知的財産高等裁判所第3部(東海林保裁判長)は、本年(令和4年)2月10日、拒絶査定不服審判の審決取消訴訟において、装置におけるサブコンビネーション発明につき、他のサブコンビネーションとなる装置に関する事項が当該他の装置のみを特定する事項であって、請求項にかかる発明の構造、機能等を特定してない場合は、他の装置に関する事項は、当該請求項にかかる発明を特定するために意味を有しないことになるから、これを除外して当該請求項に係る発明の要旨を認定することが相当であるとの考え方を示し、発明特定事項を限定的に捉えた原審決を維持する判決をしました。

サブコンビネーション発明の要旨認定手法は、従前、審査基準には示されていたものの、これを一般的に示した裁判例はありませんでした。本判決は、審査基準における要旨認定の手法を追認するもので、実務的に必ずしも目新しい考え方を示したものではありませんが、知財高裁が判断基準に触れたという点では、注目に値します。

ポイント

骨子

  • 特許出願に係る発明の要旨の認定は,特段の事情がない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるが,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合は,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。
  • サブコンビネーション発明においては,特許請求の範囲の請求項中に記載された「他の装置」に関する事項が,形状,構造,構成要素,組成,作用,機能,性質,特性,行為又は動作,用途等(以下「構造,機能等」という。)の観点から当該請求項に係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握して当該発明の要旨を認定する必要があるところ,「他の装置」に関する事項が当該「他の装置」のみを特定する事項であって,当該請求項に係る発明の構造,機能等を何ら特定してない場合は,「他の装置」に関する事項は,当該請求項に係る発明を特定するために意味を有しないことになるから,これを除外して当該請求項に係る発明の要旨を認定することが相当であるというべきである。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第3部
判決言渡日 令和4年2月10日
事件番号
事件名
令和3年(行ケ)第10056号
審決取消請求事件
原審決 不服2019-14077号
対象出願 特願2016-67886号
裁判官 裁判長裁判官 東海林   保
裁判官    上 田 卓 哉
裁判官    都 野 道 紀

解説

特許要件と発明の要旨認定

特許要件とは

ある発明について特許を受けるためには、その発明が、以下の特許法29条に定められた要件を充足する必要があります。

(特許の要件)
第二十九条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

特許法29条の要件は、特許要件と呼ばれ、具体的には、発明が、①産業上利用できるものであること、②同条1項各号に該当しないこと(新規性があること)、③同条1項各号の発明に基づき当業者が容易にできたものでないこと(進歩性があること)が求められます。

新規性、進歩性の判断手法

特許要件のうち、発明に新規性があるか否かは、特許請求の範囲に記載された発明と、過去の文献などで開示された発明がどのようなものであるかを認定し、両者を対比して、同一であるか否かによって判断されます。

また、進歩性については、まず、新規性判断の場合と同様に要旨認定された両発明を対比しますが、その結果両者に相違点がある場合に、その相違点について、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者、すなわち当業者が、容易に想到することができたか、という観点から判断されます。この点について、たとえば、知財高裁は、平成30年の大合議判決(知財高判平成30年4月13日平成28年(行ケ)第10182号、同第10184号「ピリミジン誘導体事件」判決)において、以下のとおり述べています。

進歩性に係る要件が認められるかどうかは,特許請求の範囲に基づいて特許出願に係る発明(以下「本願発明」という。)を認定した上で,同条1項各号所定の発明と対比し,一致する点及び相違する点を認定し,相違する点が存する場合には,当業者が,出願時(又は優先権主張日。略)の技術水準に基づいて,当該相違点に対応する本願発明を容易に想到することができたかどうかを判断することとなる。

発明の要旨認定

上述のとおり、新規性の判断においても、進歩性の判断においても、最初に行われることは、特許請求の範囲に記載された発明と、過去の文献などで開示された発明がどのようなものであるかを認定する作業です。このような作業は、一般に「発明の要旨認定」と呼ばれます。

特許要件を判断する際の発明の要旨認定の手法として、最二判平成3年3月8日昭和62年(行ツ)第3号民集45巻3号123頁「リパーゼ事件」判決は、以下のとおり、原則として特許請求の範囲によるものであり、その技術的意義が一義的に明確に理解できない場合に、明細書を参酌すべきものとしています。

特許法二九条一項及び二項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条一項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。

サブコンビネーション発明

サブコンビネーション発明とは

特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節「特定の表現を有する請求項等についての取扱い」の「4. サブコンビネーションの発明を「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定しようとする記載がある場合」によると、「サブコンビネーション発明」は、以下のとおり定義されています。

サブコンビネーションとは、二以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明、二以上の工程を組み合わせてなる製造方法の発明等(以上をコンビネーションという。)に対し、組み合わされる各装置の発明、各工程の発明等をいう。

複数の装置や工程が組み合わされた発明は、「コンビネーション発明」と呼ばれますが、その構成要素である装置や工程は、コンビネーションの構成要素であることから、「サブ」コンビネーションと呼ばれるわけです。

サブコンビネーション発明の要旨認定

サブコンビネーション発明は、一般に、出願された請求項にかかる発明のサブコンビネーションとともにコンビネーションを構成する他のサブコンビネーションを用いて定義されます。そのような記載がある場合の発明の要旨認定につき、特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節4.1は以下のとおり述べ、他のサブコンビネーションが、請求項にかかるサブコンビネーションの発明にどのような意味を有するかを考慮して、その要旨認定をするものとしています。

審査官は、請求項に係る発明の認定の際に、請求項中に記載された「他のサブコンビネーション」に関する事項についても必ず検討対象とし、記載がないものとして扱ってはならない。その上で、その事項が形状、構造、構成要素、組成、作用、機能、性質、特性、方法(行為又は動作)、用途等(以下この項(4.)において「構造、機能等」という。)の観点からサブコンビネーションの発明の特定にどのような意味を有するのかを把握して、請求項に係るサブコンビネーションの発明を認定する。その把握の際には、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮する。

これを前提に、同審査基準は、上記のような観点で検討した結果、他のサブコンビネーションに関する事項が請求項にかかるサブコンビネーションの発明の構造、機能等を特定していると把握される場合には、請求項にかかるサブコンビネーションをそのような構造、機能等を有するものと認定するものとし、他のサブコンビネーションに関する事項が他のサブコンビネーションのみを特定する事項であって、請求項に係るサブコンビネーションの発明の構造、機能等を特定していない場合には、他のサブコンビネーションに関する事項は、請求項にかかるサブコンビネーションの発明を特定するための意味を有しないものとして発明を認定することとしています。

サブコンビネーション発明の要旨認定を示した裁判例としては、東京地判平成23年12月26日平成21年(ワ)第44391号・平成23年(ワ)第19340号「ごみ貯蔵機器事件」判決や、知財高判令和元年6月27日平成31年(ネ)第10009号「薬剤分包用ロールペーパ事件」判決がありますが、いずれも、サブコンビネーション発明の要旨認定手法を一般的に示すものではありませんでした。

拒絶査定と拒絶査定不服審判

特許査定と拒絶査定

特許出願について、審査請求があると、審査官は、出願の審査をし、その結果、特許をするときは、特許査定をします。

特許査定は、以下の特許法51条のとおり、「特許出願について拒絶の理由を発見しないとき」に与えられることとされています。つまり、特許を与えるかどうかは、拒絶理由があるかどうか、というネガティブチェックで決まります。

(特許査定)
第五十一条 審査官は、特許出願について拒絶の理由を発見しないときは、特許をすべき旨の査定をしなければならない。

では、拒絶理由とはどのようなものかというと、以下の特許法49条に列挙されており、これらが解消されないときは、特許を与えない処分をします。これが、拒絶査定です。

(拒絶の査定)
第四十九条 審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
 その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第十七条の二第三項又は第四項に規定する要件を満たしていないとき。
 その特許出願に係る発明が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条、第三十八条又は第三十九条第一項から第四項までの規定により特許をすることができないものであるとき。
 その特許出願に係る発明が条約の規定により特許をすることができないものであるとき。
 その特許出願が第三十六条第四項第一号若しくは第六項又は第三十七条に規定する要件を満たしていないとき。
 前条の規定による通知をした場合であつて、その特許出願が明細書についての補正又は意見書の提出によつてもなお第三十六条第四項第二号に規定する要件を満たすこととならないとき。
 その特許出願が外国語書面出願である場合において、当該特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき。
 その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき。

特許要件違反は、上記の特許法49条2号により、拒絶理由のひとつに位置付けられています。これが、発明に新規性や進歩性がない場合に出願が拒絶される法的根拠です。

拒絶査定の手続

審査官は、拒絶理由があると考えた場合、いきなり拒絶査定をするのではなく、以下の特許法50条に基づき、まず、出願人に対して拒絶の理由を通知し、意見書を提出する機会を与えます。

(拒絶理由の通知)
第五十条 審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)において、第五十三条第一項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。

また、拒絶理由通知があったときは、出願人は、拒絶理由を解消するため、以下の特許法17条の2第1項1号または3号に基づき、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面を補正することも認められています。

(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正)
第十七条の二 特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。ただし、第五十条の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。
 第五十条(第百五十九条第二項(第百七十四条第二項において準用する場合を含む。)及び第百六十三条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた場合において、第五十条の規定により指定された期間内にするとき。(略)
 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
(略)

出願人が意見書を提出し、または補正をすることにより、拒絶理由が解消されれば、審査官は特許査定をすることになりますが、なお拒絶理由が解消されなければ、拒絶査定をすることになります。

拒絶査定不服審判とは

出願人が拒絶査定に不服があるときは、以下の特許法121条1項に基づき、拒絶査定の謄本の送達から3月以内に、拒絶査定不服審判を請求することができます。

(拒絶査定不服審判)
第百二十一条 拒絶をすべき旨の査定を受けた者は、その査定に不服があるときは、その査定の謄本の送達があつた日から三月以内に拒絶査定不服審判を請求することができる。
(略)

拒絶査定不服審判は、以下の特許法158条のような規定に見られるとおり、審査の続審としての性質を有しており、審判の審決に対する取消訴訟とは異なり、審査の違法性ではなく、特許査定をすべきか否かということが審理の対象となります。

(拒絶査定不服審判における特則)
第百五十八条 審査においてした手続は、拒絶査定不服審判においても、その効力を有する。

拒絶査定不服審判の請求と同時にする出願書類の補正

補正の内容と時期

拒絶査定不服審判においては、拒絶査定の当否を争うとともに、拒絶理由を解消するため、願書に添付された明細書や特許請求の範囲、図面を補正することもあります。

特許法17条の2第1項本文は、以下のとおり、これらの書類の補正ができることを定める一方、同項但書は、拒絶理由通知がなされた後の補正について、それができる場合を同但書各号に定める場合に限定しています。そのひとつとして、同項4号は、拒絶査定不服審判の請求と同時に補正をすることを認めています。

(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正)
第十七条の二 特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。ただし、第五十条の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。
 第五十条(第百五十九条第二項(第百七十四条第二項において準用する場合を含む。)及び第百六十三条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた場合において、第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
 拒絶理由通知を受けた後第四十八条の七の規定による通知を受けた場合において、同条の規定により指定された期間内にするとき。
 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
 拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき。
(略)

前置審査

拒絶査定不服審判の請求と同時に出願書類の補正があったときは、以下の特許法162条に基づき、審判官が審理をする前に、まず、審査官が審査を行います。この審査は、前置審査と呼ばれます。

第百六十二条 特許庁長官は、拒絶査定不服審判の請求があつた場合において、その請求と同時にその請求に係る特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正があつたときは、審査官にその請求を審査させなければならない。

審査官が前置審査を行った結果、特許査定をすべきと考えたときは、以下の特許法164条1項に基づき、拒絶査定を取り消します。

第百六十四条 審査官は、第百六十二条の規定による審査において特許をすべき旨の査定をするときは、審判の請求に係る拒絶をすべき旨の査定を取り消さなければならない。
(略)

他方、審査官が特許査定をすべきと考えないときは、以下の特許法164条3項に基づき、審査結果を特許庁長官に報告し、審判官による審理が行われます。

第百六十四条 (略)
 審査官は、第一項に規定する場合を除き、当該審判の請求について査定をすることなくその審査の結果を特許庁長官に報告しなければならない。

出願書類の補正要件

ところで、補正は、適時にするとしても、その内容が一定の要件を満たすものである必要があり、そのような要件は「補正要件」と呼ばれます。

出願書類の補正の場合には、まず、以下の特許法17条の2第3項により、当初の出願書類の記載事項の範囲でしなければならず、そこになかった事項(新規事項)を付加することは許されません。

(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正)
第十七条の二 (略)
 第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第八項の規定により明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第二項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては、翻訳文又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)。第三十四条の二第一項及び第三十四条の三第一項において同じ。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。

また、以下の特許法17条の2第4項のとおり、補正の前後で、発明の単一性を満たす必要もあります。

 前項に規定するもののほか、第一項各号に掲げる場合において特許請求の範囲について補正をするときは、その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、第三十七条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。
(略)

さらに、拒絶査定不服審判の請求と同時に出願書類の補正をする場合においては、以下の特許法17条の2第5項により、補正の目的が①請求項の削除、②特許請求の範囲の減縮、③誤記の訂正、④不明瞭記載の釈明のいずれかであることが求められます。

(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正)
第十七条の二
 (略)
 前二項に規定するもののほか、第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶理由通知と併せて第五十条の二の規定による通知を受けた場合に限る。)において特許請求の範囲についてする補正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
 第三十六条第五項に規定する請求項の削除
 特許請求の範囲の減縮(第三十六条第五項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)
 誤記の訂正
 明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)
(略)

加えて、上記の特許法17条の2第5項の場合の中でも、同項2号に基づき特許請求の範囲の減縮を目的とする補正をする場合には、以下の同条6項が、同法126条7項の規定を準用しています。

(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正)
第十七条の二 (略)
 第百二十六条第七項の規定は、前項第二号の場合に準用する。

特許法126条7項は、以下のとおり、特許査定後に訂正審判で特許を訂正する場合において、訂正の目的が特許請求の範囲の減縮または誤記又は誤訳の訂正であるときは、訂正後の発明が「特許出願の際独立して特許を受けることができるもの」であることを求めています。要するに、訂正審判においては、訂正の適法性だけでなく、訂正後の発明について、改めて特許の適格性を問題にすることがあり得るのです。この要件は、一般に、「独立特許要件」と呼ばれています。

(訂正審判)
第百二十六条 (略)
 第一項ただし書第一号又は第二号に掲げる事項を目的とする訂正は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
(略)

この特許独立要件が拒絶査定不服審判の請求と同時に特許請求の範囲の減縮を目的とする補正をする場合にも準用される結果、そのような補正をしたときは、拒絶査定不服審判において、拒絶査定で指摘された拒絶理由に限らず、補正後の発明について、改めて特許の適格性が審理されることになります。

補正要件違反の効果

一般に、出願人が補正要件を充足しない補正をした場合、審査官は、特許法49条1号により、拒絶査定をすることになります。

(拒絶の査定)
第四十九条 審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
 その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第十七条の二第三項又は第四項に規定する要件を満たしていないとき。
(略)

しかし、拒絶理由通知に対応するためにした出願書類の補正が補正要件を充足しない場合には、以下の特許法53条1項により、補正が決定で却下されます。この場合、審査官は、補正前の手続を前提に審査をし、査定をすることになります。

(補正の却下)
第五十三条 第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて第五十条の二の規定による通知をした場合に限る。)において、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第十七条の二第三項から第六項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。
(略)

もっとも、この規定は、特許法17条の2第1項4号の補正、つまり、拒絶査定不服審判の請求と同時にされた補正を対象にしておらず、また、上述の前置審査において審査官が補正要件違反を発見した場合には、以下の特許法164条2項により、特許査定をする場合を除き、審査官が補正を却下することは認められていません。

第百六十四条 (略)
 審査官は、前項に規定する場合を除き、前条第一項において準用する第五十三条第一項の規定による却下の決定をしてはならない。
(略)

では、拒絶査定不服審判の請求と同時にされた補正について、補正要件を充足しない場合であって、特許査定もしないときに、どのような手続が行われるかというと、審判手続に関する同法159条1項が上記の同法53条を一部読み替えて準用しています。

第百五十九条 第五十三条の規定は、拒絶査定不服審判に準用する。この場合において、第五十三条第一項中「第十七条の二第一項第一号又は第三号」とあるのは「第十七条の二第一項第一号、第三号又は第四号」と、「補正が」とあるのは「補正(同項第一号又は第三号に掲げる場合にあつては、拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く。)が」と読み替えるものとする。
(略)

この規定により、拒絶査定不服審判の請求と同時に出願書類の補正がなされた場合(または、拒絶査定不服審判の手続の中でされた拒絶理由通知に対して出願書類の補正がされた場合)において補正要件違反があるときは、審判官によって補正が却下されることになり、その結果、拒絶理由が解消されないこととなれば、不成立審決がなされます。

また、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正がされた場合において、独立特許要件違反がある場合、つまり、特許請求の範囲を減縮してもなお進歩性が認められないといったような場合にもこの規定は適用されます。そのため、この場合、補正後の発明が特許要件を満たさないことを理由に不成立審決がなされるのではなく、まず補正が却下され、その上で、補正前の手続を前提に拒絶理由があるかが判断され、拒絶理由が解消されていなければ不成立審決がなされることになります。

なお、特許請求の範囲を減縮しても進歩性が認められないような場合には、通常、補正前の発明も新規性または進歩性を欠くものとなるため、実務的には、補正の却下と不成立審決は概ね一体のものとなります。

拒絶査定不服審判の審決に対する不服申立て

拒絶査定不服審判の審決に不服がある出願人は、その取消しを求めて訴訟を提起することができます。特許審判の審決に対する取消訴訟は、一般に、審決取消訴訟と呼ばれます。

拒絶査定不服審判の審決取消訴訟は、行政事件訴訟法上の抗告訴訟にあたり、その管轄は、特許法178条1項、知的財産高等裁判所設置法2条2号により、知的財産高等裁判所に専属します。出訴期間は、特許法178条3項、4項により、審決謄本の送達から30日の不変期間とされています。

事案の概要

出願及び拒絶査定不服審判の経緯

原告は、平成27年4月9日、「情報処理装置及び方法、並びにプログラム」と称する発明について特許出願(特願2015-80124号)をし、これを親出願として、平成28年3月30日に分割出願をしました(特願2016-67886号)。

この分割出願について特許庁が拒絶査定をしたため、原告は、令和元年10月23日、拒絶査定不服審判(不服2019-14077号)を請求するとともに、特許請求の範囲等について手続の補正(「本件補正」)をしました。本件補正後の請求項1の発明は、以下のようなものでした(「本件補正後発明」)。下線部が本件補正によって加えられた事項です。

(A)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって、
(B)事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を、前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し、当該知的財産権に関する公報の情報を、サーバによる第2情報及び第3情報の抽出の根拠となる情報を含む第1情報として、前記サーバに通知する公報通知手段と、
(C)前記サーバにおいて、
(C1)前記公報通知手段により通知された前記第1情報により特定される前記公報に含まれ得る第1書類の内容のうち、所定の文字、図形、記号、又はそれらの結合が、前記第2情報として抽出され、
(C2)当該公報に含まれ得る第2書類の内容のうち、抽出された前記第2情報と関連する文字、図形、記号又はそれらの結合が、前記第3情報として抽出され、
(C3)所定の文字、図形、記号、又はそれらの結合を第4情報として予め登録している複数の第2ユーザのうち、抽出された前記第3情報と関連のある第4情報を登録した者が、通知対象者として決定され、
(C4)当該通知対象者の端末に対して、当該知的財産権に関する情報が第5情報として通知され、
(C5)当該通知対象者の端末から、当該第5情報に関する当該知的財産権に対して当該通知対象者が興味を有する旨の第6情報が取得されて、
(C6)当該第6情報に基づいて、前記複数の第2ユーザの中に当該知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報が、第7情報として生成され、
(C7)前記情報処理装置により前記第1情報が通知された結果として生成された当該第7情報が、当該情報処理装置に送信された場合において、
(D)当該第7情報を受付ける受付手段と、
(E)を備える情報処理装置。

これに対し、特許庁は、令和3年3月11日付の審決(「本件審決」)において、本件補正後発明は特開2007-11876号公報(「引用例1」)に記載された発明(「引用発明」)との関係で進歩性を欠くため独立特許要件違反があるとし、特許法159条1項が読み替え準用する同法53条1項により、本件補正を却下しました。その上で、特許庁は、本件補正前の本願発明と引用発明とを対比し、両者は同一であって新規性がないとして審判請求は成り立たないと結論づけました。

本件審決の判断内容

本件審決は、原告がした補正について、新規事項の追加や単一性要件違反の問題はないとしましたが、独立特許要件の充足について検討した結果、上述のとおり、本件補正後発明は進歩性を欠くものと判断し、本件補正を却下した上で補正前の本願発明の新規性を否定し、不成立審決をしました。

本件審決は、本件補正後発明の進歩性判断にあたって、本件補正後発明の要旨認定をしているのですが、本件補正後発明にかかる「情報処理装置」との関係で、請求項に現れる「サーバ」は他のサブコンビネーションにあたり、また、構成(C)及び(C1)ないし(C7)に記載された事項は「情報処理装置」の構造や特性を特定するものではないためこれらを考慮せず、本件補正後発明の要旨を以下のとおり認定しました。

(A)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって、
(B’)事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権を、前記第1ユーザが保有する1以上の知的財産権の中から特定し、当該知的財産権に関する公報の情報を、前記サーバに通知する公報通知手段と、
(D’)知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報であって、情報処理装置により当該知的財産権に関する公報の情報がサーバに通知された結果として生成され、サーバから情報処理装置に送信された情報を受付ける受付手段と、
(E)を備える情報処理装置

本件審決は、上記のとおり認定された発明と、引用例1に記載の発明とを対比し、本件補正後発明の構成(B’)では「事業に使用されていないが前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権」であるのに対し、引用発明では前記第1ユーザ(特許権者)が活用を希望する知的財産権について「事業に使用されていない」ことを特定する構成を有していない点において相違するとしつつ、当該相違点は当業者が容易に想到できたものであるとして、本件補正後発明は進歩性を欠くものと判断しました。

その結果、本件補正は却下されるべきものとなるため、続いて、特許庁は、本件補正前の本願発明の要旨を以下のとおり認定しました。

(a)第1ユーザによって操作される情報処理装置であって、
(b’)前記第1ユーザが活用を希望する知的財産権に関する公報の情報を、前記サーバに通知する公報通知手段と、
(d’)知的財産権に興味を有する者が存在することを少なくとも示す情報であって、情報処理装置により当該知的財産権に関する公報の情報がサーバに通知された結果として生成され、サーバから情報処理装置に送信された情報を受付ける受付手段と、
(e)を備える情報処理装置

特許庁は、このように認定された本願発明と引用発明とを対比し、両者は同一であって新規性を欠くとし、審判請求につき、不成立審決をしました。

この審決の取消しを求めたのが、本訴訟です。

判旨

判決は、まず、発明の要旨認定の手法につき、リパーゼ事件最判を引用し、原則として特許請求の範囲の記載に基づいてなされ、特段の事情がある場合には明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することができるとの考え方を示しました。

特許出願に係る発明の要旨の認定は,特段の事情がない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるが,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合は,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。

その上で、サブコンビネーション発明の要旨認定につき、以下のとおり、「他の装置」の記載が請求項にかかる発明の特定にどのような意味を有するかを把握して要旨認定すべきとした上で、「他の装置」が請求項にかかる発明を特定するものでないときは、これを除外して請求項にかかる発明の要旨認定をするのが相当としました。

ところで,サブコンビネーション発明においては,特許請求の範囲の請求項中に記載された「他の装置」に関する事項が,形状,構造,構成要素,組成,作用,機能,性質,特性,行為又は動作,用途等(以下「構造,機能等」という。)の観点から当該請求項に係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握して当該発明の要旨を認定する必要があるところ,「他の装置」に関する事項が当該「他の装置」のみを特定する事項であって,当該請求項に係る発明の構造,機能等を何ら特定してない場合は,「他の装置」に関する事項は,当該請求項に係る発明を特定するために意味を有しないことになるから,これを除外して当該請求項に係る発明の要旨を認定することが相当であるというべきである。

判決は、以上の考え方に照らしたとき、原審決の認定判断に誤りはないとし、原告の請求を棄却しました。

コメント

本判決は、「他の装置」との文言を用いている点において対象を物の発明に限定してはいますが、サブコンビネーション発明の要旨認定手法としては、審査基準と同様の考え方を採用したものといえます。サブコンビネーション発明の要旨認定の方法としては、今後、この考え方が定着していくのではないかと思われます。

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(文責・飯島)