本年(平成28年)12月9日、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の承認案と関連法案は、参院本会議において、自民、公明、日本維新の会などの賛成多数で可決され、成立しました。

もっとも、本稿執筆時点において、トランプ米次期大統領がTPP離脱の意向を翻したとの報道には触れておらず、日本政府は、米国に対し、批准を働きかける意向と報道されています。

このような状況のため、現状TPP発効の見通しは立っていませんが、内容の重要性に鑑み、前回に続き、TPPと知的財産法の解説を続けます。

今回のテーマは、著作権法です。TPPの概要や、特許法分野における法改正項目については、こちらをご覧ください

※ 末尾にTPP11の発効に伴う国内整備法施行に関する追記をしました(2018年12月30日)

TPPと著作権法

TPP交渉において、知的財産法分野の中でも特に議論を呼んだのは著作権法でした。著作権者の保護と自由利用のバランス、そして、文化の変遷や技術の進化に著作権法がいかに対応すべきかが問題となったといえるでしょう。

著作権法分野における改正項目

著作権法分野における改正項目は、概要、以下の5つです。

  1. 著作物等の保護期間の延長
  2. 著作権侵害罪の一部非親告罪化
  3. 著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段(アクセスコントロール等)に関する制度整備
  4. 配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与
  5. 法定の損害賠償又は追加的な損害賠償に係る制度整備

著作物等の保護期間の延長

著作物及び実演・レコードの保護期間が、基準時から70年となります。現行法のもとでいったん保護期間を満了した著作物については、新法施行時に新法の下で保護期間が残っていたとしても、保護を受けることはありません。

なお、現行法において公表後70年間の保護期間が認められている映画の著作物については変更ありません。また、著作隣接権として50年の保護が認められている放送、有線放送についても、TPPの対象とされておらず、変更はありません。

著作物について
自然人の原則 (現)死後50年 → (新)死後70年
無名・変名の著作物 (現)公表後50年 → (新)公表後70年
団体名義の著作物 (現)公表後50年 → (新)公表後70年
実演・レコードについて
実演 (現)実演後50年 → (新)実演後70年
レコード (現)発行後50年 → (新)発行後70年

著作権侵害罪の一部非親告罪化

TPP関連での知的財産法の改正の中でも特に議論を呼んだのが著作権侵害罪の一部非親告罪化でした。著作権侵害罪が非親告罪となると、被害者である著作権者の意思に関わりなく捜査機関が侵害行為を摘発することが可能になるため、著作物の利用行為を萎縮させる可能性があるといわれていました。

法案では、以下の要件を満たす場合にのみ非親告罪とすることによってこのような危惧に応えています。

  1. 対価を得る目的又は権利者の利益を害する目的があること
  2. 有償で提供等されている著作物等について原作のまま譲渡・公衆送信又は複製を行うものであること
  3. 有償著作物等の提供・提示により得ることが見込まれる権利者の利益が、不当に害されること

この要件を満たすのは、いわゆる海賊版の販売や配信の場合と考えられ、例えば、他人の小説などを漫画化し、同人誌に掲載したり、コミケで販売する行為は非親告罪化の対象外となります。

著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段(アクセスコントロール等)に関する制度整備

現行著作権法は、コピーガードなどのコピーコントロールの手段を回避する行為を規制していますが、スクランブル放送などのアクセスコントロールを回避する行為については規制していません。その背景には、著作権法は、著作物を複製する行為を規制しているのに対し、閲覧する行為は規制の対象としていないことがありました。

今般の改正法では、アクセスコントロール(著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段)を権限なく回避する行為が著作権侵害とみなされることとされ、規制の対象となりました。

なお、回避行為については、「技術的利用制限手段に係る研究又は技術の開発の目的上正当な範囲内で行われる場合その他著作権者等の利益を不当に害しない場合」は規制対象外となり、また、業として回避行為を行わない限り、刑事罰もありません。

これに対し、回避を行うための装置の販売等の行為は、刑事罰の対象となります。

配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与

現在、放送事業者等が音楽を放送または有線放送する場合、実演家やレコード製作者には、JASRACなどを通じて使用料が支払われています。しかし、著作権法がその対象としているのは、CD等の商業用レコードを用いて放送又は有線放送を行う際に限られていました。

今回の改正法は、その対象を拡大し、配信音源を用いて放送又は有線放送を行う場合についても、使用料請求権を与えることとしました。

法定の損害賠償又は追加的な損害賠償に係る制度整備

著作権法は、現在も損害賠償額の推定規定を置いていますが、今回の改正法は、著作権がJASRACなどの管理事業者によって管理されている場合には、管理事業者の使用料規程を適用した場合の最高額を損害額として請求できることとしました。

TPP11の施行との関係(2018年12月30日追記)

本稿で取り上げたTPP12は、その後の米国の脱退により発効することはありませんでしたが、TPP12協定に署名した12か国のうちアメリカを除く11か国は新たにTPP11協定を締結し、その国内整備法が2018年12月30日に施行されました。その結果、知的財産法については、本稿で解説した国内整備法と実質的に同一内容の整備法が施行されています。

詳細な経緯については、こちらをご覧ください

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(文責・飯島)