東京地方裁判所民事第47部(杉浦正樹裁判長)は、令和5年5月18日、ファッション商品の販売のための写真について著作物性を肯定し、著作権侵害及び著作者人格権の侵害を認める判決をしましたが、一部の写真については、「客観的に見て通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度」の改変は著作者の意に反する改変とはいえないとして、同一性保持権の侵害を否定しました。

商業写真について著作権侵害が争われた事件においては、被告の写真と共通する部分に創作性がないとの判断がなされる例がありますが、本件は、原告の写真をそのまま利用し、または一部を切除したり改変したりして利用した事案で、多数の写真について創作性が肯定されています。

また、判決は、著作者人格権との関係で、有意な改変があるものについて同一性保持権侵害を肯定しつつも、上述のとおり、「客観的に見て、通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは、著作者の意に反する改変とはいえないと解される」とし、また、「その判断は、著作物の性質、改変の箇所、改変の規模、改変の影響度に関するユーザーの認識等を総合的に考慮して、著作者の合理的な意思を検討して行うべきものである」との考え方を示しました。具体的には、写真の上下左右に一見して分からない程度の切除があった場合について、同一性保持権の侵害を否定しています。

ポイント

骨子

  • 写真は、被写体の選択、組合せ、配置、陰影もしくは色彩の配合、構図もしくはトリミング、部分の強調もしくは省略、背景、カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉又はシャッタースピードもしくは絞りの選択等の諸要素を結合してなる表現であり、写真を写真の著作物として保護するためには、これら諸要素に撮影者の思想又は感情が創作的に表現され、その撮影者の個性が表されていることが必要であると解される。
  • 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により著作物を有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号)、より具体的には、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを有形的に再製することをいう。もっとも、既存の著作物に修正、増減、変更等が加えられた場合でも、その修正等に創作性が認められない場合はなお「複製」にあたる。他方、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作するに至った場合は、「翻案」にあたる。
  • 同一性保持権は、著作者の精神的・人格的利益を保護する趣旨のものであることから、著作物の表現の変更が著作者の精神的・人格的利益を害しない程度のものであるとき、すなわち、客観的に見て、通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは、著作者の意に反する改変とはいえないと解される。
  • その判断は、著作物の性質、改変の箇所、改変の規模、改変の影響度に関するユーザーの認識等を総合的に考慮して、著作者の合理的な意思を検討して行うべきものである。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第47部
判決言渡日 令和5年5月18日
事件番号
事件名
令和4年(ワ)第13979号
著作権侵害差止等請求事件
裁判官 裁判長裁判官 杉 浦 正 樹
裁判官    小 口 五 大
裁判官    稲 垣 雄 大

解説

著作物と著作者

著作権法2条1項1号及び2号は、それぞれ著作物と著作者の定義をし、著作者とは「著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいい、著作者とは「著作物を創作する者」をいうものとしています。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 著作者 著作物を創作する者をいう。
(略)

写真の著作物

写真の著作物性

著作権法10条1項は、同項8号において、著作物の一種として「写真の著作物」を例示しています。

(著作物の例示)
第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
(略)
 写真の著作物
(略)

この規定はあくまで著作物を例示しているにとどまりますが、写真がここに明示されている以上、上記の著作物の定義にあてはまる場合に著作物性が認められることに疑義はありません。

写真の著作物性判断の考え方

写真の著作物性をめぐっては、上記の著作物の定義のうち、「創作的」といえるか、つまり、創作性があるか、という点がしばしば争点になります。創作性とは、表現物としての作品に作者の個性が表れていることを意味し、最近の裁判例においては、さまざまな表現があり得る中から、作者がある表現を選択したといえるか、という「選択の幅」を考慮するものが多いところ、写真は、被写体を忠実に再現するのに適した手段でもあるため、表現の幅が制限され、創作性が否定されやすい、との考え方もあり得るわけです。

この点について、東京高判平成13年6月21日平成12年(ネ)第750号著作権侵害差止等請求控訴事件(「みずみずしいスイカ」事件)は、以下のとおり述べ、被写体の選択、組合せ、配置といった被写体に関する事項だけでなく、撮影にあたっての撮影時刻、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法等における工夫も考慮して創作性の有無を判断すべきことを示しています。

写真著作物において,例えば,景色,人物等,現在する物が被写体となっている場合の多くにおけるように,被写体自体に格別の独自性が認められないときは,創作的表現は,撮影や現像等における独自の工夫によってしか生じ得ないことになるから,写真著作物が類似するかどうかを検討するに当たっては,被写体に関する要素が共通するか否かはほとんどあるいは全く問題にならず,事実上,撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分が共通するか否かのみを考慮して判断することになろう。
しかしながら,被写体の決定自体について,すなわち,撮影の対象物の選択,組合せ,配置等において創作的な表現がなされ,それに著作権法上の保護に値する独自性が与えられることは,十分あり得ることであり,その場合には,被写体の決定自体における,創作的な表現部分に共通するところがあるか否かをも考慮しなければならないことは,当然である。写真著作物における創作性は,最終的に当該写真として示されているものが何を有するかによって判断されるべきものであり,これを決めるのは,被写体とこれを撮影するに当たっての撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等における工夫の双方であり,その一方ではないことは,論ずるまでもないことだからである。

また、同判決は、以下のとおり述べ、写真の創作性の範囲を狭く主張した当事者の主張を排斥しています。

被控訴人会社は,写真については,事実上,同一のものでない限り著作者人格権あるいは著作権の侵害とはならないというべきであると主張し,写真業界においては,これが定説であるという。しかし,被控訴人会社の主張は,写真の著作物については,著作権法の規定を無視せよというに等しいものであり,採用できない。仮に,被控訴人会社主張のような見解が写真業界において定説となっているとしても,そのことは,誤った見解が何らかの理由によってある範囲内において定説となった場合の一例を提供するにすぎず,著作権法の正当な解釈を何ら左右するものではない。

みずみずしいスイカ事件で考慮された撮影技法に関し、最近は、カメラの自動化が進み、撮影者が撮影技法を必ずしも意識していないことも増えていますが、この点について、知財高判平成18年3月29日平成17年(ネ)第10094号 請負代金請求控訴事件(「スメルゲット」事件)は以下のとおり述べ、撮影にあたってどのような技法が用いられたかにかかわらず、結果として得られた写真の表現自体に独自性が表れていれば創作性を肯定し得るとしています。

写真は,被写体の選択・組合せ・配置,構図・カメラアングルの設定,シャッターチャンスの捕捉,被写体と光線との関係(順光,逆光,斜光等),陰影の付け方,色彩の配合,部分の強調・省略,背景等の諸要素を総合してなる一つの表現である。
このような表現は,レンズの選択,露光の調節,シャッタースピードや被写界深度の設定,照明等の撮影技法を駆使した成果として得られることもあれば,オートフォーカスカメラやデジタルカメラの機械的作用を利用した結果として得られることもある。また,構図やシャッターチャンスのように人為的操作により決定されることの多い要素についても,偶然にシャッターチャンスを捉えた場合のように,撮影者の意図を離れて偶然の結果に左右されることもある。
そして,ある写真が,どのような撮影技法を用いて得られたものであるのかを,その写真自体から知ることは困難であることが多く,写真から知り得るのは,結果として得られた表現の内容である。撮影に当たってどのような技法が用いられたのかにかかわらず,静物や風景を撮影した写真でも,その構図,光線,背景等には何らかの独自性が表れることが多く,結果として得られた写真の表現自体に独自性が表れ,創作性の存在を肯定し得る場合があるというべきである。

写真の著作物性が否定される場合

上記のような裁判例の考え方によれば、一般的には、写真には創作性が認められやすいということができますが、被写体を忠実に再現できるという特性を客観的な事実の伝達に用いるような場合には、表現の幅が制限され、創作性が否定されることもあります。

このような観点から写真の創作性を否定した裁判例としては、東京地判平成30年6月19日平成28年(ワ)第32742号著作権侵害差止等請求事件(「一竹辻が花」事件)があります。この事件は、故久保田一竹氏が開発した「一竹辻が花」と呼ばれる染色技術を用いた創作着物作品の制作工程に関する写真や文章について著作権及び著作者人格権の侵害が争われたものですが、判決は、作品の制作工程に関する写真について、以下のとおり、撮影者の個性が表れないものとして創作性を否定しています。

制作工程写真は,別紙「制作工程写真目録」記載のとおり,故一竹による「辻が花染」の制作工程の各場面を撮影したものであるところ,これら制作工程写真の目的は,その性質上,いずれも制作工程の一場面を忠実に撮影することにあり,そのため,被写体の選択,構図の設定,被写体と光線との関係等といった写真の表現上の諸要素はいずれも限られたものとならざるを得ず,誰が撮影しても同じように撮影されるべきものであって,撮影者の個性が表れないものというべきである。したがって,制作工程写真は,いずれも著作物とは認められない。

また、同判決は、着物作品を展示した美術館の写真についても、以下のとおり、撮影者の個性が表れないものとして創作性を否定しています。

美術館写真は,別紙「美術館写真目録」記載のとおり,一竹美術館の外観又は内部を撮影したものであるところ,これら美術館写真の目的は,その性質上,いずれも一竹美術館の外観又は内部を忠実に撮影することにあり,そのため,被写体の選択,構図の設定,被写体と光線との関係等といった写真の表現上の諸要素はいずれも限られたものとならざるを得ず,誰が撮影しても同じように撮影されるべきものであって,撮影者の個性が表れないものである。したがって,美術館写真は,いずれも著作物とは認められない。

このように、写真の特性上、被写体を忠実に再現し、事実を伝達することを目的としたものについては、著作物性が否定されることもあるといえます。

他方、同判決は、制作工程を説明した文章については、言語の著作物としての創作性を認めています。

制作工程文章は,別紙「制作工程文章目録」記載のとおり,「辻が花染」の各制作工程を説明したものである。その目的は,各制作工程を説明することにあるため,表現上一定の制約はあるものの,制作工程文章が,同様に「辻が花染」の制作工程について説明した故一竹作成の文章(甲41)とも異なっていることに照らしても,各制作工程文章の具体的表現は,その作成者の経験を踏まえた独自のものとなっており,作成者の個性が表現されているといえるから,制作工程文章は全体として創作性があり,著作物と認められる。

同じ事実を伝達する場合に、その手段が写真であるときは創作性が否定されるとしても、文章の場合には、なお表現の幅があり、創作性が肯定されたものといえるでしょう。

また、同判決は、久保田一竹氏や作品を紹介するホームページの文章等についても、著作物性を認めています。

旧HPコンテンツは,別紙「旧HPコンテンツ目録」記載のとおりであり,旧HPコンテンツ1は「辻が花染」の歴史的説明,旧HPコンテンツ2は故一竹と「辻が花染」との関わり,旧HPコンテンツ3はフランス芸術文化勲章シュヴァリエ章勲章メッセージの和訳,旧HPコンテンツ4はスミソニアン国立自然史博物館からの感謝状の和訳である。旧HPコンテンツ1及び2はいずれも歴史的事実に関する記述ではあるものの,その事実の取捨選択,表現の仕方には様々なものがあり得,その具体的表現には筆者の個性が表れているといえるから,創作性があり,著作物と認められる。また,旧HPコンテンツ3及び4はいずれも仏語ないし英語の翻訳であるが,翻訳の表現には幅があり,用語の選択や訳し方等その具体的表現に翻訳者の個性が表れているといえるから,創作性があり,著作物と認められる。これに反する被告の主張は採用できない。

他の例として、東京地判令和4年3月30日令和2年(ワ)第32121号著作権侵害差止等請求事件(「スティック春巻」事件)は、商品パッケージに使用する食品(スティック春巻)の写真について、被告の写真と共通する部分はありふれた表現であるとし、当該部分の創作性を否定しています(スティック春巻き事件判決の解説はこちらの記事をご覧ください。)。パッケージ写真は、内容物を需要者に伝達するため、被写体を忠実に再現することが前提になるため、侵害が疑われる写真が独自に撮影されたものであるときには、両写真の共通点について、創作性が否定されやすくなる面はあるといえるでしょう。

なお、上記のスメルゲット事件も商業写真をめぐる訴訟ですが、同事件の判決は、以下のとおり、創作性が認められる場合にも、その大小があり得、それが小さいときには、デッドコピーのような場合に限って著作権侵害が認められるにとどまることを述べています。

創作性の存在が肯定される場合でも,その写真における表現の独自性がどの程度のものであるかによって,創作性の程度に高度なものから微少なものまで大きな差異があることはいうまでもないから,著作物の保護の範囲,仕方等は,そうした差異に大きく依存するものというべきである。したがって,創作性が微少な場合には,当該写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するにとどめるべきものである。

写真の著作物の著作者と自撮り

上述の著作権法2条1項2号によれば、写真の著作物の著作者は、写真という著作物を「創作する者」ですので、通常は撮影者がこれにあたります。

最近は、撮影者自身が被写体となる、いわゆる自撮り写真も増えていますが、自撮り写真であっても創作性が認められれば著作物になり、また、自撮りをした人がそれを創作することになるため、著作者となります(これを肯定した例として、東京地判平成29年6月9日平成29年(ワ)第4222号発信者情報開示請求事件等)。

著作者人格権とは

著作権法17条1項は、著作者がその創作にかかる著作物について享有する権利として、著作者人格権と著作権があることを定め、同条2項はその享有のために、何らの手続きも必要ないことを定めています。

(著作者の権利)
第十七条 著作者は、次条第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第二十一条から第二十八条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。
 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。

ここで、著作権が著作者の財産権であるのに対し、著作者人格権は、著作者の人格的利益を保護する権利で、著作権法18条1項の公表権、同法19条1項の氏名表示権、同法20条1項の同一性保持権の3種類の権利の総称に位置付けられます。

また、同法113条11項は、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」を著作者人格権侵害行為とみなす旨規定しています。同規定に基づく名誉声望にかかる権利は「名誉声望保持権」と呼ばれ、これも著作者人格権の一種ということができます。

同一性保持権とは

著作者人格権の1つである同一性保持権について、著作権法20条1項は、以下のとおり、「著作物及びその題号の同一性を保持する権利」と定義し、その効果として、「意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない」ことを定めています。題号は、多くの場合、それ単体で著作物性が認められることはありませんが、著作者の人格的利益を保護する観点から、同一性保持権については、題号に対する変更等も侵害にあたるものと規定されています。

(同一性保持権)
第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
(略)

他方、同条2項各号は、以下のとおり、学校教育に用いる場合や建築物の増改築、プログラムの互換性維持等の場合のほか、「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」については同一性保持権の侵害にならないことを定めています。

(同一性保持権)
第二十条 (略)
 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

些細な改変と同一性保持権

著作物に対して些細は改変を加えた場合に同一性保持権の侵害が成立するか、という点については、伝統的には、些細な改変であっても、著作権法20条2項4号が規定する「やむを得ない」場合に該当しなければ、同一性保持権侵害が成立するとの考え方が一般的です。一般に、著作権法においては、ベルヌ条約のもと、権利制限規定を厳格に解釈すべきとする考え方が強く、この点は同一性保持権についても同様ですが、日本版フェアユースと呼ばれる規定が設けられた現在、柔軟な解釈の必要性を指摘する声はあります。

従来の裁判例を見ると、厳格な解釈を前提としつつ、事実関係に基づきやむを得ない改変としたり、そもそも改変とは認められないとしたりしたもの(東京地判平成7年7月31日平成4年(ワ)第5194号「スイートホーム事件」)があるほか、黙示の同意(東京地判平成9年8月29日判時1616号148頁「俳句の添削事件」第一審)や「事実たる慣習」(「俳句の添削事件」控訴審)を根拠に同一性保持権侵害を否定したりしたものがありましたが、東京地判平成18年3月31日平成15年(ワ)第29709号(国語ドリル事件)は、以下のとおり述べ、通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度の改変は意に反する改変とはいえず、同一性保持権の侵害にあたらないとの考え方を示しました。

同一性保持権は,著作者の精神的・人格的利益を保護する趣旨で規定された権利であり,侵害者が無断で著作物に手を入れたことに対する著作者の名誉感情を法的に守る権利であるから,著作物の表現の変更が著作者の精神的・人格的利益を害しない程度のものであるとき,すなわち,通常の著作者であれば,特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは,意に反する改変とはいえず,同一性保持権の侵害に当たらないものと解される。

学説においては、具体的な作品の著作者の意に反するかどうかを問題にする主観説と、通常の著作者を基準にする客観説とがありますが、上記の国語ドリル事件は、客観説に立ったものといえるでしょう。

複製権と翻案権

著作権法21条は、以下のとおり、著作権のひとつとして、複製権を規定しています。

(複製権)
第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

複製の意味については、以下の著作権法2条1項15号に定義があり、原著作物を「有形的に再製」することをいうものとされています。

(定義)
第二条
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(略)
十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。
 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること。
(略)

ここで、「有形的に再製」とは、原著作物に依拠し、類似の著作物を作製することをいいます。

その際、新たな創作性が付与されると、複製ではなく、翻案に該当することになりますが、著作権法は、翻案についても、著作者が権利を専有することとしているため、複製または翻案のいずれに該当する行為であっても、著作権者の許諾なく行えば、権利侵害を構成することになります。

(翻訳権、翻案権等)
第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

なお、何らかの作品から影響を受けて創作されたオマージュであっても、原作品が十分に昇華され、その表現上の本質的特徴を直接感得できない場合には、類似性を欠くため、著作権侵害にはなりません。他方、パロディは、その性質上原著作物の特徴を備えるものとなることが多く、著作権侵害のリスクを孕むこともままあるでしょう。

翻案権と同一性保持権

翻案権と同一性保持権とは、それぞれ財産的利益と人格的利益という異なる法益を保護するものですが、著作者の許諾なく著作物を改変した場合には、双方について侵害が成立する可能性があるため、両者の関係には分かりにくい面があります。

これらの権利の法的な関係については議論があるものの、適用範囲という観点からいうと、翻案は、新たな著作物を生み出す点において、著作物の再製が伴うのに対し、同一性保持権は、再製を伴わずにもとの著作物に直接改変を加えた場合にも成立しますし、著作物性のない題号が改変された場合にも成立します。例として、改変の極端な態様であり、創作と対照的な意味を持つ、著作物の破壊をした場合についても同一性保持権の侵害が成立するか、という問題が議論されることがありますが、これなど、創作行為を専有の対象とする翻案権では現れにくい議論といえるでしょう。

なお、破壊が同一性保持権の侵害にあたるか、という点について、わが国では多くの論者は否定説を取っています。破壊が同一性保持権の侵害だとすると、例えば、彫刻や絵画、著作物性のある建築の所有者が、不要になった作品を廃棄したり、建物を取り壊したりすることも違法になってしまい、現実的でないからです。

事案の概要

本件の原告は、韓国在住のモデル兼経営者で、自ら共同代表を務める韓国企業株式会社NEXTを通じ、「ASCLO」(エジュクロ)のブランド名で、アパレル製品を販売しています。他方、被告は、アパレルの販売を主たる業務とする株式会社です。

原告は、ファッション商品の販売を目的とし、自らをモデルとするものを含め、商品の写真を利用していたところ、被告がこれらの写真を被告のウェブサイト「BEEPSHEEPSHAMP」やSNSで利用したとして、同一性保持権等の著作者人格権及び複製権等の著作権の侵害を理由に、差止及び損害賠償を求めたのが本訴訟です。訴訟では、写真の著作物性や各権利の侵害の成否が争われています。

裁判所HPに掲載された判決文では問題になった具体的な写真を確認することはできませんが、原告が運営していると思われるウェブサイトにおいて、原告が撮影したと思われる写真を見ることはできます。

判旨

創作性について

判決は、著作物としての写真の性質につき、以下のとおり、「被写体の選択、組合せ、配置、陰影もしくは色彩の配合、構図もしくはトリミング、部分の強調もしくは省略、背景、カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉又はシャッタースピードもしくは絞りの選択等の諸要素を結合してなる表現」であるとして、これらの諸要素から創作性の有無を判断すべきことを示しました。

写真は、被写体の選択、組合せ、配置、陰影もしくは色彩の配合、構図もしくはトリミング、部分の強調もしくは省略、背景、カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉又はシャッタースピードもしくは絞りの選択等の諸要素を結合してなる表現であり、写真を写真の著作物として保護するためには、これら諸要素に撮影者の思想又は感情が創作的に表現され、その撮影者の個性が表されていることが必要であると解される。

その上で、判決は、本件において、原告は、「商品がより良く見える写真とするために、撮影場所、ポージング、構図、服のコーディネート、カメラの角度及び位置等を工夫したことが認められる」として、創作性を認めました。

原告写真は、2016年(平成28年)8月7日~2020年(令和2年)9月30日の間に撮影されたものであること、撮影は、原告の取扱商品の販売促進目的で行われたこと、被写体は、原告自身がモデルとなっている場合、原告以外の人物がモデルとなっている場合及び商品自体が撮影されている場合があること、原告自身がモデルとなっている原告写真の撮影は、自撮り又は三脚を用いて原告自身が行った場合と原告がスタッフに指示して行われた場合とがあること、原告以外の人物がモデルとなっている場合及び商品自体が撮影された場合の撮影は原告自身が行ったこと、いずれの撮影方法による場合においても、撮影にあたり、原告は、商品がより良く見える写真とするために、撮影場所、ポージング、構図、服のコーディネート、カメラの角度及び位置等を工夫したことが認められる。
これらの事情を踏まえると、原告写真は、いずれも原告を撮影者とするものといってよく、また、撮影者である原告の思想又は感情が創作的に表現され、その個性が表されているものといえる。

さらに、判決は、創作性を否定する被告の主張について、本件の写真においては撮影における選択の幅が大きいことを具体的に指摘し、これを排斥しました。

確かに、原告写真を構成する個別の要素に着目すれば、表面的には他の写真においても見受けられるものが存在するようにも思われる。しかし、原告写真は、原告の取扱商品の販売促進目的で撮影されること以外には明確な制約がなく撮影されたものとみられ、また、撮影対象とされる商品の種類は多数に上ることを踏まえると、商品そのものを単体で撮影するか、被写体の人物に身に着けさせて撮影するか、後者の場合、1点の商品のみを着用させるか、複数の商品を組み合わせて着用させるか、また、撮影を被写体の人物自らが行うか、第三者に撮影させるかといった観点からだけでも、その組合せは相当多数に上ることは多言を要しない。これに、着用する商品のコーディネートや撮影場所の選択、被写体の人物の体勢や物の配置、背景といった構図等の要素をも加味すると、原告写真において、撮影者がその思想又は感情を創作的に表現し、その個性を表す余地は相当に広いというべきである。こうした事情を総合的に考慮すると、被告が縷々指摘する諸事情を考慮したとしても、なお原告写真はいずれも著作物と認めるに足りるものといえる。

著作者について

本件では、数多くの写真が問題になっている中で、原告自身がモデルになり、他に撮影者がいる写真もあるため、被告は、原告が著作者であることについても争っていましたが、判決は、この点について、原告が自ら撮影をしたもののほか、原告の指示に基づいてスタッフに撮影をさせたものについても、原告が撮影場所、ポージング、構図、服のコーディネート、カメラの角度及び位置等を工夫したとの原告の陳述書の内容 に合理性があるとして、原告が撮影者・著作者であると認定しました。

原告の陳述書・・・においては、上記認定のとおりの事実が陳述されているところ、原告が、モデル兼経営者として、アパレルを自らが共同代表を務める会社を通じて販売していることに鑑みると、その陳述内容には合理性があるといってよく、他方、その信用性を疑うべき具体的な事情は見当たらない。

著作権侵害について

被告がウェブサイト等で用いた写真には、原告の写真の一部を切除したものなどがあったことから、本件では、複製と翻案の双方が問題にされていました。

そこで、判決は、まず、複製と翻案の相違について、新たな創作性の付与があるかという点にあることを示しました。

複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により著作物を有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号)、より具体的には、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを有形的に再製することをいう。もっとも、既存の著作物に修正、増減、変更等が加えられた場合でも、その修正等に創作性が認められない場合はなお「複製」にあたる。他方、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作するに至った場合は、「翻案」にあたる。

その上で、判決は、多くの写真は、写真の一部に切除があっても、新たな創作性を付与するものではなく、複製権侵害の対象となるとしました。

被告写真のうち、被告写真20・・・は、対応する原告写真と、少なくとも肉眼で視認し得る限度では全く同一と見られる。
また、被告写真1~19・・・は、対応する原告写真の上下左右の一部を切除したものと見られるものの、その修正等に創作性は認められないものといえる。
したがって、これらの被告写真については、対応する原告写真を複製したものといえるから、その被告ウェブサイト等への掲載は、対応する原告写真に係る原告の著作権(複製権)の侵害にあたる。

なお、判決は、上記判示部分で列挙されていない他の写真についても権利侵害の成否を検討しています。また、公衆送信権侵害も認めています。

著作者人格権侵害について

判決は、同一性保持権侵害が成立する改変の程度につき、以下のとおり、「客観的に見て、通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは、著作者の意に反する改変とはいえない」との考え方を示しました。

この同一性保持権は、著作者の精神的・人格的利益を保護する趣旨のものであることから、著作物の表現の変更が著作者の精神的・人格的利益を害しない程度のものであるとき、すなわち、客観的に見て、通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものであるときは、著作者の意に反する改変とはいえないと解される。

また、判決は、続けて、以下のとおり、通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められるかどうかの判断について、改変にかかる諸事情を総合的に考慮して、著作者の合理的意思を検討すべきものとしました。これは、具体的な著作者の意思を基準とするのではなく、客観的な判断を求めるものといえます。

その判断は、著作物の性質、改変の箇所、改変の規模、改変の影響度に関するユーザーの認識等を総合的に考慮して、著作者の合理的な意思を検討して行うべきものである。

以上をもとに、判決は、そもそも改変が認められないものについては同一性保持権侵害を否定し、大幅な改変があったものについては同侵害を認める旨の判断をしましたが、写真の上下左右に一見して分からない程度の切除があったものについて、以下のとおり、「なお客観的に見て通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものにとどまり、著作者の意に反する改変とはいえない」として、同一性保持権の侵害を否定しました。

被告写真1~19・・・については、対応する原告写真の上下左右の一部を切除したものと見られる点で、原告写真を改変したものといえる。もっとも、このうち被告写真10~15・・・については、その切除の程度が一見してはわからないほどごく僅かであり、相当に注意深く観察してようやく僅かに切除されている部分を把握し得る程度に過ぎない。
そうすると、被告写真10~15・・・については、その改変の程度はなお客観的に見て通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものにとどまり、著作者の意に反する改変とはいえないとするのが相当である。したがって、これらの被告写真の被告ウェブサイト等への掲載は、対応する原告写真に係る原告の同一性保持権の侵害にあたらない。

他方、判決は、以下のとおり、切除部分が一見して明らかな場合には、原告の商品の販売促進のため、写真をより良く見せることが目的であったとしても、なお同一性保持権を侵害するとの判断を示しました。

他方、被告写真1~9・・・については、切除部分が一見して明らかであるところ、原告写真は、原告の取扱商品の販売促進を目的としたものとはいえ、商品をより良く閲覧者に見せるために構図、撮影方法、撮影場所の選択その他の点で工夫がされたものであることに鑑みると、その改変は客観的に見て通常の著作者であれば特に名誉感情を害されることがないと認められる程度のものとはいえず、著作者の意に反する改変といえる。したがって、これらの被告写真の被告ウェブサイト等への掲載は、対応する原告写真に係る原告の同一性保持権の侵害にあたる。

コメント

本判決に見られる写真の著作物性の認定判断は参考になると思われるほか、同一性保持権の解釈において、国語ドリル事件判決と同様、通常の著作権者が名誉感情を害されるかという観点から意に反する改変にあたるかどうかを判断する枠組みを示したことについては、今後の議論が期待されるところです。

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(文責・飯島)