知的財産高等裁判所第1部(大鷹一郎裁判長)は、本年(令和4年)3月29日、電子部品が取り替えられたトナーカートリッジの再生品に対する特許権行使の可否が問題となった事案において、独占禁止法との抵触を理由に電子部品に関する特許権の行使が権利濫用に当たるとして特許権者の請求を棄却した原判決を覆し、権利濫用の成立を否定して、特許権者の請求を一部認容しました。原判決は、独占禁止法との抵触を理由に特許権行使を制限した稀な判決であり、その判断枠組みや事実認定には賛否両論がありました。本稿では、原判決とも対比しながら、知財高裁判決の内容を紹介します。

原判決の詳細については、解説記事「再生品の製造等を制限する仕様が独禁法に抵触し特許権行使が権利濫用に当たるとしたトナーカートリッジ事件東京地裁判決について」をご覧ください。

ポイント

骨子

  • 残量表示がされない再生品と純正品との機能上の差異及び価格差を考慮して、再生品を選択するユーザーも存在するものと認められる。本件各特許権侵害を回避し、残量表示をさせることは、技術的に可能であり、実用に耐えうる程度の本件書換制限措置の回避は事実上不可能又は著しく困難であるとの一審被告らの主張は採用することができない。したがって、原告プリンタ用のトナーカートリッジの市場において、本件書換制限措置によるリサイクル事業者の不利益の程度は小さいものと認められる。
  • 本件書換制限措置を行った理由について、一審原告が主張する理由には相応の合理性が認められ、本件各特許権を行使することが原告製品のリサイクル品をもっぱら市場から排除する目的によるものと認めることはできない。
  • 一審原告の特許権行使について、競争者に対する取引妨害として、独占禁止法に抵触するものということはできないし、また、特許法の目的である「産業の発達」を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するものであるということはできないから、権利の濫用に当たるものと認めることはできない。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 令和4年3月29日
事件番号 令和2年(ネ)第10057号 特許権侵害差止等請求控訴事件
原判決 東京地方裁判所平成29年(ワ)第40337号
特許番号 ①特許第4886084号、②特許第5780375号、③特許第5780376号
発明の名称 「情報記憶装置、着脱可能装置、現像剤容器、及び、画像形成装置」(①)、「情報記憶装置及び着脱可能装置」(②③)
裁判官 裁判長裁判官 大鷹 一郎
裁判官    小林 康彦
裁判官    小川 卓逸

解説

権利濫用の抗弁

民法は「権利の濫用は、これを許さない。」と定めています(1条3項)。これは特許権にも適用される法理であり、被疑侵害物件が特許発明の技術的範囲に属し、かつ、特許に無効理由がないとしても、特許権行使が権利濫用を理由に制限される場合があります。

このような「権利濫用の抗弁」によって特許権行使が制限されるのは例外的な場合に限られますが、例えば有名なアップル対サムスン事件知財高裁決定(知財高裁平成26年5月16日決定)では、標準規格の実施者に対して「公正、合理的かつ非差別的」(fair, reasonable and non-discriminatory)な条件(FRAND条件)で標準規格必須特許のライセンスを付与するという宣言(FRAND宣言)がなされていた場合において、「ライセンスを受ける意思を有する者」に対する差止請求が権利濫用に当たると判断されました。

なお、著作権行使が権利濫用に当たると判断された近時の裁判例としては、懲戒請求書事件知財高裁判決(知財高裁令和3年12月22日判決)があります。

知的財産権と独占禁止法

特許権行使が独占禁止法に違反(抵触)する場合も権利濫用の抗弁が認められる可能性があります。

独占禁止法21条は、知的財産権行使についていわゆる独占禁止法の「適用除外」を定めていますが、これはあらゆる特許権行使について独占禁止法が問題とならないという意味ではありません。この点について、日之出水道機器事件知財高裁判決(知財高裁平成18年7月20日判決)は、以下のとおり述べました(結論としては、独占禁止法違反を認めませんでした)。

独占禁止法21条は,「この法律の規定は,著作権法,特許法,実用新案法,意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」と規定している。この趣旨は,特許権は,業としての特許発明の実施の独占権であり(特許法68条),実用新案権,意匠権等もこれと同様の実施の独占権であること(実用新案法16条,意匠法23条等)から,特許権等の権利行使と認められる場合には,独占禁止法を適用しないことを確認的に規定したものであって,発明,考案,意匠の創作を奨励し,産業の発達に寄与することを目的(特許法1条,実用新案法1条,意匠法1条)とする特許制度等の趣旨を逸脱し,又は上記目的に反するような不当な権利行使については,独占禁止法の適用が除外されるものではないと解される。

すなわち、同条は、正当な特許権行使は独占禁止法上問題とならないが、不当な特許権行使は独占禁止法上問題となる、という当然のことを確認した規定にすぎないと理解されています。公正取引委員会が知的財産権のライセンス契約等について適用する「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成28年1月21日最終改正)も同様の立場を採用しています。特許制度の趣旨逸脱・目的違反の有無の判断にあたっては、上記指針によれば、「行為の目的、態様、競争に与える影響の大きさ」が勘案されます。

競争者に対する取引妨害

競争者に対する取引妨害とは、独占禁止法が規制する「不公正な取引方法」の一種です(独占禁止法2条9項に基づく公正取引委員会告示〔一般指定〕14項)。同項は、以下のとおり定めています。

自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。

方法を問わないため、競争者の取引を「不当に妨害する」行為は、形式的には、広く競争者に対する取引妨害に当たる可能性があります。そのため、それが「不当」といえるか、すなわち競争への悪影響があるかの判断が重要になります。

競争者に対する取引妨害における競争への悪影響は、①特定の市場における競争制限のおそれ(「反競争性」「自由競争減殺」などと呼ばれます)がある場合か、②手段が不公正である場合に認められます。

①については、通常、公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成29年6月16日最終改正)がいう「市場閉鎖効果」が生じるか否かによって判断します。上記指針は、「非価格制限行為により,新規参入者や既存の競争者にとって,代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった,新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合」に「市場閉鎖効果」が生じると述べています。他方、②については、典型的には、競争者を誹謗中傷するビラをまいたような事案がこれに当たります。

競争者に対する取引妨害については、原判決の解説記事もご参照ください。

再生品と特許権の消尽

我が国において適法に特許製品を譲渡された場合には特許権が消尽し、もはや特許権の効力は、特許製品の使用・譲渡等・輸出・輸入・譲渡等の申出には及ばないという「消尽理論」が判例上認められています(BBS事件最高裁判決〔最高裁平成9年7月1日判決〕)。

もっとも、純正プリンタカートリッジにインクを再充填して再生品を製造するなど、特許製品に加工や部材交換がされた場合にまで無制限に消尽理論が適用されるものではありません。この点について、インクタンク事件最高裁判決(最高裁平成19年11月8日判決)は、「特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権を行使することが許されるというべきである。」と述べ、「同一性を欠く特許製品の新たな製造」の有無を消尽の成否の判断基準としました。

再生品と特許権の消尽については、原判決の解説記事もご参照ください。

事案の概要

一審原告(控訴人)は、特許第4886084号「情報記憶装置、着脱可能装置、現像剤容器、及び、画像形成装置」並びに特許第5780375号及び第5780376号「情報記憶装置及び着脱可能装置」に係る各特許権(本件各特許権)を保有し、レーザープリンタ(原告プリンタ)用の純正トナーカートリッジ(原告製品)を製造、販売等しています。他方、一審被告ら(被控訴人ら)は、使用済みの原告製品から情報記憶装置(原告電子部品)を取り外し、被告らの製造に係る電子部品(被告電子部品)に取り替えたうえで、トナーを充填して、再生品であるトナーカートリッジ製品(被告製品)を製造し、これを販売等しています。

原告電子部品にはデータの書換えを制限する措置(本件書換制限措置)が講じられていました。そのため、使用済みの原告製品にトナーを再充填して原告プリンタに装着すると、原告プリンタの画面において、トナーの残量表示が「?」と表示され、黄色ランプが点滅し、「非純正トナーボトルがセットされています。」と表示されます。

この場合でも、原告プリンタの画面上には「印刷できます」と表示され、印刷操作それ自体は支障なく行うことができます。もっとも、トナーの残量の段階的な表示や「トナーがもうすぐなくなります。」「交換用のトナーがあるか確認してください。」との予告表示はされず、トナーを使い切ると、「トナーがなくなりました。」「トナーを補給してください。」と表示され,赤色ランプが点灯し、印刷を停止します。

仮に原告電子部品に本件書換制限措置がされていなければ、電圧の操作によってデータを書き換えることが可能であり、その場合にはトナー残量の段階的表示及び残量予告表示がされます。

一審原告は、被告電子部品が上記各特許に係る発明の技術的範囲に属すると主張して、一審被告らに対し、同電子部品と一体として販売されているトナーカートリッジ製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、不法行為又は不当利得に基づき、特許法102条2項又は3項による損害賠償金及び弁護士費用の一部並びに遅延損害金の支払を求めました。

東京地裁は、被告電子部品が本件各発明の技術的範囲に属することを認めつつ、以下の判断基準を示したうえで、一審原告が十分な必要性・合理性が存在しないにもかかわらず一審被告らが特許権侵害に及ばない限り競争上著しく不利益を受ける状況を作出したことが独占禁止法(競争者に対する取引妨害)と抵触するとして、一審原告による特許権行使が権利濫用であると判断し、一審原告の請求を全部棄却しました(詳細については、原判決の解説記事をご覧ください)。

同法[筆者注:独占禁止法]21条の上記趣旨などにも照らすと,特許権に基づく侵害訴訟においても,特許権者の権利行使その他の行為の目的,必要性及び合理性,態様,当該行為による競争制限の程度などの諸事情に照らし,特許権者による特許権の行使が,特許権者の他の行為とあいまって,競争関係にある他の事業者とその相手方との取引を不当に妨害する行為(一般指定14項)に該当するなど,公正な競争を阻害するおそれがある場合には,当該事案に現れた諸事情を総合して,その権利行使が,特許法の目的である「産業の発達」を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するものとして,権利の濫用(民法1条3項)に当たる場合があり得るというべきである。

(中略)

……本件において,本件各特許権の権利者である原告が,使用済みの原告製品についてトナー残量が「?」と表示されるように設定した上で,その実施品である原告電子部品のメモリについて,十分な必要性及び合理性が存在しないにもかかわらず本件書換制限措置を講じることにより,リサイクル事業者が原告電子部品のメモリの書換えにより同各特許の侵害を回避しつつトナー残量の表示される再生品を製造,販売等することを制限し,その結果,当該リサイクル事業者が同各特許権を侵害する行為に及ばない限りトナーカートリッジ市場において競争上著しく不利益を受ける状況を作出した上で,同各特許権に基づき権利行使に及んだと認められる場合には,当該権利行使は権利の濫用として許容されないものと解すべきである。

これに対して一審原告が控訴を提起したところ、知財高裁は、原判決を覆し、権利濫用の成立を否定して、一審原告の請求を一部認容しました。

判旨

消尽の成否

知財高裁は、原判決と同様に、電子部品の取替えについて消尽は成立しないと判断しました。

被告製品は,控訴人が譲渡した本件各発明1ないし3の実施品である原告電子部品を搭載した使用済みの原告製品から,原告電子部品を取り外し,被控訴人らの製造した被告電子部品と取り替えた上で,トナーを充填し,再生品として製造し販売したものであるから……,被告電子部品は,控訴人が譲渡した原告製品に搭載された原告電子部品と同一性を有するものではない。

また,被控訴人らが本件各特許権の消尽の成立を妨げたと述べる対象製品は,仮定のリサイクル品に搭載された原告電子部品であって,実際の流通過程に置かれたものではないから,当該原告電子部品が被告電子部品と同一性を有するものでないことは明らかである。

本件書換制限措置による競争上の不利益について

知財高裁は、原判決と異なり、「?」表示によるユーザーの負担は大きくなく、リサイクル業者において印刷可の表示をすることによっても対応できると評価しました。

……再生品が装着された原告プリンタは,トナー残量表示に「?」と表示され,残量表示がされず,予告表示がされない点で純正品の原告製品が装着された原告プリンタと異なるが,再生品が装着された場合においても,トナー切れによる印刷停止の動作及び「トナーがなくなりました。」等のトナー切れ表示は純正品が装着された場合と異なるものではなく,印刷機能に支障をきたすものではないこと,再生品が装着された原告プリンタにおいても,トナー残量表示に「?」と表示されるとともに,「印刷できます。」との表示がされるので,再生品であるため,残量表示がされないことも容易に認識し得るものであり,ユーザーが印刷機能に支障があるとの不安を抱くものとは認められないこと,ユーザーは,残量表示がされないことについて予備のトナーをあらかじめ用意しておくことで対応できるものであり,このようなユーザーの負担は大きいものとはいえない。

また,リサイクル業者においては,残量表示がされないことについてユーザーが不安を抱くことを懸念するのであれば,再生品であるため,残量表示がされないが,印刷はできることを表示することによって対応できるものと認められる。

その結果、知財高裁は、原判決と異なり、「?」表示の再生品を選択するユーザーも存在するものと認めました。

このように本件書換制限措置が講じられた原告電子部品が搭載された再生品が装着された原告プリンタでは,トナー残量表示に「?」と表示され,残量表示がされず,予告表示がされない点は,ユーザーにとって大きな負担といえないことを踏まえると,残量表示がされない再生品と純正品との上記機能上の差異及び価格差を考慮して,再生品を選択するユーザーも存在するものと認められる。

また、原判決においては、本件各特許権の侵害を回避しつつ、競争上の不利益を被らない方策は存在しないと判断されましたが、知財高裁は、これと異なり、本件各特許権侵害を回避し、残量表示をさせることは、技術的に可能であると認めました(公表された判決文は以下のとおり一部黒塗りされています)。

……電子部品の形状を工夫することで,本件各発明1ないし3の技術的範囲に属さない電子部品を製造し,これを原告電子部品と取り替えることで,本件各特許権侵害を回避し,残量表示をさせることは,技術的に可能であり,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,●●●●●●の性能に問題があることをうかがわせる証拠がないことに照らすと,実用に耐えうる程度の本件書換制限措置の回避は事実上不可能又は著しく困難であるとの被控訴人らの主張④は採用することができない。

以上を踏まえ、知財高裁は、リサイクル業者が競争上著しく不利益を被ると判断した原判決と異なり、リサイクル業者の不利益の程度は小さいものと評価しました。

……原告プリンタ用のトナーカートリッジの市場において,本件書換制限措置によるリサイクル事業者の不利益の程度は小さいものと認められる。

本件書換制限措置を行った理由について

知財高裁は、本件書換制限措置の必要性・合理性を否定した原判決と異なり、本件書換制限措置には相応の合理性が認められると述べ、一審原告の特許権行使が原告製品のリサイクル品をもっぱら市場から排除する目的によるものと認めることはできないと判断しました。

……控訴人は,本件書換制限措置を行った理由について,原告電子部品に本件書換制限措置が講じられていない場合には,原告プリンタに自ら品質等をコントロールできない第三者の再生品のトナーの残量が表示され,残量表示の正確性を自らコントロールできないので,このような弊害を排除したいと考えて本件書換制限措置を講じたものである旨を主張し,経営戦略として,原告製プリンタに対応するトナーカートリッジのうち,ハイエンドのプリンタであるC830及びC840シリーズに対応する原告製品に搭載された原告電子部品を選択した旨を述べていること……,その理由には,相応の合理性が認められること,上記のとおり,本件各特許権侵害を回避した電子部品の製造が技術的に可能であることを併せ考慮すると,控訴人が本件書換制限措置がされた原告電子部品を取り替えて使用済みの原告製品に搭載した被告電子部品について本件各特許権を行使することは,原告製品のリサイクル品をもっぱら市場から排除する目的によるものと認めることはできない。

結論

知財高裁は、原判決と異なり、一審原告の特許権行使について独占禁止法(競争者に対する取引妨害)に抵触するとはいえず、また、特許法の目的に違反し、又は特許制度の趣旨を逸脱するともいえないと述べて、権利濫用の成立を否定しました。

上記のとおり,本件書換制限措置によりリサイクル事業者が受ける競争制限効果の程度は小さいこと,控訴人が本件書換制限措置を講じたことには相応の合理性があり,控訴人による被告電子部品に対する本件各特許権の行使がもっぱら原告製品のリサイクル品を市場から排除する目的によるものとは認められないことからすると,控訴人が本件書換制限措置という合理性及び必要性のない行為により,被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品を取り外し,被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ,上記消尽の成立を妨げたものと認めることはできない。

以上の認定事実及びその他本件に現れた諸事情を総合考慮すれば,控訴人が,被控訴人らに対し,被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を行使することは,競争者に対する取引妨害として,独占禁止法(独占禁止法19条,2条9項6号,一般指定14項)に抵触するものということはできないし,また,特許法の目的である「産業の発達」を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するものであるということはできないから,権利の濫用に当たるものと認めることはできない。

コメント

原判決と知財高裁判決の結論は正反対となりましたが、その原因は基本的に事実認定(認定事実に対する評価)の違いにあるといえます。

第一に、原判決は、「?」表示の再生品がユーザーに広く受け入れられないと評価しましたが、知財高裁判決は、「?」表示の再生品であってもトナー切れ表示は可能であり、印刷機能には支障がないこと、ユーザーは再生品であるために残量表示がされないことを容易に認識し得るため、ユーザーが印刷機能に支障があるとの不安を抱くものではないこと、ユーザーは予備のトナーをあらかじめ用意しておくことで対応できること等から、再生品を選択するユーザーも存在すると評価しました。また、原判決は、本件各特許権の侵害を回避する方策はないとしましたが、知財高裁判決は、これが技術的に可能であるとしました(競争制限の程度の判断にあたって特許権侵害回避の方策の有無を重視する知財高裁の姿勢は、薬剤分包用ロールペーパ事件知財高裁判決〔知財高裁令和元年10月10日判決〕にもみられるものです)。

第二に、原判決は、本件書換制限措置に十分な必要性・合理性がないと評価しましたが、知財高裁判決は、これに相応の合理性があると評価しました。

言い換えれば、知財高裁判決は、原判決が示した特許権行使と権利濫用に関する判断枠組みそれ自体を肯定も否定もしていません。原判決が認定したような事実関係の下において知財高裁が特許権行使を制限するか否かについては、同種事案に関する今後の知財高裁の判断傾向をみていく必要があります。

本記事に関するお問い合わせはこちらから

(文責・溝上)