知的財産高等裁判所第4部(髙部眞規子裁判長)は、本年(2018年)1月15日、商標登録取消審決を維持する判決において、本案前の抗弁に対する判断として、共有にかかる商標権の不使用取消審決に対する審決取消訴訟は、いわゆる保存行為に該当し、固有必要的共同訴訟ではないため、商標権者の1人が単独で提起することができると判示しました。

ポイント

骨子

  • 商標権の共有者の1人は、共有に係る商標登録の取消審決がされたときは、単独で取消審決の取消訴訟を提起することができると解するのが相当である。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第4部
判決言渡日 平成30年1月15日
事件番号 平成29年(行ケ)第10107号 審決取消請求事件
原審決 特許庁平成29年3月31日取消2014-300025号
商標登録番号 商標登録第5151243号
登録商標
裁判官 裁判長裁判官 髙 部 眞規子
裁判官    山 門   優
裁判官    片 瀬   亮

解説

商標審判とは

商標法は、特許権法や実用新案法、意匠法と比較して多種の審判制度をおいています。審判制度とは、拒絶査定や登録査定など、特許庁がした行政処分の見直しを特許庁の審判官が行う準司法的手続で、審判請求人と審判官の間で行われる査定系審判と、訴訟のように、審判請求人と被請求人との間で争われる当事者系審判とがあります。

査定系審判

査定系審判には、以下の2種類があります。

  1. 拒絶査定不服審判(商標法44条)
  2. 補正却下不服審判(商標法45条)
当事者系審判

当事者系審判には商標登録無効審判と商標登録取消審判とがあり、商標登録取消審判は、さらに5種類に分かれます。

  1. 商標登録無効審判
  2. 商標登録取消審判
  • 不使用取消審判(商標法50条)
  • 商標権者の不正使用による取消審判(商標法51条)
  • 商標権の移転により出所の混同が生じた場合の取消審判(商標法52条の2)
  • 使用権者の不正使用による取消審判(商標法53条)
  • 同盟国の代理人等の登録による取消審判(商標法53条の2)
審判類似の制度

審判に類似する制度としては、商標登録時の商標掲載公報発行日から2ヶ月以内に商標登録に異議を申し立てる登録異議申立制度(商標法43条の2)や、商標権の権利範囲について特許庁が判断する判定(商標法28条)があります。

不使用取消審判とは

不使用取消審判とは、商標法が定める上記の5つの商標登録取消審判のひとつで、登録された商標を3年以上使用していない場合に、その登録の取消を求める審判です。

不使用取消審判は何人でも請求することができ、商標登録取消審判の中でも、最も利用頻度の高い審判制度となっています。

商標登録無効審判と商標登録取消審判

商標登録取消審判と類似の制度として、商標登録無効審判という制度があります。これは、商標の登録要件を欠くなど、商標法所定の理由がある場合に商標登録を無効にするための審判で、請求人は利害関係人に限定されています。

商標登録無効審判と商標登録取消審判は、商標権を消滅させる制度という点で共通しますが、商標登録取消審判の場合には、審決が確定した後に商標権が消滅するのに対し(商標法54条)、商標登録無効審判の場合には、無効審決が確定すると、初めから(一部の無効理由については無効理由が生じたときから)無効だったものとみなされるなど、制度趣旨の違いに基づく相違があります。

共有にかかる商標権と当事者適格

上述のとおり、商標法上の審判には、大きく分けて査定系審判と当事者系審判とがあるところ、査定系審判はいずれも出願人が審判請求人となり、当事者系審判はいずれも商標権者が被請求人となります。

これらの審判を請求するに際し、出願人が複数いる場合の査定系審判は、出願人全員が共同して審判請求する必要があり、権利者が複数いる場合の当事者系審判は、権利者の全員を被請求人として審判請求する必要があります。

この要件が充足されない場合、審判請求は不適法なものとして却下されることとなります。

査定系審判の審決取消訴訟と固有必要的共同訴訟

審判において不成立審決がなされ、審判請求人の請求が棄却された場合、審判請求人は、その審決の取消しを求め、裁判所に訴訟を提起することができます。

ここで、出願人が複数いる査定系審判の審決について取消訴訟を提起する場合、出願人全員が共同して提訴する必要があるのか、という問題があります。
この点につき、最高裁判所は、旧実用新案法の解釈として、拒絶査定不服審判の不成立審決に対する取消訴訟は、固有必要的共同訴訟である、との判断を示しました(最判平成7年3月7日民集49巻3号944頁)。この考え方は、商標法にも該当すると解されています。

固有必要的共同訴訟とは、各人の個別の訴訟追行が禁止され,数人が共同してのみ訴えまたは訴えられて初めて適格を認められる訴訟のことをいいます。拒絶査定不服審判の不成立審決に対する取消訴訟がこれに該当するということは、要するに、出願人全員が共同して訴訟提起しなければ訴訟が成り立たず、却下されるということを意味します。

最高裁判所は、固有必要的共同訴訟説を採用する理由として、拒絶査定不服審判審決取消訴訟は、共有にかかる1個の権利の成否を決めるものであって、共同出願人間で合一的に確定させる必要があることを指摘しました。

当事者系審判の審決取消訴訟の当事者適格

固有必要的共同訴訟説を採用した平成7年最判は賛否が分かれるところですが、次に問題となったのは、当事者系審判において権利者が複数いる場合でした。当事者系審判の場合、商標権者は被請求人の立場となりますので、複数の商標権者が共同して訴訟提起する必要があるかどうかが問題となるのは、商標権者が審判で負けた局面、つまり、商標登録が無効にされたり、取り消されたりした場合ということとなります。

この点最高裁判所は、商標登録無効審判の無効審決に対する取消訴訟において、上記の平成7年最判とは対照的に、商標権者は単独で訴訟提起できるとの判断を示しました(最判平成14年2月22日平成13年(行セ)第142号「ETNIES」事件判決)。

その理由とされたのは、①無効審決による権利の消滅を防止するのは民法上各共有者が単独でなし得るとされている保存行為に該当すること、②商標登録無効審判は、設定登録から長期間を経てから請求されることもあり、その時点で全ての商標権者の協力を得られるとは限らないこと、③無効審決取消の請求が認容されたときは、抗告訴訟(取消訴訟)の判決の効力に関する行政事件訴訟法32条1項によって判決の効力が他の共有者にも及び、請求が棄却されたときは、対世的に商標登録が無効となるため、共有者の一部による訴訟提起を認めても、合一的確定の要請には反しないこと、を理由としていました。

本件の事案の概要

本件の原告は、株式会社いきいき緑健と商標(登録第5151243号)の商標権を共有していたところ、被告は、この商標登録について不使用取消審判の請求をしました。

特許庁は、この請求を認め、上記商標登録を取り消す審決をしたところ、この取消審決に対して原告が単独で提起したのが本件の審決取消訴訟です。

被告は、原告の訴えについて、本案前の抗弁として、本件商標権の共有者の1人である原告が単独で訴えを提起するのは不適法であると主張しました。

本案前の抗弁についての判旨

上記の本案前の抗弁について、裁判所は、共有にかかる商標の無効審決に対する取消訴訟を共有者の一部が提起することを適法とした上記最判平成14年2月22日の表現をほぼそのまま用い、本件の訴え提起は適法であるとしました。

具体的に述べると、判決は、まず、以下のとおり、取消審決に対する取消訴訟の提起は、保存行為に該当すると述べます。

いったん登録された商標権について,登録商標の使用をしていないことを理由に商標登録の取消審決がされた場合に,これに対する取消訴訟を提起することなく出訴期間を経過したときは,商標権は審判請求の登録日に消滅したものとみなされることとなり,登録商標を排他的に使用する権利が消滅するものとされている(商標法54条2項)。したがって,上記取消訴訟の提起は,商標権の消滅を防ぐ保存行為に当たるから,商標権の共有者の1人が単独でもすることができるものと解される。そして,商標権の共有者の1人が単独で上記取消訴訟を提起することができるとしても,訴え提起をしなかった共有者の権利を害することはない。

続いて判決は、設定登録から長期間を経て請求される商標登録取消審判については、共有者の全員から協力が得られるとは限らず、固有必要的共同訴訟だとすると、不当な結果となりかねないと述べます。

また,商標権の設定登録から長期間経過した後に他の共有者が所在不明等の事態に陥る場合や,訴訟提起について他の共有者の協力が得られない場合なども考えられるところ,このような場合に,共有に係る商標登録の取消審決に対する取消訴訟が固有必要的共同訴訟であると解して,共有者の1人が単独で提起した訴えは不適法であるとすると,出訴期間の満了と同時に取消審決が確定し,商標権は審判請求の登録日に消滅したものとみなされることとなり,不当な結果となりかねない。

その上で、判決は、共有者の1人による単独での訴訟提起を認めても、無効審決取消の請求が認容されたときは行政事件訴訟法32条1項によって判決の効力が他の共有者にも及び、請求が棄却されたときは対世的に商標登録が無効となるため、合一的確定の要請は充足されると述べます。

さらに,商標権の共有者の1人が単独で取消審決の取消訴訟を提起することができると解しても,その訴訟で請求認容の判決が確定した場合には,その取消しの効力は他の共有者にも及び(行政事件訴訟法32条1項),再度,特許庁で共有者全員との関係で審判手続が行われることになる(商標法63条2項の準用する特許法181条2項)。他方,その訴訟で請求棄却の判決が確定した場合には,他の共有者の出訴期間の満了により,取消審決が確定し,商標権は審判請求の登録日に消滅したものとみなされることになる(商標法54条2項)。いずれの場合にも,合一確定の要請に反する事態は生じない。なお,各共有者が共同して又は各別に取消訴訟を提起した場合には,これらの訴訟は,類似必要的共同訴訟に当たると解すべきであるから,併合の上審理判断されることになり,合一確定の要請は充たされる。

最後に、判決は、上記最高裁判決を引用し、結論として、共有に係る商標登録の取消審決に対し、商標権の共有者の1人が単独で取消審決の取消訴訟を提起することができると結論付けました。

以上によれば,商標権の共有者の1人は,共有に係る商標登録の取消審決がされたときは,単独で取消審決の取消訴訟を提起することができると解するのが相当である(最高裁平成13年(行ヒ)第142号同14年2月22日第二小法廷判決・民集56巻2号348頁参照)。

コメント

本判決は、共有にかかる商標権についての取消審決の審決取消訴訟の当事者適格について、無効審決に対する訴訟と同様に保存行為論を適用し、単独での出訴を適法としたものです。両審判の性格の類似性に照らし、極めて妥当な解釈であるといえるでしょう。

ところで、上述のとおり、判例は、拒絶査定不服審判の不成立審判に対する審決取消訴訟については、固有必要的共同訴訟であるとの考え方を維持しています。

しかし、この類型の訴訟においても、訴えが認められなければ権利の設定が受けられなくなることには変わりなく、また、判決効が他の出願人に及び、合一的確定の要請が満たされることにも変わりはありません。無効審決に対する取消訴訟は、伝統的に形式的当事者訴訟と解するのが通説であったことを考えると、抗告訴訟(取消訴訟)であることに争いのない査定系審判の審決取消訴訟は、行政事件訴訟法32条1項の適用において、より疑義がないといえます。

この意味では、固有必要的共同訴訟説を採用した平成7年最判が平成14年の「ETNIES」事件最高裁判決の後も従前同様に維持されていくのか、という問題は興味深く、取消審判の審決取消訴訟にも保存行為論を適用した本判決は、この問題を改めて検討する機会となります。

本記事に関するお問い合わせはこちらから

(文責・飯島)