福岡地方裁判所第3刑事部(神原浩裁判長)は、本年(令和3年)6月2日、漫画の無断配信サービス「漫画村」の運営者に対し、懲役3年の実刑及び罰金1000万円に処するとともに、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律に基づき、6257万1336円の追徴を命じる判決をしました。
漫画村は、画像(漫画)データの配信に際し、自社サーバからの配信のほか、リバースプロキシを用いて、第三者のサーバにあるデータも配信していたところ、同判決は、この場合において、第三者のサーバの記録媒体が漫画村のサーバに接続された「記録媒体」に該当し、かつ、リバースプロキシの設定によってそのようなデータ配信を可能にした行為が、第三者サーバの「記録媒体」を漫画村のサーバの「公衆送信用記録媒体」として「加える」行為に該当する等の認定をしました。
判決では、他の争点についても判断が示されていますが、本稿では、リバースプロキシが用いられた場合の送信可能化権侵害の成否に関する事項に絞って判決を紹介します。
ポイント
骨子
- 漫画村のサーバは,インターネット回線に接続し,その記録媒体に記録された漫画の画像データや,第三者サーバから送信された漫画等の画像データを,公衆からの求めに応じ自動的に送信するものであるから,自動公衆送信装置に該当する。
- 認定したリバースプロキシの働きによれば,漫画村のサーバにリバースプロキシの設定をすることにより,漫画村のサーバは,閲覧者から画像閲覧のリクエストを受けるとその画像データを第三者サーバにリクエストし,第三者サーバからその画像データの送信を受け,受け取った画像データを閲覧者に返信することになる。これによると,第三者サーバ内部にある記録媒体のうち漫画村のサーバに送信する画像データを記録保存している部分は,自動公衆送信装置たる漫画村のサーバに画像データを供給する働きをするものと認められ,機能的にみて,漫画村のサーバに接続された記録媒体に当たると評価できる。
- 上記の漫画村のサーバと第三者サーバの記録媒体との関係は,被告人が漫画村のサーバにリバースプロキシの設定をすることにより生じたことによれば,同行為は,情報が記録された第三者サーバの記録媒体を漫画村のサーバの公衆送信用記録媒体として「加え」る行為に該当すると認められる。
- 著作権法2条1項9号の5イの文理解釈において,「加え」る行為を物理的に接続する場合に限定すべき合理的理由はない。
- 第三者サーバに記録保存されていた漫画等の画像データは,閲覧者のリクエストに応じて漫画村のサーバに入力されるものの,漫画村のサーバには記録保存されることなく,そのまま自動公衆送信されていた。これは,著作権法2条1項9号の5イにいう「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」ことに当たる。
- 著作権法が,自動公衆送信とは別に,送信可能化を規制対象として規定した趣旨は,現に自動公衆送信が行われる前の準備段階の行為を規制することにある。そして,送信可能化が,公衆からの求めに応じて自動的に送信する機能を有する自動公衆送信装置の使用を前提としていることに鑑みると,情報入力の主体は,閲覧のリクエストをした個々の閲覧者ではなく,情報を自動的に入力する状態を作り出した者と解するのが相当である。
判決概要
裁判所 | 福岡地方裁判所第3刑事部 |
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判決言渡日 | 令和3年6月2日 |
事件番号 | 令和元年(わ)第1181号、同第1283号、同第1498号、令和2年(わ)第41号 |
事件名 | 著作権法違反、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件 |
裁判官 | 裁判長裁判官 神 原 浩 裁判官 川 口 洋 平 裁判官 絹 川 宥 樹 |
解説
著作権とは
著作権とは、以下のとおり、著作権法によって著作者が享有するものとされている権利のひとつで、具体的には、同法21条から28条に規定される権利がこれにあたるものとされています。
(著作者の権利)
第十七条 著作者は、次条第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第二十一条から第二十八条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。
2 (略)
著作権法21条から28条には、それぞれ著作者が享有する権利の具体的内容が定められていますが、これらの規定に基づく個々の権利は「支分権」と呼ばれ、著作権は、それらの支分権の総称に位置づけられます。
公衆送信権とは
著作権法23条1項は、以下のとおり、著作者が、その著作物について、公衆送信をする権利を専有すると定めています。この権利は、著作権の支分権のひとつで、「公衆送信権」と呼ばれます。
(公衆送信権等)
第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 (略)
公衆送信権により著作者が権利を専有する行為は「公衆送信」ですが、著作権法23条1項は、その内容として、「自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む」ことを規定しています。
自動公衆送信とは
「自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む」という場合の「自動公衆送信」の意味につき、著作権法2条1項9号の4は、以下のとおり、「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)」と定義しています。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(略)
九の四 自動公衆送信 公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。
これに該当するのは、インターネット上のウェブサイトです。ウェブサイトは、ブラウザから送信される要求に従ってサーバからユーザのブラウザにデータが送信されるものである点で「公衆からの求めに応じ自動的に行う」「公衆送信」といえ、また、「放送又は有線放送」に該当しないからです。
送信可能化とは
上述のとおり、著作権法23条1項は、自動公衆送信における「送信可能化」を「公衆送信」の一態様に位置づけていますが、「送信可能化」の意味については、以下のとおり、著作権法2条1項9号の5に定義が置かれています。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(略)
九の五 送信可能化 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。
(略)
複雑な定義ですが、ごく簡単にいえば、「送信可能化」とは、「自動公衆送信し得るようにすること」をいい、その具体的手段として、「イ」と「ロ」に記載された行為が用いられることが想定されています。
これらのうち、「イ」は、ウェブ用のサーバ(「自動公衆送信装置」)のディスク(「公衆送信用記録媒体」)にコンテンツをアップロードしたり、コンテンツを記録したメディア(「記録媒体」)をサーバのディスクとして加えたり、サーバに情報を入力したりするなどしてコンテンツを送信可能な状態にすることで、「ロ」は、コンテンツが記録されたサーバをネットに接続することを指しています。
これらの行為についての専有権は、著作権法23条1項により、公衆送信権の一部に位置づけられますが、送信可能化に関する権利のみを指して「送信可能化権」と呼ばれることもあります。
著作権侵害罪とは
第三者が著作者の許諾なく支分権によって著作者が権利を専有している行為をすると著作権侵害となり、侵害者は、民事上の責任のほか、以下の著作権法119条1項により、刑事上の罪に問われることもあります。この罪は、「著作権侵害罪」と呼ばれることもあります。
第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第二項、第三項若しくは第六項から第八項までの規定により著作権、出版権若しくは著作隣接権(同項の規定による場合にあつては、同条第九項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第五号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第十項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第六号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(略)
なお、上に引用したのは現在の著作権法119条1項ですが、本件で適用されたのは、平成28年改正前の同条項で、その文言は以下のとおりでした。
第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第三項の規定により著作権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第五項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第四号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(略)
事案の概要
当事者
本件で著作権侵害が問題となったのは、メディアでも話題になった漫画村です。漫画村は、多数の漫画等の著作物を、著作者の許諾なく掲載し、閲覧可能にしたウェブサイトで、被告人は、その運営管理者でした。
漫画村の構造とリバースプロキシ
本項で取り上げる事項に関して問題となる事実関係は、漫画村における漫画のデータの配信手段です。漫画村は多数のサーバから構成されていましたが、漫画村に漫画等を掲載する方法としては、漫画村のサーバの記録媒体に漫画等の画像データを手作業でアップロードする方法と、漫画村のサーバにリバースプロキシの設定をすることにより、被告人らと無関係な第三者のサーバ(「第三者サーバ」)に存在する画像データを、閲覧できるようにする方法の2種類がありました。
リバースプロキシとは、データを保有するサーバと、そのデータにアクセスしようとするユーザの間でデータ送信の中継をするサーバをいい、データを保有するサーバは「オリジンサーバ」と呼ばれます。一般のプロキシは、ユーザが使用するクライアント端末の代理(プロキシ)としてデータの要求を仲介するのに対し、リバースプロキシは、要求を受けるサーバの代理として発信の仲介をするため、「リバース(逆)プロキシ」と呼ばれます。
リバースプロキシがあることにより、ユーザは、オリジンサーバの存在を意識することなくリバースプロキシ経由でオリジンサーバのデータを取得することになるため、リバースプロキシは、一般的に、オリジンサーバのセキュリティや匿名性を高めるために用いられます。また、リバースプロキシには、オリジンサーバの負荷を軽減するため、送信されるデータをキャッシュ(一時保存)する機能があるのが通常です。
本件において、被告人は、リバースプロキシを利用し、違法にコピーした漫画のデータが格納された第三者サーバをオリジンサーバとする設定をすることにより、漫画村にアクセスしたユーザに、第三者サーバのデータを配信していました。他方、被告人は、リバースプロキシのキャッシュ機能を利用していませんでした。
争点
本件では、いくつかの争点が争われましたが、ここでは、リバースプロキシの利用との関係で「送信可能化」が成立するか、という争点について取り上げます。
具体的に本件で適用が問題となったのは、著作権法2条1項9号の5に定義された「送信可能化」を実現する行為態様のうち、同号イの「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」る行為と、「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」行為で、争点となっているものも含めると、法文上の用語と、本件における事実との対応関係は、以下のとおりです。
著作権法2条1項9号の5の文言 | 事実 |
---|---|
「当該自動公衆送信装置」 | 漫画村サーバ |
「情報が記録された記録媒体」 | 第三者サーバの記憶装置 |
「当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」 | リバースプロキシの設定により、第三者サーバの記録媒体から取得されたデータを漫画村のサーバを経由してユーザに送信できる状態にすること |
「入力」 | ユーザの求めに応じて第三者サーバから漫画村サーバにデータを送信すること |
これに対し、弁護人は、以下の3点を指摘し、被告人の行為は「送信可能化」に該当しないと主張しました。
「自動公衆送信し得るようにすること」の該当性
著作権法2条1項9号の5の柱書は、「送信可能化」の定義として、「自動公衆送信し得るようにすること」を要件としています。
この点、弁護人は、リバースプロキシを用いる場合の漫画村は、新たに自動公衆送信することができる状態を作出するのではなく、もともと第三者サーバに存在し、自動公衆送信が可能になっていたデータをリバースプロキシによって漫画村のサーバから送信するものであることから、リンクに近いものであって、「自動公衆送信し得るようにすること」との構成要件に該当しないと主張しました。
「自動公衆送信し得るようにすること」とは,自動公衆送信し得ない状態から,自動公衆送信し得る状態に移すことをいう。
リバースプロキシを設定することは,第三者がインターネット上において既に公衆送信し得る状態を作出していた侵害コンテンツに,ユーザを誘導するものにすぎないから,文理上,「自動公衆送信し得るようにすること」と評価することはできない。
被告人のしたリバースプロキシの設定は,いわゆるリンクの貼付けと同様,第三者が既にインターネット上において自動公衆送信し得る状態を作出していた侵害コンテンツに誘導する行為であるから,リンクの貼付けと同様の規律に服するべきである。
このような行為類型は,令和2年6月5日に改正された著作権法113条2項1号・2号,120条の2第3号によって初めて処罰されるようになったもので,同改正前の著作権法が適用される本件において,これを処罰することはできない。
「当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」の該当性
次に、弁護人は、「当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」るとの構成要件について、同構成要件は、「自動公衆送信装置」(サーバ)に加えられていない「記録媒体」(ディスク)を「当該自動公衆送信装置」(漫画村のサーバ)に加えることを意味するところ、第三者サーバは独立のサーバであるから、「記録媒体」ではなく、また、被告人は、第三者サーバを物理的に漫画村のサーバに加えることもしていないとして、同構成要件に該当しないと主張しました。
「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」るとは,自動公衆送信装置と物理的に接続していない外部記録媒体を当該自動公衆送信装置に組み込み,又はこれと物理的に接続させることをいう。
第三者サーバは,被告人とは無関係の第三者が設置した誰でもアクセスできるサーバコンピュータであるから,これを記録媒体と評価することはできず,また,被告人は,第三者サーバを漫画村のサーバに物理的に組み込んだり,接続したりしていない。
よって,被告人の行為は記録媒体を加える行為に当たらない。
「当該自動公衆送信装置に情報を入力」の主体の該当性
さらに、弁護人は、「当該自動公衆送信装置に情報を入力」との構成要件について、リバースプロキシを介して第三者サーバから漫画村サーバへのデータ送信を要求するのはユーザであることから、被告人は「当該自動公衆送信装置に情報を入力」していないとして、同構成要件に該当する行為の主体ではないと主張しました。
漫画村のサーバに情報を入力する行為を行うのは,直接には,漫画村にアクセスした利用者であって,被告人ではない。リバースプロキシの設定を行っても,漫画村を訪れたユーザが表示させない限り,漫画村のサーバに情報は入力されない。よって,被告人の行為は「当該自動公衆送信装置に情報を入力」したことに当たらない。
判旨
自動公衆送信装置の認定
判決は、まず、以下のとおり述べ、「送信可能化」とは、著作権法2条1項9号の5に定められた方法で自動公衆送信をし得るようにする行為をいうとし、また、自動公衆送信装置についてもその定義を述べました。
送信可能化とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力するなど,著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の方法により自動公衆送信し得るようにする行為をいい,自動公衆送信装置とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう(著作権法2条1項9号の5)。
その上で、判決は、漫画村のサーバは、自動公衆送信装置に該当すると認定しました。
漫画村のサーバは,インターネット回線に接続し,その記録媒体に記録された漫画の画像データや,第三者サーバから送信された漫画等の画像データを,公衆からの求めに応じ自動的に送信するものであるから,自動公衆送信装置に該当する。
記録媒体の認定
次に、判決は、以下のとおり、リバースプロキシの設定により、漫画村のサーバはユーザの要求に応じて第三者サーバからデータを取得し、これを送信することになることから、第三者サーバの記録媒体のうち漫画のデータが記録された部分は、機能的に見て漫画村のサーバに接続された「記録媒体」と評価できると認定しました。
認定したリバースプロキシの働きによれば,漫画村のサーバにリバースプロキシの設定をすることにより,漫画村のサーバは,閲覧者から画像閲覧のリクエストを受けるとその画像データを第三者サーバにリクエストし,第三者サーバからその画像データの送信を受け,受け取った画像データを閲覧者に返信することになる。
これによると,第三者サーバ内部にある記録媒体のうち漫画村のサーバに送信する画像データを記録保存している部分は,自動公衆送信装置たる漫画村のサーバに画像データを供給する働きをするものと認められ,機能的にみて,漫画村のサーバに接続された記録媒体に当たると評価できる。
公衆送信用記録媒体として「加える」行為の認定
さらに、判決は、以下のとおり、上述のようなリバースプロキシの設定は、第三者サーバの記録媒体を漫画村のサーバの公衆送信用記録媒体として「加える」行為に該当すると認定しました。
上記の漫画村のサーバと第三者サーバの記録媒体との関係は,被告人が漫画村のサーバにリバースプロキシの設定をすることにより生じたことによれば,同行為は,情報が記録された第三者サーバの記録媒体を漫画村のサーバの公衆送信用記録媒体として「加え」る行為に該当すると認められる。
この点について、弁護人は、被告人は物理的に記録媒体を加えたわけではないから「加えた」に該当しないと主張していたところ、判決は、「加える」行為は物理的に接続する場合に限られないとして、この主張を排斥しました。
同条(注:著作権法2条1項9号の5イ)の文理解釈において,「加え」る行為を物理的に接続する場合に限定すべき合理的理由はな・・・い。
「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」の該当性
以上に加えて、判決は、「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」との構成要件についても検討し、まず、以下のとおり、第三者サーバから漫画村のサーバにデータが送信され、漫画村のサーバに保存されることなくユーザに送信されるのは、漫画村のサーバ、すなわち、「当該自動公衆送信装置」への「入力」にあたるとしました。
第三者サーバに記録保存されていた漫画等の画像データは,閲覧者のリクエストに応じて漫画村のサーバに入力されるものの,漫画村のサーバには記録保存されることなく,そのまま自動公衆送信されていた。
これは,著作権法2条1項9号の5イにいう「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」ことに当たる。
弁護人が問題にしていた「入力」の主体の問題について、判決は、送信可能化は、そもそも準備行為を規制するものであることを理由に、リバースプロキシを設定し、情報を自動的に入力する状態を作出した被告人が「入力」の主体であるとしました。
著作権法が,自動公衆送信とは別に,送信可能化を規制対象として規定した趣旨は,現に自動公衆送信が行われる前の準備段階の行為を規制することにある。そして,送信可能化が,公衆からの求めに応じて自動的に送信する機能を有する自動公衆送信装置の使用を前提としていることに鑑みると,情報入力の主体は,閲覧のリクエストをした個々の閲覧者ではなく,情報を自動的に入力する状態を作り出した者と解するのが相当である。
本件において,情報を自動的に入力する状態を作り出したのは,漫画村のサーバにリバースプロキシの設定をした被告人であるから,行為主体は被告人と認められる。
リバースプロキシとリンクの相違
弁護人が、リバースプロキシの作用はリンクに近いとした点について、判決は、以下のとおり、リバースプロキシは、アクセスされたサーバ自身がオリジンサーバからデータを取得して送信する点においてリンクとは異なる旨述べました。
リバースプロキシとリンクの貼付けとの異同についてみると,関係証拠によれば,リバースプロキシの設定は,いわゆるリンクの貼付けとは違い,リバースプロキシを設定されたサーバが,オリジンサーバが管理する別のウェブサイトへの遷移を伴わずに,ユーザーが閲覧をリクエストした画像データ自体をオリジンサーバから取得して,受信者に対し,当該画像データそのものを送信するものである。
この行為が著作権法の定める送信可能化に該当することは既に検討したとおりであり,データ自体を送信せず,インターネット上の侵害コンテンツの所在(URL)を表示するにすぎないリンクの貼付けとは,行為態様を全く異にしている。当該行為が,今般の法改正によって初めて可罰性を認められたと解することはできず,その旨の弁護人の主張は採用できない。
なお、ここで判示されたリンクの問題は、判決文での記載を見る限り、弁護人が、リバースプロキシは新たに自動公衆送信することができる状態を作出するのではなく、もともと第三者サーバに存在し、自動公衆送信が可能になっていたデータをオリジンサーバから取得して漫画村のサーバから送信するものであることから「自動公衆送信し得るようにすること」との構成要件に該当しないとの主張の文脈で現れたものでした。そのため、本来、判決は、弁護人の主張を排斥するためには、単にリバースプロキシとリンクの相違を認定するのみならず、新たに自動公衆送信することができる状態を作出するものではなくとも「自動公衆送信し得るようにすること」に該当し得ることを論じる必要があるはずです。
この点について、判決は、引用したとおり、「この行為が著作権法の定める送信可能化に該当することは既に検討したとおりであり」と述べるものの、これに相当する判示は見受けられないように思われます。
結論
判決は、上記認定判断の結果、求刑が懲役4年6月及び罰金1000万円と6257万1336円の追徴であったのに対し、被告人を懲役3年の実刑及び罰金1000万円に処するとともに、検察官が求めた額の追徴を命じました。
量刑の理由としては、「職業的犯行であり、いずれも我が国における著作物の収益構造を根底から破壊し、文化の発展をも現実に阻害しかねない危険を孕んでいる」といったことなどが考慮されています。
コメント
本判決は、漫画村事件という、世間の耳目を集めた事件に対するものであるものの、刑事事件に対する下級審判決であるため、著作権法の解釈としてどの程度の先例価値があるかは不明です。
もっとも、リバースプロキシのような仕組みを用いて、既存の違法コンテンツを自ら配信する場合に、送信可能化における記録媒体を「加える」行為や、自動公衆送信装置への「入力」行為の主体について、どの程度規範的認定が可能かを考える上で参考になるものと思われます。
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(文責・飯島)