知的財産高等裁判所第2部(本多知成裁判長)は、本年(令和4年)6月29日、大手海賊版サイト「漫画村」に作品を掲載された漫画家が、漫画村の広告主を募り、広告掲載料を漫画村に提供していた会社らを相手取って損害賠償を求めた訴訟の判決において、漫画村による原告(被控訴人)の漫画作品の送信は公衆送信権の侵害を構成するとの前提のもと、被告ら(控訴人ら)が漫画村に広告を出稿し、広告料を支払った行為は、当該侵害行為に対する過失による幇助行為であるとし、著作権法114条1項に基づいて算出された損害額について賠償を命じました。

判決は、幇助行為の成否について、基本的に原判決の認定判断を維持しつつ、控訴審における被告ら(控訴人ら)の主張を排斥するとともに、過失の成否に関してより詳細な検討を加えました。

また、原審における損害計算においては、著作権法上の推定規定を用いずに原告漫画の使用料相当額を認定していたところ、本判決では、上記のとおり、同法114条1項を適用し、漫画村における原告の漫画の閲覧に関し、原告である漫画家が得られたであろう利益を算出し、原判決の認定額を上回る損害を認定しました。

本件は、漫画家の赤松健氏が、漫画村に広告を出稿していた会社2社を相手取って損害賠償を求めたことで世間の耳目を集めた事件の控訴審判決です。原判決と同様、著作物の違法な利用行為を物理的に容易にする行為ではなく、著作権侵害行為を内容とするサービスに資金源を提供する行為をもって著作権侵害の幇助行為と認定した点が注目されますが、加えて、海賊版サイトに広告を出稿するという、直接的な著作権侵害行為ではない行為による損害について、著作権法114条1項を適用し、損害計算をした点においても、今後の実務の参考になるものと思われます。

なお、原判決の紹介では幇助行為の成否について詳細に紹介したため、本稿では、過失及び損害についての認定判断を中心に紹介します。

ポイント

骨子

  • 控訴人らは、本件行為が本件ウェブサイトの運営者側に対して著作権侵害行為自体を直接誘発し、又は促進するものではないから幇助行為には当たらないと主張するが、・・・広告料収入をほとんど唯一の資金源とするという本件ウェブサイトの実態を踏まえると、本件行為は、本件ウェブサイトの運営者において、原告漫画のうち既にアップロードしたものの掲載を継続するとともに、さらにアップロードする対象を追加することを直接誘発し、また促進するものというのが相当であるから、控訴人らの上記主張は採用することができない。
  • 控訴人らは、遅くとも平成29年5月時点で、本件ウェブサイトの運営者に著作権者との間での利用許諾の有無等を確認して適切に対処すべき注意義務、又は、そもそもそのような確認をするまでもなく本件ウェブサイトの「MEDIADⅡ」への登録を拒絶すべき注意義務(既に本件ウェブサイトの「MEDIADⅡ」への登録作業を終えていた場合にはそれに係る契約を解除するなどして対応すべき注意義務)を負っていたというべきであり、それにもかかわらず、本件行為を遂行したことについて、控訴人らには少なくとも過失があったと認められる。
  • 本件ウェブサイトへの訪問者一人当たり10.69PVであったと認められること・・・を踏まえた上で、本件ウェブサイトの訪問者が、基本的に、無料で漫画を閲覧できるという本件ウェブサイトの誘引力により本件ウェブサイトを訪れたものと考えられることからして、本件ウェブサイトを訪問した場合、特に原告漫画のような連載ものの漫画の場合は一度の訪問で複数巻を閲覧することが十分に考えられる一方で、途中まで試し読みをして閲覧をやめるようなことも考えられること、その他、個々の訪問者における本件ウェブサイトの利用の仕方の詳細については明らかではなく、事案の性質上これを明らかにすることも不可能というべきこと、著作権法114条1項に基づく損害に係る当事者双方の主張等を総合的に考慮すると、少なく見積もったとしても、平均して、漫画1冊当たりの「受信複製物」の数量は、本件ウェブサイトの訪問者数の5割を下回らないものと認める・・・のが相当である。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和4年6月29日
事件番号
事件名
令和4年(ネ)第10005号
損害賠償請求控訴事件
原判決 東京地判令和3年12月21日
令和3年(ワ)第1333号
(東京地方裁判所民事第47部・田中孝一裁判長)
裁判官 裁判長裁判官 本 多 知 成
裁判官    中 島 朋 宏
裁判官    勝 又 来未子

解説

公衆送信権の間接侵害と幇助行為

著作権法は、同法21条から28において、著作権者が権利を専有する行為を定めています。こういった行為は、「法定利用行為」と呼ばれ、著作権による専有の対象になりますが、そのひとつとして、同法23条1項は、放送や有線放送のほか、インターネットで著作物を送信することなどを法定利用行為の内容とする公衆送信権を規定しています。

本件では、被告らは、自ら著作物を公衆送信していたのではなく、募集した広告を海賊版サイトに出稿していたにとどまる点が特殊であるといえます。この場合に公衆送信権を侵害しているのは、あくまで海賊版サイトであって、そこへの広告の出稿は、自ら直接的に公衆送信などの著作権侵害行為を行うものとはいえません。他方、そういった行為により、侵害行為を助長したり誘発したりすることもあり得ます。本件では、そのような行為をする者に法的責任を問うことができるかが問題になりました。

一般に、侵害行為を助長したり誘発したりする行為をする者の法的責任について、特許法などの産業財産権には詳細な規定がありますが、著作権法にはそういった規定がなく、解釈に委ねられています。大枠としては、侵害行為を規範的に捉え、物理的に法定利用行為を行っていない者にも侵害行為主体性を認めるアプローチと、侵害行為の幇助をしたものとして責任を認めるアプローチがあり、本件では後者に該当するものとされました。この点については、原判決の解説において詳細に解説しましたので、そちらをぜひご覧ください(「漫画村に広告を出稿する行為が著作権侵害の幇助に該当するとした「漫画村広告」事件東京地裁判決について」)。

過失と知的財産権侵害

過失とは

我が国の私法制度では、他人に損害を与えた場合に損害賠償責任が認められるためには、客観的に法令違背があるだけでは足りず、原則として、過失(または故意ないし悪意)があることが必要とされており、この考え方を過失責任の原則といいます。

過失の本質は、払うべき注意を怠ったこと、すなわち注意義務違反であるといわれます。具体的には、第三者に損害を与えることが予見される場合には、それを回避するために注意を払う法的義務(注意義務)を負うところ、これを怠った場合には、注意義務違反があったものとして、過失が認められます。逆に、損害が予見できない場合や、予見が可能でも回避できないような場合には、過失は認められないことになります。

知的財産権侵害における過失

知的財産権の侵害について見ると、特許法などの産業財産権法においては、権利侵害があった場合、侵害者に過失があったものと推定されます(特許法103条等)。そのため、権利侵害があった場合には原則として過失があったものとされますので、権利者は、新会社の過失を証明する必要はありません。他方、侵害者が損害賠償責任を免れようと思えば、侵害者において自分に過失がなかったことを証明することが必要になりますが、実際上その立証は非常に困難であるといわれています。

このように、特許法等の産業財産権において過失が推定されるのは、産業財産権は、登録によって与えられる権利であって権利内容が公示されていることや、権利侵害が成立するためには「業として」、つまり、典型的には事業活動の中で抵触行為が行われることが必要であるところ、事業者には事前に抵触調査を行うことを期待できることが背景にあるといえます。

これに対し、著作権は、以下のとおり、何らの方式も履行する必要なく成立する権利であり、登録制度はあるものの、権利の公示は保障されません。

(著作者の権利)
第十七条 (略)
 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。

そのため、著作権法に過失の推定規定は置かれておらず、損害賠償を請求するにあたって、権利者は、侵害者に過失があったことを主張立証する必要があり、この点は、著作権侵害の幇助行為が問題になる局面においても同様です。

差止請求権と過失

なお、差止請求権との関係では過失は問題とならず、客観的に権利侵害行為があれば、権利者は、侵害者の主観態様如何にかかわらず、侵害行為の差止命令を得ることができます。

著作権侵害にかかる損害の計算

過失に基づく著作権侵害があったときは、著作権者は、侵害者に対し、民法709条により、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

同規定に基づいて損害賠償請求をする場合、権利者としては、請求する金額を特定する必要があります。この点、著作権侵害による経済的損害の本質はその著作物の販売等による収益の機会の喪失であり、その性質は逸失利益であるといえます。そのため、権利者としては、具体的に損害の賠償を請求するためには、「侵害者による侵害行為がなければ、著作権者は著作物をいくら売ることができたか」を証明することが原則になります。しかし、いくら売れたかを定量的に証明するのは非常に困難です。

そこで、著作権法は、損害計算について、以下のような規定を置き、権利者による立証負担を軽減しています。

(損害の額の推定等)
第百十四条 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によつて作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。
 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
(略)

少し読みづらい規定ですが、1項は、権利者の利益率に侵害者の販売数量を掛け合わせる方法を規定したものであり、2項は、侵害者が得た利益をもって損害と推定する規定です。3項は、利用を許諾した場合におけるロイヤルティ相当額を損害とみなす規定といわれています。

なお、公衆送信権侵害の場合には、著作物が固定されたメディアが譲渡されることがなく、商品の販売数量が観念できないため、「公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物・・・の複製物・・・の数量」を基礎に計算することとされており、「公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物・・・の複製物」は、「受信複製物」と呼ばれています。

事案の概要

本件の原告は漫画家の赤松健氏で、被告らは、海賊版サイト「漫画村」に掲載する広告を募集し、出稿していた2つの会社です。原告は、海賊版サイトである漫画村に広告を出稿することは、著作権侵害行為を資金的に幇助するものであるとして、これら2社に対し、損害賠償を求めました。

原判決

被告らの責任について

これに対し、原判決(東京地方裁判所民事第47部・田中孝一裁判長)は、以下のように述べて、本件の事実関係のもとでは、漫画村に広告を出向し、運営者に広告料を支払っていた行為は、公衆送信権侵害の幇助行為といえるとしました(原判決の解説は、こちらをご覧ください。)。

本件ウェブサイトの運営実態からすると,本件ウェブサイトに広告を出稿しその運営者側に広告料を支払っていた行為は,その構造上,本件ウェブサイトを運営するための上記経費となるほとんど唯一の資金源を提供することによって,原告漫画を含め,本件ウェブサイトに掲載されている漫画の多くを,著作権者の許諾を得ずに無断で掲載するという本件ウェブサイトの運営者の行為,すなわち,原告漫画の公衆送信権の侵害行為を補助しあるいは容易ならしめる行為(幇助行為)といえるものである。

また、原判決は、上記幇助行為にかかる被告らの過失について、以下のとおり、まず漫画村を巡る当時の状況を指摘しました。

前記のように,本件ウェブサイトに関しては,これに掲載されている漫画の多くが著作権の対象であるにもかかわらず,利用者から利用料等の対価を徴収せず,広告料収入をほぼ唯一の資金源として,新作を含む多数の漫画を違法に掲載して利用者に閲覧させているという運営実態が存したものである。また,これに加え,広告業界においては,従前から違法な海賊版サイトがインターネット広告による広告料収入を資金源に運営されているという社会問題に対して早急に対策を強化する必要があるとの認識が広く共有され,平成29年に広告業界団体の中に当該社会問題を取り扱う専門部会が設置されていたものである。さらに,政府も,平成30年4月,漫画やアニメの海賊版サイトが急速に拡大していることの対応が喫緊の課題であり,本件ウェブサイトを含む特定のサイトに対する民間事業者によるブロッキング措置等を含む対策を講じる必要性やその方針を示していたものである。

これを前提に、原判決は、被告らとして、漫画村において著作権侵害が行われていたことを予見でき、また、著作権使用許諾契約が締結されているか、確認することが困難であったともいえないから、幇助行為を回避できたとし、被告らとしては、漫画村の運営者が漫画の著作物の利用許諾を得ているかどうかを調査した上で、本件ウェブサイトへの広告掲載依頼を取り次ぐかどうかを決すべき注意義務を負っていたものと判示しました。

そうすると,被告らにおいては,遅くとも被告らが本件ウェブサイトへの広告配信サービスの提供を開始した平成29年5月の時点においては,本件ウェブサイトの属性,すなわち,本件ウェブサイトが著作権者等から許諾を得ずに違法に多数の漫画を掲載している蓋然性を認識していたものであるといえる。しかして,前記認定のとおり,原告漫画は,人気を博し,需要者層に相当程度浸透していたものであるから,このような原告漫画についても,被告らにおいては,著作権(公衆送信権)侵害行為を行っているものであることを予見することが可能であったといわなければならない。そして,被告ら自身,そのような本件ウェブサイトの実態や規模拡大についての認識に基づき,その広告掲載効果が比較的高いものであると考えたからこそ,それを取引先にも伝え,広告配信事業を展開し,広告事業主からの広告掲載依頼を本件ウェブサイトにつなげることにより,自らも営業上の利益を得ていたものであるといえる。一方で,被告らにおいて,Dを通じて本件ウェブサイトに掲載されている原告漫画について著作権使用許諾契約が締結されているか否かを確認することが困難であったことをうかがわせる事情も見当たらず,違法行為を幇助することを回避することは可能であったものである。

これらに照らせば,被告らとしては,本件ウェブサイトの運営者が,そこに掲載する漫画の著作物の利用許諾を得ているかどうかを調査した上で,本件ウェブサイトへの広告掲載依頼を取り次ぐかどうかを決すべき注意義務を負っていたといわざるを得ない。

その上で、原判決は、以下のとおり述べ、被告らが上記注意義務を怠っていたものと判断し、被告らによる著作権侵害の幇助行為は、過失によるものであったと認めました。

そうであるにもかかわらず,被告らは,その取引先から,本件ウェブサイトへの広告掲載を依頼した場合に要する追加費用について回答しているだけではなく,被告グローバルネットの広告掲載に係る実績への問合せに対して,具体的に本件ウェブサイトを挙げて「そこそこ効果はいいかなと思います。」などと回答して,積極的に本件ウェブサイトへの掲載について営業活動をし(なお,被告らにおいては,本件ウェブサイトを含む違法サイトとされるウェブサイトへの広告出稿率も相応の割合を占めていたことも証拠上うかがえる。),本件ウェブサイトに掲載されている原告漫画について著作権使用許諾契約が締結されているか否かを確認することを怠ったものである。

これらによれば,被告らがDを介して本件ウェブサイトに広告を出稿しその運営者側に広告料を支払っていた行為(幇助行為)は,前記注意義務に違反した過失により行われたものといわざるを得ない。

損害について

原判決に現れる当事者の主張を見る限り、原告は、損害額の主張に際し、著作権法114条の推定規定の適用について主張をしていませんでした。そのような中、原判決は、損害額の認定に際し、以下のとおり、漫画村における閲覧回数ではなく、対象期間中における原告作品の正当な売上の実績に基づき、原告が受けるべき使用料相当額を認定しました。

原告漫画1の累計発行部数(紙媒体による書籍,電子書籍及び複数巻を一つにまとめた新装版を含む。以下同じ。)は約2000万部,原告漫画2の累計発行部数は約370万部であり,原告漫画の1冊当たりの販売価格は462円であって,原告漫画の売上額は,およそ109億4940万円となるところ,原告漫画の著作権者であると認められる原告が受けるべき使用料相当額は,原告漫画の上記のような発行部数等に照らし,同売上額の10パーセントと認めるのが相当である。

その上で、原判決は、以下のとおり、漫画村によって読者の正規品の購買意欲が大きく減退すると述べる一方、被告らの行為は幇助にとどまることなどを考慮し、被告らの行為が原告の漫画の売上減少に寄与した割合は1%であると認定しました。

本件ウェブサイトによる原告漫画が無断掲載されたことにより,原告漫画の正規品の売上が減少することが容易に推察され,原告漫画においても,発売日翌日に本件ウェブサイト上にその新作が掲載されていたことによれば,新作が無料で閲覧できることにより,読者の原告漫画の購買意欲は大きく減退するというべきである一方,被告らの行為は,本件ウェブサイトによる原告漫画の違法な無断掲載を,広告の出稿や広告料支払という行為によって幇助したものにとどまること,原告漫画2の上記累計発行部数は令和2年1月頃までのものであって,本件ウェブサイトが閉鎖された平成30年4月より後の期間における原告漫画2の売上げに関して被告らの行為との間の関連性を認めることができないことその他本件に顕れた一切の事情に照らして検討すれば,被告らの本件における行為が原告漫画の売上減少に寄与した割合は,約1パーセントと認めるのが相当である。

原判決は、上記考え方のもと、原告の漫画の売上109億4940万円の10%の1%に相当する1000万円をもって原告の損害と認定し、これに弁護士費用100万円を加えた1100万円及び遅延損害金の支払いを被告らに命じました。この判決を不服として被告らが控訴したのが、本件です。

判旨

被告らの責任について

判決は、著作権侵害の幇助の成否について以下のとおり述べるとともに、控訴審における被告ら(控訴人ら)の他の主張も退け、原判決同様、漫画村に広告を出稿した行為は、著作権侵害の幇助行為にあたるとしました。

控訴人らは、本件行為が本件ウェブサイトの運営者側に対して著作権侵害行為自体を直接誘発し、又は促進するものではないから幇助行為には当たらないと主張するが、・・・広告料収入をほとんど唯一の資金源とするという本件ウェブサイトの実態を踏まえると、本件行為は、本件ウェブサイトの運営者において、原告漫画のうち既にアップロードしたものの掲載を継続するとともに、さらにアップロードする対象を追加することを直接誘発し、また促進するものというのが相当であるから、控訴人らの上記主張は採用することができない。

続いて、判決は、被告ら(控訴人ら)の故意過失に関し、以下のとおり、違法行為があったとされた当時の社会状況として、海賊版サイト対策として広告出稿抑止が重視され、また、漫画村の違法性が指摘されていたことなどを摘示しました。

まず、①平成29年に至るまでの間に、広告収入が違法サイトの収入源となっていることが大きな問題とされ、広告配信会社の多くにおいても一定の方法で広告を出したサイトに違法な情報が掲載されていないかを調べるなどの手段を講じていたことや、官民共同の取組として、海賊版サイトを削除するという対策を継続的に行うほか、周辺対策として広告出稿抑止にも重点的に取り組んでいくことが確認されていたことが指摘できる。そのような状況において、②本件ウェブサイトについては、平成29年4月までの時点で、登録不要で完全無料で漫画が読めるとされるサイトであり、検索バナーが必要な程度に大量の漫画が掲載されていることが一見して分かる状態にあったもので、ツイッター上でも、違法性を指摘するツイートが複数されていたところであった。また、③本件ウェブサイトについては、遅くとも平成29年5月10日時点において、日本の著作物について、著作権が保護されないという前提で掲載されていること等が閲覧者に容易に分かる状態となっていた。

その上で、判決は、漫画村の漫画の多くが違法に掲載されたものであり、また、漫画村が広告料収入をほぼ唯一の資金源とするものであること、そして、それゆえに漫画村への広告出稿が漫画村における著作権侵害行為を支える行為に他ならないことを容易に推測することができたとして、被告ら(控訴人ら)の過失を認めました。

控訴人エムエムラボは、「MEDIADⅡ」を利用して本件ウェブサイトに広告の配信を開始するに当たり、本件ウェブサイトの表題及びURLの提示を受け、運用チームにおいて、それらを含む情報に基づいて登録の可否を審査して承諾し、手動で広告の配信設定をしたものであるところ、前記①~③の事情を踏まえると、遅くとも平成29年5月までの時点で、控訴人らにおいては、本件ウェブサイトに掲載された多数の漫画が著作権者の許諾を得ることなく掲載されているものであることや、そのように違法に掲載した漫画を無料で閲覧させるという本件ウェブサイトが広告料収入をほぼ唯一の資金源とするものであること、それゆえ控訴人らが本件ウェブサイトに広告を提供し広告料を支払うことは本件ウェブサイトの運営者による著作権侵害行為を支える行為に他ならないことを、容易に推測することができたというべきである。
そうすると、控訴人らは、遅くとも平成29年5月時点で、本件ウェブサイトの運営者に著作権者との間での利用許諾の有無等を確認して適切に対処すべき注意義務、又は、そもそもそのような確認をするまでもなく本件ウェブサイトの「MEDIADⅡ」への登録を拒絶すべき注意義務(既に本件ウェブサイトの「MEDIADⅡ」への登録作業を終えていた場合にはそれに係る契約を解除するなどして対応すべき注意義務)を負っていたというべきであり、それにもかかわらず、本件行為を遂行したことについて、控訴人らには少なくとも過失があったと認められる。

本件では、広告の出稿という、物理的な法定利用行為との関係が薄い行為をもって著作権侵害の幇助行為が認められていますが、その際、漫画村が広告料収入をほぼ唯一の資金源としていたとの事実が重要な意味を持っていました。そのため、過失の認定判断においても、この点の認識可能性を重視したものと思われます。

また、判決は、以下のとおり、被告ら(控訴人ら)の過失を裏付ける事情として、被告らが取引をしていた別の違法サイト「はるか夢の址」の運営者の逮捕が報道されるなどした後も、漫画村における広告の当否を検討していなかったことも指摘しています。

上記に関し、控訴人らが平成29年5月時点で上記の注意義務を怠り、その後、安易に本件行為を継続的に遂行していたことは、控訴人グローバルネットが海賊サイト対策の取組を推進していたJIAAの会員であり、また、「MEDIADⅡ」の利用規約によると本件ウェブサイトが第三者の著作権を侵害するものである場合にはその利用に係る契約を解除し得る旨が定められていたにもかかわらず、その後、同年10月31日に控訴人らの取引先に係る違法サイト「はるか夢の址」の運営者の逮捕が報道されたり、本件ウェブサイトの違法性が社会的により大きく取り上げられ、平成30年2月2日には取引先から本件ウェブサイトが海賊版サイトであると記載した上での問合せを受けたといった事情があった中でも、控訴人らにおいて、本件ウェブサイトへの「MEDIADⅡ」を利用した広告の提供等の当否について検討したことが一切うかがわれず、かえって、取引先に対し、「漫画村」という名称を明記しつつ、同年3月2日には本件ウェブサイトへの広告の掲載が可能であると回答したり、同月23日には広告の効果がいいという根拠の一つとして本件ウェブサイトの保有を挙げたりしていたもので、ようやく同年4月13日に本件ウェブサイトを名指ししてブロッキングを行うという方針を政府が表明して以降に初めて本件ウェブサイトへの配信停止の検討を開始したといった事情によっても裏付けられているというべきである。

損害額について

原判決では、原告の作品の過去の正当な売上実績から原告が得るべき使用料相当額を算出し、その額に被告らの行為の売上減少への寄与率を乗じるという手法で損害計算をしていましたが、控訴審では、著作権法114条1項による損害計算が議論されました(被告らは直接の著作権侵害者ではありませんが、判決文を見る限り、著作権法114条1項の適用自体は強く争っていなかったようです。)。

この点、本件で問題とされているのは公衆送信権の侵害ですので、著作権法114条1項を適用する場合、受信複製物の数量をどのように求めるかが問題になるところ、原告(被控訴人)は、閲覧者がウェブサイトを訪問し当該ウェブページを見た回数であるページビュー(PV)がこれにあたると主張したのに対し、被告ら(控訴人ら)は、PVを原告漫画のページ数で除した数がこれにあたると主張しました。しかし、判決は、以下のとおり、これらの主張をいずれも採用しませんでした。

著作権法114条1項に基づく損害の算定について、被控訴人は、1PVで漫画1冊の閲覧が可能であったとして漫画1冊当たり1PVと主張するのに対し、控訴人らは、ページを切り替える度にPVがカウントされている可能性があるためPVを原告漫画のページ数で除した数をもって公衆送信を行った数量と認めるべきであると主張する。

そこで検討するに、証拠(甲51)及び弁論の全趣旨によると、本件ウェブサイトにおいては、ウェブページを切り替えることなく漫画の全ページを閲覧することができたものと認められるから、漫画1冊の全てのページを閲覧しても、1PVのみのカウントとされることもあったことが認められる。したがって、控訴人らの上記主張を採用することはできない。
もっとも、他方、証拠(甲4、10、11)によると、そもそも本件ウェブサイトの訪問者において、特定の漫画の閲覧を開始するまでに、何度かウェブページを切り替える必要があったこともうかがわれることから、被控訴人の上記主張も直ちに採用し難い。

その上で、判決は、以下のとおり、「個々の訪問者における本件ウェブサイトの利用の仕方の詳細については明らかではなく、事案の性質上これを明らかにすることも不可能」としつつ、諸般の事実を考慮し、「平均して、漫画1冊当たりの『受信複製物』の数量は、本件ウェブサイトの訪問者数の5割を下回らないものと認める(換言すると、『受信複製物』の数量をPVの約5%、二度の訪問当たり1冊にとどめることとする。)のが相当」としました。

以上の事情に加え、証拠・・・及び弁論の全趣旨によると、本件ウェブサイトへの訪問者一人当たり10.69PVであったと認められること・・・を踏まえた上で、本件ウェブサイトの訪問者が、基本的に、無料で漫画を閲覧できるという本件ウェブサイトの誘引力により本件ウェブサイトを訪れたものと考えられることからして、本件ウェブサイトを訪問した場合、特に原告漫画のような連載ものの漫画の場合は一度の訪問で複数巻を閲覧することが十分に考えられる一方で、途中まで試し読みをして閲覧をやめるようなことも考えられること、その他、個々の訪問者における本件ウェブサイトの利用の仕方の詳細については明らかではなく、事案の性質上これを明らかにすることも不可能というべきこと、著作権法114条1項に基づく損害に係る当事者双方の主張等を総合的に考慮すると、少なく見積もったとしても、平均して、漫画1冊当たりの「受信複製物」の数量は、本件ウェブサイトの訪問者数の5割を下回らないものと認める(換言すると、「受信複製物」の数量をPVの約5%(ママ)、二度の訪問当たり1冊にとどめることとする。)のが相当である。

また、判決は、著作権侵害が問題となった期間における本件ウェブサイトの訪問者と掲載されていた漫画の冊数から、漫画1巻当たり、平均月間1,666人の訪問があったとしました。

平成29年4月から平成30年4月17日(本件ウェブサイトの閉鎖日)までの期間において、本件ウェブサイトの訪問者は、少なくとも月間で延べ1億人であったことが認められる。そして、証拠・・・及び弁論の全趣旨によると、本件ウェブサイトで閲覧し得た漫画の数は、5万冊~7万冊程度であったと認められるから、その中間値である6万冊を採用して、本件ウェブサイトに掲載されていた漫画1巻当たり、平均して、月間1666人(1億÷6万。小数点以下切捨て。以下同じ。)の訪問者を得ていたとみるのが相当である。

また、判決は、原告の漫画は、平均の2倍程度の訪問者を得ていたと認定し、そのことと、受信複製物の数を訪問2度あたり1冊とする上記の考え方を組み合わせ、原告漫画1巻当たりの受信複製物の数量は、月間1,666冊であるとしました。

その上で、・・・原告漫画の発行部数等のほか、証拠・・・からして、原告漫画については、被控訴人が主張するとおり上記平均の2倍程度の訪問者を得ていたとみるのが合理的であることを踏まえると、結局、原告漫画1巻当たりの「受信複製物」の数量は、月間1666冊(1666×0.5×2)を下回るものではないと認めるべきである。

さらに、判決は、漫画村に掲載されていた原告漫画の巻数は以下のとおりであったとしました。

本件ウェブサイトに掲載されていた原告漫画の巻数については、次のように整理することができる。

a 平成29年4月21日  1巻分
b 同年4月22日  3巻分
c 同年4月23日  5巻分
d 同年4月24日~同月29日  6巻分
e 同年4月30日  8巻分
f 同年5月1日~同月5日  10巻分
g 同年5月6日~同年6月23日  11巻分
h 同年6月24日~同年6月25日  12巻分
i 同年6月26日~同年11月17日  24巻分
j 同年11月18日~平成30年4月17日  53巻分

これにより、原告漫画1巻当たりの月間の受信複製物の数量(1,666冊)と、原告漫画の巻数が特定されたことになります。

また、著作権法114条1項の「単位数量当たりの利益の額」に相当する原告漫画1冊あたりの利益については、46.2円とすることで当事者間に争いがありませんでした。

そこで、裁判所は、以下のとおり、これらの数値を掛け合わせ、本件における著作権法114条1項に基づく損害の総額は、以下の各数字の合計である3086万6548円であったとし、これに弁護士費用308万円を加えた額をもって、損害額の元本としました。

(ア)平成29年4月21日
1×1666×46.2×1/30=2565円

(イ)同年4月22日
3×1666×46.2×1/30=7696円

(ウ)同年4月23日
5×1666×46.2×1/30=1万2828円

(エ)同年4月24日~同月29日
6×1666×46.2×6/30=9万2363円

(オ)同年4月30日
8×1666×46.2×1/30=2万0525円

(カ)同年5月1日~同月5日
10×1666×46.2×5/31=12万4143円

(キ)同年5月6日~同年6月23日
11×1666×46.2×(1+18/30)=135万4657円

(ク)同年6月24日~同年6月25日
12×1666×46.2×2/30=6万1575円

(ケ)同年6月26日~同年11月17日
24×1666×46.2×(4+6/31+17/30)=879万3358円

(コ)同年11月18日~平成30年4月17日
53×1666×46.2×5=2039万6838円

結論

上記金額は、原告(被控訴人)の請求額を超えるものでしたので、判決は、本件控訴を棄却しました。

コメント

本判決は、原判決と同様、著作物の違法な利用行為を物理的に容易にする行為ではなく、著作権侵害行為を内容とするサービスに資金源を提供する行為をもって著作権侵害の幇助行為と認定した点が注目に値します。

また、被告らに損害賠償責任を認めるための過失の認定において、原判決と比較すると、広告料が漫画村の唯一の収入源であったことを被告らが認識し得たことを指摘している点は、幇助行為を肯定した根拠との関係で意味を持つものと思われます。

さらに、損害論との関係では、直接的に法定利用行為を行っていない被告らの行為について、著作権法114条1項を適用したことも、今後の実務、特に、海賊版サイトの抑止の動きに影響を与えるものと思われます。特許法の分野では、独占的通常実施権者に特許法102条の損害計算規定を類推適用する考え方が裁判例の趨勢となっていたほか、会社による特許権侵害について会社法429条1項に基づき取締役に責任を追及する場面でも同規定を用いて損害計算をした例(知財高判平成31年6月7日平成30年(ネ)第10063号、大阪地判令和3年9月28日令和元年(ワ)第5444号等)がありましたが、本件も、被告の行為と知的財産権侵害による逸失利益の発生との間に因果関係がある場合に、損害計算の手段として推定規定を用いたものとして、これらの裁判例に近い発想に立つものと考えられます。

加えて、損害に関する基礎事実の具体的な主張立証に限界がある中で著作権法114条1項を適用した過程も、今後の実務において参考になるものと思われます。

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(文責・飯島)