東京地方裁判所民事第40部(中島基至裁判長)は、本年(令和5年)5月18日、各種製品の販売促進資料の制作などを行うデザイン事務所が、第三者の著作物である写真を用いて制作した販売促進資料を自社の実績としてウェブページで紹介するにあたり、著作権者の許諾なく、その写真もウェブページに掲載したことについて、デザイン事務所の運営主体である会社のほか、その代表取締役にも損害賠償を命じる判決をしました。

会社が著作権侵害をした場合の取締役の個人責任については、かつてカラオケ店を巡る一連の判決がありましたが、本件では、取締役により厳しい認定判断が行われていると感じられることから、実務の参考のために紹介します。

ポイント

骨子

  • 被告会社は、デザインの企画・制作等を目的とする株式会社であり、日本たばこ産業株式会社から受託された「さくら」の小冊子を作成するために、原告から、本件各写真の利用許諾を受けたのであるから、その代表取締役である被告Bは、その職務上、原告に対し、前記認定に係る態様で本件各写真を本件ウェブページに掲載することができるかどうかを確認すべき注意義務があったものといえる。
  • しかるに、被告Bは、原告に容易に確認できるにもかかわらずこれを怠り、本件各写真のデジタルデータに複製防止措置を何ら執ることなく、漫然と約7年間も本件ウェブページに継続して違法に掲載し、その結果、本件各写真のデジタルデータがインターネット上に原告名が付されることなく相当広く複製等されたことが認められる。
  • これらの事情を踏まえると、被告Bに少なくとも重過失があったことは明らかであり、著作権の重要性を看過するものとして、その責任は重大である。
  • 被告Bが、本件ウェブページ掲載当時に知的財産権保護体制の構築を主たる職務としていなかったとしても、デザイン制作等を目的とする株式会社において、デザイン制作等に当たり著作権、肖像権その他の知的財産権を侵害しないようにする措置を十分に執ることは、取締役の基本的な任務であるといえるから、被告Bの主張を十分に踏まえても、被告Bの責任は免れない。また、原告に何ら確認することなく、本件各写真のデジタルデータが複製防止措置を何ら執られることなく本件ウェブページに7年以上も漫然と掲載されていた事情等を踏まえると、被告Bの主張立証(乙10)等を十分に斟酌しても、知的財産権の侵害を防止するための社内体制が不十分であったとの誹りを、免れることはできない。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第40部
判決言渡日 令和5年5月18日
事件番号
事件名
令和3年(ワ)第20472号
損害賠償請求事件
裁判官 裁判長裁判官 中 島 基 至
裁判官    小 田 誉太郎
裁判官    古 賀 千 尋

解説

取締役の対第三者責任

取締役の対第三者責任とは

会社法429条1項は、以下のとおり、会社の役員等が任務懈怠によって第三者に与えた損害について、個人責任を負担する場合があることを定めています。

(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第四百二十九条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
(略)

この規定に基づく役員の責任は、会社に対する責任と区別する意味で、対第三者責任と呼ばれています。

対第三者責任の要件及び責任の範囲を巡る対立

この規定に関しては、責任の成立要件として、第三者への加害についての悪意重過失が求められるのか、あるいは、職務執行についての悪意重過失があれば足りるのか、といったことや、損害賠償の範囲として、第三者に直接的に生じた損害が賠償の対象になるのか、あるいは、会社に損害が生じ、支払能力が毀損された結果として第三者に生じる間接損害が対象になるのか、といったことが議論されてきました。

これらの問題は、学説上、役員の対第三者責任を不法行為責任の一種と考えるか(不法行為責任説)、あるいは、不法行為とは別に法律が定めた特別の責任と考えるか(法定責任説)、という観点から論じられることが多く、不法行為責任説の立場からは、第三者への加害について悪意重過失が求められる一方、賠償すべき損害の範囲は直接侵害となるとの結論が導かれ、法定責任説の立場からは、職務執行についての悪意重過失があれば足りる一方、賠償すべき損害の範囲は間接損害に限られるとの結論が導かれる傾向にあります。

判例の考え方

上記の問題について、最高裁判所は、法定責任説を採用したといわれ、責任の成立要件としては、役員等に職務執行についての悪意重過失があれば足りるとする一方、損害については、直接損害と間接損害の双方が賠償の対象になるとの考え方(両損害包含説)を示しました(最大判昭和44年11月26日所昭和39年(オ)第1175号民集第23巻11号2150頁)。この考え方は、その後の裁判例においても承継されています。

任務懈怠

任務懈怠とは

役員と会社の関係は、以下の会社法330条により、雇用契約ではなく、委任契約とされています。

(株式会社と役員等との関係)
第三百三十条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

そのため、役員は、以下の民法644条により、委任契約上の善管注意義務を負い、これに反することは、役員の任務懈怠として、対第三者責任の原因となり得ます。

(受任者の注意義務)
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

もっとも、事業経営には常にリスクが伴うため、経営判断については、取締役に広い裁量を認める経営判断原則が適用され、判断の過程や内容に著しい不合理がない限り、善管注意義務違反を構成しないものと解されています。このような考え方を、「経営判断の原則」といいます。

また、取締役は、以下の会社法355条により、「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行」う忠実義務を負担していますので、これに反することも、やはり任務懈怠となります。

(忠実義務)
第三百五十五条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。

ここに記載された義務のうち、「法令」を「遵守」する義務は、法令遵守義務と呼ばれます。

法令違反と取締役の責任

上述のとおり、取締役は、忠実義務の内容として法令遵守義務を負いますが、法令を遵守することは会社との委任契約に基づく義務ではなく、また、経営判断の問題でもないため、その場合の任務懈怠は、善管注意義務や経営判断の原則の枠組みで考えるのではなく、ある取締役の意思決定に法令違反があったときは、その取締役に任務懈怠が認められることになります。この場合、後述の悪意・重過失が認められれば、取締役の個人責任が肯定されることになります。

他方、その職務に関係しない役員の責任は、他の役員に対する監督義務の違反の問題として把握されるため、会社に対する善管注意義務が問題となります。この場合、問題となる第三者への加害を防止するための内部統制システムが構築されていれば、いわゆる信頼の原則により、免責される可能性が出てきます。

悪意・重過失

上記の判例によると、悪意・重過失は、第三者への加害ではなく、任務懈怠を対象とするものと考えられています。したがって、悪意とは、任務懈怠を知っていたことをいい、重過失とは、任務懈怠について著しい不注意があったことをいうことになり、任務懈怠の結果として第三者に加害が及ぶことについて知っていたか、あるいは著しい不注意によって知らなかったといえるかは、取締役の対第三者責任の成否には関係しないことになります。

具体的には、法令違反を理由とする場合には取締役が法令違反について悪意・重過失であったかが問題となるのに対し、善管注意義務違反の場合には、善管注意義務違反の内容に実質的に故意過失の判断が取り込まれているため、悪意・重過失に関する実質的な争点は、過失の重大性の有無になってくることが多くなるものと考えられます。

著作権侵害と取締役の対第三者責任

著作権法は、著作権の内容として、著作物の利用行為類型ごとに、著作者がその専有権を有することを定めています。例えば、公衆送信権については、著作権法23条が以下のとおり規定しています。

(公衆送信権等)
第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

このように、著作者が公衆送信をする権利を専有しているにもかかわらず、著作者に無断でその著作物を公衆送信することは、法令の違反にあたります。そのため、これを会社が行った場合において、その意思決定をした取締役がその行為が著作権侵害であることを知っていたか、または著しい不注意により知らなかったときは、その取締役は、上記の会社法429条1項により、著作者に対し、直接損害賠償義務を負うことになります。

過去の例としては、例えば、大阪地判平成12年4月18日平成11年(ワ)第4804号は、音楽著作物を無断使用していたカラオケボックスの運営会社の役員について、当時の商法266条の3(現在の会社法429条1項)に基づく損害賠償を命じています。この当時、カラオケボックスにおける著作権侵害をめぐり、取締役の個人責任が問われた判決がいくつか現れていますが、いずれも、利用料の支払いを再三求められていたことなどから悪意重過失が認められています。

損害推定規定と取締役の対第三者責任

我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、不法行為がなかった場合と比較した経済的損失を計算する差額説に立っています。

他方、被害者が有する有体物を毀損するような場合とは異なり、著作権侵害があったからといって、何か形ある資産が失われることはなく、その損害は、著作物の複製が出回るなどの理由により、販売利益を喪失することを本質とします。この場合、差額説の立場に立てば、仮に著作権侵害がなければ、どれだけの収益が得られたかを証明しなければならないことになりますが、そのような仮説に基づく具体的な経済的損失の立証は非常に困難です。

そこで、著作権法には、著作者の救済のため、以下の著作権法114条に損害額の推定規定が置かれています。

(損害の額の推定等)
第百十四条 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によつて作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。
 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
 著作権者又は著作隣接権者は、前項の規定によりその著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し損害の賠償を請求する場合において、その著作権又は著作隣接権が著作権等管理事業法第二条第一項に規定する管理委託契約に基づき著作権等管理事業者が管理するものであるときは、当該著作権等管理事業者が定める同法第十三条第一項に規定する使用料規程のうちその侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定により算出したその著作権又は著作隣接権に係る著作物等の使用料の額(当該額の算出方法が複数あるときは、当該複数の算出方法によりそれぞれ算出した額のうち最も高い額)をもつて、前項に規定する金銭の額とすることができる。
 第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

この規定が、取締役の対第三者責任にも適用ないし類推適用されるかは議論のあり得るところですが、上記の平成12年大阪地判のほか、著作権侵害や特許権その他の産業財産権侵害を理由に取締役の責任を認めた裁判例の多くは、取締役の責任範囲の判断においても、損害推定規定を用いています。

事案の概要

本件の原告は写真家で、被告らは、会社(「被告会社」)と個人(「被告B」)の2名です。被告らのうち、被告会社は、各種デザインの企画制作を行う、いわゆるデザイン事務所を営む会社で、被告Bは、被告会社の代表取締役を務めるグラフィックデザイナーです。

被告会社は、日本たばこ産業株式会社から新製品の販促用小冊子の作成を受託しましたが、小冊子の作成に際し、原告に許諾料460万円を支払って、原告の撮影にかかる写真を使用しました。

被告会社は、この写真を、平成19年3月から平成26年8月までの7年あまりの間にわたって、原告の許諾を得ずに被告会社のウェブページ(「本件ウェブページ」)に掲載しました。掲載の目的は、自社のデザインの実績を紹介することが目的でしたが、写真に透かしを入れるなど複製防止の処理はなされておらず、それに起因して、原告の写真が相当数複製されました。

原告は、これが原告の写真についての著作権を侵害したものであるとして、令和3年8月6日、被告らに対し、1億7540万円及び遅延損害金の支払いを求める訴訟を提起しました。

本件の争点には、ウェブページでの写真の利用が引用にあたるか、黙示的な承諾があったといえるか、消滅時効が成立していたか、損害額はいくらか、などといった事項もありますが、本件では、被告会社による著作権侵害が認められる場合に、その代表取締役である被告Bが損害賠償の責任を負うのか、という点について判決を見ます。

判旨

判決は、まず、以下のとおり、会社として著作物の利用許諾を受けたことを理由に、その代表取締役には、「その職務上、原告に対し、前記認定に係る態様で本件各写真を本件ウェブページに掲載することができるかどうかを確認すべき注意義務があった」と述べています。

前記前提事実及び前記認定事実によれば、被告会社は、デザインの企画・制作等を目的とする株式会社であり、日本たばこ産業株式会社から受託された「さくら」の小冊子を作成するために、原告から、本件各写真の利用許諾を受けたのであるから、その代表取締役である被告Bは、その職務上、原告に対し、前記認定に係る態様で本件各写真を本件ウェブページに掲載することができるかどうかを確認すべき注意義務があったものといえる。

上記注意義務を前提に、判決は、以下のとおり、掲載の可否を怠り、複製防止措置を講じることもなく漫然と長期間にわたってウェブページに掲載した結果、相当広く複製等が行われたことを指摘し、代表取締役である被告の重過失を認めました。

しかるに、被告Bは、原告に容易に確認できるにもかかわらずこれを怠り、本件各写真のデジタルデータに複製防止措置を何ら執ることなく、漫然と約7年間も本件ウェブページに継続して違法に掲載し、その結果、本件各写真のデジタルデータがインターネット上に原告名が付されることなく相当広く複製等されたことが認められる。

これらの事情を踏まえると、被告Bに少なくとも重過失があったことは明らかであり、著作権の重要性を看過するものとして、その責任は重大である。

また、被告Bが、自身が知的財産権を保護する体制の構築を主たる職務としていなかったことや、被告会社において知的財産権の侵害を防止するための社内体制を講じてきたことを主張していた点について、判決は、以下のとおり、「知的財産権を侵害しないようにする措置を十分に執ることは、取締役の基本的な任務である」、「知的財産権の侵害を防止するための社内体制が不十分であった」として、これを排斥しました。

しかしながら、被告Bが、本件ウェブページ掲載当時に知的財産権保護体制の構築を主たる職務としていなかったとしても、デザイン制作等を目的とする株式会社において、デザイン制作等に当たり著作権、肖像権その他の知的財産権を侵害しないようにする措置を十分に執ることは、取締役の基本的な任務であるといえるから、被告Bの主張を十分に踏まえても、被告Bの責任は免れない。また、原告に何ら確認することなく、本件各写真のデジタルデータが複製防止措置を何ら執られることなく本件ウェブページに7年以上も漫然と掲載されていた事情等を踏まえると、被告Bの主張立証(乙10)等を十分に斟酌しても、知的財産権の侵害を防止するための社内体制が不十分であったとの誹りを、免れることはできない。

以上の判断を経て、判決は、被告Bの原告に対する責任を認め、被告Bに対し、被告会社が責任を負うとされた額(414万円)について、被告会社と連帯して支払うことを命じました。

コメント

判決中に記載された当事者の主張を見る限り、本件における取締役の責任をめぐっては、被告会社が第三者の知的財産権を侵害しない体制づくりをしていたこと、そして、当時のインターネット上での著作物利用に関する世間一般の認識レベルが議論の対象になっていたようです。後者はともかくとして、前者は、内部統制システムの構築を理由に免責を主張しようとしたものと思われます。

もっとも、判例の立場からすると、もし、被告Bがウェブページへの原告の写真の掲載について意思決定をする立場にあったのであれば、内部統制システムを問題にするまでもなく著作権侵害があれば任務懈怠は認められることになると思われますし、もし、ウェブページの管理は他の役員が分掌する業務で、被告Bはそれを監督する立場であったのであれば、内部統制システムの構築は問題になりますが、それは、いわゆる信頼の権利による免責をめぐる議論などに関連する事項で、やはり任務懈怠の要件に関する事実と思われます。

また、本件では、当事者の主張は、内部統制システムの問題を悪意重過失の文脈で議論し、判決は、「本件各写真を本件ウェブページに掲載することができるかどうかを確認すべき注意義務」を基礎に、任務懈怠と重過失を一体に判断しているようです。これは、不法行為説の考え方か、または、善管注意義務に関する職務懈怠の判断手法に近い理解と思われます。

しかし、法定責任説の立場からすると、悪意重過失は、具体的な任務懈怠を前提とした上で、さらに、それに対する主観態様がどのようなものであったか、という問題として議論されるのが本来の形ではないかと思われます。上に紹介した平成12年大阪地判等一連のカラオケボックスの判決においても、必ずしも任務懈怠と悪意・重過失の関係は明確ではないものの、悪意・重過失の認定にあたっては、権利者側から再三催告を受けていた事実等、権利侵害の存在を取締役が容易に認識し得たことを基礎づける事実が考慮されています。

これに対し、本件は、侵害行為があった当時は特段の指摘も受けていなかった事案であり、被告B自らが原告の写真のウェブページへの掲載について意思決定をしたのであればともかく、そうでない場合に任務懈怠や重過失が認められるのか、疑問に感じます。また、結論の妥当性は措くとしても、少なくとも、こういった点がはっきりしない認定判断の過程には、読んでいて釈然としない部分が残ります。

さらに、判決は、被告の主張を排斥するにあたり、「知的財産権を侵害しないようにする措置を十分に執ることは、取締役の基本的な任務である」との考え方に立っていますが、具体的な職務を離れて、知的財産権侵害の抽象的な回避措置を取締役の任務とし、その違反をもって取締役の責任原因とし、さらにはその違反をもって重過失まで肯定してしまうと、取締役の責任は実質的な結果責任となり、過重なものになりかねません。被告Bの主張を排斥するなら、被告Bの職務をより具体的に認定し、それに対する任務懈怠との関係で、被告Bの主張内容が悪意重過失を否定する理由にならないことを端的に指摘するべきではなかったかと感じられます。

これらの点は、当事者の主張や判決の事実認定において、被告Bの具体的な職務として、侵害防止体制の構築、掲載の可否の確認、ウェブサイトの構築などのうち、被告Bのどのような職務を問題にしているのかが十分に噛み合っておらず、また、ウェブページへの原告の写真の掲載について意思決定をする(あるいは、掲載の可否の確認をすべき)立場にあったのか、あるいは、他人の職務執行を監督する立場であったのかが今ひとつはっきりしないことに由来する疑問といえそうです。

判決を読む限り、確かに被告会社の対応はいささか杜撰なものといえそうですし、その結果生じた著作者の損害も看過できないものですので、被告会社の責任は免れないでしょう。他方、事案の性質として、模倣品販売のような高度の悪質性までは感じられず、代表取締役が具体的な実務も取り仕切っているような個人営業に近い会社であればともかく、被告会社のウェブサイトを見ると、ある程度の規模を有する会社のようですので、その代表取締役について、判決に現れる事実関係のもと、具体的な職務も明らかでないまま個人責任が肯定されることには違和感があります。

損害論については、判決は明示的な判断を示していませんが、使用料相当額に基づく計算が行われ、その額が被告Bの責任の範囲にも用いられていることからすると、著作権法114条3項による損害計算が取締役の責任にも用いられたものと考えられます。

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(文責・飯島)