知的財産高等裁判所第1部(高部眞規子裁判長)は、平成31年3月20日、特許無効審判で審決の予告がなされ、訂正の請求がなされた後に、審決の予告までに主張されていた無効理由に基づいてなお特許を無効にすべきものと判断される場合において、どのような要件のもとで再度審決の予告をする必要があるかという問題について、前の審決の予告において当該無効理由について予告がなされ、実質的に訂正の機会が与えられているかによって判断すべきであるとの考え方を示しました。

判決は、その具体的あてはめとして、新規性・進歩性について、主引用例が同一であることを理由に挙げて、認定された引用発明が相違していても、再度の審決の予告は不要としました。これは、認定された引用発明の同一性よりも、主引用例の同一性を重視して審決予告の要否を判断したものといえますので、実務上留意が必要になるものと思われます。

ポイント

骨子

  • 先に行われた審決の予告までに当事者が申し立てた理由のうち,当該予告において判断が留保され又は有効と判断された理由につき特許を無効にすべきものと判断する場合のように,「当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていない」場合は,実質的に訂正の機会が与えられなかったものであり,再度の審決の予告をしなければならない。他方,そうでない場合,すなわち,先に行われた審決の予告と実質的に同じ内容の理由により特許を無効にすべきものと判断する場合のように,実質的に訂正の機会が与えられていた場合は,審判長は,更に審決の予告をする必要はないものと解される。

判決概要(審決概要など)

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 平成31年3月20日
事件番号 平成30年(行ケ)第10034号
審決取消請求事件
原審決 特許庁平成29年11月6日
無効2014-800056号事件
対象特許 特許第3828158号
「液晶表示デバイス」
裁判官 裁判長裁判官 高 部 眞規子
裁判官    杉 浦 正 樹
裁判官    片 瀬   亮

解説

特許無効審判とは

特許無効審判とは、特許庁が行う行政審判のひとつで、瑕疵のある特許を無効にする手続です。その審理は、特許が無効であると主張する審判請求人と特許を有する被請求人との間で争われる当事者対立構造が採用されており、3名の審判官からなる合議体によって審決がなされます。

特許無効審判における訂正の請求とは

特許法における訂正の手続

特許に瑕疵がある場合に、特許権者が特許を守る手段としてしばしば用いられるのが特許の訂正です。特許の訂正は、特許の瑕疵の補正を目的とする手続で、以下の3つの場合に行うことができます。

  • 訂正審判(特許法126条1項)
  • 特許異議申立の中で行われる訂正の請求(特許法120条の5第2項)
  • 特許無効審判の中で行われる訂正の請求(特許法134条の2第1項)
特許無効審判における訂正の請求

訂正は、実務的にみると、特許異議や特許無効審判といった手続において、特許権者が自らの特許を守るための重要な防御手段ですが、どのような手続によって行うかについては歴史的変遷があります。

かつて、特許異議申立や特許無効審判における訂正の請求の制度がなかったころは、訂正は、訂正審判において行われることになっていました。ところが、訂正審判は特許異議申立や特許無効審判とは別個の手続ですので、特許異議申立や特許無効審判の手続中に訂正審判が請求されると、特許異議申立や特許無効審判を中断して訂正審判の結果を待つ必要がありました。そのため、歴史的には、訂正が特許異議申立や特許無効審判の審理の長期化をもたらしてきました。そこで、平成5年の特許法改正によって特許異議申立や特許無効審判の手続の中で訂正を可能にし、判断手続を一本化するために導入されたのが訂正の請求の制度です。

特許無効審判における訂正の請求について、現行特許法は以下のとおり規定しています。

(特許無効審判における訂正の請求)
第百三十四条の二 特許無効審判の被請求人は、前条第一項若しくは第二項、次条、第百五十三条第二項又は第百六十四条の二第二項の規定により指定された期間内に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
 特許請求の範囲の減縮
 誤記又は誤訳の訂正
 明瞭でない記載の釈明
 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。

上記の特許法134条の2第1項各号記載のとおり、訂正の請求は、①特許請求の範囲の減縮、②誤記または誤訳の訂正、③明瞭でない記載の釈明、④他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、のいずれかを目的とするものでなければなりません。

実務的には、特許無効審判における訂正の請求に際しては、①特許請求の範囲を減縮することによって、先行技術との差別化を図り、新規性・進歩性を確保することがしばしば行われます。

訂正の請求の時期的要件

上記の特許法134条の2第1項柱書に記載されているとおり、特許無効審判における訂正の請求は審理中いつでもできるわけではなく、以下の機会に限ってすることができます。

  • 答弁書の提出時(特許法134条1項)
  • 審判長の許可による請求の理由の補正があったとき(特許法134条2項)
  • 有効審決が審決取消訴訟で取り消されたとき(特許法134条の3)
  • 職権無効理由通知がなされたとき(特許法153条2項)
  • 審決の予告があったとき(特許法164条の2第2項)

訂正の審理は、複数の機会にすることが可能ですが、同一の審判手続の中で重ねて訂正の請求がされたときは、先にした訂正の請求は取り下げられたものとみなされるため(特許法134条の2第6項)、最後にされた訂正の請求が審判の対象となります。

訂正の再抗弁との関係

なお、特許権侵害訴訟においては、平成16年改正特許法により、特許無効の抗弁が設けられ(特許法104条の3)、特許無効審判で無効にされるべき特許については、侵害訴訟で権利行使することができない旨規定されました。これは、いわゆる明らか無効の抗弁を認めたキルビー特許最判(最三判平成12年4月11日民集54巻4号1368頁)の考え方を立法化したもので、特許権侵害訴訟の被告は、特許無効を主張することにより、特許権の行使を免れることが可能になりました。

また、これに対応して、特許無効の抗弁の主張を受けた特許権者からは、訂正によって無効理由を回避できるという主張をすることが認められており、一般に訂正の再抗弁と呼ばれています。

訂正の再抗弁と訂正審判との関係については、最二判平成29年7月10日平成28年(受)第632号「シートカッター」事件において、例外的事情がない限り、訂正の再抗弁の主張をするためには、適法な訂正審判ないし訂正の請求をしていることが必要との考え方を示していますが、訂正の再抗弁は、それ自体で特許を訂正するものではなく、侵害訴訟における特許無効の主張を封じる効果を有するにとどまる点で、訂正審判や訂正の請求とは異なります。

審決の予告

審決の予告とは

平成23年改正特許法は、下記のとおり規定し、特許無効審判の審理の結果、特許が無効と認められるに至ったときは、審判長は、審決の予告をし、特許権者に訂正の機会を与えることとしています。

(特許無効審判における特則)
第百六十四条の二 審判長は、特許無効審判の事件が審決をするのに熟した場合において、審判の請求に理由があると認めるときその他の経済産業省令で定めるときは、審決の予告を当事者及び参加人にしなければならない。
 審判長は、前項の審決の予告をするときは、被請求人に対し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求するための相当の期間を指定しなければならない。
 略

審決の予告は、審決書の文案がそのまま当事者に送られる形でされるのが通常で、特許権者としては、その内容に応じて、必要と考えれば訂正の請求をして無効審決を回避することもできますし、訂正の請求をせずに無効審決を受け、その是非を審決取消訴訟で争うこともできます。

審決の予告の要件

上記の特許法164条の2第1項いう「経済産業省令で定めるとき」について、特許法施行令は、以下の規定を置いています。

(審決の予告)
第五十条の六の二 特許法第百六十四条の二第一項の経済産業省令で定めるときは、被請求人が審決の予告を希望しない旨を申し出なかつたときであつて、かつ、次に掲げるときとする。

 審判の請求があつて審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場合にあつては、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき又は特許法第百三十四条の二第一項の訂正の請求(審判の請求がされている請求項に係るものに限る。)を認めないとき。

 特許法第百八十一条第二項の規定により審理を開始してから最初に事件が審決をするのに熟した場合にあつては、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき又は特許法第百三十四条の二第一項の訂正の請求(審判の請求がされている請求項に係るものに限る。)を認めないとき。

 前二号に掲げるいずれかのときに審決の予告をした後であつて事件が審決をするのに熟した場合にあつては、当該審決の予告をしたときまでに当事者若しくは参加人が申し立てた理由又は特許法第百五十三条第二項の規定により審理の結果が通知された理由(当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないものに限る。)によつて、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき。

要するに、審判長は、以下の3つの場合に審決の予告をすべきこととなります。

  • 審判請求後初めて無効と認めるに至ったか、訂正を拒絶するとき
  • 審決取消訴訟で無効審決が取り消された後の審理で初めて無効と認めるに至ったか、訂正を拒絶するとき
  • すでに審決の予告がなされた後に、審決の予告前に主張されていた無効理由または職権無効理由のうち、審決の予告をしていない理由で無効と認めるに至ったとき

審決予告が導入された経緯

キャッチボール問題

上述のとおり、平成5年の特許法改正によって訂正の請求が導入され、特許無効審判の審理中に訂正審判が請求され、特許無効審判が遅延するという問題は解消されました。しかし、特許権者としては、権利範囲の減縮をもたらす請求はなるべくしたくないため、特許庁の無効審決を受けてから訂正をしたいと考えます。

この点、無効審決がなされた後に特許権者が審決取消訴訟を提起し、さらに訂正審判を請求した場合の取り扱いについて、最三判平成11年3月9日民集53巻3号303頁「大径角形鋼管」事件は、無効審決の取消しを求める訴訟の係属中に当該許権について特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審決が確定した場合には、訂正後の特許の有効性について特許庁で改めて審理をさせるため、当該無効審决を取り消さなければならないとの考え方を採用していました。

そのため、特許権者が無効審決を受けると、その確定を避けるために審決取消訴訟を提起するとともに訂正審判を請求し、その後、訂正審決が確定すると、裁判所が審決取消訴訟の審理をやめて無効審決を取り消し、審理を特許庁に差し戻す、ということが頻繁に行われるようになりました。この場合、訂正審判係属中の審決取消訴訟の審理は無駄になり、単に訂正を行うために事件が特許庁と裁判所との間を往復することになります。これによって当事者や裁判所に無用の負担を生じる状態は、事件が両機関を往復する様子から「キャッチボール問題」と呼ばれるようになりました。

平成15年改正法による訂正審判の請求期間の制限及び差戻判決の導入

キャッチボール問題への対応として、平成15年改正特許法は、無効審決に対する取消訴訟提起後は90日間に限って訂正審判を請求できるものとし、訂正審判の請求があったときは、裁判所は、訂正審決の確定を待たずに、決定によって無効審決を取り消し、特許庁に審理を差し戻すことを可能にしました。

この制度のもとでも、特許権者が無効審決に対応して訂正をするためには、いったん審決取消訴訟を提起する必要があるため、形式的には事件のキャッチボールが残ることにはなりますが、裁判所で実質的な審理が行われる前に特許庁に差し戻すことが可能になるため、当事者や裁判所の負担を軽減することが可能になりました。

平成23年改正法による審決予告制度の導入

平成23年改正特許法は、特許無効審判で無効審決をするときは、前もって審決の予告をする制度を導入しました。上述のとおり、審決の予告をするときは、必ず特許権者に訂正請求の機会が与えられるため、特許権者としては、無効審決に対して審決取消訴訟を提起してから訂正審判を請求するといった迂遠な手続を踏む必要がなくなりました。

他方、無効審決がなされた後は、審決取消訴訟を提起しても、訂正審判の請求はできないこととなりました(特許法126条2項)。これにより、審決取消訴訟の審理中に訂正が確定し、審理が特許庁に差し戻されるという事態は生じなくなり、キャッチボール問題が解消されました。

なお、平成15年改正に際しても、審決の予告を導入すべきとの議論はなされました。しかし、当時は、平成13年に審査請求期間が7年から3年に短縮されたことに伴い、短縮前の出願の審査と短縮後の出願の審査が重複し、特許庁に大きな負荷がかかることが予想されていました。また、平成15年改正に際しては、特許異議制度が廃止され、特許無効審判に統合されたため、特許無効審判の請求件数が増加するとの予測もありました。そのため、特許庁の業務量の増加につながる可能性のある審決予告の導入は見送られました。

訂正の請求があった場合の特許無効審判の審理と再度の審決の予告

審決の予告がなされた後に訂正の請求がなされると、特許庁は、訂正の許否及び訂正後の特許の有効性について審理を行うことになります。

また、訂正の請求に基づいて審判長の許可(特許法131条の2第2項1号)があったときは、審判請求人は、審判請求書の補正をし、訂正後の特許について新たな無効理由を主張することが認められます(特許法131条の2第1項2号)。この場合、特許庁は、新たな無効理由についても審理することとなります。

こうして、審決の予告の後に訂正の請求があったときは、さらなる審理が行われますが、その結果、なお特許は無効にすべきものと認められることもあります。この場合、審判長は、上記の特許法施行規則50条の6の2に基づき、その無効理由が前の審決の予告までに主張されていた無効理由または職権無効理由のうち、審決の予告をしていないものであるときに、再度審決の予告をする必要があります。他方、審決の予告の後に主張された無効理由や、すでに審決の予告がされた無効理由に基づいて無効審決をするときは、再度の審決の予告をする必要はありません。

事案の概要

原告は、特許第3828158号「液晶表示デバイス」(本件特許)の特許権者で、被告は、本件特許にかかる特許無効審判(無効2014-800056号)の請求人です。

特許無効審判の審理の中では、2回の審決の予告が行われ、いずれの機会にも訂正の請求がなされました。上述のとおり、ひとつの審判の手続で複数の訂正請求がされたときは最後の訂正請求が審決の対象となるため、本件では、2回目の訂正請求が審理され、認められました。他方、特許無効の成否については、2回目の予告(第2予告)に基づく審理の後は、審決の予告がなされることなく審理終結通知書が発され、一部の請求項について、サポート要件違反、新規性欠如、進歩性欠如に基づき無効とする審決がなされました。

原告(特許権者)は、この審決を不服として審決取消訴訟を提起しましたが、申し立てられた審決取消理由のひとつは、審決に先立って再度審決の予告をすべきであった、という手続違背の主張でした。原告がその根拠として主張したのは、第2予告と審決とで発明の課題の認定が異なっていること、サポート要件違反となる例について第2予告で具体的な言及がなかったこと、第2予告と審決とで引用発明の認定が異なること、第2予告では新規性欠如とされていたのが審決では新規性欠如かつ進歩性欠如という理由に変化していること、でした。

これに対し、判決は、上記の原告の主張を認めず、また、他の取消理由も排斥し、結論として、原告の請求を棄却しました。

判旨

判決は、まず、以下のとおり、再度の審決の予告をする場合について定めた特許法施行規則の規定を紹介します。

審判長は,特許無効審判の事件が審決をするのに熟した場合,審判の請求に理由があると認めるときその他の経済産業省令で定めるときは,審決の予告を当事者等にしなければならない(特許法164条の2第1項)。上記「経済産業省令で定めるとき」として,特許法施行規則50条の6の2が規定されている。同条3号は,同条1号又は2号に掲げる審決の予告をした後であって事件が審決をするのに熟した場合にあっては,「当該審決の予告をしたときまでに当事者…が申し立てた理由又は特許法153条第2項の規定により審理の結果が通知された理由(当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないものに限る。)によって,審判官が審判の請求に理由があると認めるとき」は,審決の予告をしなければならない旨規定する。

その上で、判決は、再度の審決の予告をすべき場合について、以下のように述べ、実質的に訂正の機会が与えられていないことが再度の審決の予告をする根拠であることを明らかにしました。

この規定によれば,先に行われた審決の予告までに当事者が申し立てた理由のうち,当該予告において判断が留保され又は有効と判断された理由につき特許を無効にすべきものと判断する場合のように,「当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていない」場合は,実質的に訂正の機会が与えられなかったものであり,再度の審決の予告をしなければならない。

また、判決は、続いて以下のように述べ、実質的に訂正の機会が与えられていたときは、再度の審決をする必要がないとしました。

他方,そうでない場合,すなわち,先に行われた審決の予告と実質的に同じ内容の理由により特許を無効にすべきものと判断する場合のように,実質的に訂正の機会が与えられていた場合は,審判長は,更に審決の予告をする必要はないものと解される。

さらに、判決は以下のように述べ、上述のような解釈は、審決の予告の制度が、訂正の機会を確保しつつキャッチボール問題を解消するために導入されたものであることにも整合する旨述べました。

審決予告の制度は,特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求につき,それに起因する特許庁と裁判所との間の事件の往復による審理の遅延ひいては審決の確定の遅延を解消する一方で,特許無効審判の審判合議体が審決において示した特許の有効性の判断を踏まえた訂正の機会を得られるという利点を確保するために,審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求を禁止することと併せて設けられたものであるところ,上記の解釈は,この制度趣旨にかなうものである。

その上で、判決は、審決と第2予告とを対比し、サポート要件については、両者の相違は表現の違いにとどまるとし、また、新規性・進歩性については、引用発明の認定には相違があるものの、主引用例が同一であることから、実質的に訂正の機会が与えられていたとし、再度の審決の予告は必要がなかったと認定しました。

判決は、新規性・進歩性との関係で再度の審決の予告の要否について述べた部分は、以下のとおりです。

引用発明1Bと甲1の3発明とを対比すると,本件審決の認定と第2予告の認定は同一である。他方,引用発明1Aと甲1の2発明については,本件審決では式(N-a)の化合物を含むのに対し,第2予告ではこれを含まない点その他の点で,液晶表示素子に係る混合物を構成する重合性液晶組成物の一部が相違する。

しかし,甲1を主引用例として認定された引用発明に基づき,新規性又は進歩性が欠如するとの無効理由により審判の請求を理由があるとする第2予告により,上記無効理由に関しては,実質的に見て原告に訂正の機会が与えられたものといえる。

よって,新規性及び進歩性との関係では,第2予告の後更に審決の予告をすべき場合には当たらない。

コメント

判決は、再度の審決の予告の要否について、審決の予告の制度趣旨に照らし、実質的に訂正の機会が与えられていたかによって判断すべきとしましたが、その具体的あてはめとして、新規性・進歩性について、主引用例が同一であれば、認定された引用発明が相違していても、再度の審決の予告は不要とし、認定された引用発明の同一性よりも、主引用例の同一性を重視して判断しています。

これは、あくまで事実認定の中での個別の判示であり、再度の審決の予告の要否を引用例の同一性によって判断するという考え方を一般的に示したものと読むことはできませんが、実質的な訂正の機会を広く捉えるものであるとはいえそうで、近年特に顕著な知財高裁の一回的解決志向に沿うものと思われます。特許権者が審決予告を受けて訂正請求をする際には、請求人が主張する無効理由をもとに、審決予告に記載された無効理由を広めに捉えて適切な訂正をすることが求められることになりそうです。

理論面では、引用例が同一である場合に引用発明にズレがあっても審決の予告の射程に含まれるとする考え方の是非は、無効理由の把握の問題であり、職権無効理由通知の要否や、一事不再理の客観的範囲の問題とも関連する問題と思われます。特に、一事不再理が相対効となり、その範囲を広く解しようとする動きがある中、「同一の事実及び同一の証拠」をどう捉えるかは重要になるものと思われるところ、ごく模式的に考えると、本判決は、「同一の事実」(認定された引用発明)よりも、「同一の証拠」(引例)を重視していると理解できなくもありません。特許無効審判における無効理由の整理のあり方等も含め、潜在的には興味深い議論が含まれた問題ではないかと思われます。

(文責・飯島)
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