商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。そこで、今回から定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきたいと思います。

不服2016-19623(マイナンバー検定/国、地方公共団体等の著名な標章)

審決分類

商標法第4条第1項第6号(国、地方公共団体等の著名な標章)
商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:マイナンバー検定(標準文字)
引用商標:マイナンバー(標準文字)

結論

本件審判の請求は成り立たない。

本願商標は、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名な「マイナンバー」と類似の商標であるため、商標法第4条第1項第6号に該当する。また、本願商標と引用商標は、互いに類似の商標というのが相当であり、商標法第4条第1項第11号に該当する。

審決の要点

本願商標は、「マイナンバー検定」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「マイナンバー」の文字部分は、「マイナンバー法に基づく社会保障・税番号」の意味合いを理解させる著名な標章である「マイナンバー」と同一であることから、該文字部分が、本願商標の要部として看者の注意を強く惹くものといえる。そうすると、「マイナンバー」の文字を含む本願商標は、著名な「マイナンバー」の標章と「マイナンバー」の文字を共通にするものであるから、両者は、類似する商標というのが相当であり、本願商標に接する需要者をして、国や地方公共団体等と何らかの関係を有する者による役務であるかのように、その出所について混同を生じるおそれがあるものと判断するのが相当であるから、本願商標は、商標法第4条第1項第6号に該当する。

また、本願商標と引用商標とは、外観において近似した印象を与えるものであって、「マイナンバー」の称呼及び「マイナンバー法に基づく社会保障・税番号」の観念を同一にするものであるから、これらを総合してみれば、本願商標と引用商標を同一又は類似の役務に使用したときは、両商標は、役務の出所について誤認混同を生ずるおそれのある、互いに類似の商標というのが相当である。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。

コメント

商標法第4条第1項第6号に関する珍しい審決例であるため、ピックアップしました。他にも「マイナンバー管理士」「マイナンバー保護士」という商標も出願されておりますが、同様の理由で拒絶されております。

不服2017-5975(獅子吼/商品の産地、品質等)

審決分類

商標法第3条第1項第3号(商品の産地、品質等又は役務の質等)
商標法第4条第1項第16号(品質等の誤認)

商標

本願商標:

結論

原査定を取り消す。本願商標は登録すべきものとする。

本願商標は、商品の産地、販売地、品質等を表示するものとはいえず、自他商品識別標識としての機能を果たし得るものであり、かつ、商品の品質の誤認を生じさせるおそれもない。したがって、本願商標は商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決の要点

原審において提示された地名事典(「コンサイス日本地名事典 <第5版>」株式会社三省堂発行)によれば、石川県白山市に「獅子吼高原」が存在することが認められるものの、「獅子吼」の文字は、「獅子がほえること。大いに熱弁をふるうこと。」等の意味を有する語として一般的な辞書に掲載されているものであり、本願商標に接する者がこれから直ちに高原名としての「獅子吼高原」を想起するとはいい難い。

また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「獅子吼」の文字が、商品の産地、販売地、品質等を表示するものとして一般に使用されている事実も、また、そのように認識されていると認めるに足る事実も発見できなかった。

コメント

商標審査基準においては、商標が、国内外の地理的名称からなる場合、取引者又は需要者が、その地理的名称の表示する土地において、指定商品が生産され若しくは販売され又は指定役務が提供されているであろうと一般に認識するときは、商品の「産地」若しくは「販売地」又は役務の「提供の場所」に該当すると判断する、と記載されております。本件では、「獅子吼高原」が存在するとしても、「獅子吼」の文字のみでは別の意味で辞書に掲載されており、また、商品の産地等として使用されている事実がないことから、自他商品識別標識としての機能を果たし得ると判断されたものと思われます。

不服2017-9885(図形/図形商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:

引用商標:

結論

本件審判の請求は成り立たない。

本願商標と引用商標とは、互いに類似する商標であり、本願商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。

審決の要点

本願商標と引用商標とは、外観において、上端部と下端部が外側に突起した二本の縦長太線の間に、横長太線が、これら縦長太線の中央に食い込む又は重なるようにH状に配されている点、これら全体の構成が欧文字「H」を横長にした印象を与える点において構成上の特徴が一致しており、図形の外輪郭において酷似する。また、相違点については、灰色と黒色は共に無彩色であって顕著な差異はなく、さらに、当該二本の白抜き線が横長太線の内側に平行して表されているという単純な構成であることを併せ考慮すると、取引者、需要者に対し、これら相違点が、外観上の差違として強い印象を与えるとはいえない。

そうすると、本願商標と引用商標とを離隔的に観察した場合、両商標は、外観上、相紛れるおそれがあるというのが相当である。

コメント

本願商標と引用商標とは、中央部の二本の白抜き線の有無の差異を有しておりますが、それぞれ単純なH図形からなるものではなく、二本の縦長太線の中央に横長太線が食い込む又は重なるようにH状に配されているという特徴的な構成が一致しているため、類似すると判断されたものと思われます。

不服2017-11252(MITSUWA/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:

引用商標:ミツワ(標準文字)

結論

本件審判の請求は成り立たない。

本願商標と引用商標とは、互いに類似する商標であり、本願商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。

審決の要点

本願商標の要部(MITSUWA)と引用商標とを対比すると、外観においては、ローマ字及び片仮名という文字種を異にするところがあるものの、商標の使用においては、商標の構成文字を同一の称呼が生じる範囲内で文字種を相互に変更したり、デザイン化したりすることが一般的に行われている取引の実情があること、両者はそれぞれゴシック体及び標準文字というありふれた書体で表されていることを併せ考慮すると、これに接した取引者、需要者に対し、文字種の相違が、外観上の差違として強い印象を与えるとはいえない。そして、両者は、「ミツワ」の称呼及び「三つの円を少し重ねて並べたもの」の観念が同一であるから、これらを総合勘案すれば、互いに類似する商標であるというべきである。

コメント

請求人は、本願商標の構成中「MITSUWA」の文字の漢字表記「三輪」は比較的ありふれた氏といえるため、本願商標の要部は図形部分にある旨主張しましたが、「三輪」の語は、広辞苑に「三つの円を少し重ねて並べたもの」の意味で掲載されており、直ちにありふれた氏に該当し、商品の出所識別標識として機能がない又は弱いということはできないと判断されております。

不服2017-10420(bob/図形と判断された商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:

引用商標:BOB(標準文字)

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない非類似の商標であり、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決の要点

本願商標は、上段の図形部分が、欧文字の「bob」を連結し図案化したものと理解される場合があるとしても、その態様は極めて図案化されたものであり、むしろ抽象化された図形であって、欧文字の「bob」を表したものとは理解されない。

したがって、本願商標からは、特定の称呼及び観念を生じないというのが相当であるから、引用商標とは称呼及び観念において比較することができず、外観において判然と区別できるものであるため、両商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標である。

コメント

本件では、本願商標が欧文字「bob」を表したものとは理解されないことを理由に、引用商標とは非類似と判断されております。このような場合、第三者が商標「bob」を使用する行為に対する商標権の行使は困難なものになると思われます。また、商標登録を受けたとしても、当該商標を「ビーオービー」又は「ボブ」と呼んで使用する場合、引用商標に係る商標権侵害のリスクがありますので、注意が必要です。

不服2017-8736(extreme/観念が異なる商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:extreme(標準文字)

引用商標:

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない非類似の商標であり、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決の要点

本願商標と引用商標とを比較すると、外観については、それぞれの構成文字,構成文字数及び構成態様において、両者は明らかに相違するものであり、判然と区別し得るものである。次に、称呼については、本願商標からは、「エクストリーム」の称呼を、引用商標からは「エックスストリーム」の称呼を生ずるものであるところ、両者は、その音数,音構成において明らかな差異を有するものであって、明確に聴別されるものである。そして、観念については、本願商標は、「極度の、非常な」の観念を生じるものあり、引用商標は特定の観念を生じないものであるから、両商標は、観念上相紛れるおそれはないものである。

そうすると、本願商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである

コメント

本願商標と引用商標は、「ッ」と「ス」の音の有無の差異を有しており、これらの音はいずれも聴取し難い弱音ですが、「extreme」が親しまれた英単語であり、観念上明確に区別できることを考慮すると、非類似の判断は妥当と思われます。

無効2016-890047(アディダス社のスリーストライプス商標/混同を生ずるおそれ)

審決分類

商標法第4条第1項第15号(商品又は役務の出所の混同)

商標

本件商標:

引用商標(一部省略):

結論

登録第5430912号の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。

本件商標と引用商標とは、本件商標をその指定商品に使用したときは、その取引者、需要者において、当該商品が請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるものと認められるため、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。

審決の要点

運動靴の甲の両側面にサイドラインとして付されたスリーストライプス商標は、本件商標の登録出願前から使用されており、我が国においてもその登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る運動靴を表示するものとして、取引者、需要者の間で広く認識されるものとなっていたものと認められる。スリーストライプス商標の具体的な構成には、使用時期や製品によって、ストライプの長短、幅、間隔、傾斜角度、輪郭線の形状等、細部のデザインが異なる様々なものが存在するが、これら細部の相違は、スリーストライプ商標の基本的な構成である3本のストライプが与える印象と比較して、看者に異なった印象を与えるほどのものではないというべきである。

また、本件商標とスリーストライプ商標を比較すると、本件商標は、仮想垂直線に対しやや左に傾けた黒塗りの3本の線を基調とするもので、3本のうちの左端及び右端の線は途中にわずかな切れ目があるものの、当該左端及び右端の線は、それぞれ2つの黒塗りの線を縦一列に配置した構成よりなるものである。本件商標とスリーストライプ商標を比較すると、左右の線の切れ目の有無など細部において差異はあるものの、基本的な構成である3本の線が与える印象において、看者に外観上共通した印象を与えるといえる。

さらに、請求人の運動靴においては、靴の甲の側面に商標を付す表示態様が多く採用され、また、3本線の一部が切り抜かれているものやストライプの一部分に別色を付される場合が見受けられることから、構成上の子細な差異があるとしても、種々あるバリエーションの一態様と認識されるような取引の実情もある。

以上からすると、本件商標とスリーストライプ商標は、その構成態様より受ける印象及び両商標が使用される指定商品の取引の実情等を総合勘案すると、本件商標をその指定商品に使用したときは、その取引者、需要者において、当該商品が請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるものと認められる。

コメント

スリーストライプス商標に関する無効審判事件は他にもありますが、平成23年(行ケ)第10326号審決取消訴訟事件以降は、本件と同様に商標法第4条第1項第15号に該当すると判断されている傾向にあるように思われます。なお、平成23年(行ケ)第10326号審決取消訴訟事件では、以下の商標が商標法第4条第1項第15号に該当すると判断されました。

平成23年(行ケ)第10326号審決取消訴訟事件における本件商標:

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(文責・前田)