商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。商標審決アップデートでは、定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきます。 
  
今回は、パロディ商標に関する審決、不正な目的で剽窃的に出願された商標に関する審決、歴史上の人物名に関する審決、種苗法に関する審決等、興味深い審決や異議の決定を取り上げております。 

異議2018-900303(THE TIRAMISU HERO+図形/公序良俗違反)

審決分類

商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)

商標及び指定商品・役務

本件商標:

指定商品:第30類「茶,コーヒー,ココア,ティラミス,パン,パンケーキ,ケーキ,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,角砂糖,果糖,氷砂糖,麦芽糖,はちみつ,ぶどう糖,粉末あめ,水あめ,パンケーキ用シロップ,穀物の加工品,パンケーキの生地,ケーキ生地,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ,パンケーキのもと,ケーキのもと,即席菓子のもと」等

引用商標:
使用商品:「ティラミス」

結論

登録第6073226号商標の指定商品及び指定役務中、第30類「全指定商品」、第35類「全指定役務」及び第43類「全指定役務」についての商標登録を取り消す。

本件商標は、その指定商品及び指定役務中、第30類「全指定商品」、第35類「全指定役務」及び第43類「全指定役務」について、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。

審決等の要点

本件商標は、申立人らが採択して使用している、独創的な特徴を有する手書き風の「THE TIRAMISU HERO」の欧文字及びその上部に配された猫図形から構成される引用商標とほぼ同一又は酷似するものである。

申立人らは、シンガポールにおいて、2013年7月に申立人商品を提供する「The Tiramisu Hiro Cafe」を開始し、我が国においては、2013年8月から申立人商品の販売を開始したことがうかがわれ、2014年1月から百貨店等と取引販売を開始し、遅くとも、2014年1月から百貨店の期間限定の催事に出店を開始し、その後も、継続的に期間限定の催事に出店していることがうかがわれる。 そして、引用商標は、株式会社ティラミスヒーロージャパンのウェブサイトに、2013年7月から表示され、2014年11月14日、2015年3月23日付け等のウェブサイトにおける上記百貨店等の期間限定の催事への出店記事において引用商標が表示され、また、当該催事のポスター等や広告チラシにおいて、引用商標が表示されたことが認められるところ、上記日付けは、いずれも本件商標の登録出願前である。

本件商標は、その指定商品及び指定役務中に、「ティラミス」を含む第30類に属する商品並びに「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」及び「菓子・パンを主とする飲食物の提供,飲食物の提供」を含む第35類及び第43類に属する役務を指定役務とするものであり、申立人商品と同一の「ティラミス」を含む食品及び飲食物に関連する商品及び役務を指定商品及び指定役務に含むものである。

申立人商品が本件商標の登録出願時及び登録査定時において、すでに我が国において、シンガポールからきた人気商品であることを宣伝文句として、百貨店等の催事において販売されていたこと、及び申立人商品が雑誌において人気商品として紹介され、テレビにおいても紹介されたこともうかがえることから、申立人商品は、我が国においてある程度知られていたものといえる。

そして、本件商標は、欧文字及びその上部に配された猫図形から構成される極めて特徴的な引用商標とほぼ同一又は酷似するといえるものであり、商標権者が引用商標を知り得ることなく、両者が偶然に一致したとは想定し難く、むしろ、引用商標が株式会社ティラミスヒーロージャパンのウェブサイト、催事に関するウェブサイト記事、ポスターやチラシ等において表示されていたことからすれば、引用商標は、何人も容易に知り得る状況にあったものといえることから、商標権者は、引用商標の存在を知った上で、これが商標登録出願及び商標登録されていないことを奇貨として、不正な目的をもってひょう窃的に出願したものと優に推認できるものである。

このような行為に係る本件商標は、「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」に該当するものというべきである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

コメント

本件商標が異議申立人に無断で出願され、登録されたことはテレビ等でも報道されましたので、ご存知の方も多いかと思います。上記異議の決定のとおり、本件商標の登録出願の経緯には社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合に該当するため、商標法第4条第1項第7号に該当すると判断されております。本件のように、登録された商標が図案化されたものであり、それが引用商標(使用商標)と一致する態様であれば、不正な目的をもってひょう窃的に出願されたものであると推認される可能性が高いと考えられます。

無効2019-890021(KUMA/パロディ商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)
商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)
商標法第4条第1項第15号(商品又は役務の出所の混同)
商標法第4条第1項第19号(不正目的の出願)

商標及び指定商品・役務

本件商標:      
指定商品:第25類「ティーシャツ,洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,キャミソール,和服,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ナイトキャップ,帽子,その他の被服,リストバンド,その他の運動用特殊衣服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊靴」

被請求人商標(参考):

引用商標7:      
指定商品:第25類「履物」等
※他の引用商標については省略

結論

登録第5661816号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。

本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。

審決等の要点

請求人は、「PUmA」の文字をプーマ社のブランドとしてスポーツウェアに使用し、我が国においては、1972年から靴、バッグ、アクセサリー等について、製造・販売してきたこと、かつ、引用商標を付したスウェットシャツ、ジャケット、スポーツシューズ等を、少なくとも2006年には、雑誌において掲載してきたことが認められ、また、2010年ないし2013年における「プーマ」ブランドの売上高も堅調に推移しており、「アスレチックウエア国内出荷金額」及び「サッカー・フットサルウエア国内出荷金額」においても上位を占めているところである。してみれば、引用商標は、本件商標の登録出願時には既に、同人の業務に係るスポーツシューズ、スポーツウェア等を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっており、それは本件商標の登録査定時及びそれ以降も、継続していたと認められるものである。

本件商標は、縦線を太く、横線を細くした独特の太く四角い書体で、「KUmA」の欧文字をロゴ化して(「U」の縦線の内側は、その一部をくり貫くようにして中央の空白部分に重なるように北海道の地形の一部と思しき図形を表されている。)、当該欧文字全体で略横長の長方形を構成するように表してなるものである。本件商標は、ロゴ化した「KUmA」の欧文字から構成されるものであるから、これに相応して「クマ」の称呼を生じるものである。また、「KUmA」は辞書類に載録のない語であるところ、該文字の読みに通じる語として「熊」が親しまれたものであるといえるから、ネコ目クマ科の哺乳類である「熊」を想起し、当該観念を生じる場合があるものの、一義的ではなく、常に上記特定の観念が生じるとまではいえないものである。

引用商標は、縦線を太く、横線を細くした独特の太く四角い書体で、「PUmA」の欧文字をロゴ化して、当該欧文字全体で略横長の長方形を構成するように表してなるものである。引用商標は、ロゴ化した「PUmA」の欧文字から構成されるものであるから、これに相応して「プーマ」又は「ピューマ」の称呼を生じるものである。また、「puma」が「ネコ科の哺乳類」を意味する語(参照:「広辞苑第六版」株式会社岩波書店)であるから、引用商標の構成文字に相応して、ネコ科の哺乳類である「ピューマ」の観念を生じるものである。

商標法第4条第1項第11号該当性について
まず、両商標の外観についてみるに、共に4個の欧文字が、垂直方向に肉太で線を強調し、縦長の書体で横書きされ、それらの文字全体で略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表されており、文字つづりも、第2文字以降が配列も含め全てを同じくするものである。そうすると、たとえ両商標の第1文字が相違し、本件商標の第2文字「U」の曲線内側部分の一部に図形が施されているとしても、両商標は、上記共通性によって生じる共通の印象、すなわち、独特な書体からなる欧文字が略横長の長方形内にはめ込まれたような態様であるとの印象をもって、これを顕著な特徴として需要者に認識させるものであるというのが相当である。したがって、両商標は、外観上酷似した印象を与えるものということができ、相紛れるおそれがあるものである。

次に、両商標の称呼についてみるに、第1音における相違があるが、第1音の母音が「u」である点と第2音が「マ」であるという点が共通するところ、全体が短い構成音数の称呼において、前半における相違が称呼全体に及ぼす影響は決して小さくはないといえる一方、後半における共通性も称呼全体に及ぼす影響が少なからず認められるといえる。よって、上記を勘案すると、両者は、称呼上全く異なるとはいえないものの、相当程度聴別し得るものである。

さらに、観念については、本件商標から「熊」の観念が生じた場合には、両商標は哺乳類の四足動物という点で相紛れるおそれが否定できないともいい得るが、本件商標からは常に特定の観念が生じるともいい得ないものであるから、引用商標とは、観念上、比較できないものである。

以上を踏まえ検討するに、本件商標と引用商標とは、称呼において相紛れるおそれがあるとまではいえず、観念において比較できないものであるが、外観においては、その特徴的な態様が看者に強く印象づけられ、酷似した印象を与えるものであって、相紛れるおそれがあるものであるから、本件商標と引用商標の外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、前述の外観上の特徴を有する引用商標の周知著名性に係る事情をも勘案して、全体的に考察すれば、両商標は、類似の商標といえるものである。

以上のとおり、本件商標は、引用商標と類似する商標であり、かつ、引用商標7、8及び10の指定商品と同一又は類似する商品について使用をするものであるといえるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。

商標法第4条第1項第15号該当性について
前記のとおり、本件商標と引用商標とは、欧文字のロゴ化においてその文字を構成する線の一部が図案化されているか否かなどにおいて異なるが、縦長で肉太に表された4つの欧文字から受ける印象が近似するもので、かつ、文字全体が略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表された点で共通の印象を与える。
したがって、本件商標と引用商標との間に外観上の差異は認められるものの、その全体の印象は、相当似通ったものであるということができる。

また、前記のとおり、本件商標と引用商標とは、その称呼及び観念において同一ではないものの、四足動物という点で観念上の共通性が生じる場合があり、称呼上も共通性を有するから、それらにおいて全く共通性を有しない場合に比して、称呼及び観念における差異は、特徴的な態様をもって看者に強く印象づけられる上記外観における類似性を凌駕するほどの違いとまではいうことができない。
以上からすると、本件商標と引用商標とは、相当程度類似性の程度が高いものであるということができる。

前記のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時には既に、請求人の業務に係るスポーツシューズ、スポーツウェア等を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっており、それは本件商標の登録査定時及びそれ以降も、継続していたと認められるものである。また、引用商標は、略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表した独特の太く四角い書体として独創的であり、需要者に強い印象を与えるものである。

本件商標は、ティーシャツ、洋服等の被服、運動用特殊衣服、履物、運動用特殊靴等を指定商品とするところ、引用商標は、前記のとおり、スウェットシャツ、ジャケット、スポーツシューズ等に付されてきたのであるから、本件商標の指定商品は、請求人の業務に係る商品と、その性質、用途、目的において関連するということができ、取引者、需要者にも共通性が認められる。さらに、本件商標の指定商品である上記商品等は、一般消費者によって購入される商品である。

以上、前述の本件商標と引用商標の類似性の程度、引用商標の周知著名性及び独創性の程度に、これらの事情を総合考慮すると、本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、本件商標を指定商品に使用したときに、当該商品が請求人又は請求人と一定の緊密な営業上の関係若しくは請求人と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあると認められる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。

商標法第4条第1項第19号該当性について
引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時に請求人の業務に係るスポーツシューズ、スポーツウェア等を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されている商標となっており、本件商標は、引用商標と類似の商標である。また、以下で述べるとおり、本件商標は、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって使用をするものといわざるを得ない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、引用商標と類似するもの又は類似性の程度の高いものであって、出所の誤認混同のおそれがあると認められるものである。そして、請求人がスポーツシューズ、被服、バッグ等を世界的に製造販売している多国籍企業として著名であり、引用商標が請求人の業務に係る商品を表示する独創的な商標として取引者、需要者の間に広く認識され、本件商標の指定商品には引用商標が使用されている商品が含まれていることが認められる。さらに、被請求人は日本観光商事株式会社のライセンス管理会社であるが(主張の全趣旨)、日本観光商事株式会社は、被請求人商標や欧文字4つのロゴにピューマの代わりに馬や豚を用いた商標、他の著名商標の基本的な構成を保持しながら変更を加えた商標を多数登録出願したこと、商品販売について著作権侵害の警告を受けたこともあることが認められる。これらの事実を総合考慮すると、被請求人商標については、日本観光商事株式会社はPUMA商標の著名であることを知り、意図的にPUMA商標と略同様の態様による4個の欧文字を用い、PUMA商標のピューマの図形を熊の図形に置き換え、全体としてPUMA商標に酷似した構成態様に仕上げることにより、被請求人商標に接する取引者、需要者にPUMA商標を連想、想起させ、PUMA商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的で採択・出願し登録を受け、被請求人は上記の事情を知りながら被請求人商標の登録を譲り受けたものと認めることができる。

そして、本件商標は、平成25年判決後に被請求人が出願し登録を受けたものであるところ、前述のとおり引用商標と類似するもの又は商標の印象が相当似通った類似性の程度が高いものであって、出所の誤認混同のおそれのあるものであるから、本件商標をその指定商品に使用する場合には、引用商標の出所表示機能が希釈化(ダイリューション)され、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力、ひいては請求人の業務上の信用を毀損させるおそれがあるということができる。

そうすると、本件商標は、たとえ平成25年判決の対象となった被請求人商標に変更を加えているとしても、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって引用商標の特徴を模倣して出願し登録を受けたものといわざるを得ず、商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護するという商標法の目的(商標法1条)に反するものであり、公正な取引秩序を乱し、商道徳に反するものというべきである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

コメント

本件審決で述べられている平成25年判決というのは、熊図形と組み合わされた上記被請求人商標(参考)「KUMA」が著名な商標「PUMA」と出所の混同が生じ(商標法第4条第1項第15号)、また、公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)であると判断された裁判例です。被請求人は、当該判決後、「KUMA」のロゴに少し変更を加えて本件商標を出願し、登録を受けましたが、当該判決と同様に、PUMA商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的で採択・出願し登録を受けたものであり、引用商標の出所表示機能が希釈化(ダイリューション)され、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力、ひいては請求人の業務上の信用を毀損させるおそれがあると判断され、登録無効となっております。

異議2018-900264(プーマライン図形/図形商標の類否、出所の混同)

審決分類

商標法第4条第1項第15号(出所の混同)

商標及び指定商品・役務

本件商標:
指定商品:第25類「被服,ジャージー製被服,洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,キャミソール,ティーシャツ,スポーツシャツ,和服,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ナイトキャップ,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,スポーツシューズ,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

引用商標3:
指定商品:第25類「履物」等
※他の引用商標は省略

結論

登録第6054090号商標の商標登録を取り消す。

本件商標の登録は、商標第4条第1項第15号に違反してされたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。

審決等の要点

(1)引用商標の周知著名性について
引用商標1ないし4、6、7及び10は、遅くとも1970年(昭和45年)から申立人の業務に係るスポーツシューズに使用をされ、当該スポーツシューズは、各国のサッカーや陸上のトップアスリートに着用されると共に、スポーツ雑誌、業界新聞、インターネット上のウェブサイトといった多くのメディアにおいて、広告宣伝され紹介されてきたものである。そして、申立人関連会社の業務に係るスポーツ用品の売上高、出荷額及び市場占有率をも考慮すれば、引用商標1ないし4、6、7及び10は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、取引者、需要者の間に広く認識されていたものと判断するのが相当である。

(2)引用商標の独創性について
引用商標1ないし4、6、7及び10は、いずれも、幅の広い底辺から右上に向かって緩やかにカーブしつつ伸び上がり、徐々に細長くなっていく特徴的な図形からなるものであるから、その独創性は高いものといえる。

(3)本件商標と引用商標との類似性について
本件商標は、下側にやや膨らんだ幅の広い底辺から右上に向かって緩やかにカーブしつつ伸び上がり、徐々に細長くなっていく図形からなるものであるそうすると、本件商標と前記(2)において示した特徴を有する引用商標1ないし4、6、7及び10とは、幅の広い底辺から右上に向かって緩やかにカーブしつつ伸び上がり、徐々に細長くなっていくという特徴を共通にするものであるから、両者の類似性の程度は高いといえる。

(4)本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品との間の関連性、需要者の共通性その他取引の実情について
本件商標の指定商品には、申立人の業務に係る商品である「スポーツシューズ」が含まれている。これらの商品はいずれも日常的に使用されるものであり、また、その需要者は、一般の消費者であるといえる。そうすると、本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品とは関連性が高く、その需要者を共通にしているといえる。そして、需要者が一般の消費者であることからすれば、取引の際に払われる注意力はさほど高いとはいえない。さらに、本件商標の指定商品には、被服、靴下、帽子、運動用特殊衣服、運動用特殊靴などが含まれており、これらの商品には、商標をワンポイントマークとして表示されることも多いものといえる。

このように、本件商標がワンポイントマークとして表示される場合などを考えると、ワンポイントマークは、比較的小さいものであるから、そもそも、そのような態様で付された商標の構成は視認しにくい場合があるといえ、外観において紛れる可能性が高くなるものといえる。

(5)混同を生ずるおそれについて
前記(1)ないし(4)のとおり、引用商標1ないし4、6、7及び10は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、取引者、需要者の間に広く認識されていたものであり、その独創性が高いこと、本件商標と引用商標1ないし4、6、7及び10との類似性の程度が高いこと、本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品との関連性が高く、その需要者を共通にすること、取引の際に払われる需要者の注意力はさほど高いとはいえないこと、本件商標がその指定商品にワンポイントマークとして小さく表示されることも多いといえることからすると、本件商標は、これをその指定商品に使用した場合には、これに接する需要者は、引用商標1ないし4、6、7及び10を連想、想起して、当該商品が申立人又は申立人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標というべきである。

したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に該当する。 

コメント

上記のとおり、商標法第4条第1項第15号に該当するか否かを検討するにあたっては、引用商標の周知著名性、独創性、本件商標との類似性、及び、本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品との間の関連性が、重要な判断要素となります。特に、本件では、本件商標の指定商品に、被服、靴下、帽子、運動用特殊衣服、運動用特殊靴などが含まれており、これらの商品には、商標をワンポイントマークとして表示されることが多く、ワンポイントマークは、比較的小さいものであるから、そのような態様で付された商標の構成は視認しにくい場合があるといえ、外観において紛れる可能性が高くなると述べられている点が、今後の参考になるものと思われます。

不服2018-8344(白妙/種苗法による登録名称)

審決分類

商標法第4条第1項第14号(種苗法による登録名称)

商標及び指定商品・役務

本願商標:(標準文字)
指定商品:第31類「ハオルシア,ハオルシアの苗,ハオルシアの種子」

引用標章:(品種登録第24569号)
品種名:「Nelumbo nucifera Gaertn.」(はす種)

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、種苗法第18条第1項の規定による品種登録を受けた品種の名称と同一の商標であり、かつ、その品種の種苗に類似する商品に使用するものであるから、商標法第4条第1項第14号に該当する。

審決等の要点

ア 本願商標
本願商標は、「白妙」の文字を標準文字で表してなるところ、該文字は、「白い色。」(「広辞苑 第六版」岩波書店)等を意味する語として一般に親しまれているものである。そうすると、本願商標からは、「シロタエ」の称呼及び「白い色」の観念を生ずるものである。

イ 引用標章
原審において、本願の拒絶の理由として引用した種苗法第18条第1項の規定による品種登録を受けた品種の名称は、「白妙」の文字からなり、「Nelumbo nucifera Gaertn.(和名:ハス種)」の品種名として、2015年10月29日に品種登録されたもの(種苗登録第24569号。以下「引用標章」という。)である。そして、引用標章は、上記アと同様、「シロタエ」の称呼及び「白い色」の観念を生ずるものである。

ウ 本願商標と引用標章の類否
本願商標と引用標章とは、共に「白妙」の文字を表してなるものであるから、外観において同一のものであり、また、称呼及び観念を共通にするものであるから、両者は、外観、称呼及び観念のいずれも共通にする同一のものと認められるものである。

エ 本願の指定商品と種苗法第18条第1項の規定による品種登録を受けた品種の種苗との類否
種苗法は、「新品種の保護のための品種登録に関する制度、指定種苗の表示に関する規制等について定めることにより、品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り、もって農林水産業の発展に寄与することを目的とする。」(種苗法第1条参照)のに対し、商標法は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発展に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」(商標法第1条参照)と規定する。このように、種苗法と商標法とは目的が異なり、それぞれの法目的に相応した、農林水産植物の種類(種苗法施行規則第17条)又は商品の類似範囲が存在するものであるから、種苗法における農林水産植物の種類の類否をもって、商標法における商品の類否の判断の根拠とすることはできない。

これを本願についてみるに、本願商標は、商標として登録出願されたものであるから、商品の類似範囲は、商標法における商品の類否に基づかなければならないところ、商標法上、商品が類似するか否かを判断するにあたっては、取引の実情、すなわち、商品の生産部門、販売部門、原材料及び品質・用途・機能、需要者の範囲が一致するかどうか、完成品と部品の関係にあるかどうか等を総合的に考慮することにより、互いの商品に同一又は類似の商標が使用された場合、これに接する取引者、需要者が、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるかどうかにより判断されるべきである。

そして、本願の指定商品中のハオルシア(ハオルチア)やハオルシア(ハオルチア)の苗と、引用標章が品種名として登録されている「ハス種」の花、苗及び種子とは、同一営業主により取り扱われている実情があり、需要者も共通するものといえること等を総合的に考慮すると、取引の実情において、両者は、多くの共通性を有する商品であるというのが相当である。

したがって、本願の指定商品は、種苗法第18条第1項の規定による品種登録を受けた品種の種苗に類似する商品である。

オ 小括
以上より、本願商標は、種苗法第18条第1項の規定による品種登録を受けた品種の名称と同一の商標であり、かつ、その品種の種苗に類似する商品に使用するものであるから、商標法第4条第1項第14号に該当する。

コメント

請求人は、商標法第4条第1項第14号における「類似する商品」が、「類似する種苗」であることは明確であり、「類似しない商品(種苗)」があることを法律が想定していると述べ、本願の指定商品と引用標章が品種名として登録されている「ハス種」とは非類似である旨主張したようですが、審決記載のとおり、本願は商標として出願されたのであるから、商品の類似範囲は、商標法における商品の類否に基づかなければならず、本願の指定商品は、品種登録を受けた品種の種苗に類似する商品であると判断されております。

無効2019-890034(OKTAL/他人の氏名又は名称等)

審決分類

商標法第4条第1項第8号(他人の氏名又は名称等)

商標及び指定商品・役務

本件商標:(標準文字)
指定商品:第9類「通信用ソフトウェアを搭載したデコーダ,電気通信機械器具,コンピュータソフトウェア,電子応用機械器具及びその部品,家庭用テレビゲーム機用プログラム,携帯用液晶画面ゲーム機用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM」

結論

登録第5677364号を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。

本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきものである。

審決等の要点

本件商標は、「OKTAL」の文字よりなるところ、これが他人の名称を含む商標に該当するか否かについて検討するに際し、他人の名称が外国法人の名称である場合には、以下のとおり判示されている。

商標法4条1項8号所定の他人の名称とは、当該他人が外国の会社である場合には、当該国の法令の規定に則って付されたその正式な名称をいい、当該国の法令において、株式会社等の組織形態を含まないものが法令上の正式名称とされているときは、これを含まないものが同号所定の他人の名称に当たると解するのが相当である。なぜならば、他人の名称を含む商標について登録を受けることができないと規定する同号の趣旨は、当該他人の人格権を保護するという点にあるところ、同号が他人の名称については著名性を要するものとしていないのに対し、他人の略称についてはこれを要するものとしているのは、略称については、これを使用する者がある程度恣意的に選択する余地があるためであると解されるから、このこととの対比において、著名性を要せずに同号該当性が認められる他人の名称とは、使用する者が恣意的に選択する余地のない名称、すなわち、法令上の正式名称であるというべきであり、以上の理は、当該他人が法人、ひいては外国の会社であっても異なるところはないからである。また、法令上の正式名称は、人格権保護のために最も重要であるから、略称等と異なり著名性を要件としていないということもできる(東京高裁平成12年(行ケ)257号、平成13年7月18日判決)。

「トゥールーズ商業裁判所書記課」が作成し、2019年(平成31年)4月7日付けで更新した請求人に係る「Kbis抄本 商業・会社登録簿(RCS)の主要登録抄本」には、「法人情報」の見出しの下、「登録日」の項に「1989年1月27日」、「会社名または商号」の項に「OKTAL」、「法的形態」の項に「単純型株式会社」、及び「法人期間」の項に「2088年1月27日まで」の記載がある。そして、「トゥールーズ商業裁判所書記課」が作成し、2019年(平成31年)6月11日に更新した上記請求人に係る商標・会社登録簿(RCS)の修正事項履歴には、請求人の名称(会社名または商号)が変更されたとする記載は認められない。

以上からすると、1989年(平成元年)にフランスの法律に基づいて設立された請求人(フランスのトゥールーズ所在)の正式名称は、「OKTAL」と認められるものであり、このことは、本件商標の登録出願時及び登録査定時においても同様であったと認められる。

そうすると、請求人の法令上の正式名称と同一と認め得る「OKTAL」を表記してなる本件商標は、商標法第4条第1項第8号に規定する他人の名称に該当するというべきであり、かつ、その他人の承諾を得ているものとは認められない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。
 

コメント

社名が「株式会社〇〇」の場合、商標法第4条第1項第8号に規定する他人の名称に該当するのは組織形態を表す文字を含む「株式会社〇〇」であって、「〇〇」の部分だけであれば他人の名称には該当しません(著名であれば他人の著名な略称に該当します)。本件では、「OKTAL」がフランスの法律に基づいて設立された請求人の正式名称であったことから、「株式会社」のような組織形態を表す文字を含まなくても、他人の名称に該当すると判断されております。なお、審決で引用されている裁判例は、「Carrefour」と「カルフール」の文字を上下2段に表記した商標が、「CARREFOUR」がフランス法に基づいて設立された正式名称であるから、商標法第4条第1項第8号に規定する他人の名称に該当すると判断した事例です。

不服2019-3330(グローバル聖徳太子/歴史上の人物名)

審決分類

商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)

商標及び指定商品・役務

本願商標: (標準文字)
指定商品:第9類「電気通信機械器具,同時通訳に使用する受信機,電子応用機械器具(「ガイガー計数器・高周波ミシン・サイクロトロン・産業用X線機械器具・産業用ベータートロン・磁気探鉱機・磁気探知機・地震探鉱機械器具・水中聴音機械器具・超音波応用測深器・超音波応用探傷器・超音波応用探知機・電子応用扉自動開閉装置・電子顕微鏡」を除く。),電子管,半導体素子,電子回路(「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路」を除く。),電子計算機用プログラム,小型電子翻訳機,インターネットの検索エンジン用コンピュータプログラムを搭載した電子計算機端末装置,電子出版物,ダウンロード可能な画像・映像」、第41類「翻訳,通訳,通訳に供する装置の貸与,通訳・翻訳・語学に関するセミナー・講演会の企画・運営・開催」及び第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,ウェブサイトの作成又は保守,コンピュータ・システムの設計・作成・保守に関する指導・助言等のコンサルティング,電子言語翻訳辞書及びデータべースの設計・開発,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,クラウドコンピューティング,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,電気に関する試験又は研究,電気通信・移動体通信に関する試験又は研究,電気通信機械器具に関する試験又は研究,機械・装置及び器具に関する試験又は研究,コンピュータシステムの分析及びこれに関する情報の提供,電子計算機端末通信におけるデータ解析機能付き検索エンジンの提供」

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当ではなく、取消しを免れない。
 

審決等の要点

本願商標は、「グローバル聖徳太子」の文字からなるところ、その構成文字は、同じ書体、同じ大きさをもって、等間隔に表されており、外観上まとまりよく一体のものとして把握し得るものである。そして、「グローバル聖徳太子」の文字は、一般的な辞書等には載録がなく、また、特定の意味合いを有する語として知られているとも認められないものであって、たとえ、その構成中の「聖徳太子」の文字が、飛鳥時代の推古天皇の摂政であり、冠位十二階や十7条憲法を制定した人物の名称として知られているとしても、かかる構成において、これに接する取引者、需要者は、構成全体で一体不可分の造語として認識するものとみるのが自然である。

また、原審説示のように「聖徳太子」のゆかりの地とされる地域等において、観光振興や地域おこしなどの公益的な取り組みが行われているとしても、本願商標の指定商品及び指定役務は、観光振興や地域おこしに関するイベント等において利用される蓋然性の高い、地方の特産物、土産物等の商品等とは、密接な関係性を有するとはいえないものである。

そうすると、請求人が本願商標を出願し、登録を受けることが、公益的な機関による観光振興や地域おこしのための施策等に「聖徳太子」の名称を利用することについて支障を生じさせるおそれがあるとはいい難いものである。

さらに、当審において職権をもって調査するも、当該文字を商標として採択、使用することが、「聖徳太子」のゆかりの地とされる地域等の人々の感情を害すると認め得る具体的な事情は、発見することができなかった。

してみれば、本願商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えるような構成でないことは明らかであり、また、本願商標をその指定商品及び指定役務に使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するとはいえず、加えて、他の法律によって、その使用が禁止されているものではなく、本願商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあるというべき事情も見いだせないものであるから、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標ということはできない。

コメント

本願商標は、歴史上の人物名といえる「聖徳太子」の文字を含んでおりますが、構成全体で一体不可分の造語として認識するものとみるのが自然と判断され、登録になっております。なお、本件審決では、本願商標の指定商品及び指定役務は、観光振興や地域おこしに関するイベント等において利用される蓋然性の高い、地方の特産物、土産物等の商品等とは、密接な関係性を有するとはいえない旨指摘されていますが、以下の審決例でも同様の理由により、歴史上の人物名からなる商標が商標法第4条第1項第7号に該当しないと判断されています。

・不服2018-8343:敦盛(指定商品:第31類「ハオルシア」等)
・不服2018-26:雪舟(指定商品:第10類「医療用機械器具」)
・不服2017-5898:次郎長(指定商品:第33類「清酒」)

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(文責・前田)