京都地方裁判所第2民事部(久留島群一裁判長)は、本年(令和2年)6月10日、不正競争防止法2条1項20号の「その商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示」について、これらの事項は同法が規制する事項を限定列挙したものであるとの解釈を示しました。

他方、判決は、そこに列挙されていない事項についての表示であっても、商品の優位性と結びつくことで需要者の商品選定に影響するような表示である場合には、品質、内容等を誤認させる表示となる余地が残るとも述べています。

事案は、井筒八ッ橋本舗と聖護院八ッ橋総本店という、京都の銘菓である「八ツ橋」の2つの老舗の間で、「創業元禄二年」との表示が不正競争にあたるかが争われたものです。

ポイント

骨子

  • 立法経緯に加えて,不正競争防止法では,20号の不正競争行為に対し,事業者間の公正な競争の確保という観点から,民事上の措置として事業者による差止め及び損害賠償の請求を認めるだけでなく,不正の目的又は虚偽のものに限って刑事罰を設けているなどの強力な規制を設けているため(同法21条2項1号,5号),不正競争行為となる対象についての安易な拡張解釈ないし類推解釈は避けるべきであるといえることも併せ考えると,20号の規制対象となる事項は,同号に列挙された事項に限定されると解される。
  • もっとも,20号に列挙された事項を直接的に示す表示ではないものも,表示の内容が商品の優位性と結びつくことで需要者の商品選定に影響するような表示については,品質,内容等を誤認させるような表示という余地が残ると解するのが相当である。それは,取引の実情等,個別の事案を前提とした判断といえる。

判決概要

裁判所 京都地方裁判所第2民事部
判決言渡日 令和2年6月10日
事件番号
事件名
平成30年(ワ)第1631号
不正競争行為差止等請求事件
裁判官 裁判長裁判官 久留島 群 一
   裁判官 鳥 飼 晃 嗣
   裁判官 秦   卓 義

解説

不正競争防止法とは

不正競争防止法は、「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的とする法律で、同法2条1項各号に列挙された行為を「不正競争」とし、規制するものです。不正競争と定義される行為には、他人の商品等の表示や形態、営業秘密、データの冒用から信用毀損まで、およそ事業者間の公正な競争を害する行為が広く含まれています。

(目的)
第一条 この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

同条項に列挙された不正競争は、民法上の不法行為を構成する行為を類型化したものといえますが、不正競争防止法上の不正競争とされることにより、差止請求が可能になるほか、損害額の推定規定の適用を受けることが可能になります。また、悪質な不正競争については、刑事罰も規定されています。

品質等誤認表示と規制対象事項

品質等誤認表示とは

不正競争防止法2条1項20号(「本規定」)は、以下のとおり、広告等において、自己の商品の品質等を誤認させる表示をする等の行為を不正競争としています。

(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
(略)
二十 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為
(略)

こういった表示は、一般に「品質等誤認表示」と呼ばれ、需要者に対し、自己の商品等が競争事業者の商品等よりも優位なものと誤認させうることから、不正競争に位置付けられています。

規制対象事項

上記の規定にあるとおり、品質等誤認表示に関して規制の対象となる事項は、「その商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示」とされています。

つまり、商品については、以下の事項の表示が規制の対象となります。

  • 原産地
  • 品質
  • 内容
  • 製造方法
  • 用途
  • 数量

また、役務については、以下の事項の表示が規制の対象となります。

  • 内容
  • 用途
  • 数量

事案の概要

本件の当事者は、いずれも京都の銘菓「八つ橋」の老舗で、原告は、被告が、正確な根拠に基づかずに、店舗の暖簾や看板、ディスプレイなどにおいて、被告の創業が元禄二年(1689年)であることを示す表示をしていると主張し、これが不正競争防止法上の品質等誤認表示にあたるとして、その差止や損害賠償を求めました。

もっとも、創業がいつであるかは「商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量」のいずれにも該当しないため、その表示の位置付けが争点となりました。

判旨

判決は、まず、本規定の立法経緯を特定する上で、以下のとおり、本規定が、平成5年改正前の不正競争防止法において適用上疑義のあった「価格」、「在庫量」及び「表彰等の有無」が含まれる形で改正することが望まれていたことを認定しました。

平成4年3月付けの財団法人知的財産研究所による平成3年度「知的財産政策に関する調査研究」委託調査結果報告書(不正競争防止法に関する調査研究)には,不正競争防止法上新たに追加すべき規制対象を検討する場合に踏まえる点として,当時の不正競争防止法上,疑義のある「価格」,「在庫量」及び「表彰等の有無」なども読み込み得る形での明確な規定が望ましいと考えられる旨が記載されている。

また、判決は、以下のとおり、法改正時における産業構造審議会の審議において、本規定に列挙された事項以外の事項については、規制の対象とすることについて社会的コンセンサスがなく、将来の検討事項に位置付けられていたことを認定しました。

平成5年に改正された不正競争防止法の基礎となった,平成4年12月14日付け産業構造審議会知的財産政策部会の不正競争防止法の見直し方向の審議では,判例の中には,当時の不正競争防止法上明記されていない「価格」及び「規格・格付」を「品質,内容」に含まれると解したものがあるところ,「価格」及び「規格・格付」のうち解釈上「品質,内容」に含まれないものについて規制する必要があるかどうかについては,我が国の経済取引社会の実態を踏まえれば,少なくとも現段階において,内容等に係るものと同様に不正競争防止法上の不正競争行為として位置付け,差止請求による民事的規制の対象とする社会的コンセンサスは形成されていないものと考えざるを得ず,今後の我が国経済取引社会の実態の推移を慎重に見守りつつ検討することが適当である旨の結論が出された。また,同審議会では,当時の誤認惹起行為規制の対象とすることを検討すべき事項として挙げられるものは,供給可能量,販売量の多寡,業界における地位,企業の歴史,取引先,提携先等極めて多岐にわたるところ,これらの事項に係る誤認惹起行為についても,我が国の経済取引社会の実態を踏まえれば,少なくとも現段階において,内容等に関するものと同様に不正競争防止法の不正競争行為として位置付け,差止請求による民事的規制の対象とする社会的コンセンサスは形成されていないものと考えざるをえず,今後の我が国経済取引社会の実態の推移を慎重に見守りつつ,検討することが適当であるとの結論が出された。

判決は、こういった立法経緯に加えて、不正競争防止法は刑事罰を設けていることから、規制対象の安易な拡張解釈や類推解釈は避けるべきことも踏まえ、本規定は規制対象を限定列挙したものであるとの解釈を示しました。

以上の立法経緯に加えて,不正競争防止法では,20号の不正競争行為に対し,事業者間の公正な競争の確保という観点から,民事上の措置として事業者による差止め及び損害賠償の請求を認めるだけでなく,不正の目的又は虚偽のものに限って刑事罰を設けているなどの強力な規制を設けているため(同法21条2項1号,5号),不正競争行為となる対象についての安易な拡張解釈ないし類推解釈は避けるべきであるといえることも併せ考えると,20号の規制対象となる事項は,同号に列挙された事項に限定されると解される。

他方において、判決は、本規定において規制の対象とされていない事項の表示であっても、それが商品等の優位性と結びつき、需要者の商品選定に影響する場合には、品質、内容等を誤認させる表示として規制対象となりうることを示しました。

もっとも,20号に列挙された事項を直接的に示す表示ではないものも,表示の内容が商品の優位性と結びつくことで需要者の商品選定に影響するような表示については,品質,内容等を誤認させるような表示という余地が残ると解するのが相当である。それは,取引の実情等,個別の事案を前提とした判断といえる。

以上の考え方のもと、判決は、創業年に関する表示の需要者に対する影響について詳細に検討し、正確な創業の経緯は特定することが困難であることや、八ツ橋に関して、創業年が需要者の選択において大きな意味を持つものではないなどといったことから、結論において、品質等誤認表示にはあたらないとの判断をしました。

コメント

本件は、事例判断を示したものではありますが、不正競争防止法2条1項20号の規制対象となる事項が限定的に列挙されたものである一方、そこに列挙されていない事項についての表示であっても、商品の優位性と結びつくことで需要者の商品選定に影響するような表示である場合には、品質、内容等を誤認させる表示となる余地が残るとの考え方を示し、これに従った認定判断をしている点で参考になるものと思われます。

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(文責・飯島)