知的財産高等裁判所第1部(大鷹一郎裁判長)は、本年(令和3年)4月14日、第30類「すし」を指定商品とする商標「ざんまい」に係る商標登録無効審判の審決取消訴訟において、同商標は他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であると判断して、特許庁による商標登録無効審決を支持しました。

本判決は、登録不可事由を定める商標法4条1項15号該当性の判断に関し、他の事案においても参考になりますので、紹介します。

ポイント

骨子

  • 本件商標(「ざんまい」)をその指定商品の「すし」に使用するときは,その取引者,需要者において,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店の名称として著名な「すしざんまい」の表示を想起し,当該商品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがあるものと認められる。
  • 本件商標(「ざんまい」)は,引用商標1及び2(「すしざんまい」)との関係において,商標法4条1項15号に該当するものと認められる。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 令和3年4月14日
事件番号・事件名 令和2年(行ケ)第10107号 審決取消請求事件
判決結果 棄却(登録無効)
原審決 特許庁令和2年8月13日無効2018-890005号事件
登録商標 登録第5556223号商標
指定商品第30類「すし」

引用商標1 登録第5003675号商標
指定商品第30類「すし」
指定役務第43類「すしを主とする飲食物の提供」
引用商標2 登録第5511447号商標
指定商品第30類「すし、すしを主とするべんとう」
指定役務第43類「すしを主とする飲食物の提供」

標準文字「すしざんまい」

裁判官 裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官    小 林 康 彦
裁判官    高 橋   彩

解説

商標とは

「商標」とは、事業者がその商品や役務(サービス)について用いる標章(マーク)のことをいいます。

商標には、商品や役務の出所を表示する機能があり、実際、その商標が付された商品や役務の需要者は、その商標により示される出所を信頼して、取引を行っています。

商標登録とは

商標は、特許庁で登録を受けることができ、登録を受けた者は商標権を持ちます。商標権者は、商標権を持つことによって、第三者が無断で類似の商標を使用した模倣品などを販売することを防止することができ、商標に化体する自らの業務上の信用ないしブランドを保護することができます。

商標権は、一定の商品・役務についてのみ権利が付与されるものであり、出願時には、権利を受けたい商品・役務を指定します(複数可)。無事に商標が登録されると、「指定商品」・「指定役務」という項目で商標登録情報に記載されます。

本稿で取り上げる「ざんまい」との商標は、指定商品を第30類「すし」として、特許庁より登録を受けていたものです。

標準文字の商標

商標には、文字商標、図形・記号商標、立体商標、音商標、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、位置商標やこれらの組み合わせがありますが、文字商標の中でも、デザイン性を有するもののほか、特許庁の定める標準文字によるものもあります。

標準文字の商標は、半角文字、半角スペースや特殊な記号はなく、また、一行かつ30文字までといった様々な制約があります。

標準文字の商標権が及ぶ範囲は、その標準文字の商標と同一又は類似の範囲であり、通常の商標登録と比較してその範囲の広狭に差異はないと言われています。

本件では、引用商標2が標準文字によるものです。

商標登録を受けることができない商標

商標法4条1項では、他の利益との調整の観点から、商標登録を受けることができない商標の類型が列挙されています。例えば、国旗と同一又は類似の商標(1号)、公序良俗違反の商標(9号)、既に需要者に広く認識されている商標と同一又は類似の商標(10号)などは登録を受けることができません。

本件でその該当性が問題となった「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」も、登録を受けることができない商標として、同15号に列挙されています。

なお、15号違反の登録商標に対しては、特許庁に対し、登録無効審判請求を行うことができるのですが、登録の日から5年を経過した後は請求することができません(商標法47条)。

(商標登録を受けることができない商標)

第四条

 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

 国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標

 パリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であつて、経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標

 国際連合その他の国際機関(ロにおいて「国際機関」という。)を表示する標章であつて経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標(次に掲げるものを除く。)

イ 自己の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似するものであつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

ロ 国際機関の略称を表示する標章と同一又は類似の標章からなる商標であつて、その国際機関と関係があるとの誤認を生ずるおそれがない商品又は役務について使用をするもの

 赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律(昭和二十二年法律第百五十九号)第一条の標章若しくは名称又は武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成十六年法律第百十二号)第百五十八条第一項の特殊標章と同一又は類似の商標

 日本国又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の標章を有する商標であつて、その印章又は記号が用いられている商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務について使用をするもの

 国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標

 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標

 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)

 政府若しくは地方公共団体(以下「政府等」という。)が開設する博覧会若しくは政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官の定める基準に適合するもの又は外国でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会の賞と同一又は類似の標章を有する商標(その賞を受けた者が商標の一部としてその標章の使用をするものを除く。)

 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

十二 他人の登録防護標章(防護標章登録を受けている標章をいう。以下同じ。)と同一の商標であつて、その防護標章登録に係る指定商品又は指定役務について使用をするもの

十三 削除

十四 種苗法(平成十年法律第八十三号)第十八条第一項の規定による品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であつて、その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

十五 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)

十六 商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標

十七 日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標章のうち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒について使用をすることが禁止されているものを有する商標であつて、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの

十八 商品等(商品若しくは商品の包装又は役務をいう。第二十六条第一項第五号において同じ。)が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標

十九 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

 以下略

10号~14号と15号の関係

上で条文を引用したとおり、商標法4条1項15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)」は登録を受けられないと規定するものであり、15号は、10号ないし14号を除外しています。

以下に列挙する10号ないし14号も、15号と同じく出所の混同のおそれから登録を受けられないとされたものなのですが、それぞれ、取引の経験則等から典型的に混同のおそれのある商標を具体的・例示的に規定したものとなります。

  • 既に需要者に広く認識されている商標と同一又は類似の商標を同一又は類似の商品・役務に使用する場合(10号)
  • 出願より前に出願されていた他人の登録商標と同一又は類似の商標を同一又は類似の商品・役務に使用する場合(11号)
  • 他人の登録防御標章を同一の商品・役務に使用する場合(12号)
  • 種苗法により登録された品種の名称と同一又は類似の商標を同一の種苗又は類似の商品・役務に使用する場合(14号)

したがって、15号は、一般的には混同のおそれはないけれども、個別具体的な条件のもとでは混同のおそれのある商標について不登録とするものであり、定型的・技術的に適用される10号ないし14号とは異なって、取引の実情に応じて個別具体的に条項を適用することが予定されています。

なお、商標法4条1項15号の文言は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)」というものであるものの、実際の裁判例では、問題となっている商標が、10号ないし14号に非該当であることを特に認定することなく、15号の該当を認めているようです(知財高判H24.7.26「スリーエム事件」など)。

「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」該当性の判断要素

混同のおそれとは

「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある」場合とは、商品・役務の需要者が、他人の業務に係る商品・役務であると誤認するおそれがある場合だけでなく、経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品・役務であると誤認する場合も含まれます。

また、「混同を生ずるおそれ」の程度は、混同を生ずるであろうという抽象的なおそれがあれば足りると解されています。

判断要素

特許庁の『商標審査基準』によると、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するかの判断要素としては、

(イ) その他人の標章の周知度(広告、宣伝等の程度又は普及度)

(ロ) その他人の標章が創造標章であるかどうか

(ハ) その他人の標章がハウスマークであるかどうか

(ニ) 企業における多角経営の可能性

(ホ) 商品間、役務間又は商品と役務間の関連性

等を総合的に考慮するものとされます。

商標の周知性・著名性

商標の周知性・著名性は、ある商標が一定の商品(や役務)に長期間使用され、販売、宣伝されるなどする中で獲得されます。

周知・著名な商標は、出所表示力が強い商標であるといえます。

この場合、強い連想作用等から、当該周知・著名な商標と混同のおそれのある範囲は、通常の商標よりも広く認められるものといえます。

商標法4条1項15号は、実態としては、このような周知・著名な商標がある場合に、出願された商標が、同10号~14号という定型的な不登録事由に該当しない場合にも、混同のおそれがある商標として不登録とし、既にある周知・著名商標を保護する条項として機能しています。

具体的には、たとえば、

  • 著名商標と同一又は類似の商標を非類似の指定商品に使用する場合
  • 著名商標と非類似の商標を同一又は類似の指定商品に使用する場合
  • 著名商標を非類似の商標非類似の指定商品に使用する場合

が考えられ、これらの場合にも、個別具体的に混同を生じるおそれがあるときに出願商標の登録を認めず、周知・著名商標を保護します。

事案の概要

本件の原告は、九州地区を中心に、「寿司ざんまい」という名称を用いて電話又はウェブサイトでの注文による宅配寿司チェーン店を運営しています。

他方、被告は、関東地方を中心に、「すしざんまい」という名称を用いて寿司チェーン店を運営しています。

原告は、下記の表記載の本件商標「ざんまい」の商標権者ですが、この商標は、平成24年12月26日に特許庁により商標登録査定がなされ、翌年2月8日に設定登録されました。これに対し、被告が、特許庁に本件商標の登録無効審判を請求したところ、特許庁は、本件商標の登録は無効であるとの審決をしました。その理由は、本件商標は商標法4条1項15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するというものでした。そこで、特許庁の審決を不服とする原告は、当該審決の取消しを求めて提訴しました。

登録商標
(本件商標)
登録第5556223号商標
指定商品第30類「すし」
引用商標1 登録第5003675号商標
指定商品第30類「すし」
指定役務第43類「すしを主とする飲食物の提供」
引用商標2 登録第5511447号商標
指定商品第30類「すし、すしを主とするべんとう」
指定役務第43類「すしを主とする飲食物の提供」

標準文字「すしざんまい」

 

当事者概要

原告 被告
業務形態 九州の宅配寿司チェーン店 関東の寿司チェーン店
商標 「ざんまい」 「すしざんまい」

 

経過・結論概要

手続 結果
特許庁・原告による出願 本件商標「ざんまい」登録査定
特許庁・被告による登録無効審判請求 「ざんまい」の登録は無効との審決
裁判所・原告による審決取消訴訟提訴 棄却・「ざんまい」の登録は無効

特許庁の判断

特許庁が本件商標は「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」(商標法4条1項15号)に該当すると判断した理由は、概要、次のとおりです。

すなわち、特許庁は、本件商標と上の表に記載の引用商標1及び引用商標2とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても明らかに異なるから、同一又は類似の商品について使用する場合であっても、互いの商標を誤認、混同するおそれのない非類似の商標であると判断しました。

他方で、これらは非類似ではあるものの、本件商標と各引用商標の類似性の程度、各引用商標の周知著名性及び独創性、本件商標の指定商品と各引用商標の指定商品及び指定役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに需要者の共通性その他取引の実情を総合的に判断すると、本件商標「ざんまい」は、商標権者が本件商標を指定商品「すし」に使用した場合、需要者が各引用商標を連想し、当該商品を被告あるいは被告の関係者の業務に係る商品であるかのように、出所について混同を生ずるおそれがある、と判断していました。

⑵ 本件審決が,本件商標が商標法4条1項15号に該当すると判断した理由の要旨は,以下のとおりである。

ア 請求人(被告)は,別紙2記載のとおりの構成からなる登録第5003675号商標(登録出願日平成14年6月19日,設定登録日平成18年11月17日,指定商品第30類「すし」及び指定役務第43類「すしを主とする飲食物の提供」。以下「引用商標1」という。甲2。)及び「すしざんまい」の標準文字を表してなる登録第5511447号商標(登録出願日平成22年4月9日,設定登録日平成24年8月3日,指定商品第30類「すし,すしを主とするべんとう」及び指定役務第43類「すしを主とする飲食物の提供」。以下「引用商標2」という。甲3)の商標権者である。

イ 本件商標と引用商標1及び2は,外観については,「すし」の文字等の有無や書体の差異から互いに区別し得ること,称呼については,本件商標からは,「ザンマイ」の称呼を生じ,引用商標からは,「スシザンマイ」の称呼が生じるものであり,両者は,語頭において「スシ」の音の有無という顕著な差異を有するから,称呼において明瞭に聴別し得ること,観念については,本件商標からは,「一心不乱に事をするさま」の観念を生じるのに対し,引用商標からは,「一心不乱にすしを食する」ほどの観念を生じ,両者は,区別できることからすると,外観,称呼及び観念のいずれにおいても明らかに異なるものといえるから,これらを同一又は類似の商品について使用する場合であっても,互いに誤認,混同するおそれのない非類似の 商標というべきである。

ウ ①本件商標と引用商標1及び2は,前記イのとおり,非類似の商標ではあるものの,いずれも,外観において平仮名「ざんまい」の文字を横書きした構成である点及び称呼において「ザンマイ」を含む点を共通にするものであるから,ある程度の類似性を有すること,②引用商標1及び2は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,被告の業務に係る「すし」を表す商標として,需要者間に広く認識されていたということはできないものの,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表す商標として,需要者間に広く認識されていたというのが相当であり,被告のすし店による主要都市への出店,テレビ番組,雑誌,新聞等のメディアで取り 上げられる頻度,他社を大きく引き離す売上高等を併せ考慮すれば,当該すし店の看板や名称に使用されている引用商標1及び2の周知著名性の程度は高いこと,③引用商標1の要部である「すしざんまい」及び引用商標2からは,既成語の「すし」と「一心不乱に事をするさま」の意味を有する「ざんまい(三昧)」の文字を結合させたものと理解され,「一心不乱にすしを食するさま」ほどの観念を生じるものであるから,独創性が高いも のとはいえないこと,④本件商標の指定商品「すし」と引用商標2の指定商品「すし,すしを主とするべんとう」とは,テイクアウト専門のすし店やスーパー等といった販売部門,流通経路を共通にするものであるから, 両者はその性質,用途又は目的において密接な関連性を有し,その需要者層も共通にし,また,本件商標の指定商品「すし」は,引用商標1及び2の指定役務である「すしを主とする飲食物の提供」における料理の内容(すし)であるうえに,「すしを主とする飲食物の提供」を行う,いわゆる回転 ずしや着席スタイルのすし店等でも,テイクアウト用として一般に取引, 販売されるものであるから,「すし」と「すしを主とする飲食物の提供」とは,その性質,用途又は目的において密接な関連性を有し,その需要者層も一部共通にすること,上記①ないし④の本件商標と引用商標1及び2の類似性の程度,引用商標1及び2の周知著名性及び独創性,本件商標の指 定商品と引用商標1及び2の指定商品及び指定役務との間の性質,用途又 は目的における関連性の程度並びに需要者の共通性その他取引の実情を総合的に判断すると,本件商標は,その登録出願時及び登録査定時において,商標権者がこれをその指定商品「すし」に使用した場合,これに接する需要者が引用商標1及び2を想起,連想し,当該商品を被告あるいは被告と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがある。

したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当する。

判旨

判断枠組み

判決は、本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」(商標法4条1項15号)に該当するかどうかの判断をするにあたり、まず、各引用商標の著名性を判断した上で、本件商標と各引用商標を比較検討して、出所について混同を生ずるおそれがあるか否かを考慮しました。

以下では、その判断を順に見ていきます。

引用商標の周知著名性

まず、判決は、各引用商標の周知著名性を判断する前提として、各引用商標の需要者について、「すし」と「すしを主とする飲食物の提供」の需要者は、「大衆」を含む一般消費者であると判断しました。

その上で、被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店の売上げ高やシェア、看板等の表示、メディアでの露出等について認定したところによれば、「すしざんまい」の表示は、本件商標の登録出願時(平成24年9月13日)及び登録査定時(同年12月26日)において、被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店の名称として、「すしを主とする飲食物の提供」の役務の需要者である一般消費者の間に広く認識され、被告の業務に係る上記役務を表示するものとして、著名であったものと認めました。

商標法4条1項15号「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」該当性

そして、判決は、引用商標「すしざんまい」が著名であることを前提として、本件商標「ざんまい」が商標法4条1項15号「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するかどうかを検討します。

(1)本件商標の観念

はじめに、以下のとおり、本件商標の「ざんまい」という表示からどのような観念が生じるかについて判断しています。

「すしざんまい」の表示は上記のとおり被告が展開するチェーン店の名称として一般消費者に広く認識され、「すしを主とする飲食物の提供」を表示するものとして著名であったこと、「すし」又は「寿司」の表示を登録商標の前後に付加して使用することが普通に行われていることなどから、本件商標「ざんまい」が指定商品「すし」に使用されたときは、被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店を想起し、同チェーンの名称としての「すしざんまい」の観念をも生じると判断しました。

要するに、寿司に関して「ざんまい」という表示を見たとき、普通の人は被告の「すしざんまい」チェーン店を思い浮かべるということが指摘されています。

3 本件商標の商標法4条1項15号該当性について

(1) 混同を生ずるおそれの有無について

ア(ア) 本件商標は,別紙1記載のとおり,「ざんまい」の文字を横書きに書してなる商標である。本件商標から「ザンマイ」の称呼が生じる。

「ざんまい」の語は,「一心不乱に事をするさま。」(広辞苑第七版)の意味を有するから,本件商標から,このような意味合いの観念を生じる。

また,前記2⑵ア認定のとおり,「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く認識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示するものとして,著名であったこと,「すし」に関連する登録商標の使用においては,「すし」又は「寿司」の表示を登録商標の前後に付加して使用することが普通に行われており,現に,原告においても,本件商標の「ざんまい」の前に「寿司」の文字を付加した「寿司ざんまい」の商標を使用していること(前記1(4))に鑑みると,本件商標が指定商品「すし」に使用されたときは,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念をも生じるものと認めるのが相当である。

(2)各引用商標の観念

次に、各引用商標から生じる観念について検討しています。

引用商標1の「すしざんまい」の文字部分の構成に照らすと、「すしざんまい」の文字部分は、取引者、需要者に対し、「すしを主とする飲食物の提供」の役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるから、要部として抽出できるとしました。

「すしざんまい」チェーンの著名性に鑑みると、引用商標1の要部及び引用商標2の「すしざんまい」からは、被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店を想起し、同チェーンの名称としての「すしざんまい」の観念を生じるとしています。

要するに、「すしざんまい」という表示を見たときも、普通の人は被告の「すしざんまい」チェーン店を思い浮かべるということが指摘されています。

(イ) 引用商標1は,別紙2記載のとおり,上段に筆文字風で記載された「つきじ喜代村」の文字を,中段に大きく筆文字風で記載された「すしざんまい」の文字を,下段に小さくゴシック体で記載された「SUSH IZANMAI」の文字を3段に配した構成からなる結合商標であり,このうち,「すしざんまい」の文字は,引用商標1の中央に他の文字より も大きく,かつ,太く記載されており,「すし」の部分は,「し」が「す」の左下に位置し,縦書きのように記載されている。

そうすると,引用商標1を構成する「つきじ喜代村」の文字部分,「すしざんまい」の文字部分及び「SUSHIZANMAI」の文字部分は,外観上,それぞれが分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない。

そして,「すしざんまい」の文字部分の上記構成態様に照らすと,引用商標1の構成中の「すしざんまい」の文字部分は,取引者,需要者に対し,「すしを主とする飲食物の提供」の役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから,要部として抽出できるものと認めるのが相当である。

しかるところ,引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分 及び「すしざんまい」の標準文字からなる引用商標2から,いずれも「スシザンマイ」の称呼が生じる。

また,前記2⑵ア認定のとおり,「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及び登録査定時においては,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く認識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示するものとして,著名であったことに鑑みると, 引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分及び引用商標2から,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念を生じるものと認めるのが相当である。

(3)観念の共通

そして、裁判所は、以上(1)、(2)からすると、本件商標と各引用商標は、外観と呼称が異なるが、本件商標「ざんまい」が指定商品「すし」に使用されたときは、各引用商標「すしざんまい」と観念が共通すると判断しました。

(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,本件商標と引用商標1及び2は,外観及び称呼が異なるが,観念においては,本件商標が指定商品「すし」に 使用されたときは,本件商標から被告が店舗展開する「すしざんまい」 チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念をも生じるのに対し,引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分及び引用商標2からも,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の観念を生じる点で共通するものと認められる。

(4)商標法4条1項15号該当性

以上のとおり、①「すしざんまい」の表示の著名性、本件商標と各引用商標の②観念の共通、③需要者の共通、④対象商品の共通を考慮すると、本件商標「ざんまい」をその指定商品の「すし」に使用するときは、その取引者、需要者において、被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店の名称として著名な「すしざんまい」の表示を想起し、その商品を被告や被告と緊密な関係にある営業主の商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあり、商標法4条1項15号に該当するため、本件商標の登録は無効であるとした特許庁の判断に誤りはないとしました。

イ 以上のとおり,①「すしざんまい」の表示は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店の名称として,需要者である一般消費者の間に広く認識され,被告の業務に係る「すしを主とする飲食物の提供」を表示するものとして,著名であったこと(前記2(2)ア),②本件商標と引用商標1の要部である「すしざんまい」の文字部分及び引用商標2から,いずれも被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店を想起し,その名称としての「すしざんまい」の 観念を生じる点で共通すること(前記ア(ウ)),③本件商標の指定商品である「すし」と被告の業務に係る役務である「すしを主とする飲食物の提供」は,需要者が一般消費者である点で共通し(前記2⑴ア),販売の対象となる商品又は提供の対象となる商品がいずれも「すし」である点で共通することを総合考慮すると,本件商標をその指定商品の「すし」に使用するときは,その取引者,需要者において,被告が店舗展開する「すしざんまい」チェーン店の名称として著名な「すしざんまい」の表示を想起し,当該商品を被告又は被告と緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがあるものと認められる。

したがって,本件商標は,引用商標1及び2との関係において,商標法4条1項15号に該当するものと認められる。

これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

コメント

本判決は、本件商標が商標法4条1項15号に該当するとした点で、特許庁の判断と結論は同じですが、内容を詳細にみると、理由付けが微妙に異なっています。特許庁は、本件商標と各引用商標は観念が異なり、非類似の商標であることを前提としているのに対し、裁判所は、著名性のある引用商標「すしざんまい」が存在するなかでは、本件商標「ざんまい」が「すし」という商品に使用されたときには、引用商標と観念が共通するとし、両者が非類似であるとは判断しないで(類似であるとの判断もしていません。)、両者の混同を生ずるおそれの有無を検討しました。

審決例を含め、ある文字商標「〇〇」が著名で、その文字を含む「△△〇〇」との商標が4条1項15号に該当するという事例は多く見られますが、本件のように「△△〇〇」が著名で、「〇〇」との商標が4条1項15号に該当すると判断された事例は珍しいように思います。本件は、このような場合であっても、指定役務や具体的取引事情を考慮して混同を生ずるおそれを認定したものと思われ、同様の事案について参考になります。

また、裁判所が行った本件商標から生じる観念の判断については、商標の類否判断が争われるような事案にも参考になると思われます。

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(文責・村上)