。 原告
    原告より知的財産高等裁判所に審決取消請求訴訟(関連訴訟)を提起する。 原告
    H29.07.19 知的財産高等裁判所より請求棄却判決(関連訴訟判決)がなされる。 原告
    H30.05.02 原告より本件商標の商標登録無効審判を請求する。 原告
    R01.06.06 特許庁より請求不成立審決(本件審決)を受ける。 原告
    R01.07.16 原告より審決取消請求訴訟(本件訴訟)を提起する。 原告

    南三陸町飲食店組合は法人格を有しておらず、当時の組合長であった被告個人名義で被告商標の商標登録出願を行いました。

    原告も従前より南三陸町飲食店組合に加盟しており、原告運営施設で被告商標のもととなった標章を使用し、本件商標登録の申請にも協力しました。

    ところが、原告は商標登録に際して定められた仕様基準(販売期間の限定)に反対し、使用申請しなかったことから、原告運営施設は南三陸町観光協会のウェブサイトおよびパンフレットに提供店として掲載されなくなりました。

    原告は、自ら商標出願したところ、被告商標の存在から商標法4条1項10号該当するものとして、商標登録を拒絶されました。

    そこで、原告は、被告商標の登録無効審判を求めましたが、特許庁より請求不成立審決を受けたことから、被告商標が商標法4条1項10号、15号、19号に該当するものとして、本件訴訟を提起しました。

    判旨

    権利能力のない社団における商標権の帰属

    商標法においては、法人格を有することが商標登録を受けるための要件とされており、個人又は法人でなければ、商標権者となることはできません。
    著作権については、法人格を有しない社団・財団で代表者又は管理者の定めがあるものも著作権者となることができる点で異なります(著作権法2条6項)。

    法人格を有しない、所謂権利能力のない社団においては、団体として商標登録を受けることはできません。
    (*注:「権利能力のない社団」とは、実質的には法人格のある団体同様の活動はしているものの、形式的に法人とはなっていない団体のことをいいます)

    南三陸町飲食店組合は法人格を有していないため、当時の組合長であった被告個人名義で被告商標の商標登録出願を行ったものですが、本件では、被告商標について商標権の帰属(誰が被告商標を有しているのか)が争点となりました。

    この点、裁判所は、以下の通り、被告商標の商標登録出願の経緯等から、実質的には、南三陸町飲食店組合が被告商標を有しているものと判断しました。

    被告は、権利能力のない社団である南三陸町飲食店組合の代表者として、南三陸町飲食店組合のために本件商標の商標登録出願をし、その登録を受けたこと、南三陸町飲食店組合は、本件商標の商標登録出願及びその商標登録について、総会の決議で承認していることが認められるから、本件商標権は、実質的には南三陸町飲食店組合が有しているものと認められる。

    商標法4条1項10号該当性

    裁判所は、本件商標の商標登録出願及び商標登録に関しては、被告と南三陸町飲食店組合とを同一人とみなして取り扱うのが相当であるとして、以下の通り、使用主体を南三陸町飲食店組合とする「南三陸キラキラ丼」の標章は、被告商標との関係では、「他人」の「業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標」に該当するものと認めることはできないと判断し、被告商標の商標法4条1項10号該当性を否定しました。

    本件商標の商標登録出願及びその商標登録に関しては、被告と南三陸町飲食店組合とは同一人とみなして取り扱うのが相当であるから、・・・使用主体を南三陸町飲食店組合とする「南三陸キラキラ丼」の標章は、本件商標との関係では、「他人」の「業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標」に該当するものと認めることはできない。

    したがって、本件商標は、その余の点について判断するまでもなく、商標法4条1項10号に該当しない。

    原告は、被告と南三陸町飲食店組合とを別人格であるため、被告商標は他人である南三陸町飲食店組合の周知商標に該当すると主張しましたが、裁判所は、以下の通り判断し、原告主張を退けました。

    商標法上、法人格を有することが商標登録を受けるための要件とされており、権利能力のない社団が商標登録を受けることは認められていないが、権利能力のない社団の意思決定に基づいてその代表者の個人名義で商標登録出願をし、商標登録を受け、その登録商標を権利能力のない社団の財産として管理することは許容されるものと解される。

    この場合、実体的には、当該登録商標の商標権は、権利能力のない社団の構成員全員に総有的に帰属し、実質的には、当該社団が有しているとみることができるから、当該登録商標の商標登録の効力が、権利能力のない社団の構成員に及ばないとはいえず、本件商標も、これと同様である。

    本件商標については、南三陸町飲食店組合の執行部会議等による協議を経た上で、本件商標の商標登録出願に至ったものであり、その商標登録後ではあるが、南三陸町飲食店組合の総会決議で承認されていること、南三陸町飲食店組合は、本件商標の商標登録後、総会決議で、本件商標の仕様基準を定めていることに照らすと、被告が、独断で本件商標の商標登録を受けたということはできない。

    被告と南三陸町飲食店組合は、被告と南三陸町飲食店組合のF組合長間の令和元年9月26日付け確認書に基づいて、本件訴訟が終了するまでの間、本件商標の登録名義を被告名義としておくことを合意し、被告は、南三陸町飲食店組合に対し、本件訴訟終了後、本件商標の登録名義を同訴訟終了時の同組合の組合長個人名に移転することを約していること・・・に照らすと、被告が南三陸町飲食店組合の組合長を退任した後に本件商標の商標権の移転登録をしていないからといって、被告が南三陸町飲食店組合を代表して本件商標の商標登録出願をしたとの認定を覆すことはできない。

    以上によれば、本件商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「他人」の「業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた商標又はこれに類似する商標」であるとはいえないから、その余の点について判断するまでもなく、本件商標は商標法4条1項10号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはない。

    商標法4条1項15号該当性

    次に、裁判所は、本件商標の商標登録出願及び商標登録に関しては、被告と南三陸町飲食店組合とを同一人とみなして取り扱うのが相当であることを前提として、以下の通り、被告商標は「他人」の「業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に当たらないと判断し、被告商標の商標法4条1項15号該当性を否定しました。

    本件商標の商標登録出願及びその商標登録に関し、被告と南三陸町飲食店組合は同一人とみなして取り扱うのが相当であるから、本件商標は「他人」の「業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に当たらない。

    したがって、本件商標は商標法4条1項15号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはない・・・。

    商標法4条1項19号該当性

    さらに、裁判所は、当該標章は、以下の通り、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、少なくとも宮城県及びその近隣県において、「南三陸町飲食店組合の組合員」の取扱いに係る丼物の提供を表すものとして需要者の間で一定程度知られていたものといえるものであったとして、本件商標は「他人」の「業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」に当たらないと判断し、商標法4条1項19号該当性を否定しました。

    「南三陸キラキラ丼」の標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、少なくとも宮城県及びその近隣県において、「南三陸町飲食店組合の組合員」の取扱いに係る丼物の提供を表すものとして需要者の間で一定程度知られていたものといえるものであり、その使用主体は、「南三陸町飲食店組合」であり、・・・本件商標の商標登録出願及びその商標登録に関し、被告と南三陸町飲食店組合は同一人とみなして取り扱うのが相当である。

    そうすると、本件商標は、「他人」の「業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」ではないから、その余の点について判断するまでもなく、商標法4条1項19号に該当しない。
    したがって、これと同旨の本件審決の判断に誤りはない・・・。

    結論

    このように、裁判所は、被告商標について、原告主張の審判取消事由である商標法4条1項10号、15号、19号該当性をすべて否定し、原告の請求を棄却しました。

    以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
    したがって、原告の請求は棄却されるべきものである。

    コメント

    知的財産高等裁判所第4部(大鷹一郎裁判長)は、権利能力のない社団の代表者個人名義でなされた商標登録に関して、同代表者と同組合とは同一人と見做して取り扱うのが相当であると判断し、同組合の「他人」性を否定しました。
    法人格のない団体に関する商標権の帰属、商標登録要件・無効審判事由としての「他人」性の該否について、実務上参考になるものとして紹介します。

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    (文責・平野)