東京地方裁判所は、本年(令和4年)4月22日、フェイスブック上の、ゲームに関する公式ページにおける、インラインリンクの設定行為について、著作権侵害に該当しないと判断しました。
インラインリンクについては、他人の画像を無断でアップロードしたツイートのリツイートに関する著作権侵害ないし著作者人格権侵害が問題となった事案として、最高裁判所令和2年7月21日判決平成30年(受)第1412号(原審:知的財産高等裁判所平成30年4月25日判決平成28年(ネ)第10101号、第1審:東京地方裁判所平成28年9月15日判決平成27年(ワ)第17928号)があります。同最高裁判所判決においては、著作者人格権侵害が主な争点となり侵害が肯定されました(同判決の解説についてはこちら)。他方、知的財産高等裁判所及び東京地方裁判所判決では、著作者人格権侵害だけでなく著作権侵害についても判断され、リツイートについては著作権侵害が否定されています。
本件は、原告画像を複製したものと思われる画像を含む第三者によるYouTube投稿について、被告が、フェイスブック上の被告が管理するウェブページにおいてインラインリンクを設定したものです。リツイート事案ではありませんが、インラインリンクの設定行為が著作権の侵害(特に公衆送信権の侵害)となるかについての議論は、上記裁判例とほぼ同様の考え方に基づくものであり、本件は上記知的財産高等裁判所判決の流れを踏襲するものとして参考になる判決であると考えます。

ポイント

骨子

  • 本件リンク設定行為は、本件動画の表紙画面である被告画像をリンク先のサーバーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示させるものにすぎず、被告は、本件リンク設定行為を通じて、被告画像のデータを本件ウェブページのサーバーに入力する行為を行っていない。
  • 被告画像を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力、蓄積し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは、本件動画の投稿者であって、被告による本件リンク設定行為は、原告画像について、有形的に再製するものとも、公衆送信するものともいえない。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所(民事第29部)
判決言渡日 令和4年4月22日
事件番号 平成31年(ワ)8969号著作権侵害差止等請求事件
当事者 原告:シャンハイ ムーントン テクノロジー カンパニー リミテッド
被告:シックスジョイ ホンコン リミテッド
裁判官 裁判長裁判官 國分隆文
裁判官 矢野紀夫
裁判官 佐々木亮

解説

インラインリンクとは

インラインリンクとは、リンク先のウェブサイトのコンテンツが、リンク元に自動的に表示されるように設定されたリンクのことです。ツイッター上のリツイートにおけるインラインリンクが問題となった東京地方裁判所平成28年9月15日判決では、インラインリンクについて、次のとおり定義されています。

ユーザーの操作を介することなく、リンク元のウェブページが立ち上がった時に、自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルが当該ユーザーの端末に送信されて、リンク先のウェブサイトがユーザーの端末上に自動表示されるように設定されたリンクをいう。

なお、ハイパーリンクは、ユーザーがリンクをクリックすることによりリンク先のコンテンツが表示されるものである点で、インラインリンクと異なります。

本件の背景及び争点

本件の原告は、オンラインゲームの制作を営む中国企業で、あるオンラインゲーム(原告ゲーム)を制作し、日本国内で配信していました。
他方、被告は、オンラインゲームの制作および配信等を営む香港所在の企業であり、日本国内において、Google Play及びApp Storeを通じて、オンラインゲーム(被告ゲーム)を配信していました。また、被告は、フェイスブックの被告が管理する被告ゲームのアカウントに関するウェブページ(本件ウェブページ)において、インラインリンク設定を行うことにより、第三者がYouTubeに投稿していた原告ゲーム内の画像と類似する画像(被告画像)を表示していました。

本件において原告は、①フェイスブック上のインラインリンク設定行為が、被告画像と類似する原告画像の複製及び公衆送信にあたり、また、②原告が、被告ゲーム内で表示される複数の画像が、原告ゲーム内で表示される画像の複製ないし翻案にあたり原告著作権を侵害するとして、被告を訴えたものです。
本件では、②に関して原告が問題とした被告画像については、全て、原告画像の複製又は翻案に該当しないと判断されています。ここでは、インラインリンクの設定行為が複製ないし公衆送信に該当するかについて争われた①の判旨について紹介したいと思います。

公衆送信権及び著作者人格権とリンクについて

公衆送信権とは

著作権は、著作物の複製行為についての権利である「複製権」や著作物を演ずる行為に関する権利である「上演権」などの様々な権利(支分権)の束といえます。
本件で主に問題となっている「公衆送信権」(著作権法23条)は、公衆によって直接受信されることを目的として、著作物を無線通信又は有線電気通信によって送信する権利です。

インターネット上のリンクと公衆送信

インターネット上にハイパーリンクを貼る行為については、大阪地裁平成25年6月20日判決で、リンク先のコンテンツの公衆送信には該当しないとされています。

原告は,被告において,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックすると,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態にしたことが, 本件動画の「送信可能化」(法2条1項9号の5)に当たり,公衆送信権侵害による不法行為が成立する旨主張する。 しかし,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,被告は,「ニコニコ 動画」にアップロードされていた本件動画の引用タグ又はURLを本件ウェブサイトの編集画面に入力することで,本件動画へのリンクを貼ったにとどまる。  この場合,本件動画のデータは,本件ウェブサイトのサーバに保存されたわけではなく,本件ウェブサイトの閲覧者が,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックした場合も,本件ウェブサイトのサーバを経ずに,「ニコニコ動画」のサーバから,直接閲覧者へ送信されたものといえる。 すなわち,閲覧者の端末上では,リンク元である本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態に置かれていたとはいえ,本件動画のデータを端末に送信する主体はあくまで「ニコニコ動画」の管理者であり,被告がこれを送信していたわけではない。したがって,本件ウェブサイトを運営管理する被告が,本件動画を「自動公衆送信」をした(法2条1項9号の 4),あるいはその準備段階の行為である「送信可能化」(法2条1項9号の5)をしたとは認められない

また、インラインリンクに関する著作権侵害の成否ついては、本稿の冒頭で述べたようにリツイートに関する知的財産高等裁判所の判決等があり、著作権侵害は否定されています。
なお、違法にアップロードされたコンテンツにユーザーを誘導するリーチサイト及びリーチアプリについては、令和2年改正により、著作権等を侵害する行為とみなし、民事措置及び刑事罰の対象となっています。

著作者人格権とリンク

著作権法では、著作者が著作物に対して有する人格的利益を保護するため、著作物の公表についての決定権である公表権(著作権法18条)、著作物への氏名表示についての決定権である氏名表示権(同法19条)、著作物等の同一性を維持することに関する同一性保持権(同法20条)等の各権利を規定しています。
上記の最高裁判所令和2年7月21日判決の事案は、他人の写真がツイッター上において無断でアップロードされてツイートされ、さらにそれがリツイートされたというもので、無断アップロードされた画像は、リツイートされた際に、ツイッターの仕様によって上下がトリミングされた状態で表示され、そこに記載されていた著作者の氏名が表示されなくなっていました。そこで、同事件では、リツイートにおけるリンク設定行為が氏名表示権を害するのではないかという点が問題となり、最高裁判所は、氏名表示権の侵害が認められると判断しました。

本判決の要旨

本判決は、以下にように述べて、インラインリンクにより被告のフェイスブックアカウント上に画像が表示されたとしても、複製にも公衆送信にも該当しないと判断しました。

本件リンク設定行為は、本件動画の表紙画面である被告画像1をリンク先のサーバーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示させるものにすぎず、被告は、本件リンク設定行為を通じて、被告画像1のデータを本件ウェブページのサーバーに入力する行為を行っていないものと認められる。そうすると、前記(2)アのとおり原告画像1を複製したものと認められる被告画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力、蓄積し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは、本件動画の投稿者であって、被告による本件リンク設定行為は、原告画像1について、有形的に再製するものとも、公衆送信するものともいえないというべきである

本件で、原告は、以下の点を指摘し、規範的にみて、被告が複製及び公衆送信の主体と認められると主張していました。
①本件ウェブページに被告画像を張り付ける行為も、本件リンク設定行為も、被告ウェブページの閲覧者にとっては、何らの操作を介することなく被告画像を閲覧できる点で異なるところはないこと。
②本件リンク設定行為は、被告画像を閲覧者の端末上に自動表示させるために不可欠な行為であり、かつ、原告画像の複製の実現における枢要な行為といえること。
③本件リンク設定行為をすることにより、被告ゲームを宣伝し、被告ゲームの販売による多大な利益を得たこと。
これに対し、判決は、以下のように述べ、原告の主張を退けました。

上記①についてみると、単に、本件ウェブページに被告画像1を貼り付ける等の侵害行為がされた場合と同一の結果が生起したことをもって、本件リンク設定行為について、複製権及び公衆送信権の侵害主体性を直ちに肯定することはできないというべきである。

また、上記②についてみると、仮に枢要な行為に該当することが侵害主体性を基礎付け得ると解したとしても、本件リンク設定行為の前の時点で既に本件動画の投稿者による原告画像1の複製行為が完了していたことに照らすと、本件リンク設定行為が原告画像1の複製について枢要な行為であるとは認め難いというべきである。なお、本件動画は、本件ウェブページを閲覧する方法によらずとも、本件動画が投稿されたYouTubeの「D」のページにアクセスすることによっても閲覧することができるから、本件リンク設定行為が原告画像1の公衆送信にとって枢要な行為であるとも認められない。

さらに、上記③についてみると、本件全証拠によっても、本件リンク設定行為により被告がどの程度の利益を得ていたのかは明らかではないから、その点をもって、被告が原告画像1の複製及び公衆送信の主体であることを根拠付けることはできない。したがって、上記①ないし③の点を考慮しても、被告を原告画像1の複製及び公衆送信の主体であると認めることはできず、原告の上記主張は採用することができない。

また、本件で、原告は、被告が著作権侵害の主体であると認められない場合であっても、少なくとも、被告が本件リンク設定行為により著作権侵害を幇助したものと認められると主張しましたが、本件裁判所は、以下のとおり述べて、これを否定しました。

被告による本件リンク設定行為は、被告画像1をリンク先のサーバーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示させるものにすぎず、本件動画の投稿者による被告画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力・蓄積して公衆送信し得る状態にする行為と直接関係するものではない。そうすると、本件リンク設定行為が本件動画の投稿者による複製及び公衆送信行為自体を容易にしたとはいい難いから、被告による本件リンク設定行為が、被告画像1に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)侵害を幇助するものと認めることはできない

したがって、被告を原告画像1の複製及び公衆送信の幇助者であると認めることはできない。

本件におけるその他の論点

本件の背景及び民事訴訟法3条の9

本件で、被告のグループ企業であるシャンハイ・テンセント・コンピューター・システム社(テンセント・コンピューター社)は、原告ゲームの開発・運営が、中国で配信されているテンセント・コンピューター社の別のスマートフォン向けオンラインゲームの著作権を侵害するものであるとして、中国の裁判所にすでに訴えを提起して(以下「中国訴訟」といいます。)いました。これについて、被告は、本件訴訟の争点が、中国訴訟の争点と共通し、本件も中国の裁判所で解決が図られるべきであること、被告ゲームも中国で制作されているなど客観的な事実関係が全て中国で発生したこと、本件の証拠は全て中国にあり、また、被告は日本国内に子会社や事務所などの拠点がないことなどを根拠に、民事訴訟法3条の9の「特別の事情」があるとして、訴えの却下を求めました。しかし、これについて、本件裁判所は、特別の事情を認めませんでした。

第三条の九 裁判所は、訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合(日本の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意に基づき訴えが提起された場合を除く。)においても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、その訴えの全部又は一部を却下することができる。

被告各画像が原告各画像を複製又は翻案したものに該当するか

本件では、この他、被告ゲーム内における被告各画像が、原告ゲーム内における原告各画像の表現と同一性ないし類似性が認められ、原告の著作権を侵害しないかという点が問題となりました。
これについて、本件裁判所は、「複製又は翻案に関する判断枠組み」として、以下のように述べ、ゲーム内の原告各画像についての複製又は翻案については全て否定しました。

著作権法が、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法2条1項1号)をいい、複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいう旨規定していること(同項15号)からすると、著作物の複製(同法21条)とは、当該著作物に依拠して、その創作的表現を有形的に再製する行為をいうものと解される。

また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴である創作的表現の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。

そうすると、被告各画像が原告各画像を複製又は翻案したものに当たるというためには、原告各画像と被告各画像との間で表現が共通し、その表現が創作性のある表現であること、すなわち、創作的表現が共通することが必要であるものと解するのが相当である。

一方で、原告各画像と被告各画像において、アイデアなど表現それ自体ではない部分が共通するにすぎない場合には、被告各画像が原告各画像を複製又は翻案したものに当たらないと解される。そして、共通する表現がありふれたものであるような場合も,そのような表現に独占権を認めると、後進の創作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり、文化の発展に寄与するという著作権法の目的(同法1条)に反する結果となりかねないから、当該表現に創作性を肯定して保護することは許容されず、その結果、複製又は翻案したものに当たらないと解される。

コメント

インラインリンクの設定行為については、本件を含めた近時の裁判例から、日本では著作権侵害に該当しないとの流れが定着しつつあります。
また、令和2年の著作権法改正では、悪質な行為類型といえるリーチサイト・リーチアプリの規制にとどまっているのが現状で、同改正の趣旨においても、「リンク情報等の提供行為は、インターネットにおける情報流通においてきわめて重要な役割を果たしており、個人の表現行為の際に併せてリンク情報等の提供行為が行われる場合も多いことから、そうした行為について一律に民事措置・刑事措置を講じることは、表現の自由との関係で慎重な検討が必要」とされています。
しかしながら、海外では、EUにおけるGS Media事件など、違法サイトへのリンク設定行為について著作権侵害を認めたケースもあります。インターネット上のコンテンツについては、どこからでもアクセスできるという観点から、国際的な調和がより重要になる分野といえますので、今後、リーチサイト・リーチアプリ以外の侵害コンテンツへのリンク設定行為がどのように取り扱われていくのか注目されるところです。

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(文責・小和田)