平成28年の関税法改正(平成28年6月1日施行)により、営業秘密侵害品(営業秘密の不正使用行為により生じた物)が輸出入禁止物品に追加されました。

輸出入を差し止めるのは容易ではないものの、今後営業秘密が流出した場合に採り得る手段の一つになるものと思われます。
他の水際対策とは少し異なる手続きを踏む必要がありますので、施行から少し時間が経ちましたが、ここでご紹介します。

ポイント

骨子

  • 平成28年の関税法改正(平成28年6月1日施行)により、営業秘密侵害品が輸出入禁止物品に追加されました。
  • 営業秘密侵害品の輸入差止にあたっては、営業秘密侵害品であること及び輸入者の悪意について、経済産業大臣による認定手続きを経る必要があります。

法令概要

法令の名称等 関税法(昭和29年法律第61号)
改正法案の名称等 関税定率法等の一部を改正する法律(平成28年法律第16号)
所管官庁 財務省
成立日 平成28年3月29日
施行日 本稿に関する部分について平成28年6月1日

解説

不正競争防止法の改正を受けた関税法の改正

度重なる営業秘密流出事件(新日鐵住金事件、東芝事件等)を受けて、平成27年の不正競争防止法改正により、営業秘密の保護が強化され、また、営業秘密の不正使用行為に対する罰則も厳しくなりました。
同改正の一環として、営業秘密侵害品の譲渡や輸出入等(善意無重過失の譲受人による行為は除外)が不正競争行為に追加されました(不正競争防止法2条1項新10号)。

今回の関税法改正は、この不正競争防止法改正を受けて、税関においても、営業秘密侵害品の輸出入を差し止めることができるようにしたものです。

関税法に基づく輸入差止

知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権等)の侵害品や、不正競争防止法2条1項1・2号(他人の周知又は著名標章の使用行為)、同3号(形態模倣〔他人の商品のデッドコピー〕)、同11・12号(技術的保護手段回避〔コピーガード外し〕)の行為により生じた物は、関税法により、輸入が禁止されています(関税法69条の11)。

権利者は、侵害品が輸入されようとする場合に税関長が認定手続きを執るべきことを申し立てることができます(関税法69条の13)。
そして、税関長は、侵害品に該当する貨物があると思料するときは、侵害品に該当するか否かを認定手続きをとらなければなりません(関税法69条の12)。

つまり、権利者が事前に輸入差止を申し立て、これが認められた場合には、実際に貨物が輸入される際に、税関が認定手続を行い、侵害品と認定された場合には、輸入が差し止められることになります。
認定手続においては、権利者と輸入者がそれぞれ証拠や意見を提出し、1か月程度を目途に税関が判断を下すこととされています。

営業秘密侵害品の輸入差止に特有の手続

営業秘密侵害品の輸入について、上記の差止めを申し立てる場合、申立書・証拠に経済産業大臣の認定書面を添付しなければなりません(関税法69条の13第1項、関税法第69条の4第1項の規定による経済産業大臣に対する意見の求めに係る申請手続等に関する規則4条)。
つまり、輸入差止の前に、経済産業大臣の認定手続を経る必要があるということです。
これが他の輸入差止との違いです。

認定を受ける必要がある事実は、①営業秘密侵害品であることと、②輸入者が営業秘密侵害品であることについて悪意又は重過失であることです。
②については、不正競争防止法では、輸入者の側で善意無重過失であることを抗弁として主張する(輸入者側に主張立証責任がある)形になっていますが、関税法では主張立証責任が転換されています。

経済産業大臣の認定手続を申請する際には、申請書に、貨物を特定する事項、輸入者を特定する事項、営業秘密の内容、営業秘密の要件(秘密管理性、有用性、非公知性)を満たすこと、営業秘密の侵害態様、輸入者が営業秘密侵害品であることについて悪意又は重過失であることを記載し、その根拠資料(申請者が権利者であることの資料、判決、弁護士・弁理士の鑑定書、営業秘密が記載された設計図、手順書、輸入者への警告書等)とともに提出することとされています。

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(文責・藤田)