ロシアは、2014年のクリミア併合以降、日本や欧米等から大規模な経済制裁を受けており、2022年2月24日のウクライナ侵攻により、これらの経済制裁がさらに強化されました。これらの制裁への対抗措置として、ロシアの議会は、日欧米等の制裁をロシア国内で遵守する者に対して刑事責任を問うこととする法案[1](以下「本法案」といいます。)を審議していますので、この法案について本稿で解説したいと思います。

法案の概要

本法案は、2022年4月7日にロシア議会に提出された、ロシア刑法典第201条2項の改正に関するものです。本法案は、職権濫用に関する犯罪を定めるロシア刑法201条に、以下の規定(筆者による仮和訳)を追記するもので、現在審議中となっています。なお、ロシアの職権濫用は必ずしも公務員を対象にするものではなく、一般的に会社関係の職員にも適用されます。

第201条(職権濫用

2 商業組織またはその他の組織で管理職を務める者が、この組織の正当な利益に反して、かつ、自己または他人の利益・便益を図り、または他人に損害を与える目的で職権を行使し、当該行為が外国・外国連合または国際機関のロシア連邦に対する制限措置を実行する目的で、市民または組織の権利と正当な利益、または公共の利益に重大な損害を引き起こす場合は、刑事責任を負うものとする。

職権濫用とは

上記規定案は、対ロシア制裁を遵守する目的で犯した職権乱用を犯罪としています。ここでいう「職権濫用」とは、①会社またはその他の組織における管理者(例えば、代表取締役社長、取締役や総務に係る職員など)が、②当該組織の正当な利益に反して、自己または他者の利益および便益を図る目的または他者に損害を与える目的で、③外国(外国連合または国際組織など)による対ロシア制限措置を執行・遵守することによって、④市民または組織の権利および利益、または公共の利益を重大な損害を与えることをさします。

重大な損害とは

当該法案でいう「重大な損害」について明確な規定はないものの、各々のケースの事実関係に照らして、裁判所により判断されると考えられます。ロシア最高裁は、「重大な損害」を判断するにあたって、被害者数、被害の範囲、会社の通常運営に対して与える悪影響のレベル(例えば、会社の事業活動の停止や倒産を引き起こした場合や、組織のビジネス上の評判を損ねた場合)などの事実を総合的に検討するべきであるとの見解[2]を示しています。

刑罰

本法案が定める刑罰は、100万ルーブル以下の罰金、または5年以下の刑務作業、または3年以下の一定の職務の保持・従事禁止、または10年以下の懲役までの処罰とされています。また、この罪は重罪とみなされています。ロシア法上、重罪については、10年の告訴時効期間が定められています。

おわりに

日本企業の子会社または孫会社がロシアに所在し、経済活動を行う場合、各国の制裁に従った行動をせざるを得ない場合もあるものと思われます。そのような場合には、本法案がリスクとなりますので、その内容や今後の審議の状況を注視しておくことが必要であると思われます。

[1] 法案第102053-8号「ロシア連邦刑法第201条の改正について」。審議過程および法案内容については、次のリンクを参照:https://sozd.duma.gov.ru/bill/102053-8#bh_histras

[2] 2021年6月29日付ロシア連邦最高裁判所総会決定第21号「商業その他の組織の活動利益に反する犯罪にかかる裁判実務の諸問題について」第6項。

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(文責・アザマト・シャキロフ)