知的財産高等裁判所第2部(森義之裁判長)は、本年(令和3年)3月11日、プロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求控訴事件において、ウェブサイト作成のための会員登録時の本人情報として、氏名等が提供されずメールアドレス等が提供されるような場合のメールアドレスも、同項の「発信者情報」に該当するとの判断を示し、事業者に対し、発信者情報の開示を命じました。
ポイント
骨子
- 具体的な事情を踏まえると、ウェブサービス登録手続者、ウェブサービス会員及び著作権違反となる記事を投稿した者は、いずれも同一人であると推認するのが合理的であり、この推認を覆すに足りる証拠はない。したがって、会員登録時に提供されたメールアドレスが記事を投稿した者のメールアドレスであるということができ、当該メールアドレスはプロバイダ責任制限法4条1項の「発信者情報」に当たるというべきである。
判決概要
裁判所 | 知的財産高等裁判所第2部 |
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判決言渡日 | 令和3年3月11日 |
事件番号 | 令和2年(ネ)第10046号 発信者情報開示請求控訴事件 |
原判決 | 東京地方裁判所令和元年(ワ)第30272号 |
当事者 | 控訴人(一審原告) X 被控訴人(一審被告)株式会社サイバーエージェント |
裁判官 | 裁判長裁判官 森 義之 裁判官 佐野 信 裁判官 中島朋宏 |
解説
プロバイダ責任制限法
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(いわゆるプロバイダ責任制限法)は、特定電気通信(ウェブサイト等)による情報の流通によって権利の侵害があった場合に、特定電気通信役務提供者(プロバイダ等)の損害賠償責任の制度及び発信者情報の開示を請求する権利について定めています。
その目的は、プロバイダ等の責任範囲を限定して、削除されるべき情報をプロバイダ等において適切に削除等できるよう促すとともに、権利を侵害された者が発信者を特定して自ら被害を回復する手段を確保することにあります。
発信者とは
プロバイダ責任制限法2条4号によると、「発信者」とは、「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者」をいいます。要するに、情報を流通過程に置いた者が「発信者」となります。
プロバイダ責任制限法2条
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定電気通信 不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)をいう。
二 特定電気通信設備 特定電気通信の用に供される電気通信設備(電気通信事業法第二条第二号に規定する電気通信設備をいう。)をいう。
三 特定電気通信役務提供者 特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。
四 発信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。
発信者情報開示
プロバイダ責任制限法4条1項では、以下のとおり、ウェブサイト等による情報の流通によって権利を侵害された者が、プロバイダ等に対し、権利を侵害する発信者の情報の開示を請求する権利を定めています。
プロバイダ責任制限法4条1項
特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
総務省令(「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」)で定める「発信者情報」には、以下のものがあります。
① 発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称
② 発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所
③ 発信者の電話番号(令和2年8月31日改正省令により追加)
④ 発信者の電子メールアドレス
⑤ 侵害情報に係るIPアドレス、ポート番号
⑥ 侵害情報に係る携帯電話端末・PHS端末からのインターネット接続サービス利用者識別符号
⑦ 侵害情報に係るSIMカード識別番号
⑧ ⑤~⑦の端末等から開示関係役務提供者の用いる設備に侵害情報が送信された年月日・時刻(タイムスタンプ)
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)第四条第一項の規定に基づき、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令を次のように定める。
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項に規定する侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものは、次のとおりとする。
一 発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称
二 発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所
三 発信者の電話番号
四 発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。)
五 侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第百六十四条第二項第三号に規定するアイ・ピー・アドレスをいう。)及び当該アイ・ピー・アドレスと組み合わされたポート番号(インターネットに接続された電気通信設備(同法第二条第二号に規定する電気通信設備をいう。以下同じ。)において通信に使用されるプログラムを識別するために割り当てられる番号をいう。)
六 侵害情報に係る携帯電話端末又はPHS端末(以下「携帯電話端末等」という。)からのインターネット接続サービス利用者識別符号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービス(利用者の電気通信設備と接続される一端が無線により構成される端末系伝送路設備(端末設備(電気通信事業法第五十二条第一項に規定する端末設備をいう。)又は自営電気通信設備(同法第七十条第一項に規定する自営電気通信設備をいう。)と接続される伝送路設備をいう。)のうちその一端がブラウザを搭載した携帯電話端末等と接続されるもの及び当該ブラウザを用いてインターネットへの接続を可能とする電気通信役務(同法第二条第三号に規定する電気通信役務をいう。)をいう。以下同じ。)の利用者をインターネットにおいて識別するために、当該サービスを提供する電気通信事業者(同法第二条第五号に規定する電気通信事業者をいう。以下同じ。)により割り当てられる文字、番号、記号その他の符号であって、電気通信(同法第二条第一号に規定する電気通信をいう。)により送信されるものをいう。以下同じ。)
七 侵害情報に係るSIMカード識別番号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービスを提供する電気通信事業者との間で当該サービスの提供を内容とする契約を締結している者を特定するための情報を記録した電磁的記録媒体(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)に係る記録媒体をいい、携帯電話端末等に取り付けて用いるものに限る。)を識別するために割り当てられる番号をいう。以下同じ。)のうち、当該サービスにより送信されたもの
八 第五号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、第六号の携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係る携帯電話端末等又は前号のSIMカード識別番号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービスにより送信されたものに限る。)に係る携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻
意見照会
そして、発信者のプライバシー等が不当に害されるのを防止するため、プロバイダ責任制限法4条2項では、プロバイダ等が上記の開示請求を受けたときは、発信者情報を開示するかどうかについて、発信者の意見を聴取する義務を定めています。
プロバイダ責任制限法4条2項
開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
事案の概要
本件の控訴人(一審原告)は、著作物を内容に含むメールマガジンを創作し、配信していました。
他方、被控訴人(一審被告)サイバーエージェントは、ブログその他インターネットを通じたメディア事業等を行っている株式会社であり、その提供するサービス「Ameba Ownd」を利用する会員は、無料でウェブサイトを開設することができます。
本件では、「Ameba Ownd」を利用して開設された特定のウェブサイトに、当該サイトの開設者が控訴人作成のメールマガジンを複製した記事を投稿していたところ、控訴人は、著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると主張して、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、当該サイト開設者がサイトを作成するに当たってサイバーエージェントに登録した情報の開示を求めました。
争点は、一般にメールアドレスは同項の「発信者情報」となり得ることを前提に(上記総務省令の④)、ウェブサイトを開設するに当たって用いられた会員の登録時のメールアドレス(登録時の本人情報として氏名等が提供されずメールアドレス等が提供されるような場合のメールアドレス)が、同項の「発信者情報」に該当するかどうかという点になります。
原審の判断
原審(東京地裁R2.6.25判決)は、登録時の本人情報として氏名等が提供されずメールアドレス等が提供されるような場合、登録者が真に本人のメールアドレスを提供したとすることには合理的疑いが残り、登録されたメールアドレスが本人のものであると認めることは困難であるから、この場合のメールアドレスは、プロバイダ責任制限法4条1項の「発信者情報」に該当しないと判断し、開示請求を棄却していました。
その判断過程は以下のとおりですが、本件ウェブサイトは違法な行為のために開設されたものであることがうかがわれるから、登録者がサイトを開設する際に他人のメールアドレスや架空のメールアドレスを登録した可能性を否定し難いなどといった理由付けがなされています。
(2) 法4条1項は,開示請求の対象となる「当該権利の侵害に係る発信者情報」とは,「氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。」と規定し,これを受けて省令は,そのような情報の一つとして「発信者の電子メールアドレス」と規定する(省令3号)ところ,法2条4号は,「発信者」とは,「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。」と規定する。
しかして,法が,2条4号により「発信者」を上記のように文言上明記した趣旨は,法において,他人の権利を侵害する情報を流通過程に置いた者を明確に定義することにより,それ以外の者であって当該情報の流通に関与した者である特定電気通信役務提供者の私法上の責任が制限される場合を明確にするところにある。そうすると,法4条1項を受けた省令3号の「発信者の電子メールアドレス」の「発信者」についても,法2条4号の規定文言のとおりに,特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。) に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した本人に限られると解するのが相当である。
(3) そこで,これを前提に,本件について検討する。 前記のとおり,被告が,本件発信者情報2(本件登録者の電子メールアドレス)を保有していることから,本件登録者は,本件サイトを開設した際に,被告に対し,電子メールアドレスを提供したといえるものの,前記1の説示に照らせば,氏名又は名称の提供をしたものとは認められない。
このように,本件サイトの開設に当たり本人情報として氏名又は名称が提供されず電子メールアドレス等が提供されているような場合,本件登録者が,真に本件登録者本人の電子メールアドレスを被告に提供したことには合理的疑いが残るところである。
この点,証拠(甲11)をみても,本件サービスの利用規約には,本件サービスの会員は,本件サービスを利用する際に設定する登録情報に虚偽の情報を掲載してはならない旨定められている(同利用規約第3条2.)ことが認められるものの,他方,同利用規約(甲11)の内容を全て精査しても,登録情報の内容が当該会員本人の情報であることを確認するための方法を定めた定めはなく,かえって,登録情報に虚偽等がある場合や登録された電子メールアドレスが機能していないと判断される場合には,被告において,本件サービスの利用停止等の措置を講じることができる旨の定めが存する(同利用規約第8条3.⑵,⑶)ことからすると,本件サービスの会員ないし登録希望者が他人の情報や架空の情報を登録するおそれのあることがうかがわれるところである。特に,本件の場合,本件サイトは平成13年頃開設されたものである(甲1)ところ,本件サイトには,原告がその頃以降に創作したほぼ全てのメールマガジンが原告に無断で転載されている(甲2)ことに照らせば,本件サイトはそのような違法な行為のために開設されたものであることがうかがわれるから,本件登録者が本件サイトを開設する際に他人の電子メールアドレスや架空の電子メールアドレスを登録した可能性を否定し難いといわざるを得ない。
そして,その他,本件登録者が本件サービスを利用して本件サイトを開設する際に登録した電子メールアドレスが本件登録者本人のものであると認めるに足りる証拠はなく,本件登録者が本件サイトを開設する際に登録した電子メールアドレスが本件登録者本人のものであると認めることは困難というべきである。
そうすると,被告の保有する電子メールアドレス(本件発信者情報2)は,法2条4項にいう「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者」の電子メールアドレスであるとはいえず,ひいては,省令3号の「発信者の電子メールアドレス」に当たるということもできない。
以上によれば,本件発信者情報2は,法4条1項の「発信者情報」に当たるとはいえず,本件発信者情報2(電子メールアドレス)の開示を求める原告の請求も,既に理由がないこととなる。
判旨(控訴審)
他方、控訴審判決は、前記ウェブサイトを開設するに当たって用いられた会員登録時のメールアドレスは、プロバイダ責任制限法4条1項の「発信者情報」に当たると判断し、サイバーエージェントに対する開示請求を認容しました。
以下では、知財高裁がそのように判断した理由を見ていきましょう。
まず、判決は、サイバーエージェントが提供する各種ネットサービスへの登録手続をした者と、ウェブサイト作成に係る「Ameba Ownd」の利用者とは、通常、同一人であると考えられるとしています。
また、登録の手続や規約の内容からすると、登録をする者が自らにおいて通常使用するメールアドレスを入力することが推認できるとともに、いったん会員となった者が、自己の認証情報を第三者に使用させたり、第三者に譲渡することがないことが推認できるとしています。
(1)ア 本件サービスは,本件会員サービスに登録した会員において,登録時に設定したパスワード等を入力しなければ利用できないサービスである(前記1(1) ア,(2)ア)から,本件会員サービスへの登録手続をした者と,本件サービスの利用者とは,通常,同一人であると考えられる。
イ また,本件会員サービスへの登録に当たっては,氏名又は名称は含まれないものの,所定の事項を入力することが求められ,登録時に入力した電子メールアドレスに送信されたメールに記載されたURLをクリックして初めて本登録が可能となる(前記1(1)ア)。そして,本件会員サービスの会員は,当該登録によって取得された一つのアカウントをもって,本件サービス以外にも,様々なサービスを利用することが可能となる(同(1)イ,ウ(ア))。
他方,本件規約は,登録時に虚偽の情報を掲載することや認証情報を第三者に利用させること等を禁止し(同(1)ウ(ウ),(オ)),登録情報に変更が生じた場合や認証情報を第三者に知られた場合等には被控訴人への連絡義務等を定め(同(1)ウ(カ)),それらの違反や著作権を侵害する投稿をした場合等については,被控訴人からの利用停止や退会処分等の制裁を課すこととされている(同(1)ウ(カ)~(ク))。そして,以上の内容は,登録によって,会員と被控訴人との間の契約の内容となるとされている(同(1)ウ(エ))。また,ガイドライン(乙4)でも,同様のことが定められている(同(2)イ)。
以上の点は,本件会員サービスへの登録に当たり,登録をする者が自らにおいて通常使用する電子メールアドレスを入力することを推認させる事情であるとともに, いったん会員となった者が,自己の認証情報を第三者に使用させたり,第三者に譲 渡することがないことを推認させる事情であるといえる。
ウ 上記ア,イの点は,本件登録手続者及び本件会員や,本件サイトの開設についても,基本的に当てはまるものということができる。
次に、会員サービスへの登録からウェブサイトの開設まで一定の期間が存在することについては、登録手続者が、会員サービスへの登録の時点において、「Ameba Ownd」以外の各種のサービスを利用することを予定していたことをうかがわせるもので、このことも、登録手続者が、自らが通常利用するメールアドレスを登録に用いたことを推認させる事情であると評価しています。
(2) 本件登録手続者による本件会員サービスへの登録から本件サイトの開設までには,約7か月の期間があった(前記1(1)ア,(2)ア(イ))にすぎず,また,その間に,本件会員の認証情報が本件登録手続者から第三者に譲渡されたことをうかがわせる事情も存しない。 かえって,本件登録手続者による本件会員サービスへの登録から本件会員の認証情報を用いた本件サービスの利用開始までの間に,約7か月の期間があることは,本件登録手続者が,本件会員サービスへの登録の時点において,本件サービス以外の各種のサービスを利用することを予定していたことをうかがわせるもので,このことも,本件登録手続者が,自らが通常利用する電子メールアドレスを登録に用いたことを推認させる事情であるといえる。
そして、投稿の具体的内容からすると、ウェブサイトの開設以降も運営者に変更があったとは考え難いと判断しています。
(3) 本件会員の認証情報を用いて本件サービスの利用の登録がされ,本件サイトが開設された後の投稿内容(前記1(2)ア(イ))からすると,本件サイトの開設以降,本件サイトを運営する者に変更があったとは考え難い。
加えて、判決は、プロバイダ責任制限法4条2項に基づくサイバーエージェントからの意見照会に対する会員の対応についても言及し、このことは、当該会員が、照会に誠実に回答する意向を有していないこと又は特段の意見がないこと若しくは開示を拒絶する合理的な理由を主張できないことを推認させる事情であると評価しています。
(4) その上で,被控訴人からの本件照会メールによる照会に対し,本件会員においてはこれを受領しているとみられるにもかかわらず,何ら返信をしていないこと(前記1(3))は,上記(2)及び上記(3)で指摘した各点を踏まえると,本件会員においては,被控訴人からの照会に誠実に回答する意向を有していないこと又は特段の意見がないこと若しくは開示を拒絶する合理的な理由を主張できないことを推認させる事情であるということができる。
このように、会員サービスの利用開始の経緯、規約の定め、「Ameba Ownd」利用開始の経緯、サイトの開設及び運営等の状況、意見照会の経緯などを認定した上で、これらの事情は、すべて、会員登録手続者が、自らが通常利用するメールアドレスを登録に用いたことを推認させる事情であるとして、ウェブサイトを開設するに当たって用いられた会員登録時のメールアドレスが、控訴人の著作権を侵害する記事の投稿をした者のメールアドレスであるということができると判断しました。
(5) 上記(1)~(4)の点を踏まえると,本件登録手続者,本件会員及び本件投稿をした者は,いずれも同一人であると推認するのが合理的であり,この推認を覆すに足りる証拠はない。 したがって,本件情報が本件投稿をした者の電子メールアドレスであるということができ,本件情報は,法4条1項の「発信者情報」に当たるというべきである。
そして、判決は、会員登録時に他人又は虚偽の電子メールアドレスが提供された可能性がある、複数人による管理や更新の可能性があるといったサイバーエージェントの各種主張については、抽象的な可能性をいうものにすぎないとして、その主張をいずれも排斥しました。
さらに、尚書きではありますが、登録手続者が他の者と共同して本件投稿をした場合でも、そのことをもって事業者の保有する情報がプロバイダ責任制限法4条1項にいう「発信者情報」に当たらないとはいえない、ということも述べています。
コメント
本事例は、事業者が保有する情報がプロバイダ責任制限法4条1項の「発信者情報」に該当するか否かについて、具体的な事情を認定した上で判断を示したものですが、おおよそ同じ事情を認定していながら地裁と高裁とで判断が分かれたものであり興味深く、その判断の過程は、今後同様の事例において参考になるものと思われます。
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(文責・村上)
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