知的財産高等裁判所第3部(鶴岡稔彦裁判長)は、令和2年12月15日、焼肉のたれの包装容器に使用されている立体的形状からなる位置商標の出願について、「同種の商品が、その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情」はなく、また、使用により自他商品識別力を獲得したともいえないとして、商標登録を認めなかった特許庁の判断を支持しました。

本判決では、①商標法3条1項3号該当性(「商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」)及び②商標法3条2項該当性(出所の識別力の獲得)について詳細に検討されていますので、本稿で紹介します。

ポイント

骨子

  • 商品等の形状は、同種の商品が、その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り、普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当すると解するのが相当である。
  • 本願商標を構成する立体的形状は、同種の商品が、その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲のものであり、その範囲を超えた形状であると認めるに足りる特段の事情は存在しない。したがって、本願商標は、商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、商標法3条1項3号に該当すると認められる。
  • 立体的形状からなる位置商標が使用により自他商品識別力を獲得したといえるかどうかは、当該商標の形状、その使用期間及び使用地域、当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断すべきである。
  • 本願商標を構成する立体的形状は本願商標使用商品において使用され、本願商標使用商品は相当数販売され、その宣伝広告も行われてきたが、本願商標は、使用により自他商品識別力を獲得したとは認められず、したがって、使用をされた結果需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるものに当たらないから、商標法3条2項に規定する要件を具備しているとは認められない。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第3部
判決言渡日 令和2年12月15日
事件番号 令和2年(行ケ)第10046号 審決取消請求事件
原審決 不服2017-10633号事件(令和2年3月30日審決)
本願商標
当事者 原告 エバラ食品工業株式会社
被告 特許庁長官
裁判官 裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 上田卓哉
裁判官 中平 健

解説

標章と商標

商標法における「標章」とは、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるものをいいます。

「商標」とは、標章であって、商品や役務について使用するものをいいます。つまり、商品に付されるロゴ等の目印のことで、登録を受けているかどうかは問いません。

(定義等)

商標法 第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。

 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの

 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)

 以下略

商標法による保護

商標は、商標が付された商品等の出所を表示する機能を有し、特許庁の商標登録を受けることにより、商標権による保護を受けることができます。

現在登録を受けられる商標の種類としては、文字だけで構成される文字商標、図形や記号のみで構成される図形商標・記号商標、立体的な形状で構成される立体商標、動き商標、音商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、文字や図形を商品等に付す位置を特定する位置商標、あるいはこれらの組み合わせがあります。

立体商標は平成8年商標法改正により、動き商標、音商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標及び位置商標は平成26年商標法改正により新たに導入された商標です。これら新しいタイプの商標は、多くの場合で、伝統的な商標に比べて、登録のハードルが高くなっています。

位置商標

位置商標は、文字、図形、記号、立体的形状やこれらの結合、これらと色彩との結合からなる標章を付す位置を特定する商標です。

(位置商標の願書への記載)

商標法施行規則 第四条の六 商標に係る標章(文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合に限る。)を付する位置が特定される商標(以下「位置商標」という。)の商標法第五条第一項第二号の規定による願書への記載は、その標章を実線で描き、その他の部分を破線で描く等により標章及びそれを付する位置が特定されるように表示した一又は異なる二以上の図又は写真によりしなければならない。

出所を直接表示するような文字等が入っていないものであっても登録を受けられる場合があり、例えば、キューピーマヨネーズのパッケージの図柄について、位置商標が登録されています。この位置商標の登録公報【商標の詳細な説明】の欄では、「赤い太線からなる網の目状の図形を配した構成からなるものであり、商品包装の前面の上部約5分の2の部分に位置します。破線及び黒い実線部分は包装用フィルム袋に入った商品の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではありません。」という説明がなされています。

【登録番号 第5960200号】

立体商標(本判決には直接関係しません)

立体的形状に関する商標には、立体的形状で構成される「立体商標」というものもあります。
出所を直接表示するような文字等が入っていないものでは、例えば、P&G社の洗濯洗剤アリエールジェルボールの形状について、拒絶査定不服審判(不服2019-8151)を経て、令和元年6月19日に立体商標として特許庁の登録を受けています。

【登録番号 第6257915号】(複数ある図の一部のみ)

識別力と商標の登録要件

商標の登録要件を規定する商標法3条1項では、出所について識別力を持たないタイプの商標を、登録できない商標として各号に列挙しています。

そのうち、本件で争点となった同項3号は、その商品の産地、品質、原材料、用途、形状(包装の形状を含む。)、生産の方法、数量などを普通に用いられる方法で表示するにすぎない商標は登録できないと定めています。

(商標登録の要件)

商標法 第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

 その商品又は役務について慣用されている商標

 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。以下略)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標

 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

 略

もっとも、同条2項で1項の例外を定めており、1項3号ないし5号の登録できない商標に当てはまる場合であっても、使用実績により出所の識別力を獲得した商品や役務は登録を受けられます。

(商標登録の要件)

商標法 第三条 1 

 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

立体的形状からなる位置商標の識別力に関する先例

立体的形状からなる位置商標については、本件に先立つ令和2年2月12日、知財高裁第2部判決(森義之裁判長・「石油ストーブ事件」)において、本件と同様の争点である①商標法3条1項3号該当性(「商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」)及び②商標法3条2項該当性(出所の識別力の獲得)が判断されています。

同判決では、争点①につき、「商品等の形状は,同種の商品が,その機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である」との規範を示したうえで、当該商標は、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であるとして、商標法3条1項3号該当性を認めています。

そして、争点②につき、原告に有利に働く事情を考慮しても、当該商標について原告の事業に係る商品であることを認識することができるとまで認められないとして、商標法3条2項該当性を否定し、結論として、立体的形状からなる位置商標の登録を認めませんでした。

事案の概要

本件は、エバラ食品工業株式会社が、特許庁に対し、同社の有名な焼肉のたれ「エバラ焼肉のたれ 黄金の味」を封入する容器について、右図のように、容器に立体的形状を付す位置を特定した位置商標(以下「本願商標」といいます。)を出願したところ、特許庁が登録を認めなかったことから、原告エバラ食品工業株式会社が、特許庁の行った審決の取消しを求めて知財高裁に提訴した事案です。

争点は、
①商標法3条1項3号該当性(「商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」)
②商標法3条2項該当性(出所の識別力の獲得)
の2点となります。

なお、原告による商標出願時の【商標の詳細な説明】欄の記載内容は以下のとおりです。

【商標の詳細な説明】 商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、商品を封入した容器の胴部中央よりやや上から首部にかけて配された立体的形状からなる。前記立体的形状は容器周縁に連続して配された縦長の菱形形状であり、各々の菱形形状は中央に向かって窪んでいる。なお破線部分は商品容器の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。

特許庁の判断

特許庁は、拒絶査定不服審決において、

⑴ 本願商標は、商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号に該当する、
⑵ 本願商標は、使用がされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとは認められず、同3条2項に規定する要件を具備するものとは認められない、
として、本願商標(位置商標)の登録を認めませんでした。

判旨

知財高裁は、結論・理由において特許庁の判断を支持し、本願商標の登録を認めませんでしたが、その理由を以下のとおり述べています。

商標法3条1項3号該当性

最初に、商標登録できない類型である商標法3条1項3号該当性が問題となります。具体的には、本願商標が、「商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であるかどうかが争点となりました。

(1)判断枠組み
まず、判決は、商標法3条1項3号該当性の判断枠組みとして、商品等の形状は、同種の商品が、その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り、普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、同号に該当すると解するのが相当であると示しています。

その理由として、以下の3点が挙げられていました。
① 同号の趣旨として、同号掲記の標章は、特定人による独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、これらの標章は、一般的に使用される標章であって、自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないことから、登録を許さないとしたものであること。

② 本件で問題となる商品の形状については、商品に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、その反面として、商品の出所を表示し自他商品を識別する標識として用いられるものは少なく、需要者としても、商品の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識するものであり、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いこと。

③ 商品の機能又は美観に資することを目的とする形状は、同種の商品に関与する者が当該形状を使用することを必要とし、その使用を欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から適切でないといえること。

⑴ 判断の枠組み

3条1項3号は,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状(包装の形状を含む。・・・),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は, 商標登録を受けることができない旨を規定しているが,これは,同号掲記の標章は,商品の産地,販売地その他の特性を表示,記述する標章であって,取引に際してこれらを使用する必要性が高く,誰もがその使用を欲するものであるから,特定人による独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,これらの標章は,一般的に使用される標章であって,多くの場合,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないことから,登録を許さないとしたものである。同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,その反面として,商品・役務の出所を表示し自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少なく,需要者としても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識するものであり,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを必要とし,その使用を欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。したがって,商品等の形状は,同種の商品が,その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,3条1項3号に該当すると解するのが相当である。

(2)包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形形状
次に、今回問題となる立体的形状である、「包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形形状」一般について詳細に検討・認定がなされていますが、その内容は、概要次のとおりです。

まず、他の液体状の商品の包装容器に付された形状を認定し、また、他の焼肉のたれの包装容器に付された形状を認定しています。加えて、原告エバラ食品工業株式会社自身が、商品に付した形状について、包装容器の機能や美観に資するものであると説明していたとの認定も行っています。

そのうえで、包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形の立体的形状は、焼肉のたれの包装容器について、機能や美観に資するものとして、取引上普通に採択、使用されている立体的な装飾の一つであり、その位置は、包装容器の上部又は下部が一般的であること、また、需要者は、立体的形状の上又は下に貼付されたラベルによって商品名等を容易に認識することができることを認定しています。

エ 形状の採択,使用の趣旨

以上を総合すると,包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形の立体的形状は,液体状の商品及びそのうちの焼き肉のたれの包装容器について,機能や美観に資するものとして,取引上普通に採択,使用されている立体的な装飾の一つであり,その位置は,包装容器の上部又は下部が一般的であることが認められる。そして,実際の使用例においては,いずれの場合も,その立体的形状の上又は下に,商品名等を目立つ態様で表示したラベルが貼付されていることが認められ,需要者は,そのようなラベルによって商品名等を容易に認識することができるものと認められる。

(3)商標法3条1項3号該当性
そして、本願商標がどのような形状か認定したうえで、本願商標の商標法3条1項3号該当性について次のように判断しています。

すなわち、焼肉のたれの包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形形状に関して上記(2)のとおり認定したところからすると、本願商標を構成する立体的形状とそれを付す位置は、同種の商品が、その機能又は美観上の理由により採用するものと予測し得る範囲のものであり、その範囲を超えた形状であると認めるに足りる特段の事情は存在しないと判断し、結論として、本願商標は、「商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であり、同号に該当するとしました。

⑶ 3条1項3号該当性

本願商標は,標章を付する位置が特定された位置商標であり,商品を封入した容器の胴部中央よりやや上から首部にかけて配された立体的形状からなり,その立体的形状は容器周縁に連続して配された縦長の菱形形状であり, 各々の菱形形状は中央に向かって窪んでいるものである。前記⑵エのとおり,包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形の立体的形状は,焼き肉のたれの包装容器について,機能や美観に資するものとして,取引上普通に採択,使用されている立体的な装飾の一つであり,その位置は,包装容器の上部又は下部が一般的である上に,その形状に,格別に斬新な特徴があるとまではいえないことからすると,本願商標を構成する立体的形状及びそれを付す位置は,需要者及び取引者において,商品の機能又は美観上の理由により採用されたものと予測し得る範囲のものであると認められる。本願商標の図の破線部分は商品容器の一例を示したものであり,商標を構成する要素ではなく,また,本願商標は,その立体的形状の下に商品名等が記載されたラベルを貼 付することを構成自体に含むものではないが,本願商標は,容器の胴部中央よりやや上から首部にかけて配されており,指定商品が焼き肉のたれであることからすると,その下に商品名等が記載されたラベルが貼付されることは容易に予測されるものであり,そのような観点からしても,本願商標を構成する立体的形状は,需要者及び取引者において,出所の識別ではなく機能や美観に資するものとして採択,使用されていると認識されるものと認められる。 そうすると,本願商標を構成する立体的形状は,同種の商品が,その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲のものであり,その範囲を超えた形状であると認めるに足りる特段の事情は存在しない。したがって,本願商標は,商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり,3条1項3号に該当すると認められる。

商標法3条2項該当性

前述のとおり、商標法3条1項3号該当により、本願商標が登録できない類型に当てはまっても、商品の出所識別力を獲得している場合には、同条2項により、商標登録が認められるところ、本願商標が出所識別力を獲得しているかどうかが次の争点となります。
 
(1)判断枠組み

判決は、識別力を獲得したといえるかどうかの判断枠組みとして、当該商標の形状、その使用期間及び使用地域、当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断すべきと述べています。

(1)判断の枠組み
立体的形状からなる位置商標が使用により自他商品識別力を獲得したといえるかどうかは,当該商標の形状,その使用期間及び使用地域,当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断すべきである。

(2)商標法3条2項該当性(出所識別機能の有無)
そして、判決は、本願商標の使用態様、使用期間、販売実績、宣伝実績、アンケート調査等について詳細に認定した上で、本願商標に出所識別機能は認められないと判断しました。
以下では、その理由の概要を紹介したいと思います。

まず、商品自体の外観から、本願商標を構成する立体的形状が出所を識別させる標識として認識されるかどうかについて検討しています。

すなわち、「エバラ焼肉のたれ 黄金の味」の容器は、食用の液体の包装容器一般と同様、ラベルが強い印象を与える反面で、この立体的形状がラベル以外の出所を表示する標識としては認識されにくい状況にあることからすると、この立体的形状が出所を識別させる標識として認識されるとは認められないと判断しました。

ア 一般に,食用又は飲用の液体の包装容器である瓶又はペットボトル等の容器にはラベルが貼付されており,ラベルには,商品名,製造者,販売者を示す標章や文字,商品の内容を示す文字等が記載されており,商品名,製造者,販売者を示す標章や文字は,目立つ態様で記載されていることが往々にしてあり,需要者がラベルによって商品を特定したり商品の出所を認識することは,顕著な事実である。そのため,需要者は,食用又は飲用の液体の包装容器である瓶又はペットボトル等の容器を見るときにラベルに注意を払うものと認められ,ラベルの記載が需要者に強い印象を与えるものと認められる。そして,本願商標使用商品についてみても,その態様は前記(2)アのとおりであり,それによれば,本願商標使用商品は,ラベルに記載された「エバラ」や「黄金の味」の標章が需要者に強い印象を与え,需要者は,出所識別標識として,ラベルの「エバラ」や「黄金の味」の標章部分に着目するものと認められる。このように,ラベルに記載された標章や文字が需要者に強い印象を与え,出所識別機能を果たしており,他方,本願商標が,焼き肉のたれの包装容器について機能や美観に資するものとして取引上普通に採択,使用されている立体的な装飾の一つである連続する縦長の菱形の立体的形状からなり(前記1(2)エ),ラベルに近接した位置に配置され(前記(2)ア),ラベルが強い印象を与える反面でラベル以外の出所を表示する標識としては認識されにくい状況にあることからすると,本願商標使用商品において,本願商標を構成する立体的形状が出所を識別させる標識として認識されるとは認められない。

次に、宣伝や販売実績の面から、この立体的形状が、出所を識別させる標識として認識されるようになったかについて検討しています。

この点については、本願商標を構成する立体的形状は、約40年にわたって使用されており、本願商標使用商品の売上は相当額に及び、シェアは相当に高く、宣伝広告は相当数に及んでおり、これにより、「エバラ焼肉のたれ 黄金の味」という商品名や、その製造販売者が「エバラ」であることは消費者に知られるようになったと推認されると認めました。

しかしながら、判決は、「エバラ焼肉のたれ 黄金の味」には異なる包装容器の商品もあること、自他商品識別機能を果たしているのはラベルであること、宣伝広告内容からするとこの立体的形状が需要者に印象付けられたとは認められないことなどから、この立体的形状が、出所を識別させる標識として認識されるようになったとは認められないと判断しています。

イ(ア)原告は,昭和53年6月から本願商標使用商品を販売しており(前記(2)イ(ア)),平成27年度の本願商標使用商品の販売実績は,210gのものが約20億円,400gのものが約94億8000万円であり(前記(2)ウ),平成27年度の「エバラ焼き肉のたれ 黄金の味」という商品の出荷本数は4000万本,焼き肉のたれ市場におけるシェアは約4割であった(前記(2)ウ)。なお,「エバラ焼き肉のたれ 黄金の味」という商品には,本願商標使用商品とは異なる包装容器のものもあるが(前記(2)イ(イ)),本願商標使用商品は業務用ではなく一般消費者向けであり(前記(2)イ(イ)),宣伝の対象となっていること(前記(2)エ)からすると,「エバラ焼き肉のたれ 黄金の味」という商品のうち多くの部分を本願商標使用商品が占めると推認される。このように,本願商標を構成する立体的形状は,約40年にわたって本願商標使用商品に使用されており,本願商標使用商品の売上は相当額に及んでおり,出荷本数や同種商品中におけるシェアは,相当に及んでいたものと認められる。
また,本願商標使用商品は,テレビCM,ラジオCM,パンフレット,チラシ,製品案内,各種コラボレーション企画,ムックにおいて宣伝広告されており(前記(2)エ),それらの数は,全体として相当数に及んでいたものと認められる。
このように,本願商標使用商品の販売実績,宣伝広告実績は相当程度に及んでおり,それにより,「エバラ焼き肉のたれ 黄金の味」という商品名や,その製造販売者が「エバラ」こと原告であることは,消費者に知られるようになったものと推認される。
(イ)a しかし,「エバラ焼き肉のたれ 黄金の味」という商品のうち多くの部分を本願商標使用商品が占めると推認されるものの(前記(ア)),その一方で,本願商標使用商品とは異なる包装の商品もあること(前記(2)イ(イ))からすると,「エバラ焼き肉のたれ 黄金の味」という商品が広く知られたとしても,それが常に本願商標使用商品と結びつくものとはいい切れない。
b また,前記アのとおり,本願商標使用商品の態様に照らして,本願商標使用商品において,自他商品識別機能を果たしているのはラベルであり,本願商標を構成する立体的形状が出所を識別させる標識として認識されるとは認められないことからすると,本願商標使用商品の販売実績が相当に及んでいても,それによって,本願商標を構成する立体的形状が出所を識別させる標識として認識されているものとは認められない。
さらに,実際に行われた宣伝広告においては,テレビCMにおいて,本願商標使用商品の容器表面の本願商標を構成する立体的形状が視認できるように映し出される時間は短いものと認められるから(前記(2)エ(ア)),テレビCMによって本願商標を構成する立体的形状が需要者に印象付けられたとは認められないし,本願商標が商品容器表面に付された立体的形状からなる位置商標であることからすると,ラジオCMによって,聴取者が,本願商標を構成する立体的形状を認識することは困難であったと認められる。また,テレビCMには本願商標使用商品の外観正面が映し出され(前記(2)エ(ア)),パンフレット,チラシ(前記(2)エ(ウ)),製品案内(前記(2)エ(エ)),各種コラボレーション企画による商品(前記(2)エ(オ)),ムック(前記(2)エ(カ))には,本願商標使用商品の外観正面の写真が掲載又は表示されたが,前記アのとおり,本願商標使用商品において,本願商標を構成する立体的形状は,出所を識別させる標識として認識されるとは認めることができず,また,これらの宣伝広告において,本願商標を構成する立体的形状を,商品又はその容器の特徴としてうたうなど,その立体的形状自体を商品の出所を表示する標識又は自他商品を識別する標識として強く印象付けるような告知や表示が存在したとは認められない。そうすると,上記の宣伝広告において本願商標使用商品の外観正面が映し出され,外観正面の写真が掲載又は表示されたとしても,それによって,本願商標を構成する立体的形状が,出所を識別させる標識として認識されるようになったとは認められない。
なお,原告は,平成22年4月から平成23年3月までの間,株式会社横浜エージェンシーを通じて,「エバラ焼き肉のたれ 黄金の味」という商品について,「モバイルレシピ」の提供,新聞や雑誌等への出稿,テレビCMの制作,店頭又はイベント広告用資材の制作等の宣伝広告活動を行ったことが認められるが(甲19,甲35,36),テレビCMについては上記に述べたとおりであるし,その他の宣伝広告活動の具体的な内容は明らかでないから,それらによって本願商標を構成する立体的形状が出所を識別させる標識として認識されるようになったとは認められない。

なお、原告が行ったアンケートについては、本願商標の識別力の有無を立証するという観点からすると、比較の対象とされた容器の選択において相当とはいえず、当該アンケ―トの結果は、立体的形状について識別機能があるか判断する上で重視することはできないとしました。

以上を検討のうえ、結論として、本願商標は、使用により自他商品識別力を獲得したとは認められず、商標法3条2項に規定する要件を具備しているとは認められないと判示し、商標登録を認めなかった特許庁の審決を支持しました。

ウ 前記ア,イで検討したところによれば,本願商標を構成する立体的形状は本願商標使用商品において使用され,本願商標使用商品は相当数販売され,その宣伝広告も行われてきたが,本願商標は,使用により自他商品識別力を獲得したとは認められず,したがって,使用をされた結果需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるものに当たらないから,3条2項に規定する要件を具備しているとは認められない。

コメント

本判決は、立体的形状からなる位置商標について、令和2年2月12日に知財高裁が示した商標法3条1項3号該当性の判断枠組みを踏襲するものです。この判断枠組みは、立体商標における商品等の形状について、知財高裁が同号該当性の判断枠組みとして従前から採用してきたもの(知財高裁H19.6.27判決などを参照)と同様であり、これが位置商標における立体的形状にも妥当するとしたものと思われます。

立体的形状からなる位置商標についての同号該当性の判断には、今後もこの枠組みが用いられるものと考えられ、同号に該当せず登録が認められるハードルはやはり相当程度高いものと思われます。

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(文責・村上)