本年(平成28年)11月10日、衆議院本会議でTPP(環太平洋パートナーシップ協定)関連法案の採決が行われ、自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決されました。

米国大統領選の結果先行きがより不透明になったものの、TPPでは、知的財産法も大きなテーマとなっています。そこで、この機会に、その概要を、数回に分けてお伝えします。

※ 末尾にTPP11の発効に伴う国内整備法施行に関する追記をしました(2018年12月30日)

TPPの概要

交渉経緯

TPPは環太平洋地域における経済の自由化を目指した多角的経済連携協定です。もともとは、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国による戦略的経済連携協定としてスタートし、2005年に署名され、2006年に発効しました。

2010年3月より、上記加盟国にアメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーの4か国を加えた拡大交渉が開始され、さらに、日本、カナダ、メキシコ、マレーシアが加わり、2016年2月4日、ニュージーランドのオークランドで署名されました。

EPAとしてのTPP

TPPは、国際協定の分類上「EPA(Economic Partnership Agreement /「経済連携協定」)」に属します。

EPAは、2国以上の締約国間における関税や規制の撤廃を目的とする「FTA(Free Trade Agreement /「自由貿易協定」)」に加え、より幅広い分野における連携を対象とするもので、その内容としては、人の移動、投資、競争政策などのほか、知的財産権の保護がテーマとなることもあります。

TPPが発効するための条件

TPPは、2年以内に参加する12の国すべてが議会承認などの国内手続きを終えるか、または、参加国のGDPの85%以上を占める少なくとも6か国が国内手続を終えたときから60日後に発効します。

現在TPPの発効の見通しが立っていないのは、圧倒的GDPを有する米国の次期大統領が離脱を表明しているからです。

TPPと知的財産法

TPPにおいて、知的財産法は大きなテーマとなっており、著作権法、特許法、商標法に関する事項が定められています。中でも、著作権法は大きな影響を受ける可能性があります。

今回は、まず特許法を取り上げたいと思います。

特許法分野における改正項目

発明の新規性喪失の例外期間の延長

現行特許法は、発明が特許を受ける権利を有する者の意に反して公知となったときと、学会発表など、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公知になったときの2つの場合において、半年以内に出願すれば、新規性は喪失していないものとみなす規定を置いています。

法案は、この例外規定を受けられる出願期間を、いずれも1年に延長しています。

特許権の存続期間延長制度

特許権は出願から20年で消滅します。起算点が権利付与の時点ではなく、出願時点ですので、審査が遅くなると、それだけ特許権の寿命は短くなってしまいます。そこで、TPPでは、審査に不合理な遅延があった場合に、その分特許権の存続期間の延長を認めることが合意されました。

法案は、特許出願の日から5年を経過した日または出願審査請求から3年を経過した日のいずれか遅い日以後に特許権の設定登録がなされた場合には、存続期間の延長登録が認められることとしています。ただし、特許庁による審査以外に起因する期間は、延長の対象となりません。

なお、現行特許法は、医薬品や農薬に限り、許認可などのため発明を実施できない期間について、5年を上限に保護期間の延長を認めています。この制度は、法案においても維持され、また、医薬品等の延長登録は、法案によって新たに認められる延長登録の期間を基礎に計算されることとなります。

TPP11の施行との関係(2018年12月30日追記)

本稿で取り上げたTPP12は、その後の米国の脱退により発効することはありませんでしたが、TPP12協定に署名した12か国のうちアメリカを除く11か国は新たにTPP11協定を締結し、その国内整備法が2018年12月30日に施行されました。その結果、知的財産法については、本稿で解説した国内整備法と実質的に同一内容の整備法が施行されています。

詳細な経緯については、こちらをご覧ください

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(文責・飯島)