知的財産高等裁判所第2部(本多知成裁判長)は、令和5年8月10日、靴の上部と靴底の境界部分に黄色のステッチ状の破線を配する位置商標について、商標法3条1項3号該当、同3条2項非該当とした審決の判断を支持し、原告の審決取消請求を棄却しました。

ポイント

骨子

  • (商品が通常有する形状等のみからなる位置商標の商標法3条1項3号該当性)

商品が通常有する形状その他の特徴(以下「形状等」という。)又は取引者、需要者をして商品が通常有すると予測できる範囲の形状等のみからなる外観の一部から構成される位置商標については、(中略)商標法3条1項3号に該当すると解するのが相当である。

  • (商標以外の外観上の特徴を有する場合の自他商品識別力の獲得)

商品が、当該商標に係る特徴を具備していたという事情のみによって、直ちに当該商標について使用による識別力の獲得を肯定することは適切ではなく、商品の外観、商品に付されていた名称・標章その他の特徴の大きさや位置、周知・著名性の程度等の点を考慮し、当該商標が需要者の目につきやすく、強い印象を与えるものであったか等を勘案した上で、当該商標が独立して自他商品識別機能を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和5年8月10日
事件番号 令和5年(行ケ)第10003号 審決取消請求事件
審決番号 不服2021-2446号
原告商標 <商標の詳細な説明>
商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、靴の上部とソール(靴底)部分が接した境界部分の領域に靴の外周に沿って配された黄色の破線状の図形からなる。なお、破線は商品の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。
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<指定商品(最終補正後)>
第25類「革靴、ブーツ」

裁判官 裁判長裁判官 本 多 知 成
裁判官    浅 井   憲
裁判官    勝 又 来未子

解説

位置商標とは

位置商標とは、商標に係る標章(文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合に限る。)を付する位置が特定される商標を意味します(商標法施行規則4条の6)。

位置商標は、商標法改正(平成27年4月1日施行)により、色彩のみからなる商標、音商標、動き商標、ホログラム商標とともに、商標登録が認められることになったものです。

商標登録の要件(商標法3条1項)

商標登録の要件について、商標法3条1項は、以下の通り、定めています。

商標法第3条(商標登録の要件)
1 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

商標法3条1項各号に該当する商標については、商標の本質的機能の一つと言われる出所表示機能が認められないため、原則として、商標登録を受けることができません。

仮に、一旦商標登録されたとしても、商標法3条1項各号に該当する場合には、登録異議の申立て(商標法43条の2・1号)や商標登録無効審判(同46条1項1号)の対象となります。

商品の産地、品質その他の特徴等の表示(商標法3条1項3号)

商品の産地・品質・原材料・形状等を「普通に用いられる方法で表示する」標章のみからなる商標については、原則として、商標登録を受けることができません(商標法3条1項3号)。

なお、商品・役務の取引の実情を考慮し、その標章の表示の書体や全体の構成等が、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なものである場合には、「普通に用いられる方法で表示する」には該当しない、と判断されます(商標審査基準第1五)。

取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なものとしては、以下のような具体例が挙げられています(商標審査基準第1五)。
・特殊なレタリングを施して表示するもの
・特殊な構成で表示するもの

位置商標の商標法3条1項各号該当性

位置商標が商標法3条1項各号に該当するか否かについて、審査段階においては、以下の基準のもと判断されます(商標審査基準第1一7)。

(1) 位置商標を構成する文字や図形等の標章とその標章が付される位置とを総合して、商標全体として考察し、商標法3条1項各号に該当するか否かを判断する。
(2) 位置商標を構成する文字や図形等の標章が、商標法3条1項各号に該当しない場合には、標章を付する位置にかかわらず、原則として、商標全体としても本項各号に該当しないと判断する。
(3) 位置商標を構成する文字や図形等の標章が、本項各号に該当するもののみからなる場合には、原則として、商標全体としても商標法3条1項各号に該当すると判断する。

なお、審査段階においては、商標登録願(願書)に位置商標である旨の記載があっても、以下のような場合には、願書記載の商標及び商標の詳細な説明から位置商標を構成するものとは認められず、商標法3条1項柱書により商標登録を受けることができる商標に該当しない、と判断されます(商標審査基準第1二11)。

(ア) 願書に記載した商標から、標章を付する位置が特定されない場合
(イ) 願書に記載した商標及び商標の詳細な説明に、標章が色彩のみからなると認識し得る記載がなされている場合
(ウ) 位置を特定するために記載された商品等の形状が、指定商品等の形状として想定し得ない場合

使用による識別性の獲得(商標法3条2項)

商標法3条2項は、以下の通り、同法1項3号から5号までに該当する商標であっても、使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、商標登録を受けることができることを定めています。

例えば、「ロールケーキ」を指定商品とする商標「堂島ロール」(登録番号:第5446720号)に関しては、「堂島」という大阪市にある地域名が含まれるところ、単に商品の産地、販売値を普通に用いられる方法の範囲内で表示するに過ぎないものとして、商標法3条1項3号に該当するとされつつ、使用により識別性が獲得されたものとして、商標法3条2項が適用され、商標登録が認められました。

商標法第3条(商標登録の要件)
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

商標法3条2項における「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」とは、何人かの出所表示として、その商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されているものをいいます(商標審査基準第2)。

また、商品・役務の需要者の間で全国的認識されていると評価できるか否かは、以下の考慮事由を総合勘案して判断されます(商標審査基準第2)。

商標審査基準
考慮事由について
本項に該当するか否かは、例えば、次のような事実を総合勘案して判断する。
なお、商標の使用状況に関する事実については、その性質等を実質的に把握し、それによってその商標の需要者の認識の程度を推定する。
① 出願商標の構成及び態様
② 商標の使用態様、使用数量(生産数、販売数等)、使用期間及び使用地域
③ 広告宣伝の方法、期間、地域及び規模
④ 出願人以外(団体商標の商標登録出願の場合は「出願人又はその構成員以外」とする。)の者による出願商標と同一又は類似する標章の使用の有無及び使用状況
⑤ 商品又は役務の性質その他の取引の実情
⑥ 需要者の商標の認識度を調査したアンケートの結果

商標登録が認められた位置商標

商標登録が認められた位置商標は230件を超えています(令和5年8月30日時点)(参考:色彩のみからなる商標は、色彩の組合せからなる数件のみ)。

以下、商標登録が認められた位置商標を数件紹介します。

<登録6034112>
権利者:日清食品ホールディングス株式会社
商標の詳細な説明:商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、商品包装の上方部の周縁に付された図形と、商品包装の下方部の周縁に付された図形とを組み合わせた図形からなる。なお、包装の破線は、商品の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。

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<登録5807881>
権利者:株式会社エドウィン
商標の詳細な説明:商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、ズボンの後ろポケットの左上方に付され、「EDWIN」の欧文字が表された赤い長方形のタブ図形からなる。なお、ポケット及びタブ図形のみの記載は、当該位置に付された標章を明示するための部分拡大図である。また、破線は、商品の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。

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<登録6610718>
権利者:エア・ウェアー インターナショナル リミテッド
商標の詳細な説明:商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、(1)靴の筒部分の履き口後部中央に配置された、前外側表面部分において黒地に黄色の「AirWair」の欧文字、及び後ろ外側表面部分において黒地に黄色の「WITH Bouncing SOLES」の欧文字が表されたループ状の立体的形状、及び(2)靴の上部(アッパー)とソール(靴底)部分が接した境界に沿って該靴の表面を一周する領域(商標見本中、暗灰色で示す)に位置する黄色の破線状の図形、の二つの構成からなる。なお、黒色の点線は商品の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。

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事案の概要

本件の事案の概要は以下の通りです。詳細は下記表をご参照ください。

原告が下記原告商標について商標登録出願をしたところ、拒絶理由通知、手続補正を経て、拒絶査定を受けました。
そこで、原告は同拒絶査定を不服として不服審判請求をしましたが、特許庁は不成立審決(下記審決要旨参照)をしたため、原告は本件訴訟を提起しました。

年月日 当事者 行為
平成30年6月12日 原告 商標登録出願(出願2018-077608)
令和元年6月28日 特許庁 拒絶理由通知
令和2年4月6日 原告 手続補正書を提出(指定商品を変更)
令和2年7月21日 原告 意見書を提出
令和2年11月24日 特許庁 拒絶査定
令和3年2月25日 原告 不服審判請求(不服2021-2446)
令和3年3月19日 原告 手続補正書を提出(指定商品を変更)
令和4年8月23日 特許庁 不服審判不成立審決
令和4年9月14日 原告 審判書謄本受領

<原告商標(本願商標)>
商標の詳細な説明:商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、靴の上部とソール(靴底)部分が接した境界部分の領域に靴の外周に沿って配された黄色の破線状の図形からなる。なお、破線は商品の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。

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指定商品(最終補正後):第25類「革靴、ブーツ」

本件審決の要旨

① 商標法3条1項3号該当性 → 『該当』
本願商標の構成要素のうち、(ア)靴の上部と靴底の境界部分の外周に沿った位置に、ステッチ状の破線を配してなる点については、特に当該位置に縫い目を出し縫いする製法を採用する場合には、必然的に商品形状(装飾)に表れる特徴であるから、客観的に見て、商品の機能又は美観に資する目的で採用された形状(装飾)と認識できるものである。
また、(イ)ステッチ状の破線に黄色を採用している点については、視認性を向上させ、デザインにアクセントを与えるなど、デザイン手法として極めて一般的に採択されている装飾手法であるから、商品の美観上の理由による選択といえる範囲のものにすぎない。
そうすると、本願商標は、前記(ア)及び(イ)のいずれの構成要素(黄色の破線、外周位置)も、商品の機能又は美観に資することを目的として採用されたもの、又はそのような理由による形状の選択と予測し得る範囲のものにすぎないから、その指定商品(革靴、ブーツ)について、商品の形状(装飾)又は特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といえる。
したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する。

② 商標法3条2項該当性 → 『非該当』
本願商標は、その指定商品に係る一定割合の需要者(ファッションに関心の高い需要者層)の間において、原告ブランドによく見られるデザイン的特徴として一定程度認知されているとしても、その指定商品に係る需要者(ブーツや革靴を頻繁には購入しない者を含む。)の間において、原告ブランドとの関連性を直ちに想起させるほど広く認識されるに至っているとまでは認めることはできず、さらに、原告のみが、その指定商品について排他独占的に使用してきたものではないこともあって、本願商標は、その指定商品との関係において、使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるに至ったものと認めることはできない。
したがって、本願商標は、商標法3条2項の要件を具備しない。

<本件の争点>
① 原告商標(本願商標)の商標法3条1項3号該当性
商品の形状(装飾)又は特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標か否か

② 原告商標(本願商標)の商標法3条2項該当性
使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるに至ったものと認めることができるか否か

判旨

それでは、本判決の判旨を見ていきましょう。

原告商標の商標法3条1項3号該当性

まず、裁判所は、以下の通り、商品の形状等のみからなる外観の一部から構成される位置商標については、原則として、商標法3条1項3号に該当すると解する、との考えを示しました。

商品が通常有する形状その他の特徴(以下「形状等」という。)又は取引者、需要者をして商品が通常有すると予測できる範囲の形状等のみからなる外観の一部から構成される位置商標については、需要者及び取引者が、当該形状等について、商品の通常の形状等にすぎないと認識するか又は商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いことや、商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状等は、同種の商品等に関与する者が当該形状等を使用することを必要とし、その使用を欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状等を特定の者に独占させることは、公益上の観点から適切でないことに照らし、商標法3条1項3号に該当すると解するのが相当である。

次いで、原告商標について、「本願商標は、①靴の上部とソール(靴底)部分が接した境界部分の領域に靴の外周に沿って配された、②破線状の黄色の図形からなるもので、図形及び色からなる標章を付する位置を特定した位置商標であり、商標法3条1項3号の商品の「形状」及び「その他の特徴」(形状等)を表示する標章に当たる。」として、商品の「形状」及び「その他の特徴」を表示する標章である、との考えを示しました。

そして、上記①②の各要素に関して、以下のとおり、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なものであるか、または、「普通に用いられる方法で表示する」ものかを検討しました。

① 靴の上部とソール(靴底)部分が接した境界部分の領域に靴の外周に沿って配された破線状の図形であることについて

①については、以下のとおり、一般的な製造方法によって靴製品を製造した場合に、通常、ステッチが現れる位置であり、破線状のスケッチも通常のことであるため、靴の形状として、普通に用いられるものと判断しました。

一般的な製造方法の一つであるグッドイヤーウェルト製法は、靴の中底(インソール)と靴の上部(アッパー、甲革)をウェルト(コパ、細革)と呼ばれる帯状の細長い革を巻き付けながら縫い付け(すくい縫い)し、最後にウェルトとソール(靴底、アウトソール)の縫い付け(出し縫い)を行うというものであるが、同製法により靴製品を製造すると、靴の上部とアウトソールが接した境界部分の領域にあるウェルトの表面に、糸の縫い目(ステッチ)が現れる(これをウェルトステッチと呼ぶ。甲1、2の1・2)。そうすると、本願商標の位置は、一般的な製造方法により靴製品を製造した場合に、通常、ステッチが現れる位置であり、また、糸の縫い目であるステッチが破線状になることは通常のことといえるから、本願商標の位置に破線状の図形を設けることは、靴の形状として、普通に用いられるものであるといえる。

② 破線状の図形を黄色にすることについて

②についても、以下のとおり、破線状のステッチに使用された黄色は、黄または黄色系統の靴製品を製造する場合に、一般的に選択される色彩であるとして、同色の選択は通常のことと判断しました。

グッドイヤーウェルト製法において、ウェルトとアッパー又はアウトソールを縫い付けるために使用される糸には、ウェルトステッチが目立たないように、アッパーやアウトソールと同系色のものが使用されるのが一般的である(甲2)。そうすると、アッパーやアウトソールが黄又は黄系統の色の靴製品の場合には、美観上の目的から、ウェルトステッチが目立たないように黄色の糸が使用されるのが一般的であるといえる。また、一般的に、靴製品の各部分の色彩は、機能又は美観の観点から様々なものが選択されるものであり、アッパーやアウトソールを黄又は黄系統の色とする靴製品も、通常存在し得るものである(例えば、別紙「被告の主張する取引の実情」の(タ)~(ツ))。そうすると、黄色は、本願商標の破線状の図形を表す方法の一つであるグッドイヤーウェルト製品により黄又は黄系統の靴製品を製造する場合には、一般的に選択される色彩であるといえるから、本願商標の破線状の図形の色彩に黄色を選択することは、通常のことであるといえる。

そのうえで、裁判所は、「本願商標は、指定商品である革靴及びブーツの形状として、普通に用いられる形状その他の特徴のみからなる標章であるというべき」であるとして、商標法3条1項3号に該当すると判断しました。

この点、原告は、「破線状の図形に黄色を採用している点は、機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状であり、ウェルトステッチに黄色が使用されたものは、原告商品又はその模倣品以外には日本市場に存在しない」と主張しましたが、裁判所は、同系色の靴製品を製造する場合に、ウェルトステッチとして黄色の糸を用いることは一般的であって、機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲のものというほかないこと、第三者の販売する商品(デザートブーツ)において、黄色のスエード地のアッパーの外周部分にアッパーと同系色である黄色のステッチを施したものが存在していることを理由に、原告主張を退けました。

また、原告は、「本願商標について、黄色い糸によるウェルトステッチが黒色のウェルトの上に黄色の破線状の図形として現れたものである」と主張しましたが、裁判所は、商標権の範囲は願書に記載した商標に基づいて定められるものであり(商標法27条)、黄色の破線状の図形の下地が黒であることは本願商標の範囲に含まれず、下地の色について限定をするものではないため、「黄又は黄系色の革靴及びブーツに付されるものについても、当然に本願商標の範囲に含まれるものと解される」として、原告主張を退けました。

原告商標の商標法3条2項該当性

先ず、裁判所は、以下の通り、商標の使用により自他商品識別力を獲得したか否かの判断要素を示しました。

同号に該当する商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、当該商標の構成、商品における商標の使用の状況、その商標ないし商品の使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模、類似商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。

次いで、出願商標の使用形態と自他商品識別力について、「原則として、出願に係る商標と実質的に同一であり、指定商品に属する商品等に使用されるものであることを要する。」としつつも、
商品の販売等に当たっては、企業名や標章などが付されるのが通常であり、また、商標以外にも外観上の特徴を有していることがあるため、「商品が、当該商標に係る特徴を具備していたという事情のみによって、直ちに当該商標について使用による識別力の獲得を肯定することは適切ではなく」、「商品の外観、商品に付されていた名称・標章その他の特徴の大きさや位置、周知・著名性の程度等の点を考慮し、当該商標が需要者の目につきやすく、強い印象を与えるものであったか等を勘案した上で、当該商標が独立して自他商品識別機能を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。」との考えを示しました。

当該商標は、原則として、出願に係る商標と実質的に同一であり、指定商品に属する商品等に使用されるものであることを要する。もっとも、商品等は、その販売等に当たって、出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であり、また、当該商標に係る特徴以外にも外観上の特徴を有していることがあることに照らせば、商品が、当該商標に係る特徴を具備していたという事情のみによって、直ちに当該商標について使用による識別力の獲得を肯定することは適切ではなく、商品の外観、商品に付されていた名称・標章その他の特徴の大きさや位置、周知・著名性の程度等の点を考慮し、当該商標が需要者の目につきやすく、強い印象を与えるものであったか等を勘案した上で、当該商標が独立して自他商品識別機能を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。

そのうえで、裁判所は、以下の理由から、少なくとも黒い革靴に用いる場合には、本願商標は相当程度の認知度を得ているということができるとしても、それ以外の色の革靴及びブーツに用いられる場合の本願商標の認知度が高いと認めるに足りる証拠はないというほかない、として、本願商標について、使用により識別力を獲得したとして、商標法3条2項に該当すると認めることはできない、との判断を示しました。

  • 本願商標が黄色やベージュのアウトソール及びウェルトとともに用いられた場合には、必ずしも視認性に優れるものではなく、需要者の目を引くとはいえないこと
  • 黒又は茶系統の暗い色のウェルトとのコントラストにより、本願商標が強く印象付けられることで、需要者の認知度を得ているものと推認されるところ、地の色を問うことなく、本願商標が需要者の認知度を得ていると認めることはできないこと
  • 本件アンケート調査は、黒色の革靴(アウトソール及びウェルトも黒である。)に本願商標を用いたものについて、側面から撮影した写真の下部分(黄色のステッチ部分)を示して質問がされたものであり、本願商標が黒以外の色のアウトソール及びウェルトとともに用いられた場合についての認知度を示すものとはいえないこと
  • 令和5年2月頃、黒以外の色のアウトソール及びウェルトとともに本願商標と同じ特徴を有する第三者の商品が市場に流通していたことが認められるところ、これらの商品の流通については原告も模倣品としては扱わず、通知書を送付するなどもしていないことから、同種の商品が、本件審決以前にも流通していた可能性が十分にあること
  • 少なくとも黒い革靴に用いる場合には、本願商標は相当程度の認知度を得ているということができるとしても、それ以外の色の革靴及びブーツに用いられる場合の本願商標の認知度が高いと認めるに足りる証拠はないというほかない。

原告商品に関しては、販売期間は長く、販売地域は日本全国に及んでおり、販売数量(年間47万足程)や売上高(年間60億円程)も相当程度大きいものと認定されましたが、商標権の範囲は願書に記載した商標に基づいて定められるものであり(商標法27条)、本願商標の願書の記載によると、下地が黒色であることは本願商標の範囲に含まれるものではないから、アウトソール及びウェルトが黒色である場合の本願商標の認知度をもって、本願商標自体の認知度を評価することは相当ではない、と判断されました。

なお、原告は、アンケート調査結果をもとに、原告商標の認知度の高さを主張しましたが、裁判所は、以下のとおり、調査方法の問題点を指摘し、原告主張を退けました。

本件アンケート調査は、黒色の革靴(アウトソール及びウェルトも黒である。)に本願商標を用いたものについて、側面から撮影した写真の下部分(黄色のステッチ部分)を示して質問がされたものであるから、本願商標が黒以外の色のアウトソール及びウェルトとともに用いられた場合についての認知度を示すものとはいえない。

小括

このように、裁判所は、原告商標について、商標法3条1項3号該当性を認め、かつ、同3条2項該当性を認めず、原告の請求には理由がないものとして、棄却しました。

コメント

本判決は、相当程度認知されていると思われる位置商標について、商標の形状や色彩に関して商標法3条1項3号該当性を、商標そのものと他の外観上の特徴との関連性を考慮して同3条2項該当性を検討したものであり、実務上参考になるものと考えます。

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(文責・平野)