知的財産高等裁判所第2部(森義之裁判長)は、令和2年2月12日、「レインボーストーブ」と称される石油ストーブの燃焼筒内に現れる炎の虚像に関する位置商標が商標法3条1項3号に該当し、同条2項に該当しないとした審決判断を不服とする原告の主張を退け、審決取消請求を棄却しました。

ポイント

骨子

  • 商品等の形状は、同種の商品が、その機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り、普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当すると解するのが相当である。
  • 本願商標のように立体的形状からなる位置商標が使用により自他商品識別力を獲得したといえるかどうかは、当該商標の形状、その使用期間及び使用地域、当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。

判決概要(審決概要など)

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和2年2月12日
事件番号 令和元年(行ケ)第10125号 審決取消請求事件
出願商標 商願2016-9831号
審決番号 不服2018-7479号
裁判官 裁判長裁判官 森   義 之
裁判官    佐 野   信
裁判官    熊 谷 大 輔

解説

商標登録の要件(商標法3条1項)

商標法3条1項は、以下の通り、商標登録の要件を定めています。

商標法第3条(商標登録の要件)
1 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

商標法3条1項各号に該当する商標については、原則として、商標登録を受けることができません。

仮に、商標登録されたとしても、商標法3条1項各号に該当する場合には、登録異議の申立て(商標法43条の2・1号)や商標登録無効審判(同46条1項1号)の対象となります。

商品の産地、品質その他の特徴等の表示(商標法3条1項3号)

商品の産地・品質・原材料・形状等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標については、原則として、商標登録を受けることができません(商標法3条1項3号)。

商標が、指定商品の形状(指定商品の包装の形状を含む)そのものの範囲を出ないと認識されるにすぎない場合は、その商品の「形状」を表示するものと判断されます(商標審査基準第1-五-4-⑴)。

また、商品・役務の取引の実情を考慮し、その標章の表示の書体や全体の構成等が、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なものである場合には、同号の「普通に用いられる方法で表示する」には該当しないものと判断されます(商標審査基準第1-五-5)。

使用による識別性の獲得(商標法3条2項)

商標法3条2項は、以下の通り、同法1項3号から5号までに該当する商標であっても、使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、商標登録を受けることができることを定めています。

商標法第3条(商標登録の要件)
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

本項の「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」とは、何人かの出所表示として、その商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されているものをいうとされます(商標審査基準第2-2-⑴)。

需要者の認識の程度については、商標審査基準において、以下の通り、考慮事由や証拠方法が整理されています。

商標審査基準第2-2-⑵⑶
考慮事由について
本項に該当するか否かは、例えば、次のような事実を総合勘案して判断する。
なお、商標の使用状況に関する事実については、その性質等を実質的に把握し、それによってその商標の需要者の認識の程度を推定する。
① 出願商標の構成及び態様
② 商標の使用態様、使用数量(生産数、販売数等)、使用期間及び使用地域
③ 広告宣伝の方法、期間、地域及び規模
④ 出願人以外(団体商標の商標登録出願の場合は「出願人又はその構成員以外」とする。)の者による出願商標と同一又は類似する標章の使用の有無及び使用状況
⑤ 商品又は役務の性質その他の取引の実情
⑥ 需要者の商標の認識度を調査したアンケートの結果

証拠方法について
本項に該当するか否かの事実は、例えば、次のような証拠により立証する。
① 商標の実際の使用状況を写した写真又は動画等
② 取引書類(注文伝票(発注書)、出荷伝票、納入伝票(納品書及び受領書)、請求書、領収書又は商業帳簿等)
③ 出願人による広告物(新聞、雑誌、カタログ、ちらし、テレビCM等)及びその実績が分かる証拠物
④ 出願商標に関する出願人以外の者による紹介記事(一般紙、業界紙、雑誌又はインターネットの記事等)
⑤ 需要者を対象とした出願商標の認識度調査(アンケート)の結果報告書(ただし、実施者、実施方法、対象者等作成における公平性及び中立性について十分に考慮する)

また、位置商標については、商標審査基準において、以下の通り、商標法3条2項の適用の有無の例示がなされています。

商標審査基準第2-8
位置商標について
(1) 本項の適用が認められる例
使用商標中に、出願商標以外の標章が含まれているが、出願商標部分のみが独立して自他商品・役務の識別標識として認識されると認められる場合。
(2) 本項の適用が認められない例
使用商標が、出願商標と相違する場合(標章の相違、標章の位置の相違)。

審決に対する不服申立

特許庁の審決に不服がある場合には、以下の通り、審決謄本の送達日から30日以内に、知的財産高等裁判所に対して、審決取消訴訟を提起することができます。

商標法第63条(審決等に対する訴え)
1 取消決定又は審決に対する訴え、第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する第十六条の二第一項の規定による却下の決定に対する訴え及び登録異議申立書又は審判若しくは再審の請求書の却下の決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする。
2 特許法第百七十八条第二項から第六項まで(出訴期間等)及び第百七十九条から第百八十二条まで(被告適格、出訴の通知等、審決取消訴訟における特許庁長官の意見、審決又は決定の取消し及び裁判の正本等の送付)の規定は、前項の訴えに準用する。この場合において、同法第百七十九条中「特許無効審判若しくは延長登録無効審判」とあるのは、「商標法第四十六条第一項、第五十条第一項、第五十一条第一項、第五十二条の二第一項、第五十三条第一項若しくは第五十三条の二の審判」と読み替えるものとする。

特許法第178条(審決等に対する訴え) *抜粋
2 前項の訴えは、当事者、参加人又は当該特許異議の申立てについての審理、審判若しくは再審に参加を申請してその申請を拒否された者に限り、提起することができる。
3 第一項の訴えは、審決又は決定の謄本の送達があつた日から三十日を経過した後は、提起することができない。
4 前項の期間は、不変期間とする。
6 審判を請求することができる事項に関する訴えは、審決に対するものでなければ、提起することができない。

本件は、原告の商標登録出願に対する拒絶査定について不服審判請求を行ったものの、特許庁より請求不成立の審決がなされたことから、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起したものです。

事案の概要

原告商標の詳細は以下の通りです。

<原告商標>
指定商品区分:第11類 石油ストーブ

商標の詳細な説明:
商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という)は、商標を付する位置が特定された位置商標であり、石油ストーブの燃焼部が燃焼する時に、透明な燃焼筒内部の中心領域に上下方向に間隔をあけて浮いた状態で現れる3つの略輪状の炎の虚像からなる。図に示す黒色で示された3つの略輪状の部分が、炎の虚像を示しており、赤色で示された部分は石油ストーブの燃焼部が燃焼していることを示している。なお、青色及び赤色で示した部分は、石油ストーブの形状等の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。

原告は、平成28年1月29日に、上記の位置商標について商標登録出願(商願2016-9831号)をしましたが、平成30年2月27日付けで拒絶査定を受けたため、同年6月1日に、不服審判請求をしました(不服2018-7479号)。
これに対し、特許庁は、原告商標は商標法3条1項3号に該当し、かつ、同条2項には該当しないものとして、令和元年8月20日に、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という)をし、同審決謄本は同月30日に原告に送達されました。

判旨

商品等の形状の商標法3条1項3号該当性

裁判所は、商品等の形状の商標法3条1項3号該当性について、以下の通り、判断基準を示しました。

同号(商標法3条1項3号)掲記の標章は、商品の産地、販売地その他の特性を表示、記述する標章であって、取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合、自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないことから、登録を許さないとしたものである。

同号(商標法3条1項3号)掲記の標章のうち商品等の形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえるのであり、需要者としても、商品等の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
また、商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は、同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から適切でないといえる。

したがって、商品等の形状は、同種の商品が、その機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り、普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、同号(商標法3条1項3号)に該当すると解するのが相当である。

このように、裁判所は、商品等の形状については、同種の商品が機能上・美感上の理由から採用すると予測される範囲を超える等の特段の事情のない限り、「普通に用いられる方法」で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当するものとの判断基準を示しました。

そのうえで、裁判所は、原告商標について、「三つの略輪状の炎の立体的形状」(本願形状)を付する位置が特定された位置商標であるとの前提のもと、その形状は美感を向上させるものであり、かつ、暖房効果を高める機能を有するものと認定し、以下の通り、同種の商品が機能上・美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えるものではなく、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であるとして、商標法3条1項3号に該当するものと判断しました。

そうすると、本願形状は、その機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えているものということはできず、本願形状からなる位置商標である本願商標は、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であると認められる。
したがって、本願商標は、商標法3条1項3号の商標に該当するというべきである。

商標法3条2項該当性

裁判所は、以下の通り、機能上・美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えるものでなく、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であっても、使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合は、商標法3条2項により、商標登録を受けることができることを前提に、立体的形状からなる位置商標の同項該当性の判断基準を示しました。

本願形状は、その機能又は美感上の理由から採用すると予想される範囲を超えるものではないから、本願商標は、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標というべきであるが、このような商標であっても、使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合は、商標法3条2項により、商標登録を受けることができる。

そして、本願商標のように立体的形状からなる位置商標が使用により自他商品識別力を獲得したといえるかどうかは、当該商標の形状、その使用期間及び使用地域、当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。

このように、裁判所は、立体的形状からなる位置商標の商標法3条2項該当性については、以下の事情を総合考慮して判断するとの考えを示しました。

  • 当該商標の形状
  • その使用期間及び使用地域
  • 当該商標が付された商品の販売数量
  • その広告の期間及び規模
  • 当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否などの事情

特許庁の商標審査基準が示す考慮事由とも合致するものといえます。

そのうえで、原告商標について、以下の通り、かかる判断基準に当てはめて、商標法3条2項該当性を検討しました。

(販売数量・形状について)

自然通気形開放式ストーブ(対流形石油ストーブと反射形石油ストーブ)に占める原告使用商品の販売シェアを見るに、平成23年度以降の平均シェアは2%程度であり、石油ストーブ全体から見ると、そのシェアはさらに低いものとなる。また、原告使用商品の出荷台数も、平静24年度以降の平均は約2万9000台と決して多いとはいえない。
本願形状は、原告使用商品を使用していないときは現れないのであるから、店頭で石油ストーブを選び、購入しようとして来店した者は、展示されている原告使用商品を見ただけでは本願形状を認識することはできず、このような本願商標の特殊な事情から、需要者が本願商標を認識する機会は限定されるということができる。
また、前記1で判示したことからすると、本願形状は、美感や機能の観点から採用されたと認識され、そのような点に着目されるものといえる。

(広告の期間・規模について)

原告使用商品のテレビでの広告は、平成24年10月~12月までの間に三つの番組で広告されたのみであって、極めて少なく、原告使用商品がテレビ番組で取り上げられたのも5回だけであり、新聞や雑誌等で紹介されたのも前記ア(ケ)の程度であって、多いとはいい難い。
また、平成27年12月1日には、原告使用商品の広告がヤフートップページに掲載されたが、同広告が継続的にされたと認めるに足りる証拠はない。
さらに、原告カタログの頒布方法、頒布地域及び頒布枚数は不明であり、原告ウェブサイトにおける原告使用商品の広告も、他の石油ストーブの同種広告に比較して規模が大きかったり、注目を集めるような特別な工夫がされているなどの事情は認められないから、同広告に大きな効果があるということもできない。

原告使用商品は、楽天サイト、Amazonサイト及び価格サイトの各種ランキングにおいて上位にランクインしており、また、同ページの原告使用商品の欄の商品名等は、原告使用商品の使用時の写真や原告使用商品についてのレビューが掲載されているページに移ることができるリンクボタンとなっていることから、同ランキングページで商品を検索した者には、本願形状の詳細や高評価のレビューを認識する機会があったといえるが、同ランキングページを閲覧したとしても、原告使用商品に興味を持たなければ、リンクボタンを押して本願形状の詳細や高評価のレビューを認識することはない。そして、リンクボタンを押してそれらを認識した者の数は不明である。

原告使用商品の使用時の写真が石油連盟の広告に使用され、同広告は、新聞や雑誌に掲載され、また、地下鉄の駅のホーム等で掲示されていたが、同広告には、同写真の商品が原告使用商品であることの説明はないから、同写真を見た者が同写真に写っている本願形状の出所を認識することはできない。そうすると、同広告が本願商標の自他商品識別力の獲得に格別寄与するということはできない。

YouTubeサイトにおいて、「トヨトミ レインボー」という文字で検索した結果、原告使用商品が使用されている状態の映像が多数検索されたことから、同サイトには、原告使用商品の使用状況の動画が多数掲載されていることが認められるが、「トヨトミ レインボー」という文字以外で検索した場合にどの程度上記各動画を閲覧することができたかは明らかでないから、上記各動画は、原告使用商品を知らない者に対して本願商標を認識させる効果が高かったということはできないし、また、それらの動画の再生回数が多数回に及んでいるとしても、それらの再生が、その動画の商品が原告の商品として識別されることにどの程度結び付いているかは明らかでない。

このように、裁判所は、原告の主張も踏まえて、インターネット上の広告やショッピングサイト、YouTubeでの取り扱いにまで触れたうえで、以下の通り、同様の形状を有する他の商品が存在せず、原告商標を使用した商品がグッドデザイン賞を受賞したことを考慮してもなお、原告商標について原告の事業にかかる商品であることを認識することができるとまで認めることはできない、と判断しました。

以上の事情からすると、本願形状を有する商品である原告使用商品が約30年もの長期間販売されており、OEM商品を除いて本願形状を有する他の商品は存在しないこと、本願形状は、比較的特徴的であるといえること、原告使用商品は、グッドデザイン賞を受賞したことを考慮しても、本願商標について原告の事業に係る商品であることを認識することができるとまで認めることはできないというべきである。

そして、原告商標について商標法3条2項に該当するものではないとした本件審決の判断に誤りはない、としました。

以上のとおり、商標法3条2項該当性についての本件審決の判断に誤りはないから、原告の取消事由2についての主張は理由がない。

結論

このように、裁判所は、原告商標について、商標法3条1項3号に該当し、かつ、同条2項に該当しないとした本件審決の判断には誤りがなく、原告の請求には理由がないものとして、以下の通り、原告の請求を棄却しました。

以上の次第で、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

コメント

本件は、商品等の形状に関する位置商標について、商標法3条1項3号該当性、同法3条2項該当性が争われた事案です。
商品等の形状に関する商標法3条1項3号該当性や立体的形状からなる位置商標の同条2項該当性の判断基準や当てはめ等、実務上参考になるものとして紹介します。

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(文責・平野)