知的財産高等裁判所第1部(高部眞規子裁判長)は、平成30年12月18日、複数の請求人によって請求された特許無効審判において無効の審決がなされたのに対し、特許権者が、一部の請求人のみを被告として審決取消訴訟を提起したという事案において、訴えを却下しました。

却下の理由は、被告とならなかった請求人との関係においては出訴期間の経過によって無効審決が確定し、その結果特許権は初めから存在しなかったものとみなされるから、被告となった審判請求人との関係においても、審決取消訴訟は訴えの利益を欠くというものです。

複数当事者による審判・審決取消訴訟における訴えないし審判の要件をめぐっては、複雑な法律問題があり、当事者系審判と査定系審判とでも考え方が分かれています。本件では、被告側の当事者適格が問題となっており、比較的珍しい事案といえますが、当事者系審判における合一的確定の考え方や、固有必要的共同訴訟との関係を踏まえつつ、訴えの利益の考え方を整理したものとして参考になります。

ポイント

骨子

  • 本件審決は,被告及び訴外会社が共同審判請求人となり,原告らを被請求人として請求された特許無効審判事件に係るものである。また,本件において,原告らは,被告のみを相手方とし,訴外会社については被告としていないことは,当裁判所に顕著な事実である。なお,訴外会社との関係では,本件審決の送達日である平成30年3月29日から30日の出訴期間を既に経過している。そうすると,本件審決(無効審決)は,訴外会社との関係においては,原告らが訴外会社に対する審決取消訴訟を提起することのないまま出訴期間を経過したことにより,既に確定したこととなる。その結果,本件特許の特許権は初めから存在しなかったものとみなされるから(特許法125条本文),本件訴えは,訴えの利益を欠く不適法なものとして却下されるべきである。
  • 共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ることは,法文上の根拠がなく,その必然性も認められないことに鑑みると,その請求人の一部のみを被告として審決取消訴訟を提起した場合に,被告とされなかった請求人との関係で審決の確定が妨げられることもないと解される。
  • 共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ることは法文上の根拠がなく,その必然性も認められないことから,当該審決に対する取消訴訟をもって固有必要的共同訴訟ということはできない。

判決概要(審決概要など)

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 平成30年12月18日
事件番号 平成30年(行ケ)第10057号
審決取消請求事件
原審決 特許庁平成30年3月19日
無効2017-800023号事件
対象特許 特許第3910705号
「二次元コード、ステルスコード、情報コードの読み取り装置及びステルスコードの読み取り装置」
裁判官 裁判長裁判官 高 部 眞規子
裁判官    杉 浦 正 樹
裁判官    片 瀬   亮

解説

訴訟要件と却下判決

裁判所が訴訟の審理を行い、判決をするためには、そのための前提条件が整っている必要があります。こういった審理判決の前提条件を「訴訟要件」といい、訴訟要件が充足されていない場合、訴えは違法とされ、却下されます。

却下判決は、実体的審理をせずに訴えを排斥する門前払いの判決で、本案の審理の結果原告の請求に理由がないと認定し、訴えを排斥する棄却判決と異なります。

瑕疵の補正

訴訟提起時に訴訟要件を欠く場合であっても、直ちに訴えが却下されるわけではなく、管轄違いの場合を除き、訴訟の瑕疵の判断基準時は口頭弁論終結時であるとされています。そのため、当事者は、訴え提起後、審理がなされている間に瑕疵を補正することによって、本案の判決を受けることができます。

逆にいえば、訴訟要件を欠く訴えが提起されてしまった場合に、その訴えが却下されるかどうかは、当事者において瑕疵を補正することができるかどうかにかかるものといえます。

訴えの利益とは

訴えの利益とは、裁判を受ける正当な利益のことをいい、訴訟要件の一つとされています。ある訴えについて、訴えの利益が認められない場合には、訴えは却下されます。

具体的には、裁判所が紛争を解決するに値するだけの利益や必要性があることをいい、訴えの利益を欠く場合には、訴訟要件を欠くものとして、訴えが却下されます。

固有必要的共同訴訟とは

固有必要的共同訴訟は、共同訴訟の中でも、必要的共同訴訟の類型のひとつで、類似必要的共同訴訟と区別されます。

共同訴訟とは

共同訴訟とは、原告または被告が複数いる訴訟をいいます。共同訴訟は、通常共同訴訟と必要的共同訴訟に分類されます。

通常共同訴訟とは

通常共同訴訟は、本来個別に訴訟をすることもできるものの、民事訴訟法が定める一定の関係がある場合に任意に複数当事者の訴訟を併合する場合をいいます。例えば、貸し付けた金銭の返還を求めるに際し、債務者と連帯保証人に対して同時に訴訟を提起し、判決を得る場合などがこれにあたります。特許法の例では、特許権の共有者が共同して侵害訴訟を提起したり、侵害品のメーカーと販社とを一緒に訴えたりする場合などが通常共同訴訟に該当します。

通常共同訴訟の場合、必要に応じて手続を分離し、個別に判決をすることも許されます。

必要的共同訴訟とは

必要的共同訴訟とは、共同訴訟の当事者ごとに判決をすることが許されない訴訟類型をいいます。必要的共同訴訟は、さらに、固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟とに分かれます。

固有必要的共同訴訟とは

固有必要的共同訴訟とは、一定の当事者全部が必ず共同当事者となることが法律上の要件とされている訴訟です。関係者全員に手続保障を与えた上で、判決を合一的に確定させる必要のある場合がこれにあたり、当事者の一部が欠けているときは、当事者適格を欠き、訴訟要件を充足しないものとされます。

固有必要的共同訴訟の例として、共有の土地について所有者でない第三者に所有権の登記がされている場合において、共有者らがその登記の移転を求めるときは、共有者全員が訴えを提起する必要があると解されています。

なお、固有必要的共同訴訟の訴え提起時に当事者に欠缺があり、当事者適格を欠くとしても、共同訴訟参加によって当事者を追加し、補正することが認められます。

類似必要的共同訴訟とは

類似必要的共同訴訟は、固有必要的共同訴訟と異なり、共同訴訟とすることが訴訟要件となるわけではなく、単独で訴訟提起をしても当事者適格に欠けることはありませんが、共同訴訟とされたときは、固有必要的共同訴訟と同様に取り扱い、判決を合一的に確定させなければならなくなる訴訟類型です。

類似必要的共同訴訟の例として、株主総会決議取消訴訟は、株主全員が揃って訴え提起する必要はないものの、複数の株主が訴えを提起した場合には共同訴訟とする必要があり、また、その判決は合一的に確定されます。

特許審判の類型と審決取消訴訟

現行特許法は、4つの類型の特許審判を用意しており、大きく、審判請求人と特許庁との間で審理が行われる査定系審判と、審判請求人と権利者との間で審理が行われる当事者系審判に分類することができます。

  • 査定系審判
拒絶査定不服審判(特許法121条1項) 出願手続きでなされた拒絶査定に対し、不服を申し立てる審判で、出願人が請求人となります。
訂正審判(特許法126条1項) 特許登録後に、特許の内容を訂正するための審判で、特許権者が請求人となります。
  • 当事者系審判
特許無効審判(特許法123条1項)

特許登録後に特許を無効にするための審判で、その特許について利害関係を有する者(冒認・共同出願違反の場合は、特許を受ける権利を有する者)が請求人となることができます。
延長登録無効審判(特許法125条の2第1項) 医薬品や農薬の発明についての延長登録を無効にするための審判で、利害関係人が請求人となることができます。

いずれの審判についても、審決に不服がある場合、裁判所に出訴して取消を求めることができます。審決の取り消しを求める訴訟を、審決取消訴訟といいます。

かつては、独占禁止法に基づき公正取引委員会が行なっていた審判に対する取消訴訟もありましたが、公正取引委員会の審判制度が平成25年の法改正によって廃止された現在、経過措置によるものを除けば、審決取消訴訟は、いわゆる産業財産権4法(特許法、実用新案法、意匠法、商標法)に基づく審判に対するもののみとなりました。

複数当事者と審判の要件

審判の類型と共同審判に関する規定

共同訴訟と同様、いずれかの当事者が複数の場合の審判は、共同審判と呼ばれます。共同審判の要件については、特許法に以下の規定があります。

(共同審判)
第百三十二条 同一の特許権について特許無効審判又は延長登録無効審判を請求する者が二人以上あるときは、これらの者は、共同して審判を請求することができる。
2 共有に係る特許権について特許権者に対し審判を請求するときは、共有者の全員を被請求人として請求しなければならない。
3 特許権又は特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならない。
4 略

この規定は、文面のみだと分かりにくいのですが、以下のとおり整理することができます。

査定系審判 当事者系審判
請求人が複数 共有の場合、必ず共同で請求する必要がある(3項) 任意に共同で請求することができる(1項)
被請求人が複数 (被請求人はいない) 共有の場合、必ず共同の被請求人とする必要がある(2項)

上記のうち、共有の権利の場合における査定系審判の請求人と当事者系審判の被請求人は必ず共有者共同である必要があるため、条件を満たさない場合には、不適法な審判請求として却下されることになります。

査定系審判と補正の可否

共同審判の規定は、特に、拒絶査定不服審判の場合に留意が必要です。上述のとおり、一般に訴訟要件の欠缺に対しては補正が認められていますが、拒絶査定不服審判については、出願人の一部が審判請求をした場合に他の出願人を加えることは審判請求書の要旨を変更する補正にあたるため許されないと解されており(最判昭和53年3月24日無体裁集20巻2号346頁)、審判請求は却下を免れません。また、審判請求期間が拒絶査定謄本の送達から3ヶ月に制限されているため、多くの場合、当事者適格が問題となってから再度審判請求することができません。そのため、当事者の一部に漏れがあると、事実上特許を受けることができなくなってしまうのです。

当事者系審判と補正の可否

当事者系審判の場合には、審判請求が却下されたとしても、一事不再理(特許法167条)が働かないため、もう一度審判請求をすることが可能です。そのため、拒絶査定不服審判ほど問題は深刻ではありませんが、それでも、再度審判請求をやり直すのは当事者にとって負担になります。この場合には、やはり補正の可否が問題となります。

この点、東京高判昭和47年10月24日無体集4巻2号598頁は、特許無効審判を共有者の一部に対して請求した場合における補正につき、「必要的共同審判の規定に違反して共有者の一人を被請求人としてされた特許無効の審判請求につき、これを不適法として却下する審判がまだされない間に、必要な他の共有者を被請求人とする特許無効の審判が追加的に請求され、この両者の請求についての審理が併合されたときは、これにより必要的共同審判の要請に関する瑕疵は治癒されたものと解するのが審判経済に照し相当である。」として、補正を容認しました。この判決は、要旨変更の規定について、「右補正はその実体において・・・特許無効審判の追加的な請求と解するのを相当とすることが前記のとおりである以上、前記法条(旧法131条2項)は本件の場合に適用される余地がないものというほかな」いと述べ、そもそも適用がない、という考え方を示しています。

また、審判請求前に権利が移転され、結果として無効審判の相手方が間違っていた、という事案でも、東京高判昭和53年3月30日無体集10巻1号130頁は、被請求人の表示を審判請求時の実用新案権者に補正することを認めました。この判決は、補正を容認するにあたり、本来無効審判の被請求人は登録査定をした特許庁であるべきところ、審判の結果について利害関係を負う権利者を「手続上の当事者」にしたものに過ぎないから、誤った被請求人の表示を補正するのは請求書の要旨の変更にあたらない、との考え方を示しました。

これらの判決は、拒絶査定不服審判の審決取消訴訟について、最高裁判所が固有必要的共同訴訟説を採用する前のものですが、一般に、当事者系審判においては、当事者適格の瑕疵は比較的柔軟な治癒が認められてきたといえます。

複数当事者と審決取消訴訟における訴訟要件

審判と異なり、審決取消訴訟については、複数当事者を巡る規律について、特許法に明文の規定はなく、解釈によることとなります。以下に現在までの議論の状況を整理します。

査定系審判の審決取消訴訟

査定系審判の審決取消訴訟においては、審決取消訴訟において、一部の審判請求人が訴えを提起しない場合に、その訴えは訴訟要件を充足しているといえるか、つまり、一部の請求人が訴訟提起をしなくても却下されないか、が問題となります。
この点、最高裁判所は、合一的確定の必要性を理由に、拒絶査定不服審判の審決取消訴訟は固有必要的共同訴訟であるとし、一部の請求人が原告となっていない場合には、訴えは却下されるとの考え方を示しました(最三判平成7年3月7日民集49巻3号944頁)。この判決に対しては批判もありますが、現在の実務は固有必要的共同訴訟説に従っています。

なお、固有必要的共同訴訟説に立つ場合においても、訴え提起後に、当事者を追加することで訴訟要件の瑕疵を補正することができるかは別途問題になります。この点は、審判段階で当事者の追加が審判請求書の要旨変更となることを理由に認められていないこととパラレルの論点といえるでしょう。また、仮に訴訟段階では当事者の追加が可能であるとしても、審決取消訴訟は出訴期間の制限があるため、出訴期間経過後も補正が可能かということも問題となります。当事者の不足が問題となる時点では出訴期間が経過していることが多いと思われるため、実際上、これらは実質的に一体の論点といえます。

この点、上述のとおり、固有必要的共同訴訟における当事者の欠落は、共同訴訟参加という民事訴訟法上の手続によって補正が可能であると解されていますが、伝統的な通説は、そのような補正を出訴期間経過後にすることはできないと解していました。その背景には、実用新案登録の共同出願人の1人が拒絶査定に対する抗告審判の審決取消訴訟を単独で提起した後において訴えを提起しなかった出願人の登録を受ける権利を譲り受けて単独の権利者となったとしても、その旨の名義変更届出を出訴期間内にしていなければ当該訴えは不適法となるとした最一判昭和36年8月31日民集15巻7号2040頁があります。

しかし、知的財産高等裁判所は、固有必要的共同訴訟説を前提としつつも、出訴期間経過後の共同訴訟参加による補正を容認しました(知高判平成17年10月11日平成17年(行ケ)第10069号)。その理由は、独立当事者参加について期間の遵守の効力を遡及的に認める民事訴訟法49条のような規定が共同訴訟参加について設けられていないことに求められています。

当事者系審判の審決取消訴訟

当事者系審判の審決取消訴訟については、請求人が複数の場合と、被請求人が複数の場合とが問題となります。これらのうち、請求人が複数の場合で、不成立(有効)審決がなされた場合に、請求人の一部のみが審決取消訴訟を提起できることについては、最高裁判所が認め(最一判平成12年1月27日平成7年(行ツ)第105号)、また特に異論もないところです。もともと特許無効審判は利害関係人であれば誰でも請求することができ、合一的確定の要請は働かないからです。他方、権利者が複数の場合で不成立審決があった場合も、すべての権利者を被告として審決取消訴訟を提起する必要があることについて、争いはありません。すべての特許権者に手続保障を与える必要があるからです。

残された問題は、無効審決があった場合において、請求人が複数の場合、権利者はすべての請求人を被告として出訴する必要があるか、また、権利者が複数の場合、すべての権利者が共同して出訴する必要があるか、ということです。

これらのうち、権利者が複数の場合について、最高裁判所は、まず商標登録無効審判の無効審決に対する取消訴訟に関し、権利者の一部が出訴することが適法であるとの判断を示しました(最判平成14年2月22日判時1779号81頁)。また、その判決のすぐ後には特許無効審判との関係でも同様の考え方を示しています(最判平成14年2月28日判時1779号87頁)。これらの判決で単独出訴を適法とする理由にされたのは、無効審決に対する出訴は保存行為であること、そして、合一的確定の必要性は、行政処分等の取消判決の第三者効に関する行政事件訴訟法31条1項の適用により回避できる、ということでした。

本件訴訟は、もうひとつの論点、つまり、無効審決があった場合において、請求人が複数の場合、権利者はすべての請求人を被告として出訴する必要があるか、という問題を扱ったものです。

不成立(有効審決) 無効審決
請求人が複数 各請求人は単独で出訴可能 一部の請求人のみを被告として出訴することは可能か?
権利者が複数 権利者全員を被告とすることが必要 各権利者は単独で出訴可能

特許無効審判における審決の確定

特許審判の審決の謄本の送達の日から30日以内に審決取消訴訟を提起しない場合、審決は確定します。特許無効審判の場合、無効の審決が確定したときは特許ははじめから存在しなかったものとみなされ(特許法125条本文)、また、不成立審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実および同一の証拠に基づいて再度審判請求をすることができなくなります(特許法167条)。

事案の概要

本件の原告らは、特許第3910705号(「二次元コード、ステルスコード、情報コードの読み取り装置及びステルスコードの読み取り装置」)の特許権者で、被告は、当該特許についての特許無効審判(無効2017-800023号)の請求人のひとりでした。

無効審判では、「特許第3910705号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決がなされたため、原告らは、審決取消訴訟(本訴訟)を提起しましたが、その際、2名いた審判請求人のうち1名に対しては、訴訟を提起せず、出訴期間を経過しました。

この場合において、被告となった審判請求人との関係で提起された本訴訟が訴訟要件を充足するかが争われました。

判旨

訴えの利益について

審判請求人が複数の特許無効審判で無効審決があり、その一部のみを被告として審決取消訴訟を提起した場合の訴訟の適法性について、判決は、以下のとおり述べ、訴えの利益を欠き不適法であるとの考え方に立って請求を却下しました。

本件審決に係る別紙審決書(写し)の記載及び弁論の全趣旨によれば,本件審決は,被告及び訴外会社が共同審判請求人となり,原告らを被請求人として請求された特許無効審判事件に係るものである。また,本件において,原告らは,被告のみを相手方とし,訴外会社については被告としていないことは,当裁判所に顕著な事実である。なお,訴外会社との関係では,本件審決の送達日である平成30年3月29日から30日の出訴期間を既に経過している。

そうすると,本件審決(無効審決)は,訴外会社との関係においては,原告らが訴外会社に対する審決取消訴訟を提起することのないまま出訴期間を経過したことにより,既に確定したこととなる。その結果,本件特許の特許権は初めから存在しなかったものとみなされるから(特許法125条本文),本件訴えは,訴えの利益を欠く不適法なものとして却下されるべきである。

つまり、被告とならなかった審判請求人との関係で無効審決が確定し、特許が無効になってしまう以上、審決取消訴訟で審決の是非を審理判決する意味がない、という考え方といえます。

合一的確定の要請と一部当事者との間における無効審決の確定について

これに対し、原告らは、特許無効審判の請求人が複数いたとしても、審決取消訴訟を提起した時点で対象となる審決の確定は遮断されるから、請求人全てを被告とすべき必要性はなく、本件で請求認容判決が確定すれば、取消しの効力は被告となっていない他の請求人にも及び、請求棄却判決が確定すれば無効審決が確定し特許権が遡及的に消滅するから、合一的確定の要請にも反しない、といった主張をしていました。

これに対し、判決は、以下のとおり、合一的確定の必要性がない以上、審決が個別に確定することも妨げられないと解し、原告らの主張を排斥しました。

同一の特許権について特許無効審判を請求する者が二人以上あるときは,これらの者は,共同して審判を請求することができる(特許法132条1項)。これは,本来,各請求人は,単独で特許無効審判請求をし得るところ,同一の目的を達成するためにこのような共同での審判請求を行い得ることとし,審判手続及び判断の統一を図ったものである。もっとも,この場合の審決を不服として提起される審決取消訴訟につき固有必要的共同訴訟であるとする規定はなく,審決の合一的確定を図るとする規定もない。

また,同一特許について複数人が同時期に特許無効審判請求をしようとする場合の特許無効審判手続の態様としては,①上記の共同審判請求の場合のほか,②別個独立に請求された審判手続が併合された場合(同法154条1項),③別個独立に請求された審判手続が併合されないまま進行する場合の3つが考えられる。しかるところ,まず,上記③の場合において無効審決がされたときは,その取消訴訟をもって必要的共同訴訟と解する余地がないことに鑑みると,事実及び証拠が同一であるか異なるかに関わりなく,複数の特許無効審判請求につき,請求不成立審決と無効審決とがいずれも確定するという事態は,特許法上当然想定されているものということができる。また,別個独立に請求された審判手続がたまたま併合された上記②の場合において無効審決がされたときも,上記③の場合と取扱いを異にすべき合理的理由はない。そうすると,上記①の場合に,被請求人である特許権者の共同審判請求人に対する対応が異なった結果として上記と同様の事態が生じることも,特許法上想定されないこととはいえない。①及び②の場合にされた請求不成立審決に対し,その請求人の一部のみが提起した審決取消訴訟がなお適法とされる(最高裁平成7年(行ツ)第105号同12年1月27日第一小法廷判決・民集54巻1号69頁,最高裁平成8年(行ツ)第185号同12年2月18日第二小法廷判決・判例時報1703号159頁参照)のも,このためと解される。

このように,共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ることは,法文上の根拠がなく,その必然性も認められないことに鑑みると,その請求人の一部のみを被告として審決取消訴訟を提起した場合に,被告とされなかった請求人との関係で審決の確定が妨げられることもないと解される。

無効審決取消訴訟と固有必要的共同訴訟について

他方、被告らは、審判請求人が複数の場合の無効審決に対する審決取消訴訟は固有必要的共同訴訟であるとの立場に立ち、その一部のみを被告とした本訴訟は不適法であると主張していましたが、合一的確定の必要がない以上固有必要的共同訴訟ということはできないとして、これを排斥しました。

被告は,本案前の答弁として,複数の審判請求人がいる場合の無効審決に対する審決取消訴訟は固有必要的共同訴訟であり,被告のみを相手方として提起した原告らの本件訴えは不適法であるなどと主張する。しかし,前記のとおり,共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ることは法文上の根拠がなく,その必然性も認められないことから,当該審決に対する取消訴訟をもって固有必要的共同訴訟ということはできない。

コメント

共同審判の審決取消訴訟の訴訟要件は、主に、当該訴訟が固有必要的共同訴訟か、という観点で争われてきましたが、本判決は、固有必要的共同訴訟であることは否定しつつ、訴えの利益がないことを理由に訴えを却下しました。無効審判の請求人が複数いる場合に、その審決取消訴訟が固有必要的共同訴訟とならないことは従来の判例にも沿うところであり、本件で当事者適格は問題とならないと思われる一方、合一的確定の要請が働かないなら、審決取消訴訟の当事者とされなかった審判請求人との関係で審決が確定するのも当然の帰結といえます。そして、いったんいずれかの当事者との関係で無効審決が確定すれば、特許権は対世的かつ遡及的に消滅するので、それ以上無効審決を取消訴訟で争うことの意味は失われます。そのため、本件訴訟に訴えの利益がないとした判決の結論は順当なものと思われます。

なお、審決取消訴訟の原告となるべき当事者が複数いる場合に、その足並みが揃わず、一部当事者が訴え提起をしなかったといった理由により当事者適格の問題が生じることはあり得ます。必要に応じて、共同出願契約などで手当てをしておくことも考えられます。

これに対し、被告となるべき当事者は、原告が任意に選択でき、また、審判段階で特定されていますので、特殊な事情がない限り欠落しないのが通常です。そのため、本件のように、被告の一部に対して訴えが提起されなかった事案は珍しいといえるでしょう。

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(文責・飯島)