知的財産高等裁判所第1部(本多知成裁判長)は、令和5年(2023年)12月25日、意匠法4条2項の新規性喪失の例外の適用を受けるために提出される公開意匠の証明書に記載された意匠は引用意匠と同一であることを要し、仮に相違するとしても、「物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であると十分理解できる範囲内」の相違であることを要するとの考え方を示しました。

意匠登録出願において、意匠法4条2項に基づく新規性喪失の例外の適用を受けるためには、出願手続において、同条3項が規定する公開意匠の証明書を提出する必要がありますが、同証明書は、引用意匠が権利者の行為に起因して公知になったものであることを証明する文書であるため、証明書には、引用意匠が記載されている必要があります。

もっとも、出願に先立って、引用意匠となり得る複数の意匠を公開した場合など、本願意匠との関係で新規性喪失の原因となる引用意匠とは異なる意匠を証明書に記載する、といった状況もあり得ます。このような場合について、本判決は、上述のとおり、新規性喪失の例外の適用を受けるためには、両意匠の相違があるとしても、「物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であると十分理解できる範囲内」のものであることを要するとしたもので、出願実務上重要な留意点を指摘するものといえます。

なお、意匠法4条3項は平成5年に改正されており、一定の要件を満たす場合には、引用意匠と類似の意匠が証明書に記載された場合にも救済を受けられる余地が生まれましたが、類似性判断の不安定性を避け、確実に新規性喪失の例外の適用を受けようとすれば、なお証明書には、本願意匠の新規性喪失の原因となり得る引用意匠と同一の意匠を記載することが望ましく、この改正を踏まえても、本判決による注意喚起は重要であるといえるでしょう。

ポイント

骨子

  • 意匠法4条3項は、同法3条1項の例外として、同法4条2項の新規性喪失の例外の適用を受けるための特別の要件として規定されているものであって、原則として意匠登録出願前に意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公開される意匠ごとに同意匠に係る証明書を提出すべきであり、それゆえ、証明書に記載される意匠と引用意匠は同一でなければならないと解される。
  • もっとも、証明書に記載される意匠と引用意匠との間に僅少な相違があるにすぎない場合にも同一性を欠くとすることは相当ではなく、また、意匠登録出願者の手続的負担も考慮すると、証明書に記載された意匠と引用意匠の相違点が、物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であると十分理解できる範囲内のものであると認められる場合には、証明書に記載された意匠と引用意匠はなお同一であると認められると判断するのが相当である。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 令和5年12月25日
事件番号
事件名
令和5年(行ケ)第10071号
審決取消請求事件
対象出願 意願2021-19105
原審決 特許庁令和5年5月22日
不服2022-13077号
裁判官 裁判長裁判官 本 多 知 成
裁判官    遠 山 敦 士
裁判官    天 野 研 司

解説

意匠権と意匠登録出願手続

意匠とは

意匠法は「意匠」を保護する法制度ですが、ここにいう「意匠」とは、ざっくりいうと工業デザインのことで、意匠法2条1項により、以下のものがこれに該当するものとされています。

  • 物品の形状
  • 建築物の形状
  • 機器の操作の用に供される画像(操作画像)
  • 機器がその機能を発揮した結果として表示される画像(表示画像)

(定義等)
第二条 この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。次条第二項、第三十七条第二項、第三十八条第七号及び第八号、第四十四条の三第二項第六号並びに第五十五条第二項第六号を除き、以下同じ。)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。
(略)

意匠登録出願とは

意匠法による意匠の保護は、意匠の創作者に対し、意匠権と呼ばれる権利を与えることを具体的な内容とします。意匠権は、以下の意匠法20条1項が定めるとおり、特許庁で登録を受けることによって生じる権利です。

(意匠権の設定の登録)
第二十条 意匠権は、設定の登録により発生する。

意匠登録を受けるためには、以下の意匠法6条1項により、所定の事項を記載した願書を特許庁長官に提出して出願することが必要です。

(意匠登録出願)
第六条 意匠登録を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書に意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付して特許庁長官に提出しなければならない。
 意匠登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
 意匠の創作をした者の氏名及び住所又は居所
 意匠に係る物品又は意匠に係る建築物若しくは画像の用途
(略)

意匠登録出願に対して審査が行われた結果意匠登録を受けると、その意匠は、「登録意匠」と呼ばれます。

(定義等)
第二条 (略)
 この法律で「登録意匠」とは、意匠登録を受けている意匠をいう。

意匠権の効力

意匠登録を受けて意匠権が発生すると、意匠権者は、以下の意匠法23条により、登録意匠及び登録意匠に類似する意匠を実施する権利を専有します。

(意匠権の効力)
第二十三条 意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。(略)

ここにいう「実施」については、以下の意匠法2条2項に、物品、建築物、画像といった類型ごとの定義があり、物品の意匠(同項1号)についてみると、意匠にかかる物品の製造販売や輸出入、使用等がこれに該当します。

(定義等)
第二条 (略)
 この法律で意匠について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
 意匠に係る物品の製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出若しくは輸入(外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為を含む。以下同じ。)又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為
 意匠に係る建築物の建築、使用、譲渡若しくは貸渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為
 意匠に係る画像(その画像を表示する機能を有するプログラム等(特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第二条第四項に規定するプログラム等をいう。以下同じ。)を含む。以下この号において同じ。)について行う次のいずれかに該当する行為
 意匠に係る画像の作成、使用又は電気通信回線を通じた提供若しくはその申出(提供のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
 意匠に係る画像を記録した記録媒体又は内蔵する機器(以下「画像記録媒体等」という。)の譲渡、貸渡し、輸出若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為
(略)

このような実施行為を行う権利を意匠権者が専有する結果、例えば物品の意匠登録がある場合についてみると、意匠権者は、第三者が許諾なく登録意匠または類似意匠にかかる物品を製造販売等したときは、当該第三者に対し、差止や損害賠償といった請求をすることができます。また、故意に意匠権を侵害した場合には、刑事罰も規定されています。

意匠登録の要件と新規性喪失の例外

意匠登録の要件

ある意匠が意匠登録を受けるためにはいくつかの要件を充足する必要がありますが、意匠法3条は、そのうち、実体的要件として、以下の各点を求めています。

  • 工業上の利用可能性(同条1項柱書)
  • 新規性(同項各号)
  • 創作非容易性(同条2項)

(意匠登録の要件)
第三条 工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
 前二号に掲げる意匠に類似する意匠
 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られ、頒布された刊行物に記載され、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた形状等又は画像に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、同項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。

新規性喪失の例外

上記意匠法3条のうち、同条1項は、同項各号に該当する意匠、つまり、出願時点で公になっていた意匠につき、新規性を欠くものとして、登録を受けられる意匠から除外していますが、下記の意匠法4条は、その例外として、以下の2つの場合につき、すでに公になっていた意匠や、そのような意匠に基づいて容易に創作できた意匠についても、意匠登録を認めることとしています。

  • 権利者の意に反して公知になったとき
  • 権利者の行為に起因して公知になった場合において、公知になってから1年以内に意匠登録出願をしたとき

(意匠の新規性の喪失の例外)
第四条 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠は、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、同条第一項第一号又は第二号に該当するに至らなかつたものとみなす。
 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
(略)

この制度は、「新規性喪失の例外」と呼ばれます。

権利者の行為に起因して公知となった場合における例外適用の手続

新規性喪失の例外が認められる上記の2つの事由のうち、権利者の行為に起因して公知になった場合については、1年以内に出願されることに加えて、意匠登録出願から30日以内に、出願にかかる意匠が権利者の行為に起因して公知になった意匠であることについての証明書を提出することが必要になります。

(意匠の新規性の喪失の例外)
第四条 (略)
 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(以下この条及び第六十条の七において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。ただし、同一又は類似の意匠について第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至る起因となつた意匠登録を受ける権利を有する者の二以上の行為があつたときは、その証明書の提出は、当該二以上の行為のうち、最先の日に行われたものの一の行為についてすれば足りる。
(略)

この規定は、デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化の一環として、令和5年改正法(不正競争防止法等の一部を改正する法律)により改正されたもので、その際に但書の部分の記載が加えられました。この改正は、公開意匠の証明書の提出にかかる出願人の負担軽減を図るもので、令和6年(2024年)1月1日以降の出願に適用されます。

公開意匠の証明書が適式に提出されない場合、意匠法4条2項による新規性喪失の例外は適用を受けられません。その結果、意匠出願は、以下の意匠法17条1号により、同法3条の要件を充足しないものとして、拒絶されることになります。

(拒絶の査定)
第十七条 審査官は、意匠登録出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その意匠登録出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
 その意匠登録出願に係る意匠が第三条、第三条の二、第五条、第八条、第八条の二、第九条第一項若しくは第二項、第十条第一項、第四項若しくは第六項、第十五条第一項において準用する特許法第三十八条又は第六十八条第三項において準用する同法第二十五条の規定により意匠登録をすることができないものであるとき。

公開意匠の証明書は、意匠法施行規則第1条により、同規則に定められた様式によって提出することとされています。

(意匠の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書提出書の様式)
第一条 意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)第四条第三項の規定により提出すべき証明書の提出は、様式第一によりしなければならない。

この様式に従わなかったからといって直ちに登録出願が拒絶されるわけではありませんが、スムーズな審査を受けるためには、様式を用いることが推奨されます。

事案の概要

原告及び本願意匠

本訴訟の原告は、令和3年9月3日、以下の意匠(「本願意匠」)について登録出願(意願2021-19105・「本件出願」)をした出願人です。

【意匠にかかる物品】 バッグ

引用意匠

本件出願についての審査においては、以下の引用意匠との関係が問題になり、本願意匠と類似するものと判断されました。

なお、判決文からは、引用意匠が本願意匠について意匠登録を受ける権利を有する者によって公開されたものなのかは必ずしも明らかではなく、また、後述の結論に至るにあたり、その点の事実認定が必須というわけではないのですが、事案の性質に鑑み、本願意匠の権利者によって公開されたものと考えられます。

公開意匠の証明書記載の意匠

原告は、本願意匠の創作者が公開したウェブサイトの記事を引用し、以下の公開意匠について、意匠法4条3項に基づく証明書を提出していました。

訴え提起に至る経緯

審査では、上記の証明書に基づき、引用意匠との関係で新規性喪失の例外の適用を受けられるかが問題になりました。

この点、特許庁は、公開意匠の証明書に記載された意匠と引用意匠とは、スタッズ(金属製の鋲)の数や配置、本体部や把持部の色彩が相違することから同一性を欠くとして、新規性喪失の例外の適用を否定し、本件出願について拒絶査定をしました。要するに、引用意匠とは異なる意匠について証明書が提出されたものである以上、引用意匠について証明書が提出されたことにならず、意匠法4条2項を適用するための要件を欠くと判断されたわけです。

原告は、これを不服として、拒絶査定不服審判(不服2022-13077号)を請求しましたが、特許庁が不成立審決をしたため、当該審決の取消しを求めて、本訴訟を提起しました。

原告は、本訴訟において、両意匠が相違することは前提としつつ、意匠の同一性が認められるためには実質同一ということができれば足りるとの前提のもと、本件における各意匠が需要者に与える印象を考慮すると、両者には実質的同一性があると主張しました。

判旨

判決は、まず、以下のとおり、意匠法4条3項の趣旨に照らして、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公開される意匠ごとに公開意匠の証明書を提出すべきであり、それゆえ、証明書に記載される意匠と引用意匠は同一であることが求められる旨判示しました。

意匠法4条3項は、同法3条1項の例外として、同法4条2項の新規性喪失の例外の適用を受けるための特別の要件として規定されているものであって、原則として意匠登録出願前に意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公開される意匠ごとに同意匠に係る証明書を提出すべきであり、それゆえ、証明書に記載される意匠と引用意匠は同一でなければならないと解される。

他方、判決は、ここにいう「同一」の意味として、証明書記載の意匠と引用意匠に相違があるとしても、両者が実質同一である場合、すなわち、「物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であると十分理解できる範囲内のものであると認められる場合」には、なお同一と認められるとの考え方を示しました。

もっとも、証明書に記載される意匠と引用意匠との間に僅少な相違があるにすぎない場合にも同一性を欠くとすることは相当ではなく、また、意匠登録出願者の手続的負担も考慮すると、証明書に記載された意匠と引用意匠の相違点が、物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であると十分理解できる範囲内のものであると認められる場合には、証明書に記載された意匠と引用意匠はなお同一であると認められると判断するのが相当である。

その上で、判決は、以下のとおり、本件においては、バッグの外周の形状との位置関係も考慮すると、本件におけるスタッズの数や配置の相違は、両意匠に異なる美観をもたらしていると判示しました。

両意匠の相違点であるスタッズについては、スタッズを設けること自体は、バッグという物品の性質上、ありふれたものであるといえるものの(略)、スタッズの数や配置態様は一様ではなく、その数や配置態様によっては美観に影響を及ぼすものであるところ、両意匠の相違点であるスタッズの態様については、十分肉眼で看取可能であって、バッグの正面の意匠の装飾的な構成要素として機能し、「上から一つ目から二つ目よりも二つ目から三つ目の間隔をやや長く」三つ配したものと「四つずつ、略等間隔に」配したものとでは、その構成が異なる上、両意匠の共通点である収納部の正面上辺及び左右辺の三辺の形状との関係において、証明書記載意匠は、左右辺の山部三つに対して同数の三つのスタッズが配置されており、二つ目のスタッズが左右辺中央部の山部の頂を直線で結んだ線上の位置にあるのに対し、引用意匠は、左右辺の山部三つに対して一つ多い四つのスタッズが配置されており、二つ目のスタッズが左右上角部の山部と左右辺中央部の山部との間の谷部下方寄りの位置にあり、上から三つ目のスタッズが左右辺中央部の山部と左右下角部の山部との間の谷部中央やや上方寄りの位置にあることから、両意匠の共通点である収納部の正面視の左右辺の山部との関係性からも、それぞれ異なる美観を有するものといえる。

以上の認定判断を経て、判決は、以下のとおり、両意匠の同一性を否定して新規性喪失の例外の適用を排除し、原告の請求を棄却しました。

そうすると、両意匠の相違点である正面側のスタッズの個数及び配置態様の点は、物品の形状等による美観に影響を及ぼす相違点といえることから、証明書に記載された意匠と引用意匠の相違点が物品の性質や機能に照らして実質的にみて同一であると十分理解できる範囲内のものであると認められる場合とはいえない。

コメント

証明書記載の意匠との関係では、証明書記載の意匠の同一または類似の範囲まで登録が認められる本願意匠と、新規性喪失の例外の適用のために同一性が求められていた引用意匠とで状況が異なるため、少し分かりにくい面はありますが、公開意匠の証明書に関する意匠法の趣旨に照らせば、引用意匠との間に同一性が求められたのは当然のことといえます。実際、原告も、証明書記載の意匠と引用意匠が実質同一でなければならないことを前提とした主張をしており、争点は、具体的事案における同一性判断にありました。

今後の実務との関係では、解説において紹介したとおり、令和5年改正意匠法4条3項には但書が設けられ、同一又は類似の意匠について新規性喪失の原因となった公開等の行為が複数ある場合は、最先の日の行為について証明書を提出すれば足りるものとされました。同改正法が適用されるのは令和6年1月以降の意匠登録出願ですので、令和3年に出願がされた本件に適用はありませんが、本件では、証明書記載の意匠の公開日が2021年3月、引用意匠の公開日が同年8月とされていますので、仮に改正法が適用されたとしたならば、両意匠が類似するものと認められる限り、新規性喪失の例外が適用されたことになります。一般論として、権利者が公開した引用意匠が複数ある場合に、本願意匠とは同一性を欠く意匠を証明書に記載してしまうということはありがちではないかと思われるところ、今後は、改正法により、こういった手続上のミスが救済される可能性が出てくるでしょう。

もっとも、改正法の適用を受けるには、証明書記載の意匠が先に公開されたものであることが必要であるほか、引用意匠と証明書記載の意匠との間に類似性が求められるところ、類似性判断には不安定性が伴います。そのため、意匠法4条2項の新規性喪失の例外の適用を確実に受けるためには、今後も、本願意匠の新規性喪失の原因となり得る引用意匠と同一の意匠を証明書に記載することが望ましく、本判決は、今後もなお実務上重要な注意喚起であり続けるものと思われます。

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(文責・飯島)