東京地方裁判所は、本年(2016年)9月15日、第三者の写真を許諾なく利用したツイートをリツイートする行為について、著作権ないし著作者人格権の侵害に該当しないとする判決をしました。いわゆるインラインリンクが著作権侵害に該当しないことを示した判決として参考になります。

ポイント

骨子

本件では、自らの著作物である写真が無断でツイッター上のアカウントのプロフィール写真や画像付きツイートに利用され、また、そのツイートがリツイートされたことに基づき、写真の著作権者が、米国ツイッター社と日本のツイッタージャパン社に対し、発信者情報の開示を求め、東京地方裁判所において訴訟を提起しました。同訴訟では、いくつかの論点が争われましたが、そのひとつに、いわゆるインラインリンクが含まれるリツイートが著作権ないし著作者人格権の侵害を構成するか、という問題がありました。

この点について、東京地方裁判所は、要旨以下の判断を示しました。

  • ツイート行為で利用された第三者の著作物である写真の画像がリツイートをした者のタイムラインに表示されるのは、リツイート行為により同タイムラインのURLにリンク先である情報のURLへのインラインリンクが自動的に設定され,同URLからユーザーのパソコン等の端末に直接画像ファイルのデータが送信されるためであって、リツイート行為は、それ自体として上記データを送信し、またはこれを送信可能化するものでなく、公衆送信に当たることはない。
  • このようなリツイートの仕組み上、本件リツイート行為により本件写真の画像ファイルの複製は行われないから複製権侵害は成立せず、画像ファイルの改変も行われないから同一性保持権侵害は成立しないし、リツイート者らから公衆への本件写真の提供又は提示があるとはいえないから氏名表示権侵害も成立しない。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第46部
判決日 平成28年9月15日
事件番号 平成27年(ワ)第17928号 発信者情報開示請求事件
裁判官 裁判長裁判官 長谷川 浩 二
裁判官 萩 原 孝 基
裁判官 藤 原 典 子

解説

発信者情報開示請求とは

インターネット上で誹謗中傷や、プライバシー権、著作権等の権利侵害が行われた場合、侵害者に対して損害賠償などを求めようとすると、まず問題になるのが発信者の特定です。

これを可能にするため、プロバイダ責任制限法は、インターネット・サービス・プロバイダやウェブサイト運営者に対して発信者情報の開示を求める発信者情報開示請求権を認めています。

プロバイダ責任制限法とは

プロバイダ責任制限法は、正式名称を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といい、インターネット上での権利侵害行為に対し、プロバイダの責任の範囲や、被害者が求めることのできる措置について定めた法律です。

この法律により、インターネット上で権利侵害を受けた被害者は、ネット上の情報の公開停止や削除を求めることができるほか、正当な理由がある場合には、プロバイダに対し、発信者情報の開示を求めることができます。

公衆送信権とは

著作権は、特許権などの産業財産権とは異なり、様々な権利の束という性格を持っています。束を構成する個々の権利を支分権といい、どのような支分権が束に含まれるかは、著作物の種類によって相違がありますが、代表的な権利としては、著作物の複製行為についての専有権である「複製権」や、情報の送信行為についての専有権である「公衆送信権」、販売等の譲渡行為についての専有権である「譲渡権」などがあります。

本件で主として問題となる公衆送信権は、公衆によって直接受信されることを目的として、無線または有線で情報の送信を行うことをいい、テレビ放送、有線放送などのほか、本件に見られるようなウェブ上での情報発信が含まれます。

リンクと公衆送信権侵害

第三者の著作物を許諾なくウェブ上で発信することは、著作権(公衆送信権)侵害に該当します。
これに対し、第三者のウェブサイトにリンクを張ることが著作権侵害にあたるか、という問題は議論の対象となりました。現在では、リンクが張られた場合の発信者はあくまでリンク先のウェブサイトの運営者と考えられるため、通常、リンクを張ることによって著作権侵害は成立しないと考えられています。

もっとも、リンクには様々な態様があり、本件では、ツイッターで用いられているインラインインクが著作権侵害を構成しないかが争われました。インラインリンクは、ユーザーがリンクをクリックすることによってリンク先の情報が表示されるハイパーリンクと異なり、リンク元の情報が表示されると、ユーザーの操作を経由せずに自動的にリンク先の情報が表示される点に特徴があり、判決中では以下のとおり定義されています。

インラインリンクとは,ユーザーの操作を介することなく,リンク元のウェブページが立ち上がった時に,自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルが当該ユーザーの端末に送信されて,リンク先のウェブサイトがユーザーの端末上に自動表示されるように設定されたリンクをいう。

本件の背景及び争点

本件の原告は、写真の著作物について著作権を有する著作権者ですが、当該写真が、第三者によって、ツイッターのアカウントのプロフィールに利用され、また、その写真画像付きのツイートが行われました。そこで、原告は、ツイッターを運営する米ツイッター社と、日本国内の子会社であるツイッタージャパン社に対し、ツイートをしたユーザーとそのリツイートをしたユーザーの発信者情報の開示を求めました。

本件訴訟では、結論において、発信者情報保有者である米ツイッター社に対し、もととなったツイートのユーザーの発信者情報開示請求(電子メール)だけが認められましたが、その過程でいくつかの論点が争われました。そのうちのひとつが、無断利用した写真画像付きのツイートのリツイートが著作権侵害に該当するか、というものです。仮にリツイートも著作権侵害に当たるとすると、その発信者情報も開示対象となりうるからです。

この議論をするにあたり、原告は、以下のように述べ、インラインリンクにおいては、元のウェブページと結合し、リンク先のデータファイルを利用する関係になることなどを指摘し、リツイートも著作権侵害となると主張しました。

ファイルの送信がクライアントの意思によらず自動的に行われ,クライアントからの求めではなくインラインリンク設定者からの求めに応じて行われること,インラインリンクは,単にデータファイルの存在する場所を示すにすぎない通常のハイパーリンクと異なり,当該データファイルがクライアントコンピューター上でリンク元のウェブページと結合するものであって,インラインリンク設定者は当該データファイルを利用しているといえること,リツイートは送信可能化を行ったアップロード者(元のツイートを行った者)の想定しない利用態様であること,リツイートにより社会的,経済的利益を得るのはリツイートをした者であることなどに照らせば,リツイートの場合,上記送信行為の主体はインラインリンクを設定した者,すなわちリツイートをした者と評価すべきである。

本判決の要旨

本判決は、以下のように述べて、リツイートによって画像付きツイートの画像が表示されたとしても、公衆送信権侵害に該当しないとの判断を示しました。

本件写真の画像が(リツイート者のアカウント)のタイムラインに表示されるのは,本件リツイート行為により同タイムラインのURLにリンク先である(元となるツイートの画像)のURLへのインラインリンクが自動的に設定され,同URLからユーザーのパソコン等の端末に直接画像ファイルのデータが送信されるためである。すなわち,(リツイートにおいて表示される画像)の各URLに(元画像)のデータは一切送信されず,同URLからユーザーの端末への同データの送信も行われないから,本件リツイート行為は,それ自体として上記データを送信し,又はこれを送信可能化するものでなく,公衆送信(著作権法2条1項7号の2,9号の4及び9号の5,23条1項)に当たることはないと解すべきである。

また、判決は、以下のように述べ、複製権や、著作者人格権との関係でも侵害の問題を生じないと判断しました。

また,このようなリツイートの仕組み上,本件リツイート行為により本件写真の画像ファイルの複製は行われないから複製権侵害は成立せず,画像ファイルの改変も行われないから同一性保持権侵害は成立しないし,本件リツイート者らから公衆への本件写真の提供又は提示があるとはいえないから氏名表示権侵害も成立しない。さらに,(元画像)のURLからユーザーの端末に送信された本件写真の画像ファイルについて,本件リツイート者らがこれを更に公に伝達したことはうかがわれないから,公衆伝達権の侵害は認められないし,その他の公衆送信に該当することをいう原告の主張も根拠を欠くというほかない。

さらに、判決は、以下のように述べて、上述の原告の主張を排斥しました。

証拠及び弁論の全趣旨によれば,ツイッターユーザーにとってリツイートは一般的な利用方法であること,本件リツイート行為により本件ツイート・・・は形式も内容もそのまま本件アカウント・・・の各タイムラインに表示されており,リツイートであると明示されていることが認められる。そうすると,本件リツイート行為が(ツイート者の)アカウント・・・の使用者にとって想定外の利用方法であるとは評価できないし,本件リツイート者らが本件写真を表示させることによって利益を得たとも考え難いから,これらの点から本件リツイート者らが自動公衆送信の主体であるとみることはできない。

実務への示唆

本判決は、ツイッターの仕組みを分析し、リツイートにおけるインラインリンクの利用につき、著作権侵害を否定したものです。
判決の趣旨として、インラインリンクもリンクである以上、第三者が発信する情報にインラインリンクを張ったとしても、著作権侵害にならないことを示したものと考えられます。

もっとも、この理解がインラインリンクに無制限に適用されるか、という点については注意を要するかもしれません。本件では認定されなかった原告の主張事実が認められるような事案では、異なる結論が導かれる可能性もないとはいえないからです。
つまり、①もと情報をそのままの形で表示していること、②リツイートなど、自身がもと情報の発信者でないことが明らかな態様であること、③インラインリンクによって利益を得ていないこと、といった一連の前提を欠く場合には、なお慎重な対応が必要になるのかもしれません。

なお、海外に目を向けると、本年(2016年)9月8日、欧州司法裁判所が以下のような判決をし、ハイパーリンクが適法であるためには、リンク先のコンテンツが違法であることを知らず、または合理的に知りえなかった人が経済的目的でなく提供したものであることを要し、また、経済的目的がある場合には、違法コンテンツであったことを知っていたと推定される、との非常に厳しい判断を示しています。

Article 3(1) of Directive 2001/29 must be interpreted as meaning that, in order to establish whether the fact of posting, on a website, hyperlinks to protected works, which are freely available on another website without the consent of the copyright holder, constitutes a ‘communication to the public’ within the meaning of that provision, it is to be determined whether those links are provided without the pursuit of financial gain by a person who did not know or could not reasonably have known the illegal nature of the publication of those works on that other website or whether, on the contrary, those links are provided for such a purpose, a situation in which that knowledge must be presumed. (欧州司令2001/29第3条(1)は、以下のとおり解釈されなければならない。すなわち、ウェブサイトにおいてハイパーリンクを張る行為は、他のウェブサイトの著作権者の許諾なくして自由に行うことができるところ、これが、上記規定にいう「公衆への通信」に該当するか否かは、そういったリンクが、ハイパーリンク先の他のウェブサイト上の著作物の公表が違法なものであることを知らなかったか、または、合理的に知りえなかった人によって、経済的利益を目的とせずに提供されたものかどうか、あるいは、逆に、そういった目的のために提供されたのか、によって判断されるべきであり、また、経済的利益を目的とする場合には、違法であることを知っていたと推定されなければならない。)

わが国では収斂したかに見えるリンクの問題ですが、国際的には、まだまだ様々な見方があるようです。

2018年6月18日追記

平成30年(2018年)4月25日、本件の控訴審判決(知的財産高等裁判所第2部・森義之裁判長)がありました。控訴審判決は、本判決と同様著作権侵害を否定したものの、著作者人格権の侵害を認め、リツイートをした者に関する発信者情報開示請求を一部認容しました。控訴審判決のリーガルアップデートはこちらをご覧ください

2020年7月23日追記

令和2年(2020年)7月21日、上記控訴審判決を原判決とする最高裁判所の判決がありました。リーガルアップデートに解説記事を掲載しましたので、ぜひ併せてご一読ください。

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(文責・飯島)