展示会に出品されていた加湿器と類似の形態をした商品を輸入・販売した行為が、不正競争防止法2条1項3号の形態模倣に当たるか及び著作権侵害が認められるかが争われていた事案で、知的財産高等裁判所は、平成28年11月30日、製品が実際に販売されていなかったとしても、開発、商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった場合には「他人の商品」として不正競争防止法により保護されると判断しました。

一方、この加湿器の形態の応用美術の著作物性判断に当たっては、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても、高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性は必要ないとしつつ、実際の判断においては自ずと著作物性が認められる範囲が狭くなるとの考え方を示した上で、著作物性を否定しました。

本判決は、これまであまり議論がされてこなかった、形態模倣における「他人の商品」の意義についての規範を示すとともに、応用美術の著作物性判断についての裁判所の考え方を明らかにしたものであり、実務上意義があると思われます。

ポイント

本件は、控訴人がデザインを考案し商品展示会に出品していたスティック型加湿器(本件加湿器)とほぼ同一形態の製品を被控訴人が販売していたため、控訴人が当該製品の輸入及び販売差止め、廃棄並びに損害賠償の請求をした事件です。

本件の重要な争点は、①展示会に出品されてはいたものの市場には流通していなかった控訴人の製品が、不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」に該当するかという点と、②実用品の商品形態がいわゆる応用美術の著作物として著作物性が認められるかという点です。

原判決は、①について、本件加湿器が展示会当時は開発途中の試作品であったことを理由に、「他人の商品」に該当しないものと判断しました。
これに対し、本判決は、「他人の商品」とは商品化を完了し、商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている物品であるとの規範を立てました。

その上で、商品展示会に出展された商品は、特段の事情のない限り、開発、商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになったものであり、事後的に改変の余地があるからといって、当該モデルが販売可能な段階に至っているとの結果を左右するものではないとして、「他人の商品」に該当すると判断しました。

一方、②について、裁判所は、応用美術の著作物性判断に当たって、他の著作物とは異なり高度の創作性を要する必要はないとしつつも、本件加湿器の形態における特徴はいずれも平凡な表現手法または形状であって、個性が顕れているとまでは認められないとして、著作物性を否定しました。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決日 平成28年11月30日
事件番号 平成28年(ネ)第10018号 不正競争差止等請求控訴事件
原判決 東京地方裁判所平成27年(ワ)第7033号
裁判官 裁判長裁判官 清水 節
裁判官 中村 恭
裁判官 森岡 礼子

解説

形態模倣とは

不正競争防止法2条1項3項は「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為」を不正競争行為として定めており、一般に「形態模倣」と呼ばれています。

他人の商品

形態模倣につき不正競争として認められるためには、模倣された製品が「他人の商品」に該当することが必要です。「商品の形態」の定義は不正競争防止法2条4項にありますが、どの段階で「商品」として認められるのか、すなわち、実際に販売されている必要があるのか、それとも、それ以前の段階のもので足りるのかについては、法律上の規定はなく、確立した考え方はありませんでした。

応用美術の著作物性

一方、実用に供されるものが著作物として著作権法上保護されるかは、いわゆる応用美術の著作物性として古くから議論がされている問題です。その解説は本サイトのエジソンのお箸事件の解説に譲りますが、応用美術については、意匠との棲み分けの観点から、そもそも著作物としては認められない、または、著作物として認められるためのハードルが高いのではないかという点が従前から議論されていました。

原判決の判断

原判決は、「「商品」に当たるというためには、市場における流通の対象となる物(現に流通し、又は少なくとも流通の準備段階にある物)をいうと解するのが相当である。」としました。

そして、展示会時は加湿器本体を外部電源に銅線で接続して電機の供給を受ける構成となっていたことや、製品化の具体的な日程が決まっていなかった事実を認定した上で、「展示会の当時の構成では一般の家庭等において容易に使用し得ないものであって、開発途中の試作品」であり、市場における流通の対象となっていなかったことを理由に「商品」に当たらないと判断しました。

また、応用美術の著作物性については、「純粋な美術ではなくいわゆる応用美術の領域に属するもの、すなわち、実用に供され、産業上利用される製品のデザイン等は、実用的な機能を離れて見た場合に、それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合を除き、著作権法上の著作物に含まれないものと解される。」との考えを示した上で、本件加湿器はそのような創作性を有しないことを理由に著作物性を否定しました。

本判決の判断

本判決は、本件加湿器の形態は「他人の商品」に当たるとして不正競争防止法に基づく請求の一部を認めましたが、加湿器の構成の著作物性は否定し、著作権侵害に基づく請求は認めませんでした。

「他人の商品」について

判決では、まず、不正競争防止法が形態模倣を不正競争であるとした趣旨について、以下のように述べています。なお、この趣旨については原判決でも同趣旨のことが述べられています。

不正競争防止法が形態模倣を不正競争であるとした趣旨は、商品開発者が商品化に当たって資金又は労力を投下した成果が模倣されたならば、商品開発者の市場先行の利益は著しく減少し、一方、模倣者は、開発、商品化に伴う危険負担を大幅に軽減して市場に参入でき、これを放置すれば、商品開発、市場開拓の意欲が阻害されることから、先行開発者の商品の創作性や権利登録の有無を問うことなく、簡易迅速な保護手段を先行開発者に付与することにより、事業者間の公正な商品開発競争を促進し、もって、同法1条の目的である、国民経済の健全な発展を図ろうとしたところにあると認められる。

次に、不正競争防止法で保護される「他人の商品」の意義については、上記の形態模倣の禁止の趣旨から、次のように述べて、商品化を完了していれば足り、商品が販売されていることまでは必要ないとしました。

商品開発者が商品化に当たって資金又は労力を投下した成果を保護するとの上記の形態模倣の禁止の趣旨にかんがみて、「他人の商品」を解釈すると、それは、資金又は労力を投下して取引の対象となし得ること、すなわち、「商品化」を完了した物品であると解するのが相当であり、当該物品が販売されているまでの必要はないものと解される。このように解さないと、開発、商品化は完了したものの、販売される前に他者に当該物品の形態を模倣され先行して販売された場合、開発、商品化を行った者の物品が未だ「他人の商品」でなかったことを理由として、模倣者は、開発、商品化のための資金又は労力を投下することなく、模倣品を自由に販売することができることになってしまう。このような事態は、開発、商品化を行った者の競争上の地位を危うくさせるものであって、これに対して何らの保護も付与しないことは、上記不正競争防止法の趣旨に大きくもとるものである。

もっとも、不正競争防止法の趣旨が事業者の営業上の利益を保護することを目的としていることから、「商品」の範囲に一定の絞りをかけています。

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保することによって事業者の営業上の利益を保護するものであるから(同法3条、4条参照)、取引の対象とし得る商品化は、客観的に確認できるものであって、かつ、販売に向けたものであるべきであり、量産品製造又は量産態勢の整備をする段階に至っているまでの必要はないとしても、商品としての本来の機能が発揮できるなど販売可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている必要がある。

そして、本件加湿器については、展示会に出品されていた事実を重視して、販売可能とする段階に至っていたことが外形的に明らかであったとして、「商品」に該当すると判断しました。

商品展示会は、商品を陳列して、商品の宣伝、紹介を行い、商品の販売又は商品取引の相手を探す機会を提供する場なのであるから、商品展示会に出展された商品は、特段の事情のない限り、開発、商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになったものと認めるのが相当である。他方、本件加湿器は被覆されていない銅線によって超音波振動しに電力が供給されており、この形態のまま販売されるものではないことは明らかであるが、商品としてのモデルが完成したとしても、販売に当たっては、量産化などのために、それに適した形態への多少の改変が必要となるのは通常のことと考えられ、事後的にそのような改変の余地があるからといって、当該モデルが販売可能な段階に至っているとの結果を左右するものではない。

著作物性について

応用美術の著作物性判断に当たって、本判決は、他の著作物とは異なる考え方をする必要なく、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても、高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性は必要ないと述べました。

その理由として、応用美術は一定の機能実現の必要性から、表現に制約があり、それ故、作成者の個性が発揮される選択の幅が制約されるため、著作物性を認められる余地が、上記制約を課されない他の表現物に比して狭く、また、著作物性を認められても、その著作権保護の範囲は、比較的狭いものにとどまることが想定されるから、このように解しても法の趣旨を没却することはないと説明しています。

著作権法は、建築(同法10条1項5号)、地図、学術的な性質を有する図形(同項6号)、プログラム(同項9号)、データベース(同法12条の2)などの専ら実用に供されるものを著作物になり得るものとして明示的に掲げているのであるから、実用に供されているということ自体と著作物性の存否との間に直接の関連性があるとはいえない。したがって、専ら、応用美術に実用性があることゆえに応用美術を別異に取り扱うべき合理的理由は見出し難い。また、応用美術には、様々なものがあり得、その表現態様も多様であるから、作成者の個性の発揮のされ方も個別具体的なものと考えられる。

そうすると、応用美術は、「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に属するものであるか否かが問題となる以上、著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても、高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず、著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、著作物として保護されるものと解すべきである。

応用美術の表現については、実用目的または産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現するという制約が課されることから、作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され、したがって、応用美術は、通常、創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が、上記制約を課されない他の表現物に比して狭く、また、著作物性を認められても、その著作権保護の範囲は、比較的狭いものにとどまることが想定される。そうすると、応用美術について、美術の著作物として著作物性を肯定するために、高い創作性の有無の判断基準を設定しないからといって、他の知的財産制度の趣旨が没却されたり、あるいは、社会生活について過度な制約が課されたりする結果を生じるとは解し難い。

もっとも、本件加湿器の構成については、創作性があると主張されていうる構成のいずれも平凡な表現手法または形状であって、個性が顕れているとまでは認められないとして、著作物性を否定しました。

コメント

本件は、展示会に出品されていた製品のデザインを模倣することも形態模倣として不正競争行為に該当し得るとし、発売前の製品であってもむやみに他人のデザインを模倣する行為に警鐘を鳴らすものと評価できます。

なお、本件では、被控訴人は、侵害商品の譲り受け時に商品が市場に流通していなかったことから、善意無住過失であることを理由に責任を負わないとの主張もしていますが、同業者が本件加湿器の存在を認識していたことや、ウェブサイトで容易に確認が可能であったことを理由に否定されています。

したがって、商品を仕入れる側としては、目新しいデザインの商品について模倣の疑義がないかを、市場に流通している商品だけでなく、展示会などに出ている未発売の製品も含めて十分に調査をする必要があると考えられます。

また、応用美術の著作物性についての考え方は、エジソンのお箸事件控訴審の考え方を踏襲するものであるといえます。
すなわち、応用美術であることを理由に高い創作性を要求しないとするものの、「美的鑑賞の対象となり得る美的特性」は必要であり、実際の判断においては性質上、著作物性が認められる場合を限定することで、意匠法との棲み分けを意図しているものと考えられます。

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(文責・町野)