本年(平成30年)3月27日、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(TPP11協定)に基づく国内整備法案「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律案」(TPP整備法改正法案)が内閣より国会に提出され、現在会期中の第196回国会において審議中です(※)。

法案によると、知的財産に関連する項目に関しては、TPP11協定発効の日に、「環太平洋パートナーシップ協定」(TPP12協定)に基づく従前の国内整備法である「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」(平成28年法律第108号・TPP整備法)と実質的に同一の内容で国内整備法が施行される予定です。

本稿では、TPPと知財関連国内法の動向についてお伝えします。

※追記:末尾の追記記載のとおり、平成30年6月29日に成立しました。

ポイント

TPP11協定では、TPP12協定において合意されていた項目のうち、知財に関するものを含む複数の項目が凍結(停止)となっていますが、わが国では、TPP11協定において凍結された知財関連項目についての各改正法(特許法・著作権法等)も、凍結に左右されることなく基本的にTPP11協定発効の日に施行される予定です。

TPP協定(TPP12 & TPP11)

TPP協定の流れ

TPP協定はこれまで下記のような経過をたどっています。

H28(2016).2 TPP12 12か国署名(未発効)
H28(2016).12.16 「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」(平成28年法律第108号)公布
H29(2017).1 TPP12からアメリカ離脱
H29(2017).11 11か国で合意・凍結項目あり
H30(2018).3.8 TPP11 11か国署名(未発効)
H30(2018).3.27 政府は「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律案」を国会に提出

TPP12協定の内容

平成28年(2016年)に成立したTPP12協定に基づくTPP整備法の概要については、過去のリーガルアップデート記事をご覧ください。
・TPPと特許法
・TPPと著作権法
・TPPと商標法・地理的表示法
・改正地理的表示法(改正GI法)の施行

TPP11協定の内容

経緯と概要

上記の経過表のとおり、TPP12協定の合意・署名により、各国ではTPP12協定に基づく国内法の整備が進められていました。ところが、アメリカのTPP12協定離脱により、TPP12協定の発効の見通しが立たなくなったため、TPP12協定に署名した12か国のうちアメリカを除く11か国は、新たにTPP11協定について合意を目指しました。

そして、上記11か国は、TPP12協定のうち、主としてアメリカが強く主張していた項目であって、知財に関するものを含む以下の22項目を凍結(停止)した上で、平成30年3月8日、新たにTPP11協定の合意・署名に至りました。

凍結項目(カッコ内は内閣官房提供のTPP協定日本語訳文における条文番号等に従っています)

〇急送少額貨物(5.7.1(f)の第2文)
〇ISDS(投資許可、投資合意)関連規定(第9章)
〇急送便附属書(附属書10-B 5及び6)
〇金融サービス最低基準待遇関連規定(11.2等)
〇電気通信紛争解決(13.21.1(d))
〇政府調達(参加条件)(15.8.5)
〇政府調達(追加的交渉)(15.24.2の一部)
〇知的財産の内国民待遇(18.8(脚注2の第3~4文))
〇特許対象事項(18.37.2、18.37.4の第2文)
〇審査遅延に基づく特許期間延長(18.46)
〇医薬承認審査に基づく特許期間延長(18.48)
〇一般医薬品データ保護(18.50)
〇生物製剤データ保護(18.51)
〇著作権等の保護期間(18.63)
〇技術的保護手段(18.68)
〇権利管理情報(18.69)
〇衛星・ケーブル信号の保護(18.79)
〇インターネット・サービス・プロバイダ(18.82、附属書18-E、附属書18-F)

〇保存及び貿易(20.17.5の一部等)
〇医薬品・医療機器に関する透明性(附属書26-A.3)

TPP11協定の発効日

TPP11協定は、署名国のうち少なくとも6又は半数のいずれか少ない方の国が国内法手続完了を通報した日の後60日で発効します。TPP12協定の発効要件に比べ、緩和されたものとなっています。

国内法の整備

TPP12協定に基づく整備法

わが国では、TPP12協定の内容に従って、関税暫定措置法や特許法など現行の各法律を改正するためのTPP整備法を策定し、同法は平成28年12月16日に公布されました。

これにより、改正される法律のほとんどは、施行を待つこととなっていましたが、その施行日はTPP12の発効日とされていたため、アメリカのTPP12離脱により、TPP整備法の施行も見通しが立たなくなりました。

なお、TPP整備法10条に基づく「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」(平成26年法律第84号)(略称「地理的表示法」(GI法))の改正法は、TPP整備法公布の直後から既に施行されています。

TPP11協定に基づく整備法

整備法による知財関連各法の改正

アメリカのTPP協定離脱により、アメリカを除く11か国は、新たにTPP11協定について合意・署名に至りましたが、法的には、TPP12協定とは別の条約であるため、TPP11協定が発効しても、TPP整備法が当然に施行されることになるわけではなく、これを施行するためには何らかの立法措置が必要となります。

その際、凍結された上記の22項目の内容も盛り込まれたわが国のTPP整備法(成立・公布後未施行の状態)に何らかの変更が加えられるのかが注目されていました。

この点について、本年3月27日、TPP11協定に基づく新たな国内整備法案であるTPP整備法改正法案(「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律案」)が内閣より国会に提出されたことにより、各法律の改正動向が明らかになったといえます。

この法案は、TPP11協定に基づいて一から作成したものではなく、従前のTPP整備法の一部改正案という形式になっており、知的財産関連項目を含む多くの部分において、TPP整備法を承継していることが特徴です。

整備法条文

TPP整備法改正法案では、少なくとも知的財産関連項目ではTPP整備法内で規定されていた改正内容について実質的な変更が加えられておらず、主な変更点は、以下に一部引用するように、TPP整備法の各条文の「環太平洋パートナーシップ協定」(TPP12協定)という文言が「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(TPP11協定)という文言に変更され、または、両文言が記載されることになった点です。

環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成二十八年法律第百八号)の一部を次のように改正する。

題名を次のように改める。

環太平洋パートナーシップ協定の締結及び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律

上記のような変更がTPP整備法における施行期日の規定についてもなされたことから、結果として、TPP整備法の施行日、すなわちTPP整備法内に規定された知財関連各法の改正の施行日が、TPP12協定発効日からTPP11協定発効日に変更されたことになります。

具体的には、TPP整備法の施行期日を定めた附則1条は以下のようなものでした。

「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」(平成28年法律第108号)

(施行期日)
附則第1条
この法律は、環太平洋パートナーシップ協定が日本国について効力を生ずる日(第三号において「発効日」という。)から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
(以下略)

これに対し、今回のTPP整備法改正法案には以下の規定が置かれ、施行期日が、TPP12協定発効日からTPP11協定発効日に変更されています。

「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律案」

附則第1条中「環太平洋パートナーシップ協定」を「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」に改め、同条に次の二号を加える。
(以下略)

知財関連各法の改正の行方

そうすると、TPP12協定ではなくTPP11協定となって協定が締結されたことによる国内法への影響は、少なくとも知的財産に関連する項目に関しては、従前のTPP整備法ではTPP12協定発効日に施行とされていたのが、今回TPP11協定発効日に施行へと変更された程度にとどまり、現在審議中の改正法案が成立すれば、内容としてはTPP12協定に基づく従前のTPP整備法と変わらないまま施行されることとなります。

したがって、TPP整備法に規定されている特許法や著作権法等の各法律の改正は、TPP11協定内での各項目の凍結に左右されることなく、基本的にTPP11協定の発効日に施行されることが見込まれます。

知財関連各法の改正動向

なお、TPP協定の発効にはある程度期間を要することから、TPP整備法により改正される項目について、TPP整備法の施行日以前(=TPP11協定発効日以前)に、他の改正法(「○○法の一部を改正する法律」など)により改正が実現されることはありうるものと思われます。

例えば、今国会では「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」も審議されていますが、この中で、TPP整備法による改正項目の1つでもある特許法30条を改正する旨が定められています。この規定は、発明の新規性喪失の例外期間、すなわちグレースピリオドを従前の6か月から1年に延長するというものですが、公布の日から10日を経過した日から施行されることとなっているため、おそらくTPP11協定発効日以前に施行されることが予想されます。(ちなみに、グレースピリオドの延長は、TPP11協定凍結項目には含まれていません。)

TPP協定それ自体については、先日アメリカが復帰の検討を開始したという報道もあってまだまだ動向が気になるところであり、それとともに、今後の知財関連法改正の動向が注目されます。

平成30年6月29日追記

「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律案」は、平成30年6月29日、参議院本会議で可決され、成立しました。

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(文責・村上)