知的財産高等裁判所第1部(高部眞規子裁判長)は、本年(2018年)7月10日、商標登録異議申立てにおける維持決定の取消や、取消決定の義務付け、維持決定に対する不服申立てを制限する商標法43条の3第5項の違憲確認等を求める訴えがいずれも不適法であるとして却下しました。原告はベストライセンス株式会社で、被告は特許庁長官です。

ポイント

骨子

維持決定の取消請求の適法性
  • 商標法43条の3第4項は,審判官は,登録異議の申立てに係る商標登録が同法43条の2各号所定の登録異議事由のいずれかに該当すると認めないときは,その商標登録を維持すべき旨の決定をしなければならない旨を規定し,また,同法43条の3第5項は,同決定に対しては不服を申し立てることができないと規定する。このように,本件決定に対しては不服を申し立てることができないのであるから,請求の趣旨1項に係る本件決定の取消しを求める訴えは,そもそも同法43条の3第5項の規定に違反するものであって,不適法なものである。
取消決定の義務付けの訴えの適法性
  • 行政事件訴訟法3条6項2号所定の義務付けの訴えは,当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴えと併合して提起しなければならないところ(行訴法37条の3第3項2号),上記取消訴訟又は無効等確認の訴えが不適法なものであれば,上記処分又は裁決はもとより取り消されるべきものとはいえない。よって,上記義務付けの訴えは,行訴法37条の3第1項2号所定の訴訟要件を欠くものであって,不適法なものとなる。
商標法43条の3第5項の違憲確認請求の適法性
  • 裁判所法3条1項の規定にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるのは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に限られるところ,このような具体的な紛争を離れて,裁判所に対し抽象的に法令等が憲法に適合するかしないかの判断を求めることはできないと解するのが相当である(最高裁昭和27年(マ)第23号同年10月8日大法廷判決・民集6巻9号783頁,最高裁平成2年(行ツ)第192号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号518頁参照)。
  • 商標法43条の3第5項の違憲確認を求める訴えは,具体的な紛争を離れて,抽象的に商標法43条の3第5項の規定が違憲無効であることの確認を求めるものにすぎない。
  • したがって,上記訴えは,前記「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるものとはいえず,不適法なものである。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 平成30年7月10日
事件番号 平成30年(行ケ)第10011号
事件名 商標登録維持決定取消請求事件
対象商標登録 特許第5877169号「APPLE WATCH」
裁判官 裁判長裁判官 高 部 眞規子
裁判官    杉 浦 正 樹
裁判官    片 瀬   亮

解説

商標登録異議申立てとは

商標登録異議申立てとは、特許庁における審査の瑕疵を早期に是正するため、商標公報発行後2ヶ月間に限り、広く公衆から異議の申立てを受け付ける制度です。

異議申立ての時期について、かつては、登録前に申立てを受け付ける付与前異議の制度が採用されていましたが、平成8年の商標法改正により、現在の付与後異議制度が採用されました。

異議申立ては特許庁の審判官によって審理され、審判官は、異議申立てに理由があると認めるときは、商標登録の取消決定をし(商標法43条の3第2項)、理由がないと認めるときは、維持決定をします(同条4項)。

商標登録異議申立ては、何人も申し立てることができますが、申立人は原則として手続に関わることができず、また、維持決定に対しては不服を申し立てることはできません(同条5項)。商標登録異議申立ては、審査の瑕疵の早期是正を目的とするものであるからで、維持された商標登録の瑕疵を争う場合には、別途登録無効審判を請求することになります。

義務付け訴訟とは

義務付け訴訟とは、行政庁に対し、一定の行政処分・裁決をすることを義務付ける訴えで、平成16年の行政事件訴訟法改正に際し、抗告訴訟の1類型として規定されました。

行政事件訴訟法3条6項は、義務付け訴訟について以下のとおり定義し、行政庁の不作為がある場合に行政処分の申請権限を有しない者が処分を求める「直接型義務付け訴訟」(同項1号)と、行政庁が申請に対する応答としての処分や裁決をしない場合に申請権限を有する者が行政庁に対して処分や裁決を求める「申請型義務付け訴訟」(同項2号)の2類型を規定しています。

(抗告訴訟)
第三条 (略)
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。

申請型義務付け訴訟の訴訟要件

義務付け訴訟の上記2類型のうち、申請型義務付け訴訟については、行政事件訴訟法37条の3第1項に以下の規定があり、行政庁が申請に対して処分や裁決をしない場合、または、処分や裁決をしたもののその処分もしくは裁決に取消事由や無効事由がある場合に限って訴えを提起することができます。

第三十七条の三 第三条第六項第二号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる。
一 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと。
二 当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること。

また、同条に2項は、申請型義務付け訴訟の当事者適格を申請や審査請求をした者に限定するとともに、同条3項は、以下のとおり、行政事件訴訟法37条の3第1項各号の類型に応じ、処分・裁決にかかる不作為の違法確認の訴えまたは取消・無効等確認訴訟と申請型義務付け訴訟とを併合して提起することを訴訟要件としています。

3 第一項の義務付けの訴えを提起するときは、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない。この場合において、当該各号に定める訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第三十八条第一項において準用する第十二条の規定にかかわらず、その定めに従う。
一 第一項第一号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴え
二 第一項第二号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え

上記規定に基づいて併合提起された訴訟の弁論および裁判は、分離できません(同条4項)。

「法律上の争訟」と付随的違憲審査制

法令や処分の憲法適合性を判断する手続を違憲審査といいます。違憲審査をどのような機関が行うかについては、比較法的に様々な制度がありますが、日本国憲法81条は、以下のとおり、最高裁判所が違憲審査の終審裁判所であること、つまり、裁判所に違憲審査権があることを定めています。

最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

裁判所が違憲審査を行う権限を有するとしても、どのような場合に違憲審査を行うことができるかは別途問題となります。これは、裁判所がそもそも何をする機関か、ということに関係しますが、この点について、裁判所法3条は、以下のとおり、裁判所を「法律上の争訟」を裁判する機関に位置付けています。

第三条(裁判所の権限) 裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。

この「法律上の争訟」は、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、法律を適用することによって終局的に解決することができるものを意味し、司法の中核をなす概念といわれています。要するに、法適用によって解決可能な具体的な紛争が「法律上の争訟」であるといえ、そのような意味での「法律上の争訟」について裁判を行うのが司法を担う裁判所ということになります。

我が国の違憲審査は、裁判所が司法の作用として行うものですので、上記意味の「法律上の争訟」に対する裁判の枠内でのみ行われるものと解されています。つまり、具体的な法的紛争の解決に付随して憲法適合性を判断する必要がある場合にのみ違憲審査が可能になり、紛争に関係のない人が、抽象的に法令の合憲性を争うことは認められません(最大判昭和27年10月8日民集6巻9号783頁警察予備隊事件)。

このような我が国の制度は、付随的違憲審査制と呼ばれ、法令の抽象的な憲法適合性を審査する機関を設ける抽象的違憲審査制と対照をなします。

商標分割出願における全部の分割

商標登録出願の分割とは、二以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることをいい(商標法10条1項)、分割の要件を満たす限り、分割前の出願日を基準に審査が行われます(同条2項)。

第十条 商標登録出願人は、商標登録出願が審査、審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合であつて、かつ、当該商標登録出願について第七十六条第二項の規定により納付すべき手数料を納付している場合に限り、二以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。
2 前項の場合は、新たな商標登録出願は、もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。ただし、第九条第二項並びに第十三条第一項において準用する特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第四十三条第一項及び第二項(これらの規定を第十三条第一項において準用する同法第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、この限りでない。

ここで、商標法10条1項の「二以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願」に該当するためには、分割出願の指定商品・役務が、原出願の指定商品・役務の全部であってはならないと解されています。つまり、分割出願の指定商品・役務が原出願の指定商品・役務の全部である全部分割は、分割出願の要件を欠き、出願日の訴求は認められません。

事案の概要

原告は、登録第5877169号商標(「APPLE WATCH」)について特許庁長官に登録異議申立て(異議2016-900336号)をしましたが、特許庁審判官は維持決定をしました。

これに対し、原告が、特許庁長官を被告として、以下の各事項を求めて訴え提起したのが本訴訟です。
①上記維持決定の取消し
②本件登録異議事件についての商標登録取消決定の義務付け
③商標法43条の3第5項の違憲確認
④商標登録出願の全部を分割しても出願分割の効果が認められず出願日の遡及効が認められない旨の解釈の違憲確認
⑤商標登録異議事件の審理手続において異議申立人に反論の機会を全く与えず商標登録の維持決定をすることの違憲確認

上記各訴えに対応する請求の趣旨の記載は、以下のとおりです。

1 被告特許庁長官が異議2016-900336号事件について平成29年11月30日付けでした登録第5877169号商標の商標登録を維持する決定を取り消す。
2 被告特許庁長官は,異議2016-900336号事件に関し,商標登録の取消決定をせよ。
3 原告と被告らとの間において,商標法43条の3第5項の規定は,憲法13条後段,14条1項,32条,76条2項後段及び81条に反し,違憲無効であることを確認する。
4 原告と被告らとの間において,商標登録出願の分割に関し規定する商標法10条1項における「商標登録出願の一部」を根拠にして「商標登録出願の全部」を分割しても出願分割の効果は認められず出願日の遡及効は認められない旨の解釈は,憲法13条後段及び73条1号前段に反し,違憲無効であることを確認する。
5 原告と被告らとの間において,商標登録異議申立ての審理手続において商標登録異議申立人に反論の機会を全く与えず,いきなり商標登録の維持決定をすることは,憲法13条後段,14条1項及び31条に反し,違憲無効であることを確認する。
6 訴訟費用は被告らの負担とする。

判決の要旨

判決は、上記の原告の請求は、すべて不適法であるとして、却下しました。その理由づけは以下のとおりです。

維持決定の取消請求の適法性

判決は、維持決定の取消を求める訴えについて、以下のとおり述べ、商標法が維持決定に対しては不服申立てできないと規定していることを理由に、不適法であるとしました。

商標法43条の3第4項は,審判官は,登録異議の申立てに係る商標登録が同法43条の2各号所定の登録異議事由のいずれかに該当すると認めないときは,その商標登録を維持すべき旨の決定をしなければならない旨を規定し,また,同法43条の3第5項は,同決定に対しては不服を申し立てることができないと規定する。このように,本件決定に対しては不服を申し立てることができないのであるから,請求の趣旨1項に係る本件決定の取消しを求める訴えは,そもそも同法43条の3第5項の規定に違反するものであって,不適法なものである。

取消決定の義務付けの訴えの適法性

続いて、取消決定の義務付けを求める訴えについて、判決は、まず、この訴えが申請型義務付け訴訟に該当するとの認定をしました。

請求の趣旨2項に係る訴えは,原告が,本件登録異議事件について商標登録取消決定をすべき旨を被告特許庁長官に命ずることを求めるものであり,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条6項2号所定のいわゆる申請型の義務付けの訴えとして提起するものと解される。

その上で、本件のように、異議申立てに対する維持決定に対してなされる申請型義務付け訴訟は、維持決定に対する取消訴訟と併合して提起される必要があるところ、維持決定に対する取消訴訟は不適法であるため、義務付け訴訟も不適法となると判示しました。

しかしながら,同号所定の義務付けの訴えは,当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴えと併合して提起しなければならないところ(行訴法37条の3第3項2号),上記取消訴訟又は無効等確認の訴えが不適法なものであれば,上記処分又は裁決はもとより取り消されるべきものとはいえない。よって,上記義務付けの訴えは,行訴法37条の3第1項2号所定の訴訟要件を欠くものであって,不適法なものとなる。
そうすると,本件決定が行訴法37条の3第1項2号所定の「当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決」に該当するとしても,請求の趣旨1項に係る本件決定の取消しを求める訴えが前記1のとおり不適法である以上,請求の趣旨2項に係る義務付けの訴えは,同号所定の訴訟要件を欠くものであって,不適法なものである。

違憲審査権の範囲

違憲確認を求める訴えについて、判決は、同訴えの適法性を判断するに際し、まず、警察予備隊事件最判を引用し、裁判所の違憲審査は当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に付随して行われる必要があることを確認しました。

裁判所法3条1項の規定にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるのは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に限られるところ,このような具体的な紛争を離れて,裁判所に対し抽象的に法令等が憲法に適合するかしないかの判断を求めることはできないと解するのが相当である(最高裁昭和27年(マ)第23号同年10月8日大法廷判決・民集6巻9号783頁,最高裁平成2年(行ツ)第192号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号518頁参照)。

商標法43条の3第5項の違憲確認請求の適法性

その上で、判決は、商標法43条の3第5項が違憲であることの確認を求める訴えについて、抽象的に違憲確認を求めるものであって「法律上の争訟」としての裁判の対象にならず不適法であると判示しました。

請求の趣旨3項に係る訴えは,具体的な紛争を離れて,抽象的に商標法43条の3第5項の規定が違憲無効であることの確認を求めるものにすぎない。

したがって,上記訴えは,前記(1)にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるものとはいえず,不適法なものである。

その他

また、判決は、全部分割について遡及効を否定する解釈の違憲確認や、商標登録異議事件の審理手続の違憲確認の訴えについても、いずれも「法律上の争訟」にあたらず、また、確認の利益もないとして、不適法としました。

請求の趣旨4項に係る訴えは,具体的な紛争を離れて,抽象的に一つの法令解釈が違憲無効であることの確認,請求の趣旨5項に係る訴えは,具体的な紛争を離れて,抽象的に商標登録異議事件における一つの審理方法が違憲無効であることの確認を,それぞれ求めるものにすぎない。

したがって,上記各訴えは,前記(1)にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるものとはいえず,いずれも不適法なものである。

仮に,上記各訴えが本件登録異議事件において審判体がした法令解釈や審理方法の違憲無効をいうものであったとしても,これらの訴えは,本件決定に関する具体的な紛争を解決するものにはならないから,確認の利益を欠き,いずれも不適法なものである。

コメント

本判決の個々の判示事項に特に目新しいものがあるわけではありませんが、いずれも実際の訴訟で争点化することが珍しいため、参考になると思われます。

本記事に関するお問い合わせはこちらから

(文責・飯島)