知的財産高等裁判所第4部(大鷹一郎裁判長)は、令和元年12月26日、2羽のペンギンを撮影した1枚の写真の著作物について、被写体のペンギンを1羽ずつ複製及び公衆送信した各行為につき、各ペンギンの写真に独立した著作物性があり2個の著作権侵害が認められるとしたうえで、著作権法114条3項の損害額の算定においては、上記各行為を全体としてみれば1個の著作物を1回利用したものと評価することができると判示しました。
ポイント
骨子
- 著作物である本件写真の画像データを一部改変の上、オンライン・カラオケサービスのアカウントの自己のプロフィール画像等としてアップロードした行為につき、当該部分に創作的な表現が含まれており、独立した著作物性が認められるのであれば著作物の「複製」に該当する。
- 2羽のペンギンを撮影した1枚の写真の著作物について、被写体のペンギンを1羽ずつ複製及び公衆送信した各行為につき、各ペンギンの写真に独立した著作物性があり2個の著作権侵害が認められるが、著作権法114条3項の損害額の算定においては、上記各行為を全体としてみれば1個の著作物を1回利用したものと評価することができる。
- 被告を特定するためにされた仮処分申立事件に係る弁護士費用のうち裁判所に提出する書類の訳文に係る翻訳料相当分については、本件著作権侵害と相当因果関係がある損害と認められない。
判決概要
裁判所 | 知的財産高等裁判所第4部 |
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判決言渡日 | 令和元年12月26日 |
事件番号 | 令和元年(ネ)第10048号 |
事件名 | 損害賠償請求控訴事件 |
原審 | 東京地方裁判所平成30年(ワ)第32055号 |
裁判官 | 裁判長裁判官 大鷹 一郎 裁判官 國分 隆文 裁判官 筈井 卓矢 |
解説
著作物とは
著作権法において、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(同法2条1項1号)とされています。
【著作権法第2条1項1号】
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
写真の著作物性について
写真については、裁判例(知財高判平成18年3月29日判タ1234号295頁)において、
「写真は、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等)、陰影の付け方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景等の諸要素を総合してなる一つの表現である。」とされており、プロが撮影した芸術写真のみならず、素人が撮影したものであっても、上記の各要素の取捨選択により写真の中に撮影者の思想・感情を表現しているといえる場合は、著作物性が認められる と考えられています。一方で、例えば上記の各要素に撮影者による選択が入る余地がなく、被写体をそのまま写したに過ぎない証明写真などについては創作性がなく、著作物とは認められません。
複製権とは
「複製」については、著作権法第2条1項15号において「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義 されています。
【著作権法第2条1項15号】
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。
ロ 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること。
著作物を複製することができるのは著作権者です(著作権法21条)。他人の著作物を複製する行為は、著作権法上定められている例外に該当する場合及び著作権者から利用を許諾されている場合を除き、複製権の侵害にあたります。
どのような場合に「複製」にあたるかが問題になった代表的な裁判例としては、音楽著作物に関するワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件(最判昭和53年9月7日判例時報906号38頁)が挙げられます。
この事件は、ある楽曲について当該楽曲を知らずにそれと同一性のある楽曲を作成したという事案です。最高裁は、下記のとおり、既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらないとしています。
著作者は、その著作物を複製する権利を専有し、第三者が著作権者に無断でその著作物を複製するときは、偽作者として著作権侵害の責に任じなければならないとされているが、ここにいう著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はないところ、既存の著作物に接する機会がなく、従つて、その存在、内容を知らなかつた者は、これを知らなかつたことにつき過失があると否とにかかわらず、既存の著作物に依拠した作品を再製するに由ないものであるから、既存の著作物と同一性のある作品を作成しても、これにより著作権侵害の責に任じなければならないものではない。
また、著作物の一部を複製した場合については、設計図の複製に関する冷蔵倉庫事件(大阪地判昭和54年2月23日判タ387号145頁)が参考になります。この事件は、建築設計図を部分引用したというもので、著作物の一部複製について下記のとおり、引用された部分が「原著作物の本質的な部分であつてそれだけでも独創性または個性的特徴を具有している」場合には複製にあたるとの判断基準を示しています。
一般に一個の著作物の部分引用は、当該引用部分が原著作物の本質的な部分であつてそれだけでも独創性または個性的特徴を具有している部分についてはこれを引用するものは部分複製をしたものとして著作権侵害を認めるべきである。
著作権等侵害による損害の額の推定等
著作権侵害による損害額の立証は困難であることから、著作権法114条は、著作権侵害による損害額の算定について、以下のとおり、算定規程を設けています。
すなわち、
-
① 譲渡等の数量に著作権者の利益率を乗じて算定すること(1項)
② 侵害者が得た利益を損害と推定すること(2項)
③ ライセンス料に相当する額を損害とみなすこと (3項)
が著作権法上認められています。
(損害の額の推定等)
第百十四条 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によつて作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
2 著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。
3 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
利用料相当額(著作権法114条3項)(上記③)について
上記のとおり、著作権法114条3項は、著作権者が「受けるべき金銭の額」について賠償を求めることができるとしています。これは、ライセンス料相当額を最低限の損害賠償額として保証したものです。
この規定は、かつて、賠償を求めることができる額を「通常受けるべき金銭の額」としていましたが、著作権を侵害しても一般の相場額を支払うだけで済むのであれば、ライセンス交渉をするよりも侵害したほうが得になってしまうことから、平成12年の著作権法改正により「通常」という文言が削除されました。
かかる趣旨に従い、近時の裁判例では、当該著作物の過去の許諾例や著作権使用料に関する規定などの個別の事情を考慮し、当事者間で自由に交渉した場合に成立するであろう料率を念頭に、積極的に高めの金額を認定している例が見受けられます。
例えば、作家が著作物を国語テストに掲載された下記裁判例(東京高裁平成16年6月29日裁判所ウェブサイト)では、一般の文芸作品の単行本の使用料率が10%である一方で、被告らが加盟している団体と著作者団体との間において著細工物教材に使用する場合には使用料率を5%とするものと定められていたという事情のもとにおいて、当事者間で自由に交渉した場合に成立する合意を想定して、下記のとおり、5%より高い8%を使用料率として認定しています。
本件で問題となるのは,将来における使用料ではなく,過去の著作権侵害に対する使用料相当額を算定するための使用料率であるところ,このような意味での使用料率は,営利を目的として副教材を出版する教材会社と教科書掲載著作物の原著作者とが,自由に交渉した場合に両者の間に合意が成立すると想定されるものというほかない。しかして,本件国語テスト等の副教材にとって教科書掲載著作物を掲載する必要性は極めて高いこと,その反面,その原著作者としては,本件国語テスト等の副教材に当該著作物が掲載される場合には,省略やその他の改変が加えられることなどから,原著作の創作性を損なう望ましくない事態を生じることが多いと考えられるばかりでなく,上記副教材に掲載される分は見開き1ページの半分未満程度であり,その見返りとして得られる使用料額が少額にとどまるものと推測されることなど相互の利益関係を比較衡量した上,上記(ア)に認定した教材会社の業界団体と著作者の団体との間の協定や教材会社と各著作者との間の契約等で定められた使用料率を参照すれば,使用料相当額を算定するための基礎となる使用料率は,本件各著作物のうち次の翻訳を除く分に関して,文芸作品の単行本の通常の著作権使用料率10%より低く,将来の図書教材への著作物の利用に関して定められた使用料率5パーセントより高い8%とするのが相当である。
また、著作物にかかる実際のライセンス料が一般の相場より高額であった事例(黒沢映画事件、知財高判平成21年9月15日裁判所ウェブサイト)では、下記のとおり、当事者間の具体的事情を考慮するべきであるとして、第三者との間で合意したライセンス料に基づいて「受けるべき金銭の額」を算定しています。
・・・同項(114条3項)の著作権の行使につき「受けるべき金銭の額」との文言は,平成12年法律第56号による改正前の同法114条3項における「通常受けるべき金銭の額」との文言が改正されたものであり,同改正の趣旨は,同項の使用料相当額の認定に当たっては,一般的相場にとらわれることなく,当事者間の具体的事情を考慮して妥当な使用料額を認定することができるようにする,というものであると解される。
事案の概要
この事案は、1審被告が1審原告の著作物である本件写真の画像データを一部改変の上、オンライン・カラオケサービスのアカウントの自己のプロフィール画像等としてアップロードした行為につき、1審原告の著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)の侵害行為に当たる旨主張して、1審原告が1審被告に対し不法行為に基づく損害賠償(168万9848円)を求めた訴訟です。
原審は、被告(1審被告)による各侵害行為は、原告(1審原告)の著作物に係る著作権及び著作者人格権を侵害するものであるとして、168万9848円のうち71万2226円の限度で1審原告の請求を認容しました。
上記判決に対し、1審被告がこれを不服として控訴をした事件が本件です。
主な争点は、①本件写真の複製権侵害の成否及び➁損害額の2点です。
1審被告の行為について
本判決で著作権侵害が主張された1審被告の行為は下記のようなものでした。
【行為1】
1審原告が撮影した本件写真(2羽のペンギンが前後(画面上は左右)に並んで歩いている様子を撮影したもの。 )の画像データ(以下、「原告画像」といいます。)の画面上右側のペンギンのみを切り出すトリミング処理をした上で、その画像データ(以下、行為2によるものも含め「被告画像」と表記します。)を本件サービスの1審被告アカウントのプロフィール画像として使用するためにアップロードした行為
【行為2】
原告画像の画面上左側のペンギンのみを切り出すトリミング処理をした上で、その画像データ(被告画像)を本件サービスの被告アカウントのプロフィール画像として使用するためにアップロードした行為
判旨
⑴ 複製権の侵害について
ア 原審
原審は、1審被告の各行為は1審原告の本件写真にかかる複製権を侵害するものとしました。
なお、1審被告は、被告プロフィール画像が小さく表示され、画質も粗いこと、被告画像のペンギンは1羽にすぎないことを理由に、本件写真の表現上の本質的特徴を感得することができず複製に当たらないと主張していましたが、原審は、以下の通り、かかる主張を排斥しています。
著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうところ(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)、前記のとおり被告プロフィール画像1及び2は原告画像の加工物であるから本件写真に依拠したものであり、また、被告プロフィール画像1は原告画像の画面上右側のペンギンをその背景とともに切り抜いたものと同一であり、被告プロフィール画像2は同じく左側のペンギンをその背景とともに切り抜いたものと同一であることからすると、被告プロフィール画像1及び2は原告画像の内容及び形式を覚知させるものであるということができ、加工後の同プロフィール各画像が原告画像の一部であることや画像の精度、大きさなどは、被告の各侵害行為が本件写真の複製に当たるとの判断を左右しないというべきである。
イ 本判決
本判決も、複製にあたると判断した点は原審と同様ですが、下記のとおり、著作物の一部を有形的に再製する場合について、それが複製に該当するためには、「当該部分に創作的な表現が含まれており、独立した著作物性が認められる」ことが必要であるとの考えを示しています。
(1) 著作物の複製(著作権法21条、2条1項15号)とは、著作物に依拠して、その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを有形的に再製する行為をいい、著作物の全部ではなく、その一部を有形的に再製する場合であっても、当該部分に創作的な表現が含まれており、独立した著作物性が認められるのであれば、複製に該当するものと解される。
そのうえで、被告画像は原告画像をトリミングしているものの、その一部のみをみても著作物性が認められるとして、これをアップロードした行為は複製にあたるとしています。
本件写真の2羽のペンギンのうち、右側のペンギンのみを被写体とする部分は、著作物である本件写真の一部であるが、当該部分にも構図、陰影、画角及び焦点位置等の点において、1審原告の個性が表現されているものと認められるから、創作性があり、独立した著作物性があるものと認められる。同様に、本件写真の2羽のペンギンのうち、左側のペンギンのみを被写体とする部分は、著作物である本件写真の一部であるが、1審原告の個性が表現されているものと認められるから、創作性があり、独立した著作物性があるものと認められる。
⑵ 損害額について
ア 利用料相当額
原審は、著作権法114条3項に基づく損害額の算定にあたり、1審原告が主張する原告ウェブサイト上の料金表に基づく算定については、かかる料金表に基づく使用許諾例が2例にとどまることを理由に、これを形式的に適用することはできないとしました。
そのうえで、原審は、営利目的でないこと、実際に表示された期間は1か月余りであること、ブランド価値が毀損されたとは認めがたいことを認める一方で、氏名表示を外し改変の程度は大きいこと、海外サーバーへのアップロードであること、被告画像が複数のページに表示されたこと等を認めて、総合すると、本件の各侵害行為による原告画像の利用料相当額は1年当たり5万円と認めることが相当であると認定しました。
そして、被告による各侵害行為が一連かつ一個の不法行為であると解されることに照らすと、本件における利用料相当損害金は、本件写真に関する利用料相当額に利用期間を乗じて算定するのが相当であるとしています。
その結果、5万円(1年あたりの利用料相当額)×3年(利用期間)×1.08(消費税)という計算により、16万2000円の損害額が認定されています。
本判決も、基本的に上記の判断を支持しています。そのうえで、損害額の算定において行為1と行為2のそれぞれについて損害を計算しない理由につき、下記のとおり判示しました。
・・・1審被告の行為1及び2は、独立した行為ではあるが、それぞれ、1個の著作物である本件写真の一部である右側のペンギンのみを被写体とする部分(右側部分)及び左側のペンギンのみを被写体とする部分(左側部分)を複製及び公衆送信化したものであるから、全体としてみれば1個の著作物を1回利用したものと評価することができる。
イ その他の費用について
原審は、利用料相当額に加え、内容証明郵便費用、仮処分申立費用、保全執行費、慰謝料、弁護士費用を認めました。
これに対し、本判決は、原審で認められた仮処分申立費用のうち翻訳料については、仮処分を受けたSmule社から支払を受けるべきものであるため損害と認めることはできないとしました。
なお、発信者情報開示交渉費用については弁護士に委任して行わざるを得なかったとは言えないとして原審・控訴審ともに認められませんでした。
コメント
本判決は、著作物の一部を改変して再製する行為につき、当該部分に創作的な表現が含まれており独立した著作物性が認められるのであれば、著作物の「複製」に該当しうるとしました。著作物の一部を侵害した事例においてはこれまでも前提とされていたものと思われますが、この点に触れた裁判例はあまり見当たらないことから、取り上げさせていただきました。
また、著作権法114条3項の損害額の算定において、侵害行為が複数ある場合であっても各行為を全体としてみれば1個の著作物を1回利用したものと評価することができるとしており、損害額の算定に関する検討にあたり今後の参考になるものと思われます。
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(文責・秦野)
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