知的財産高等裁判所第3部(鶴岡稔彦裁判長)は、本年(平成30年)8月23日、琉球朝日放送株式会社が著作権を有する映画の著作物(ニュース映像)をドキュメンタリー映画の中で出所明示なく利用することが引用の例外にあたらず、また、許諾の交渉経緯に鑑み、同社が利用を許諾しなかったことは独占禁止法に反するものではないとして、映画制作会社の主張を排斥する判決をしました。

判決は、引用の例外の成立を否定するにあたり、出所の明示がなされていなかったことを主要な理由としています。また、判決は、独占禁止法違反の主張を排斥しつつも、一般論として、報道機関は取材を独占し得る立場にあることに鑑み、映像の使用許諾を拒絶することが独占禁止法違反となる可能性もあることにも言及しています。

ポイント

骨子

  • 控訴人が何ら出所を明示することなく被控訴人が著作権を有する本件各映像を本件映画に引用して利用したことについては,(単に著作権法48条1項1号違反になるというにとどまらず)その方法や態様において「公正な慣行」に合致しないとみるのが相当であり,かかる引用は著作権法32条1項が規定する適法な引用には当たらない。
  • 著作権法32条1項が規定する適法引用の要件として常に出所明示が必要かどうかという点はともかくとしても,少なくとも本件においては(適法引用の要件として)出所明示がなされるべきであったと認められる。
  • 著作権及び著作者人格権の行使は,当該権利行使が著作権制度の趣旨を逸脱し,又はその目的に反するような不当な権利行使でない限り,独占禁止法の規定の適用を受けるも のではない。
  • 一般論としては,被控訴人が報道機関として取材によって得た映像や資料を独占する立場にある(そもそも報道機関でなければ取材自体が許されない現場ないし場面が存することは,経験則上明らかであって,その場合,当該報道機関は取材によって得た映像や資料を独占する立場にあるといえる。このことは,取材を行える報道機関に一定の資格要件が課される場合は,なお一層明らかであるといえる。)ことからすると,事情によっては,第三者による当該映像等の使用を許諾すべき義務が生じることがあるといえ,そのような場合にまで,著作権や著作者人格権を盾にしてその許諾を拒むことは,独占禁止法上,違法と評価される余地も存するというべきである。

判決概要(審決概要など)

裁判所 知的財産高等裁判所第3部
判決言渡日 平成30年8月23日
事件番号 平成30年(ネ)第10023号
事件名 著作権侵害差止等本訴請求
損害賠償反訴請求
原判決 東京地方裁判所平成28年(ワ)第37339号
対象著作物 株式会社シグロ配給「沖縄 うりずんの雨」
裁判官 裁判長裁判官 鶴 岡 稔 彦
裁判官    寺 田 利 彦
裁判官    間 明 宏 充

解説

著作物とは

著作権法は、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義しています(著作権法第2条1項1号)。要素としては、①思想又は感情、②創作性、③表現、④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属すること、の4つが揃った場合に著作物に該当するものといえます。

また、同法10条1項は、以下のとおり、著作物の種類を例示しています。

一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物

著作者の権利

著作者の権利の種類

著作物を創作した著作者は、著作者人格権と著作権の2つの権利を取得します。著作者となるのは、通常は著作物を創作した自然人ですが、職務著作の場合には法人等の使用者が著作者となり、上記の各権利を取得することになります。

著作者人格権

著作者人格権は、著作者の名誉感情を保護するもので、公表権(著作権法18条)、氏名表示権(同法19条)、同一性保持権(同法20条)のほか、名誉声望保持権(同法113条6項)が規定されています。著作者人格権は、著作者に一身専属の人格権で、譲渡することはできないため(著作権法第59条)、著作者と著作者人格権の保有者は常に一致します。

著作(財産)権

他方、著作権は譲渡などの処分が可能な財産的権利で、財産権としての性質に着目するときには、著作者人格権との対比で、著作財産権と呼ぶこともあります。著作権は、著作物を現に創作した者が取得するのが原則ですが、譲渡することができるため、著作者(著作者人格権の保有者)と著作権者が常に一致するとは限りません。また、映画の著作物の著作権の帰属については、後述の特例が設けられています。

著作権の内容は、著作権法21条以下に列挙されており、複製権や公衆送信権、譲渡権、翻案権など多岐に及びます。これらの個々の権利は支分権と呼ばれ、各種の支分権が束になったものが著作権の実体です。支分権の中には著作物の種類によって適用されないものもあるため、著作権の具体的内容は、著作物の種類によって異なることがあります。

個々の支分権の実体は、著作物について特定の利用行為をすることの専有権です。各支分権の規定は、複製、公衆送信、譲渡、本案など、具体的な利用態様ごとにその権利を著作権者が専有することを定めています。

著作権侵害と権利制限規定

著作権侵害とは

著作権侵害とは、支分権の侵害、すなわち、著作権者が専有権を有する著作物の利用行為を許諾なく行うことをいいます。例えば、ある著作物を著作権者の許諾なく複製すれば、複製権という支分権を侵害するため、著作権侵害に該当します。

他方、著作物を利用する行為であっても、支分権として規定されていない利用行為は著作権侵害となることはありません。例えば、美術館で絵画を鑑賞したり、通勤電車で本を読んだりしても、これらの行為を規制する支分権の規定がないため、著作権侵害を構成することはありません。

著作権の制限規定とは

著作権法は、第30条以下で、著作権者の許諾なく著作物を利用する行為であっても例外的に著作権侵害とならない場合を定めています。例えば、家庭内でのみ使用することを目的に著作物を複製することや、学校教育の目的上必要な範囲で検定教科書に著作物を掲載することは適法とされます。こういった規定は、一般に著作権の例外規定ないし権利制限規定と呼ばれます。

権利の目的とならない著作物

著作権の制限規定と類似する規定として、著作権法第13条は、以下のとおり、著作物に該当しても著作者人格権や著作権の保護を受けないものを規定しています。これらを利用する行為は著作権侵害にならないという限りでは著作権法第13条は権利制限規定と似ていますが、著作権法第13条の適用を受ける場合には、そもそも著作者人格権や著作権が生じない点で、例外的に著作権を制限するにとどまる権利制限規定とは異なります。

(権利の目的とならない著作物)
第十三条 次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
一 憲法その他の法令
二 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人(独立行政法人通則法<平成十一年法律第百三号>第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。以下同じ。)又は地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
四 前三号に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの

なお、国の公務員が作成した法令に関連する文書であっても、「告示、訓令、通達その他これらに類するもの」に該当しないもの、例えば、法令の説明資料などはこの規定の適用を受けず、著作者人格権や著作権による保護を受けます。

映画の著作物とは

著作権法は「映画の著作物」が著作物の類型であることを規定しているものの(著作権法10条1項7号)、「映画の著作物」とは何かを定義した規定はありません。

もっとも、同法第2条3項は、「映画の著作物」に、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。」と規定しています。ここでいう「映画」はいわゆる劇場用映画を指すため、「映画の著作物」には、劇場用映画のほか、劇場用映画に類似の「視覚的又は視聴覚的効果」と「固定」という条件を満たす著作物が含まれることが規定されているといえます。

劇場用映画以外で「映画の著作物」に該当するものの具体例としては、ビデオテープやDVDに焼き付けられた各種動画のほか、動画を伴うゲームソフトのように、ユーザの利用状況によって表示されるコンテンツが変化するものも含まれると解されています。

映画の著作物に固有の規定

映画の著作物は、その特質から、著作権法上、いくつかの点で特別の取り扱いを受けます。著作財産権に固有の事項の主要なものとしては、以下の各点が挙げられます。

著作者

一人で創作されることの多い小説や楽曲、絵画などとは異なり、映画は通常多くの関係者によって制作されるため、誰が著作者に該当するかが問題となり得ます。そこで、著作権法は、以下のような規定を置き、「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」が著作者にあたるとしています。一般的には、いわゆる映画監督がこれに該当することが多いでしょう。

(映画の著作物の著作者)
第十六条 映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。

なお、ここでいう「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」を「モダン・オーサー」と呼び、映画の原作となる小説や脚本、音楽などの著作者を「クラシカル・オーサー」と呼ぶことがあります。

著作権の帰属

上述のとおり、映画の著作物の著作者になるのは監督など「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」ですが、著作権の帰属については、下記のとおり、「著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているとき」という条件の下、映画製作者に帰属することとされています(著作権法第29条1項)。

第二十九条 映画の著作物(第十五条第一項、次項又は第三項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。

映画製作者とは、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」(著作権法第2条1項10号)をいい、いわゆる映画製作会社がこれにあたります。ある程度以上製作費をかけるような映画は、映画製作者によって選任された監督が映画を製作するため、上記の条件を満たし、映画製作者が著作権者となります。

この場合、監督は著作者として著作者人格権を有し、映画製作会社は著作権者として著作財産権を有する、という関係になりますが、そうすると、監督は、公表権(著作権法第18条)に基づき、映画製作会社に対し、映画の公開を禁止することができてしまいます。それでは不都合なので、第29条によって著作権が映画製作者に帰属したときは、監督は、映画製作会社が映画を公開することに同意したものとみなされます(同条2項3号)。

なお、監督が映画製作会社の従業者である場合には、著作権法29条ではなく、いわゆる職務著作として、同法15条1項の規定により映画製作者が著作者となります。

頒布権と消尽

映画の著作物には、頒布権という支分権が認められています(著作権法第26条)。

「頒布」の意味は著作権法第2条1項19号で以下のとおり定義されており、映画の著作物についてみると、有償・無償を問わず、①映画の著作物の複製物の公衆への譲渡・貸与と、②公衆への提示を目的とした映画の著作物の複製物の譲渡・貸与が対象になります。

有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。

貸与権は、中古であっても、映画の複製物の譲渡・貸与先を著作権者が決定できるため、非常に強力な権利といえますが、これは劇場用映画のフィルム配給制度を前提としたもので、一般の動画ソフトにはこのような強力な権利は馴染みません。そのため、公衆への提示を目的としないDVDやゲームソフトについては、映画の著作物であっても、頒布権はいったん販売されると消尽するものと解されています(最判平成14年4月25日「中古ゲームソフト」事件)。

なお、映画の著作物には頒布権が認められているため、譲渡権(著作権法第26条の2)や貸与権(著作権法第26条の3)の適用はありません。

非営利目的の頒布

頒布権に対する権利制限規定として、公表された映画の著作物を、一定の要件のもと、非営利の視聴覚教育や障碍者の福祉のために無償で提供することを認める規定がありますが、この場合には、著作権者に対し、相当額の補償金を支払う必要があります(著作権法第38条5項)。

保護期間

映画の著作物の保護期間は、公表後70年とされています(著作権法第54条1項)。

上映権とは

本件で、問題とされた支分権としては、上述の頒布権のほか、上映権があります。

上映権とは、公に著作物をスクリーン上に上映する権利をいい、かつては映画の著作物についてのみ認められていた権利でした。しかし、平成12年改正によって対象となる著作物の限定が取り払われたため、現在では、例えば、静止画の写真を上映する場合でも、著作権者の許諾なく公に行えば上映権を侵害することとなります。

引用の例外とは

すでに公表された作品が他の作品に公正に引用される場合には、著作権者の経済的打撃は小さく、他方で、新たな表現活動の保護に資することになります。そこで、著作権法は、権利制限規定のひとつとして、第32条1項において、以下のとおり引用の例外を定めています。

第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

引用の例外の適用が認められるには、以下の4つの要件を充足する必要があります。

  1. 公表された著作物であること(公表要件)
  2. 引用であること(引用要件)
  3. 公正な慣行に合致すること(公正慣行要件)
  4. 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内であること(正当範囲要件)

なお、引用の例外の適用の可否を巡っては、モンタージュ写真事件判決(最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁)において、傍論ながら、①自ら創作した部分と他人が創作した部分が明瞭に区別でき、②質的にも量的にも自ら創作した部分が主、他人が創作した部分が従でなければならないとの考え方が示されており、これが現在の実務にも大きな影響を与えていますが、同判決は旧著作権法が適用された事案であったため現行法と整合するものではないことから、①②の要素をどの要件の中で検討するかは争いがあり、また、そもそも、現行法のもとで旧法下の判例に基づいた判断をするのは不適切であるとの意見があります。

出所明示義務と引用の例外

著作権法48条は以下のように規定し、引用をする場合には著作物の出所を明示し、著作者名が明らかである場合には、著作者名を示さなければならないこととしています。

(出所の明示)
第四十八条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一 第三十二条(略)の規定により著作物を複製する場合
(略)
2 前項の出所の明示に当たつては、これに伴い著作者名が明らかになる場合及び当該著作物が無名のものである場合を除き、当該著作物につき表示されている著作者名を示さなければならない。

出所の明示義務を定めた著作権法48条が、引用の例外を定める著作権法32条との関係でどのように位置付けられるのかについては議論があり、通説的見解は、出所の明示は引用の例外の成立要件ではないと解していますが、裁判例には、出所の明示がなされているかどうかを公正慣行要件の充足を判断する際に考慮するものがあります(東京高裁平成14年4月11日判決平成13年(ネ)第3677号、平成13年(ネ)第5920号「絶対音感」事件)。

なお、引用の例外については、こちらの記事もご参照ください。

独占禁止法と著作権の行使

著作権は、第三者による著作物の経済的利用を排斥する権利であるため、自由な競争の保護を目的とする独占禁止法との間で緊張関係が生じます。この点について、独占禁止法は、以下のとおり定め、「著作権法・・・による権利の行使と認められる行為」は独占禁止法違反の問題を生じないことを明らかにしています。

(知的財産権の行使行為)
第二十一条 この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。

もっとも、外形的には著作権の行使に見える行為であっても、著作権制度の趣旨に反するような行為は「権利の行使と認められる行為」に該当せず、独占禁止法の規制を受けるものと考えられています。

この規定は、知的財産権全般を対象とする規定ですが、著作権との関係で適用が問題とされ、「権利の行使と認められる行為」の該当性が否定された事例としては、着うた事件(東京高判平成22年1月29日)があります。これは、いわゆる着うたの配信サービスを行う会社を共同で設立ないし出資したソニー・ミュージック・エンターテインメント、エイベックス・ネットワーク、ビクターエンターテイメント、ユニバーサルミュージック、東芝イーエムアイといった各社が、競合他社に対する送信可能化権の許諾を拒絶したという事例です(正確には、著作権ではなく、レコード製作者の権利が問題とされました。)。公正取引委員会は、この事案につき、審決にて、不公正な取引方法(共同の取引拒絶)に該当し、違法であると認め、東京高等裁判所もこの審決を維持しました。

事案の概要

本件の被告は、平成27年頃、「沖縄 うりずんの雨」と題する本編148分のドキュメンタリー映画を製作し、全国の映画館において上映するとともに、DVDを販売したり、海外版を作成して上映しようとしたりしていました。

この映画の中には、平成16年8月13日に沖縄国際大学に米軍ヘリコプターが墜落した現場の状況等を原告の従業員が撮影した映像が無断で使われ、また、映画のクレジットにも原告の名前は表示されていませんでした。この映像は原告の職務著作であり、原告がその著作者であるため、原告は、那覇地方裁判所において訴訟を提起し、被告に対し、上映権、頒布権、送信可能化権、公表権、氏名表示権等に基づき、上映等の差止、映画からの原告の映像の削除、損害賠償及び謝罪広告掲載の請求をしました。

他方、被告は、原告に対し、反訴を提起し、原告が許諾申請を拒絶したのは独占禁止法違反にあたり、また、訴訟提起についてマスコミにリリースしたのは不法行為にあたるとして、損害の賠償を求めました。

その後、事件は東京地方裁判所に移送され、審理が行われました。同裁判所は、判決 において、原告の請求のうち、差止請求及び削除請求の全部と損害賠償請求の一部を認容し、損害賠償請求の残部と謝罪広告掲載請求を棄却しました。また、被告からの反訴請求については、その請求を全部棄却しました。
公表権に基づくもの及び謝罪広告は理由がないとして退けましたが、その余の請求は認め、また、被告からの反訴を棄却しました。

これに対して被告が控訴したのが本件判決の事案です。本件判決の論点は多岐に渡りますが、ここでは、引用の例外の成否と、独占禁止法違反の2点を取り上げます。

判旨

引用の例外について

判決は以下のように述べ、出所明示がなされていないことは出所明示義務違反の成否という観点のみならず、「適法引用として認められるための要件という観点からも」検討されるべきことであり、結論として、出所明示の不存在を主要な理由として、公正慣行要件の充足を否定しました。明瞭区別性が不十分であることなども、出所明示の必要性の根拠事実に位置付けられています。

本件映画において,被控訴人が報道用として編集管理する本件各映像がその著作権者である被控訴人の名称を全く表示することなく,無許諾で複製して使用されている事実は当事者間に争いがないところ,もともと出所の明示は引用者に課された著作権法上の義務(著作権法48条1項1号)である上に,本件の場合,本件映画中の控訴人製作部分と本件使用部分とは,原判決が指摘するとおり,画面比や画質の点において一応区別がされているとみる余地もあり得るとはいえ,映画の中で,これらの部分が明瞭に区別されているわけではなく,その区別性は弱いものであるといわざるを得ないから,本件使用部分が引用であることを明らかにするという意味でも,その出所を明示する必要性は高いものというべきである。また,本件のようなドキュメンタリー映画の場合,その素材として何が用いられているのか(その正確性や客観性の程度はどのようなものであるか)は,映画の質を左右する重要な要素であるといえるから,この観点からしても,素材が引用である場合には,その出所を明示する必要性が高いものと考えられる。他方,本件においては,引用する側(本件映画)も引用される側(本件各映像)も共に視覚によって認識可能な映像であって,字幕表示等によって出所を明示することは十分可能であり,かつ,そのことによって引用する側(本件映画)の表現としての価値を特に損なうものとは認められない。これらのことに,原判決が指摘する「公正な使用(フェア・ユース)の最善の運用(ベスト・プラクティス)についてのドキュメンタリー映画作家の声明」(乙17)の内容等を併せ考えると,適法引用として認められるための要件という観点からも,本件映画において本件各映像を引用して利用する場合には,その出所を明示すべきであったといえ,出所を明示することが公正な慣行に合致し,あるいは,条理に適うものといえる。そして,このことは,本件映画の総再生時間が2時間を超えるのに対し,本件各映像を使用する部分(本件使用部分)が合計34秒にとどまるといった事情や,本件各映像が番組として編集される前の映像であるといった事情によっては左右されない。

したがって,控訴人が何ら出所を明示することなく被控訴人が著作権を有する本件各映像を本件映画に引用して利用したことについては,(単に著作権法48条1項1号違反になるというにとどまらず)その方法や態様において「公正な慣行」に合致しないとみるのが相当であり,かかる引用は著作権法32条1項が規定する適法な引用には当たらない。よって,これと同旨をいう原判決の認定判断に誤りがあるとは認められない。

原告は、出所を明示していないことを理由に引用の抗弁を退けることは誤りであるとの主張もしていましたが、判決は以下のように述べて、この主張を排斥しました。

著作権法32条1項が規定する適法引用の要件として常に出所明示が必要かどうかという点はともかくとしても,少なくとも本件においては(適法引用の要件として)出所明示がなされるべきであったと認められる・・・。

この判示は、被告の主張を退けつつも、引用の例外の成立のために出所明示が常に要求されるわけではないことを示したもので、出所明示の要否はケース・バイ・ケースで判断されるとの考え方に立ったものといえます。法的には、出所明示を、引用の例外の成立要件とするのではなく、考慮要素に位置付ける考え方といえるでしょう。

独占禁止法違反について

独占禁止法違反の争点について、判決は、まず、独占禁止法21条の趣旨について以下のとおり述べ、制度趣旨を逸脱した権利行使でない限り、独占禁止法上の問題を生じないことを明らかにしました。

被控訴人の行為・・・が,いずれも被控訴人による著作権及び著作者人格権の行使にほかならないところ,著作権及び著作者人格権の行使は,当該権利行使が著作権制度の趣旨を逸脱し,又はその目的に反するような不当な権利行使でない限り,独占禁止法の規定の適用を受けるものではないと解すべきことは,原判決が説示するとおりである。

そして、判決は、本件では権利濫用といえるだけの事実の証明がないとして、被告(控訴人)の主張を排斥しました。

しかるところ,被控訴人による著作権及び著作者人格権の行使をもって権利濫用とすべき根拠ないし事情が認められないことは,前記(4)のとおりであるから,控訴人の主張はその前提を欠く。

他方、判決は、一般論として、取材を独占し得るという報道機関の特殊性に鑑み、使用許諾の拒否が独占禁止法違反となる場合があることを示しました。

なお,一般論としては,被控訴人が報道機関として取材によって得た映像や資料を独占する立場にある(そもそも報道機関でなければ取材自体が許されない現場ないし場面が存することは,経験則上明らかであって,その場合,当該報道機関は取材によって得た映像や資料を独占する立場にあるといえる。このことは,取材を行える報道機関に一定の資格要件が課される場合は,なお一層明らかであるといえる。)ことからすると,事情によっては,第三者による当該映像等の使用を許諾すべき義務が生じることがあるといえ,そのような場合にまで,著作権や著作者人格権を盾にしてその許諾を拒むことは,独占禁止法上,違法と評価される余地も存するというべきである・・・。

これは、報道機関が著作権に基づいて取材情報の第三者利用を妨げることについて、他の主体が著作権を行使する場合より厳しく判断する可能性があることを示唆したものと考えられます。

コメント

本判決は、出所の明示が常に引用の例外の成立に必要であるとは限らないとしつつ、出所の明示がないことを主要な理由として引用の例外の成立を否定しており、引用の例外において、出所明示を成立要件とまでは位置付けないものの、重要な考慮要素となり得ることを示したものといえます。このような考え方は、絶対音感事件判決でも示されたもので、興味深い判決であるといえるでしょう。また、独占禁止法との関係でも、本件では著作権の濫用は認められないものの、報道機関が取材を独占し得る立場にあることを根拠に、取材映像の利用許諾の拒絶についての独占禁止法の適用において、他の著作権者よりも厳格な判断を受け得ることに言及した点でも参考になるものと思われます。

令和元年7月5日追記

報道によると、令和元年6月27日、最高裁判所第1小法廷は上告を退け、差止や損害賠償の命令が確定したとのことです。

本記事に関するお問い合わせはこちらから

(文責・飯島)