平成29年11月29日、知的財産高等裁判所第1部は、「COVERDERM」という化粧品類の商標について、商標登録を取り消すべき旨の特許庁による審決を取り消しました。本判決では、商標法50条1項(商標登録の不使用取消)の該当性が判断され、その中で、ウェブサイトにおける商標の表示が同法2条3項にいう使用に該当するか否かの判断がなされています。
本稿では、まず、商標登録取消審判について概説し、本判決の内容を解説します。
ポイント
判旨概要
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- リンク先の商品の紹介が英語で記載されているという事情を考慮しても、本件ウェブサイトが日本の需要者を対象とした注文サイトであることは明らかである。そうすると、審決が認定するとおり、本件商標を付した商品が日本の需要者に引き渡されたことまで認めるに足りないか否かはさておき、少なくとも、原告は、本件商標について本件要証期間内に日本国内で商標法2条3項8号にいう使用をしたものと認められる。
判決概要
裁判所 | 知的財産高等裁判所1部 |
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判決日 | 平成29年11月29日 |
事 件 | 平成29年(行ケ)第10071号 審決取消請求事件 |
原審決 | 取消2014-300312号 |
裁判官 | 裁判長裁判官 清水 節 裁判官 中島 基至 裁判官 岡田 慎吾 |
解説
商標登録の異議・無効・取消
不適当な商標登録の是正
商標登録に瑕疵がある場合や、商標登録後に不適当な状態が発生した場合には、第三者の利益や一般公益に反します。そこで、商標法(以下「法」と言います。)はこれらを是正する制度を定めて、商標登録の信頼維持を図っています。
(1)商標登録異議申立て(法43条の2)
商標登録の要件違反(法3条)や他人の先行商標との抵触といった不登録事由違反(法4条1項)等を理由として、誰でも、商標掲載公報発行の日から2か月以内に限り申し立てることができます。これが認められると、商標登録は初めからなかったものとみなされます(法43条の3第3項)。
近年の平均審理期間は7~8か月程度です。
(2)商標登録無効審判(法46条)
商標登録の要件違反(法3条)や他人の先行商標との抵触といった不登録事由違反(法4条1項)、条約違反等を理由として、利害関係人に限り、いつでも請求することができます。これが認められると、一部を除いて、商標登録は初めからなかったものとみなされます(法46条の2第1項)。
近年の平均審理期間は6か月程度です。
(3)商標登録取消審判(法50条ないし法53条の2)
長期間の登録商標不使用、登録商標の不正使用等を理由として、取消審判を請求することができます。請求できる者の範囲と期間及び取消しの効果は、請求の理由によって異なっています。
近年の平均審理期間は6か月程度です。
登録商標を長期間使用しない場合
本件では、登録商標を長期間使用しないことによる商標登録取消に理由があるかどうかが争われています。
登録された商標が長期間使用されない場合には、使用することにより商標に蓄積される業務上の信用を保護するという商標制度の趣旨に合致しない上、第三者の商標選択の範囲を無用に制約することにもなります。
そこで、法は、このような場合に、誰でも商標登録の取消しを請求できる審判制度を定めています(法50条1項)。
(商標登録の取消しの審判)
法50条1項 継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
商標登録不使用取消審判
取消要件
不使用取消の要件は、①継続して3年以上、②日本国内において、③商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが、④登録商標の使用をしていないこと、となっています(法50条1項)。
もっとも、取消審判を請求した者がこれらの要件の充足を立証する必要があるわけではなく、登録取消しが認められないようにするために、これらの要件を充足しないことを商標権者において立証する必要があります。
すなわち、
①審判請求の登録前3年以内(取消審判の請求があってから3~4週間後に審判の登録がなされます。)に、
②日本国内において、
③商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、
④登録商標を使用したこと
を商標権者が立証しなければなりません(法50条2項本文)。
法50条2項 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。
なお、商標法は、不使用取消審判請求がなされることを察知した商標権者が当該商標を駆け込み使用することを認めていません(法50条3項)。
商標の「使用」
商標の「使用」とは、次の行為をいいます(法2条3項)。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
九 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
十 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為
不使用取消審判において商標権者が商標登録の取消しを免れるためには、これらのいずれかの態様での使用がなされたことを立証する必要があります。
取消審決の効果
商標登録を取り消すべき旨の審決が確定すると、審判請求登録日にさかのぼって消滅したものとみなされます(法54条2項)。
特許庁による審決の結果に不服がある場合、請求人又は被請求人(商標権者)は、審決の謄本の送達があった日から30日以内に、知財高裁に対し、(特許庁を被告とするのではなく)相手方を被告として、審決取消訴訟を提起できます(法63条)。
本件事案の概要
原告が商標権を有する、平成10年7月10日に化粧品類の商標として登録された商標「COVERDERM」について、平成26年4月25日、被告が特許庁に対し不使用による商標登録取消の審判請求をしました(審判請求登録日は平成26年5月16日)。
原告が使用を立証する必要があるのは、平成23年5月16日から同26年5月15日までとなります(要証期間)。
特許庁の審決では、要証期間内に法2条3項にいう使用がされたものということができないとして、不使用を理由として商標登録を取り消すべき旨の判断がされていました。その理由の1つは以下のとおりです。
甲14の1及び甲20の1(執筆者注:ウェブサイトにおける「カバーダーム」の化粧品の注文書)は日本語によるものであるから、日本の需要者が利用することができるといえるものの、本件要証期間内に、本件商標権者が日本の需要者から当該注文書を利用した「カバーダーム」の化粧品の注文を受け、本件商標権者から日本の需要者に「化粧品」が引き渡されたことを証する証拠の提出はない。
また、甲20の1について、原告は、自ら開設している「日本向けのオフィシャル・ウェブサイト」のトップページであると主張するが、甲20の1からは、これが原告のオフィシャル・ウェブサイトであることの確認ができず、また、インターネットアドレスの記載はない。
そして、甲20の1の「弊社製品に関する詳しい説明はこちらをクリックしてください。」という部分から甲20の2及び3の画面に移動できるとしても、当該画面には、商品の注文に関する事項である商品価格、送料、支払方法等についての記載は見当たらず、甲20の2及び3の画面から、甲20の1の画面に移動できるものであるかは不明である。
これに対して、商標権者である原告は、審決の取消しを求め本件訴訟を提起しました。
判旨
判決は、商標登録取消審決での取消し理由の1つとなった上記の点につき、以下の事実から、原告は要証期間内にウェブサイトにおいて、日本需要者に向けて「COVERDERM」の商品に関する広告及び注文フォームに本件商標を付して電磁的方法により提供していると認定しました。
(1) 原告は、平成23年11月23日、冒頭に「Coverderm Product Order Form」と付した本件ウェブサイトにおいて、本件商標及び日本語でこれを仮名書きした「カバーダーム」という名称を表題に付して、「カバーダームは最先端のスキンケア化粧品の専門ブランドです。」、「輝かしい歴史を誇り、さらに成長を続ける製品ラインナップを、長年にわたり80ヶ国以上の国々にお届けしています。」、「顔や体の気になる箇所をカバーしてくれる、理想的なアイテムを多数揃えています!」、「世界中の皮膚科医やメイクアップアーティストにも長年支持されています!」という文章を掲載した。
そして、原告は、その下に「下記の空欄に必要事項をご記入のうえ、ご注文ください。」という文章を掲載した上、名、姓、住所、製品名、数量、メールアドレス、コメントの記入欄と送信ボタンを設けるなどして、原告の商品をインターネットで注文できるように設定するとともに、その下に「弊社製品に関する詳しい説明はこちらをクリックしてください。」という文章を掲載し、COVERDERMの商品の紹介ページにリンクさせていた。
なお、本件ウェブサイトの末尾には、「Copyright○cFarmeco S.A. Dermocosmetics –All rights reserved.」と表記され、本件ウェブサイトの著作権者が原告であることが明記されている。(甲14の1)
(2) 原告の代表者は、平成20年10月30日から少なくとも本件口頭弁論終結時まで、本件ウェブサイトに係る「coverderm.jp」という日本のドメイン名を個人名で取得し、これを原告に使用させていた(甲14の2、甲20の1ないし3、甲44の1及び2)。
そうすると要証期間内に日本国内で法2条3項8号にいう使用をしたものといえるから、法50条1項に該当しないとして、商標登録取消を認めた審決を取り消しました。
その際、判決では、以下のように述べ、ウェブサイトでの販売行為が日本の需要者を対象としている限り、法2条3項8号にいう使用に該当するか否かの判断につき、商品が日本の需要者に引き渡されたことまでの立証を要するものではないことを示しています。
リンク先の商品の紹介が英語で記載されているという事情を考慮しても、本件ウェブサイトが日本の需要者を対象とした注文サイトであることは明らかである。そうすると、審決が認定するとおり、本件商標を付した商品が日本の需要者に引き渡されたことまで認めるに足りないか否かはさておき、少なくとも、原告は、本件商標について本件要証期間内に日本国内で商標法2条3項8号にいう使用をしたものと認められる
コメント
本件は、日本語ウェブサイトにおける商標の表示が、法2条3項の使用に該当するかという点で、特許庁の判断と裁判所の判断が異なった事案です。
判決が、本件の事情のもとでは、日本語ウェブサイトにおける商標の表示が、日本国内で商標法2条3項8号にいう使用をしたものと認められるためには、原告が、ウェブサイトに係る日本のドメイン名を原告代表者が取得し原告に使用させていたことを立証することによってウェブサイトと原告との関係性を明らかにした点は重視し、反対に、商標を付した商品が日本の需要者に引き渡されたことの立証は不要としたことは、着目すべき点であると思われます。
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(文責・村上)