知的財産高等裁判所第2部(森義之裁判長)は、平成31年3月12日、商標「キリンコーン」について、結合商標に該当するものとして、「キリン」と「コーン」に分離観察したうえで、「引用商標と類似であって、かつ引用商標の指定商品と同一又は類似の本件指定商品について使用するものであるから」「商標法4条1項11号に該当する」と判断をしました。

ポイント

骨子

結合商標の分離観察の可否について
  • 複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについては、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないときには、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許される場合があり、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許される。
商品の類似について
  • 指定商品が類似のものであるかどうかは、商品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判断すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造・生産又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一の営業主の製造・生産又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場合には、たとえ、商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、類似の商品に当たると解するのが相当である。

判決概要(審決概要など)

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 平成31年3月12日
事件番号 平成30年(行ケ)第10121号
審決取消請求事件
商標登録番号 第5882929号
商標
指定商品 第31類 とうもろこし
当事者 キリン株式会社(原告)
審判番号 無効2017-890075号
裁判官 裁判長裁判官 森   義 之
裁判官    佐 野   信
裁判官    熊 谷 大 輔

解説

商標登録の無効審判事由

商標法4条1項11号(先願に係る他人の登録商標)

日本の商標法においては、先願主義が採用されており、特許庁に対して先に商標登録の出願手続を行った者が保護されることになります。

そのため、先願された他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、指定商品・指定役務に同一又はこれらに類似する商品・役務について使用する商標は、以下の通り、登録が認められません(商標法4条1項11号)。

商標法第4条(商標登録を受けることができない商標)
1 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

商標法46条(商標登録の無効の審判)、同43条の2(登録異議の申立て)

商標登録の出願がなされた場合、特許庁において、登録要件の審査がなされたうえで、登録要件を満たす商標のみ登録されることになります。

もっとも、特許庁の審査に過誤があった場合など、本来、登録要件を満たさない商標が登録されてしまうこともあり得ます。

そこで、瑕疵のある商標登録について利害関係を有する者は、法律に定める無効理由があるとして、特許庁に対して、当該商標登録を無効とする審判を求めることができます。

商標登録の無効審判事由は、商標法において、以下の通り、定められており、商標法4条1項11号に該当する商標が登録された場合、利害関係人は、商標登録無効審判を請求することができます(商標法46条1項1号)。

商標法第46条(商標登録の無効の審判)
1 商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。

一 その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条の規定に違反してされたとき。

また、商標掲載公報の発行日から2か月以内に限り、登録異議を申立てることも可能です(商標法43条の2)。

商標法第43条の2(登録異議の申立て)
何人も、商標掲載公報の発行の日から二月以内に限り、特許庁長官に、商標登録が次の各号のいずれかに該当することを理由として登録異議の申立てをすることができる。この場合において、二以上の指定商品又は指定役務に係る商標登録については、指定商品又は指定役務ごとに登録異議の申立てをすることができる。

一 その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条の規定に違反してされたこと。

二 その商標登録が条約に違反してされたこと。

三 その商標登録が第五条第五項に規定する要件を満たしていない商標登録出願に対してされたこと。

商標の類否判断

商標の類否判断の基準

商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断するものとされています(特許庁商標審査基準)。

商標の類否判断の基準について、過去の最高裁判例においては、以下のような判断基準が示されています。

最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決(氷山印事件)
商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。

結合商標の分離観察の可否

複数の文字や図形、記号等を結合して構成される商標を結合商標といいます。

結合商標においては、商標の各構成部分の結合の強弱の程度を考慮し、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど強く結合しているものと認められない場合には、その一部だけから称呼、観念が生じ得るものとされています(特許庁商標審査基準)。

結合商標の類否判断における分離観察の可否について、過去の最高裁判例においては、以下のような判断基準が示されています。

最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決(リラ宝塚事件)
商標はその構成部分全体によつて他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定するがごときことが許されない(中略)。

しかし、簡易、迅速をたつとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必らずしもその構成部分全体の名称によつて称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによつて簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(昭和三六年六月二三日第二小法廷判決、民集一五巻六号一六八九頁参照)。

しかしてこの場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。

最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決(つつみのおひなっこや事件)
(商標)法4条1項11号に係る商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)、

複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)。

これら最高裁判決を引用した知的財産高等裁判所判決もあります(知財高裁平成27年11月5日判決、平成27年(ネ)第10037号)。

結合商標の類否判断

結合商標の類否判断の基準について、特許庁の商標審査基準は、以下の通り、定めています。

商標審査基準
結合商標の類否は、例えば、次のように判断するものとする。ただし、著しく異なった外観、称呼又は観念を生ずることが明らかなときは、この限りでない。

① 識別力を有しない文字を構成中に含む場合

指定商品又は指定役務との関係から、普通に使用される文字、慣用される文字又は商品の品質、原材料等を表示する文字、若しくは役務の提供の場所、質等を表示する識別力を有しない文字を有する結合商標は、原則として、それが付加結合されていない商標と類似する。

② 需要者の間に広く認識された商標を構成中に含む場合

指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとする。ただし、その他人の登録商標の部分が既成の語の一部となっているもの等を除く。

③ 商標の構成部分中識別力のある部分が識別力のない部分に比較して著しく小さく表示された場合であっても、識別力のある部分から称呼、観念を生ずるものとする。

④ 商標の一部が、それ自体は自他商品・役務の識別力を有しないものであっても、使用により識別力を有するに至った場合は、その識別力を有するに至った部分から称呼、観念を生ずるものとする。

商品の類否判断

商品の類似性の有無については、通常同一営業主により製造又は販売されているか、同一の店舗で販売されるのが通常であるかどうか、などの取引の実情等を考慮しつつ、商品に同一又は類似の商標が使用された場合に、同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがあるか否かを基準として判断されます。

過去の最高裁判例においては、以下のような判断基準が示されています。

最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判決(橘正宗事件)
指定商品が類似のものであるかどうかは、(中略)商品自体が取引上誤認混同の虞があるかどうかにより判定すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞がある認められる関係にある場合には、たとえ、商品自体が互に誤認混同を生ずる虞がないものであつても、それらの商標は(中略)類似の商品にあたると解するのが相当である。

事案の概要

本件は、商標登録無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟です。

被告は、以下の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者です。

<本件商標 「キリンコーン」>

登録番号 第5882929号
出願日 平成28年3月3日
指定商品 第31類 とうもろこし


 
 
原告は、以下の商標(以下「引用商標」という。紹介は一部のみ)の商標権者です。

<引用商標1「キリン」>

登録番号 第2544094号の2
出願日 昭和57年4月19日
指定商品 第30類 米、脱穀済みのえん麦 等

<引用商標2「キリン」>

登録番号 第2556501号の1
出願日 昭和57年4月28日
指定商品 第29類 冷凍野菜 等
第31類 野菜 等

<引用商標3「KIRIN」>

登録番号 第4180368号
出願日 平成8年6月24日
指定商品 第30類 穀物の加工品 等

<引用商標4「KIRIN」>

登録番号 第4433606号の2
出願日 平成11年12月20日
指定商品 第29類 豆、加工野菜 等

<引用商標5「麒麟」>

登録番号 第4486902号の2
出願日 平成12年8月1日
指定商品 第29類 冷凍野菜 等

原告は、平成29年11月13日、本件商標について、商標法4条1項11号、同項15号に該当すると主張して、本件商標登録の無効審判を請求し、同請求は無効2017-890075号事件として、特許庁に係属しました。

特許庁は、平成30年7月27日、原告の無効審判請求に対して、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、本件審決の謄本は、同年8月6日、原告に送達されました。

かかる本件審決を不服として、原告より本件審決の取消しを求めて訴え提起したのが本件です。

判旨

結合商標の分離観察の可否について

本判決は、先ず商標の各構成の分離観察の可否について、以下の通り、先行する最高裁判決を引用し、規範を示しました。

(本判決の規範)
複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについては、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないときには、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許される場合があり、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

続いて、本判決は、本件商標「キリンコーン」について、「キリン」と「コーン」が結合した結合商標に該当するとの判断を示しました。

(規範への当てはめ ~ 結合商標か否か)
①本件商標の構成中、「コーン」の文字部分が「とうもろこし」の意味を有する英語である「corn」の読みを片仮名で表したものであること(甲9~12、44、45)、②「キリン」の文字部分が、「(a)中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物。(b)最も傑出した人物のたとえ。(c)ウシ目キリン科の哺乳類。」との意味を有していること(乙24)、③「キリンコーン」が特段の意味を有しない造語であることからすると、本件商標は、「キリン」と「コーン」とを結合した結合商標と理解することができるものである。

そして、以下の通り、結合商標「キリンコーン」のうち、「コーン」部分は本件指定商品(とうもろこし)そのものを意味するものと捉えられ、識別力が低い一方、「キリン」部分は「コーン」部分よりも識別力が高く、取引者、需要者に対して強く支配的な印象を与えるものと判断しました。

(規範への当てはめ ~ 結合商標の要部)
また、上記のように「コーン」が本件指定商品である「とうもろこし」の意味を有する英語である「corn」 の読みを片仮名で表したものであることは、わが国においても広く知られていること(甲44、45、弁論の全趣旨)からすると、本件指定商品との関係では、本件商標の構成中、「コーン」の文字部分は、本件指定商品そのものを意味するものと捉えられ、その識別力は低いものといえる。
他方で、上記のような意味を有する「キリン」は、本件指定商品との関係で、「コーン」よりも識別力が高く、取引者、需要者に対して強く支配的な印象を与えるというべきである。

そのうえで、以下の通り、「キリン」部分と「コーン」部分とが分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められないものとして、本件商標「キリンコーン」から「キリン」の文字部分のみを要部として観察することが許される、との判断を示しました。

(本判決の判断 ~ 分離観察の可否)
そうすると、本件商標の「キリン」の文字部分と「コーン」の文字部分とが、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められず、本件商標から「キリン」の文字部分を要部として観察することは許されるというべきである。

「コーン」部分はとうもろこしそのものを意味するものと捉えられ、識別力が低い一方で、「キリン」部分が需要者の間に広く認識された商標であり、強く支配的な印象を与えるものであることから、商標の構成部分の一部である「キリン」の文字部分だけを分離観察して、他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されると判断したものといえます。

本件商標と引用商標の類否について

本判決は、本件商標(キリンコーン)と引用商標(キリン、麒麟等)との類否について、以下の通り、呼称・観念・外観を比較しました。

(呼称・観念の比較)
引用商標は、別紙のとおりの構成からなるものであり、いずれからも本件商標と同じ「キリン」との称呼が生じる上、引用商標1~4、6、7からは「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」及び「ウシ目キリン科の哺乳類」との観念が生じ、引用商標5からは「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」との観念が生じるから、本件商標と引用商標を観念で区別することはできない。

(外観の比較)
また、「キリン」の片仮名を縦又は横に記載した引用商標1、2、6と本件商標とは、「キリン」の文字部分の色彩や書体に違いはあるものの、本件商標の「キリン」の文字部分とは、「キリン」の文字は同じであるから、外観上、類似するものといえる。

そして、本件指定商品である第31類「とうもろこし」の需要者には一般消費者が含まれることを合わせて考慮したうえで、本件商標と引用商標とは、出所について誤認行動を生じるおそれがある類似する商標であるとの判断を示しました。

(本判決の判断 ~ 商標の類否)
以上に加え、本件指定商品である第31類「とうもろこし」の需要者に一般消費者が含まれることも併せて考慮すると、本件商標と引用商標は、出所について誤認混同を生ずるおそれがある類似する商標というべきである。

「キリン」が需要者の間に広く認識された商標であること、「コーン」そのものの識別力が低いことなども含めて、呼称・観念・外観を比較し、一般消費者を含む需要者に、出所について誤認混同を生じるおそれがあると判断したものといえます。

なお、本判決は、本件商標が茶色と黄色で表示されていることから、「キリン」の文字部分は「ウシ目キリン科の哺乳類」のみを表したものであり、引用商標とは観念が異なるとした本件審決に対し、下記の通り、批判を述べています。

(特許庁審決に対する批判)
この点について、本件審決は、本件商標が茶色と黄色で表示されていることからすると、「キリン」の文字部分は「ウシ目キリン科の哺乳類」のみを表したものとする。
しかし、「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」の色彩について、これがはっきりと定まっているわけではないことからすると、本件商標の構成中の「キリン」の文字部分から「中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物」との観念が生じないとはいえない。

商品の類否について

本判決は、先ず、本件指定商品「第31類 とうもろこし」の範囲について、以下の通り、「野菜」としての「とうもろこし」及び「穀物」としての「とうもろこし」のいずれもが含まれると判断しました。

(「第31類 とうもろこし」の範囲 ~ 「穀物」)
本件指定商品は、「第31類 とうもろこし」であるところ、商標法施行令別表(以下「政令別表」という。)は、第31類を「加工していない陸産物、生きている動植物及び飼料」と定めている。そして、本件商標登録出願時の平成28年経済産業省令第109号による改正前の商標法施行規則別表(以下「旧省令別表」という。)は、第31類に属するものを1から15に分類し、そのうちの1で「1 あわ きび そば ごま とうもろこし ひえ 麦 籾米 もろこし」として、「とうもろこし」を他の雑穀や穀物と並べて記載していたが、「10 野菜」には、とうもろこしは記載されていなかった。

また、本件商標登録出願時における特許庁の旧審査基準(甲32)では、「とうもろこし」は、「あわ きび そば ごま ひえ 麦 籾米 もろこし」、「豆」、「米 脱穀済みのえん麦 脱穀済みの大麦」と同一の類似群(33A01)に属するとされていた。

これらのことからすると、旧省令別表第31類1にいう「とうもろこし」は、「穀物」としての「とうもろこし」であったと解するのが相当であり、「第31類 とうもろこし」とする本件指定商品の範囲は、少なくとも「穀物」としての「とうもろこし」に及ぶものである。

(「第31類 とうもろこし」の範囲 ~ 「野菜」)
また、商標法施行規則別表における細分類の表示は飽くまで例示であるところ、政令別表は、前記のとおり、本件指定商品が含まれる第31類を「加工していない陸産物、生きている動植物及び飼料」と定めており、本件商標の出願後に施行された平成28年経済産業省令第109号が、商標法施行規則別表の第31類1中の「とうもころし」を「とうもろこし(穀物)」とし、同類10「野菜」に「とうもろこし(野菜)」を加えたように、第31類の中には、「穀物」としての「とうもうころし」と「野菜」としての「とうもろこし」の双方が含まれるということができる。このことに照らすと、本件指定商品「第31類 とうもろこし」は、「穀物」としての「とうもろこし」だけでなく、「野菜」としての「とうもろこし」も含むと解することが相当である。本件商標に類似群コードとして「33A01」が付されていることはこの認定を左右しない。

(本判決の判断 ~ 本件指定商品「第31類 とうもろこし」の範囲)
以上の検討からすると、本件指定商品の範囲には、「野菜」としての「とうもころし」及び「穀物」としての「とうもろこし」のいずれもが含まれると解されるのであり、これを前提にして商品の類否の判断をするのが相当である。

そのうえで、本判決は、本件指定商品と引用商標の指定商品の類否について、以下の通り、先行する最高裁判決を引用し、規範を示しました。

(本判決の規範)
指定商品が類似のものであるかどうかは、商品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判断すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造・生産又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一の営業主の製造・生産又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場合には、たとえ、商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、類似の商品に当たると解するのが相当である(最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁参照)。

続いて、本判決は、本件指定商品と引用商標の指定商品の類否について、以下の通り、規範への当てはめを丁寧に行って、商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一の営業主の製造・生産又は販売にかかる商品と誤認される恐れがあると認められる、として、類似の商品に当たるとの判断を示しました。

(規範への当てはめ ~ 「穀物」としての「とうもろこし」)
本件指定商品の範囲に含まれる「穀物」としての「とうもろこし」と、引用商標1の指定商品中の「米、脱穀済みのえん麦、脱穀済みの大麦」と引用商標4の指定商品中の「豆」とは、いずれも「穀物」に属するものであって、その生産者、販売者が一致することが通常あり得るものと認められるし、その需要者にはいずれも一般消費者が含まれるものである。

したがって、それらの商品に同一又は類似の商標が使用されたときには、同一の営業主の生産又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるということができ、本件指定商品と、引用商標1の指定商品中の「米、脱穀済みのえん麦、脱穀済みの大麦」及び引用商標4の指定商品中の「豆」は、商標法4条1項11号にいう類似の商品に当たるというべきである。

(規範への当てはめ ~ 「とうもろこし」)
引用商標2の指定商品中の「野菜(「茶の葉」を除く。)」には、「野菜」としての「とうもろこし」が、引用商標2、4、5の指定商品中の「冷凍野菜」には「冷凍とうもろこし」が、引用商標4~7の指定商品中の「加工野菜」には、「加工済みスイートコーン」のような「加工済みのとうもろこし」が、引用商標3、5、6の指定商品中の「穀物の加工品」には、「炒ったとうもろこし」がそれぞれ含まれるものと認められる。

(ア)a 本件指定商品には「とうもろこし(野菜)」が含まれているから、本件指定商品は、この点において、引用商標2の指定商品中の「野菜(「茶の葉」を除く。)」と同一である。b また、本件指定商品である「とうもろこし(野菜)」と引用商標2、4、5の指定商品中の「冷凍野菜」に含まれる「冷凍とうもろこし」とは、同じ「野菜」としての「とうもろこし」からなるものであって、生産者・製造者、販売者が同一の場合もあり得るものと認められる。したがって、本件指定商品である「とうもろこし(野菜)」と引用商標2、4、5の「冷凍野菜」に同一又は類似の商標が使用されたときには、同一の営業主の生産・製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるということができるから、本件指定商品である「とうもろこし(野菜)」と引用商標2、4、5の指定商品中の「冷凍野菜」は、商標法4条1項11号にいう類似の商品に当たるというべきである。

(イ) 本件指定商品である「とうもろこし(穀物)」と引用商標2、4、5の指定商品中の「冷凍野菜」、引用商標4~7の指定商品中の「加工野菜」、引用商標3、5、6の指定商品中の「穀物の加工品」及び引用商標2の指定商品中の「野菜(「茶の葉」を除く。)」とは、「穀物」か「野菜」か、加工の有無、程度又は方法について差異があるとはいえ、いずれも「とうもろこし」からなるものという点では変わりがなく、「とうもろこし(穀物)」と引用商標2~7の上記各指定商品の生産者・製造者、販売者が一致することもあり得るものと認められる。そして、その需要者にはいずれも一般消費者が含まれる。

したがって、本件指定商品である「とうもろこし(穀物)」と引用商標2~7の上記各指定商品に同一又は類似の商標が使用されたときには、同一の営業主の生産・製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるということができるから、本件指定商品である「とうもろこし(穀物)」と引用商標2、4、5の指定商品中の「冷凍野菜」、引用商標4~7の指定商品中の「加工野菜」、引用商標3、5、6の指定商品中の「穀物の加工品」及び引用商標2の指定商品中の「野菜(「茶の葉」を除く。)」は、商標法4条1項11号にいう類似の商品に当たるというべきである。

本件指定商品の「とうもろこし(穀物)」と引用商標の指定商品中の「冷凍野菜」、「加工野菜」、「穀物の加工品」、「野菜(「茶の葉」を除く。)」の類似群コード(特許庁の審査において、類似の商品又は役務と推定される範囲・グループを示したコード)は以下の通りです。

とうもろこし(穀物) 33A01
冷凍野菜 32D01
加工野菜 32F04
穀物の加工品 32F03
野菜(「茶の葉」を除く。) 32D01

このように、いずれも類似群コードが異なるため、直ちに類似商品と推定されるものではありませんが、本判決では、いずれも「とうもろこし」からなる点では変わりがなく、生産者・製造者、販売者が一致することもあり得ると述べたうえで、同一の営業主の生産・製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあることから、類似の商品に当たると判断しました。

本判決の結論

このように、本判決は、本件商標は商標法4条1項11号に該当するものとして、以下の通り、原告主張の取消事由には理由がある、との判断を示しました。

(本判決の結論)
以上のとおり、本件商標は、引用商標と類似であって、かつ引用商標の指定商品と同一又は類似の本件指定商品について使用するものであるから、商標法4条1項11号に該当する。したがって、原告主張の取消事由1は理由がある。

そのうえで、本判決は、原告の商標登録無効審判請求に対して「本件審判の請求は、成り立たない。」とした本件審決を取り消しました。

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本判決は、結合商標について、要部とその他の部分を分離観察したうえで、商標及び商品の類否を判断したものであり、分離観察の可否や商品類否の判断の基準並びに当てはめ等に関して、類似事案に当たる際に参考になります。

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(文責・平野)