平成31年2月28日、東京地方裁判所民事第46部(柴田義明裁判長)は、被告の製作配布した英会話教材の宣伝広告用DVDの内容が原告の製作配布した同様のDVDの著作権を侵害するか否かが問題となった事案について、翻案権及び同一性保持権の侵害を認め、損害賠償を命じる判決を言い渡しました。各DVDの内容が詳細に対照されており、この種の動画の著作物性の判断について、実務上参考になりますので、ご紹介します。

ポイント

骨子

  • 著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成13年5月28日判決・民集55巻4号827頁参照)。
  • 著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであり、既存の著作物に依拠して作成、創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製又は翻案には当たらないと解される。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第46部
判決言渡日 平成31年2月28日
事件番号 平成29年(ワ)第16958号
事件名 損害賠償請求事件
裁判官 裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官    安 岡 美香子
裁判官    佐 藤 雅 浩

解説

著作物性

著作権・著作者人格権侵害が成立するためには、他人の「著作物」と同一又は類似する著作物につき、利用(複製、翻案等)を行っていることが要件となります。

「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条1項1号)。すなわち、①「思想又は感情」、②「表現したもの」、③創作性及び④「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」の各要件を満たせば、著作物性が認められます。

①「思想又は感情」は、人間の何らかの精神的活動の所産であれば足りると考えられています。そのため、①の要件を欠くのは、自然物や事実それ自体に限定されます。

②「表現したもの」は、いわゆるアイデア・表現二分論を定める要件であり、抽象的なアイデアそれ自体(例えば絵の画風、作品の主題・展開)は、表現ではないため、著作物性が認められません。ただし、アイデアと表現の区別については、明確な基準がなく、実務上、判断が難しい場面も少なくありません。

③創作性は、作者の何らかの個性が発揮されていれば認められます。何をもって個性の発揮と捉えるかは難しい面もあるため、「表現の選択の幅」が存在する場合に創作性を認めるという考え方もありますが、いずれによっても大差はありません。創作性が否定されるのは、ありふれた表現である場合や、文字数や機能性に伴う制約により他の表現が想定できない場合です。

知財高裁平成27年11月10日判決[スピードラーニング第1事件]は、本件と同じ原告(控訴人)・被告(被控訴人)間で、以下の英会話教材のキャッチフレーズに関する著作権侵害の成否について争われた事案について、原判決と同様に、ありふれた表現であること等を理由に著作権侵害を否定しました。

控訴人キャッチフレーズ
1 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ 英語がどんどん好きになる
2 ある日突然,英語が口から飛び出した!
3 ある日突然,英語が口から飛び出した

被控訴人キャッチフレーズ
1 音楽を聞くように英語を流して聞くだけ 英語がどんどん好きになる
2 音楽を聞くように英語を流して聞くことで上達 英語がどんどん好きになる
3 ある日突然,英語が口から飛び出した!
4 ある日,突然,口から英語が飛び出す!

知財高裁は、「許容される表現の長さによって,個性の表れと評価できる部分の分量は異なるし,選択できる表現の幅もまた異なることは自明である。特に,広告におけるキャッチフレーズのように,商品や業務等を的確に宣伝することが大前提となる上,紙面,画面の制約等から簡潔な表現が求められ,必然的に字数制限を伴う場合は,そのような大前提や制限がない場合と比較すると,一般的に,個性の表れと評価できる部分の分量は少なくなるし,その表現の幅は小さなものとならざるを得ない。さらに,その具体的な字数制限が,控訴人キャッチフレーズ2のように,20字前後であれば,その表現の幅はかなり小さなものとなる。そして,アイデアや事実を保護する必要性がないことからすると,他の表現の選択肢が残されているからといって,常に創作性が肯定されるべきではない。すなわち,キャッチフレーズのような宣伝広告文言の著作物性の判断においては,個性の有無を問題にするとしても,他の表現の選択肢がそれほど多くなく,個性が表れる余地が小さい場合には,創作性が否定される場合があるというべきである。」と述べました。

なお、④「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」は、応用美術を除き、その充足が問題となることは少ないでしょう。

翻案の意義

最高裁平成13年6月28日判決[江差追分]によれば、著作物の翻案(著作権法27条)とは、「既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」をいいます。ここでいう表現上の「本質的な特徴」とは、表現上の「創作性」を意味します。

そして、上記判決は、「既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である」と述べました。

すなわち、ある著作物と共通点を有する別の著作物がある場合に、当該共通点が元の著作物の著作物性とは無関係な部分(①「思想又は感情」を表現していない部分や②「表現したもの」ではない部分、表現ではあるが③創作性がない部分)にあるだけでは、「翻案」に当たらず、翻案権侵害は成立しないということです。

このことは、前記の著作物性の要件からの当然の帰結であるといえます。

なお、既存の著作物と実質的に同一であれば、依拠性がある限り、「複製」に該当することになります。

翻案の認定手法

「翻案」該当性を具体的に認定する手法(翻案以外の利用行為についても同様です。)としては、①2つの作品の共通部分を抽出し、②その部分が創作性のある表現といえるか否か(「表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分」ではないか)を検討するものが一般的です。これは「濾過テスト」とも呼ばれ、前記最高裁平成13年6月28日判決においてもこの方法が採用されたと考えられています。なお、「共通部分」として抽出される対象には、文字等の具体的表現のみならず、構成等の抽象的表現も含まれますが、抽象化の程度が高まれば、もはや表現ではなくアイデア(著作物性のない部分)に分類される可能性があります。

他方、①原告(権利侵害を主張する側)の作品の著作物性を検討し、②その上で被告(権利侵害を主張される側)の作品において原告作品の創作性のある表現が再生されているか否かを検討する手法もあります。これは「二段階テスト」とも呼ばれ、前記最高裁平成13年6月28日判決が登場するまでは、多くの裁判例において採用されていました。

事案の概要

原告は、外国語教材の企画、開発、販売等を目的とする株式会社であり、「スピードラーニング」という名称の英会話教材(原告商品)を製造、販売しています。被告は、インターネットを利用した各種情報提供サービス、広告業、広告代理業、各種通信販売等を目的とする株式会社であり、少なくとも平成26年6月から同年9月末頃までの間、「スピードイングリッシュ」という名称の英会話教材(被告商品)を製造、販売していました。

原告は、原告商品の宣伝広告のためのDVD(原告DVD)を制作し、少なくとも平成20年9月頃から、原告商品の購入を検討している顧客に対し、原告DVDを配布しました。原告DVDは、原告商品の受講者の体験談、原告商品の開発者からのメッセージなどが収録されたものです。他方、被告においても、被告商品の宣伝広告のためのDVD(被告DVD)を制作し、平成26年、被告商品の購入を検討している顧客等に対し、被告DVDを配布しました。被告DVDは、原告DVDと同様に、被告商品の受講者の体験談、被告商品の開発者からのメッセージなどが収録されたものです。

本件は、原告が、被告DVDの作成、配布等が、主位的には、映画の著作物又は編集著作物である、原告DVDに関して原告が有する複製権及び翻案権並びに同一性保持権を侵害すると主張し、予備的には、言語の著作物である、原告DVDのスクリプト部分(音声で流れる言語の部分)に関して原告が有する複製権、翻案権及び譲渡権並びに同一性保持権を侵害すると主張して、被告に対し、民法709条に基づく損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案です。

原告DVDと被告DVDの内容の比較については、詳しくは判決別紙「DVDの内容の対照表」をご覧ください(以下において適宜この内容を引用しています。)。

争点

本件の争点は、以下のとおりです。

  • 映画の著作物としての複製権、翻案権侵害の有無(争点1)
  • 編集著作物としての複製権、翻案権侵害の有無(争点2)
  • 言語の著作物としての複製権、翻案権及び譲渡権侵害の有無(争点3)
  • 同一性保持権侵害の有無(争点4)
  • 損害の有無及びその額(争点5)
  • 原告の請求の権利濫用該当性(争点6)

判旨

「複製」と「翻案」の意義

東京地裁は、以下のとおり、「複製」と「翻案」の意義を明らかにしたうえで、①思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は②表現上の創作性がない部分(①②=著作物性のない部分)において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、「複製」にも「翻案」にも当たらないことを確認しました。従前の判例・学説と同様の解釈です。

複製(著作権法21条)とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいい(同法2条1項15号),翻案(同法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成13年5月28日判決・民集55巻4号827頁参照)。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであり,既存の著作物に依拠して作成,創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製又は翻案には当たらないと解される。

原告DVDが被告DVDに共通する部分の著作物性

(1)検討手順
争点1について判断するにあたり、原告DVDと被告DVDは、いずれも、①イントロダクション(項目アないしオ)、②受講者インタビュー(項目カないしク)、③商品紹介(項目ケ)、④商品特徴の説明(項目コないしシ)、⑤開発者等のインタビュー(項目ス)、⑥商品特徴の説明(項目チ及びツ)、⑦エンディング(項目テ、ト)という構成を有するため、東京地裁は、これらの項目毎に前記の「濾過テスト」を用いて原告DVDと被告DVDの内容を対照しました。なお、「項目ア、イ……」は、前記判決別紙「DVDの内容の対照表」の「項目」に対応しています(以下同じ)。

後述のとおり、項目イ、ウ、オ、ケ、テ及びトにおいて、創作性のある表現が共通し、これら項目の原告DVDの表現上の本質的な特徴を被告DVDから直接感得することができるものと認められました。

(2)イントロダクション
東京地裁は、以下のとおり、原告DVDと被告DVDの共通点を認定し、著作物性の有無を判断しました。なお、白い扉における具体的な模様、白い扉の奥に進んだ直後の影像、写真表示の方法、青空と暗い雲の一部から太陽が差す光景の間の影像等は異なり、使用される写真、暗い雲の一部から太陽の光が差す光景を除いた光景、登場人物やその背景、DVDが回転する際の背景の色も異なります。

項目 共通点 著作物性の有無
最初に社名が表示される点 ×(アイデア)
紺色の背景の中央に白い扉が現れ、白い扉が拡大されるに従いその扉が手前に開き、その奥に宇宙が広がる点 〇(創作性のある表現)
イ、ウ 扉の先の宇宙の中心に白い光が現れ、それが次第に大きくなり、その後、海外の光景の写真が表示され、その写真が拡大していくとともに、「外国人の友達が欲しい」という英会話を学ぶ動機を示すフレーズが画面の下部に赤色で表示され、そのような写真の表示、拡大とフレーズの表示が、写真及びフレーズを変えて5回繰り返される点 〇(創作性のある表現)
外国人と話している様子 ×(アイデア)
「あなたはどんな自分になりたいですか。なりたい未来のあなたを想像してください」などの音声が流れる点 ×(ありふれた表現)
白い雲の奥に太陽が白く光る青空の光景となり、その後、別の画面となった後、暗い雲の一部から太陽の光が差す光景となり、「新しい言葉を習得すると新しい自分を発見したり新しい世界が広がります。人間にはもともと言葉を話せる力が備わっています」という音声が流れ、さらに、その後、「さあここから一緒に始めましょう,(商品名)の世界へようこそ」という音声が流れ、画像中央の商品のDVDが回転するとともに、その周囲を人物の写真が左回りで周り、「Welcome to(商品名),(商品名)の世界へようこそ」という文字テキストが表示される点(暗い雲の一部から太陽の光が差す光景では、全く同じ光景を使用している。) 〇(創作性のある表現)

項目イ、ウ及びオについて、東京地裁は、以下のとおり、著作物性を認めた理由を説明しました。

他方,項目イ及びウにおける原告DVDと被告DVDの共通点は,白い扉を抜け,その先に英会話を学ぶ動機となるフレーズと共に写真が現れるというもので密接に関係するものといえるところ,英会話の宣伝,紹介用のDVDにおいて,教材を利用することで新しい状況となることについて,紺色の背景とする白い扉やその奥に広がる宇宙で表現するとともに,教材により達成できる状況について,扉の奥に,その状況を表しているともいえる写真を英会話を学習する動機を示すフレーズとともに複数回示すことで表現しているものといえ,その表現は,全体として,個性があり,創作性があるといえる。

項目オにおける原告DVDと被告DVDの共通点は,教材を学ぶことで状況が変わることを,二度にわたる太陽の光を含む空の情景で示し,また,自社の商品を用いることで交流の範囲が広がることなどを人物が写った多数の写真を自社商品の周りを回転させることなどで表現しているものといえ,その表現は,全体として,個性があり,創作性があるといえる。

その上で、東京地裁は、上記共通する内容に項目イ、ウ及びオの内容等を考慮し、項目イ、ウ及びオの原告DVDの表現上の本質的な特徴を被告DVDから直接感得することができると認めました。

(3)受講者インタビュー(その1)
東京地裁は、以下のとおり、原告DVDと被告DVDの共通点を認定し、著作物性の有無を判断しました。なお、登場人物やインタビューの内容、表現は異なります。

項目 共通点 著作物性の有無
「(商品名)を始めた人の中にはすでに新しいステージへと人生を開いていった人たちがたくさんいらっしゃいます」という音声が流れ、その後、海外で活躍する女性を紹介し、その女性へのインタビューの様子となる点、「英語を話す原点になったのが(商品名)だったのです」という音声が流れるとともに、同趣旨が赤色の文字テキストで表示される点など ×(アイデア/創作性のない表現)

項目カについて、東京地裁は、以下のとおり、著作物性を否定した理由を説明しました。

上記共通点のうち,英会話教材の宣伝,紹介用の動画において,海外で活躍する受講者を紹介した上でその受講者へのインタビューの様子を用いることや,その受講者の活躍の契機となったのが自社の教材であるという説明をすることは,アイデアであるといえるし,また,それらを上記のような順序で構成することは,通常行われることといえ,これらをもって表現上の創作性があるとはいえない。また,「(商品名)を始めた人の中にはすでに新しいステージへと人生を開いていった人たちがたくさんいらっしゃいます」,「英語を話す原点になったのが(商品名)だったのです」との部分について,英会話教材を宣伝,紹介する際に,教材による学習によって自らの状況が変わったことを新たなステージへと人生を開くと表現することや,その契機等となった商品を原点と表現することはありふれたものであるといえ,いずれも創作性があるとは認められない。

(4)受講生インタビュー(その2)
東京地裁は、以下のとおり、原告DVDと被告DVDの共通点を認定し、著作物性の有無を判断しました。なお、登場人物やインタビューの内容、表現は異なります。

項目 共通点 著作物性の有無
地名が表示された後、受講者の男性の肩書き、氏名が文字テキストで表示されると共に、その人物は、英語が苦手であったが、それを変えたのが原告又は被告の商品であったという内容の音声が流れ、その後、その人物へのインタビューの様子となる点など ×(アイデア/創作性のない表現)

項目キについて、東京地裁は、以下のとおり、著作物性を否定した理由を説明しました。

英会話教材の宣伝,紹介用の動画において,受講者とされる人物の肩書きや氏名等を文字テキストで表示すること,英語についての苦手意識を克服できたのは商品のおかげであるという音声を流すこと,受講者とされる人物のインタビューの様子を用いることは,いずれもアイデアであるといえるし,また,それらを上記のような順序で構成することも,普通に行われることであり,これをもって表現上の創作性があるとはいえない。

(5)その他受講者インタビュー
東京地裁は、以下のとおり、原告DVDと被告DVDの共通点を認定し、著作物性の有無を判断しました。なお、登場人物やインタビューの内容、表現は異なります。

項目 共通点 著作物性の有無
受講者への複数のインタビューの様子である点、「人生が変わりました」との文字テキストが表示される点 ×(アイデア/ありふれた表現/創作性のない表現)

項目クについて、東京地裁は、以下のとおり、著作物性を否定した理由を説明しました。

上記共通点のうち,英会話教材の宣伝,紹介用の動画において,受講者とされる人物のインタビューの様子を用いることはアイデアであるといえる。また,「人生が変わりました」という文字テキストは,表現であるということができるとしても,教材を宣伝,紹介する場面で,教材による学習によって自らの状況が変わったことを人生が変わると表現することは,ありふれた表現であるといえ,創作性があるとは認められない。そして,インタビューの様子に文字テキストを組み合わせることについても,普通に行われることであり,このことをもって表現上の創作性があるとはいえない。

(6)商品紹介
東京地裁は、以下のとおり、原告DVDと被告DVDの共通点を認定し、著作物性の有無を判断しました。なお、階段の側面の色、フレーズの色、階段の背景における具体的な光景は異なります。

項目 共通点 著作物性の有無
画面上部が光り、雲が浮かんでいる空の様子となった後、画面の上方から階段が伸びてきて、階段を下から見上げる構図となり、その後、空を背景に、最下段の階段の側面に英語学習のステップのフレーズが表示され、そのフレーズの読み上げが終わると一段上の階段の側面が拡大されると同時に、その階段の側面に次の英語学習のステップのフレーズが右からスライドして表示されるとともに、そのフレーズがナレーションされ、それを7回繰り返して、7つ目の英語学習のステップが表示されると、側面にフレーズが記載された階段が最下段まで表示されるという点 〇(創作性のある表現)
各階段の側面に表示されるフレーズは、原告DVDでは①「聞くことを習慣化する」、②「単語やフレーズの音がキャッチできるようになる」、③「言っていることが理解でき短い言葉で反応できるようになる」、④「短い言葉で自分の意思を伝えられるようになる」、⑤「簡単な会話のキャッチボールができるようになる」、⑥「言葉のキャッチボールが長く続くようになる」、⑦「意識せずに自然に外国人との会話が楽しめるようになる」であるのに対し、被告DVDでは①「流して聞くことを習慣化する」、②「単語,フレーズの音が聞き取れるようになる」、③「言っていることが分かり,短いフレーズで返事ができるようになる」、④「短いフレーズで自分の言いたいことが伝えられるようになる」、⑤「簡単な会話のキャッチボールができるようになる」、⑥「言葉のキャッチボールが長く続けられる」、⑦「意識せず,自然に外国人との会話が楽しめるようになる」であり、その内容、表現はほぼ共通している 〇(創作性のある表現)

項目ケについて、東京地裁は、以下のとおり、著作物性を認めた理由を説明しました。

項目ケの部分の原告DVDと被告DVDの上記の共通点は,空に浮かんだ階段を下から見上げる構図とすることによって,階段を上っていくイメージを抱かせ,階段と英語学習のステップが結び付くものであり,原告DVDと被告DVDでほぼ共通するフレーズの内容に照らしても,一定の段階を踏んで英語学習を進めることができるなどのイメージを与えるものである。そのようなステップが7段階あり,その内容がほぼ同一であることをも考慮すると,この共通点は,作成者の個性が現れており,全体として創作的な表現であると認められる。

その上で、東京地裁は、上記共通する内容に項目ケの内容等を考慮し、項目ケの原告DVDの表現上の本質的な特徴を被告DVDから直接感得することができると認めました。

(7)商品特徴(その1)
東京地裁は、以下のとおり、原告DVDと被告DVDの共通点を認定し、著作物性の有無を判断しました。なお、外国人との会話の登場人物やその内容、3つの球に記載された文字、その背景は異なります。

項目 共通点 著作物性の有無
外国人と会話している様子 ×(アイデア)
「なぜ,(商品名)を手にすると外国語を話せるようになって人生が変わるのか」、「そこには(商品名又は会社名)独自の画期的なシステムがある」という音声が流れる点 ×(事実/ありふれた表現/創作性のない表現)
英語を話せるようになるための商品独自の画期的なシステムがあるという音声が流れるとともに、画面中央付近に青色、緑色、オレンジ色の三つの球にも見える円が現れ、それらの三つの円がまず水平方向に周り、その後、それぞれの円が移動して、青色の円が上部、緑色の円が左下部、オレンジ色の円が右下部で停止して、正三角形の頂点を形成した後、それらの三つの円がそれぞれ線で結ばれる点 ×(ありふれた表現/創作性のない表現)

項目コ及びサについて、東京地裁は、以下のとおり、著作物性を否定した理由を説明しました。

項目コの共通点のうち,……ナレーションにおいて,教材に独自のシステムがあることを述べる部分は事実を述べているものといえ,また,教材を手にとると世界が広がると述べる部分も,ありふれた表現といえる。そして,上記の共通点の組合せも,英会話教材の宣伝,紹介用の動画として,いずれもよく使用される要素を通常の方法で組み合わせたといえるもので,表現上の創作性が認められるものとはいえない。

また,項目サについて,商品等を宣伝,紹介する際などを含め,一般に,説明の際に3つなどの複数の要素を挙げること,各要素を色のついた円で示すこと,動画において,それらの円を回転させること,それぞれの円が正三角形の頂点を構成するように配置し線で結ぶことなどは,ごく一般的にされていることといえる。原告DVD及び被告DVDで選択された色やその組合せも特段の特色があるものとはいえない。それぞれの円に記載された文字が異なる本件において,原告DVDと被告DVDに共通する上記部分については,表現上の創作性があるとはいえないとすることが相当である。

(8)商品特徴(その2)
東京地裁は、以下のとおり、原告DVDと被告DVDの共通点を認定し、著作物性の有無を判断しました。なお、青色の円に書かれているキーワード、円の背景の色や全体的な構成、赤ちゃんと母親の様子などは異なります。

項目 共通点 著作物性の有無
項目サで登場した円の一つである青色の円が拡大する点、その円の項目に関する説明として赤ちゃんが言葉を習得するプロセスについて説明の音声と文字テキストが流れる点、赤ちゃんや赤ちゃんと母親の様子となる点、プロセスの内容として赤ちゃんは言葉のシャワーを自然に浴びることで聞きためた言葉をある日話し出し、人間にはもともと言葉を習得する力が備わっていて、「聞く」、「話す」のプロセスを踏めば必ず自然に英語が話せるようになることなどが説明される点など ×(アイデア/事実/創作性のない表現)

項目シについて、東京地裁は、以下のとおり、著作物性を否定した理由を説明しました。

上記共通点のうち,複数の要素をそれぞれ表す円のうち,一つの円を拡大すること,その後,その円が示す要素についての説明をすること,英会話教材の宣伝,紹介用の動画において赤ちゃんが言葉を習得するプロセスを説明すること,それに併せて赤ちゃんや赤ちゃんと母親の様子を用いることは,いずれもアイデアといえるものであり,それらを上記のような順序で構成することも,通常行われることといえ,これをもって表現上の創作性があるとはいえない。また,赤ちゃんが言葉を習得するプロセスの内容として上記のような説明をすることは,単に一般的な知見に属する事実を述べるものともいえ,また,その表現に創作性があるとはいえない。

(9)開発者等インタビュー
東京地裁は、以下のとおり、原告DVDと被告DVDの共通点を認定し、著作物性の有無を判断しました。なお、青色の円に書かれているキーワード、円の背景の色や全体的な構成、赤ちゃんと母親の様子などは異なります。

項目 共通点 著作物性の有無
開発者へのインタビューの様子 ×(アイデア)
そのインタビューで、あきらめないことが大事であると述べられる点 ×(事実/創作性のない表現)
英語を学習し始める動機を尋ねる音声が流れ、その後、試験のための勉強ではつまらなくなること、英語の勉強がつまらないことはもったいないこと、本来の目的は外国人の友達が欲しいということ、相手のことを知りたいということ、自分のことを伝えたいということであったはずであること、各商品では外国語を習得する本来の目的を大切にしていることについて、音声が流れるとともに、同様の文字テキストが表示される点 ×(事実/創作性のない表現)
商品の製作メンバーへのインタビューの様子となる点 ×(アイデア)
まずは100日間聞き続けてみましょうとの内容の音声が流れる点 ×(事実/創作性のない表現)

(10)商品特徴(その3)
東京地裁は、以下のとおり、原告DVDと被告DVDの共通点を認定し、著作物性の有無を判断しました。なお、サポートシステムの具体的な内容、具体的な空の光景、インタビューの構成や内容などは異なります。

項目 共通点 著作物性の有無
商品の「サポートシステム」があることを説明した後、多くの暗い雲で覆われた空の光景を背景に、受講生が感じる「効果が感じられない」、「このまま続けていいのか」という不安を示す音声が流れるとともに、同内容の文字テキストが表示されること、そのような不安を解消するため、サポートシステムの具体的な内容として「サポートメール」などがあると紹介する点 ×(アイデア/事実/ありふれた表現/創作性のない表現)
従業員へのインタビューの様子 ×(アイデア)

項目チ及びツについて、東京地裁は、以下のとおり、著作物性を否定した理由を説明しました。

英会話教材を宣伝,紹介するDVDにおいて,受講者が感じる不安の内容を示した上で,それを解消するために従業員等へのインタビューの様子を用いること,不安を示す際に暗い雲で覆われた空の光景を背景に用いること自体はアイデアであるといえ,そのことのみをもって創作性がある表現であるということは相当でない。また,サポートメール等のサポートシステムを紹介することや,受講生の「効果が感じられない」,「このまま続けていいのか」などという不安を紹介することは,事実又は一般的な知見を紹介するともいえ,また,その表現もありふれたもので創作性があるものとはいえない。そして,これらを上記のような順序で構成することも,通常行われることといえ,これらをもって表現上の創作性があるとはいえない。

(11)エンディング
東京地裁は、以下のとおり、原告DVDと被告DVDの共通点を認定し、著作物性の有無を判断しました。なお、日本列島が映される順番、地球の周りを回る写真相互の位置関係の規則性、地球の周りを回る写真は異なります。

項目 共通点 著作物性の有無
日本列島の一部を上から見下ろした後に、暗い日本列島に光る部分が現れて、それが増えていき、日本列島全体がおおよそ光り、その後、人物が映った多くの小さい長方形の写真が宇宙から見た地球の周囲を回る点、商品をきっかけにできた仲間達の輪又は商品の輪の広がりについて、日本列島全体がおおよそ光る部分で、それが日本全国に広がる旨の音声が流れ、その直後の多くの小さい長方形の写真が宇宙から見た地球の周囲を回る場面で、それが世界中へ広がり始めている旨の音声が流れる点 〇(創作性のある表現)
日の出の情景の後、赤っぽい太陽が大きく映され、その後、左上方に太陽の光が見える青空に変わり、「あなたの心があなたの未来を創ります。」(原告DVD)、「あなたの心であなたの未来が180度変わります。」(被告DVD)という音声が流れるとともに、同趣旨の文字を画面に表示する点 〇(創作性のある表現)

項目テ及びトについて、東京地裁は、以下のとおり、著作物性を認めた理由を説明しました。

項目テの上記共通点は,各DVDにおいて宣伝している英会話教材が日本全国で広く支持を得ていることやその英会話教材を使用することによって,日本中,世界中の人間とつながることができることにつき,音声に加え,日本列島における光や地球の周りの写真を用いて伝えることを意図していると考えられるものであり,具体的な表現において作成者の個性が現れており,全体として創作的な表現であると認められる。

また,項目トの上記共通点も,英会話の上達について,日の出から青空への変化を通じて伝えることを意図したものであると考えられ,具体的な表現において作成者の個性が現れており,全体として創作的な表現であると認められる。

その上で、東京地裁は、上記共通する内容に項目テ及びトの内容等を考慮し、項目テ及びトの原告DVDの表現上の本質的な特徴を被告DVDから直接感得することができると認めました。

(12)全体的な構成
原告DVDと被告DVDには構成の共通性が見られるため(他方、基本的に、使われている写真、光景、登場人物やインタビューを受けた者が話す内容などは異なります。)、原告は、この点でも原告DVDの表現上の本質的な特徴を被告DVDから直接感得することができる旨を主張していました。

しかし、東京地裁は、以下のとおり、①構成要素がいずれもごく一般的であり、その順序についても特別な印象を与えるものではないこと、②被告DVDには、原告DVDの表現上の本質的な特徴を感得することができるとはいえない部分も多いこと、③それを感得することができる複数の部分は特段相互に密接に関連しているものとはいえないことから、原告DVD全体についての表現上の本質的な特徴を被告DVDから感得することができるとまではいえないと判断しました。

原告DVDと被告DVDは,いずれも英会話教材の宣伝,紹介用のものであり,このようなDVDにおいて,宣伝の対象である商品の購入等を促すという目的のために,商品の内容や特徴,商品を利用した場合の効果,サポート体制の説明をすることは,ごく一般的であるといえる。そして,商品の内容,特徴や商品を利用した場合の効果を説明するために,受講者や開発者に対するインタビューを用いることも,一般的であるといえる。

原告DVDと被告DVDの全体的な構成は,……原告が主張する7つという少なくない要素において一致するが,その各要素は,上記のとおり,同種の目的を有するDVDにおいては,いずれもごく一般的といえるものである。また,原告DVD及び被告DVDにおけるそれらの各要素の順序について,特別の印象を与えるようなものであるとはいえない。これらを考慮すると,原告DVDと被告DVDの原告主張の全体的な構成について,その各要素が共通する点をもって創作的な表現であるとは認められない。

また,……被告DVDは,複数の部分において,原告DVDの表現上の本質的な特徴を感得することができる。しかし,それらの本質的な特徴を感得することができる表現について,英会話教材の宣伝,広告用の動画における表現としては関連するとはいえるが,それ以上にそれらが表現上及び内容上,相互に密接に関連しているものとはいえない。このことに,全体的な構成の各要素が同種の目的を有するDVDにおいてごく一般的なものであること,被告DVDには,原告DVDの表現上の本質的な特徴を感得することができるとはいえない部分も多いこと……を考慮すると,被告DVDに原告DVDの表現上の本質的な特徴を感得することができる部分があるとしても,原告DVD全体についての表現上の本質的な特徴を被告DVDから感得することができるとまではいえない。

(13)小括
以上より、東京地裁は、以下のとおり、被告DVDが原告DVDに依拠して作成されたものと判断したうえで、被告DVDは、少なくとも、項目イ、ウ、オ、ケ、テ及びトにおいて、原告DVDを翻案したものと認めました。

以上によれば,被告DVDは,少なくとも,項目イ,ウ,オ,ケ,テ及びトにおいて,原告DVDの表現上の本質的特徴を被告DVDから直接感得することができる。

そして,原告DVDと被告DVDの配布時期……,別紙「動画画面対照表」及び「DVDスクリプト内容対照表」における共通点の内容等及び弁論の全趣旨に照らし,被告DVDは,原告DVDに依拠して作成されたものといえる。

これらのことに,前記のとおり,原告DVDと被告DVDでは,画面自体は異なり,原告DVDの表現に一定の修正,増減,変更等が加えられて別の表現となっていることなどから,被告DVDは,少なくとも,上記各項目において,原告DVDを翻案したものと認められる。

なお、東京地裁は、編集著作物としての侵害の主張(争点2)については、前記(12)と同様の理由により、理由がないものと判断し、原告DVDに含まれるスクリプト部分の言語の著作物の侵害の主張(争点3)についても、共通するスクリプトは、事実を述べるものか、英会話教材の宣伝、紹介用の動画において、ありふれたものということができ、その順序にも表現上の創作性があるとは認められないから、理由がないものと判断しました。

同一性保持権侵害の有無

東京地裁は、原告DVDと被告DVDの配布時期、原告DVDと被告DVDの内容及び弁論の全趣旨に照らし、被告DVDは、原告DVDの複数の項目について、原告DVDの表現に改変を加え、制作されたものと認められ、その制作は、原告DVDについてその著作者が有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害したと認められるものと判断しました。

損害の有無及び額

東京地裁は、原告DVDの著作者及び著作権者が原告であると認めたうえで、原告DVD及び被告DVDの内容等に照らし、被告DVDを制作した被告は、原告DVDに係る原告の翻案権、同一性保持権を侵害することについて、故意又は過失があったと認めました。

そして、東京地裁は、原告商品の価格(原告DVDを含む初回セット9400円(税別)、2回目以降のセット4300円(税別))、被告商品の価格(被告DVDを含む初回セット8800円(税込)、2回目以降のセット4100円(税別))、原告が発音方法の教材に関して他社に支払うライセンス料(教材の売上の10%=850円(税抜))等を認定したうえで、以下のとおり、被告DVDの1枚当たりのライセンス料相当額を1000円と認定し、被告が平成26年1月16日から同年8月1日頃までの間に被告DVDを215枚頒布したことに基づき、翻案権侵害による原告の損害を21万5000円と認定しました。
(計算式) 1000(円/枚)×215枚=21万5000円

……被告DVDは,被告商品の宣伝,広告用のDVDとして,被告DVDのみで配布されたり,被告商品の初回セットに含んで配布されたりしたものであり,被告DVDのみが販売された事実は認められない。もっとも,被告商品は,初回セットの価格が8800円(税込)であり,それ以降も受講者が継続的に2回目以降のセットを購入することも想定されていて,被告DVDは,そのような被告商品を顧客が継続的に購入するための重要な役割を果たすことが期待されていた。そこで,被告DVDのこのような性質,被告DVDは原告商品と競合する被告商品の宣伝,広告のためのものであること,原告DVDと被告DVDで共通する創作的な表現の内容や量その他の諸般の事情に照らせば,原告が受けるべき金員の額は,被告DVD1枚当たり1000円であると認めることが相当である。

また、同一性保持権侵害による原告の損害については、東京地裁は、無形的損害として10万円を認めました。その他、弁護士費用相当損害金5万円が認められました。

原告の請求の権利濫用該当性

原告は、平成26年7月8日に被告DVDを含む被告商品の初回セットを購入していました。

ところで、原告と被告との間では、平成26年頃から、原告が、被告に対し、被告が原告のキャッチフレーズの著作権を侵害したなどと主張して損害賠償を求める別件訴訟が係属していました。その別件訴訟においては、平成27年3月20日に東京地裁において原告の請求を棄却する判決がされ、同年11月10日に知財高裁において原告の控訴を棄却する判決(前記知財高裁平成27年11月10日判決)がされ、平成28年3月22日に最高裁において原告の上告を受理しない決定がされて、上記判決が確定し、原告の敗訴が確定しました。

しかし、原告は、本件提訴前に、被告DVDについて、裁判外で被告に対して問合せをしたり、損害賠償を求めたりすることはありませんでした。なお、被告は、経営判断から、発売後程なく被告商品の新規販売を停止しており、その後、被告商品を製造販売していません。

そのため、被告は、原告が平成26年時点で被告が原告の著作権を侵害している可能性を認識していたにもかかわらず、原告が、平成29年5月まで、被告DVDの製造、販売の差止めを求めず、同月、本件訴訟を提起して損害賠償を請求することは権利の濫用に該当すると主張しました。しかし、東京地裁は、以下のとおり、この主張を斥けました。

しかし,原告が平成25年時点で著作権侵害の可能性を認識したとしても,原告には上記認識後直ちに被告に対して被告DVDの製造,販売の差止めを求めなければならない義務はない。また,原告が,その製造,販売を容認していたなどの事情を認めるに足りる証拠はない。原告被告間では,前記……の別件訴訟が係属していたが,そこでは,本件とは別個のキャッチフレーズの著作権侵害の有無が争われていて,同訴訟の係属の事実が,別個の著作物に関する本件訴訟の提起が権利濫用となることを基礎付けるものとはいえない。被告主張の事実をもって,原告が平成29年5月まで被告DVDの製造,販売の差止めを求めず,本件訴訟を提起することが,権利の濫用になるとは認められない。

コメント

本判決は、法的論点について新たな解釈を示すものではありませんが、著作物性の判断という実務上重要な問題について、原告と被告のDVDの内容を詳細に対照し、どこまで事実やアイデア、創作性のない表現といった著作権法で保護されないもので、どこからが著作権法で保護されるかを具体的に示すものとして、実務上参考になると思います。

2つの作品の全体的な構成や印象が類似していると、それだけで直ちに著作権侵害であると考えたくなるものですが、あくまで表現のレベルで一致しているかどうかを検討する必要があります。同じような展開で動画が作成されていても、各項目における具体的な内容が異なっていれば、その展開自体に創作性がない限り、著作権侵害とはなりません。また、表現のレベルで一致していても、当該表現に創作性がなく、そもそも著作権法で保護されない可能性もあります。本件においても、例えば「あなたはどんな自分になりたいですか。なりたい未来のあなたを想像してください」(項目エ)は、被告DVDにおいて全く同じフレーズが登場しますが、ありふれた表現であることを理由に、翻案権侵害とはされていません。

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(文責・溝上)