知的財産高等裁判所第4部(菅野雅之裁判長)は、本年(令和5年)3月7日、商標の拒絶査定不服審判の不成立審決に対する取消訴訟において、政府機関の監督・証明用の印章・記号として経済産業大臣が指定したものと同一の構成の商標についての同一の商品にかかる登録出願について、当該政府機関が出願人となる場合であっても、商標法4条1項5号に該当するとの判断を示し、原告(出願人)の訴えを棄却しました。

原告は、訴訟において、我が国のパリ条約の日本語公定訳には誤訳があり、商標法4条1項5号は 、パリ条約6条の3(1)(a)にかかる国内法実施義務を履行していないとも主張していましたが、判決は、原告が指摘する訳文を誤訳と断じることはできず、また、原告の解釈によっても、「権限のある官庁の許可」を受けた商標登録出願を拒絶してはならない義務を負うものではなく、また、登録をしなければならないとの解釈もできないとして、原告の上記主張を排斥しました。

通常の企業実務にあまり影響しない問題とは思われますが、珍しい事案であるため、紹介します。

ポイント

骨子

政府機関による出願の商標法4条1項5号該当性について
  • 原告が「マレーシア国の法律に基づく政府機関であって、財産処分権限及び管理権限を有する」法人である・・・としても、本願商標は、パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国の政府の監督庁又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一の商標であって、その印章又は記号が用いられる商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから、商標法4条1項5号に該当する。
パリ条約原文との関係における商標法4条1項5号の適用範囲の解釈について
  • 原告が指摘する「à défaut d’autorisation des pouvoirs compétents,」(権限のある官庁の許可を受けずに)は、原文上、「l’utilisation,」 と「,」で続けて副詞句として挿入されており、文言において、この「à défaut d’autorisation des pouvoirs compétents,」が「d’interdire・・・l’utilisation」(使用を禁止する)のみに係るものであるのか、「de refuser ou d’invalider l’enregistrement et d’interdire,」(登録を拒絶し又は無効とする)にも係るものであるのか、文法的には、どちらと読むことも可能であることや、「権限のある官庁の許可を得ていない」という文言が、当初は「d’interdire・・・l’utilisation」のみに係るものとして起草されていたところ、起草委員会が総会に示した条約案では、上記原文に書き換えられ、そのまま確定したことにより、文法的には2通りの解釈が可能になったことは、【A】意見書も指摘するとおりであるから、日本語公定訳のとおり、「à défaut d’autorisation des pouvoirs compétents,」が、「d’interdire・・・l’utilisation」のみに係ることを前提としても、パリ条約6条の3(1)(a)の誤訳であると断じることはできない。
  • また、仮に、原告が指摘するような解釈、すなわち、「権限のある官庁の許可を受けない」同盟国の紋章等の商標又はその構成部分としての登録を拒絶し、又は無効とするとの解釈を採用するとしても、同規定は、「権限のある官庁の許可」を受けた登録出願をどのように取り扱うについてまで規定するものではない(これらの紋章等の「商標又はその構成部分としての登録を拒絶し又は無効とし」とされていることの反対解釈として、それ以外の場合は当然に登録をしなければならない義務を本条約が締結国に課したと解することはできない。)から、そもそも同条に基づき、我が国が「権限のある官庁の許可」を受けた登録出願を拒絶してはならない義務を負うものではないし、同条を根拠として商標法4条1項5号の適用範囲を狭めて「登録をしなければならない」ものと解釈されるべきものでもない。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第4部
判決言渡日 令和5年3月7日
事件番号
事件名
令和4年(行ケ)第10101号
審決取消請求事件
出願番号 商願2019-117766号
原審決 不服2021-008337号
裁判官 裁判長裁判官 菅 野 雅 之
裁判官    中 村   恭
裁判官    岡 山 忠 広

解説

商標の不登録事由と政府機関の印章・記号

特定の商品や役務(サービス)について使用する商標について商標登録を受けると商標権が生じ(商標法18条1項)、商標権者は、その商品・役務について登録商標を使用する権利を専有することができます(同法25条本文)。

商標は、商品や役務の出所を識別するための標章(マーク)ですので、商標登録を受けるためには商標に識別力があることが必要で、具体的な要件は商標法3条に規定されていますが、同規定の要件を充足する場合においても、一定の場合には登録を受けられない場合があります。

そのような不登録事由を定めているのが商標法4条1項各号で、その中でも、同項15号は、以下のとおり、日本または外国の政府機関等が監督や証明に用いる印章や記号のうち、経済産業大臣が指定するものについて、商標として登録することができないものとしています。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(略)
 日本国又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の標章を有する商標であつて、その印章又は記号が用いられている商品又は役務と同一又は類似の商品又は役務について使用をするもの
(略)

これは、公益的観点から設けられた不登録事由で、政府機関等の印章や記号が商標として使用されると、商品の品質等について、需要者に誤認をもたらす可能性があることを根拠とします。

不正競争防止法と政府機関の印章・記号

上述のとおり、政府機関等の印章や記号は商標登録の対象とならないため、そういった標章について、誰かが排他的な使用権を保有することはできませんが、逆にいえば、登録を受けることさえ求めなければ、誰でも政府機関等の印章や記号を商標として使用できることになります。しかし、それでは需要者の誤認防止という目的が達成できません。そこで、以下の不正競争防止法16条3項は、「国際約束に基づく禁止行為」(同法第3章の表題)の一環として、「外国の政府若しくは地方公共団体の監督用若しくは証明用の印章若しくは記号であって経済産業省令で定めるもの」を「外国政府等記号」と称し、これを商標として使用することを禁じています。

(外国の国旗等の商業上の使用禁止)
第十六条 (略)
 何人も、外国の政府若しくは地方公共団体の監督用若しくは証明用の印章若しくは記号であって経済産業省令で定めるもの(以下「外国政府等記号」という。)と同一若しくは類似のもの(以下「外国政府等類似記号」という。)をその外国政府等記号が用いられている商品若しくは役務と同一若しくは類似の商品若しくは役務の商標として使用し、又は外国政府等類似記号を当該商標として使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくは外国政府等類似記号を当該商標として使用して役務を提供してはならない。ただし、その外国政府等記号の使用の許可を行う権限を有する外国の官庁の許可を受けたときは、この限りでない。

この規定は、不正競争防止法2条1項各号が定義する「不正競争」の内容となるものではないため、同法3条による差止請求の対象にはなりませんが、以下の同法21条3項7号により、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその併科の対象とされています。

(罰則)
第二十一条 (略)
 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(略)
 第十六条又は第十七条の規定に違反したとき。
(略)

その結果、商標法上政府機関等の印章や記号について専用権を得ることはできなくても、実際上、政府機関等の許可を得ずに商標として使用することは抑止されることになっています。

なお、政府機関等の印章や記号を用いることが、以下の不正競争防止法2条1項20号の品質等誤認惹起行為に該当するときは、差止請求(同法3条)や損害賠償請求(同法4条)を求めることも可能になると考えられます。

(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
(略)
二十 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為
(略)

パリ条約の概要

工業所有権の保護に関するパリ条約とは

「パリ条約」と呼ばれる条約は多数ありますが、工業所有権の保護に関するパリ条約は、産業財産権の保護や不正競争の防止に関する国際条約で、正式名称は、「千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約」といいます。

商標法において、工業所有権の保護に関するパリ条約は、以下の同法4条1項2号にあるとおり、単に「パリ条約」と呼ばれています。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条 (略)
 パリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であつて、経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標
(略)

パリ条約は、著作権に関するベルヌ条約と並んで古く、上記正式名称のとおり、当初1883年に作成され、ブラッセル改正条約(1900年)、ワシントン改正条約(1911年)、ヘーグ改正条約(1925年)、ロンドン改正条約(1934年)、リスボン改正条約(1958年)、ストックホルム改正条約(1967年)と、80年余りの期間に数次にわたって改正されました。日本は、最新のストックホルム条約に加盟しています。

パリ条約が定める事項としては、内国民待遇の原則、優先権制度、各国工業所有権独立の原則の3点が三大原則とされ、その他産業財産権の保護や不正競争の防止等に関する各国の義務が広く定められています。

パリ条約の言語

以下のパリ条約29条(1)(b)にあるとおり、同条約の正文はフランス語で、ドイツ語、英語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語の公定訳がありますが、同項(c)により、解釈に相違がある場合には、フランス文によるものとされています。

第29条 署名,寄託等
(1) (a) この改正条約は,フランス語による本書1通について署名するものとし,スウェーデン政府に寄託する。
(b) 事務局長は,関係政府と協議の上,ドイツ語,英語,スペイン語,イタリア語,ポルトガル語,ロシア語及び総会が指定する他の言語による公定訳文を作成する。
(c) これらの条約文の解釈に相違がある場合には,フランス文による。
(略)

パリ条約について、日本語の公定訳はありませんが、条約が国内法として効力を持つには日本国憲法7条1号に基づく公布を経由する必要があるため、日本語訳が作成されることになります。パリ条約(ストックホルム改正条約)については、昭和50年条約第2号として公布されており、日本語による内容が特許庁のウェブサイトなどで参照可能です。

パリ条約における国の紋章等の保護

パリ条約は、以下の6条の3(1)(a)において、「同盟国の国の紋章、旗章その他の記章、同盟国が採用する監督用及び証明用の公の記号及び印章並びに紋章学上それらの模倣と認められるもの」について、「商標又はその構成部分としての登録を拒絶し又は無効とし、また、権限のある官庁の許可を受けずにこれらを商標又はその構成部分として使用することを適当な方法によって禁止する」ことを同盟国の義務としています。

第6条の3 国の紋章等の保護
(1) (a) 同盟国は,同盟国の国の紋章,旗章その他の記章,同盟国が採用する監督用及び証明用の公の記号及び印章並びに紋章学上それらの模倣と認められるものの商標又はその構成部分としての登録を拒絶し又は無効とし,また,権限のある官庁の許可を受けずにこれらを商標又はその構成部分として使用することを適当な方法によつて禁止する。
(略)

上述の商標法4条1項5号は、パリ条約のこの規定のうち、「同盟国が採用する監督用及び証明用の公の記号及び印章」について「商標又はその構成部分としての登録を拒絶し又は無効とし」という部分を受けて定められているものです。

パリ条約のこの規定のフランス語の正文は以下のとおりで、政府機関等の記号及び印章に関する各国法制の条約上の適合性は、この文言の解釈によって規定されることになります。

Article 6ter
Marques: 
interdictions quant aux emblèmes d’État, signes officiels de contrôle et emblèmes d’organisations intergouvernementales

1)
a) Les pays de l’Union conviennent de refuser ou d’invalider l’enregistrement et d’interdire, par des mesures appropriées, l’utilisation, à défaut d’autorisation des pouvoirs compétents, soit comme marque de fabrique ou de commerce, soit comme élément de ces marques, des armoiries, drapeaux et autres emblèmes d’État des pays de l’Union, signes et poinçons officiels de contrôle et de garantie adoptés par eux, ainsi que toute imitation au point de vue héraldique.
(略)

官庁の許可による適用除外の有無

上述のとおり、商標法4条1項5号は、「同盟国が採用する監督用及び証明用の公の記号及び印章」について「商標又はその構成部分としての登録を拒絶し又は無効とし」という部分を受けたものですが、後段の「権限のある官庁の許可を受けずにこれらを商標又はその構成部分として使用することを適当な方法によつて禁止する」に対応する国内法制は商標法にはなく、上記の不正競争防止法16条3項がこれに当たります。

ここで、パリ条約のこの部分には、「権限のある官庁の許可を受けずに」との留保があるため、不正競争防止法16条3項には、「ただし、その外国政府等記号の使用の許可を行う権限を有する外国の官庁の許可を受けたときは、この限りでない。」との但書が設けられています。

他方、商標法4条1項5号に、このような留保は設けられていません。この点は、国によって法制度が異なっており、日本は留保のない文言になっていますが、英国、オーストラリア、韓国、シンガポール、スイス、デンマーク、ドイツ、ポルトガル、OHIM等においては、我が国の商標法4条1項5号に該当する場合であっても、権限のある官庁の許可があれば商標登録が可能になるものとされています。

事案の概要

本件の原告であるジャバタン ケマジャン イスラム マレーシア(ジャキム)は、マレーシア国の法律に基づく政府機関で、財産処分権限及び管理権限を有する法人とされています。マレーシアは、ストックホルム改正条約に加盟するパリ条約の加盟国です。

原告は、下記印章について商標登録出願をしましたが、この印章は、マレーシアが監督・証明用に用いる印章で、出願にかかる指定商品は、この印章が用いられる商品・役務に含まれていました。

特許庁は、商標法4条1項5号違反を理由に、この出願に対して拒絶査定をし、さらに、拒絶査定不服審判でも不成立審決をして拒絶査定を維持しました。この不成立審決の取消を求めたのが、本訴訟です。

原告は、訴訟において、パリ条約6条の3(1)(a)のフランス語正文の文法構造のほか、法学者の意見書やWIPOの議事録及びウェブサイト、外国法制等を根拠にあげ、パリ条約の正文における「権限のある官庁の許可を受けずに」との留保に相当する文言は、「商標又はその構成部分としての登録を拒絶し又は無効とし」にもかかるものであって、我が国の商標法はパリ条約に反する状態となっているから、正文に沿った解釈・運用をすべきであるとの主張をしました。

判旨

判決は、以下のとおり判示して、原告の請求を棄却しました。

政府機関による出願の商標法4条1項5号該当性について

判決は、まず、以下のとおり、出願にかかる商標の構成が、マレーシアの監督用及び証明用の印章・記号として経済産業大臣が指定した印章の構成と同一である旨の認定をしました。

本願商標の構成は、・・・マレーシア国の監督用及び証明用の印章・記号として経済産業大臣が指定した・・・構成と同一である。

また、判決は、以下のとおり、本願の指定商品と、経済産業大臣が指定したマレーシアの監督用または証明用の印章・記号が用いられている商品・役務のうち、本願の指定商品に対応するものとを対比し、両者が同一であると認定しました。

本願商標の指定商品又は指定役務は、・・・経済産業大臣が指定した、マレーシア国の監督用又は証明用の印章・記号が用いられている商品・役務中「食肉。魚。家禽肉及び食用鳥獣肉。肉エキス。保存処理、乾燥処理及び調理をした果実及び野菜。ゼリー。ジャム。コンポート。卵。ミルク及び乳製品。食用油脂。加工水産物。米。大豆。ミネラルウォーター。炭酸水及びアルコールを含有しないその他の飲料。果実飲料及び果汁。」と同一又は類似の指定商品である。

その上で、判決は、以下のとおり、原告がマレーシアの政府機関であるとしても、本願商標がパリ条約の同盟国であるマレーシア政府の監督・証明用の印章のうち経済産業大臣が指定するものと同一の商標であって、その印章が用いられる商品と同一または類似の商品について使用するものである以上、商標法4条1項5号に該当するとの判断をしました。

そうすると、原告が「マレーシア国の法律に基づく政府機関であって、財産処分権限及び管理権限を有する」法人である・・・としても、本願商標は、パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国の政府の監督庁又は証明用の印章又は記号のうち経済産業大臣が指定するものと同一の商標であって、その印章又は記号が用いられる商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから、商標法4条1項5号に該当する。

パリ条約原文との関係における商標法4条1項5号の適用範囲の解釈について

原告の主張に関し、判決は、まず、以下のとおり、パリ条約6条の3(1)(a)のフランス語正文の文法構造に触れ、日本語のパリ条約の表記が誤訳と断じることはできないとしました。なお、判決文中に「日本語公定訳」との語が現れますが、これは、パリ条約29条(1)(b)に基づく公定訳ではなく、日本で公布された条約における訳文を指すものと推察されます。

原告が指摘する「à défaut d’autorisation des pouvoirs compétents,」(権限のある官庁の許可を受けずに)は、原文上、「l’utilisation,」 と「,」で続けて副詞句として挿入されており、文言において、この「à défaut d’autorisation des pouvoirs compétents,」が「d’interdire・・・l’utilisation」(使用を禁止する)のみに係るものであるのか、「de refuser ou d’invalider l’enregistrement et d’interdire,」(登録を拒絶し又は無効とする)にも係るものであるのか、文法的には、どちらと読むことも可能であることや、「権限のある官庁の許可を得ていない」という文言が、当初は「d’interdire・・・l’utilisation」のみに係るものとして起草されていたところ、起草委員会が総会に示した条約案では、上記原文に書き換えられ、そのまま確定したことにより、文法的には2通りの解釈が可能になったことは、【A】意見書も指摘するとおりであるから、日本語公定訳のとおり、「à défaut d’autorisation des pouvoirs compétents,」が、「d’interdire・・・l’utilisation」のみに係ることを前提としても、パリ条約6条の3(1)(a)の誤訳であると断じることはできない。

また、判決は、以下のとおり、仮に原告が指摘する解釈を採用し、「権限のある官庁の許可を受けない」場合を拒絶理由と定めることがパリ条約に基づく義務であると解したとしても、そういった出願を拒絶してはならないという義務や、登録をしなければならないという義務まで負うものとは解されないとしました。

また、仮に、原告が指摘するような解釈、すなわち、「権限のある官庁の許可を受けない」同盟国の紋章等の商標又はその構成部分としての登録を拒絶し、又は無効とするとの解釈を採用するとしても、同規定は、「権限のある官庁の許可」を受けた登録出願をどのように取り扱うについてまで規定するものではない(これらの紋章等の「商標又はその構成部分としての登録を拒絶し又は無効とし」とされていることの反対解釈として、それ以外の場合は当然に登録をしなければならない義務を本条約が締結国に課したと解することはできない。)から、そもそも同条に基づき、我が国が「権限のある官庁の許可」を受けた登録出願を拒絶してはならない義務を負うものではないし、同条を根拠として商標法4条1項5号の適用範囲を狭めて「登録をしなければならない」ものと解釈されるべきものでもない。

さらに、判決は、以下のとおり、その他にも、パリ条約には、政府機関の印章・記号についての商標出願について、登録を認めなければならない義務の根拠となる規定はないとして、原告の主張を排斥しました。

その他に原告が種々主張する点を精査しても、権限のある官庁やその許可を得た者がパリ条約6条の3(1)(a)に規定する監督用・証明用の記号や印章について登録出願をした場合において、その登録をしなければならないことを根拠付けるものは見当たらない。したがって、同条に基づく義務の不履行を理由とする原告の主張は、いずれにしても失当というほかない。

コメント

本件の争点は、一般企業における知財実務で問題になることはあまりないと思われますが、パリ条約が加盟国に何を義務付けるものなのかを考える上で興味深い題材になると思われます。

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(文責・飯島)