知的財産高等裁判所第1部(高部眞規子裁判長)は、平成31年2月27日、登録商標「LOG」(標準文字)について、「本件役務の質又は提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示するものというべきであるから」「商標法3条1項3号に該当するものと認められる」として、商標登録無効審判請求に対する請求不成立審決を取り消す判断をしました。
ポイント
骨子
- 商標登録出願に係る商標が商標法3条1項3号にいう「役務の…質、提供の用に供する物…を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというためには、需要者又は取引者によって、当該商標が、当該指定役務の質又は提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得ることをもって足りるというべきである。
- 本件商標の査定時において、「LOG」は、本件役務の提供の用に供する建物の種別について、ログハウス、ログキャビンなどの丸太で構成される建物又は丸太風の壁材で構成される建物という一定の内容であることを、本件役務の需要者又は取引者に明らかに認識させるものということができる。
- したがって、本件商標は、その査定時において、本件役務の需要者又は取引者によって、本件役務の質又は提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得る。
- よって、「LOG」は本件役務の質又は提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示するものというべきであるから、「LOG」のみからなる本件商標は、本件役務との関係において、商標法3条1項3号に該当するものと認められる。
判決概要
裁判所 | 知的財産高等裁判所第1部 |
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判決言渡日 | 平成31年2月27日 |
事件番号 | 平成30年(行ケ)第10143号 審決取消請求事件 |
商標登録番号 | 第5890540号 |
商標の構成 | LOG(標準文字) |
裁判官 | 裁判長裁判官 高 部 眞規子 裁判官 杉 浦 正 樹 裁判官 片 瀬 亮 |
解説
商標法3条1項3号(記述的商標)
⑴ 商標法3条1項
商標法3条1項は、以下の通り、商標登録を受けることができない、除外要件を定めています。
商標法第3条(商標登録の要件)
1 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。
そのため、商標法3条1項各号に該当する商標については、原則として、商標登録を受けることができません。
また、仮に、商標登録されたとしても、後に述べる通り、商標法3条に該当する場合には、商標登録無効審判事由となります(商標法46条1項1号)。
⑵ 商標法3条1項3号
産地・品質・原材料・効能・用途・役務の提供の質・提供の用に供する物等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標については、商標法3条1項3号により、原則として、商標登録を受けることができません。
商標法3条1項3号該当性については、判断が難しく、そのため、商標登録無効審判や拒絶査定不服審判、審決取消請求訴訟などでも、争点となることが少なくありません。
なお、「普通に用いられる方法で表示する」に該当するか否かついては、特許庁の商標審査基準において、以下の通り、定められています。
商標審査基準
「普通に用いられる方法で表示する」について商品又は役務の取引の実情を考慮し、その標章の表示の書体や全体の構成等が、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なものである場合には、「普通に用いられる方法で表示する」には該当しないと判断する。
(例1) 「普通に用いられる方法で表示する」に該当する場合
取引者において一般的に使用されている書体及び構成で表示するもの(例2) 「普通に用いられる方法で表示する」に該当しない場合
取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なレタリングを施して表示するもの又は特殊な構成で表示するもの
商標登録無効審判
商標登録の出願がなされた場合、特許庁において、登録要件の審査がなされたうえで、要件を満たす商標のみ登録されることになります。
もっとも、審査に過誤があった場合など、登録要件を満たさない商標が登録されてしまうこともあり得ます。
そこで、瑕疵のある商標登録について利害関係を有する者は、法律に定める無効理由があるとして、特許庁に対して、その登録を無効とする審判を求めることができます。
商標登録の無効審判事由は、商標法において、以下の通り、定められています。
商標法第46条(商標登録の無効の審判)
1 商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。一 その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条の規定に違反してされたとき。
二 その商標登録が条約に違反してされたとき。
三 その商標登録が第五条第五項に規定する要件を満たしていない商標登録出願に対してされたとき。
四 その商標登録がその商標登録出願により生じた権利を承継しない者の商標登録出願に対してされたとき。
五 商標登録がされた後において、その商標権者が第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条の規定により商標権を享有することができない者になつたとき、又はその商標登録が条約に違反することとなつたとき。
六 商標登録がされた後において、その登録商標が第四条第一項第一号から第三号まで、第五号、第七号又は第十六号に掲げる商標に該当するものとなつているとき。
七 地域団体商標の商標登録がされた後において、その商標権者が組合等に該当しなくなつたとき、又はその登録商標が商標権者若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているもの若しくは第七条の二第一項各号に該当するものでなくなつているとき。
商標登録を無効にすべき旨の審決が確定した場合の効果については、商標法において、以下の通り、定められています。
商標法第46条の2
1 商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、商標権は、初めから存在しなかつたものとみなす。ただし、商標登録が前条第一項第五号から第七号までに該当する場合において、その商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、商標権は、その商標登録が同項第五号から第七号までに該当するに至つた時から存在しなかつたものとみなす。2 前項ただし書の場合において、商標登録が前条第一項第五号から第七号までに該当するに至つた時を特定できないときは、商標権は、その商標登録を無効にすべき旨の審判の請求の登録の日から存在しなかつたものとみなす。
他方、商標登録の無効審判を求める請求を棄却する審決がなされた場合には、当該商標登録は維持されます。
審決に対する不服申立
特許庁の審決に不服がある場合、以下の通り、審決謄本の送達日から30日以内に、知的財産高等裁判所に対して、審決取消訴訟を提起することができます。
商標法第63条(審決等に対する訴え)
1 取消決定又は審決に対する訴え、第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する第十六条の二第一項の規定による却下の決定に対する訴え及び登録異議申立書又は審判若しくは再審の請求書の却下の決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする。2 特許法第百七十八条第二項から第六項まで(出訴期間等)及び第百七十九条から第百八十二条まで(被告適格、出訴の通知等、審決取消訴訟における特許庁長官の意見、審決又は決定の取消し及び裁判の正本等の送付)の規定は、前項の訴えに準用する。この場合において、同法第百七十九条中「特許無効審判若しくは延長登録無効審判」とあるのは、「商標法第四十六条第一項、第五十条第一項、第五十一条第一項、第五十二条の二第一項、第五十三条第一項若しくは第五十三条の二の審判」と読み替えるものとする。
特許法第178条(審決等に対する訴え)
2 前項の訴えは、当事者、参加人又は当該特許異議の申立てについての審理、審判若しくは再審に参加を申請してその申請を拒否された者に限り、提起することができる。3 第一項の訴えは、審決又は決定の謄本の送達があつた日から三十日を経過した後は、提起することができない。
4 前項の期間は、不変期間とする。
5 審判長は、遠隔又は交通不便の地にある者のため、職権で、前項の不変期間についは附加期間を定めることができる。
6 審判を請求することができる事項に関する訴えは、審決に対するものでなければ、提起することができない。
事案の概要
被告は、以下の商標(以下「本件商標」という)の商標権者です。
- 登録番号:登録第5890540号
- 商標の構成:LOG(標準文字)
- 出願年月日:平成28年5月18日
- 査定年月日:平成28年10月7日
- 登録年月日:平成28年10月21日
- 指定役務:第36類「建物の貸借の代理又は媒介、建物の貸与、建物の売買、建物の売買の代理又は媒介」及び第37類「建設工事、建築工事に関する助言」(以下、併せて「本件役務」という)を含む。
原告は、平成29年12月27日、本件商標登録のうち、本件役務を指定役務とする部分について、商標登録無効審判を請求しました。
これに対し、特許庁は、原告の請求を無効2018-890001号事件として審理し、平成30年8月31日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という)をし、その謄本は、同年9月10日、原告に送達されました。
原告は、本件審決を受けて、平成30年10月10日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起しました。
このように、本判決は、原告において、被告商標について、特許庁に対して商標登録無効審判を請求したものの、請求不成立(棄却)の審決がなされたことから、知的財産高等裁判所に対して、審決取消請求を求めた事案です。
判旨
商標法3条1項3号該当性の判断手法
本判決は、先ず、商標法3条1項3号のうち、「役務の質、提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」該当性について、以下の通り述べ、判断基準を示しました。
商標登録出願に係る商標が商標法3条1項3号にいう「役務の…質、提供の用に供する物…を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというためには、需要者又は取引者によって、当該商標が、当該指定役務の質又は提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得ることをもって足りるというべきである。
そこで、本件商標の査定時において、本件商標が、本件役務の需要者又は取引者によって、本件役務の質又は提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得るか否かについて検討する。
本件商標の使用状況等
そのうえで、以下のように、商標等の使用状況や需要者・取引者の認識について、事実認定を行いました。
(「LOG」の使用状況)
本件役務に関する分野では、本件商標の査定日以前において、役務の提供の用に供する物の内容について、それが丸太で構成される建物等であることを表示するために、その役務の主体や客体の名称の一部に、「LOG」が数多く使用されるとともに、丸太で構成される建物等に関するものであることを表示するために、「LOG」が他の単語と組み合わさって又は単独で、数多く使用されていたということができる。
(「Log」「log」の使用状況)
本件役務に関する分野では、本件商標の査定日以前において、役務の提供の用に供する物の内容について、それが丸太で構成される建物等であることを表示するために、その役務の主体や客体の名称の一部に、「LOG」と社会通念上同一と認められる「Log」「log」が数多く使用されるとともに、丸太で構成される建物等に関するものであることを表示するために、「Log」が他の単語と組み合わさって使用されていたということができる。
(「ログ」の使用状況)
本件役務に関する分野では、本件商標の査定日以前において、役務の提供の用に供する物の内容について、それが丸太で構成される建物等であることを表示するために、その役務の主体や客体の名称の一部に、「LOG」から比較的容易に想起される「ログ」が数多く使用されるとともに、丸太で構成される建物等に関するものであることを表示するために、「ログ」が他の単語と組み合わさって数多く使用されていたということができる。
(需要者又は取引者の認識)
本件商標の査定時において、「LOG」は、本件役務の提供の用に供する建物の種別について、ログハウス、ログキャビンなどの丸太で構成される建物又は丸太風の壁材で構成される建物という一定の内容であることを、本件役務の需要者又は取引者に明らかに認識させるものということができる。したがって、本件商標は、その査定時において、本件役務の需要者又は取引者によって、本件役務の質又は提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得るというべきである。
本件へのあてはめ
このような事実認定を踏まえて、本判決は、以下の通り述べ、商標法3条1項3号該当性を認め、原告による商標登録無効審判請求を不成立とした審決を取り消しました。
本件商標の査定時において、「LOG」は、本件役務の提供の用に供する建物の種別について、ログハウス、ログキャビンなどの丸太で構成される建物又は丸太風の壁材で構成される建物という一定の内容であることを、本件役務の需要者又は取引者に明らかに認識させるものということができる。
したがって、本件商標は、その査定時において、本件役務の需要者又は取引者によって、本件役務の質又は提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得る。
よって、「LOG」は本件役務の質又は提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示するものというべきであるから、「LOG」のみからなる本件商標は、本件役務との関係において、商標法3条1項3号に該当するものと認められる。
コメント
本判決は、商標法3条1項3号のうち、「役務の質、提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」該当性についての判断基準を示したものであり、同種事案について参考になるものといえます。
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(文責・平野)