知的財産高等裁判所第1部(大鷹一郎裁判長)は、本年(令和4年)3月29日、「#KuToo」活動に対する批判的なツイートを引用し、批評した書籍について、引用は適法であって著作権侵害は成立しないとの判断を示しました。また、それに先立ち、原審である東京地方裁判所民事第40部(佐藤達文裁判長)の判決は、本件における適法引用の成否について詳細な検討を加えており、特に、適法引用の成立要件について有益な判示をしています。そこで、本稿では、まず原判決を紹介し、その後に控訴審判決の紹介をしたいと思います。

なお、訴訟では、著作権侵害以外にも、同一性保持権侵害、名誉感情侵害による不法行為、名誉権侵害による不法行為及び著作者人格権のみなし侵害の成否が争われていましたが、本稿では、主要な争点である著作権侵害と適法引用の問題を取り上げます。

ポイント

骨子

  • 著作権法32条1項は,「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と規定する。同項の規定によれば,著作物の全部又は一部を著作権者の承諾を得ることなく自己の著作物に含めて利用するためには,①利用されるのが公表された著作物であること,②当該著作物の利用が引用に該当すること,③当該引用が公正な慣行に合致すること,④当該引用が報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであることの各要件を満たすことが必要であると解するのが相当である。
  • ①引用して利用する側の著作物と,引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができること,及び,②引用する著作物と引用される著作物の間に,引用する側が主,引用される側が従の関係があることは,「引用」の基本的な要件を構成すると解するのが相当である(最高裁判所昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第3小法廷判決・民集34巻3号244頁参照。なお,同判決は,旧著作権法〔明治32年法律第29号〕30条1項2号(「自己の著作物中に正当の範囲内に於て節録引用すること」)に関する判断であるが,「引用」の概念は現行法下においても妥当すると解される。)。
  • 著作権法32条1項は,引用が「公正な慣行に合致すること」を要件としている。ここにいう「公正な慣行」は,著作物の属する分野や公表される媒体等によって異なり得るものであり,証拠に照らして,当該分野や公表媒体等における引用に関する公正な慣行の存否を認定した上で,引用が当該慣行に合致するかを認定・判断することとなると考えられる。
  • 当該著作物の属する分野や公表される媒体等において引用に関する公正な慣行が確立していない場合であっても,当該引用が社会通念上相当と認められる方法等によると認められるときは「公正な慣行に合致する」というべきである。
  • 著作権法32条1項は,引用が「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」であることを要件としている。同要件は,引用部分を明瞭に区分し得ることを前提とした上で,当該引用部分が,認定された「引用の目的」との関係において「正当な範囲内」であることを求めるものであり,引用が「正当な範囲内」で行われたかどうかは,①引用の目的の内容及び正当性,②引用の目的と引用された著作物との関連性,③引用された著作物の範囲及び分量,④引用の方法及び態様,⑤引用により著作権者が得る利益及び引用された側が被る不利益の程度などを総合的に考慮して判断するのが相当である。

判決概要

【第一審判決】

裁判所 東京地方裁判所民事第40部
判決言渡日 令和3年5月26日
事件番号
事件名
令和2年(ワ)第19351号
損害賠償等請求事件
裁判官 裁判長裁判官 佐 藤 達 文
裁判官    齊 藤   敦
裁判官    三 井 大 有

【控訴審判決】

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 令和4年3月29日
事件番号
事件名
令和3年(ネ)第10060号
損害賠償等請求控訴事件
裁判官 裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官    小 林 康 彦
裁判官    小 川 卓 逸

解説

著作物と著作者の権利

著作権法は、著作物に関する著作者の権利等について定める法律で、著作物の意味については、以下のとおり、「著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義され、また、著作物を創作する者は著作者と呼ばれています。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 著作者 著作物を創作する者をいう。
(略)

著作者は、その創作にかかる著作物について、以下のとおり、権利登録の出願手続など特段の方式を履行することなく、著作物に関し、著作者人格権と著作権を有するものとされています。

(著作者の権利)
第十七条 著作者は、次条第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第二十一条から第二十八条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。
 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。

この規定に見られるように、著作者人格権や著作権は、単一の権利ではなく、同条項に列挙された各規定に定められた権利の束ということができます。これらのうち、著作権に含まれる個々の権利は、「支分権」と呼ばれ、支分権によって著作者が専有する著作物の利用行為は、「法定利用行為」と呼ばれます。

複製権とは

著作権法21条は、支分権のひとつとして、以下のとおり、複製権を規定しています。

(複製権)
第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
「複製」の意味については、著作権法2条1項15号に定義があり、さまざまな手段で著作物をコピーし、「有形的に再製すること」をいうものとされています。
十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。
 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること。

著作者が著作物を複製する権利を専有する結果、第三者が著作物を複製して利用するには、著作者から許諾を得ることが必要になります。もし、許諾を得ずに他人の著作物を複製して利用すると、原則として著作権侵害となり、差止や損害賠償の請求の対象となります。

引用の例外とその要件

著作権の制限と引用の例外

著作物の使用が法定利用行為に該当する場合であっても、一定の要件を満たす場合には、例外的に著作権侵害とならないものとされています。このような著作権の制限については、著作権法30条ないし50条に規定されており、そのひとつに、著作権法32条に規定された引用の例外があります。

同条1項は、適法な引用として他人の著作物の利用が正当化される要件を下記のとおり定めており、例えば、ある研究論文の中で他人の論文を引用するような場合が想定されています。

(引用)
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
(略)

引用の例外の要件

引用の例外によって他人の著作物が適法化されるためには、上記の著作権法32条1項の要件を充足する必要があります。そこに規定されているのは、以下の各要件です。

① 公表された著作物であること(公表要件)
② 引用に該当すること(引用要件)
③ 公正な慣行に合致すること(公正慣行要件)
④ 引用の目的上正当な範囲内であること(正当範囲要件)

また、著作権法48条1項1号は、以下のとおり、引用の例外によって他人の著作物を適法に利用するためには、合理的と認められる方法および程度により、引用される著作物の出所を明示することが求められています。

(出所の明示)
第四十八条
 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
 第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項、第三十七条第一項、第四十二条又は第四十七条第一項の規定により著作物を複製する場合
(略)

モンタージュ事件最判

引用の例外の解釈を示した先例としてしばしば引用されるのは、最三判昭和55年3月28日昭和51年(オ)第923号民集34巻3号244頁モンタージュ事件判決です。この判決は、旧著作権法の解釈をしたものながら、引用といえるために、①自ら創作した部分と他人が創作した部分が明瞭に区別できること(明瞭区別性)、②質的にも量的にも自ら創作した部分が主、他人が創作した部分が従との関係があること(主従関係)、を要件としており、また、著作者人格権を害しない態様であることも求めています。

・・・引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきであり、更に、・・・引用される側の著作物の著作者人格権を侵害するような態様でする引用は許されないことが明らかである。

このように、モンタージュ事件最判は、「引用」につき、明瞭区別性と主従関係を判断基準とし、その後も多くの下級審判例によって追随されていましたが、この判決は、引用の要件を「正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」とのみ定めていた旧著作権法の解釈を示したものであるため、現行法のもとで、どの要件との関係で明瞭区別性と主従関係を考慮するか、また、そもそも明瞭区別性と主従関係という2要件で判断するのが適切か、あるいは、著作権法32条1項の要件を総合的に判断して引用の例外の適否を判断すべきか、といった点は議論のあるところです。

藤田嗣治絵画複製事件東京高判

現行著作権法32条1項の解釈を示した判決としてしばしば引用されるのは、東京高判昭和60年10月17日昭和59年(ネ)第2293号藤田嗣治絵画複製事件判決です。

同判決は、以下のとおり、引用の例外の成否の判断にあたり、明瞭区別性と主従関係の2つの要件の枠組みを用い、これらを著作権法32条1項のいずれか特定の要件の中に位置づけるものではありません。他方、同判決は、主従関係について、「引用の目的、両著作物のそれぞれの性質、内容及び分量並びに被引用著作物の採録の方法、態様などの諸点に亘つて確定した事実関係に基づき、かつ、当該著作物が想定する読者の一般的観念に照らし」て判断されるものとしており、これらの様々な事実に基づく総合判断により、公正慣行要件や正当範囲要件に関する事実を考慮する考え方を示したものといえそうです。

著作権法第三二条第一項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定しているが、ここに「引用」とは、報道、批評、研究等の目的で他人の著作物の全部又は一部を自己の著作物中に採録することであり、また「公正な慣行に合致し」、かつ、「引用の目的上正当な範囲内で行なわれる」ことという要件は、著作権の保護を全うしつつ、社会の文化的所産としての著作物の公正な利用を可能ならしめようとする同条の規定の趣旨に鑑みれば、全体としての著作物において、その表現形式上、引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができること及び右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められることを要すると解すべきである。そして、右主従関係は、両著作物の関係を、引用の目的、両著作物のそれぞれの性質、内容及び分量並びに被引用著作物の採録の方法、態様などの諸点に亘つて確定した事実関係に基づき、かつ、当該著作物が想定する読者の一般的観念に照らし、引用著作物が全体の中で主体性を保持し、被引用著作物が引用著作物の内容を補足説明し、あるいはその例証、参考資料を提供するなど引用著作物に対し付従的な性質を有しているにすぎないと認められるかどうかを判断して決すべきものであ・・・る。

近年の傾向

このように、引用の適否を巡っては、現行著作権法制定後も明瞭区別性と主従関係が判断枠組みに用いられていましたが、近年は、著作権法32条1項の文言に則った解釈をすべきであるとの考え方が学説や裁判例で有力になっているといわれます。この文脈でしばしば引用されるのは、東京高判平成14年4月11日平成13年(ネ)第3677号絶対音感事件東京高判や、知財高判平成22年10月13日平成22年(ネ)第10052号絵画鑑定証書事件知財高判などが挙げられます。前者は、著作権法32条1項の枠組みを用いつつ、「引用」の認定において明瞭区別性を、公正慣行要件に関して、主従関係と出所明示を考慮しており、後者は、以下のとおり述べた上で、明瞭区別性や主従関係から離れて、端的に著作権法32条1項の文言に沿った認定判断を行っています。

・・・他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり,かつ,引用の目的との関係で正当な範囲内,すなわち,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要であり,著作権法の上記目的をも念頭に置くと,引用としての利用に当たるか否かの判断においては,他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか,その方法や態様,利用される著作物の種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない。

また、最近では、著作権法32条1項の枠組みを用いつつ出所明示がないことを理由に公正慣行要件を否定した知財高判平成30年8月23日平成30年(ネ)第10023号は、出所明示の必要性を支える事実として、明瞭区別性の不十分さを指摘しています(この判決の解説はこちら)。

このように、適法引用の要件の把握の仕方については議論が錯綜するところで、その理由は、適法引用の成否が総合判断によらざるを得ないことにあると考えられます。そのような中、明瞭区別性や主従関係については、これらを直接の要件に位置づけない場合であっても、総合判断において考慮されるべき重要な要素に変わりはないものと思われますが、要件の明確化のために、まずは入り口となる引用要件の中で考慮するのが妥当と思われるところです。また、公正慣行要件を検討にあたっては、実際上、出所明示の状況は考慮要素となるのではないでしょうか。

なお、絵画鑑定証書事件知財高判は、以下のとおり、引用する側について、必ずしも著作物性を有する必要はないとの考え方も示しています。

被控訴人は,著作権法32条1項における引用として適法とされるためには,利用する側が著作物であることが必要であると主張するが,「自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」を要件としていた旧著作権法(明治32年法律第39号)30条1項2号とは異なり,現著作権法(昭和45年法律第48号)32条1項は,引用者が自己の著作物中で他人の著作物を引用した場合を要件として規定していないだけでなく,報道,批評,研究等の目的で他人の著作物を引用する場合において,正当な範囲内で利用されるものである限り,社会的に意義のあるものとして保護するのが現著作権法の趣旨でもあると解されることに照らすと,同法32条1項における引用として適法とされるためには,利用者が自己の著作物中で他人の著作物を利用した場合であることは要件でないと解されるべきものであって,本件各鑑定証書それ自体が著作物でないとしても,そのことから本件各鑑定証書に本件各コピーを添付してこれを利用したことが引用に当たるとした前記判断が妨げられるものではなく,被控訴人の主張を採用することはできない。

「公表」の意味

上述のとおり、近年の裁判例は、著作権法32条1項の文言に則りつつ、引用要件、公正慣行要件、正当範囲要件については、明瞭区別性や主従関係、出所明示で考慮される事実を総合考慮して判断する傾向にあるように思われます。他方、引用の例外が適用されるためには、これらの要件に加えて、引用された著作物が「公表」されたものであることも必要です。

「公表」の意味については、著作権法が以下のとおり規定しており、「発行」された場合や、「上演、演奏、上映、公衆送信、口述若しくは展示の方法で公衆に提示された場合」などに公表があったものとされます。

(著作物の公表)
第四条 著作物は、発行され、又は第二十二条から第二十五条までに規定する権利を有する者若しくはその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。)を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその公衆送信許諾(第八十条第三項の規定による公衆送信の許諾をいう。以下同じ。)を得た者によつて上演、演奏、上映、公衆送信、口述若しくは展示の方法で公衆に提示された場合(建築の著作物にあつては、第二十一条に規定する権利を有する者又はその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。)を得た者によつて建設された場合を含む。)において、公表されたものとする。
 著作物は、第二十三条第一項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその公衆送信許諾を得た者によつて送信可能化された場合には、公表されたものとみなす。
 二次的著作物である翻訳物が、第二十八条の規定により第二十二条から第二十四条までに規定する権利と同一の権利を有する者若しくはその許諾を得た者によつて上演、演奏、上映、公衆送信若しくは口述の方法で公衆に提示され、又は第二十八条の規定により第二十三条第一項に規定する権利と同一の権利を有する者若しくはその許諾を得た者によつて送信可能化された場合には、その原著作物は、公表されたものとみなす。
 美術の著作物又は写真の著作物は、第四十五条第一項に規定する者によつて同項の展示が行われた場合には、公表されたものとみなす。
 著作物がこの法律による保護を受けるとしたならば第一項から第三項までの権利を有すべき者又はその者からその著作物の利用の承諾を得た者は、それぞれ第一項から第三項までの権利を有する者又はその許諾を得た者とみなして、これらの規定を適用する。

また、公表の一態様である「発表」の意味については、著作権法に以下の規定があり、「公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物」が作成頒布された場合などに発表があったものとされます。

(著作物の発行)
第三条 著作物は、その性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が、第二十一条に規定する権利を有する者若しくはその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。以下この項、次条第一項、第四条の二及び第六十三条を除き、以下この章及び次章において同じ。)を得た者又は第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾(第八十条第三項の規定による複製の許諾をいう。以下同じ。)を得た者によつて作成され、頒布された場合(第二十六条、第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利を有する者の権利を害しない場合に限る。)において、発行されたものとする。
 二次的著作物である翻訳物の前項に規定する部数の複製物が第二十八条の規定により第二十一条に規定する権利と同一の権利を有する者又はその許諾を得た者によつて作成され、頒布された場合(第二十八条の規定により第二十六条、第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利と同一の権利を有する者の権利を害しない場合に限る。)には、その原著作物は、発行されたものとみなす。
 著作物がこの法律による保護を受けるとしたならば前二項の権利を有すべき者又はその者からその著作物の利用の承諾を得た者は、それぞれ前二項の権利を有する者又はその許諾を得た者とみなして、前二項の規定を適用する。

事案の概要

当事者の関係

本件は、「#KuToo」活動を巡るツイッター上での議論の応酬を背景とする事件で、ツイッターの投稿者である原告と、「#KuToo」運動の呼びかけ人である俳優の石川優実さん(「被告Y」)及び出版社である株式会社現代書館(「被告会社」)の間で争われた訴訟です。被告Yは、「職場でハイヒールやパンプスの着用を女性に義務付けることは許容されるべきでない」とのツイッターでの投稿が支持を得たことから、「靴」と「苦痛」に「#MeToo」 を掛け合わせた「#KuToo」活動をし、被告会社は、被告Yが執筆した書籍「#KuToo(クートゥー)靴から考える本気のフェミニズム」(「本件書籍」)を出版していました。他方、原告は、「はるかちゃん/吸血鬼/ぬいぐるみ/恋話」のアカウント名でツイッターを利用し、同運動に批判的な立場から投稿をしていました。

本件ツイート及び本件批評

原告は、本件訴訟外のユーザ(「ゴリラ」)の書き込みに対する返信として、「逆に言いますが男性が海パンで出勤しても#kutooの賛同者はそれを容認するということでよろしいですか?」とのツイート(「本件ツイート」)をしたところ、被告Yは、本件ツイートに対し、「そんな話はしてないですね。もしも#KuTooが『女性に職場に水着で出勤する権利を!』ならば容認するかも知れませんが、#KuTooは『男性の履いている革靴も選択肢にいれて』なので。」との引用ツイートをしました。

また、その後被告会社が出版した本件書籍の第2章には、「2 #KuToo バックラッシュ実録140字の闘い」との表題で、「2019年6月3日、Y´はChange.orgの#KuTooキャンペーンで集まった署名を厚生労働省に提出し、賛同者へツイッターとブログで報告した。それと同時に、彼女へのリプライや引用リツイート機能による誹謗中傷、#KuTooのハッシュタグをわざわざつけたバッシングツイート――いわゆる“クソリプ”が数えきれないほど投稿された。…ハンドルネームの見ず知らずの人びとは『たかが靴ごときで』『男性だって辛いんだ』などの言葉で女性の苦痛を蔑み、…彼女を傷つけた。…この章では、Yを攻撃したクソリプをツイッターの中から引っ張り出し、…『物言う女』に嫌悪を抱くメンタリティーの危うさを読者とともに考えていきたい。(編集部)」との記載があったほか、「クソリプ」の意味について、「クソみたいなリプライ(ツイッターの返信機能を使って、見当はずれな内容や中傷的な言葉を投稿すること)」との注記もありました。

さらに、以下のとおり、本件書籍の72及び73頁から構成される見開きには、左ページに本件ツイートと被告Yの引用ツイートが掲載されているほか、本件ツイートを「逆が全然逆じゃない系」と分類した上で、本件ツイートに関する被告Yの批評が掲載されていました(「本件批評」)。

なお、本件批評の中で原告のツイートが引用された際に、もとのツイートでは「#kutoo」とあった部分が「#KuToo」となっています(72頁)。

本件訴訟の提起

原告は、本件批評について、(a)原告のツイートを複製したものであることを理由とする著作権侵害、(b)本件ツイートでは「#kutoo」と表記されていたのを本件批評では「#KuToo」としていることを理由とする同一性保持権侵害、(c)本件批評が原告の名誉感情を侵害するものであることを理由とする名誉感情毀損による不法行為にそれぞれ基づき、損害賠償や本件書籍の販売の差止めなどを求める訴訟を提起しました。

被告らは、これらの主張をいずれも争いましたが、その根拠として、著作権侵害については、引用の例外の適用を主張していました。

判旨(原判決)

引用の例外について

原判決は、まず以下のとおり述べ、引用の例外の適用要件として、明瞭区別性と主従関係によるのではなく、著作権法32条1項の文言に則り、公表要件、引用要件、公正慣行要件、正当範囲要件をそれぞれ充足することが必要であるとの考え方を示しました。

著作権法32条1項は,「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と規定する。同項の規定によれば,著作物の全部又は一部を著作権者の承諾を得ることなく自己の著作物に含めて利用するためには,①利用されるのが公表された著作物であること,②当該著作物の利用が引用に該当すること,③当該引用が公正な慣行に合致すること,④当該引用が報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであることの各要件を満たすことが必要であると解するのが相当である。

また、原判決は、以下のとおり述べ、モンタージュ事件最判を引用しつつ、引用要件を充足するための具体的な基準として、明瞭区別性と主従関係を考慮するとの考え方を示しました。

著作物が「引用」されたというためには,当該著作物に接した一般人が引用されている部分を特定し,判別し得ることが前提となるので,引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とが明瞭に区別されることが必要である。同様に,「引用」は他者の著作物の全部又は一部を自己の著作物に含めて利用する行為であるので,両著作物のうち,いずれが引用する側であり,いずれが引用される側であるかを一般人が判別し得ることが必要となる。そのためには,引用する側の著作物と引用される側の著作物に主従の関係があることを要するというべきである。
そうすると,①引用して利用する側の著作物と,引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができること,及び,②引用する著作物と引用される著作物の間に,引用する側が主,引用される側が従の関係があることは,「引用」の基本的な要件を構成すると解するのが相当である(最高裁判所昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第3小法廷判決・民集34巻3号244頁参照。なお,同判決は,旧著作権法〔明治32年法律第29号〕30条1項2号(「自己の著作物中に正当の範囲内に於て節録引用すること」)に関する判断であるが,「引用」の概念は現行法下においても妥当すると解される。)。

その上で、原判決は、以下のとおり述べ、本件批評における本件ツイートの利用は、「引用」に該当すると判断しました。

本件ツイートは,前提事実(4)イ(ウ)のとおり,本件書籍の72及び73頁から構成される見開きのうち,その左頁上段に,原告のアカウント名,ユーザー名及びツイートのURLとともにその全文が掲載され,その下の少し離れた位置に被告Yの引用ツイートが掲載されているものであり,その記載事項,掲載形式,外観からして,利用される側の本件ツイートと,その他の部分とを明瞭に区別して認識することができる。
また,本件ツイートに係る記載部分は見開き2頁のうちの左頁上段の5行(本文部分は3行)にすぎず,同頁の他の部分には,本件ツイートに反論する被告Yのツイート6行(本文部分5行)が,右頁には,その全体にわたって被告Yの批評が記載されていることからすれば,形式的にも内容的にも,被告Yのツイートやコメント部分が主であり,原告の本件ツイート部分が従であると認められる。
したがって,本件批評に本件ツイートを複製して掲載した行為は,著作権法32条1項の「引用」に該当する。

次に、原判決は、「公正な慣行」について、以下のとおり、①公正な慣行は著作物の分野や媒体によって異なるものであり、各分野・媒体ごとに判断されるべきこと、及び、②引用にかかる公正な慣行が確立していない場合であっても、社会通念上相当と認められるときは公正慣行要件を充足し得ることを示しました。

著作権法32条1項は,引用が「公正な慣行に合致すること」を要件としている。ここにいう「公正な慣行」は,著作物の属する分野や公表される媒体等によって異なり得るものであり,証拠に照らして,当該分野や公表媒体等における引用に関する公正な慣行の存否を認定した上で,引用が当該慣行に合致するかを認定・判断することとなると考えられる。
そして,当該著作物の属する分野や公表される媒体等において引用に関する公正な慣行が確立していない場合であっても,当該引用が社会通念上相当と認められる方法等によると認められるときは「公正な慣行に合致する」というべきである。

その上で、原判決は、本件批評における本件ツイートの引用方法は社会通念上相当であるとして、公正慣行要件の充足を肯定しました。

書籍において他人のツイートを引用する場合については,特に確立した慣行が存在するとは認められないが,本件批評は,原告のアカウント名,ユーザー名及びツイートのURLとともに,その全文を掲載されているものであり,その掲載形式や外観からしても,一見して他人のツイートを引用していると看取することができる。
また,掲載された本件ツイートの本文は3行であり,後記(4)のとおり,読者がその趣旨を理解するためにはその全文を掲載することが必要であったと認められる。
したがって,本件ツイートの引用方法は社会通念上相当であり,「公正な慣行に合致する」ということができる。

また、原判決は、本件ツイートにおいて「#kutoo」とされていた部分が本件批評において「#KuToo」とされていた点について、単なる誤記であって、公正慣行要件の充足判断に影響しないとしました。

なお,本件ツイートにおける「#kutoo」との表記は,本件批評においては「#KuToo」と表記されているが,本件引用は,その記載内容や掲載形式によると,本件ツイートをそのまま複製しようとしたものであると考えられ,ハッシュタグを意味する「#kutoo」との表記を,書籍において「#KuToo」と変更することに特段の意味があるとも考え難い上,本件書籍の他の箇所では元のツイートが「#kutoo」である場合にはそのまま表示されていると認められる(乙5)ことによれば,本件批評における「#KuToo」との表記は,「#kutoo」の誤記であると認めるのが相当である。
そうすると,「#kutoo」と「#KuToo」の表記の差異は,本件ツイートの引用方法が「公正な慣行に合致する」との上記判断を左右するものではないというべきである。

続いて、原判決は、正当範囲要件について、以下の諸事情等を総合考慮して引用の目的との関係で正当の範囲内といえるかを判断すべきものとしました。

① 引用の目的の内容及び正当性
② 引用の目的と引用された著作物との関連性
③ 引用された著作物の範囲及び分量
④ 引用の方法及び態様
⑤ 引用により著作権者が得る利益及び引用された側が被る不利益の程度

著作権法32条1項は,引用が「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」であることを要件としている。同要件は,引用部分を明瞭に区分し得ることを前提とした上で,当該引用部分が,認定された「引用の目的」との関係において「正当な範囲内」であることを求めるものであり,引用が「正当な範囲内」で行われたかどうかは,①引用の目的の内容及び正当性,②引用の目的と引用された著作物との関連性,③引用された著作物の範囲及び分量,④引用の方法及び態様,⑤引用により著作権者が得る利益及び引用された側が被る不利益の程度などを総合的に考慮して判断するのが相当である。

その上で、原判決は、上記①「引用の目的の内容及び正当性」について、本件では、引用の目的に不相当・不適切な点はないとしました。

本件批評の目的は,本件書籍の第2章序文の記載(前提事実(4)イ(ア))によれば,被告Yのツイートに対する返信リプライ,同被告のツイートを引用するリツイート,「#KuToo」のハッシュタグをわざわざ付したツイートなど,様々な形で投稿される本件活動を非難,中傷等するツイッターに対し,実際のツイートを個別に引用し,これを批評することにより,本件活動の意義や真意について読者に伝えることにあると認められる。
そして,本件批評における「なんで女性の靴問題の逆が水着になるんだょ…。女性のみ水着での勤務が許されていて,男性はサウナスーツです,という状況だったら「俺たちにも水着を着る権利を!」ってなるんじゃないかな。…#KuTooっていうのはそういう感じの運動です。」との記載によれば,本件批評の目的も,本件ツイートを批評することにより,本件活動の意義や真意について読者に伝えることにあり,上記序文に記載された目的に沿うものであるということができる。
そうすると,本件引用の目的は,本件活動を非難,中傷等するツイートを批評するという点にあり,その目的に不相当・不適切な点はないというべきである。

また、原判決は、上記②「引用の目的と引用された著作物との関連性」について、以下のとおり、関連性を認めました。

本件ツイートは,前提事実(3)ア~ウのとおり,Aが「#KuTooに反発する人へ」と題する引用ツイートをツイッター上に投稿したことから始まった本件活動に関する一連のやりとりの中において,本件活動に賛同する旨を表明するゴリラの主張に対する原告の批判,反論として行われたものであると認められる。
そして,本件ツイートの「男性が海パンで出勤しても#kutooの賛同者はそれを容認するということでよろしいですか?」との記載は,「本件活動の賛同者の主張によれば,男性が海水パンツで出勤することを容認するという非常識な結論に至ることになる」という主張を含意するものと理解することができるが,これは本件活動に対する批判,非難にほかならない。
以上のとおりの本件スレッドにおいてやり取りが開始された経緯,本件スレッドにおける一連のやりとりの状況,本件ツイートの内容等に照らすと,本件ツイートは本件活動への批判等をその内容とするものであって,同ツイートは本件引用の目的の対象となる「本件活動を非難,中傷等するツイートに該当するものである。
そうすると,引用された著作物である本件ツイートは,本件引用の目的と関連するものであるということができる。

さらに、原判決は、上記③「引用された著作物の範囲及び分量」について、以下のとおり、引用の範囲・分量は適切であったとしました。

本件批評には,一つのツイートである本件ツイートの全文が掲載されているが,本件ツイートは50字程度の一文から成るものであり,その内容を理解するためには,その全部を掲載することが必要かつ相当であるので,本件引用により利用された著作物の範囲及び分量は相当であったということができる。

加えて、原判決は、上記④「引用の方法及び態様」について、以下のとおり、引用の方法・態様についても不適切であるとはいえないとしました。

また,本件ツイートの引用部分には,本件ツイートにおける「#KuToo」との表記が「#kutoo」と表記されているが,前記(3)ウで判示したとおり,これは誤記であると認めるのが相当であり,これをもって引用の方法又は態様が不適切であるということはできない。

最後に、原判決は、上記⑤「引用により著作権者が得る利益及び引用された側が被る不利益の程度」について、以下のとおり、原告の経済的不利益を認める証拠はないとしました。

本件批評は,公開された本件ツイートに対する批評であるが,原告は,これに対してツイッター上で反論・批評することは容易であり,原告が本件批評により経済的な不利益を被ったと認める証拠もない。

以上の結果、原判決は、本件批評による本件ツイートの引用は、正当範囲要件も充足すると認めました。

以上によれば,本件批評における本件ツイートの引用は,「引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」であると認められる。

結論として、判決は、著作権侵害を否定しています。

判旨(控訴審)

控訴審判決も、基本的に原判決の判示内容を維持しており、実質的な変更はほとんどありませんが、実務的に参考になる判示事項として、公正慣行要件に関し、以下のとおり、ツイッターの規約によって原文どおり引用することが求められ、ツイートの形式の変更も明示的に禁止されているとしても、書籍に引用する場合には、実際のツイッター上の表示をそのまま掲載することが求められるものではないとの考え方を示しています。

控訴人は,ツイッターにおいては,規約等により,原文どおり引用することが求められており,ツイートの形式の変更も明示的に禁止されていること,他人のツイートを許諾なく印刷物に掲載する場合にはスクリーンショットを掲載することが通例とされていること(甲59~62)からすれば,ツイートを書籍に引用するときは,実際のツイッター上の表示をそのまま掲載することが求められる旨主張する。
しかし,控訴人が指摘するツイッター社のブランドガイドライン(甲52)は,「マーケティング目的でツイートを表示する場合」について「ツイートの内容は原文どおりに引用し,変更,編集,改ざんをしないでください」とするものであって,言語の著作物であるツイートされた文字情報を引用する場合について定めたものではなく,また,甲52,53は,ツイッターにおけるツイート,引用ツイート等に関して定めるものにすぎない。そして,ツイッターの画面をスクリーンショットで掲載した甲59~62等の書籍が存在するとしても,他方で,ツイートの文字情報のみを掲載した書籍も複数存在すること(乙36~38)に照らすと,ツイートを書籍に引用する場合には実際のツイッター上の表示をそのまま掲載することが求められるものであるとまではいえない。

コメント

適法引用については、明瞭区別性と主従関係を適用要件に位置づけるモンタージュ事件最判の考え方が、法改正によって条文の文言に大きな変更が加えられた後も承継される中、これらの2要件の現行法のもとでの位置づけについて、議論が錯綜していました。そのような状況にあって、本訴訟の原判決は、適法引用の要件について、著作権法32条1項の文言に沿いつつ、個別の要件に関する具体的な解釈を示したもので、改めて現行法下における要件論の整理を図ったものといえます。

判決が示した基本的な考え方は、昨今の議論の趨勢の中に位置づけられるものと思われますが、明瞭区別性と主従関係を引用要件における考慮要素に位置づけ、モンタージュ事件最判を明示的に引用しつつその判示事項を現行法の引用要件に取り入れた点は注目に値します。また、正当範囲要件における考慮要素を具体的に列挙し、同要件の中に米国のフェアユースに類似するような判断枠組みを設けた点も、要件を明確にしつつ一定の柔軟性を持たせる試みとして興味深い点といえるのではないでしょうか。控訴審判決も、原判決の考え方を指示したものと考えられます。今後の議論の発展が期待されるところです。

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(文責・飯島)