知的財産高等裁判所第3部(鶴岡稔彦裁判長)は、2019年3月6日、冒認出願を認定した審決取消判決に従って特許を無効とした審決を適法とし、その後の取消請求訴訟事件において、新たな証拠や主張に基づいて冒認出願であるとの審決判断を争うことは、先になされた審決取消判決の拘束力に反するものであり許されないとして、原告の請求を棄却しました。

ポイント

骨子

  • 再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決の主文のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消)事由たり得ないと解される。
  • 判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に対して拘束力が及ぶのであるから、当事者としては、この事実認定に反する主張をすることは許されないのであり、したがって、新たな証拠を提出して、上記事実認定とは異なる事実を立証し、それに基づく主張をしようとすることも、取消判決の拘束力に反するものであって許されないといわなければならない。
  • 一次判決は、本件発明1及び3については、その発明者が原告であると認めることはできないとして、一次審決のうち、本件特許の請求項1及び3に係る部分を取り消した。そして、一次判決の確定後にされた本件審決は、一次判決の拘束力に従って、本件発明1及び3については、その発明者が原告であると認めることはできないものと判断した。したがって、本件発明1及び3の発明者についての本件審決の判断は、一次審決の拘束力に従ってされた適法なものであるから、関係当事者である原告は、当該判断に誤りがあるとして本件審決の取消しを求めることができないというべきである。

判決概要(審決概要など)

裁判所 知的財産高等裁判所第3部
判決言渡日 平成31年3月6日
事件番号 平成30年(行ケ)第10099号
審決取消請求事件
特許番号 特許第4958194号
発明の名称 「噴出ノズル管の製造方法及びその方法により製造された噴出ノズル管」
審判番号 無効2014-800187
裁判官 裁判長裁判官 鶴 岡 稔 彦
裁判官    高 橋   彩
裁判官    間 明 宏 充

解説

審決等に対する訴え

特許庁による審決等に対して不服がある場合には、以下の通り、東京高等裁判所(知的財産高等裁判所)に対して、訴え等を提起することができます。

特許法178条(審決等に対する訴え)
1 取消決定又は審決に対する訴え及び特許異議申立書、審判若しくは再審の請求書又は第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正の請求書の却下の決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする。

裁判所は、特許法178条1項の訴えの提起があった場合において、当該請求を理由があると認めるときは、以下の通り、当該審決等を取り消さなければならない、とされています。

特許法181条(審決又は決定の取消し)
1 裁判所は、第百七十八条第一項の訴えの提起があつた場合において、当該請求を理由があると認めるときは、当該審決又は決定を取り消さなければならない。

審決取消判決の拘束力

審判官は、特許法181条1項による審決等の取消判決が確定したときには、以下の通り、更に審理を行い、審決等をしなければならない、とされています。

特許法181条(審決又は決定の取消し)
2 審判官は、前項の規定による審決又は決定の取消しの判決が確定したときは、更に審理を行い、審決又は決定をしなければならない。この場合において、審決又は決定の取消しの判決が、第百二十条の五第二項又は第百三十四条の二第一項の訂正の請求がされた一群の請求項のうち一部の請求項について確定したときは、審判官は、審理を行うに際し、当該一群の請求項のうちその他の請求項についての審決又は決定を取り消さなければならない。

特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において、審決取消しの判決が確定したときは、以下の通り、審判官は特許法181条2項の規定に従って、当該侵犯事件について更に審理を行い、審決をしなければいけません。

また、審決取消判決は、行政訴訟法の適用を受けることから、再度の審理ないし審決に当たっては、以下の通り、行政訴訟法33条1項の規定に従って、処分行政庁である特許庁に対して拘束力を及ぼすことになります。

行政訴訟法第33条(取消判決等の効力)
1 処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。

審決取消判決の拘束力が及ぶ範囲

審決取消判決の拘束力の及ぶ範囲については、以下の通り、最高裁判所判決によって示されています。

平成4年4月28日最高裁第三小法廷判決(高速旋回式バレル研磨法事件判決)
この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は取消判決の右認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。

したがって、再度の審判手続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは右主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのは当然である。

そのうえで、同最高裁判決は、以下の通り、取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断の当否それ自体は、再度の審決取消訴訟の審理の対象とならないことから、当事者が同判決理由中の認定判断を誤りであるとして、従前同様の主張・立証を行うことを「およそ無意味な訴訟活動というほかない」と述べています。

平成4年4月28日最高裁第三小法廷判決(高速旋回式バレル研磨法事件判決)
再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決の主文のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消)事由たり得ないのである
(取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断の当否それ自体は、再度の審決取消訴訟の審理の対象とならないのであるから、当事者が拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断を誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返し、これを裏付けるための新たな立証をすることは、およそ無意味な訴訟活動というほかはない)。

もっとも、同最高裁判決が示す取消判決の及ぶ範囲である「判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断」の解釈は必ずしも一義的ではないことから、具体的な事件の概要や経緯、争点等によっては、結論が異なることが考えられまます。

冒認出願

本件においては、被告より、本件特許請求の範囲請求項1乃至3の発明について、被告が発明したにもかかわらず、発明者ではない原告名義で出願されたものとして、無効審判請求がなされたという経緯があります。

このように、特許を受ける権利を有しない者によりなされた出願を「冒認出願」といいます。

冒認出願により登録された特許については、以下の通り、特許無効審判における無効事由とされています(特許法123条1項6号)。

特許法第123条(特許無効審判)
1 特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。

六 その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき(第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。

なお、平成23年の特許法改正により、真の権利者(特許を受ける権利を有する者)は、以下の通り、冒認出願された特許の特許権者に対して、自らに特許権を移転登録するように請求することができるようになりました(特許権移転請求権)(特許法74条)。

特許法第74条(特許権の移転の特例)
1 特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。

事案の概要

本件の概要・経緯は、以下の通りです。

年月日
平成23年6月8日 原告より、本件特許出願がなされる。 特許庁
平成24年3月30日 特許庁にて、本件特許が登録される。 特許庁
平成26年11月14日 被告より、特許請求の範囲請求項1~3の発明に係る特許について、発明者ではない原告名義で特許出願がなされたものとして、特許無効審判請求がなされる。 特許庁
平成27年9月25日 特許庁より、「本件審判の請求は、成り立たない」と審決がなされる(一次審決)。 特許庁
平成27年10月5日 一次審決謄本が被告に送達される。 特許庁
平成27年10月29日 被告より、一次審決の取消しを求める審決取消訴訟が提起される。 知的財産高等裁判所
平成29年1月25日 裁判所より、請求項1及び3の発明については、発明者が原告であると認めることはできない(冒認認定)、として、一次審決のうち、請求項1及び3に係る部分が取り消される(請求項2は維持)(一次判決)。 知的財産高等裁判所
平成29年2月9日 原告より、一次判決を不服として、上告受理申立てがなされる。 最高裁判所
平成29年11月16日 裁判所より、「本件を上告審として受理しない」との決定がなされ、一次判決が確定する。 最高裁判所
平成30年6月11日 特許庁より、無効審判の審理が再開され、請求項1及び3に係る特許を無効とする審決がなされる(請求項2は請求不成立)(二次審決)。 特許庁
平成30年6月22日 二次審決謄本が原告に送達される。 特許庁
平成30年7月21日 原告より、本件訴訟が提起される。 知的財産高等裁判所

冒認出願を理由とする被告からの特許無効審判請求に対して、特許庁は請求不成立の審決(一次審決)をしましたが、知的財産高等裁判所は、発明の一部について発明者が原告であると認めることはできないこと(冒認認定)を理由に、一次審決を取消す判決をしました(一次判決)。

一次判決を受けて、特許庁は発明の一部について、冒認出願を理由に特許を無効とする審決(二次審決)をしたため、原告が二次審決の取消しを求めたのが本件となります。

すなわち、本件は、冒認出願を認定した審決取消判決(一次判決)に従って特許を無効とした審決(二次審決)に対する取消請求訴訟事件において、新たな証拠や主張に基づいて冒認出願であるとの二次審決の判断を争うことの可否について、判断が示されたものといえます。

判旨

本判決は、以下の通り、上記最高裁判決をほぼそのまま引用しました。

再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決の主文のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消)事由たり得ないと解される(平成4年最高裁判決参照)。

そして、以下の通り、本件発明1及び3について、その発明者が原告であると認めることはできない(冒認出願)とした一次判決の拘束力に従ってなされた二次審決の判断は適法なものであるから、関係当事者である原告は、冒認出願であるとの判断に誤りがあるとして二次審決の取消しを求めることはできない、との判断を示しました。

一次判決は、本件発明1及び3については、その発明者が原告であると認めることはできないとして、一次審決のうち、本件特許の請求項1及び3に係る部分を取り消した。そして、一次判決の確定後にされた本件審決は、一次判決の拘束力に従って、本件発明1及び3については、その発明者が原告であると認めることはできないものと判断した。

したがって、本件発明1及び3の発明者についての本件審決の判断は、一次審決の拘束力に従ってされた適法なものであるから、関係当事者である原告は、当該判断に誤りがあるとして本件審決の取消しを求めることができないというべきである。

なお、原告は、一次判決の拘束力が及ぶのは、一次判決のうち、判決主文が導き出される根拠とされた事実(証拠)の認定及び当該事実(証拠)に基づいてなされた法律判断のみであり、新たな証拠に基づく事実認定や法律判断にまで拘束力は及ばないと主張していました。

このような原告主張に対し、本判決は、以下の通り述べ、原告主張を排斥しています。

しかし、平成4年最高裁判決によれば、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に対して拘束力が及ぶのであるから、当事者としては、この事実認定に反する主張をすることは許されないのであり、したがって、新たな証拠を提出して、上記事実認定とは異なる事実を立証し、それに基づく主張をしようとすることも、取消判決の拘束力に反するものであって許されないといわなければならない。

このことは、上記判決自身が、「再度の審決取消訴訟において、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りであるとして、これを裏付けるための新たな立証をし、更には裁判所がこれを採用して、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されない。」と明言していることからも明らかである。

本判決は、上記最高裁判決を引用しつつ、冒認出願を認定した審決取消判決について、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に対して拘束力が及ぶことから、冒認出願であるとの事実認定にも拘束力が及ぶものとし、当事者において、新たな証拠を提出し、新たな主張をして、冒認出願であるとの審決の事実認定を争うことは、同拘束力に反することものであり許されない、との判断を示したものといえます。

コメント

本判決は、冒認出願を認定した審決取消判決の拘束力に従ってなされた特許無効の審決を適法であるとして、当事者において、新たな主張・立証に基づいて二次審決の冒認出願についての判断を争うことを許さなかったものであり、類似事案に関して、実務上参考になります。

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(文責・平野)